どうもドンパチよりもその前段階などを重視するようになってしまっています。
本国からの増援が到着し、ライル軍は再度フランスへの進軍を開始。今度はルーカス、シルヴィオ、エルシリアの軍も合同だ。
マリーベルはいない。総督という役職上、彼女はエリア24を離れるわけにはいかない上にそちらでも妙な動きがあった。
査察に訪れた『ナイトオブナイン』ノネット・エニアグラムによれば、突然帰還したオルドリン・ジヴォンがライアーを殺したと宣言し、飛び出していってしまった。更にノネットもレオンハルトとティンクを連れて行ってしまった。つまり、『グリンダ騎士団』の最大戦力が抜けてしまったのだ。
流石にそんな状況で政庁を空けるわけにはいかないため、ライルはそこを突いてマリーベルのこちらへの介入を阻止した。
「これで当面は時間が稼げる。」
「まあ、その場凌ぎとしては十分ですね。」
フェリクスの辛辣な評価がまたも飛んでくるが、実際に時間が稼げる。フランスを陥落させれば、少なくとも『大グリンダ騎士団』の砲火をこれ以上東へ向けさせない壁ができる。
作戦会議はシュナイゼルと通信越しで行っていた。エリア24方面からライル達が進軍し、シュナイゼルの本国軍もグランビル海岸から上陸、進軍する。
〈作戦はいたってシンプルな二正面作戦だ。我々がグランビル海岸方面からパリを目指して進軍、ライル達はアンドラ、エリア24方面からパリへ進軍してほしい。〉
「しかし、問題は例の精鋭部隊だ。」
シルヴィオの指摘する通りだ。相手は間違いなく、件の精鋭部隊を出してくる。
「………要は、我々に陽動作戦をしてほしいのですね?」
エルシリアがシュナイゼルの考えを指摘し、シュナイゼルは頷いた。
〈彼らも必死だ。ならば、こちらもそれに対抗できるだけの手をそろえなければならない。各地の軍が略奪部隊の対応に追われている今、一定の統率を保っている君達が攻め込むのが効果的だ。〉
理屈はおそらく、間違っていない。しかし、それにルーカスまで入れるのは……
さては、私達にルーカスの暴走を抑えさせるのが目的だな?
実際、こいつが口で言って首を縦に振るのは皇帝かシュナイゼルくらいだ。しかし、ライルの見立てではシュナイゼル相手でも本当に首を縦に振っているか疑わしい。シュナイゼルについて、ライルは理屈を超えた何かを感じて警戒しているが、ルーカスの場合はおそらく違う。
自分はブリタニアの頂点に立つべき存在。シュナイゼルごときは自分が皇帝になったらいつでも始末できる……ということになっているのだろう。自己評価の高さもここまでくれば凄いものだ。
だが、それとは裏腹に一部を除けば部下達は能力もモラルも低い。そんなのが自分のところにいたら、足を引っ張られるのが目に見えている。
なら、数と力でねじ伏せられるライル達に任せれば自分は動きやすいし、悪名だけならばブリタニア屈指のルーカスがいれば相手の警戒も、というのだろう。ある意味、最強の敵と最低の敵が別方向から攻めてくるのは最悪だ。
全く、あの人はこんな奴でさえ強力なカードにしてしまう。私だったら、こいつを使わないし…使いたくない。
ライルにとってはハイリスクしかないルーカスを、自分へのリターンに変えてしまうのがシュナイゼルの手腕だ。改めて、ライルは義兄の器量に圧倒された。
ブリタニア軍が進撃の報告はすぐに統合作戦本部と四十人委員会にも伝えられた。グランビル海岸方面とエリア24方面の二方向との見方が強い。四十人委員会はすぐに迎撃を決定し、『ロンスヴォー特別機甲連隊』にも作戦への参加命令が下りた。
