エリア24方面から進軍したブリタニア軍は『ロンスヴォー特別機甲連隊』を中心としたE.U.軍を補足していた。向こうもこちらを補足しているだろうが、攻め込んでくる様子はない。
指揮官を任されたライルの旗艦ケアウェントに皇族たちが集まり、相手の動きをうかがっていた。
「睨みあい、のつもりか?」
「普通ならそうだろうな……」
「………こちらの列車砲がまだ向こうにあるという情報は?」
「聞かないな……」
となると、少なくともこちらが把握していない列車砲がまだあるという可能性はある。とはいえ、現状低いだろうしあったとしてもパリが目前でそれを出し惜しみする理由がない。よほどうまく隠していることになる。
「通常戦闘で勝てると思いますか?」
セラフィナの問いに経験の高い幕僚達が応える。
「単純な戦闘であれば、我が軍が勝利できます。しかし、我々の目的はシュナイゼル殿下の別動隊がパリを射程に収めることです。」
「力技で押しつぶして、俺達でパリに攻め込めばいいだろうが。」
ルーカスの意見、それ自体は間違っていない。……だが、こいつの場合はパリに先に踏み込んだ功績が欲しいだけだ。
そんなことになれば、シテ島のゲットーも凱旋門もエッフェル塔も破壊するのが目に見えている。
パリ目前で向こうがこちらの講和を飲んでくれるのが理想だな。
となれば……池田と浅海がいるであろう機甲連隊を潰してしまうのが確実か。上層部のはりぼて部隊と揶揄されているが、首都圏防衛が主任務である以上その建前をこなすだけの人材は回しているだろう。
簡単には行かせてくれないだろうな。
自分の艦に戻ったシルヴィオは自室でミルカから受け取った資料を読んでいた。『ロンスヴォー特別機甲連隊』の資料でドイツ外人部隊を中心に編成されたフェンリル隊……その指揮官に興味があった。
「ゴルドシュミット家の生き残り…か。」
父シャルルの即位に異を唱える反乱に参加し、断絶したと思われた貴族の一つがE.U.で生き延びていたとは驚きだ。果たして、それが家の再興か?
「それとも、ライルの部下のように食べていく術が他になかったのがここまで出世したのか。」
家の再興はほとんど不可能に近い。亡命した先でどのような人生だったかもわからない。だが、軍人以外に食べていく術を見いだせず、そのまま外人部隊の中佐にまで昇進していたとなれば……
「手応えのある相手だな。」
この前のKMF戦でも感じたが、あの男は間違いなく一流だ。『四大騎士団』との交戦経験も多く、未確認だがシャイング卿相手に善戦したともいう。
エルシリアは以前、遭遇した日本軍人海棠隆一について調査した。エリア11では終戦後に部下達と共に孤児達を保護し、彼らを兵士として育て上げた。それだけ見れば、エルシリアは軍人として許せなかった。ブリタニアの統治を受け入れないからではない。
年端も行かない子供達を兵士として育てたことが。日本独立を目指すのならば、自分達でやればいい。幼い子供に戦いを、人殺しの技術を教えるなど……
「貴女、その海棠とやらにはらわた煮えくりかえっているわね?」
クレアが横から資料をのぞき込んで、考えを当ててきた。
「でも、もしその子供達が親や友達の復讐をしたい、と言ってたら?」
「何が言いたいの?」
「私の言った通りなら、その場合は多分その手の人間は二通りね。『手軽に兵隊が手に入る』、または『復讐を望む子供達を諭す言葉を出せなかった』……まあ、本人に会ってみないと分からないでしょうね。」
「前者なら、ライルを『洗脳皇子』だなどと罵倒する資格などないわよ?」
「後者なら?」
「………せめて、復讐の相手を私達の年代以上の皇族か政府や軍の貴族にするように絞るように教育してほしいわ。後続や貴族だから昔の自分達より小さい子供を殺すのも正義、なんて教える輩なら軍人としても大人としても最低よ。前者より酷い。」
