この後、ハーレムのメンバーやライルの協力者も次の機会です。
パリのベルサイユ宮殿……フランスが世界に誇る重要文化財にして、かつての王朝の中枢だった宮殿。現在、そこはブリタニアとフランスの講和の祝賀会が催されていた。出席者の中には、これが事実上の敗戦であることを理解していたが、その大半は油断しきっていた。元が同じルーツで、家の権力や財力をもってブリタニアでの地位、あわよくば爵位を賜るべく自分の子供を結婚させようと企む資産家や政治家もいた。
良二は武石財閥からの連絡を受け、うんざりしていた。しかも、政庁にいる内政省経由で武石財閥代表という肩書まで頂戴していた。それをゲイリーに打ち明けると……
「気持ちは分かるが、出席しろ。少なくとも、収容所にいる会社員達のために。」
「それでなら、何とか出られますよ……実際、植民地政策協力のパーティーに出ることもあるから、何着かスーツを持ってきているし。」
言った通り、何度かパーティーに出ており…流石に植民地政策の財閥子息ともなれば、相手もやたらと高圧的に出ないことが多い。いや、イレヴンごとき御しやすいと内心で思っているのだろう……
「はぁ……これが『ラウンズ』のスザクならもっと酷い目に遭っているのだろうな。何しろ、宰相閣下肝いりの貴族が後見人だし。」
ゲイリーが良二よりさらに深いため息をつく。
「お前と言い、殿下といい、ここまでパーティー嫌いな若者も珍しい。」
「見え透いた嘘でご機嫌とられて、いい気分のする人はいません。」
バルディーニはテーブルを叩いた。『ロンスヴォー』の隊員達に政府から通達が送られ、クラリスはパーティーへの出席が命じられた。フランス軍の幹部達もブリタニア軍での地位を確立するために必死だ。ここまではいい、クラリスにしても父の立場上無理からぬことだ。
「ここまで愚かなことをするとは!」
『ロンスヴォー』も含め、外人部隊や一般層の隊員たちがいつの間にか軍籍を抹消されていた。用無しということだ。そして、オランダの美奈川浅海をはじめ若い女達は………
「軍籍の回復は?」
「試みておりますが、まだ時間がかかりそうです。」
貢ぎ物に若い女……昔からよくある手だ。しかし、実際に部下達にそれが及ぶのも見るのもバルディーニにとっては不愉快だ。しかも、フランスどころか他の国の一般市民やイレヴンまで毒牙にさらされている。
「何故、この半分でも国防に努力を回さないのだ!!」
自分達だけが得をすることにだけは敏感で、それ以外には全くの無関心。『方舟の船団』であれだけ痛い目に遭っても、全く学習にすらなっていないとは。この分では本当にブリタニアが爵位をちらつかせてきたら、資産家や腐敗した軍上層、政府官僚はあっさりと寝返るかもしれない。
ベルサイユ宮殿では、フランスだけでなく先立ってエリア化したスペインを始めとした各国の要人達も出席しており、彼らはフランスの要人達を取り込んでリードをしたいのだろう。
そこにはエリア11で文官を務めるバルテリンク男爵も出席し、12歳の娘ユリアナを連れてきていた。それだけでなく……
スーツを着たイレヴンの少年がイレヴンとブリタニア人の将兵を連れて入場する。
「武石財閥というと…もしや。」
「ああ、あの売国企業の……」
「息子を使って、皇族に取り入る等下品なこと。」
「いや、枢木スザクの友人らしい。」
案の定で、良二はもう怒る気も失せていた。いきなりフランス企業の要人が声をかけてきた。
「武石財閥にはお世話になっておりました。」
「社員の方々を隔離されたこと、今更ながら残念に思います。」
嘘つけ……だったら、債務はくれてやるから今からでも社員とその家族の財産凍結を解除してエリア11に帰せ。
「武石君は『ナイトオブセブン』と友誼があると聞いたが、本当かね?」
貴族の一人が声をかけてきた。誰だかは分からないが、スザク経由で後見人のロイド・アスプルンド、より正確にはシュナイゼルとパイプを持ちたいのは分かる。
