エルシリア軍はエルシリアを最高司令官として、セラフィナを副司令にしている。そして二人の全権代理をアマデウス・ウィンスレット男爵が務めている。男爵位の分際で、という声もあるが彼は後方指揮にかけてはブリタニア軍屈指の才覚を誇り、若い頃から後方勤務が多かった。状況把握と情報分析の才能でのし上がった男で、KMFで前衛に出ることが多いエルシリアとセラフィナにとっては貴重な人材でもあった。
そんな彼が出迎えるのが、まさか名誉ブリタニア人の将兵とは。
「エルシリア様の代理として出迎える、アマデウス・ウィンスレットだ。」
「第八皇子隷下特選名誉騎士団の畑方秀作少佐……」
「親衛隊のテレサ・スクラーリ少尉です。」
ウィンスレットは増援のパイロット達が若いのが不安だった。否、年齢は関係ない。不平等を謳うブリタニアに必要なのは能力。今更平民やナンバーズなどというべきではない。特に畑方秀作はウィンスレット自身もその才覚を目の当たりにしている。
「将軍は全権代理、ということでよろしいのでしょうか?」
「そうだ……姫様達はご多忙であらせられる。そなたらの主君のように野の花や獣を探す暇などないのだ。」
テレサはウィンスレットの言い方に棘を、自分は本音で歓迎していないのが分かった。だが、テレサにとっては自分の起用を認めてくれたマンフレディも侮辱されているような気がした。
「それは遠回しにマンフレディ卿をも揶揄しているのですか?」
「……勘違いをするな。私が言っているのは現在の主君だ。」
「ウィンスレット将軍、それくらいにしてください。」
涼しい声とともにやってきたのはセラフィナ・ギ・ブリタニアだ。
「セラフィナ様……失礼いたしました。」
「いえ、セラフィナ・ギ・ブリタニアです。この度、私共の増援要請に応じてくださり、感謝します。」
「こちらこそ。」
秀作もこの場では軍人としての礼儀を優先した。
「早速ですが、KMFの移送と当方での寝所をご案内します。」
「姫様、何も姫様自ら…」
「余裕がない兄が優秀な将兵を五人も派遣してくださったのです。せめて、これくらいはすべきでは?」
「……ならば、せめて将兵も同行を。」
E.U.軍でも、エルシリア軍の増援部隊がライルから派遣されていた情報は入っていた。
「イレヴンを採用する第八皇子様だろう?」
「大したことないって、楽勝だぜ。」
この期に及んでも、まだ自分達は絶対に死なないなどと思っている者は状況を楽観視していた。しかし……
「おい、あの皇子様ってガチガチのたたき上げ軍団だろう?」
「ああ、植民地政策に協力している軍人まで使ってるって噂だ。」
才能や能力のある人間は民間人どころか、敵国の軍人さえも迷わず使う。KMFも鹵獲した機体を運用しているという。よく言えば柔軟で、悪く言えば見境や節操がないが軍隊ではそういうタイプが相手なのは厄介だ。どんな作戦で来るかが読みにくい。
もし、本人が相手だったら今頃自分達は死んでいるかもしれない
「本人が相手じゃないのがせめてもの救いだが……厄介だな。」
アルトゥーロ・D・グラビーナはセラフィナと会話している畑方秀作を睨んでいた。
何故、あんなイレヴンの若造に肩入れされる。本気で惚れているとでもいうのか?
