カラレスの後任のエリア11の総督が決定した。『ブラック・リベリオン』後に唐突に帰還したナナリー・ヴィ・ブリタニアだ。
ゼロが復活した後……第87皇位継承権者として自ら総督に志願し、シュナイゼルがそれを承認したという。
「目と足が不自由な少女……まさか、シュナイゼル殿下は。」
長野の推察をライルは否定できなかった。あの人なら、それくらいは考える。いくらブリタニア皇族といえど、目と足の不自由な少女を殺したらゼロでなくとも民衆の支持を失いかねない。
日本人がブリタニア人より強い、などと強調しようにも目と足が不自由なのだから弱くて当たり前だ。『グリンダ騎士団』が鎮圧した学生相手への人質より質が悪く、下劣だ。
そもそも、自分の身を守ることさえままならないナナリーは「武器を持たない者に危害を加えない」が基本理念の『黒の騎士団』にとってはユーフェミア以上の難敵だ。
ウェルナーは自分もと言いだしたが、雛との出会いがきっかけである程度歩けるようになったとはいえ、ユーフェミアのように学生でさえない上に公務の経験が皆無のウェルナーでは重荷だということで却下された。
要するに、足手まといか……
残酷だが、それは言えている。それに、周囲の警護も複雑になってしまうだろう。ナナリーは個人的な交流があるスザク、その補佐としてジノとアーニャがエリア11にやってくる。『ラウンズ』が三人というのは破格だが、ナナリーの状態を考えれば無理ない。
しかし、良二はナナリーを見て首をかしげていた。
「どうしたんだ?」
「あ、はい……日本時代、スザク…枢木卿とは藤堂中佐の元で一緒に武術を習っていたのは前にお話ししましたよね。」
それは入隊時にも聞いたし、事前情報としても資料にあった。財閥が枢木政権寄りで、その関係で皇神楽耶とも面識があったらしい。
「その際、ブリタニア人の友達ができたという話を聞いたことがあったんです。」
ブリタニア人の友達…それもスザク。
そういえば…あの頃、ルルーシュの手紙にも友達ができたと。
偶然にしては妙だ。それに、二人が日本へ渡った名目は留学。ならば、その引受先に首相の家が選ばれるのも自然だ。
枢木卿とナナリーの結婚、またはルルーシュと皇神楽耶を結婚させてという手もあったはずだが……
話が逸れた……
「つまり、良二はその友達がナナリーかもしれない、と?」
「はい…」
「もしそうなら、枢木卿には一言会って礼を言いたいね。妹が世話になった上に、今も世話になっているんだから。」
「…しかし、それが事実ならば何故彼女を見捨てるような手を。私も日本軍人ですからある程度事情は分かります。形式だけでも彼女を枢木卿と婚約させれば、もっと簡単に日本を手に入れられたはずなのに。」
流石に日本軍人の長野はそう考える。ライルでもそう考えるのだからおかしい。やはり、あの天領の神根島と関係があるのだろうか。もし、皇帝の本当の狙いが富士山を始めとしたサクラダイト鉱山ではなく、神根島の遺跡だとしたら……ルルーシュとナナリーは油断させるための囮?
外交上の人質として、十分な効果がある二人を捨ててまで…あの遺跡にそれほどの価値があるのか?あのV.V.とやらもやはり、何かの形で絡んでいるのでは?