「ったく、首都防衛の部隊になってのんびりできるんじゃなかったのかよ。」
「親父のやつ、なんで俺をこんな部隊に入れたんだ?」
「全くよ。前線なんてナンバーズや外人部隊の仕事じゃない。」
クラリスは全員を撃ち殺したい衝動を必死にこらえていた。こいつら、首都圏防衛の部隊がただの看板だと思っていたようだ。実際その通りだが、そんな看板である以上、いざその首都圏が危険ならば出撃しなければならない。
こいつらはそんな想像力を働かせることさえできないのだ。親の権力で安全な後方でぬるま湯に浸かり、たまに前線に顔を出す。その後はパーティーでちやほやされる。
軍人とは、そういうものだという認識になっているのだ。
「大佐、俺達と飲みましょうよ。」
隊員の一人がクラリスの肩に手をかけようとするが、クラリスはそれを躱す。
「仕事をしてから飲みなさい。」
「そんなのイレヴンや外人部隊の仕事じゃないですか。」
「自分の請け負った仕事もできない人は嫌い。私だって、まだ自分の機体の調整だってしてないんだから。」
だが、それが気に入らなかったようだ。
「んだよ、親父の力で新型に乗せてもらったくせに。クソ真面目に調整か?」
「死にたくないから、自分の乗るKMFの調整をやるのよ。」
「何よ、どうせブリタニアの猿真似のハリボテじゃない。噂じゃ、イレヴンの部隊も弱いKMFで『ユーロ・ブリタニア』に負けたんじゃない。」
『w-ZERO』のことだろう。こいつらはイレヴンの部隊で運用するKMFというつまらない理由で現実の性能さえ見ていない。
なんで、こんな奴らを入れたのよ。現場のたたき上げをもっとちょうだいよ!!
「なんてぼやいているぞ、クラリスの奴。」
フィリップはオリヴィエの調整をしながら、クラリスのぼやきを聞こえないながらほぼ言い当てていた。上流階級に生まれながら、その水に染まらなかったからこそわかることだろう。
「さっき、私も言い寄られてた。」
リラも先程、正規軍の将校に言い寄られていた件をぼやいていた。
「お前と大佐の家のコネで俺達も新型に乗れるのは良いけどさ……」
「乗ったからわかる。これだけいいのを造れる奴を取り立てろよ。」
ヴァンが自分たちの機体を称賛する一方、ガイルはそれを取り立てない硬直した平等を非難していた。
「お前ら、容赦がないな。」
「つうか、お前と大佐はともかく俺達は間違いなく万が一のスケープゴートだろうな。」
だが、ヴァンがそれをあしらった。そして、上層部の魂胆を分析していた。
「親の不正を正した俺達が新型に乗り、そんな俺達に取り入ったインチキ庶民を作る?あり得るな。」
冗談ではなく、本当にやりかねない。フィリップとクラリスの親も、あの事件で信用を無くしたのは自分が蒔いた種だということさえ分かっていないのだ。見抜けなかった情報部が悪いということになっている。仮にも四十人委員会の議員や統合本部に入れるだけの能力はあるはずなのに……なぜああなのだ?
いや、おそらく祖父母がああいう風に教育したのだろう。二人ともかつての貴族の家系だ。当代の先祖は自分達の腐敗を感じ取り、貴族支配の終焉を悟ったのだろう。だからこそ、貴族として革命に着いた。だが、三百年の果てに二人の親は自分の地位や名誉しか頭にない。革命に賛同した貴族の責任もただのブランドになってしまった。
『ユーロ・ブリタニア』が見れば裏切り者の家系だろうに……それとも、今度は革命の過ちを悟ったとでも並べ立てるつもりだったのか?
