「皇帝陛下が行方不明?」
ゲイリーを始め、全員が驚愕した。
「ああ……シュナイゼル兄様から聞いた。」
「行方不明って……『タレイラン』のような組織が誘拐したんですか?」
有紗の問いに誰もがそう考える。
「分からない…玉座の間には争った形跡もなく、陛下のお姿だけがなくなったような状態らしい。」
「ちょっと、待ってください。もしこんなことが外部に漏れたら、各エリアで暴動どころか革命ですよ?エリア11の和平路線だって。」
「それどころか、『ユーロ・ブリタニア』やE.U.と中華連邦も。」
優衣とエレーナの質問はもっともだ。それどころか……
「その三つもだけど、中華連邦との戦争は皇帝陛下からの宣戦布告あってこそ。手が出せなくなったわ。」
「この件は、各エリアの協力者にも知られていないのですね?」
レイは前から進んでいた中華連邦との戦争の停滞、そして長野は政策協力者の動向を聞く。
「ああ……私も山本政務官には伝えていない。こればかりは協力者にも明かせない。」
『ユーロ・ブリタニア』の動きを知るリーザが首を縦に振る。
「それが正しいと思います。『ユーロ・ブリタニア』もヴェランス大公閣下とファルネーゼ卿はともかく、大貴族会議の急進派は…」
そう、そうなれば各エリアの反乱に加えて『ユーロ・ブリタニア』までもが急進派と慎重派で分裂しかねない。内戦は必至だ。
「ここにいる人間だけに伝えるのは正しいですね。」
フェリクスがうなずき、引き続きアドバイザーをつとめる美水が中華連邦とE.U.の動向を報告する。
「ブリタニアはそれでいいですが……こちらが停滞すればゼロは中華連邦を纏め上げるでしょう。残ったE.U.加盟国もゼロに合流する動きを見せています。」
ライルはため息をつく。やはり、そうなるか……ゼロは目下、反ブリタニア勢力最大のカリスマ。E.U.はすでに政府が市民の信用を失っており、だからと言ってマリーベルは恐怖で反発の方が強い。『ユーロ・ブリタニア』は未だロシア方面に押し込められている。
こんな状況下で私達を結婚させたって、意味はないのに………やはり、万が一の講和の材料、或いは私を油断させるための布石?もしくは、本当に僅かながらの迷いを敵側に抱かせるため?
どれも決定打にかける。或いはどれも狙っている?
『セント・ガーデンズ』が行方不明になる前の皇帝の勅命でエリア11へ向かうライル軍に同行することになっているが、部下達と違いライルはそれを喜べない。逆に後ろから剣を突きつけられている気がしてならない。
レイシェフはギャラハッドと同時進行でジヴォン家に開発してもらった機体ユーウェインを見上げていた。本機はギャラハッドと同じ試作段階だが、大型機故のパワーを近接戦闘に全てつぎ込んだギャラハッドに対してこちらは大型機特有のパワーを両方で活かせるコンセプトで開発された。
どういうわけか、そのノウハウが既にオイアグロ・ジヴォンにあった模様で、近接戦闘のパワーでギャラハッドに劣る代わりに砲撃戦能力はギャラハッドに完勝。差し引きでほぼ同等のコンセプトに仕上がっていた。
やはりオイアグロ・ジヴォン……『プルートーン』以外にも何かしているな?
そういえば、『ピースマーク』のウィザードと呼ばれる男もガウェインタイプのKMFを保有していたというデータが『グリンダ騎士団』が持ち帰った情報にあった。オイアグロがウィザードと通じている、或いはオイアグロが独自開発した機体が『ピースマーク』に盗まれた?
