コードギアス 戦場のライル B2   作:meitoken

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ある種、ライルにとっての宿敵に引導を渡します。


BERSERK-46『バストアウト』

シェール・フェ・ブリタニアはテーブルを叩いた。

 

「えぇい、役立たずどもが!無能どもめ!」

 

あのイレヴンどもめ!息子に何か仕込んだな!?」

 

シェールは邪魔者を排除しようとしたが、農場は先手を打たれてしまった。カジノの方もライルが直接乗り込んで取り返された上にそこのマフィアまでボス諸共逮捕された。

 

だが、まだチャンスはある。全ては皇帝になるにふさわしいあの子のための親心。そうだ、そうして言い聞かせれば納得してあのイレヴン共を排除する。

 

それが私の息子に相応しい在り方なのだ。

 

「シェール様、ライル様からお話があるそうです。」

 

「…通しなさい。」

 

ライルは普段の礼装で入室した。

 

「ライル…」

 

「母上……攫われた部下達は全て救出に成功しました。」

 

「そうですか…」

 

シェールはできるだけ平静を装い、席に着くように促した。ライルはゆっくりと座るが、レディファーストと称して先に母を座らせる。

 

「……母上、実は今回の事件で不穏な噂を聞きつけたのです。」

 

「不穏な噂?」

 

「ええ…私の農場へ差し向けられた軍は、あそこが皇帝陛下弑逆を企てるテロリストが拠点としている、等と荒唐無稽な主張をしておりました。」

 

「それは……」

 

「そして、今回誘拐された私の部下達の件でもクラウザー家当主が首謀者の側近だったのです。」

 

クラウザー家の当主が?馬鹿な、何故?

 

「なぜ、それほどの家が?」

 

「娘のサラ・クラウザー嬢が偶然話を聞いて相談に来たのです。そして、事の真相を知って父の不正を次期当主として正そうと決意した次第です。」

 

娘が?何故?あのイレヴン共がいなくなれば、晴れて息子の第一皇妃になれるのに。

 

「皇族の部下への狼藉……私への狼藉同然とも取られる今回の暴挙は被害に遭った部下達への慰謝料、および私との婚約の話を白紙にする。それで手打ちです。」

 

「なんですって!?イレヴンごときのために何故彼女がそこまでせねばならないのですか!?」

 

「……彼女は枢木スザクとも交流がありました。そのつながりで有紗達ともよい関係でいたいと口にしていました。それに、何故貴女がそこまで感情的になるのですか?」

 

息子がこちらを疑うような眼をしてくる。何故、私をそんな目で? 

 

「…………私だって人の子です。親のことを信じたいし、そうであってほしくなかった。」

 

「……え?」

 

「……クラウザー卿達に土壇場で思いとどまったフィリドール卿をはじめ、彼らから証言を得たのです。今回の事件は全て、貴女が持ち掛けたものだと。」

 

 

 

母の顔が青ざめるのが分かった。既にフィリドール家をはじめ、直前で離反した貴族は領地や財産を没収されている。シェールに持ち掛けられた取引の資料も証拠として提出されているが、この女のことだから皇妃の権限で逃げようとすることは目に見えている。だから、まだこれでは足りないだろう。

 

「出鱈目よ!貴方は、母親よりあんな下級貴族共の言うことを信じるのですか!?あんな、卑しい成り上がりどもを!!」

 

「……私の祖父、貴女の実家のハウエルズ子爵家だって平民だった時代があったはずです。貴族は誰だって、最初は成り上がりではないでしょうか?」

 

どうも貴族達の多くはそれを忘れているような気がする。最初から貴族だった家など存在しない。いつ、どこかは異なるが祖先は平民だった時代があったはず。貴族としての開祖がそれを教え忘れたか、時の彼方に置き去りにされたか。おそらく大半は後者だろう。

 

「それで通ってきたんでしょうね……家柄を笠に着る暴論で。それで、私が騎士に選んだジュリア・ボネットの件……情報部に頼んで洗い直してもらったら、彼女が帰省する前日に不動産業者が来たんですよ。家の点検と称して……ところが、実際にその業者に問い合わせるとその予定表もなかった。会社に問い合わせても、その事実はなかった。」