クレアは軽くため息をついた。エルシリアの海棠隆一への感情は子供ありき。孤児達を諭せなかったのならば、それはそれで憤るが…もしも自分だけ安全な場所に隠れて子供達を戦わせる、などというタイプならば最低最悪だ。クレアでもそう思う。軍人であること自体罪と言っても良いし、全世界の軍人の面汚しでもある。
そういえば……エリア11を脱出した日本軍人にとんでもない悪党がいたわね。
日本独立を謳いながら、租界の若い女性や子供ばかりを狙った挙げ句に『日本解放戦線』から追放され、駆け込んだ日本軍人組織の足を引っ張って、更にはゲットーの住民からも子供を攫っているようなやつ。被害にあったゲットーの住民の中には、そいつらへの復讐のために軍に志願した者や、ゼロより優先して殺してほしいと申し立てまであった。
政治的に見れば、生かしておいた方が恭順派をなびかせるのに使えるが、やはりそれも限度がある。何より『日本解放戦線』が持て余して追放するほどだ……軍人として最低限のモラルがあるようには思えない。そのくせ、ブリタニア人排斥が主目的故に分かりやすいのか、ホテルジャックの過激派より質が悪くシンパがいる。
これ以上生かしておけば、本当にゲットーの子供達を思想教育したカミカゼ組織なんてものをつくられかねない。
その男……行村鷹一の被害者がライルの部下にいると、この時のクレアは知る由もなかった。
前線司令部となっている陸上艦の士官室……そこのベッドで行村鷹一は調達した女達を堪能していた。これから戦いに出向く勇士の嗜みであった。豊満な果実を持ったルーマニアの女を突き上げながら、両手でフランス人と日本人の女を可愛がり、イギリスの女が膝枕をしながらその大きな果実を提供していた。
部下達にもそうした女達を振る舞い、同じくイタリアの正規軍や外人部隊の将兵達にも忘れない自分が名将中の名将だと行村は自負していた。そう、藤堂や池田、海棠などという三流などとは違う。自分こそが真の名将だ。
真の名将に敗北はない。いかなる状況下にあっても、生き残ること。それこそが真の名将たる所以だ。そして、真の名将の出番は今ではない。
藤堂など、『厳島の奇跡』などともてはやされるまぐれで勝っただけ。自分ならば、それを十や二十引き起こせる。池田などはホッカイドウで『洗脳皇子』や『偽善皇子』などと呼ばれるあの小僧にも勝てなかったではないか。海棠など論外。
そう、今回もそのための前座。どうせ死ぬのは海棠のような能無し共。私は後方で高みの見物をして、本当の出番が来た時に戦うべきなのだ。
池田は座禅を組んでいた。彼なりの精神統一だ。物珍しさで茶々を入れてくる者もいたが、少なくとも池田が共に戦ったE.U.軍人達にはもうそういう人間はいなかった。むしろ……
「ったく、お偉方のボンボン共もあれの半分くらい真面目にやってくれればいいのに。」
「俺達も人のこと言えないけどよ、グランビル堕ちてやっとやる気出してるんだから。」
嫌でも、自分達の怠慢を思い知らされた将兵達は今更ながらに自分達の使う銃やKMFの調整に気合を入れていた。今からでもやる気を出した彼らは相対的にはマシだが、未だに自分達は絶対に助かると安心しきっている将兵達はKMFや戦車の調整も最低限のことしかせず、駐屯部になる都市…トゥールーズに出ていた。ル・マン方面の軍もあの様子だろう。
負けが決まっているゲームだな……我々外人部隊が皇族の一人を討ち取ったとて、ぬるま湯を余計にぬるくするだけだろうな。
一年間、E.U.にいたことで池田は嫌でも思い知らされた。この共和国の惰弱を……ガス抜きのために日本人隔離政策を打ち出したが、既に意味をなさなくなっている権力アピールを続け、市民もそれを鵜呑みにしている。
いや…日本は日本で末期症状だったのか?
