「応援要請、ですか。」
ブリッジでシルヴィオとエルシリアがモニターを二分割してライルに要件を話した。
〈流石にE.U.も必死でな。こちらも攻めあぐねている。〉
〈私達の方も同じね……もう何度も撃退されている。〉
この二人で……二人もそうだが、その麾下の将軍も騎士もコーネリアの親衛隊に引けを取らない。それがこれほどまでに苦戦するとは。
「お話は分かりましたが、何故私なんですか?我が軍が厳しい状況なのは、お二人もご存知でしょう?」
〈能力と信頼……それでは不服か?〉
ライルは自嘲するように笑う。
「昨年、あんな失態を演じた私をですか?」
〈マリーとルーカスはあてにならない、では不満なの?そう言えば、貴方は納得してくれるの?〉
エルシリアが叱る口調で問い詰める。
「別にそういうわけではありませんよ。」
〈……なら、文句を言うな。本国のシュナイゼル兄様もお前を御指名だ。〉
シュナイゼルが指名しているのなら、最初から拒否権などないではないか。まさかとは思うが……
「姉様、セラが秀作と親しくしているのが面白くないからと言って任務にかこつけて、なんて言いませんよね?それなら、先に姉様と戦争をしますよ?」
〈…そんな下劣なことをするか。お前の母君じゃあるまいし。〉
「そうですね…貴女やコーネリア姉様があの女と同類なら、今頃セラやユフィに刺されるのを覚悟で首をはねています。」
ブリッジにいた全員がその発言を聞き、背筋が凍った。
〈ライル、エルシリアも妹のプライベートで争うのは生きて帰ってからにしろ。お前たちは前線の将兵の生死より妹の恋愛事情が大事なのか?〉
シルヴィオが窘め、ライルも咳払いをする。
「申し訳ございません、兄上。増援ですが……こちらも余裕はありません。双方にKMF5,6機が限界です。その代わり、可能な限り強力な機体を回します。」
〈KMFといっても所詮は戦術兵器だ。ランスロットのような規格外でもない限りは戦局に与える影響などたかが知れているぞ?〉
「ええ、候補は三人ほどいます。これから人選をするので、よろしいでしょうか?」
〈ああ、だが急げよ?〉
シルヴィオが先に通信をきろうとしたところで、セラフィナが入ってきた。
〈あの、兄さん……姉さんがすみません。〉
「君が悪いわけじゃない。私が大人げなかっただけだ……切るぞ?」
〈はい。〉
ライルのやや恐ろしい発言が挟まったが、話を斬り変えねばならなかった。
「さて、兄様達に送る増援部隊だが……エル姉様の方は一人だけ目星がついている。」
「…殿下、まさかセラフィナ様と秀作の仲をお膳立てするつもりでは?」
ゲイリーの訝る意見は、ここにいる人間全員の疑念だった。
「……そんなつもりはない。ただ、現地での連携を考えると秀作のようなタイプは気を許せる人間がいた方が良いと思うんだ。」
「それは同意見ですね…何しろ、あんな性格に育ったから。どこかの将軍様も、息子をあんなふうにしてしまったかもしれないと思うでしょう?」
フェリクスが遠回しにゲイリーに話を振る。
「他人の家庭を引き合いに出すな……分かりました。確かに、精神面ではセラフィナ様にお任せするしかないでしょう。」
「親衛隊からはテレサを出そう。姉が姉様の軍隊にいたという。」
それについては、特に異論はなかった。それ以外にも親衛隊からもう一人、『フォーリン・ナイツ』から秀作の見張りとして二人が派遣されることとなった。
他の人選だが、KMFの性能で言えばクリスタルか雛だがここは雛にした方が良い。雛は口は悪いが、仕事には忠実だ。少なくとも、ライル軍に配属されてからの命令違反などはない。
「ライルの方から返答が来た。畑方秀作および親衛隊と『フォーリン・ナイツ』から二名ずつこちらに派遣してくるそうだ。」
「秀作が来るんですか!?」
セラフィナの声が高くなり、全員の視線が映る。
「セラ、デートじゃないのよ?」
「…分かっています。」
クレアが軽くため息をつくが…
「まあ、あの子のお守りは任せるわ。あなたがやった方が余計な波風立たないだろうし。」