 

母の顔がどんどん、青ざめていくのが分かる。

 

「それで、少し強引な手を使ったんです。情報部に無理をしてもらってその会社の職員達の口座、個人情報などの全てのデータベースにアクセスしたら、ある役員が軍人と貴族に大金を受け取ってデータを改ざんしていたんですよ。制服やトラック、名刺まで作ってもらって。そこから遡り、私自身も尋問してたどり着いたのが、貴女だったんです。」

 

「あ……だから何だと言うのです?貴女のためですよ?あんな小汚い小娘なんかより騎士に相応しいものは多くいる!」

 

「………たとえ、貴女が言うような高い爵位を持った貴族でも貴女自身が気に入らなければ殺すのでは?ジュリアのように、今回の有紗達のように……そして、私の農場を潰そうとしたように。」

 

「貴方の農場、貴方の部下、それらは全て私の物でもある。どうこうしようと私の自由ではないですか!?」

 

聞いていて、だんだんと腸が煮えくり返ってくる。ここまで我慢をしたのは初めてだ。

 

「…息子の所有物だとしても所有権は息子にあります。所有権を有する息子に無断で害するのは財産の侵害ではありませんか?」

 

「そんなものいらないわ!貴方の物だから、私の所有物!母親の私はどう扱ってもいいのです!!」

 

「つまり、私も貴女の所有物。貴女が皇太后になる道具というわけですか。」

 

「どこがおかしいのです?それが当然のこと!貴方は私の息子、だからあなたは皇帝になって、私を皇太后にする道具!!それが貴方の生きる意味!!それの何が悪いのです!?」

 

ライルはそこだけは違うと思いたかった。だが、ダメだった。

 

結局、この女は最初から僕の母親じゃなかったわけか。ライルは必死に堪え、再度問う。

 

「それが元は貴女の領地に住む民だったとしてもですか?」

 

「民?卑しい農民共など私の民に相応しくありません!あんな、後からいくらでも生え変わる雑草共など皇太后の私の元に勝手に集まるのですから!!!」

 

………この女は、まだライルが皇帝になったわけでもないのに、もう皇太后になった気でいる。が、そんなことよりも。

 

「本気でそう思っているのですか?誰もいなくなった土地で、貴女が号令をすればランプの精のように勝手に人々が出てくるとでも言うのですか?」

 

「私が命令すれば、そうなるのです!あんなみすぼらしい土地など、この私には相応しくない!だから、貴方に譲っても私が焼いていいのです!!」

 

もう、ダメだ……祖父母は間違いなく高潔な貴族だ。自分の領地と民に対して、責任を持っている。だからこそ、子爵という地位でも伯爵や侯爵と言った大貴族達の覚えもよい。だというのに、この女は宮廷の煌びやかな暮らししか見ていない。そのうち、適当な理由を着けて他の田舎貴族を殺すようなことをやりかねない。

 

何よりも……

 

「それらは全て自供ですね?」

 

「自供?百歩譲ってそうだとしても、貴方は所詮は私の息子!皇妃の私の権限の前では勝てないのですよ!!」

 

確かに、只ここで喚きたてたところで証拠をもみ消されるのがオチだ。しかし……

 

「では、これはどうでしょうか?」

 

持ってきていた端末を操作すると、そこには今会話をしている自分達の姿が映された。

 

「…………え?」

 

「実は、カメラを仕掛けたんですよ。ここには特に多く。そして、私が入った時からずっとこの様子は中継されていました。つまり、貴女が今保有する領地におじい様達、他の皇族達にもこの様子はすでにネットで拡散されている。実況生中継ですよ。」

 

「あ、そ、そんなはったりが!?」

 

「では、聞いてみますか?」

 

「え?あ…あ……!」

 

シェールの顔が青ざめていくのが分かる。陰湿な喜びが自分の中で渦巻くのが分かる。

 

「ゼロが中華連邦で大宦官を打倒するために使った作戦を真似たのですが、流石はゼロの作戦だ。効果は絶大ですね。」

 