ユーフェミアの騎士の枢木スザクとて問題視する声が多かった。不正を行った、等と邪推する声も未だにある。
あの男など、ブリタニアにも注目されていた将軍の孫。そのブランドを売り込んでライルの部下となり、ゲイリーの養子になったと噂されている。
実力はあるだろう。だが、あの程度ブリタニアならばごまんといる。あの程度を取り立てるライルの気が知れない。
貴族出身で長年エルシリアとセラフィナに仕え、その心をエルシリアに寄せるグラビーナは不服でしかなかった。いくら名将の血縁と言えど、あのようなイレヴンが皇女を娶ればエルシリアの沽券にもかかわるではないか。
「そこの……俺が皇女と仲良くしているのが気に入らないのならはっきり言ったらどうだ?」
気付かれていた……ならば、いっそ出てきた方が良い。
「イレヴンのくせに、鼻は効くようだな。」
「アル……秀作の実力はあなたも知っているでしょう?」
セラフィナは良い顔をしていない。
「それは認めます…しかし、イレヴンである事実は変わらない。いつあなたの首を狙うか分からないのです。」
「それなら、私より先に兄さんがやられているわよ。」
至極真っ当な指摘。確かにセラフィナよりもライルの方が自爆覚悟でも機会が遥かに多い。その言葉に、グラビーナは詰まった。
「大体、あなたの言う通りなら兄さんの部下の名誉ブリタニア人全員がそうする可能性があるじゃない。秀作だけ目の敵にするのはどうして?」
「そ、それは……貴女のためです。そんなイレヴンが側にいたとあっては、貴女の。」
「姉さんの名誉の間違いじゃないの?」
またも詰まってしまった。
「いい加減にして………秀作を貶めて…私を盾に姉さんの心象をよくしようとするなんて。そんな方法しか取れないの?」
「お、お待ちください!私はそのようなつもりでは。」
「じゃあ、何?おじい様が名将だから秀作は日本独立のための百年の計略を練ったとでも言うつもりなの?戦争の時、9歳の秀作にそんなことができるの?私だって銃の扱い方すらろくに習っていなかったのよ?」
まるで自分が秀作をテロリストに仕立て上げようとしているかのような言い方だ。
「まさか、秀作をダシに兄さんを冤罪で失脚させて私と姉さんを皇位継承で有利にしてその功績で出世しようと?」
余りにも飛躍しすぎ…否、皇族という立場ならそういう邪推をされても文句が言えないことをグラビーナは思い知った。
「滅相もございません!」
「…だったら、秀作にちゃんと謝ってください。」
イレヴンごときに謝意を示せとはなんという暴言、と多くの貴族なら言いそうだ。しかし、そんなことを言えば余計に心証を悪くしてしまうし立場と個人的なエルシリアへの恋愛感情を踏まえても、グラビーナにそれはできなかった。
更に言えば、社会的に見れば彼は皇族の臣下でつまりは自分と対等の立場。主君の不興を買ってしまうという現実も待っていた。
「……畑方秀作。申し訳ない……君の出自を言い訳に主君と君自身の名誉を侵害してしまった。」
「別に……もう、うんざりするほど言われている。奴の孫だから潜入任務だと疑われたり、挙げ句に魔物共からもスパイを期待される始末だぞ。」
「え?」
今、なんと言ったテロリストからスパイだと期待された?
そう、ライルに抜擢されて暫くした後に捕縛されたテロリストが勝手に秀作をブリタニアに潜入してゼロに助力する機会をうかがっているなどと騒ぎ立てたことがある。挙げ句に枢木スザクと協力している、などと勝手なことを喚きたてていたらしい。
イレヴン共の身勝手さにはほとほと呆れ果てる。大体、枢木スザクがそうだというのなら全ての名誉ブリタニア人をそうだと言えばいい。なのに、自分やスザク…長野達の場合は敵にもぐりこんだスパイなどと自分達に都合のいい解釈をする。
そいつらをすぐに処刑したいと進言したが、ライルに却下された。イレヴンでこれなら、ブリタニア人にも言われるだろうがいい気分はしない。
「あんたが魔物なら、この場で八つ裂きにしてやりたいくらいだ。」
「なら、八つ裂きにすればいいではないか。」