あり得る。実際、奴らはあの時の責任転嫁の理屈を並べたり、『子供達のおかげで眼が覚めた』などと大嘘をついている。ブリタニアに降伏する際には自分達だけ助かるか、もしくはクラリスをシュナイゼルかどこかの大貴族と、フィリップを年齢が近い皇女、貴族の娘と結婚させて貴族に返り咲こうなどと考えるのが容易に想像できた。
ルーカスは敵の精鋭部隊の資料で、一人の女を一目で気に入った。フランス軍の重鎮ピエルス将軍の娘だ。
社交界でも絶世の美女と謳われるが、身持ちが硬いことでも有名。しかも、年齢も22と同い年。
これほどの上玉はブリタニアの皇帝たる俺にこそふさわしい。その暁には、この女共と同じくこの俺の寵愛を与えよう。
ライルは優衣が持ってきた資料に目を通し、情報部の調査で得た『ロンスヴォー特別機甲連隊』の資料を見ていた。連隊、と銘打っているが実際は師団規模で司令官はイタリア外人部隊を統括するアデルモ・バルディーニ将軍…『ヴェネツィアの鯨』だ。
堅実な指揮官で、腐敗したE.U.正規軍では数少ない真っ当且つ良識派でイレヴンを差別せず、他国の外人部隊、正規軍を問わず人望もあるうえに四十人委員会にも影響力を持つ。正に大物中の大物だ。
「スマイラス将軍にバルクライ将軍……そしてレイラ・ブライスガウ。間違いなく、コーネリア姉様達と渡り合える人材はいるはずなのに。」
スマイラスは『方舟の船団』で政府と軍上層が逃げたのを機にクーデターを起こして軍事政権を立ち上げたが、東部戦線で戦死、バルクライもベラルーシを巡る白ロシア戦線でスザクに敗れた。レイラ・ブライスガウはスマイラスのジャンヌ・ダルクに仕立て上げられた。
彼らは間違いなく、一流の指揮官だ。おそらくジルクスタン王国の『褐色の城壁』、日本の『奇跡の藤堂』と互角とみていいだろう。
だが、弱点があるとすれば彼らは戦術家で指揮官。パイロットではない。
もし、スザクや『四大騎士団』の総帥に対抗できるパイロットとKMFを揃えていれば、ブリタニアはもっと苦戦していた。なのに、『ハンニバルの亡霊』の機体さえ開発した軍需産業や技術者を積極的に取り立てたり、特許料を支払って開発に協力してもらう等という手を打たない。
国がなくなれば、それどころではないのに目の前の敵よりも建前の平等に固執するか、隣の競争相手の邪魔をすることしか考えていない。
隣の優衣も自分で整理した資料を読んでため息をつく。
「はあ、資料見た限りじゃ男前のおじさん達で実力もいいのに……周りが馬鹿じゃ大変ですね。」
顔は関係ない、と言おうとしたが敢えて喉にしまい込んだ。
「それと…入隊した時に見せてもらったエリア11の資料でライル様が逃げられた軍人と同じ名前がありました。どうぞ。」
別の資料を受け取ると、そこにはエリア11を脱出した日本軍人…池田誠治と海棠隆一、そして行村鷹一の名前があった。他にも敗戦後に潜伏した日本軍人などもおり、更に確認された部下として美奈川浅海もいた。
そうか…彼女はまだ生きていたのか。資料によれば、『黒の騎士団』の団員達と共に脱出して、オランダの外人部隊にいたという。
まさかエリア11で出会った敵とここで戦うことになるとは。
そして、幸也が探していた行村鷹一……まさか、E.U.でも健在とは。
「ねえ、ライル様……」
優衣がいつになく、真剣な表情で顔を近づけてくる。
「な、なんだ?」
「パリ防衛ってことは、向こうも必死だから危ないでしょ?もしかしたら、死ぬかもしれないし。だから、その前に私の初めて、もらって?」
「……話が読めないんだが?」
「本気です。もし捕まったら、何されるかなんて素人の私でも想像つきます。その前に舌かみ切って死にたいけど…女として、好きな人に最初をあげたいの。それに、有紗のおまけ程度で生きて帰る願掛けになる自信はあるし。」