ナナリーの総督就任演説…というより、むしろナナリーの場合は全ての住民達への挨拶のようなもので、深く頭まで下げていた。
「お願いします、じゃないわよ……」
「やりにくいですね。」
セーラもナナリー総督の振る舞いに困惑し、裕太も同意見だ。
「全く、これじゃあゼロ復活の勢いに消火剤をかけたようなものだな。」
しかし、土田の懸念とは裏腹にナナリーは総督就任の最初の政策に『行政特区日本』の再建を宣言した。
「ナナリー…それは、無理だよ。」
机の勉強ばかりで、見聞を広める機会が少ないウェルナーから見ても、これは無理があった。ウェルナー自身は信じていないが、ナナリーが日本人のために再建するとしてもまだ一年しか経っていないのだ。いや、十年経とうが無理だろう。
「姉さん…ナナリーはユフィを信じているけど。これは…」
「ああ……ユフィだって地道な活動をして、信用を得たうえで特区建設を発表した。いきなり、これでは。」
セラフィナとエルシリアも否定的な意見だ。ウィンスレットら幕僚達も同様の反応をしている。イレヴンへの人権保障など不要、という問題ではない。
木宮はシルヴィオの玉座にもたれるような姿勢で問う。
「あの子、公務の経験ってないのよね。」
「ああ、ユフィとは仲が良かった。ユフィの無実を信じているからだろうが………いきなり失敗してしまった。」
これでは第二の『虐殺皇女』だとイレヴンどころかブリタニア人でもそう考える。まして、スザクまでいるのだから余計に心証が悪い。
「言ったら悪いけど、ライル殿下が総督になったほうがよかったんじゃない?」
「…私も木宮さんと同じ意見です。部下殺しのマイナスはあるけど、基本的に特区のようなことはしていませんから。」
たしかに、ユーフェミアのせいでライルまでいらぬ疑惑まで被っているが…待てよ?だから、ナナリーか。
「ふん、所詮は平民のガキだな。俺様なら、女を貢いだ協力企業を取り立ててやるがな。」
ルーカスはベッドで美女たちを侍らせ、彼女達の差し出した飲み物や果物を摘まみながら、その豊かな胸を揉んで感触を堪能する。
「まあ、失敗したなら俺様が総督になってゼロを成敗して、あのエースの女をいただくとするか。」
行村は女達を侍らせながら、演説を見ていたが
「日本人の断末魔を堪能しようという魂胆は中々だな。この私がいれば、その場で耳を永遠につぶしてやったものを。」
あんな小娘、身体を堪能しようにも貧相で楽しめそうもない。無理やり目を開かせたり、歩けない足をなぶるしかうまみがない。さっさと殺してしまうに限る。
「まあ、よい。今回だけはゼロに花を持たせてやろう。」
クラリスは部下達とこの演説を見ていたが…
「どう思う?」
「あの総督に関する情報が少なすぎる。まあ、罠という認識が強い以上参加希望者無しで失敗。と考えるのが普通だな。」
フィリップの言葉にヴァンもうなずく。
「前の特区もなんでああなったのかわからんがな。」
「穏健政策の兄達の妨害をするにしても、やりようはある。」
ガイルも肯定し、リラもナナリー総督の真意を測ろうとしていた。
「誰も来ないのを理由に、ってのは無理ですよね?」
「そんなことしたら、ブリタニア人も怒らせて処刑よ。されなくても、一生日陰者ね。」
ナナリー総督の真意が読めない。それがここにいる全員の意見だった。
『黒の騎士団』ではナナリーがユーフェミアと同じだという意見が大半だった。
「また『虐殺皇女』をやろうなんて、俺らをバカにしやがって。」
そんな中、ラルフも扇と意見交換をしていた。
「扇さん…あの総督が白だったらどうします。」
「…たとえ、その気がないとしてもまだ一年しか経っていない。誰も集まらないさ。」
「そうですよね、やっぱり。………第八皇子だったら、余計逆効果でしょうか。」
扇は収監されている時にライルと一度会ったことがあり、彼の部下の名誉ブリタニア人の一部とも会ったという。そのことに少し興味はあった。
「……彼の方針は分からないが、自分の部下やその家族だけ優遇するのなら、前の総督と大差ない。」
「とにかく、ブリタニアとの決戦だぜ!」
「玉城さん、この前の作戦で紅蓮以外全部やられたんですよ?ゼロとの連絡もつかないんだから。」
流石に、ゼロも判断を決めかねているのだろう。罠であれば参加しなければよい。総督が本来の形での特区を目指すにしてもあれは失策………
多分、こういう場合は静観するのが一番リスクはないだろうけど。ラクシャータさんはインドで新しいKMFを造ったっていうから、やっぱりその受け取りからかな?