「計画の支障にならなければ良いが…」
何があったかは不明だが、V.V.が死んでしまった。この左目の痛みはその証拠……
「やはり、ゼロもギアスを持っているのか?」
いや、今は目的に集中しよう。せっかく結婚できたのだ。最悪の展開に転ばないことだけは祈ろう。
シルヴィオは皇帝の行方不明に疑念を禁じえなかった。ただでさえ、玉座を空けているという噂が多いのにここまでのことに。
ライルは父上を前から疑っている。今回の件でライルは間違いなく、父上への疑念を強くするだろう。
シルヴィオもここまで大きな事態になっているのに、殆ど自分では動かずに皇族や『ラウンズ』に任せきり。それが間接的に末端の暴走や貴族達の腐敗を加速させる要因の一つにもなっているのではないか?
ゼロの件が終われば、少しは変わる?それとも……
「シルヴィオ様?」
コーヒーを入れたミルカが声をかける。
「いえ、やっぱり陛下の行方不明が気になるのですか?」
「それだけではないがな。」
エルシリアとセラフィナも皇帝の動向には疑念を抱いていた。中華連邦の婚姻が破綻してしまったというのに、さして関心を示さないばかりかE.U.との戦争が継続しているにもかかわらず中華連邦とも戦争をしろと言ってきた。その矢先にこれだ。
「いくらE.U.が弱体化していると言ったって……」
「ああ、こんな状態で戦争なんてやれば兵士もKMFも、武器弾薬も足りなくなる。」
「付け加えれば、それを運用する予算もね。」
クレアの入れたお茶を飲みながら、二人はこの疑念を払しょくできずにいた。
「兄さんがいつも言っていたけど、仮にそこまでやったら国が自重を支えきれなくなるんじゃないかしら?」
「セラ…貴女は陛下が実は国がどうでもいいと考えていると?」
「そこまでは…でも、『ブラック・リベリオン』や『タレイラン』を考えると。」
それを言われると、エルシリアも否定しきれない。
「まさかとは思うけど…陛下はご自分で掲げた大義を本気で信じていない?」
エルシリアは人差し指を立てて、まわりをみた。幸い、聞こえていない。
「クレアの言う通りかもしれないわ………陛下がお戻りになったら、問い質したいわ。」
「……殺される可能性の方が高いけど?」
「……分かっているわ。」
ルーカスは腹いせ同然に十人の女を抱いていた。既に何度も限界を超え、女達は身体が痙攣している。
それでも注ぎ続け、果実や唇をむさぼった。
あの野郎…俺様の女共をシュナイゼルやレイシェフのOKを盾に横取りしやがって。
まあ、良い。俺もこれからエリア11に行く。出し抜くチャンスはいくらでもある。
ルーカスはライルの元にいる女達を自分のものにすることにしか興味がなかった。皇帝の行方不明にも、今後の情勢にも関心を持っていなかった。
同じ頃、ルーカスの相方と言うべきエイゼル・A・ランティスも女達を抱いていたが、こちらも不愉快であった。
おのれ、ライル・フェ・ブリタニア…!この俺のモノになるべき女を娶るとは!
