コードギアス 戦場のライル B2   作:meitoken

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今度はちょっと長いです。


BERSERK-25『畑方秀作』

秀作は防護服とマントで武装し、ジープで進んでいた。敵の陣地までは二百キロ以上ある。KMFで進めるギリギリまで到達した後にジープで移動していた。

 

「全く、無茶を言い出す…自分まで行くとは。」

 

「ライル殿下のお耳に入ったら、疑われませんか?」

 

エルシリアもそれは思った。ただ、ライルは前線では基本的に先陣を切り、兵達に無茶をさせることはない。させたがらない、とも言える。

 

「しかし、敵陣地のギリギリまで進んで発信機を設置するとは。無謀というか、命知らずというか……奴自身、憎き魔物のカミカゼをやっていることに気づいていないのでしょうか?」

 

グラビーナの分析にセラフィナが応える。

 

「多分、気付いていないわ。日本の敵に固執して……自分がブリタニアでそれらしいことをすることで敵だとアピールできる。そこで止まっている。」

 

酷い矛盾だ……それで死ねば、絶対にイレヴンは秀作を英雄に祭り上げる。

 

「でも、前向きに考えれば生きて帰る気でやるのでしょうね。………生きて帰ってきたら、砂漠の星空を見る約束もしてくれたし。」

 

「あら、お熱いこと。」

 

クレアが茶々を入れ、セラフィナは顔を赤くしてうつむいた。そのまま、KMFの調整をすると言って出て行った。それを見て、察した幕僚達が深いため息をつく。

 

「姫様、真面目な話ですがあの男を養子にしてくれる貴族を探した方が良いのでは?あの熱の上げようでは、他の男は眼中にありませんぞ。」

 

「ウィンスレット、どうだ?」

 

「無理ですよ……」

 

やはりか。一番簡単なのは、ゲイリーが彼を正式に養子にすることだ。今は彼が保護者で、血統だけを言えば確かに日本国内で政財界の娘との結婚もあり得た。ゲイリーには娘がいるが、秀作と結婚させる気もない。

 

「いっそ、こっちからあの子達の仲を少し盛って、ライル殿下に持ち掛ける?」

 

「ライルがそういう話に乗ると思うか?」

 

「乗らないわね。むしろ、クレヴィング将軍のブランドや自軍の弱体化と疑われる。」

 

全く、難題だ……これならば、E.U.の相手をするほうが遥かに簡単だ。

 

 

 

秀作は電子ゴーグルで敵の陣地を見つけた。既にいくつかの中継装置を設置しており、敵の索敵範囲から3キロという距離まで詰めた。

 

「こちら畑方秀作…現在、敵の索敵範囲から3キロ地点。」

 

〈位置を確認。発信機は健在だ。〉

 

そこへ、知り合ったクレア・エインズワースの声が入った。

 

〈セラが泣きそうだから、早く帰って来てね。〉

 

「…分かったよ。」

 

通信をきり、他の将兵へ向く。すると、何人かが疑るような眼をしていた。

 

「なんだ?今になって、俺が魔物のスパイなんて言うのか?」

 

「違う…お前、セラフィナ様をいつ口説いたんだ?」

 

なんで、こんな時にここでそんなことを聞く?

 

「知るか……向こうから早く帰ってきてくれと催促が来ただけだ。」

 

そして、見張りとしてついてきたテレサがため息をついた。

 

「駄目だわ、自覚してない。」

 

「何がだ?」

 

「何でもない…見つからないうちに帰りましょう。」

 

中継装置を設置した翌日……設置した装置は敵に見つかっておらず、発信機にもなっていた。デバイスにそのポイントを秀作達が記録したおかげだ。誤差もある程度範囲に入れて砲撃も可能だ。

 

視界の悪い砂嵐だからこそ、工作には向いている。確かにそうだが、本当にやるとは誰も思わない。

 

「ライルなら、砂漠仕様のKMF部隊で正面から突っ込むくらいやっていただろうな。」

 