「しかし、あの男はあの畑方源流の孫。イレヴンの中でも枢木スザクに並ぶ…」
「秀作はそういうことしないわよ!!」
幕僚の一人の意見にセラフィナが怒鳴るが、ウィンスレットが窘める。
「姫様、貴女の彼への信頼ではなく彼の立場が問題なのです。」
そう、彼は扱いが難しいのだ。純血のブリタニア人ならば楽だったのだが、イレヴンでありしかもE.U.と中華連邦も高く評価する将軍の孫。旗頭になられたら厄介なのだ。
「……ウィンスレット、後で見てもらいたい資料がある。」
エルシリアが仲介し、他の人員を確認する。もう一人はテレサ・スクラーリ…『ミカエル騎士団』所属の女騎士で『ラファエル騎士団』だったルビー・メイフィールドの双子の妹だ。
「『ミカエル騎士団』所属で里親に出された双子……これもまた、一風変わった経歴ですね。」
「ルビー・メイフィールドによれば、あの『ミカエル騎士団』の事件にも参加したとか。」
「そんな女を……ライル殿下は肝が据わっているのか、それとも。」
「………ライルの事だから、上官が反逆罪だからと言って部下まで一緒くたにしないという方針だろう。ただ、場合が場合だ。監視は付ける。」
その方針にセラフィナが意見をする。
「姉さん、ルビーにやらせないのですか?」
「肉親の情とは難しいのよ。貴女も私もあの特区日本の事件が、あの子の意志だと思っていないのと同じ。」
「あ…」
シルヴィオ軍では川村雛の経歴を見ていた。
「生活のために軍人になったとは、またひどく低俗な理由ですね。」
ブランドナーが半ば侮蔑するが、木宮は……
「駄目ですよ、将軍。そういう言い方は…これくらいの子が軍隊に入るのは、大体生活が苦しいからって理由が多いんです。あたしのような恵まれた人は立派な大義名分があっても、こういう子の場合はそういうものは二の次なんですから。」
「……まあ、良いだろう。」
「もう一人は……マルセル・コヴァリョフ。元ロシアの正規軍人で『ユーロ・ブリタニア』への亡命者、元『ガブリエル騎士団』か。」
「確か、敗戦したロシアの正規軍に家族を殺されたのをきっかけに投降し、そのまま亡命したのよね?」
全く、あきれ果てたものだ。敗走して略奪のために市民を殺した挙げ句にその親族の兵士に裏切られるとは。
「ただ、彼の忠誠心はヴィヨン卿とヴェランス大公ありきなので。」
「本国の皇族である我々に義理立てするのは、大公とヴィヨン卿の名誉のためか。」
ミルカはその経歴を聞いて不安な声を上げる。
「大丈夫なんですか?そんな人を送られて。」
「あたしは大丈夫だと思うわよ?こっちが自爆してこい、なんて言いでもしなければヴェランス大公とヴィヨン卿のために頑張ってくれると思うわ。将来的な『ガブリエル騎士団』の立て直しでもちらつかせれば、余計気合が入るんじゃない?」
木宮の楽観的、されどきちんとした論理でマルセルの扱いを提案する。
「お前は能天気なようで、確信を突くな。」
「ナンバーズの意見を言わせてもらうなら、いくらでもいるからどんどん死なせようなんていう貴族様なんて信じないわ。人間、真っ当に扱ってくれる側になびくものよ?だから、あんなことになってもライル殿下の名誉部隊は健在だし、今も頑張ってるんでしょ?あっちは生活だってあるし。」
本当に、この男はナンバーズ出身であるがゆえにブリタニアに対して時折痛烈だ。だが、その痛烈さがある意味で教条主義に固まりがちなブリタニアで比較的柔軟であると、シルヴィオは考えていた。
ユウキがいなければ、俺も今ほどライルとはうまくやっていなかったかもな。改めて、日本に旅行に行ってよかった。
十年以上たった今でも忘れない、親友との出会いを思い起こしながらシルヴィオは方針を立てる。
「川村雛らの合流後に我が軍は再度侵攻を行う。それまでは監視体制を継続。」
「ライル兄様に援軍要請?なぜ、私ではなく?」
マリーベルはエルシリアとシルヴィオがライルに援軍要請を出し、それがシュナイゼルの根回しであることを知った。
何故、テロリストとなるナンバーズやその混血などを取り立てるライル兄様を。まさか、あのお二人も?