ルーカス同様にこの男もまた、度の過ぎた猟色家であった。既に何人もの女を抱いては身籠もらせ、捨てるを繰り返している。
目下、尤も目をつけていたのがクリスタル・ウィスティリアだった。艶やかな容姿に豊満な肢体、正に自分に相応しい女だと思ったのに、子爵家の皇子などにうつつを抜かし、挙げ句に娶られた。
この機を利用し、なんとしても手に入れる。それがあの女の幸せでもあるのだ。
ルーカスとは親戚筋にあたるこの男、正に血は争えないと言わんばかりの思考であった。
三度エリア11に訪れたライルはカラレスの時のような過剰な出迎えはなく、軍の空港を経由してそのまま政庁へ行ってナナリーに出迎えられた。
「ライル兄様、ご足労頂きありがとうございます。」
「こちらこそ、衛星エリアへの昇格聞いているよ。」
握手をした後、ナナリーが後ろに控えている有紗とレイに気づいた。
「ライル兄様とご結婚された方もそちらにおられるのでしょうか?」
有紗が気付いたように、両手を添えた。
「飯田有紗です。こちらの出身で、メイドとして雇わせてもらいました。」
「そうですか……年齢は伺っております。まだお若いのにご結婚は苦労が多いと思います。月並みな言葉ですが、ご無理はなさらないようにしてください。」
「ありがとうございます、総督。」
「ナナリー総督、ご挨拶はまた後程に。」
補佐のアリシア・ローマイヤに促され、ライル達は政庁に手配された居室に案内された。そして、ライルは頼んでいた件を聞く。
「ナナリー、紅月カレンに会いたいと頼んでいた件だが、大丈夫かな?」
「はい、総督の権限で許可を出しております。ご要望があれば、面会可能です。」
中華連邦で捕縛されたカレンは旧知のナナリーが総督ということもあり、丁重に扱われていた。特別房に隔離されているが、来客用のドレスまで与えられるのはナナリーの配慮のおかげだ。拘束衣よりはましだろう。
「面会だ。」
面会?一体、誰が。
入ってきたのは、薄い灰色の髪の男だ。後ろから栗色の少女と黒髪の日本人の少女が来た。三人とも自分とさほど変わらない年齢だろう。
「神聖ブリタニア帝国第八皇子ライル・フェ・ブリタニア……『黒の騎士団』の紅月カレンさん、ですね?」
第八皇子……この男が、あの。
「ふぅん、貴方が噂の『ブリタニアの狂戦士』様。いいえ、『洗脳皇子』様ね。」
「この、私達の事情を知りもしないで!」
栗色の少女が食って掛かるが、ライルが制する。
「否定はしない……私の権限内で出来る待遇を約束し、家族にも害がないように計らっているからな。」
「人質を取って、無理やり戦わせてるんじゃないの?」
「それも否定しない……」
こちらの言い分をライルはまるで否定しようとしない。
「皇族の慈悲を受けられるなら、感謝しろ。とかは言わないのね。」
「…言えば満足か?やはり、悪逆なブリタニア皇族だと。その方が君にとって都合がいいから?正義の味方が破綻しないから。」
「な!?」
自分達の在り方が破綻しないから、ブリタニア皇族全てが悪人であるべき?そんなこと考えていない。旧知のナナリーなど、正に真逆だ。アレをどう悪逆だと言えば良いのだ。
うろたえるカレンに、先程の少女が名乗り出た。
「メイドの飯田有紗よ…私は政庁と警察が関与した闇オークションの商品で、この人に助けられた。その時に働き先を相談して、この人のメイドになったの。自分で考えて…貴女だって自分で考えて、反ブリタニア活動を選んだんじゃないの?」
「そ、そうよ。」
「じゃあ、なんで名誉ブリタニア人は裏切りで片づけるの?反ブリタニアをやるのは良いのに、生活や家族のために名誉ブリタニア人になるのは駄目なの?」
「そ、そんなことを言ってるんじゃないわよ!」
「言っているじゃない。私はあの特区の事件の後もライル様を信じているのよ?みんな処刑しろっていう貴族から私達を庇ったんだから。」