今回の装置を目印にサンドボードを使った地上部隊による奇襲攻撃。これだけ視界が悪いと、長距離砲撃型のパンツァー・フンメルでは分が悪いからだ。相手は砂嵐の弱い地帯に下がって陣地を作る。

 

だからこそ、砂嵐を突破する。相手だって警戒はするが、視界が悪い以上は動けない。相手だって歩兵を使ってそれができるはずだ。もうやられているかもしれないし、まだやられていないかもしれない。なら、やった方が良い。

 

それがライルの方針……いつの間にか、秀作もライルのやり方に染まっていた。

 

「秀作、隣に座るわね。」

 

セラフィナが隣に座り、コーヒーのカップを手渡す。

 

「無茶なことを考えるのね……」

 

「天気でも地形でも、利用するのが戦争だろう。あのゼロだってやった。」

 

ゼロはナリタの山崩れ、トウキョウ租界の階層構造を利用して敵の戦力を減らした。ライルはそうした作戦を練る頭は乏しいと自嘲しているが、その一方で天候や武器の扱い方、他人の作戦の応用が上手だというのが秀作の印象だ。

 

過去の戦闘で鹵獲したパンツァー・フンメルだけ取っても砲撃部隊にする他、腕のキャノンを砲撃オプションとして改造、長距離射撃用のライフルに流用している。

 

「使えるものは何でも使って、打てる手は全部打つ。兄さんらしいわね。」

 

「ああ、口癖だな……ポーカーに例えれば、AやKがあってもノーペアでは勝てないと言っていた。」

 

 

 

セラフィナは苦笑した。実に兄らしい考え方だ。同時に軍隊の在り方を的確にとらえていると思う。弱い札だからと言って、軽んじれば絶対に勝てない。それがナンバーズだろうが平民だろうが変わらない。

 

そう思い、改めて空を見る。満天の星空だ。昼は酷く熱く、夜は氷点下まで下がるほど極端に寒いのに……星は綺麗だ。

 

「綺麗な星……帝都でもどこでも、星は同じね。」

 

「……ああ、悪くない。」

 

「変わったわね、前は『興味がない』だったのに。」

 

「…そういえば………」

 

秀作も自分の言葉が意外だったようだ。あの後、お忍びの外出や映画鑑賞、パーティーの警護役に来てもらったこともある。クレアの家にも呼んだことがある。

 

「確かに、将軍も17の誕生日に何が欲しいか聞いて、バイクと答えたら色々と一緒に見ていた。」

 

「誕生日のプレゼントがバイク……一般庶民から見れば、高い買い物ね。」

 

「ああ……こういう仕事だから前倒しで買ってくれてな。と思ったら、わざわざサイドカーつきだ。買ってやったんだから、サイドカーの同乗第一号にしろなんて言ってきたが。」

 

意外な一面だ……厳格な軍人家系の当主で有名なゲイリーがそう言ってくるとは。ナンバーズの秀作の保護者を買って出たことに関係があるのだろうか?それに、何か面白くない。

 

「……ねえ、次の休暇でバイクに乗せてって言ったら怒る?」

 

「?…別に、減るものじゃないだろう。」

 

やった。心の中でセラフィナは舞い上がっていた。と、ここで……

 

「秀作…話は変わるけど、まだ日本への復讐は続けるの?」

 

「当たり前だ。」

 

その眼には、まだ憎悪と狂気があった。セラフィナはその秀作の頬に手を添えた。

 

「秀作……前も言ったけど、あなたはあなたよ?将軍の孫らしくしなくたって、あなたはあなたとして生きている。」

 

「復讐をやめろと?」

 

ゆっくりと首を横に振った。

 

「やめろ、なんて言わない。それに、兄さんだって復讐をしようとしているから。」

 

そう、ライルだって復讐のために生きているのだ。あのジュリア・ボネットを殺した犯人をまだ捜している。

 

