後始末が終わり、ベラルーシ方面の残存勢力はほぼ降伏。ドイツとイタリア方面への攻略ルートは開けた。既に『ユーロ・ブリタニア』と本国からの増援部隊がこちらに回り、シルヴィオ軍は一度帰還することが決まっていた。同時に雛達もライルの元へ帰還する手はずになっている。
「今回のドイツ、イタリア方面への攻略の突破口を開けたのは川村雛、お前が最大の功労者である。」
「大砲を一発ぶっ放して最大の功労者………随分と安っぽいのね。」
「そういうな……手こずっていたのは事実だ。お前とローレンスの働きは前線の貴族達でさえ認めている。心ならずもだが。」
頭の固い貴族までが認めるか……これで辞退したら何を言われるか。
「ああ、もう。分かったわよ、腹くくるわ。」
シルヴィオも軽くため息をついて苦笑する。
「ライルの部下なだけあり、頑固だ……本国の了承を得て、お前は大尉に昇進だ。次に手柄を挙げれば、騎士候だろうな。」
「給料増えるのは良いですね。」
「なら、その分働け。マルセル・コヴァリョフ、市民の保護及び捕虜の移送は世話になっ
た。『ガブリエル騎士団』の再建に一歩近づいたようだな。」
「小さな一歩です…」
「弟もその小さな一歩のために足搔いている。」
今の主君とかつての主君の二人を持ち出され、元敵軍としてのマルセルはこれ以上反論できない。
「援軍として派遣されたお前達も一階級昇進が認められた。ライルの元で励むように。」
「イエス・ユア・ハイネス。」
エルシリアは後始末として、金と権力にものを言わせて自分達だけ逃げようとした有力者たちは女子供を助け、祖父や父親、17歳以上の男は例外だった。船の船長と軍艦の指揮官諸共ブリタニア軍の手によって取り押さえられる場面を見せ、見捨てられた市民や将兵達は処刑を叫ぶ。
しかし、処刑はしなかった。代わりにブリタニアの統治で彼らのために尽くすと誓わせた。次逃げれば、今度は一度助かった女子供ともどもブリタニア政府ではなく市民達に突き出すと脅した。それはつまり、『方舟の船団』に続き自分達だけ助かろうとしたのが二度目で、三度目の正直はないという通告だった。
これにより、アフリカの主導権はほぼブリタニアに奪われることとなった。まだいくつかの国は抵抗をしているが、既に海路を守るだけの力は残っていない。
後はエリア18を始めとした中東、アフリカ大陸のエリアにいる正規軍に任せればよいだろう。これ以上は手柄の横取りになってしまう。
そう判断したエルシリアは帰還を決定した。そして、秀作も
「……お前の働きは悪くなかった。逃走した有力者を抑えるのは政治にも使えるから、戦果として悪くない。」
「で?」
「…………正式な騎士候になれば、クレヴィングがお前を養子にする可能性もある。そうなれば、私としても助かる。」
「意味が分からん。」
呆れた……あれだけデートをしておいて、意味が分からないとは。鈍い。いや、そういう情緒が育つ機会がなかったというべきか。この男の興味は、まだイレヴンの血と断末魔だ。
「もう少しだけ見ていてやる…」
「はあ…」
「殿下、なんであいつらをすぐ処刑しなかったんですか?」
幸也は先日の件でライルに意見を具申した。
「ブリタニアはともかく、E.U.の奴らはすぐに処刑するべきでしょう!奴らは同じ加盟国の民間人相手に略奪をやったんです!!どうせ、お偉方の親類だから横槍が入ります!」
幸也は身をもって知っている。自国民を相手に平気で略奪を行う軍人は全てクズだ。生きている価値などない。侵略者に対抗するためだと体の良い御託を並べて、女を食い物にするのだと。
そして、そいつらを認める奴らもクズだ。その被害者の言葉など『侵略者に内通した』、挙げ句に『ブリタニアにそう吹き込まれた』等と自分達に都合の良いように解釈する。そういう風に奴らの頭は出来ているのだ。
ライルがため息をついた。
「正直、私も君と同意見だ。」
「だったら!!」
「だから、打てそうな手を打った。」
「どんな手ですか?」
「軍や政府だけなら、多分もみ消されるだろうね。だから、情報部にいる知り合いを通じてあの一部始終をブリタニアとE.U.加盟国のメディアにリークさせてもらった。」
メディアにリーク?