そのうわさは聞いている。部下を処刑したのも。
「…部下の処刑はどういうのよ!?」
「あれは歴とした国家反逆罪よ?いくら皇族でも庇えないし、自分で直接処刑したのだって失態を埋め合わせる意味もあるわ。それとも、所詮ブリタニア皇族はナンバーズを使い捨ての道具にしているって、自分達を正当化するためにこじつけるの?」
こじつける?自分達を正当化するため?何を言って…ブリタニア皇族がナンバーズに損のない政策をするわけ……いや、確かにナナリーはそれをやっているが。
「有紗、それくらいにして。」
もう一人の少女が前に出た。雑誌で読んだことがある、ライルの騎士。そして、確か……
「ライル様の騎士、レイ・コウガ・スレイター。貴女と同じ日本とブリタニアのハーフよ。」
「……ハーフ。ああ、なるほど。スレイター侯爵家と言えば、本国指折りの貴族ね。お嬢様の暮らしに目が眩んだの?」
「……自分だってシュタットフェルトのお嬢様じゃない。」
「私は日本人よ!」
だが、レイは眼を伏せた。
「羨ましいわね……自分を日本人と定義して、それを認めてくれる人がいるの?」
「え、いるわよ。お兄ちゃんや、お母さんはそうだもの!」
レイの顔はうつむいたままだ。
「そう、私は誰もいないわ。日本時代、ハーフを理由に虐められた。小1の時から5年生のあの夏までずっと狙い撃ち。クラスぐるみの学校ぐるみ、近所からもね。親戚からも腫れもの扱い。」
聞いていて、カレンはいくつか思い当たった。カレン自身、純血でないことを理由に虐められた。その境遇は分かる。
「戦争で、日本人の父はブリタニア軍に遊びで殺された。」
「……それで、どうして?お母さんが貴族なら本国へ連れて行ってくれなかったの?」
レイは自嘲するように笑った。
「あいつらは私に死んでほしかったんでしょうね。だから、母だけ呼び戻した。」
つまり、祖父母が母と引き裂いて合法的に殺そうとしたのではないか。
「戦後はハーフを理由にスパイ呼ばわり。大の大人まで小学生を相手にね。『半分日本人のくせにブリタニアに魂を売った』、『ブリタニア人が日本人に化けた』なんて言ってきた、見覚えのある大人。学校の先生までが。」
「な!?」
学校の先生までが、ハーフを理由にスパイ扱い!?
「そんな私が、どうして日本のために戦わなきゃいけないの?お父さんを裏切り者扱いしたかと思えば『自分達が先に裏切り者扱いしたお父さんの仇討ちをしろ』なんて、虫が良すぎると思わない?」
「あ、そ、それは…」
「認めるのね。」
認める…そう、カレンでさえそれは虫が良すぎると言い切れる。これでは日本人を憎むのが普通だ。
「でも、ブリタニア人は?」
「母は反対を押し切って、私を引き取ってくれた。家の財力とブリタニア大使館に無理を言ってね。租界が建設されて、こっちの家に住んだけど…学校は半分イレヴンだからいじめられたから退学。家庭教師もわざと難しい問題で嫌がらせして『所詮イレヴンまみれ』。ブリタニア人であることを認められなかった。」
レイの眼からは涙が流れるが、同時に壊れたように笑っている。そう見えた。
「そして、私を産んで後ろ指をさされる母を認めさせるために軍人になった。ハーフでも貴族だからKMFに乗せてもらえた。でもね、任務でなんて言われたと思う?『半分イレヴンだから裏切る』、『半分日本人のくせに裏切った』。かと思えば『流石はスレイター家の御息女』、『日本人のために頑張れ』。」
つまり、彼女は日本人であることもブリタニア人であることも認められなかった。両親しか受け入れてくれる人がいない。他は都合のいい時だけ、同胞扱いする連中だけ。
「だから、『お父さん以外の日本人はみんな死んじゃえ』、『お母さん以外のブリタニア人はみんな死んじゃえ』。分かる?」