「でも、復讐を果たして生まれるんじゃない。あなたはもう、生まれているのよ?将軍の孫じゃない、あなた自身として。」

 

「俺、自身?」

 

「そう……おじい様とご両親が亡くなって、元凶はもう滅びている。私は、あなたがおじいさまの呪いにしがみついているようにみえる。」

 

祖父の呪いを振り払うつもりが、その呪いで自分を保っている。まるで、その呪いをまき散らせば次の復讐相手が来てくれるから。

 

「そんなことをしなくても、勝手におじいさまのブランドにしがみついて、貴方に将軍の孫を強制する人はやってくる。そういう日本人だけを、殺すって考えることはできない?『将軍の孫だから日本を独立させろ』、『おじいさまの名誉に泥を塗った』、そういう人たちに復讐の的を絞れない?」

 

「無理だね。ブリタニアだって奴のブランドで俺を警戒する。奴の呪いは、もう俺の骨や魂にまでしみついてるよ。……あの突然変異種やライルを例外にするのだって苦労した。」

 

セラフィナはそのまま秀作を強く抱きしめた。

 

「……セラ?」

 

「貴方が貴方として生きるのを認めない呪いなら、私が認める。……日本のために戦わない貴方が不要なんて言わせない。あなたは、日本の奴隷じゃない。だって、それじゃあナンバーズが言うブリタニアの奴隷と同じじゃない。」

 

最後のはライルの受け売りだが、これじゃあ同類だ。世界を統一するから奴隷にしていい、日本独立のためだから奴隷にしていい。どちらも同じ。

 

「日本が認めないなら、ブリタニアで私が認める……貴方はスパイじゃないから。」

 

 

 

様子を見ていたクレアは肩をすくめた。

 

「全く、砂漠より熱いじゃない。」

 

秀作も自覚はないがセラフィナに惹かれている。もはや止められないだろう。

 

かたや自慢できる兄や姉がいるセラフィナ…かたや偉大な祖父と比較された両親、そしてその祖父に縋るエゴで道具にされた秀作。真逆の人生を生きてきた二人が惹かれあうとは。

 

何度か会って話したが、本当に秀作は幼稚園児だ。親のエゴと、祖父のブランドに縋る大人、そしてその大人に育てられた子供の都合だけを押し付けられ、それをノーブル・オブリゲーションだと言い訳にされる。

 

本人によれば、それが幸せだとも言われた。要は自分達の道具であることが秀作の幸せだというのだ。

 

これを又聞きした幕僚達でさえも、復讐に走るのが自然だと納得してしまった相手がブリタニアではなく、日本になるのも無理からぬこと。そもそも、ブリタニアへの恨みも国や民族ではなく、『復讐相手の祖父と両親を横取りされた』というもの。

 

これでブリタニアに復讐すれば、英雄にされる。日本の敵であるということこそが今の秀作のアイデンティティ……それをセラフィナが少し変えている。

 

「無理を承知で、お父様に相談しようかしら?」

 

 

 

「日本のために戦って、死ぬのが貴方の幸せなんて認めない。だって、あなたの幸せはあなたが決めるもの。復讐で幸せを掴めるなら、それでもいい。」

 

セラフィナのぬくもりを感じ、秀作は彼女の言葉に聞き入った。

 

『君は日本のために戦うのだ。』、『日本独立こそが君の使命で、幸せだ』、『お前は私達の有能を証明するのだ。』

 

あいつらを筆頭にどいつもこいつも……自分勝手な都合を押し付けてきた。自分でやればいいのに、秀作に全部押し付け、挙げ句に『将軍の孫としての責任』なんてものを作った。

 

だが、ライルは『祖父の名前をブリタニアで活かせ』とさえ言わなかった。祖父の名前で疑うこともなかった……最初から騎士候になれる逸材などと決めつけもしなかった。

 

ゲイリーに至っては、自分がしてしまった過ちを打ち明けていた。その埋め合わせだと……

 