「…ええ、と言ってもブリタニアでは汚点でしょう。私も彼もあの『奇跡の藤堂』の教え子ですから。」
「いや、エリア11で最重要手配されている彼の薫陶であればブリタニアでも躍進はできるだろう。」
なら、少しは俺とスザクを優遇してくれ。そうすれば、ウチの会社をもっと繋ぎ止められただろうが。
良二も軍で冷遇され、イレヴンという理由で色々と言われてきた。今更掌を返したところで、遅い。実際にライルのおかげで助かっている良二にしてみれば、只の猿真似で表面さえまともに真似できないことと断言できる。
ライルは普段の軍服より着飾った礼装をまとった。そして、婚約者候補のサラ・クラウザーが既に合流し、今回はエスコートを務めることになった。
「君かティーナだったら安全だね。」
「ええ、私もライル様なら安心できます。」
「神聖ブリタニア帝国、シルヴィオ・ロ・ブリタニア皇子殿下の御入場です。」
シルヴィオはパーティー用のローブをまとって入場し、エスコートする女性は普段はメイドとして使えるミルカ・M・レッドフォードだ。
「シルヴィオ殿下、お噂は聞いていたけど素敵な方ね。」
「一緒にお連れしている方は?」
「十歳の頃から、メイドを務めている貴族令嬢だそうだ。」
「まあ、お熱いのね。」
いくらメイドと言っても、元の生まれは貴族で十年もの付き合いともなれば周りは文句を言うのを避けていた。そもそも、ミルカと今の関係に至るまで多くの女性と交際したが長続きしなかった。武術に対するシルヴィオの姿勢への理解せずに彼の日本剣術への愚弄、あるいは木宮への侮辱がその理由だった。
「殿下、今更ですが私で?」
「本当に今更だぞ……お前一人でも私には十分なくらいだ。いずれ、他にも娶らなくてはならないにしても一番はお前だ。」
「…はい。」
少しだけ顔を赤らめ、ミルカは入場していった。
後ろからは警護の木宮が入場すると…
「いやだわ、イレヴンごとき…」
「エリア11ができる前からシルヴィオ殿下にお仕えしていたらしい。」
「うまくとりいったものだな。」
聞こえているぞ……せめて私がいないところでやってほしいものだ。
ここで言ったところで逆効果だ。それに木宮はどこ吹く風という様子。流石だ…
追い出したいが……そんなことをしたらな。
エルシリアとセラフィナが入場し、エルシリアは側近のグラビーナが…セラフィナは幕僚のウィンスレットがエスコートし、後ろから秀作が着いてきている。
「またイレヴンがいるわよ。」
「口を慎め、第八皇子殿下の部下だ。」
「クレヴィング将軍が保護者をしておられるという、あの。」
「セラフィナ様にも目をかけられているそうだ。」
セラフィナは睨もうとしたが、ウィンスレットが窘めた。
「相手にされるだけ疲れます。自分で前線へ出る気概のない連中ですから。」
「ええ…」
そう、どうせ彼らは安全な場所でワインを片手に優雅な暮らししかしていない。内心ではコーネリアさえどう思っているか。
「神聖ブリタニア帝国第八皇子、ライル・フェ・ブリタニア様のご入場です。」
ライルは本国のサラ・クラウザーをエスコートしていた。サラは父の命令でこちらへ出席するように言われており、もっぱら婚約最有力候補と目される彼女を連れてきて、周りをけん制する意図もあった。
それらを抜きにしても、ライルはサラのことを好ましく思っており、政略でも彼女ならば良いと思っていた。何度か会っているし、もしも有紗より先に出会っていれば政略と気持ちの両立ができた。そんな想像さえしたことがある。
「クラウザー家の御息女と親しくされておられる噂は聞いていたけど…」
「ウィスティリア家やアルバートフ家の御息女とも会っておられるとか。」
「スレイター家の混ざりものやイレヴンよりはマシですわね。」