彼女の境遇に、カレンは何も言えなかった。分かるからだ。アッシュフォード学園の生徒会でミレイ・アッシュフォードはそれを知っても態度を変えなかった。スザクは他の生徒と同じ扱いで変わることはなかった。だが、彼女は違う。言動で分かる。
この人には私にとってのお兄ちゃんや扇さんがいなかった……きっと、中身が小学生か幼稚園で止まってしまったんだ。日本とブリタニア、両方が成長させなかった。できるわけがない。
成長するとしても、それは双方への憎悪だけだ。自分と違うとすれば、両親に愛されて育った。
「でもね、今はその中にライル様や有紗を含めているの。ハーフの私自身を見て、受け入れてくれたの。だからライル様の女になって、騎士になったの。今の同僚達も似たようなもの。だから、その人達も両親と同じ枠に入れて、それ以外はみんな死ね。他のイレヴンやブリタニア人が何億死のうと知らないし、私には関係ないわ。」
「……否定、出来ないわよ。そんな境遇。」
自分も兄や扇が、生徒会のみんながいなければこうなっていただろう。
「でもね……もし、貴女と違う形で、もっと早く会っていたら友達になれたかも。」
「ええ、私もそう思う。」
レイの言葉をカレンは否定しなかった。そう、この僅かな会話でカレンはレイにシンパシーを抱いた。
彼女は自分が辿っていただろう別の形。もし、ブリタニア人として受け入れてくれる人がいれば、逆の国を選んだだけ。理解できるし、納得もできる。彼女の場合はどちらも憎んでいる。主君や母、今の同僚達が彼女の世界なのだ。彼女をそんな風に成長させたのは他でもない、日本とブリタニアだ。
「……身の上話に区切りがついたところで私も君に届けたいものがある。」
「何?」
「アッシュフォード学園で君の隣のクラスだったサラ・クラウザーから手紙を受け取っている。君のことを心配していたよ?」
ライルが手紙を広げ、カレンはその文字を追う。シュタットフェルトと紅月、二つの名前でカレンを呼んで……無理をしていないかという心配と、本国の学校で何とかやっているという近況報告、そして父親の不正が原因で好きな人との結婚が潰え、その人への初恋も玉砕してしまったという内容だ。
最後に、今でも友人だと思っているという文面で締めくくれられた。
ライルが手紙を折り返し、自分でも呼んだ。
「…本当に、良い人だよ。彼女は……あんなことがなければ、例え政略でも彼女との結婚なら文句がなかったのに。」
「去年、学校で会った時に好きな人ができたかもって聞いたけど…貴方だったの?」
「ああ……だが、彼女の父と私の母が他の貴族と共謀してここの有紗やレイ、部下達を殺して私の軍を自分好みに作り変えようとした。それを返り討ちにしてやった。」
そんな無茶な……いくら母親や大貴族でも皇族の軍隊に介入するなど、ブリタニアの軍規に疎いカレンでも無理があるように見える。
「彼女なら、政略からのスタートでも恋愛結婚できそうだった。」
「………サラの家、どうなったの?」
「彼女自身が私に協力したから、結婚は潰えたが取り潰しや爵位の剥奪はない。暫定的な当主として苦労をかけている」
「……そう、少し安心した。」
「………本当にいい友人に恵まれたね。でも、日本独立がなされれば間違いなく報復が起こる。それで彼女が巻き込まれかねないってわかっていた?」
「え、ゼロがそんなこと!!」
「君やゼロはそうだろう。だが大多数はそうとは限らない。反ブリタニアを変えないなら、そういうことも起こり得ると分かった上でやってほしい。」
日本人による報復……日本人はそんなことをしない。いや、確かにそんな都合のいい話はない。あのホテルジャックが良い見本だ。一歩間違えれば、居合わせたミレイ達も殺されていたんだ。
「ほほう、これが『黒の騎士団』のエース。想像以上の上玉じゃないか。」
「ルーカス!」
奴もエリア11に来ると聞いていたが、まさかもう来ていたとは。