あの頃、すぐ隣が中華連邦でE.U.とは貿易パートナーだった。ブリタニアを牽制できる大国二つと近い間柄であるという政府のプロパガンダ……その立地条件……世界最大のサクラダイト産出国……それらが日本人の思想を根本的に狂わせたのかもしれない。
池田も少なからず、日本が誇る技術と優位性を信じていた。だが、それはあの戦争で完膚なきまでに破壊された。そして、未だそれにしがみつく人々が縋るのがリフレインだ。
仮に、私がホッカイドウでライル・フェ・ブリタニアを討ち取れたとしても果たしてプラスになっただろうか?いや、逆効果かもしれぬ。
仮にその戦果をアピールできても、池田達は真っ先に集中砲火で殺される。池田がブリタニアの人間でもそうするし、日本人への弾圧をおこなう。分かっていて、挑んだことくらいは自覚している。
それで生き延びたとして、日本人がブリタニア人より優れている……とは思わない。
日本人はあの敗戦で止まってしまっている。現に…藤堂中佐の奇跡や枢木スザク…畑方秀作のブランドに未だしがみついている。
藤堂は無理からぬことだとしても、あの二人の少年は直接会ったわけではない池田でも、これだけは言える。
小学生に何を期待し、何を押し付けているのだろう。
日本人があの敗戦で止まっており、まだそのころのプロパガンダにしがみついて学んでいないのなら、最初は独立…今度は独立後の立て直し…あれやこれやと理由をつけて二人を未来永劫奴隷にする未来が池田の脳裏に浮かんだ。
そういう意味では、ブリタニアにいたほうが二人は少なくともまだマシなのでは?とさえ、思う時があった。ブリタニアも親のブランドで警戒するだろうが、二人ともブリタニアでは花形ともいえる『ラウンズ』と皇族の親衛隊。日本なら、後でそうしてやると言って縛り続けていただろう。
と言っても、こんな発想は部下達でも理解を示すのはわずかだ。海棠と彼の部下達は対照的にこうした発想への理解があった。むしろ、独立できてもそれならブリタニアより質が悪いとさえ海棠は言ってのけている。あのライルの名誉騎士団や名誉ブリタニア人全般についても海棠は理解があるどころか……
『イデオロギーで何でも解決する。なんて宣うなら、いっそなくなった方がすっきりするね。そんな国…』
軍人として異端どころではない発言だが、的を射ているというのが池田の見解だ。独立を勝ち取った場合、日本に必要なのは枢木スザクと畑方秀作、キョウトでもゼロでもない。彼と彼の子供達のような考えを持った日本人なのだろう。
切腹やカミカゼに陶酔して、他人にもそれを押し付ける日本人や親の血筋で『自分達に都合のいい責任』を作る輩などは死に絶えた方がマシだろう。そう、部下にさえそれに近いのがいる。
敗戦と反ブリタニアとしての日本人の停滞………それは池田自身にも気づかない教訓になっていた。
デルクは新型KMFの調整を行っていた。『w-ZERO』のアレクサンダにブリタニア系KMFのコクピットやフロートユニットが着けられている。メリサンド……フランスの伝承に出てくる女の姿をした怪物で、背中に竜の翼があるという。運用していた部隊のKMF隊の名称とフロートユニットからそう名付けられたのだろう。おまけにデルクの『ロンスヴォー』の部隊は『リンドヴルム隊』。同じく翼竜の名前だ。
オランダの外人部隊に回された本機はデルクが一番乗りこなせたので使ったが、実際に高性能だ。あのランスロットに対抗できるだけのスペックがある。『ナイトオブトゥエルブ』が無人機として運用された本機をブリタニア仕様にカスタマイズして、専用機にしているだけのことはある。
奇妙なものだ。ブリタニアに機体が奪われ、それを最強騎士の一人が専用機とした。片やブリタニアから来た技術者が本機を改造するとは。
KMFの総本山から見ても、本機は魅力的なのは分かる。だが、上の連中はこれさえも正規軍に回そうとしなかった。イレヴンが乗っていたから、等と下らない理由で使いたがらないバカ共が多いからだ。
結果としてデルクが乗ることとなり、ガタが来ていた鹵獲KMFから乗り換えることができた。