「あ、貴方は皇族のくせに大罪人の手を使ったというのですか!?この親不孝者!!」

 

「大罪人でも、実際に作戦としては有効です。それに親不孝者と言いますが、息子が大事にしているものを断りもなく勝手に奪おうとした人に言われたくありません。」

 

「母親の私はそんな必要ないのです!!」

 

まだ、言っている。

 

「それと、この件はシュナイゼル兄様にも知れ渡っています。いくら私のやり方に否定的な貴族達でも、ここまで皇妃が大々的に自分の犯罪行為を自供してはもみ消せないでしょう。いくつかのメディアにもリークしたから。」

 

「な!?」

 

「……本当に、情報部や直属の部下達に随分と無理をさせた。」

 

母は青ざめている。が、ライルは冷徹に告げる。

 

「もう、貴女にベット出来るチップはありません。バストアウトです。」

 

「あ……ま、待ちなさいライル!あの娘達と貴方の仲を認めます!だから、この件は」

 

この期に及んで、そんな言い訳が通ると思っているのか?

 

ここまで見苦しいと、先ほどまで煮えたぎっていたバラバラに切り刻んでやりたいという衝動さえ失せてしまった。

 

「もう、遅いしそんな口先だけの約束なんて信用しない。ブリタニア皇妃シェール・フェ・ブリタニア様、貴女を皇族権限の逸脱、侵害、他皇族の領地への破壊未遂、民間人殺害、贈賄諸々の容疑で逮捕する。」

 

既に証拠はシュナイゼル以外の皇族や貴族にも提出し、今回の映像も拡散させた。言い訳はもうできない。

 

「シュナイゼル兄様やゼロであればもっとスマートに勝っていたのでしょうね。」

 

ライルの狙い通り、祖父母以外にも知人や軍、政府にも今回の映像をリークしたことで貴族達も重い腰を上げ、息子の領地に対する事実無根の罪状で軍派遣による虐殺未遂、独立した息子の軍や家臣達への誘拐、暗殺教唆に加えて協力した貴族も逮捕され、クラウザー家当主も娘の証言諸々で逮捕されてしまった。

 

結果、『ライルはお気に入りの女や贔屓にしている部下にちょっかいを出したことが気に入らない母親を失脚させた』と中傷する声もあるが、公には筋が通っている上に危うく自身の領地を焼かれるところだった。

 

更に、シェールのターゲットには下級貴族のホーネット兄弟はともかく大貴族の当主にして実質ナンバー2のゲイリー、更には植民地政策協力者から正式に派遣されている長野まで含まれていた。

 

ここまでされてはバッシング記事が逆にバッシングされかねないほどにライルに有利な条件がそろっていた。

 

加えて、昨年の事件で死亡したエクトル・バルテレミーの父がライルの擁護に回った。シェールがエクトルを侮辱したという証言もあったことで一応の落ち着きが出た。

 

 

 

シェールは皇族権限の全てを停止、ブリタニア宮内の塔に幽閉されることとなった。ライル自身は処刑か終身刑を求めた。だが、つい先日ユーフェミアが処刑されたということになっている。内外に動揺が広がるために、塔に未来永劫幽閉される処分が下された。

 

それに伴い、シェールが持っていた財産の管理はライルにうつった。

 

「つまらない親子喧嘩に部下達を、多くの貴族・皇族、民に加え、我が国の政策に協力してくださっている各エリアの代表及び関係者の方々までも巻き込んだこと、この場を借りてお詫び申し上げます。」

 

一連の事件の会見でライルは母の不正の全てを告発し、謝罪を入れて深く頭を下げた。しかも、『つまらない親子喧嘩』と認めてしまった。これ以上はマスコミも下手な追及はできなかったし、騎士の専任という皇帝でも干渉できない特権を侵害されていた事実もある。

 

『ナンバーズや平民を贔屓にしたライルの身から出た錆』という声もあるが、『宰相や政府が正式に許可した政策を妨害した母親の被害者』と見る声も多く、シェールが植民地政策に協力している要人や関係者までもターゲットにしていた事実もある。政府内でもライルにはやや同情的な意見もある