随分と飾っているが、要は夜の相手を買って出る、と。
「出撃直前、とは言わないんだね。」
「そりゃあ、それが一番だけど……朝までライル様を離さないし、それで管制がおぼつかなかったら洒落にならないもの。」
また、今度は真面目な理由を……ただ、優衣が本気で惚れこんできているのはこの短い付き合いでもわかる。あまりに馬鹿正直すぎて、裏があるにしては見え透いている。
と、考えていると優衣が思い切り抱き着いてきた。
「うんって、言うまで離さない。ご主人様の命令でも離さない。」
「私は君をそういうつもりで買い取ったつもりはないし、手放すのを決定した時点で自由の身だぞ?」
「私はそれを受諾してません。お姉ちゃんだって、受諾をしてません。大体、自由の身ならこうするのも自由でしょう?」
ああ言えばこう言う、とんでもない屁理屈だ。だが、確かに優衣のこういう部分を好ましく思っている自分がいるという自覚はある。清楚な有紗に、ハーフの葛藤を抱えたレイ、艶やかなクリスタル、同じく親の過干渉に辟易したサラと全く違う…馬鹿が着くくらいにまっすぐな優衣…
「最近、思っているが……私は酷い浮気性だぞ?」
「皇帝陛下の皇妃様が百人でしょう?だったら、ライル様だって十人や二十人いたって良いじゃない。」
全く意に介さない。普通なら、浮気をされたら怒るはずなのに。貴族社会で生きる以上、多少は我慢する人はいる。
「とにかく、本気の大マジで一番下でもライル様の女になりたいの。捕まらなくたって、ライル様にもしものことがあれば、絶対に貴族がこれ幸いってするんだもん。だから…」
まっすぐに見つめてくる。下手な嘘だ……大体、嘘にするには下手すぎる。ライルはついに、根負けした。
「分かった……有紗達が言いだすようなことがあれば先約にする。」
浅海はインド経由で送られた新型機ソレイユの調整をしていたが、さっきから正規軍の連中がうるさく言い寄ってくる。オランダ外人部隊や一部正規軍が追い払ってくれているが、全く集中できない。
情報によれば、あの第八皇子ライルもエリア24方面から攻めてくるという。緩み切った連中は彼を『イレヴンの女を侍らせるだけ』、『カミカゼ頼みでイレヴンを優遇している』、『負け犬のナンバーズを取り立てる能無し』、挙げ句に特区の事件によって誘発した事件を指して『飼い犬に手を噛まれた無能』などと嗤っている。
最後のは、客観的に見てそうだとしても特区があんなことにならなければ起こらなかった事態だ。しかも、『黒の騎士団』やE.U.でライルに着いて調べると、彼は特区以前から植民地政策引いてはブリタニアの世界制覇そのものの方針転換の警鐘を鳴らしていた。その大半が『ナンバーズの人権保障』に通じるものばかりで、本国の貴族にさえ僅かながら理解を示す者もいるからこそ、名誉騎士団に強く出られないのが浅海にもわかった。
否定するのは、現場を分かっていない貴族達ばかり。そう、この共和国の連中と同じだ。ユーフェミアの暴走はエリア制度に加えてライルのような改革志向の人間の足を引っ張ることになった。
中にはライルが実はユーフェミアのような残虐な皇子だと疑う者もいる。エリア11では汚職官僚を自ら処刑したが、それならキョウト……中華連邦やE.U.の反ブリタニア路線の人間との内通も同じだ。
様々な情報を得るが、浅海の胸中はもう一度ライルに会えるという胸の高鳴り………そして、話したいという期待だった。
どうして……こんな期待。会えたとしてもKMF越しだろうし………話せるにしても、それは自分が捕まって処刑される寸前だ。
なのに、胸の高鳴りが止まらない。これじゃあ、まるで………
特区の虐殺にエリア24……どれも浅海はライルの無実を信じて疑わなかった。一回会っただけなのに……