皮肉なものだな……あいつらの同国人が乗っていた機体に裏切った革命政府の軍人の俺が乗るとは。
だが、今オランダ外人部隊のエースとなっている彼女を死なせないためにはメリサンドもありがたいものだった。正規軍の連中に至っては、『ロンスヴォー』配属も自分に箔が着く程度の認識しかできていない。
親友達のルーツを占領したブリタニア……その親友達を死に追いやった革命政府………大元がブリタニアである、そう自分に言い聞かせることで手を下した日本人への憎悪も抑えられなくなりそうだった。
何もかもが憎い……そう思わずにいられなかった。
ライル達の任務はあくまでもシュナイゼルが攻め込むための陽動。ただし、シュナイゼル本人からは先に攻め込んでパリ攻略を勧めても構わないと言われている。
シルヴィオ、エルシリア、ライルはシュナイゼルの考えがつかめた。こちらが勢いに乗ってパリに攻め込んで勝てればよし。万が一に負けても、こちらの迎撃で敵は戦力のほとんどを使い切る。そうした事態を考えて、こちらに大きな戦力を回したのだろう。
セラフィナもエルシリアから説明を受けて、憤慨するがライルとシルヴィオが窘めることで納得。ルーカスには伝えていない。
言ったところで信じるわけないし、信じたら信じたで暴走する。だが、側近…より正確には実務のほぼ全てを取り仕切るマクスタインと彼に近い考えの騎士と幕僚には伝えている。
「あの人らしい作戦だ……」
「ねえ、つまりあたしらは死んでも困らないってこと?」
雛が不快感を露に問い、ゲイリーが応える。
「そうではない……シュナイゼル殿下は戦略目標のパリ攻略にいくつかの展開を考えておられるのだ。」
「しかも…私達はその筋書きの上でしか動けない。」
「………性格悪い。」
「顔はライル様ほどじゃないけどいいわね。でも、性格はヤダ。私達を買ったのがあの人じゃなくて良かった。」
「それは皇族批判だぞ。ライル殿下の後ろ盾でも相手が宰相閣下では庇いきれぬ。」
雛と優衣がシュナイゼルを批判し、幕僚達が窘める。
「イレヴンごときの戯言を天下の宰相様がいちいち怒ってたらキリがないでしょ。それとも、貴族相手に『宰相たる私を侮辱する者は全て死ね』、って今までやってたの?」
優衣が言い返し、幕僚達が黙る。実際、シュナイゼルの性格からして聞き流すだろうし、そうした話は聞いたことがない。しかも、的を射ている。ライルだって可能な限りそういう批判は聞き流すようにしている。
「まあ、兄様なら大丈夫だけど……ルーカスや第一皇女のギネヴィア、第五皇女のカリーヌはそうはいかない。あの三人なら、絶対に今ので君達を罰しているね。」
「う……気をつけます。」
「はいはい、雑談そこまで。作戦はおおよそ固まってるんでしょう?」
フェリクスが手を叩いて、話を戻す。
「ああ、急ごう。総司令官が遅刻なんてシャレにならない。」
司令官はライルに任命された。ルーカスは自分が指揮官でないことに文句を言って、ライル自身も首をかしげる。年上な分、経験はシルヴィオが一番上でエルシリアも指揮官としてはコーネリアを超えようと努力するだけあって高い。ライルとセラフィナはまだ発展途上だし、ルーカスも低い。あの二人のどちらかが司令官になるべきだ。
まさか、私かルーカスなら負けても有紗達を排除したがる貴族達にも口実を与える、なんて考えてないだろうな。いや、兄様ならあり得る。
「数の上ではこちらが上だからな。四方からの分散攻撃をする……良いか?」
シルヴィオの意見にライルは頷く。
「ええ、お願いします。」
だが、シルヴィオは同時にこの作戦の弱点を提示する。
「確かに多方向からの分散攻撃は戦術としても成り立つ。だが、各個撃破の可能性もある。」
各個撃破……ライルは少し考えると、理解できた。そうか………もしそれをする場合、ライルならば両端のどちらかを狙う。合流までの時間を稼げるし、隊列が縦になって逆に戦いにくくなる。
かといって、独立した軍隊である以上は混ぜても混乱が生じる。
「陣形を変えるのはどうですか?」