「したら、セラや姉姫様を怒らせて処刑。そうしたら、魔物は俺を英雄だと祭り上げる。だからやらない。」
奴らの敵意こそ、俺が俺である証なのだ。
「ここで、俺がセラに手を出してみろ。奴らはそれさえ、俺の戦果だとはやし立てる。なおさらごめんだ。なら、ライルの部下として奴らの敵であることが、俺が俺である証だ。」
「君であることの、証?」
「そうだ…ライルのやり方でブリタニアと日本の関係修繕がなったとしても、それは俺ではなくライルの努力の結果だ。俺がやったというようなら、そいつらは殺す。」
セラフィナが秀作の腕に力を込めて握ってくる。
「秀作……貴方の言うようなことが起こっても、私は認めるから。貴方が日本のためじゃなくて、自分自身のためにやったと。」
まっすぐに見つめるセラフィナの顔に思わず見入ってしまい、秀作はそんな自分に気が付いてさりげなく顔を背ける。
「勝手にしろ…」
テレサはグロースターの調整を行っていた。隣には姉のグロースターがある。緑系統の色で統一されたグロースターやサザーランドがある中で銀を基調に赤と青が入った二人のグロースターは目立っていた。だが、それ以上に周りの視線が敵意と疑惑に満ちていた。
シャイング卿がやろうとしたペンドラゴンへの爆撃……私も命令に従って他の『四大騎士団』を攻撃した。結果として嘘に踊らされていたとはいえ、それは覆らない。
この手は血塗られている……あの孤児院の費用を稼ぐために血に染めた。敵兵どころか、味方の血にまで。
「テレサ、ちょっといい?」
「お姉ちゃん…」
ルビーだ。ルビーは『ラファエル騎士団』だが、テレサは『ミカエル騎士団』……被害者と加害者だ。
「大罪を犯したシャイング卿の肝いりを見張るの?」
「…ええ、エルシリア様はともかく他の人達からそう言われている。」
打ち明けた。叛意、というよりもこの場合…
「隠し立てしても自分が分かっているだろうってこと?」
ルビーは微笑した。
「ええ……でも、お父様はそれほど被害を受けなかった。反逆者の命令を鵜呑みにした娘がもう一人の娘を殺すところだった。っていう世間体かしら?」
「…………それ、あの人のご機嫌取りをしたい貴族の嘘じゃないの?一度平民になったのに、出世コースに乗った私が死んだ方が大貴族会議には都合がよかったんじゃない?」
乾いた音が響いた。ルビーがテレサの頬をはたいたのだ。
「ばか……貴女がシャイング卿の反乱に積極的に協力したわけじゃないってブロンデッロ卿が証言してくれたじゃない。だから他の『ミカエル騎士団』の団員もお咎めなしだったんでしょう?」
それは、確かに事実だ……ヴェランス大公とファルネーゼもそこは計らってくれた。
「あなたの忠誠心がマンフレディ卿に向いているのは知っているわ。そのマンフレディ卿をシャイング卿が殺したのも。」
そう、状況的に自決だがそれがほぼ通説になっている。テレサもそこは疑問だった。
「ライル殿下もマンフレディ卿と同じで出自を問わない方針……方針が似ている人が二番目の主君なんだから。マンフレディ卿の名誉挽回をして、平民に捨てられた女なんて悪評を跳ね返すくらいの気概を見せてよ。」
『ミカエル騎士団』以前からの揶揄……『三剣豪』にさえそこだけは良い目で見られていなかったことはテレサも自覚していた。孤児のアシュレイ・アシュラとジャン・ロウよりはまだマシだったかもしれないが、自分も成り上がりなどと呼ばれていた。
「お姉ちゃん………私、メイフィールド家に復帰する気はないわよ?」
ルビーは微笑んで、テレサを抱きしめた。
「知ってる…貴女の親はお父様が里親に出した人達だって。でも、私もだけどお父様とお母様も心配しているから。エリア11での誘拐の時もあなたも狙われたって聞いて心配してたのよ?私も。」
「…うん、ありがとう。」
ライルの元に配属されて、まだ迷っていたが少し晴れた。マルセルはゴドフロアの汚名を雪いで『ユーロ・ブリタニア』の発言権回復及び共和国の軍人として、革命の過ちを伝えようとしている。なら、自分の趣旨は変わらない。孤児院の子供達のために頑張る。もう一つ……『ミカエル騎士団』に娘がいた、という父の汚名を少しでも戦果をもって雪ぐ。