呆れてしまった……有紗や優衣との関係さえ気に入らないかと思えば、レイを侮辱している。だが、怒れば間違いなく有紗達が余計な火の粉をかぶるだろう。あの程度のさえずりは自分も我慢しよう。
ユリアナはライルを見つけ、あいさつにうかがった。
「ライル殿下、お久しぶりです。」
「ユリアナも、元気そうだね。そして……お父上とちゃんとお会いするのは初めてでしたね。」
「こちらこそ、エリア11ではユリアナとリュウタがお世話になりました。」
父のバルテリンク子爵は左足が義足だというが、サイバネティックスで義足というのを感じさせない足取りだ。最も、本人はこれを皮切りに騎士を引退して文官の道を歩んだが……
「リュウタは留守番ですか?」
「ええ、いくら私の養子でもあの子は名誉ブリタニア人ですから。」
そもそも、あの歳で名誉ブリタニア人というのは無理があるが…そこはバルテリンク男爵が養子にしたことによる特例だろう。
「フランスのお菓子とかジュースを買って帰るから、と言って納得してくれました。殿下にお会いしたことも良い土産話になります。」
「そうですか、それは良かった。」
が、ユリアナは悪戯っぽく笑う。
「でも、あの子のことだから殿下と一緒にパリを歩きたいって、文句を言うかもしれませんね。あの子、殿下に懐いていますから。」
「子供に懐かれるのは、悪い気分ではありませんね。」
ライルがユリアナと話している様子を見て、一部の資産家や貴族はライルがあの年ごろの子供も守備範囲、と勘違いしていたが…注意深く見ている貴族は、ただ令嬢の方がライルに懐いていると分析していた。
ウェルナー・レイ・ブリタニアは外国のパーティーを見学するという名目でやって来ていた。最も、パーティーの回数は少ない上に身体が弱いために護衛に雛が付き添っていた。
身体が弱いという情報が流れていたのか、病院経営の資産家がウェルナーに言い寄っていた。
「殿下の母君は病院を経営なさっているそうですね。」
「は、はい…」
愛想よく答えるのも一苦労だ。
「植民地政策の折には、ぜひ母君に口添えをしていただきたいのですが…」
「いえ、それよりも殿下。私の娘をご紹介いたします。医学生なのですが、殿下のお身体のケアを…」
ライルよりとりつきやすいと思っているのか、どんどん増えて少し怖くなってきたところで雛が間に入った。
「申し訳ございませんが、殿下は少し人に酔ってしまわれたようです。お話はまた後程。」
「あ、さ、さようですか。」
「さあ、殿下。」
雛が背中を支える形で誘導して去っていく。
「イレヴンのくせに…」
「私達、元貴族家系の資産家こそが相応しいのではありませんか?」
ウェルナーは少しだけ聞こえ、疑念を抱いてしまった。
和平したと言っても、彼らの祖先は革命に賛同したはず。なのに、祖先が追放した王侯貴族のご機嫌取りをしている。何のために、革命を起こしたんだろう?しかも…
「あの人達、雛のこと…」
「言わせときゃいいのよ……皇族の護衛をただのトロフィーとしか認識できてないの。」
「ベルサイユ宮殿でパーティー、か。流石皇子様。」
「私達みたいなのが出られるわけがないでしょ。父さんたちが生きていた頃なら、皇コンツェルンの債務どうこうで可能性あったけど。」
「うぇ、それだとデブのおっさんが言い寄ってきそうでヤダ。」
「まあね……自分で何かやったわけでもないのに、銀行の頭取とか財閥の支社長とかって自慢してくるドラ息子が群がってきそう。」
優衣と涼子は艦で待機して愚痴をこぼしながら、講和条件として戻る捕虜のチェックやKMFの調整を行っていた。
「お疲れ様。」
有紗がアイスコーヒーを持ってきた。涼子がガムシロップを入れて、有紗に聞く。
「ありがとう。貴女は、一緒に行かなくてよかったの?」
「私はメイドよ?シルヴィオ殿下のところのミルカさんのようにはいかないから。」
「…それもそうね。秀作はセラフィナ様の警護、クレヴィング将軍も護衛、レイは家の都合、クリスタルも同じく。長野隊長まで、エリア11の協力者の名代を頼まれて、雛まで護衛を頼まれてるし。」