奴らなら、絶対にそんなこと言わなかった。今生きていれば、絶対に俺をダシに自分達を売り込んでいた。

 

「…………ありがとう。」

 

「え?」

 

「なんでもない…」

 

 

 

秀作の設置した発信装置をナビ代わりに地上部隊がサンドボードで敵陣へ奇襲をかける。砂嵐の対策で関節とファクトスフィアにはカバーがかけられ、これで充分な戦闘が可能となっている。

 

地上はクレアのヴィンセント、テレサとルビーがグロースターで部隊を率いて秀作、エルシリア、セラフィナは専用機で別行動をとっていた。

 

 

 

「ったく、いい加減にやめよこの砂嵐。」

 

「大体、警戒する必要ねえだろう。こんな砂嵐を突っ切るやつなんか」

 

言い終えるよりも先に、彼らの目前をKMFが通過していった。

 

「お、おい今のって…」

 

「て、敵のKMF?」

 

「は、早く連絡しろ!!」

 

だが、それよりも先にパンツァー・フンメルのキャノンを装備したライル軍のグロースターによって彼らは跡形もなく吹き飛ばされた。

 

 

 

「通信が途絶えただと?」

 

「は!先ほどからいくつかの哨戒部隊との連絡が途絶えております!」

 

「司令、敵は砂嵐の中を突っ切ってきたと思われます。」

 

「馬鹿を言うな!」

 

司令官は側近の意見を一蹴する。

 

ありえないことだ。こんな砂嵐を。視界が効かないということは有視界戦闘のKMFもその威力が半減する。ここは砂嵐が弱くなるのを待って…

 

「本艦から70キロの距離に飛行物体!ブリタニアのKMFです!!」

 

「何!?」

 

モニターに三機のKMFが映った。

 

「そ、『双剣皇女』!?あの青いKMFは…」

 

『白き死神』のランスロット……枢木スザク。いや、違う。畑方秀作…!あの畑方源流の孫で、第八皇子の名誉騎士団のエースの一人。

 

「そ、そんな大物を派遣していたのか…に、逃げるんだ!すぐに撤退だ!」

 

「司令!哨戒部隊がまだ取り残されております!」

 

「バカ者!ここが落とされればおしまいだ!私はここで死んでよい人間ではないのだ!」

 

そうだ、ここで一度撤退してアフリカ大陸を明け渡すことになるが…すぐに巻き返してやれるのだ。

 

「あなたは…ご自分だけ助かろうというのですか!?」

 

「そうだ、目には目だ!イレヴン共をあの青い機体にぶつけろ!!」

 

「既に迎撃へ向かっております!!」

 

 

 

「ったく!だから警戒しとけって言ったのに!!」

 

イタリアから派遣された海棠は呆れてしまった。アフリカ大陸の主導権を完全に渡さないために来たのに、邪魔者扱いされてしかも他の国の軍隊は逃げようとする始末だ。

 

もう、エル・アラメイン戦線で攻勢に出ていた勢いはない。アフリカ大陸が陥落するのは時間の問題だ。

 

「地上部隊!もう、相手は目に見えてくる!!撃ちまくれ!!」

 

時間をかければ、地雷や足を狙うという作戦を取れたのだが今回は完全な奇襲。しかも、外人部隊を邪魔者扱いした司令官によって海棠達は殆ど行動の自由を与えられなかった。

対応した地上部隊は砲撃を続けるが、相手はそれにかまわず突っ込む。こうなってしまえば、足の速いサザーランドの方が有利だ。

 

サンドボードをうまく使い、先頭のヴィンセントがMVSで二機を両断し、『四大騎士団』のグロースターが足を破壊して後続の部隊も続く。

 

この状況を打開するためには指揮官を叩くしかない!