池田は先日戦ったライル・フェ・ブリタニアを思い出した。あの時、あのホッカイドウの時よりも更に腕を上げていた。もし、枢木スザクと並ばれでもしたら……
あの二人だけで一個師団のKMF部隊を全滅させられる光景が浮かんだ。ゼロのような戦略でも、力技でそれをひっくり返しそうだ。
しかし、あれだけの失態を演じてもなお方針を変えないとは。軍人としては、とも思ったがあの事件で名誉騎士団や噂のメイドも含めた全員を処刑や除名などしてしまえば、せっかく彼が築いた各エリアの協力企業や政治家、軍とのパイプも破壊してしまう。何よりも、名誉ブリタニア人制度の全否定にも繋がる。
ライル個人がそれを変えず、規模を縮小する形で続けるのはエリア政策として実際に有効だと本国の官僚達も理解しているからだろう。
全く、発想は良いのに周りの頭がついて行っていないようにも見える。
敵ながら、同情してしまう。実際のエリア政策として、あの特区と組み合わせれば間違いなく自分達は詰んでいた。ユーフェミアの暴走が結果としてこちらにはプラスになったが、池田にとっては関係修繕という別の望みが潰えたのは残念でならない。
海棠に至っては、自分が子供達を唆したという形で出頭して裁きを受けて、子供達を特区で暮らせるような交渉もしたいと思っていたようだし……何より一般市民の生活という極めて現実的な問題の解決の近道として好意的だった。
独立寄りの池田としては納得しがたいが、海棠の意見が現実的だということも理解できる。そこから、特区の範囲拡大や従属国という条件付きでも国家としての一定の主権回復という道筋もあった。
何故、あんなことに……海棠も彼の部下や子供達も懐疑的であった。仮に罠でも、式典の真っ最中でやるなど愚策だ。稲垣や西野は単なる日本人排斥が目的、と疑っていたが池田はそうは思えない。いくら副総督就任まで学生でも、皇族なら学ぶ機会はあるし、E.U.の軍上層部さえタイミングも理由も測りかねていた。
行村は単に、罠と決めつけて自分が英雄になる口実ができたと喜んでいた…………しかも、ライルも同類だとこじつけたがる始末だ。池田は彼らを侮蔑さえしていた…ただ、自分達にとってゼロより都合の悪いであろうライルが悪であれば都合がいいからそういうことにしたいだけのように映っていたからだ。
バルディーニは海棠や部下を交えて、敵の情報を見ていたが何度目か分からない深いため息がでた。同じように、KMFの総隊長のクラリスもうなだれた。
「これで勝てたら、ゼロの奇跡を超える奇跡だな。」
「その前に……あんな連中、ゼロだってまとめるのに苦労しますって。」
クラリスが心底、うんざりした意見を述べて……会議に参加した正規軍や外人部隊の指揮官達も無言でうなずく。
「要するに…形だけの交戦をして政府が体よく降伏するための体裁か?」
「他にないっしょ………とりあえず、うちの子達は一人でも助けるように頑張りますから。」
海棠の意見は実に個人的だが、それでも責任を果たそうとするだけマシだ。いくつかの部隊編成で、海棠にはイタリアの外人部隊と正規軍を中心に編成した『モノケロス隊』を任せ、クラリスには最強部隊の『ヒポグリフ隊』、ドイツ外人部隊のゼラートには『フェンリル隊』、オランダ外人部隊のデルクは『リンドヴルム隊』、池田にはフランス外人部隊の『ベヒーモス隊』を委ねている。
部隊の名目に加えて、各部隊まで。どう考えても、『w‐ZERO』のKMF部隊が『ワイヴァン隊』と呼称されていたから、伝説の動物の名前でそれらしく見せている。
見掛け倒しにもほどがあるというのに。
『ユーロ・ブリタニア』が『ハンニバルの亡霊』と呼んだ『w‐ZERO』のように『バスティーユの亡霊』とでも呼ばれるくらいの戦果を挙げたいが、果たしてやれるかどうか。