久保カイトはナナリーに殺意をたぎらせた。
「目と足が不自由なふりをして、俺達を罠にかける気だ。」
「ああ、そうに決まってる。」
「あんなガキが総督になれるわけねえからな。」
カイトは自分の考えを明かした。
「式典に参加するふりをして、あのガキを殺すんだ。それで、目と足が不自由なのを嘘だと暴く。」
「おお、そりゃ名案だ!」
「ゼロだって、納得するぜ。」
「やめろ…本当に障害を患っていたらどうする?」
藤堂が慎重論を打ち出してきた。
「と、藤堂さん?」
「お前たちの当てが外れれば、我々は目と足の不自由な少女を殺したという悪名が着く。ブリタニア皇族でも、そんな相手を殺して誇るような我々を日本人は支持しない。」
だが、
「藤堂さん、そんな連中はほっとけばいいんですよ。俺達は『正義の味方』だ。」
「そうです、『正義の味方』の俺達がそうだって言えばそうなるんです!」
カイトはそう信じて疑わなかった。『正義の味方』の自分達がそうだと言えば、そういうことになる。そう、有紗が洗脳されているのもそうなのだ。
ナナリーの就任演説を聞き終えたライルはうなだれた。
「ナナリー…いきなりなんて失敗を。」
「また、『虐殺皇女』を?」
「お姉ちゃん!」
「あ…申し訳ございません。」
優衣に窘められた涼子が謝罪するが、ライルは首を横に振る。
「いや、君の疑念が普通だ。ただ……」
「ただ?」
「……両親を殺された君と優衣には悪いが、重ねて言う。ユフィだって私は信じられないんだ。」
「……お気持ちは分かりますが。」
演説を聞く張 美水は静かに考える。
「総領事館のことか?」
「…はい、特区が成功すれば外交上も波風が立たなくなると思います。」
確かに、エリア11が落ち着けば中華連邦の急進派が介入する手立てがなくなるし、天子の政略結婚も進むだろう。総領事の高亥は公開処刑の前後に仲間割れを起こして『黒の騎士団』に殺された。結果として、中華連邦は潔白を証明したし、それを強固にするには特区は良い方便になる。
「だが、特区が逆効果になればナナリーはまた、皇籍を失う。」
頼む。またあんなことにならないでくれ………
ライル個人としても、またああなるような事態は避けたいし、直面して今度こそ有紗に万が一のことがあれば。ただでさえ、有紗は知り合いが『黒の騎士団』にいるというマイナスがあるのだ。
怯えている……あれだけ強い人が。
戦闘は素人だが、美水から見てもライルはこの軍の騎士たちの誰よりも強い。それが、妹や周りの女達の危機でここまで狼狽するとは。
ブリタニア皇族の中で、一般的な良識や筋を重視するタイプだとは思っていたが…こんな側面もあったのか。
そういえば、前の特区がきっかけで部下が反乱を起こして従者の少年が命を落としたと聞いた。遡れば、平民出身の女性に想いを寄せていたがその人も貴族に殺されたという。
そのことがトラウマになっているのね。
少なくとも、特区については彼が信頼している山本政務官と話せる機会を設けられればいいが……
「殿下、本国からの輸送機がこちらへ接近してきます。」
「輸送機……本国に要請したヴィンセントの追加パーツか?」
「はい、それと以前開発を依頼した殿下の機体です。注文の装備はまだできていませんが、それ以外は完成しているそうです。」
あれが?確かにランスロットベースで開発を頼んでいたが、もう完成したのか。
「早い完成だな。」
「いえ、工廠に言わせれば遅いそうです。」
「……あとは実戦でデータを取って細かい調整をしろということだな?」
「そうなります。」
「……涼子、特区が不安なのはわかるが今は頭を切り替えてほしい。私が開発を要請した機体を見たいか?」
新型のKMFと聞き、涼子の顔色が少し変わった。
「見ていいのですか?」
「ああ、ヴィンセントの操縦データのフィードバックも頼みたい。」
「イエス・ユア・ハイネス。」
メカニック達にドリンクを持ってきた有紗は本国の輸送機から降ろされた新型のKMFを見上げていた。どことなく、ヴィンセントに似ている青みがかった…白はなだという色か?