優衣は出席している面々の名前を出していたが……
「はあ、中華連邦の時のように観光させてくれるのかしら?」
「だとしても、私達のガードつきよ。」
『ユーロ・ブリタニア』の二人、テレサとマルセルがやってきた。
「俺の国のロシアでも、モスクワに造られたゲットーで日本人を収容していた。お前達だけでうろついたら、現地の警察がお前達を逮捕するだろう。いや、やつらのことだから…」
「その先は言わないで。」
涼子がマルセルの言葉を遮るが……
「はあ、敵国と同じことをして、まだ続けるなんて……素人の私から見てもないわ。」
涼子の意見には有紗や優衣も同じだった。既に敵性外国人を隔離するという政策は意味をなさなくなっているのに、いまだに収容し続ける。あの様子では、今後も続けるだろう。フランス人達のブリタニアへのガス抜きのために。だが、それが爆発したらどうなるか。有紗がその疑問を口にする。
「これでもし、ゼロが日本を独立させたらどうなるのかしら?」
「収容所のイレヴンが暴れだし、鎮圧に出るでしょうね。抑えきれなければ、フランスの協力者はブリタニアに文句を言うでしょう。」
「…それ、自分達の政府がやったのを棚に上げてるだけじゃない。」
テレサの答えに優衣が更に身も蓋もない意見を述べるが、その通りだ。それで斬り返されたら勝ち目はない。
結局、債務の踏み倒しなどという目先の果実に目が眩んだ時点ですでに間違えていたのだろう。
「私達の祖先を追い出して手に入れた自由と平等の精神はどこに行ったのかしら?」
テレサの疑念に応えるものはいなかった。
皇族達は早速、資産家や本国、少数ながらかつてのコネで参加できる『ユーロ・ブリタニア』の貴族に囲まれていた。
『ユーロ・ブリタニア』の貴族達も、少しでも本命のE.U.に対する影響力を得ようと皇族と接点を得ようとする、或いは本国への転籍を考えるものもいるようだ。
それがヴェランス大公の指示か、それとも独断であるかは測れない。
その中で、一人の令嬢がライルの前に現れた。やや赤色を帯びた黒髪のショートヘアの美女だ。身体も豊満で、男達の視線を引き付ける。心なしか、顔立ちがハーフのレイに近い。
「ライル・フェ・ブリタニア殿下でいらっしゃいますね。」
「ええ、貴女は?」
「私はリーザ・フォン・ノイエンドルフ……『ユーロ・ブリタニア』の子爵家の娘です。」
『ユーロ・ブリタニア』の…ノイエンドルフという名前は聞いたことがないが……
「兄は『ラファエル騎士団』に所属していたのですが、『ミカエル騎士団』の事件で…」
なるほど…跡取りが死んでしまった上に本国に戦争の主導権を奪われてしまった以上、娘を皇族や本国の有力貴族と結婚させることでしか、家の存続ができないということか。
「あの…家柄では騎士の方やそちらのクラウザー家の御息女には劣りますが……どうでしょうか?」
「……イレヴンごとき、目ではない。が抜けているようですが?」
少し鎌をかけてみた。大方眼中にない、と言った方が良いのだろう。
「え?…あ、そ、その……私以外にノイエンドルフ子爵家には子供がいなくて、父も母も必死なのです。事業は安定しているのですが、安心したいようなので。」
要するに、息子が死んで両親が心労になりかけているから安心させたい、ということか。それなら、この国にだって優良物件はいるではないか。
「なぜ、私?異端児で、昨年あれだけ手痛い失敗をした私を。」
「あ、それが……サラ・クラウザー様のお耳にも入れるのはちょっと…」
今までの令嬢とは毛色が違う。サラやティーナのようなタイプのようだが、果たして……
「良いですよ…サラ、少し外れる。」
「はい。」
リーザと少し離れ、壁際でグラスを手に話を再開する。
「私は…日本とブリタニアのクォーターなのです。」
何?今、なんと言った?クォーター?