正規軍の御曹司共は実力も士気も最低、前線から召集された部隊は逆に実力はともかく士気については低く、自分達がボンクラ息子共の盾にされるものと決めつけ、イレヴンを始めとした外人部隊はもっと酷い。実力だけで言えば最強クラスだが、政府や統合本部は彼らを自分達の保身のための生きた盾程度にしか認識していない。一番強いカードを使うべき時に使いこなせていない、最悪のゲームだ。
こんなの、ノーペアの状態でロイヤルストレートフラッシュを強制されているポーカーと同じだ。チェスならば、出来ないのにキャスリングをやれと言われている。
「とにかく、命令である以上勝てるように打てる手は打つぞ。」
総司令官である以上、自分はそう言うしかない。上の連中が少しでも、文句を言えない条件を整えるしかない。だが、奴らは権力濫用と自分達だけの安全確保だけは天才的だ。今頃はベルリンかロンドンあたりに逃げる手はずを整えているだろう。砂の城同然のパリにとどまっているわけがない。
我々は砂の城を守るために、死んでほしい人間か。全く、イタリア政府とてローマが陥落したらロンドンに逃げるのを認められないことくらいわかるだろうに。
しかし、この道を選んだのは自分だ。せめて、部下達を一人でも多く生き延びさせて、政府の奴らに噛みつく程度のことはしてやろう。
もはや、バルディーニにとって敵はブリタニアではなく自分達の保身以外頭にない軍と政府の重鎮となりつつあった。
その夜……優衣は自らの希望通りライルの夜の相手が叶った。
「ぁふ…ライル、様……すごい……」
優衣は全裸で息絶え絶えに豊満な果実をライルの胸板に密着させていた。ライルに何度も何度も胸を揉まれ、吸われ続けて徹底的にライルのものだと刻まれ……身体の奥までライルの愛で満たされ、優衣が限界を超えてもライルは容赦なく攻め続けた。
「君こそ…本当に初めてだったとはね……」
雰囲気はジュリアに似ているところもあるが、こうしているとやはり別人だと分かる。抱きながらも、抱えていた一抹の不安が解消された気にもなった。
「正直、ジュリアの代わり程度にしか君を扱えない……という不安があった。」
「あった?」
「やはり、君と彼女は別人だよ。責任は取るし、君として見ることができそうだよ。」
その言葉に優衣が抱き着いて、唇に吸い付く。
「じゃあ、もっとして?」
「本当に積極的だね……」
「好きな人におねだりされるの、いや?」
「……浮気性の男にする質問ではないよ。」
そう答えながら、ライルは優衣の唇を吸い、再びつながった。
ノエルはグロースターの調整をしている時、一人の男を見つけた。ルーカス軍の制服を着ている男だ。妙に、こちらを睨みつけている。
「何かしら?」
「貴様、エリア11のあのアーデルハイトの娘だな?」
父と兄を指している。そういえば、この男どこかで……
「ああ、思い出したわ。」
そうだ。兄に不正を擦り付けた伯爵家の跡取り息子だ。
「確か、アドルフ・ジョゼットさん。貴方も皇族軍に入れたの。大出世じゃない。」
「何を言うか…汚らわしい犯罪者の娘が皇族の親衛隊など。」
父と兄を抉ってきた。そういえば、エリア11にいた頃からこいつとその取り巻きはしつこくノエルに絡んでいた。
「父は殺人を犯したけど、兄さんは無実でしょ。あの後、父さんがあんたの父親を殺したのがきっかけで不正の証拠が浮上して、少なくとも兄さんの無実は証明された。」
そう、企業の方からは謝罪と賠償金も来た。そして、犯人の伯爵家…こいつの家は味方が大きく減ってしまった。
「黙れ、平民!我らは貴族だ。ブリタニアを背負う責任があるのだ!そのために多少の不正を行い、平民にその責任を負わせるのは貴族の特権だ!!」