 

海棠はインドから送られた試作機モーナットで長剣の機体、ベイリンに斬りかかった。部下の四機が残りの機体を足止めしているが、流石に後の二機も速い。

 

どちらもランスロット系列だろうが、特に青いやつ。情報でアストラットと呼ばれる奴は異常だ。単純な性能ならば、おそらくオリジナル並。

 

〈情報で聞いている!その機体、モーナットという月下のバリエーションだな!〉

 

通信が入ってきた。

 

「そういうあんたは、『双剣皇女』の姉姫エルシリア様で?」

 

〈流石に情報は入っていたか!〉

 

「敵を知り、己を知ればですからね!!」

 

ベイリンの長剣が海棠の二本の剣を受け止める。

 

〈お前は?〉

 

「旧日本陸軍の海藤隆一大佐。そちらの弟君ライル殿下を煙に巻いた不届きものですよ。」

 

 

 

エルシリアは海棠という男を聞いていた。『ブラック・リベリオン』の前にエリア11を脱出した日本軍人グループのリーダーだ。外見はとても軍人とは思えないほどにだらしないが、スマイラスのクーデター失敗後にイタリアの外人部隊が本国軍を何度も撃退した指揮官がいて、それが亡命した日本軍人で、その名前も聞いていた。

 

この男に全権を委ねられていれば、この作戦はうまくいかなかったようだな。

 

「お前がいれば、撃退は成功したのではないか?」

 

〈さあ?それに、俺は所詮外国人……正規軍様に追い出されちゃったのよ。〉

 

ブリタニアでもライルの名誉騎士団を邪魔者扱いする貴族が多いのと同じか。だが、攻勢に出ているブリタニアと劣勢のE.U.では条件が全く違う。体面を取り繕うことなど、もはや意味をなさないのにこの期に及んでイレヴンに手柄を取られまいとするとは。

 

「境遇は哀れだが、手は抜かないぞ。」

 

〈そんなお優しい人じゃないのは知ってます。〉

 

モーナットがハーケンで攻撃し、ベイリンもハーケンではじき返す。そのままベイリンが斬りかかり、モーナットは躱して膝蹴りを食らわせる。だが、すぐに体勢を立て直して剣を振るい、追撃を回避する。

 

しかし、今度はモーナットがこちらの斬撃に合わせて機体を後退させる。おかげでダメージを与えるどころか距離が開いたことで友軍がこちらに攻撃する機会を与えてしまい、地上の部隊が砲撃をしてきた。

 

ブリタニア軍でも軍人にあるまじき身なりなどと言われていたが、この男は見た目だけ。『能ある鷹は爪を隠す』という言葉が相応しい。

 

しかも、こちらが決めきれないような戦い方ばかりする。負けないために戦っている。

 

この男をもっと取り立てれば、良いものを。イレヴン隔離などというバカなことをしたツケだな。

 

既に意味をなさない隔離政策に未だにしがみつき、有能なイレヴンを遠ざける。そして、一般庶民層の有望な人材も同様で上層部にいるのは家柄だけで出世した腐敗した資本家や政治家、軍人の親族ばかり。

 

自分達が革命で打倒された貴族になっていることにさえ気づかず、破綻した平等にしがみつく市民も問題だがな。

 

少なくとも、革命の目指した平等が既に破綻していることだけは教える。導くか否かはまた別問題だ。

 

 

 

秀作はフロート装備のKMF隊に少し驚いたが、すぐに立て直す。確かにパイロットも機体も良い。だが、

 

「邪魔だ!」

 

フロートユニットを損傷させて、空中の機動力を削ぐ。それで十分だ。これでもう、通常の戦闘ヘリの相手もままならなくなる。

 

そのままアストラットを海岸沿いの街へ向かわせる。スピードとパワーにものを言わせた攻撃だ。

 

後ろからベイランと他のフロート部隊も追ってきている。

 

「ん?」

 

港で大勢の人が集まっており、何か叫んでいる。海の向こうでは大型の船……軍艦ばかり。よく見れば、将兵もかなりの数がいる。状況に察しが付く。

 

「ちっ、不愉快な!」

 