「日本人の祖母がブリタニアに留学していた時に、知り合った祖父と結婚したんです。だから、父はハーフなんです。昔の名前はリーザ・スズカ・フォン・ノイエンドルフ。」
リーザは優しかった祖父母と過ごした日々を今でもよく思い出す。祖母は戦争前に亡くなり、元々日本人と結婚したことで問題視された祖父は戦後に後ろ指をさされ、その矛先は父や子供達にも向けられた。母の親戚筋は別れるようにすすめたが、元々見合いから始まった恋愛結婚だという。
『ハーフと分かって結婚したのに、ルーツがエリア化した途端に別れるなど貴族の妻として愚劣。まして自分達が持ち掛けた結婚ならばなおのこと。』という母の意見に押し切られ、母の親戚筋も子供達が祖母の姓を表立って使わないという条件で妥協した。
それ以来、ノイエンドルフ家は勢いが衰えていた。兄はその躍進のために軍人になり、『四大騎士団』の一つに認められるほどの成果を挙げた。両親もその勢いで、娘のリーザを既に婚約しているとはいえイレヴンでありながらシャイング家の当主が内定したシン・ヒュウガ・シャイングの側室にしようという考えもあった。が、あの事件で全て水の泡。
跡取り息子が死んだ今、娘に後継者を産んでもらうしかなかった。が、クォーターの上に中規模レベルの企業の子爵家などもらってくれる貴族など中々いない。
ならば、と『ナンバーズの英雄』とも称される枢木スザク、またはナンバーズ採用に積極的なライル・フェ・ブリタニアに白羽の矢を立てた。四分の一とはいえ同国人のスザクに、イレヴンのハーフを騎士にしているライルを選んだのは親なりの配慮なのは分かる。
少なくとも、純血でないという理由で嫌がらせをされることはないと考えたのだろう。
「………イレヴンまみれなんてごめんだ、か。私の騎士と同じだね。」
「え?」
横顔を見て、何か……怒りのようなものを抱いているような気がした。リーザは、なぜかその表情から目を背けられなかった。
やがて、シュナイゼルが到着して会場は最高潮になろうとしていた時……会場がどよめいた。それは、シュナイゼル入場時以上で感嘆の声が多かった。
入ってきたのは二人の美女。長い金髪を上げた、豊満なプロポーションの美女。並の女優やモデルなど、出来の悪い人体模型などと卑下されそうなほどに整っており、もう一人は銀髪の美女だ。金髪の美女に勝るとも劣らない豊満な肢体で、最高級のグラビアアイドルと言われても十人中十人が納得しそうだ。
正に女神と言わんばかりの美貌…男達は情欲を掻き立てられ、女達は嫉妬に駆り立てられた。それを収めるように…
「これはこれは…ピエルス将軍の御息女にスペインのトップダンサーのお嬢さん。」
群がりそうになった男達より先にシュナイゼルが歩み出て、両者の手を取る。
「シュナイゼル・エル・ブリタニアです。あなた方ほど美しい女性にお会いするのは私も初めてですよ。」
「クラリス・ドゥ・ピエルスです。宰相閣下からお褒めいただき、光栄です。」
流石はシュナイゼル兄様……あそこで群がったら、二人とも逃げていただろうな。私でも逃げる。
「エリア24ではお会いしていませんでしたね。」
「はい、エレーナ・ガルデニアです。機会がおありなら、ぜひエリア24へお越しください。弟達とのダンスを殿下にご披露いたします。」
「それは楽しみですね……本国にもあなた方のファンはおります。ぜひとも、今後の我が国との橋渡しになっていただきたいところです。」
流石はシュナイゼル…見事な話術で今後のことまで交えている。
「ところで、エレーナさん。あちらには我が弟がおられます。先日、お会いしたそうですが?」
「あ…ありがとうございます、シュナイゼル殿下。」
エレーナは足早にライルの元へ行くが、逆にクラリスは…
「シュナイゼル殿下、どうでしょう。後日娘と食事でも…」
「いや、ピエルス将軍ぜひとも息子にご息女の紹介を。」
「実は…婚約を解消されておりまして。」
我先にクラリスを、と群がる男達に囲まれてしまった。今この場で一番安全そうなシュナイゼルも取り入る資産家や結婚しようとする令嬢に囲まれている。
「あ、申し訳ございません。ちょっと…会いたい人がいるので。」
何とか断り、彼女と同じ方向へ向かう。
「ライル様、お久しぶりです。」
「まさか君まで来るとは…政庁がよく許可を出したものだね。」