「マスコミが騒ぎ立てた上に実際に私がそうした連中を逮捕したという情報も既に出ている。これなら、そう言い逃れは出来ない。」
確かに……最近のメディアの力は恐ろしい。市民だって、ネット情報でそれを知れば軍への不信を募らせるだろう。
「その人からの連絡だと、流石に避難列車を襲ったというのは効いている。まだ降伏していない加盟国どころか、エリア24等の国でも革命政府への不信感が膨れ上がっている。」
「………ブリタニアは?」
「やった連中に貴族がいたからね。しかも皇族をテロリスト呼ばわりしたおまけ付きだ。蜂の巣をつついたとまではいわないが……貴族達の本家が私に会いたがっている。」
「許してくれと?」
「即答で断ってやった。自分の部下だって処刑した私がよその軍人にそこまでやると思うか?」
確かに、そうだ。アレは叛逆罪だったとはいえ、自分の部下を処刑したのだ。よその貴族だって処刑……よくて終身刑だろう。
「失礼いたしました。」
「いや、君の言い分は分かるよ。身の上を聞いた身としてはね。」
やはり、具申の本音はばれていた。当然か……話してしまったのだから。
「ただ、逆恨みは考慮しないといけないね。私を暗殺する、または部下達に矛先が向く可能性がある。特に君のような名誉ブリタニア人に。」
「その時は殺す許可をください。」
ライルがにらみつけるが、幸也は怯まない。
「許可が出なくても殺す…等とすれば君を処断することになるからな?」
「は!」
ライルは兄達からの連絡で増援の全員が無事で、既に戻ることを聞いていた。
「そうですか……こちらもアンドラが落ち着いてきたところです。租界の建設は当分先ですね。」
〈国土が狭いから、造る場所がない。と言って納得させるつもりか?〉
シルヴィオの指摘にライルはうなずいた。やはり、見破られていた。しかし……
「事実です。ならば、太陽光発電のシステムとその区画で区切るしかないでしょう?大体、移住できるほど広くもない。」
ライルとしては、そうすることによって半独立状態でこちらに靡かせ、なし崩し的に反抗をしにくくする意図があった。入りきらない場所に人間を押し込めるくらいなら、軍と政治の小規模人数で監視した方が良い。
ただでさえ隣国のスペインに『英雄皇女』がいて、もう一つの隣国は既に陥落寸前。大人しくしていれば、よほど刺激しない限り火の粉をかぶらないと言い含めてある。
総督に就任する貴族も、少なくともカラレスのようなタイプだけは来ないように掛け合っている。
エルシリアもある程度、こちらの意図を察したようだ。
〈確かに、地方都市レベルだからな。建設予算の捻出をアンドラ政府にやらせないのだな?〉
「ナンバーズの面倒はナンバーズに見させるのが原則。つまり、租界を建設する費用は我が国が多く負担するべき。導くべきブリタニア人が自分達の財布を惜しむのですか?庇護を受ける見返りに出させるなら、もっと還元させるべきだ。それもしないで、他人の財布を巻き上げなければ造れない街なら造らない方が良い。」
原則を盾にして、二人ともため息をついた。
〈お前は筋金入りの不良学生だな。それも、成績も素行も良い。〉
中華連邦でも、鈴維に言われたことを今度は姉達に言われるか…
「中華連邦でも言われましたが…それでは優等生ですよ。」
〈違う意味だよ………規則を盾にした不正があった。それに対して自分の正義のために校則違反も辞さない。そして、いざなれば相手の論理を逆に利用する。立派な不良だ。〉
「……奴らが普段得意げにかざす論理をそっくり返しているだけです。それが理不尽だというなら、奴らの論理は破綻する。」
そう、有紗やレイを取り立てるのを理不尽だというが、その理不尽こそが不平等。都合のいい時だけ、不平等を否定するような連中など信用しない。
「ですが……不良学生という例えは良いですね。さしずめ、私は不良皇子ですね。」
〈洒落にもならないことを言うな。〉
「注意しますよ、姉さま。」
雑談を区切ろうと、ライルは一息入れて問題点を切り出す。
「……既に聞いていると思いますが、秀作達がそちらに行っている間、こちらではブリタニア軍の一部が地方の村や小さな町への略奪を行っていました。しかも、E.U.も町を襲う始末です。私も避難列車を襲う両軍に遭遇しました。」
〈お前も聞いたのか。私達の担当している周辺では聞かないが…〉
セラフィナも通信に入る。
〈どうして、そんなことが……〉
「領土が広がり過ぎたんだろう。領土が広がれば、それだけ人が足りなくなる。その分、ハードルを下げれば人は確保できるがそれだけモラルのない手合いも増える。しかも、領土が拡大すればするだけ増えるから始末が悪い。」
〈率直な意見だが、私も同じだ。〉
シルヴィオも同調し、こちらにいるゲイリー達も何も言わない。
「このままだと、世界制覇を成したところで十年もたないでしょう。各エリアの反乱よりもこうした馬鹿共に食いつぶされて自滅する。」
