下手くそです、ほんとに。
その後、先日の事件の被害に遭った有紗、優衣、エレーナ、美水、リーザに元々関係を持っていたレイとクリスタルがライルと結婚することになった。といっても、形式だけの話だ。
かつては『ナイトオブスリー』にして現在は皇帝お抱え騎士として『ラウンズ』と同等の権限を認められたレイシェフがその保証人になっている。ライルやその旗下にいる名誉ブリタニア人へのガス抜きなのは明白だが、ライルはこれをのんだ上に度重なる行政の不手際を同じく被害者のライルが公表した以上は本国政府も動かざるを得なかった。
普通ならばナンバーズ系への謝意や保証などありえないが、今回は皇妃が自分の権限の範囲を超えた数々の違法を働いた上に大々的に各エリアにも拡散してしまったために本国は沈静化のためになりふり構わずにいられなかった。ここで何もしなかったら各エリアのゲットーがまた爆発しかねない。完全に本国の貴族達は外堀を埋められていたし、被害者の中にはライルと無関係の一般ナンバーズもいた。総督の監督不行き届きを追求され、総督達も文句を言うことが出来なかった。
おまけに、ライルの貴族嫌い引いてはブリタニア人不信が余計悪化しているのが見て取れる。このままいけば、『一部の例外を除いて金輪際ブリタニア人は補充兵としない』などと言いだして、只でさえ目の上のたん瘤である名誉騎士団がより充実してしまい、自分達の権益が損なわれかねない。ならば、ここはお気に入りの女達との仲を認めて、一旦大人しくさせた方が良い。
皇族達はエルシリアとセラフィナ、シルヴィオ、ウェルナーは祝福寄りでオデュッセウスもまた、不始末を詫びると共に単純にめでたい話だと祝福していた。
シュナイゼルは今回の意見調整を巧みなオブラートに包む形で周囲を納得させていた。ギネヴィアとカリーヌは不服だが、相手が遥かに格上の武力を持つライルでは到底勝ち目がない。ルーカスの方は目を付けた女達が弟に独り占めされたことで不機嫌になっていた。
不服を持つ貴族は他にもいたが、現地の有力者の娘も実際にいる以上は和睦の政略結婚…オデュッセウスと天子で破綻してしまったケースの再構築という意味でも有効な手段という側面があるため、内縁止まりで権限も抑えるという形で妥協していた。
名誉ブリタニア人の三人は名誉皇妃の地位を与えられた。名誉が着くように実権は極力抑えた形だけの物。本人達も自分以外に知人や家族、後に生まれるであろう子供の生活保障さえしてくれれば良いと文句は言わなかった。
中華連邦の美水は大宦官が元々そのつもりで寄こしたのは明白で、現在は張 高山将軍の一派を本流から外すだけでも効果はあると主張した。実際、娘が敵国の皇子に娶られてしまったとあっては、いくら名将でも本流に関わらせることはできない。結果として、シュナイゼルは有能な敵将一人の動きを弟の結婚を利用して牽制してしまった。
そして、ブリタニア貴族のレイ、クリスタル、リーザの三人は貴族達を悩ませた。純血のクリスタルは、サラと並ぶライルの結婚相手の最有力候補だったので問題はない。問題は混血のレイとリーザだ。レイは侯爵家の次期当主が既に内定しており、ライルの騎士。実績もあるので文句も言えなかった。加えて被害にこそ遭わなかったが、エリア11の誘拐とシェールの陰謀のターゲットになっており、リーザもイレヴンのクォーターという理由で巻き込まれていたが、元々実家が『ユーロ・ブリタニア』の貴族で死亡した兄は『ラファエル騎士団』所属だった。
両親の実家も『皇族との縁戚ができるのならば』とそれを歓迎し、ヴェランス大公とファルネーゼも特に文句は言わなかった。
当の本人達は元々職場恋愛が発端であった上にまだスタートしたて、それがいきなり政治的な理由で内縁の結婚になってしまったことに実感がわいていなかった。
加えて、純血のナンバーズ系の三人は権限を持つことを好まず、あくまで知人や家族…後に生まれるであろう子供の命と生活の保障を最低保証条件にしてもらった。身の程を弁えている、と一定の評価をする声もこれにはあった。