いくら協力しているとはいえ、エリア間の渡航さえ認められないナンバーズが外国へ来るのを誰が認めたのやら。
「はい……フランス政府からどうしてもと本国経由で政庁に打診があったそうなんです。」
それはいくらマリーベルでも断れない。断れば、自分だって何を言われるか。
しかし、ドレスはまた扇情的で豊かな胸を強調したようなデザインでわざわざへそまでスリットが入るデザインだ。ストールがあっても娼婦だと思われかねないのに、様になるのは凄い。
「それで、弟達は?」
「ステージの打ち合わせで留守番、です。」
「そうか…会いたかったな。」
そこへ、他の資産家たちの相手をしていたサラがやってきた。
「ライル様、そちらは?」
「あ、こちらはエリア24のエレーナ・ガルデニアさん…エリア政策に協力されているお方の御息女だよ。エレーナ、こちらサラ・クラウザー…伯爵家の御息女だ。」
「初めまして…サラ・クラウザーです。」
「こちらこそ、エレーナ・ガルデニアです。」
「…エレーナさん、失礼ですがライル様とはどういう御関係で?」
「え?」
エレーナが突然固まったところで…
「ライル殿下。」
今度はリーザがやってきた。
「あ…」
「さっきの……」
そこへさらに
「失礼、ご歓談中のところによろしいでしょうか?」
金髪の女性がやってきた。先ほど一緒に入場したクラリス・ドゥ・ピエルスだ。
「初めまして、ライル・フェ・ブリタニア殿下。」
「こちらこそ…クラリス・ドゥ・ピエルスさん……」
まさか、こんな形で早く直接会うことになるとは思わなかった。
レイはその様子を見て、少し不快だった。あれほどの美女が四人もライルに近づいている。家柄だけで言えば、レイも負けてないだろうが……いや、自分は騎士として戦場でも彼の力になっている自負はある。
私、こんなに嫉妬深い女だったんだ。
容姿にだって多少なりと自信はある。だが、あれほどの美女が相手では多少の自信は吹き飛んでしまう。
「しかし、隅に置けませんね。あれほどの美人に囲まれるとは。」
警護のフェリクスが半ば呆れるか、驚嘆していた。
「今更ですけど……士官学校も中々にモテていましたから。」
「まあ、大半が地位目当てだったしジュリア以外眼中になかったからね。」
クリスタルも出席していたが、令嬢に言い寄られる主君に同情していた。最近はクリスタル自身や有紗との仲で減ったと思ったらそうでもなかった。
親が百人も娶っているから、息子の方もと思っているのでしょうね。
皇族ならやむを得ないが、その中に一人か二人自分で見初めた相手がいないともたないだろう。だから、個人的な交流を除いてもクリスタルは有紗や優衣との仲を邪魔しなかった。したらしたで、どうなるか分かっているからだ。
家柄で威張る人は分からないのでしょうね。
ゲイリーは離れた場所で秀作をちらりと見た。本人は警護役だと丁重に断ろうとしているが、やはりゲイリーが保護者をしているという事実が知られている上にセラフィナが目にかけているという事実から、群がっている者が多い。
少し、助けてやろう。
「畑方。」
「将軍…」
グラスを持ち換えて敬礼をしようとするが、手でそれを制する。そして、ちょうど同じく群がられているセラフィナを見て…
「セラフィナ様をバルコニーにお連れがてら、お前も少し休んで来い。」
「…いいのか?」
「お前が暴れるよりはいい。」
先立って入場していたルーカスはパーティーに参加していた令嬢を物色していた。流石にいい女がそろっている。と思われたら、どうやら『ユーロ・ブリタニア』の女とライルが会っているのを見つけた。どの程度の爵位かは知らんが、顔も身体も今手元にいる女達以上だ。かと思えば、先日のエリア24の女に一番目をつけていた女までライルに近づいている。
クラウザー家の令嬢も加えて、抜きん出た美女が四人も近くにいて他の女達は委縮しているのか声をかけられない。
おかしいではないか。この世は不平等、ならば伯爵家の母から皇帝になるべくして生まれたこのルーカス・ズ・ブリタニアにこそあれほどの美女は相応しい。
なのに、なぜ子爵家と言っても田舎貴族の奴に靡く。奴は俺より低い生まれ。ならば、その能力も低いのに、何故奴がコーネリアに次ぐ賞賛を得るのだ。そもそも、平民上がりの皇妃を認めるコーネリアだって俺より下なのに。不平等それ自体も狂っているではないか。