「もしかして、あの反乱の時から開発を依頼していた?」
「そうだよ…」
「ライル様。」
涼子も一緒だ。ということは、これが……
「RZB-08ベディヴィエール。ヴィンセントをベースに造ってもらった私の専用機だ。」
ヴィンセントから、ということはつまりこれはランスロットの派生型ということになる。
涼子は早速ベディヴィエールのデータを見せてもらった。流石にランスロットの系列に属するだけあり、高スペックだ。一部『ラウンズ』専用機、より正確にはそのベースになったKMFの武器の応用も入っている。
両腕にはブレイズルミナスで攻防一体を担うクローハーケン、胸部に口径を小型にしたハドロン砲を内蔵し、腰には大型のブレイドハーケンを搭載している。機動力もオリジナルのランスロットより高くなっており、ライルの戦闘スタイルである高機動力と近接戦闘を重視している。
しかも、機動力重視の注文から装甲をオリジナルのランスロットと比較して2割削っている。防御力はブレイズルミナスに絞り、回避行動に重きを置いているコンセプトだ。
ユグドラシルドライブのパワーもヴィンセント以上で、ヴィンセントでも問題であったライルの反応速度への対応も本機ならば十分に着いていける。しかし、問題はこの資料にある槍がまだないことだ。
背中には確かに剣がある。資料にあるMVSを高出力化したカルンウェナンだろう。だが、肝心の槍。本国の工廠と同じ名前のロンゴミニアドがない。
さっき言っていた、最大の武器はこれか。カルンウェナンはランスロットやヴィンセントで用いられるMVSよりやや短い…ショートソードといった具合だ。といっても、ナイトポリスのナイフ程短いわけじゃない。近接戦闘の武器としては十分なリーチがある。
「凄いスペック…数字だけならオリジナルのランスロットよりずっと上ですね。」
「ああ……仮装敵が『黒の騎士団』の紅蓮弐式、『ピースマーク』の白炎、『ハンニバルの亡霊』だからね。」
どれも入隊してから聞く、大物ばかりだ。確かに、こちらにあるデータだけ見てもスペック上はサザーランドでは勝負にならない相手ばかりだ。だが……
「……戦闘データは見たけど、もうその仮装敵よりずっと強いのがどんどん沸いているから、それはあてにならないんじゃないんですか?」
「お前、新入りのくせに。」
「まして、イレヴンに何が分かる。」
正論だ。しかし……
「新入りのバイト上がりのイレヴンにだってわかることを言っているだけですよ?向こうだって、こっちに対抗できるKMF造るのは当然だし、それならもっと強いのを造るのが普通じゃない。現に相手も空を飛べるところまでいったんだから。一年で相手がこっちに食らいつけるくらい強いKMFを造った証拠です。」
至極当然な指摘と受け取られ、涼子に良い感情を抱いていない将兵達は黙るしかなかった。実際、ランスロットとガウェインをベースに第七世代の量産機が開発されているのがその証拠……ヴィンセントに至ってはサザーランドのパーツとの互換性重視でさらに低コストの量産機になるという。少なくとも、『黒の騎士団』にはこれに対抗できる量産型があるとみていいだろう。
「そこまで……とにかく、涼子。データのフィードバックとOSの調整を頼むよ。」
「新入りに無茶させますね……ま、やるからにはやるし。それで死んだら私が優衣に殺されるだろうから。それでなくても、恩人のKMFだから手も抜かないので。」
「それは頼もしい。みんなも頼む。」
「イエス・ユア・ハイネス。」
ライルは自身もベディヴィエールのデータを見ていた。グロースターの時からの悩みだったライルの並外れた反応への対応。オリジナルのランスロットくらいしか着いていける機体がなく、その量産試作機のヴィンセントでさえリミッターを外してやっとだった。これはオリジナルのランスロットと同じかそれ以上のスピードを頼んだ結果、その心配はない。その分、パイロットの腕に依存することになったがライルはそれなりの自信があった。
この機体であれば、先日データを収集して判明した、あのローランと蒼天に機体性能だけならば後れを取ることはない。あとは相手と自分の力量による。
「久しぶりに……手ごたえのある相手に会えたな。」
ライルは特区の懸念を忘れてしまう程に高揚し、唇を上げて凶悪な笑みを浮かべていた。
ライルの新型KMFも出てきました。
実は、オズとアキトの発表前に掲示板でやったころは超合集国ができる直前でした。流石に遅すぎるから、フランス攻略直前にしました。
ちなみにべディヴィエールとはアーサー王伝説で、湖にエクスカリバーを返したといわれる隻腕の騎士です。カルンウェナンはアーサー王が持っていたといわれる短剣の名前です。なお、両腕のクローはドラクエの爪と牙を足したような二本の刃です。
そして、久保カイトは正に素人むき出し。ずさんだけど、黒の騎士団の弱点として描いています。