全くあの事件が反省になっていない。そういえば、家柄を盾にコーネリアに売り込もうとして失敗したという噂も聞いたことがある。
「私の主君が嫌いな理屈よ、それ。」
「ライル殿下が?ふん、ナンバーズごときに有余な人材がある等と言う世迷言を並べる面汚しなど、貴様のような犯罪者にはお似合いの主君だ。」
「あら、ありがとう。貴族界隈じゃ評判の悪い第五皇子様と不正が原因で転落した没落貴族様もお似合いの主従ね。」
そっくり返してやると、相手は更に頭に血を上らせる。
「おのれ、平民ごときが!伯爵家の次期当主たるこの私に…!」
「何をしている。」
声が聞こえると、ヴェルドとコローレに、ルーカスのナンバー2のマクスタイン将軍がやってきた。
「マクスタイン将軍…この平民が私を」
「そんな言い訳が通用すると思ったのか?最初から全て聞いていたぞ。」
「な……!し、しかしこの女はルーカス殿下を…」
「先にうちの主君を侮辱したのを棚に上げるのはよくないぜ。」
どうやら、ヴェルドも聞いていたようだ。コローレも相手を睨みつけている。
「な、なんだその眼は?たかが男爵家の分際で!」
今度は二人に矛先を向けてきた。全く、父の不正が原因であることを本当に分かっていないようだ。
「売り言葉に買い言葉だな……双方下がれ。今のは我々の心にしまっておく。よろしいか?」
コローレがそれに頷いた。
「構いません……無駄な争いは避けたいのは私達も同じです。」
「…申し訳ございません。」
ノエルが謝罪するが、相手はまだ納得しておらず、謝罪後ににらみつけてくる。
「覚えておれ…このままでは済まさぬぞ!!」
捨て台詞をはいて去っていき、コローレが睨んでくる。
「君の境遇は知っているが、あんなの相手に熱くなり過ぎだ。」
「……失礼しました。でも…!あんな奴の保身のために…兄さんが!」
ノエルはこぶしを握り締め、あの日を思い出す。あの日、突然兄が警察に逮捕されて会社の資金横領や資料の横流しの犯人にされてしまった。兄は無実を訴えるが警察は聞かず、そのまま獄中で自殺。あとで兄が上司である奴の父に全ての罪を擦り付けられたのを知り、父はその男を会社の中で殺した。そして、その父も報復で殺された。そして、母は心労で病死してしまった。
兄の無実はそれがきっかけで証明されたが、世間は元はと言えばはめられた兄が悪い。という意見だった。
おかしいではないか。貴族だから不正を擦り付けるのが正当な行為になり、警察さえ操れるなんて。弱肉強食、不平等を是とするのがブリタニア…だが、こんな不平等や弱肉強食は認めない。弱肉強食だというのなら、のし上がってやる。
そして、ノエルはそのための主君に巡り合った。ライルはノエルの家の事情を知っていたが、それとこれとは別問題だとして対応しようとしていた。それだけでも充分だった。自分を親衛隊の隊員として認めてくれて、対等に接してくれる同僚達。ナンバーズは敗戦国である以上、どうにもならないと割り切っていたが、彼らと同じ目に遭わされてノエルはそれを改めた。自分も同じことをしていたのだと。
弱肉強食も不平等も現実だろう……しかし、それを言い訳にした自己正当化がまかり通るような社会だけは認めない。それが、ノエルが軍人として戦う理由だった。
幸也は復讐に燃えていた。ライルから、あの行村鷹一がE.U.にいるということが分かった。それだけでも、ライルの部下になった甲斐がある。
「絶対に奴を殺す。母さんと、姉さんの仇…!」
掲示板では出てこなかったアドルフ・ジョゼット。名前もなく、設定だけもらっていたノエルの家庭を壊した貴族を私なりに考えました。掲示板時代、ノエルには怨敵がいなかったので
あの手の貴族にありがちな逆恨みです。
ちなみに念願叶った優衣……裏では尻込みしてたりします。