スレイター家の方は祖父母が皇族との結婚で狂喜していたが、現当主であるレイの母が孫を祖父母の道具にさせまいと公言。孫が生まれても一切教育に関わらせない旨を通達した上に有紗や優衣に危害を加えればライルに全面協力する、という意志表明までした。
序列については純血の貴族でライルとの交流が最も長いクリスタルを第一、次席でハーフながら専任騎士のレイ、クォーターで『ユーロ・ブリタニア』貴族のリーザが第三席に着いた。外国から嫁いだ美水は第四皇妃に。
そして、名誉皇妃達は現地での地位を考慮してエレーナを第一、優衣を第二、有紗を第三という形を内定した。今後のライルの功績如何では正式な形になる可能性もある。
名誉皇妃達は子供が生まれても、よほどのことがなければ継承権は発生しない旨が伝わり、本人達も概ね納得していた。
自分達が悪目立ちしていることは元々分かっている上に、愛人止まりでも充分だったのが政治的な理由で内縁の妻になった事態についていけていない。それが本音だった。
結局、あまりに唐突な事態だっただけに住居などは本人達の希望で保留。警護もライル軍内部で当面は賄う形になった。皇族としての保有財産は、先日の事件で接収した分の殆どを外国人に回すことになった。
要するに、建前だけ整えて実態は元のまま。そのほうが本人達も気が楽だろうというシュナイゼルの配慮もあった。
通達が来たとは言え、優衣と涼子は普段のデスクワークをしながら話していた。
「はあ、まだ向こうの高校も出てないのに皇妃になっちゃった。いや、理想は結婚だったけどさ。」
「私も名誉男爵、なんてのになるのかしら?実感わかないわ。」
「というよりさ、絶対に私達今後の政策のモデルケースにされたでしょ?」
それは分かり切っている。伊達に政策協力の恩恵を受けていないのだ。
「ま、警護隊なんてのが割り込んでこないのは助かるわ。だって、面従腹背の警護隊なんて敵と同じじゃない。」
「お姉ちゃん…まあ、そうね。散々イレヴンごときなんて言われてきたんだもの。傅かれても不気味なだけよ。」
煩い祖父母は前もって撃退され、更に叔母が目論んでいたスタッカート家の縁戚づくりも潰えた。否、むしろライルとレイの子供を孫と結婚させるまたは二人の子供を臣籍降下の形で当主にするという手も浮かんでいた。
「あいつらなら、それくらい考えるわ。」
レイは連中の企てをそれとなく察していた。今の段階ではまだ何とも言えないが、そういう時のためにやはり知識は身につけなければならない。とはいえ、そういう方面で頼りになりそうなのは母以外にはゲイリーかエリア11の屋敷を管理している執事くらいだ。
「ああ、それと。いくら名目の皇妃になったからって、露骨に媚びを売ってもダメだから。そんなで信用されるって思う時点で私を舐めている証拠よ?」
既に媚びを売ってきた貴族や使用人に言い放ってやった。信用したところで、どうせ寝首をかかれるのは目に見えている。なら、親衛隊や『フォーリン・ナイツ』の方がずっと信用できる。
そして、大多数は『読まれていた』と悟り…今まで通り一定の距離を保つ形になった。同時に改めて悟った。最低限の礼節とオブラートさえ使わなかった自分達が自滅する形で逃した魚だと。
他の名誉皇妃も概ね同じ態度であり、『逃がした魚は大きい』という言葉を実践することになった。しかも、その魚の背後には巨大なサメがいることを彼らは昨日の今日で知っていた。
クリスタルは名目上とはいえ、自分が皇妃になったことに実感がわかなかった。そもそも、処刑さえ覚悟していたのにライルは今後も仕える形で許した。
あんなこと言われたら、もう逃げられないわよ。
そんなつもりは毛頭ないし、元々彼の物になりたかった。なら、本当にジュリアにも償うためにもライルに仕えるのみだ。
父も結果論ながら、クリスタルとライルの結婚は認めたし有紗達にも当初の約束通り危害を加えないと約束した。何せ、ライルが実の母親さえ投獄したのだ。下手をすれば処刑という見せしめにもなった。