 

 

 

「あらけずりですわね。」

 

カノンはライルの動きを酷評した。

 

「相手が権限を濫用するという前提条件で動いたのでしょうが、やはりまだまだですね。」

 

「念入りにシェール様を叩こうという考えは間違ってはいないがね。」

 

しかし、ゼロが大宦官を失墜させるための作戦をそのまま利用するとは。やはり、ライルのその眼は……

 

人種や家柄、更にはテロリストであろうが相手の実力や手段を正当に評価する器をライルは持ち、今後のエリア政策の維持やそれを見据えた方針転換も主張するなど、先見の明は持ち合わせている。性格が向いているかは別だが…何よりも母を真っ先に疑い嗅ぎまわっていた執念だ。

 

大事なものを守るために、母親も逮捕か。

 

もし、彼が生きているのであればきっと彼も…

 

大事な人を守るために……羨ましい執着だね、ライル。

 

手段は粗削りでも、部下を、大事な女を守るためにあらゆる手を尽くしたライルのその姿勢はシュナイゼルにとって好ましいものだった。

 

 

 

レイシェフとビスマルクは報告書を読んでおり、レイシェフはライルから返されたトランクを開けた。

 

「使うと思っていたのだが……使わなかったのだな。」

 

「ああ…どうしても認めず、更に卑劣な手を使うようならば『最悪のケースとして使う』と仰っていた。」

 

「『インペリアルセプター』を使うまい、という執念があれか。あまりにも強引すぎるな。」

 

そう、トランクの中身は『インペリアルセプター』。皇帝が全権を認めた証で、皇族や『ラウンズ』でもめったに持たせてもらえないものだ。

 

「しかし、これでライル殿下は一つだけ評価を下げる危機を脱した。いかに母君に全面的な非があるとはいえ『皇帝陛下の権限』を使った。そのようなマイナスを受ける危機を脱したのだ。まあ、今後は殿下に若い娘を献上しようとする貴族達は近づこうとはしないだろうな。」

 

それはそれで、ライルにとって打倒したい貴族を打倒する口実がなくなるというマイナスにもなった。

 

「それでも、ご自分の権限や部下達の力を借りるそこだけは貫いた。そこは評価してしかるべきだ。」

 

「……お前自身、それで勝てなかったからか。」

 

「……………そうだな。殿下は部下や同志に、友に恵まれた。そこは素直に羨ましいよ。最大の邪魔者が消えたのだから、今回助けたお姫様達と上手くいってほしいものだ。」

 

本命以外に思わぬ形で他の姫を見つけたという。直接会ったわけではないが、少なくとも噂のメイド達の事はおそらく。

 

母の暴挙への謝意、決して母と見解が一致していないという政治的な意思表示の意味でも結婚は分かりやすい。自分の気持ちとの両立ができる絶好の状況さえ、ライルはつかみ取ったと言える。それらを言い訳にすれば、表向きうるさい連中は黙らせることはでき、彼女達やその子供の権限を他の皇族より抑えるなどの工夫はいるが。

 

「私と同じ轍を踏まずに済んだのは幸いだ。」

 

「…そうか。」

 

 

 

 




レイシェフがライルに渡したのはインペリアルセプターでした。自己評価が異常に高いルーカスなら滅茶苦茶に振り回すでしょうが、ライルは一年前の失態があるから逆に怖くて使いませんでした。

シュナイゼルとコーネリアに回ってくることはまずないでしょう。そんなものなくても、充分すぎるほどの権力があるから。

実際にあるかは分かりませんが、母親が行った暴挙への謝罪の会見も入れました。ブリタニアの社会ならば賛否両論だと思います。政争であるといえば、それまででしょう。

そして更に……大方の読者が予想していたかもしれませんが、ジュリアを殺したのは母親でした。その場でバラバラにする、しなくても粉砕骨折と複雑骨折、顔面破壊を入れるか悩みました。既に事務次官でバラバラにしたので、それはやめましたが。

本心ではバラバラにしても収まらないかもしれません。
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