エルシリアがパネルを操作し、ライルの四方向からの隊列とは違う陣形にする。陣形はライルの部隊を後ろに下げ、中央をルーカス。左右にエルシリアとシルヴィオの軍が展開する構図だ。
各個撃破と混戦に持ち込まれるリスクは相変わらずはらんでいるが、これはどちらかと言えば防御向きの陣形だ。相手が攻めに転じても包囲しやすい。
「我慢比べですよ…ルーカスが守るとは限りません。」
「織り込み済みですな?」
マクスタインと『ウリエル騎士団』のクルークハルトが問い、エルシリアがうなずく。
「ああ、総司令官のライルが後ろなのは戦術上当然だ。文句はないだろう?」
「…これで『フォーリン・ナイツ』を盾によこせなんて言ったら問答無用で却下です。」
「私はお前が想像するようなことはしない。」
「ああ…ルーカスと同類にするな。」
「……失礼しました。」
「もしかして姉さん……あの人が勝手なことをするのも織り込み済み?」
「我々の前でよく言えますね。…とはいえ、私も同意見ですが。」
マクスタインがあっさりと認めるあたり、ルーカスが勝手なことをするのは明白のようだ。
「…つまり、相手が先に手を出してくれば火力が高いルーカスの軍で攻撃させ、私達で包囲殲滅。先行した場合は包囲してきた敵を更に包囲して疑似的な挟み撃ち、混戦を作り出すのが目的ですか?」
「ああ……連中にも真面目に働いてもらう。」
エルシリアが強い怒気を放つのが分かった。彼女も常日頃、ルーカス達のやりようには憤りを抱いている。何せ、やることは敗残兵の追撃や小規模部隊への攻撃。勝って当たり前の戦いしかしようとしないのだ。しかも、それさえほとんど平民出身者か下級貴族にやらせている。おまけに最近は一般人からの略奪も頻繁に行っており、奴の下で甘い汁を吸いたい貴族以外の本国からの評判は最悪だ。
軍上層の中には、まともにやるだけライルの名誉騎士団の方がマシだとさえ言う始末だ。
「個人的感情が入っているぞ。だが、奴の軍は火力に集中している。先制攻撃をする上では最適だ。」
シルヴィオとエルシリアの軍にも砲撃部隊はいるが、それでもKMF同士の近接戦闘が重視され、ライル軍は鹵獲機などの運用で戦術の幅が広い分、特化型とは言えない。そういう意味では、カンタベリーを何機も持っているルーカス軍は最適だろう。
「承知いたしました……」
しかし、こんな大事な会議に自分から出てこないとは。大方…
ルーカスは子爵家の娘の突きながら、右手で『ユーロ・ブリタニア』の男爵家の娘の華を、左手でポルトガルの女の豊かな果実を堪能していた。
「作戦会議はマクスタインに任せてある。お前達は、俺様の出陣のための下準備をするんだよ。」
「は、はぃ…」
この後にリーリャとフィリアもいる。まあ、この二人以外はあのフランスの女といつぞやのツーフォーが手に入れば用済みだ。
全く、作戦会議などというものに自分から出向くなど。総司令官の自分はそんなことよりも出撃前の準備の方が大事なのだから。全て部下に任せればよいのだ。
自分は何もしなくてもいい。幼いころから、そう教えられたしルーカス自身もそう考えていた。
シュナイゼルでさえ、自分でやっていることが多い。全く、宰相のくせに理解に苦しむ。大体、首都圏防衛などというハリボテ部隊なんぞに恐れをなす小心者ごときが宰相であること自体おかしい。
皇帝になった暁には、奴も始末しよう。エルシリアとセラフィナは子飼いの貴族共と結婚させ、オデュッセウスは不要だ。シルヴィオはあのお気に入りの女を手に入れるために処刑し、ライルも共に真っ先に処刑する。田舎の子爵家の分際で、また国内で株を上げつつある。伯爵家の俺様より上だ。
そうさ、全てがこの俺様のために存在するのだからな。
何も知らないカミラはマクスタインが側付きにした女達に付き添われて、メカニックにアイスティーを持ってきていた。
「はい。」
「……全く、お前がある意味俺達には癒しだよ。」
「いやし?」
「近くにいると安心するってことだ……」
よくわからないが、つまり戦争をしているこの人達の役に立っているということか?