幕僚達は畑方秀作の凶行の記録を見た。
「入隊したばかりでこの凶行とは…」
記録はロッポンギで行われたテロリストの鎮圧。入隊して間もない彼は潜伏していたテロリストを祖父の勇名でだまし討ちして皆殺し……その首を持って帰った。
証拠品のつもりだろう。だが問題はその後………まだ疑われていると思ったのか、首をその場で踏み砕いた。更に赤ん坊を攫い、生きたまま焼いてその肉を食うと言い出した。
『それくらいやっても足りないなら、もう十匹くらい焼いて食えばいいのか?それとも煮物か揚げ物?』
映像の中で居合わせたブリタニア人のパイロットや歩兵は何人か嘔吐し、記録を見た幕僚も想像をしたのか吐き気を催していた。
「あの子の両親……収監されている日本軍人の話だとあまり優秀じゃなかったみたい。」
クレアが言うように軍人と言っても、祖父より格が劣る両親…その祖父の勇名を持ち出すイレヴンへの憎悪。となれば、自ずと想像がついてしまう秀作の原動力。
「祖父の勇名に縋るイレヴンに担ぎ上げられそうになったのでしょう。」
堪えたウィンスレットの分析通り、秀作が名誉ブリタニア人に志願した理由が、つまりは祖父や両親を含むイレヴンへの復讐なのは明白だ。だが、エルシリアは更に分析する。
「おそらくそれだけではないな。日本の敵である事に固執している。」
そう、あの映像以外にもイレヴンに対して度の過ぎた殺戮を行っていた。それでも命令に忠実。それゆえに『純血派』も持て余して意図的にクロヴィス殺害の犯人から除外するほどだ。エルシリアがそれらを踏まえ……
「自分が日本の敵というアピールをすれば、ブリタニア側が祖父の勇名で疑うことはなくなる。独立の旗頭から逃げられる、と考えたのかもしれない。」
エルシリアの分析にウィンスレットは更に付け加える。
「これは私の想像ですが、両親が自らの有能を証明する道具にしされるのを嫌ったのでは?」
息子を成功させて自らの有能を証明するなど……便乗以外の何物でもない。
仮にそうだとしたならば、秀作でなくとも歪む。
「セラもそう考えているし、本人も度々そう言っているから間違いないな。」
そう考えると、少し感情移入してしまう。祖父の勇名に縋るイレヴンと自分でやろうとしない両親……二重のエゴを押し付けられてきたのだ。
「ライル殿下やセラフィナ様に気を許されているのも、そのあたりが要因でしょうか?」
クレアがそれに頷く。
「ええ、セラからの又聞きだけど『将軍の孫だから、日本を独立させろ。できて当たり前』、『ブリタニアでもこれくらいできる。ブリタニアに潜入したスパイ』、なんて無茶な期待をされたり、ブリタニアからも邪推されてたらしいわ。」
それがあの映像に映った数々の凶行……
「まるで大きな幼稚園児…いや、実際にそうなのだろう。親と他のイレヴンのエゴしか知らない故に、憎悪だけが大人に育った幼児。」
「もし、その親が生きていたらライル殿下に売り込みかねないわね。」
クレア自身は聞かなかったが、秀作はその邪推をセラフィナに打ち明けていた。そんな冗談とも本気とも取られそうな言葉で、これらの話は締めくくられた。
その後、ブリーフィングが開かれた。アフリカ大陸からフランス本土への上陸を目指すブリタニア軍だが、これ以上の制海権を奪われたくないE.U.も必死だ。しかも砂漠という地理上、中々に攻めにくい。
「……砂嵐を使えないか?」
秀作の意見に幕僚達が耳を傾ける。だが……
「貴様、正気か?砂嵐の中などKMFで突っ切れるわけがない。」
「…………誰もKMFだけなんて言っていない。」
秀作はスザクの辿った道の一つを私なりにイメージしたので、雛よりもボリューミーになっています。ただ、エルシリアの軍の大人達の一部が言ったように根本的な部分が幼稚園レベルです。
もっとも、あの世界観でブリタニアの植民地になった国の有力者の子供なら勝手な期待を押しつけられた可能性も「無きにしも非ず」でしょう。
そして、秀作はウィンスレットの分析通り、憎悪だけが肥大化した幼児です。ライルやセラ、ゲイリーとの交流でようやく一定の成長があったレベル。