ゼロが復活したあの時、『黒の騎士団』残党がバベルタワーを襲撃し、その鎮圧に出撃したカラレスが返り討ちに遭ったらしい。
バベルタワーはショッピングモールもあったが、上層のカジノフロアではイレヴンの若い女性の売買や賭け試合もあった。確かに『黒の騎士団』が潰す方便としては十分だ。
コーネリアの時は、有紗がいたオークションだって慎重に行われていたのに今度は半ば公然と行われていた。カラレスの統治に問題があったという声もあるし、何より矯正教育エリアになったことで犯罪への規制が緩くなった実態にマフィアが目を付けたからだ。
優衣と涼子がいたオークションがその証拠で、あちらは政庁の役人さえグルだったのだ。
「あの総督、ライル様にこっぴどく叱られたんじゃなかったの?」
「私のような若造に叱られていい気分のする大人がいるか。」
「でも皇子様でしょ……政庁の中で誘拐じゃ自分の監督不行き届きなのに。」
涼子も同調するが、ゲイリーがフォローを入れる。
「そういうな……殿下はただでさえ異端視されているのだ。そんな異端の皇族が正論を言って聞くと思うか?」
「そういうものなのね………でも、異端者が必ず悪いことを言っているとは限らないわ。私達だってイレヴンから見れば異端じゃない。で、生活や勉強でこっちに着くのが悪いの?私達基準で良識的なブリタニアの皇子様に助けられるのが罪?」
また、優衣は雛と同じで容赦のないことを言う。しかも、間違っていない。
「まあ、それは別問題で……しかし、バベルタワーを総領事館方向に倒壊させて総督の部隊を押しつぶす。総督の殺害と逃走ルートの確保、そして総領事館に入って合衆国日本の建国宣言。」
一連の流れを再度確認してみても、あの枢木スザク救出に始まる数々の知略とそれによって組み立てられた大胆かつ巧妙な作戦。
「私が勝負したら、絶対に負けているな。」
「言い切るなよ……」
「本当のことだ、中身はともかく能力は前と比べても遜色ない。コーネリア姉様でさえ出し抜かれた相手に勝てると思うか?」
ヴェルドの窘めをライルはあしらった。
しかも、カラレスは残虐行為が目立って実際の能力はダールトンやシュバルツァー、ゲイリーと比べると劣っているのは明らか。状況を見直すと、カラレスは上と下から挟み撃ちにして逃げられる場所を一か所だけに絞り込んでいた。確かに確実だが、ゼロならばこれを逆に利用するくらいはする。これは指揮系統の混乱を起こして下の敵から一気に逃げることも視野に入っている。
「でも、あんたなら余計なことされないうちに突っ込んで袋叩きにするんじゃない?籠城戦になったってどうせ勝てるんだし。」
そう、カラレスはあの時中華連邦の総領事としてやってきた大宦官の一人、高亥を出迎えていた。となれば、中華連邦へのアピールもあったのだろう。そのために派手につぶす気だったのが、裏目に出た。
「いずれにしても、中身はこの際問題ではない。これだけ大胆な手を打てるんだ。ゼロを名乗るだけの能力がある。私の分析は本国にも送っている。といっても、本物か偽物に悩んでいるだろうな…ほとんどは。」
しかし、中身は別にしても分からない。何故、皇帝は素性を公表しなかった?あの男が素性の公表を控えるほどの人間だった……たとえば、植民エリアとなった国の首相の親族や王族、これが最有力候補だ。他には……クロヴィスを殺し、コーネリアを集中的に狙ったような動き。ブリタニア皇族を恨む者など星の数ほどいる。
もし、この条件で絞り込むとしたら……日本の軍か政府、経済界の重鎮。或いは……政争に敗れたブリタニア貴族か貴族の中にいる主義者。
確証はないが、ブリタニア貴族であれば顔を明かせないのは頷ける。手配されている紅月カレンはブリタニア貴族に仕える日本人メイドが産んだ子供だったという。そんな身の上で捨てられたハーフも考えられる。レイとて、日本時代の境遇が違っていればあちらだったかもしれない。
それに……この大胆さ。あの『方舟の船団』とよく似ている。
どういうことだ………まさか、あの男がゼロを利用している?