ごめんなさい、お父様。中華連邦を裏切るような形になってしまいました。
美水は内心で父に謝罪していた。元々クーデターで複雑な立場になった彼女は国に帰ることができなかったのだが、今回の一件でライルに嫁ぐことで彼女は帰ることが困難になった。いや、おそらくシュナイゼルは父と彼の一派だけでも『黒の騎士団』の本流から外すことで駒を削ぐだけでなく、万一に備えての中華連邦方面との講和の人材に使うつもりだろう。自分でもそう考えるのだ。シュナイゼルならば、もっと無駄がない方法で考えるだろう。
それに…やっぱり、私ライル様を………
ライルのことを愛している。これだけは嘘は着けない。実際、腐敗したブリタニア貴族や大宦官の手先の物にならず、真摯に自分を見てくれるライルと結ばれて喜んでいる自分がいた。
せめて、この立場から中華連邦とブリタニアの今後についてできることを探さないと。
リーザは兄の墓に花を添えていた。
「お兄様…私、結婚しました。まだ建前だけですが。」
こんなに早く、兄より先に結婚するとは思わなかった。クォーターの自分等結婚できるわけがないとあきらめていたのに。
しかも、政略から発展した恋愛結婚だ。その相手がブリタニア皇族など……
「ちゃんとした式はまだ先になるけど、お兄様にも見てもらいたかったです。」
皇族との結婚、シェールの陰謀への賠償で家の事業は持ち直した。皮肉なものだ。息子に近づいた女を排除しようとしたでっちあげが原因で、家が持ち直すなど。
でも……あの人は『ナンバーズや平民の部下、お気に入りの女のために母親を投獄した』なんて中傷され、挙げ句の果てに『たかが農場一つ焼こうとした程度で大袈裟』とまで言う貴族さえいる。だが、民が一人もいない土地で領主など名乗っても、勝手に民が湧いてくることなどありえない。
祖父はそれをよく分かっているし、父も家の立て直しに追われていてもそこだけは忘れていない。ライルもまた同じだ……まだあの農場一つしか持っていなくても、領地に対する責任を自覚している。
メイドや部下に責任を果たせない人が、領地に責任を果たせるわけがない。
私にも責任はある。お父様の領地と家督に対する責任が……
エレーナは父と連絡を取り合っていた。
「そうなの……総督は今のところ、目立った活動はしていないのね?」
〈ああ、元の筆頭騎士が戻ってきたと思えば離れてしまった。まるで覇気を喪ったかのようだ。〉
筆頭騎士のオルドリン・ジヴォンとは幼馴染だったとも聞く。彼女が戻ってきて更に弾圧をするのかと思えば、古株達が事実上の離反をしてしまった。
「私とライル様の結婚については?」
〈……何度か聞いてみたが、テロリストに内通していれば処断する以外は特に。〉
つまり、現状は我関せずということか。
「…あまりライル様と私の結婚をネタに威張るようなことしないでね?」
〈分かっている…そんなことをすれば、真っ先にお前達に嫌われる。〉
父からの連絡を斬り、エレーナはため息をついた。
「はあ、部下兼愛人で専属の慰問ダンサーまでは想像の範囲内だったけど。いきなり結婚だなんて…」
エレーナだって女…ウェディングドレスにもあこがれがある。だが、
「ライルの親子喧嘩に巻き込まれたのが運の尽きだな。」
「というより、なんであの人の母親があんな最低な貴族なの?」
ヴァルとセルフィーも同じ意見のようだ。
「まあ、形でも皇族の親戚で危険も安全も増えたな。」
「危険の方は今に始まったことじゃないけどね…暗殺の方がむしろすっきりするくらいよ。」
警察に追い回されたり、他のグループの男子に狙われる程度の危険はあった。酷い場合には腐敗した有力者の手先にさらわれかけた。今度はそれより遙かに大きな危険だが、最早エレーナにとっても慣れっこだ。暗殺なら……
「暗殺なら、頭を撃ち抜かれて死にたいわ。殺す前に楽しんで、の方は嫌。」
「…舌かみ切れるようにした方が良いのかしら。」