「ナナリーの許可は?」
「は?俺様がなんで、あんな平民皇妃の娘から許可を取らないといけないんだ。」
「彼女はエリア11の捕虜だ。総督の意向で丁重に扱われている。いくら継承権が上でも、越権行為だ。」
「ふん、俺様は次期皇帝だ。そんなものはどうにでもなる。」
相変わらず、だ。世界が自分を中心に作られていると信じて疑わない。ライルもいくらか権限で融通をきかせてもらっているがこいつの場合はもっと酷い。
「さて、ここから出してやろうか?勿論、俺様の女になれば。だが…」
ルーカスはカレンの身体を上から下まで嘗め回すように見ている。
「遠慮するわ…」
「は、所詮はイレヴンのハーフね。どこかの混ざりものと同じく、ご主人様に色目を使ったのかしら?」
フィリアがレイを見て嘲笑すると、レイも剣に手をかけた。
「あら、言ってくれるわね。私の皇子様に言い寄って、逆に失敗したのはどなた?」
「貴族になるべくしてなったホーリング家の後継者の私にイレヴンまみれごときが喧嘩を売るの?」
「血筋で勝ったら、世話はないわ。試してみる?」
レイとフィリアが今にも剣を抜きそうだ。
「二人とも、よせ。」
「……失礼しました。」
「ふん、お飾りのイカサマ皇妃共。命拾いしたわね。」
「勝手に言っていろ。」
ライルも睨みつけ、ルーカス達を退散させた。
「見苦しいところを見せた。失礼する。」
カレンとの面会を終えた後、ライルの元にある報告が届いた。
「実は、どうも私も腑に落ちないもので。」
持ってきたフェリクスも気にしているようだ。持ってきたのはゴシップ誌。
見てみると……
「は?」
『レイ・コウガ・スレイター、カラレス前総督の情婦か?』
ばかばかしいにもほどがある。大体、レイはカラレスと面識がない上にカラレスが総督になってからずっと本国にいた。
「誰だ、こんな杜撰な記事を書いたのは?」
「ノエルが来た時と同じ、大貴族の太鼓持ちですよ。」
「直接抗議しても、躱されるか?」
全く、こんな大事な時に何をやっているんだ!?
苛立つライルの元へ面会の希望者が来ているとの報告が上がった。武石財閥の役員親子だという。
「お久しぶりです、ライル殿下。」
村田弘美……武石財閥の役員の娘だ。
「こちらこそ、それでお話しとは?」
「この雑誌、読まれました?」
出てきたのは、先程も見たレイのゴシップ。更に、有紗や優衣まで。元コーネリア軍の幕僚に色目を使った、『グラストンナイツ』に言い寄った等など。誹謗中傷の記事ばかりだ。
「あんな汚い手を使う女達がお側に、まして名目だけでも皇妃なんて殿下があまりにも不憫です。」
「……だから?」
「私を皇妃としてもらってください。武石財閥とのパイプを良二と一緒に強くすれば、エリア11の政治に強く干渉できます。」
何とも魅力的なお誘いだ。しかし、その条件がこの女との結婚とは。それにしても……
「お言葉を返すようですが、記事の話題になった姉の部下達に確認をしてもよろしいでしょうか?」
「…え?」
「あ、あの殿下。そのようなことをされている時間は…」
「こんな時にこんなつまらない記事を持ち込まれて迷惑をしているのは我々なのですよ?余計な時間を取らせないでください。」
「だ、大事な時期にこのような不祥事を起こすあの女達の方が問題では?」
「……彼女達は私と一緒にいた時間が多い。レイに限れば、彼女は先日エリア11に来るまでカラレスと面識を持っていない。」
相手の顔色がだんだんと悪くなる。もう確定的だ。お粗末にも程がある。
「では、姉の部下の方々に確認を取りましょう。」
「お、お待ちください殿下!」
が、部下に止められてしまった。
翌日、例の雑誌に出ていた士官達に聞いてみた。言葉を濁すが、圧力をかけると思いのほか簡単に口を割った。最も、忠誠心が強いコーネリアの部下だ。元々、知らなかったという話が殆どだ。そして、雑誌の記事を見せると途端に顔色を変えて怒るほどだ。