とはいえ、筋を通さなかったらライルとゲイリーがうるさい。秀作は港を飛び、スピーカーで船へ呼びかける。

 

「こちらはブリタニア軍。速やかに停船せよ。さもなくば攻撃する。」

 

呼びかけに応じる様子はない。もう一度呼びかけるが、応答はない。

 

いや、応答はあった。KMFによる迎撃だ。グラスゴーとサザーランドが何機かいる。

 

「セラ、良いよな?」

 

〈ええ……親衛隊が港の軍人に聞いたところ、あれは避難船だそうよ。といっても、アフリカ諸国の有力者だけ乗せて逃げたみたい。〉

 

最悪だ……つまり、軍や政府の要人だけ乗せているのか。

 

「沈めるより、生け捕りの方が良いか?」

 

〈効果はあるわ。〉

 

「そうかい。」

 

アストラットを急加速させ、護衛のKMF隊を海に叩き落した。そのまま船に降りることなく、船の底部へ向けてヴァリスを撃つ。

 

レールガンで船がスクリューを次々と破壊されるか、船底に大穴が開いて航行不能に陥る。と、後ろから軍艦が追ってきた。しかし……

 

セラフィナの機体、ベイランがハドロンブラスターで二隻を沈めて随行のグロースターがケイオス爆雷でもう一隻を中の人間諸共蜂の巣にした。

 

 

 

一方、海棠達も

 

「これ以上は無理だ!後退する!退路があるうちに離脱しろ!!」

 

急降下して振り切りにかかる。

 

 

 

エルシリアの親衛隊もそれを追うが……

 

「待て!追わなくていい!それよりも、海の方へ行ったセラ達の合流が最優先だ。想定される敵の予測進路と照らし合わせろ。」

 

〈は、既にそちらへ。〉

 

どうやら、敵と遭遇する可能性は低いようだ。

 

〈姉さん、こちらは港を脱出した船を拿捕。避難船だったようですが、周辺諸国の要人たちが強引に市民を追い出して独占したようです。〉

 

何?政府が用意した船を自分達が独り占めしたというのか?

 

呆れて物も言えない……

 

〈船を動けなくして、全員生け捕りにしてやった。どうする、公開処刑するか?〉

 

セラフィナはもちろんだが、秀作や親衛隊も怒りをあらわにしている。エルシリアとて腸が煮えくり返る。

 

「こちらの後始末が終わってからだ。」

 

エルシリアは敵の陸上艦目掛けて、ベイリンを降下させる。既に砂嵐は弱まりつつあり、ヘリも飛べる。

 

そこへ、既に散り散りになったことで半分孤立した陸上艦を見つけ、さらにそこからヘリが飛ぼうとしているのを見つけた。ハーケンでヘリのプロペラを破壊し、降り立つとそこには数人の上級士官たちがいた。司令官なのは明白だ。

 

「碌な指示も出さないで、自分達だけ逃げようとは呆れ果てたものだな。」

 

〈『双剣皇女』……い、イレヴン共を呼べ!迎撃させろ!〉

 

見苦しい。そのイレヴンへの指示さえろくに出さずに自分だけ逃げようとした結果、こちらの部隊は戦線が崩壊して殆どが降伏した。固定観念に縛られた以上に砂嵐で攻め込むわけがないという油断が招いた結果……

 

〈だいたい、あの海棠が悪いのだ!奴がもっと私に強く進言しなかったからこうなったのだ!!〉

 

〈な、司令が奴を追い出して出入りを禁止したからでしょう!!〉

 

〈貴様らとて同意したではないか!!〉

 

こいつら、状況が分かっているのか?この期に及んで責任の擦り付け合い。もう、見ていられない。

 

「敵前逃亡は万国共通の重罪だ。国際法廷に出頭する手間を省いてやる。」

 

〈へ?ま、待て!〉

 

〈わ、私だけはたすけ〉

 