それからしばらく………グランビル海岸で展開していたドイツとイタリアを含めた軍隊がスザクによって撃破され、フランス本土への上陸のルートが確保された。ライルが陣取っていたアンドラ方面とエリア24経由で進軍する本国軍、そしてグランビル方面……フランスはもはや城壁を失った城も同然であった。
四十人委員会それ自体は既にフランスを見限って、他の国へ機能を移しつつある。とはいえ、流石に総本山のパリが陥落するという心理的ショックもあるためかまだ諦めていない軍隊や政治家もいる。
シルヴィオはその動きを調査し、パリのゲットーにいる日本人たちを集めている動きも聞いていた。
「呆れたものだ……今更市民権を得たところでフランスが陥落すれば意味がないというのに。」
この期に及んで敵性外国人という認識を変えようとせず、既に意味を失っている革命政府の権力アピールのために貿易パートナーの日本人を収容し続け、今更意味のない市民権を餌に盾にする。シルヴィオには到底理解のできない動きだった。
「大体、枢木スザクやライルの名誉ブリタニア人の働きで既にイレヴンが躍進しているという事実は認識されている。収容所にだって多少なりと入ってくるはず。」
加えて、『ハンニバルの亡霊』の指揮官だったレイラ・ブライスガウが日本人に戦争を押し付けているという実態を公表してしまった。まだ諦めていない市民や軍隊は、そうした彼女のシンパも多い。
もう、イレヴン隔離政策は瓦解しているというのに、無理やり維持し続けている。いくらブリタニア領土となった国の住民達を収容して、『枢木スザクの同国人を収容している革命政府が優れている』とアピールしても、もう騙される市民はいない。優れているはずの革命政府の総本山にブリタニアの手が伸びていることがその証明。
ロシアをはじめ、本国と『ユーロ・ブリタニア』に制圧された国の正規軍を外人部隊に再編する形で戦わせていても、ただの先延ばし……
「『ハンニバルの亡霊』のKMFを造った企業を積極的に取り立てていれば、まだKMF戦では渡り合えたのに。」
「もう、沈没どころか船底に穴が開いていることさえ認めていないのね。」
『ユーロ・ブリタニア』によってロシアが制圧された時点で既に革命政府がブリタニアより優れているという論理が破綻している。一度、そんな安直な発想に走ったことでE.U.は奈落の底に落ちて行き、今も自分達でその速度を上げている。
「他の国の残存軍でさえ、イレヴンの志願者と同じ扱いに落としているそうです。」
セラフィナの報告にエルシリアは深いため息をついた。
「どこが平等なのやら……不平等を是とする我が国と同じだ。」
大体、平等ならイレヴンの隔離政策などしない。正式な手続きで国籍を得た人々を、正式な手続きで奴隷にする。
「ブリタニアのエリア政策より質が悪いわね。」
親日家のクレアにとっては、エリア11だけでなく、政策それ自体が完全に納得しきれるものではない。外国には外国が築いた文化があった。それを勝った途端に否定して、蛮族呼ばわり。勝ったからと言って、これでは傲慢が過ぎる。
しかし、E.U.の隔離政策はもっとひどい。ブリタニアの不興を買うのを恐れるあまりに、イレヴン達を隔離収容するなど……本当に不興を買うのを恐れるのならば、ブリタニアの国民としてエリア11へ送り返すなど、手はあった。正式な貿易国支援として亡命政権を受け入れるなどの手もあった。なのに、権力アピールと債務の踏み倒し、インフラの独占という目先の利益のためだけに正式な国民の日本人達を奴隷に落とした。
「これだけ見れば、ブリタニアが世界を統一して平和にする…聞こえはいいはずなのに。」
ライルは有紗が入れたコーヒーを飲んで、ため息をつく。
「エリア11になった日本は生産率は上がった。だが、還元されるのはブリタニア人だけ。日本の財界人達にだって還元されるが、ゲットーの住民達に行き届かせるには圧倒的に足りない。」
結局、ブリタニアの世界制覇による平和と繁栄はブリタニアだけのもの。
「このまま行けば、いずれ地球それ自体がブリタニアのもので惑星ブリタニアなんて言いそうだ。」
「それは……子供向けのSFアニメみたいなたとえですね。」
有紗でなくても、そう言うだろう。だが……
「あの連中なら言いかねないから怖いんだ。そのうち、ブリタニアができた時からこの世界は全てブリタニア人のもの。なんて言う手合いが出てくる。今だってどうだ?テロリストを見れば各エリアに『自分達の領土に住ませてやっている恩を忘れた痴れ者』、なんて言う愚か者に会ったことがあるんだ。」
過程を認識せず、その結果訪れた事実以外認識しようとしない。これでは腐敗を促進させているようなものだ。
シュナイゼルが皇帝になったところで根本的な国民意識が今のままでは、いずれシュナイゼルでも抑えきれなくなるのでは?いまだにこの不安がくすぶる。