皇帝になった暁には、シュナイゼルもコーネリアもライルと一緒に排除し、あの上玉の女共も全てこの俺にすることで正す。そう、正しい不平等を実現するのだ。
クラリスはライル・フェ・ブリタニアの顔を直接見て、感嘆していた。
確かに、画像と同じく顔立ちは整っている。礼装も着こなしているし、何よりも自分の地位を振りかざさない。子爵家の母を持つ、という点を試しに持ち上げてみると……
「子爵家と言っても、農場経営の田舎貴族ですよ。」
だが、表面上はそれを恥じる様子はない。むしろ、見た限りではそこに愛着があるように見えた。
「しかし、貴女はどうなのです?失礼ですが、貴女の祖先は…」
「…それは言わないでいただける?」
そう、革命に賛同して貴族を追放した。父は常にそれを自慢してきたが、今度はそれを逆に看板にした挙げ句に先祖の過ちを正そうなどと言ってきた。
どうしたら、ここまで180度変えられるのか。変わり身の早さだけならば、天才的だ。
「そうですか……しかし、田舎貴族の皇子にまで媚びを売るのも凄いものだ。よくも、祖先が追放した王侯貴族の末裔にへりくだれる。歴史は所詮、歴史ということか?」
「……それを言うと、むなしいものですね。現代を生きる人にとって、過去は所詮過去なのかしら?」
だが、それならば今ブリタニアの支配から逃れようと活動する人々はどうなのだろう?彼らは占領前に戻れると思っているのだろうか?そして、今ブリタニアに媚びを売る資産家は貴族に戻れると思っているのか?
過去があるから、今がある。とは言うが………過去を大事にするのと、それにしがみつくのは違うのではないだろうか?
と、演奏の曲が変わった。ダンスの時間だ。
「一曲、お願いできますか?」
クラリスが誘いをかけると……
「本当は、KMFの方がよかったのでは?」
「…本音はね。まあ、これでもダンスに自信はあるから。」
「では、振り回されないように気を付けるよ。」
エルシリアは警護として訪れたグラビーナと踊っていた。一番、無難だが心なしかグラビーナは舞い上がっている。
「流石は姫様…ダンスの腕も随一ですね。」
「煽てても、何も出ないぞ。」
「そ、そうですか……」
何故か今度は落胆していた。
ゲイリーはセラフィナに頼まれ、ダンスの相手をしていたが……
「畑方秀作でなくて残念でしたね。」
「ダンスの稽古はしてないのですか?」
「一応していますが…あれの場合、まず人並の情緒が問題ですから。日本時代、遊ぶことさえ満足にさせてもらえなかったから。まず、映画や散歩です。」
よく聞かされたことだ……軍人の勉強以外何もさせられなかったことで、復讐の元で日本人殺しそれ自体が遊びになってしまった。秀作が初めて自分で望んだ遊びがイレヴン殺し……本当に、日本人は自らを滅ぼす悪魔を育て上げてしまったのだ。
今は誕生日に買ってあげたバイクで軽く走る、映画鑑賞や買い物などをさせてあげている。未だ難航しているが、機会さえ設けられれば息子達も交えたかった。
ルーカスはライルが出会っていた『ユーロ・ブリタニア』の女に声をかけた。
「見れば見るほどに美しい…どうですかな?この後、私と…」
「い、いえ……父の事業の手伝いをしなければならないし、ヴェランス大公閣下のパイプも。」
「そのような些事は、誰かにやらせればよい。この私の誘いを断る方が…」
が、女は
「自分の家に伴う責任を果たさなければならないのです。あなたとて、それを自覚しているのでは?」
責任?何を言っているのだ。そんなもの果たしているではないか。だから、酒と女を大量に仕入れるのはその特権だ。
踊っている間も何度も口説こうとするが、女には逃げられてしまった。
「ち!」
皇族達はその後も何度か相手を変えて踊っていたが、同様にクラリス・ドゥ・ピエルスとエレーナ・ガルデニアは何度か踊った。しかし、当人達にとってはライルと踊っている時が最も心が躍っていた。
和睦の祝賀パーティー……ありそうですが、得をするのはやっぱり資産家達だけ。みんなげんなりしています。
分かっていても、ライルは内心で呆れています。それが社員や市民のためなら、侮蔑しないけど自分の利益しか頭にないのが丸わかりだから。
『ユーロ・ブリタニア』の愚かしい為政者を追放して導くという理念の方が立派に見える。