元々、そういう要素はある。シルヴィオは十年以上前からイレヴンの男とその家族と親しくているし、エルシリアとセラフィナは親日貴族として有名なエインズワース家と母の代から交流がある。
ゼロと通じている可能性を考慮しておかないといけないわね。でも……
ライルはやや揺らいだが、根強い恭順派や協力企業の信頼がある。部分的だがシルヴィオもライルに近い考え方で、シルヴィオは武術や兵の鍛錬を通じて旧日本軍を始めとしたエリア24で恭順派となったスペインの正規軍を始めとした各国の軍と、エルシリアとセラフィナはエインズワース家を通じて日本の観光、文科系の政治家や企業とパイプがある。妹のライルとの交流故に否定寄りのエルシリアも最近はそちらに流れている。そして、テロを支援しているなどという確証がない。
コーネリア姉様が不在の今、軍事力においては私が優位。でも、あの四人を一度に相手にすることはできない。そうなれば、たとえ虎の子のあの騎士団を投入してもこちらが負ける。
「オルドリン……」
自分で探すのを諦めた幼馴染の事を思い、マリーベルは右手で目元を覆った。
選抜メンバーに派遣が通達され、全員が準備を行っていた。そんな中で……
「お前、かれこれ三十分は鏡とにらめっこしているぞ。」
秀作は自室の鏡と睨みあっていた。その様は手伝っていた幸也が呆れ果てていた。
「俺も分からないんだよ……援軍として派遣されるだけなのに、セラがいるというだけでどうもな。」
「お姫様をそんな風に呼ぶのか…って、ウチにはそういう手合いが沢山いたな。」
幸也は今更ながら、自分がいる場所が身分制度のブリタニアそれも軍ではかなり異質だと思い知った。あの貴族達や名誉ブリタニア人の先輩達の雰囲気と、身分をかざすことを基本的に良しとしない主君の性格が作り上げたものだろう。
だが、それはそれとして……さっきから出立の荷物まとめは幸也が一人でやっている。
「ちょっと、医務室に相談してくる。」
「おい!」
秀作は医務室で相談した。相談しているのはライルも個人的に慕っている中年の女医だ。
「と、いうわけなんだ。どうも派遣先のセラフィナ皇女のことで落ち着かない……制服も整えたりと…」
「く、くくく…くくくく……」
軍医が何かを必死に、いや…笑うのを必死にこらえている。
「おい、俺は真面目に相談してるんだぞ?自分が医者の世話になりたいのか?」
「あ、ああ…すまない。だけど、悪いね……それは私の手に負えない病気だ。」
「無責任なことを言うな。」
だが、医師は必死に笑いをこらえながら答える。
「いや、本当に手に負えないんだ。でも大丈夫だ……お前のその病気は、どんな名医でも絶対に治せない病気だ。死ぬことはない。むしろ、良い病気だ。人間として、とてもいい傾向だ。」
「は?」
マルセルは複雑な心境ではあった。まさか、別の皇族それも大貴族軍から引き抜かれた若手騎士のいるシルヴィオ軍に増援とは。
「ねえ、あんたロシア軍だっていうけど同盟国の奴ら相手にやれるの?」
川村雛の問いにマルセルは軽くにらみ返す。
「お前はどうなんだ?向こうにもイレヴンはいるぞ?」
「ご心配なく……既に何百人も殺してきたから。」
「なら、俺も同じだ。」
短いやり取りで、お互いの懸念を払拭した二人は準備に取り掛かる。
秀作はここ半年間のセラとの交流で自分でも無自覚な感情を抱いています。
親もしくは祖父の意向に縋るイレヴン共の道具だった秀作が人間に近づいた、と思ってください。
一方の雛は、マルセルとは互いに同盟国や同国人をやれるのか?という問いをお互いにして問題なしと認識。
雛は自分が生きるために沢山殺して、マルセルは家族の仇だから問題ないです。