「カミラ。」
「あ、おじさんおかえり。」
マクスタインを見つけ、カミラは紙コップのアイスティーを出した。
「はい。皇子様達との話し合いすんだの?」
「ああ、それでお前とそこのお姉さん達に話があるんだ。」
ヴァルター・E・クルークハルトもマクスタインに呼ばれ、話を聞いた。
「承知いたしました。そういうわけだ。良いな。」
「クルークハルト様、でも…」
「お前達は元々民間人だ……後方のライル殿下の御座艦に前もって移ってもらったほうが我々も気が楽だ。」
「おじさんは一緒に行かないの?」
カミラがマクスタインの裾を引き、見上げる。それをマクスタインが頭をやさしくなでて、言い聞かせる。
「私は前に行く兵隊の人達に色々と教えなきゃいけないことが多い。学校の先生や学級委員よりもっと大変なことなんだ。分かるな?」
「…うん。」
「いい返事だ……ライル殿下は私より優しい人だ。そこの人達の言うことを、よく聞くんだぞ?」
「はい。」
カミラが返事をして、移る準備に取り掛かる。
「……平民に対して、歯牙にもかけてないという評判の貴方とは思えませんね。」
「そうか………確かに、あの子が来てから少し変わったかもしれない。」
なるほど……確かに、人によってはあれが原因で自分を見つめ直すということか。もしかしたら、ルーカス軍の少数派はそういう手合いもいるのかもしれない。
「他の者達もエルシリア殿下とシルヴィオ殿下が引き受けてくださった。だからこそ、我々は思い切りやれる。」
「……あの連中にその気があれば、ですよね?」
「水を差すな。」
マクスタインから頼まれたのは、自分や元『ウリエル騎士団』の騎士をはじめ、所謂ルーカス軍の少数派のお気に入りの女達を万が一に備えて、預かってほしいとのことだった。
ルーカスお抱えの女達、ということでライルは最初戸惑った。この程度、奸計だと思うわけがないしライルもなるとは思っていない。だが、マクスタインが抱える女の中に幼い子供がいると聞き、流石にそれは首を縦に振るしかなかった。まして、親に捨てられて従軍慰安婦にさせられたところをマクスタインが保護者を買って出たとのこと。
「遺言状で、この子に財産の一部を残す旨まで記している。」
その額もすさまじく大学卒業までは知人の貴族に後見人を務めてもらう話までつけていた。そして、その財産はその少女…カミラの養育費以外には使用を認めないとまで。
「平民に風当たりの強い男だったのに、この子が変えたのかな?」
「だとしても、ここまでされては断れませんよ。」
フェリクスの進言通りだ。それに考えようによっては、ルーカス軍の少数派には大貴族もいる。そちらに借りを作るという意味ではマシだろう。実際、彼らの女達は丁重に扱われるまたは本気になっている者もいる。
「貧乏くじと言えば、貧乏くじな気もするが。」
まあ、奴の毒牙にかかってない女性を守るという意味ではやる意味がある。
行村はまさに『ダイの大冒険』でいえばザボエラみたいなやつです。ゼロが成功すれば、わめきたててゼロの日本解放を横取りすること確実です。まあ、ゼロがこんなのに後れを取るとは思えませんが。
そして、クルークハルトとマクスタインしか出てませんが、ルーカス軍の少数派は苦労させられています。