「いっそ、ゼロが全てをまとめてブリタニアとの相互不可侵条約でも結んでくれれば一定の平和は訪れるかもな。」
ブリタニアという国家を滅ぼし、世界中のブリタニア人に仕返し……全てのエリアの人々の多くはそう考えるだろう。だが、ゼロが弱者を虐げるのを認めない以上はブリタニアの民間人は弱者だ。
実際、民間人を狙ったテロリストを壊滅させたことがある。と…ライルは思わぬ部分に気付いた。
「父上もゼロも同じようなことを言っているね。」
「え?」
「父上はブリタニア人だけが全てにおいて勝っている、とは一言も言っていない。ゼロもナンバーズが弱者で、ブリタニア人は強者とは一言も言っていない。」
「あ…そういえば。」
「つまり……父上の論理ならブリタニアの中でナンバーズが出世するのもブリタニアの不平等。ブリタニア人という理由でナンバーズが子供を殺せば、それは強者の悪。」
「落とし穴、ですね。」
そう、これは落とし穴だ。その落とし穴を認めない者がどちらにも多すぎる気もする。既にスザクやシンで落とし穴を認識してしかるべき……
「あ、あの…!」
有紗が強い声を上げ、思わずそちらを見る。
「ラ、ライル様……話は変わるけど………」
「どうしたんだ、改まって?」
「その、あの事件からずっと………夜の、相手…クリスタルさんやレイどころか、優衣からも…私がライル様の相手に復帰してくれないと、『自分も相手ができない』って……、文句が来て。」
いきなり踏み込んできた……しかも話題が変わり過ぎだ。だが、それならば有紗を出し抜けばいいのにそれをしないとは。
とはいうものの、ライル自身もヴェルドやフェリクスどころか、ゲイリーにすら早く仲直りしろと言われている。しかも、聞いてみればレイやクリスタルの愚痴に付き合わされているそうだ。
しかし……そう、言われても。関係を持ってから、何度も肌を合わせたがあんなことになってしまい………
「……君の目の前で、人間一人をバラバラにした男だぞ?」
「それでも……私は、ライル様のことが好きなんです。私達を処刑しろという人達を説得したことや、今も私達の扱いや皇族の責任で悩んでいる部分もライル様自身だから。」
ライル自身……その言葉に、不思議と惹かれた。理屈がない。
有紗の手に触れ、ライルは立ち上がってそのままベッドに押し倒した。有紗の表情が一瞬だけ恐怖に染まるのが分かった。奴が重なったんだ。
「ライル、様……あいつじゃないってわかるくらいに…私のこと…」
それ以上何も言わず、ライルは有紗の唇に吸い付いた。
その夜、二人はあの事件の記憶を共有し、忘れようとするかのように激しく愛し合った。以前より大きく育った果実を有紗は激しく揺さぶり、ライルに吸われ、食べられて鳴いた。久方ぶりにライルの愛を得た有紗は勿論、ライル自身も久方ぶりだったために有紗の身体を奥底まで何度も、動けなくなって意識を失っても無理矢理起こして燃やし尽くした。
明くる朝ライルと有紗は二人でブリッジに上がってきた。そこを見計らったようにヴェルドが茶々を入れる。
「ったく、昨夜は随分とお楽しみだったのかな?」
「え!?」
有紗の反応でゲイリーがため息をついた。
「顔に出過ぎだ……少しは取り繕う努力をしろ。」
そこへ、優衣がライルの腕にしがみついてきた。
「もう…でも、これで私も心置きなく。ライル様、今夜は私の初めてをあげますから。」
「ちょっと!いきなり何やってんのよ!?ここは騎士の私に譲りなさいよ!」
「年功序列で私よ!!」
レイとクリスタルが乱入すると、今度は有紗も。
「いや!今日も私よ!!」
だんだんとエスカレートし、声が高くなって全員がもはや心底呆れ果てた顔になった。
「いい加減にしろ。間を取って、今日はなし。それとも全員愛人を解消されたいか?」
「…職権濫用です。」
優衣が不服を唱えるが……
「これだけ口やかましく喧嘩すれば、濫用もしたくなる。」
「……私とクリスタルも、ちゃんとお願いしますよ?」
「分かってるから、今は目の前の仕事に集中してくれ。」
「はい…」
「……ようやく元の鞘に収まったけど、これなら拗れたままの方がマシだったんじゃないの?」
雛が確認を取るがフェリクスは……
「そうしたら、ストッパー役の我々の苦労が増えます。」
それで全員、ある程度納得して職務に戻った。こんな時にではあるが、問題の一つが解消された事で主だったメンバーはほっとしていた。
そして、彼らは遠からず訪れるフランス攻略への準備に入る。
ゼロの復活と皇帝の動きに疑念を抱く傍ら、ライルと有紗の仲はようやく修繕されて元の鞘に収まりました。
代わりに、これまで有紗に遠慮していたメンバーも攻撃を再開しており…ゲイリー達は『邪魔はしないから拗れないようにしてくれ』と半ば放任しています。
男と女の関係まではよほど酷くなければ口を挟めないでしょうね。