国家存亡をさらりと言い放つライルの発言に周りはギョッとする。だが、言わないと絶対に誰も考えようとしない。
「本国の連中は理解しないでしょう。ですが、絶対にないという保証もない。奴らの根拠のない自信なんて論外だ。」
エリア制度を継続するにしても、一旦侵攻を止めて見直す必要がある。このままいけば、本当にブリタニアは自重で沈んでしまう。シュナイゼルだって思いあたる節はあるはず。
つくづく、特区日本があんな結果になってしまったことが悔やまれる。究極の理想として、日本をブリタニア傘下という条件で主権を回復させる未来図もあったのに……
「いずれにせよ。略奪を行ったブリタニア軍とE.U.の敗残兵は全て戦争犯罪者として裁きます。よろしいですね?」
〈ああ、分かった。俺からも伝える。〉
〈貴族でも裁くのあろう?〉
「当たり前です。大体、相手は止めようとしたこちらをテロリスト呼ばわりして撃ってきたのですから。記録もあるから、絶対に逃がしません。地獄に堕としてやる。」
シルヴィオはそれ以上何も言わずに通信をきり、エルシリアとセラフィナも通信を切る。
一息入れて水を飲み、幕僚達を見る。
「で、何か言いたそうだが?」
「あ、いえ……ブリタニアが自滅するというのは飛躍しすぎでは?」
「ないと言い切れるのか?一つのエリアが反乱し、他が連鎖的にとなりかねない事件があったのをもう忘れたか?」
あの『ブラック・リベリオン』がもし成功すれば、各エリアの反乱は大規模なものになった。そうなれば、政庁や軍だけが撤退して移住した人々、下手をすれば名誉ブリタニア人も報復の対象で無政府状態になっていた。仮に残っても、そのエリアでの内戦で本国のコントロールが効かなくなってE.U.と中華連邦が介入してより混迷していただろう。
「ブリタニアだけ不滅なら、そもそもルーツの王朝が負けること自体ない。」
今までより深いため息をついて、ここにいる全員に聞こえるように言う。
「いったい、私は何回こう言ったんだ?」
自分よりはるかに大人の彼らは、なんでそういう想像力が働かないのだ?
「とにかく、誰でもいいから船の別の航路を一つか二つ示しておくことに越したことはない。氷山にぶつかったり、海底火山が噴火してからでは遅いんだ。」
そこへ、幕僚の一人が意見をする。
「し、しかしナンバーズの要求を聞くわけには。」
「まだそれか?……なら、そうした要求が来る前にこちらから緩和政策を考え、植民政策に協力している政府や財閥の関係者と意見交換する。それならまだ良いだろうが。」
「個人的には…」
フェリクスが苦笑する。
「物は言いようですね。そして、本国の主流派が貴方を煙たがるのは必然です。」
「ブリタニア人はナンバーズより絶対に上なんて信じる馬鹿になりたくないだけだ。」
「例えが極端だぞ…と、まあ。はい、この場は解散。」
ヴェルドが締めくくり、この場は解散となる。小人数だけになったライルはまたため息をついて、自国に考えを巡らせる。
改正案を鼻で嗤われ、『フォーリン・ナイツ』さえ嗤われたライルに言わせればブリタニア人こそ滑稽だ。
ブリタニアだから『氷山にぶつからない』、『海底火山が噴火しない』なんて保証はない。たとえそうなっても、貴族は絶対に救命ボートに乗って助かる?絶対に乗せてもらえる?不平等だから?バカげている。
ライルに言わせれば、事故と自然災害と戦争は究極の平等と不平等が同居している。全員死ぬかもしれないし、一人だけ助かるもしれない。正に両極端だ。それが分からない輩が増え過ぎた。交通事故一つとっても、貴族は絶対に車にひかれないなどありえない。
自国民の腐敗、それも既に修正不可能な域に達している可能性をライルは再度疑わずにはいられなかった。
グレイブ・ガロファーノはライルからの連絡を通じて、各メディアにこの情報をリークした。上の連中にはライルから直接公表を頼まれたと話してあるし、これは事情が事情だ。
「全く、外国にまで行って馬鹿なことしてくれるなよ。ウチの教え子まで巻き込んで。」
平民出身の自分を個人的に慕っている珍しい皇族で、彼が自分を親衛隊に引き抜きたがっているのは知っている。だが、現場よりこちらの方がグレイブにとっては性に合っている。
「さて、裏付けもやったしもう一仕事しますか。」
兄達にも不良学生と言われたライル、やりたい放題の我が儘放題のルーカスと暴れん坊で言うことを聞かないマリー、今のやり方に文句をつけるライル。誰が一番頭が痛くなるのやら。
シュナイゼルでなければ、三人とも抑えられないのはほぼ確実。
そして、戦争、事故、自然災害は究極の平等と不平等だと思います。特に地震や雷、火山噴火、津波の自然災害。
貴族だから絶対に助かる、ブリタニア人だからナンバーズより多く生き残るなんて法則はない。あるなら、租界の地震対策の階層構造なんて造らない。
そして、今回で分かるようにライルは政治家向きではありません。能力よりも性格が。軍隊の指揮官としては脇を固めればやれるけど、王様は無理。