全てを言い終えるより先にベイリンが振るった剣が彼らを肉塊に変えた。

 

 

 

海棠はため息をついた。こちらは全員無事だが、散々だ。前もってバルディーニが撤退の根回しをしてくれて助かった。その上、今回は司令官達が迎撃の指示も碌に出さずに真っ先に逃げようとしたことが生き残った正規軍の将兵達から証言がとれている。そして、その司令官達はエルシリアに殺された。

 

死人に責任を押し付けるのが一番なんだろうね、やっぱり。

 

そう締めくくった海棠は今回の奇襲を仕掛けたブリタニアの作戦を考える。エルシリアはどちらかといえば正攻法で攻める軍人。今回のように砂嵐を利用する手を打つタイプではない。彼女の側近達もあのダールトンと同じく正統派だという。

 

となれば…もしかして。

 

彼女の増援に派遣されたのは第八皇子ライルの部下で、情報も入っている。消去法で行くと、可能性は低いが畑方秀作か?

 

いくら祖父が高名な軍人とはいえ、彼はまだ今年で17歳。いくら何でもそんな発想が…いや、主君とてまだ19歳。年齢で決めるのは早計だ。まして、主君のライルは戦場のモラルは愚直なまでの正統派だが、戦い方は個性派だ。個性派の主君と正統派寄りの幕僚の近くにいれば、そのどちらかを吸収する誰かがいてもおかしくない。

 

もし、本当にこの畑方の坊やなら……あの馬鹿夫婦め、生きてたら息子をダシに売り込んでいるな。

 

息子には会ったことがないが、軍人として付き合いがあったあの二人は劣等感の塊だった。そこは同情するが、小学生に上がる前から息子を軍人にすると決めた上に、小学一年のテストで100点を取れなかったから『無能』だ『役立たず』だと罵っていた。

 

劣等感の塊な上に身勝手で幼稚な両親……そんな親で碌な愛情を受けずに育ったなら、それが名誉ブリタニア人になった動機かもしれない。

 

「ったく、日本人の自業自得じゃないか。」

 

これで売国奴、裏切りなど、海棠に言わせれば見当違いも甚だしい。一番身近な親にさえ愛されず、しかも誇張だけはうまかったからその口車に乗せられ、或いは祖国の窮状を打開してくれる人材を秀作に期待した。9歳の子供に全て押し付け、やらせようとしたのだ。それでだめなら諦める?いや、殉教者に仕立て上げる可能性の方が高い。考えれば考えるほどに反吐が出てくる。

 

藤堂に過剰な期待を寄せる者もいて、今度はゼロ……一度何かに熱狂すればそれにしがみついて、無茶な要求をする。ゼロはそれに応えられる資質や能力を有しているが、結局のところ他力本願。そんなのが勝てるわけがない。

 

「少なくとも…畑方の坊やには日本を滅ぼす権利があるな。」

 

理不尽であろうが、そもそも『将軍の孫だから日本のために戦え』などと自分達に都合のいい責任を勝手に作って押し付けた報いだ。それが分かる人間などいないだろうが。

 

海棠は日本もどこかですでに腐敗していたという可能性を感じていた。

 

 

 

 

 




久しぶりにポーカーのたとえが出ました。実際にAやKがあっても、役が出来ていなければ相手が2や3のワンペアでも負けるでしょう。

戦争でも同じだというのがライルの持論。打てる手を打って、使える物を全部使えばワンペアでも勝てる。

ゲイリーの不器用なコミュニケーション、長野からそういう助言をもらっています。お互いに軍人として優秀。でも、方や子供達との関係には失敗した貴族、かたや一般庶民で家族との関係は良好。逆もありきでしょう。

海棠も出てきて、モーナットというアマネセールとは違う方向性のカスタム機です。

この後、他のとまとめていきます。

そして、双剣皇女は姉がベイリン、妹がベイラン。シルヴィオのディナダン同様、共にヴィンセントタイプのKMFです。
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