有紗はいつもと同じようにライルに軽食を出していた。今日は日本式の卵サンドイッチとジャムサンドにハムの入ったサラダと紅茶だ。それをとりながら、ライルは有紗達の戸籍書類に目を通している。
「形だけでも私達を皇妃にして……貴族達は怒らないんですか?」
「怒りたくても、怒れない。私が身内に害を加えれば母親でも容赦しない……私個人としてはそういう印象操作もあの事件での狙いもあった。兄様とヴァリエール卿はそれを更に君達との仲を非公式という条件で認める形で盛りつけたんだよ……物品や金銭よりも効果のある皇族との結婚を謝意にする形でね。」
「ゲットーの爆発を事前に防いだ…」
「ああ、万が一の場合に私を『黒の騎士団』との特使か何かにするのも含まれるのだろう。兄様のおまけでも、現状ナンバーズに寛容なのは一番がナナリーだ。私はもしかしたら、各エリアの半分返還及びその人質外交の一環で各エリアの要人の娘を私と結婚させる、なんてあの人なら言いかねない。」
有紗はそんな光景を想像してしまった。だが、同時に最初の印象こそ最悪でも、この性格だから逆に本当に惚れてしまうのではないだろうか?そんな危機感を覚えた。
ライルはそんな話をしながら、悪い噂を考えていた。時期としてはゼロが中華連邦のクーデターから暫くして、オルドリンとソキアが『グリンダ騎士団』に復帰する前後。
皇帝が行方不明………私がヴァリエール卿からインペリアル・セプターを受け取った時点ではまだいた。
つまり、あの誘拐事件が終わってすぐに皇帝は行方を眩ましたことになる。だが、玉座の間には争った形跡もなく皇帝の姿だけが忽然と消えたという。
もし、自分から姿を消したのだとしたら何を企んでいるんだ、あの男……兄様とヴァリエール卿もゼロを警戒するこの時期に私と有紗達の仲を認めるのは、皇帝失踪から各エリアの目をそらすための囮計画の一つ?それとも、ゼロと交渉するカードにする…或いは両方。
もしくは…………
まさか、本当にあのV.V.とやらが言っていた計画や『森の魔女』…ギアスという物が絡んでいるとでも?
結婚…といっても、形だけ……
実際に皇妃が息子の邪魔をしたら話はややこしいでしょうね。只の親子喧嘩ですまない上に皇族でも度の過ぎた謁見をあの女がやったから、余計に話をややこしくしてます。少なくとも、このケースに限ればライルは被害者ですから大貴族も余り強く出られないと思います。オマケにライルの場合はややこしい経緯の女が多いから、頭を悩ませそうですが。何せマフィアとつるんだ貴族の被害者、今のナンバーズ系との混血、エリアの有力者の娘。これなら、優秀な平民の娘の方が分かりやすいでしょうね。騎士候になれば結婚も問題がないですから。
シュナイゼルは、馬鹿な母親に振り回された息子に味方した方がまだ親子喧嘩に巻き込まれた側の傷が浅くてすむ、という打算も込みでレイシェフの提案を調整したとお思いください。政治の観点でいえば、母親がやったのは植民地政策だけでなく、本国貴族も打撃を被る暴挙でしょうから。
後は書いてあるとおり、『女達の仲は認めるから、ブリタニア人完全拒否はやめてくれ』とへりくだるしかないでしょう。名誉ブリタニア人の躍進のスピードが上がるよりはマシだと思う。
そして、本当に前も言ったかもしれない疑問。なんで本国も『ユーロ・ブリタニア』も現地の有力者と皇族または自分達側の大貴族の政略結婚をやらないのでしょうか?事と次第ではこの時点でもナナリーとスザクの結婚(実体はスザクは警護)は出来たと思うのですが。
一部貴族や皇族との縁戚持たせて、繋げておけば憎悪と反感を買ってくれる良いスケープゴートにもなると思いますが。言い方は悪いけど、向こうだってそれくらい覚悟してるでしょうし……スザクのような考えならばそのパイプ経由で自国に少しでも損がないようにと考えそうです。
当の本人達はこの結婚を素直に喜んでません。まあ、当面の敵がいなくなったことは安心でしょうが。そして、皇妃達は個人的には夫との新婚旅行はやはり望んでいます。