カラレスの交友関係も調査すると、レイと思しき女性の関係は出てこない。そして、写真それ自体は本物だが出版した雑誌社に圧力をかけると、あっさりと自供した。
「これらのゴシップ記事は我が妃たちを貶めるために、貴方達が政庁の下級官僚達と共謀したという事実が判明した。我が妃達への不当な批判に姉の親衛隊及び前総督の名誉を著しく侵害するこの犯罪行為……どう責任を取るのですか?」
有紗達もこの場に来ており、全員が怒り心頭だった。
「あ、わ、私は殿下のためを思い」
「どこが?ただでさえ、不名誉がいくつもあるのにこの上不名誉の上塗りをしているだけじゃないか。」
立会人としてギルフォードも来ており、彼も珍しく怒りをあらわにした。
「挙げ句に、コーネリア様の名誉にも傷がつくようなことをした。貴女達親子には厳重な裁きを受けてもらう。」
「あ、あ……」
村田親子は青ざめていった。そして、娘の弘美はレイを見つけ…
「ね、ねえレイ。私達、小学校の一年生から戦争まで同じクラスだったわよね?だから、友達でしょ!殿下にとりなしてよ!」
レイは聞いていて腸が煮えくりかえった。友達?一体、どの口がそんなことを言うのだ。
レイは腹にパンチを入れ、首を掴んだ。
「都合のいい御託並べるんじゃないわよ、イレヴン。」
「が、が…!」
「友達?入学して間もない頃に、いきなり教科書を破いたり、給食をダメにした犯人を私にして、クラスや先生まで抱き込んでおいて。学芸会の衣装だって、当日に私が駄目にした。なんて嘘をついて、運動会もみんなで私が体育着をダメにしたなんてでっちあげ。これを五年もやっておいて、友達?」
虫が良いにも限度がある。
「ウチの同僚に日本人を魔物と呼ぶくらいに同国人を憎んでいる子がいるけど、あんた達も私基準では十分に魔物ね。少しは地獄を見て、反省しなさい。」
両親の方へ放り投げ、村田は必死に空気を吸う。
「ふ、ふん!何よ、どっちにもなれない欠陥女!あんたやそこの貧乏人どもなんかウチの知り合いが総力をあげれば簡単に潰せるのよ!?」
「私達が建前でも、皇妃になったのを聞いていないの?」
有紗が珍しく、冷たい怒りを放って告げる。
「あなた達は、私とレイ、優衣の三人の皇妃に喧嘩を売ったのよ。いくら実権が乏しいお飾り皇妃でも、無事じゃすまないのよ?」
「まあ、皇妃の権限以前に私とレイは今も軍属だからね。軍の権限で逮捕するのでも充分でしょ。私達はダメでも、コーネリア総督の親衛隊に喧嘩を売ったんだから、こっちの方が政庁の皆さんも頑張ってくれるかも。虎の威を借る狐なんてやりたくないけど……これは仕方ないわね。」
優衣が現実を告げた。相手はここにきて、ようやく自分がとんでもない相手に喧嘩を売ったことに気づいたようだ。
だが、
「じゃあ、私を皇妃にしてください。こんな混ざりものとみなしごなんかよりも元モデルの私の方がエリア11を代表して殿下の伴侶になるに相応しいでしょう?」
「……つい数秒前の自分を顧みたらどうだ?」
数秒前のことをなかったかのようにする態度にレイは絶句した。いったい、こいつはどこまで性根が腐っているのだ?ライルさえ呆れている。
「あ、す、全てはこのみなしご共の陰謀なの!!殿下、こいつらは殿下を」
ライルが手で口を塞ぎ、思いきり力を入れる。このまま行けば顔の骨が折れるのは明白だ。
「もうしゃべるな、耳が腐る…………武石財閥にこの件は既に報告済み。今頃解雇だろうな。私でもそうする。」
両親が青ざめていく。だが、レイは更に冷酷な事実を告げる。
「本音を言えばね、あんた達親子も、あいつらもバラバラにしてやりたいの。でも、現地企業の関係者ならナナリー総督の管轄。せいぜいおべっかするのね。最も、こればっかりは穏健なナナリー総督が頑張っても四、五十年の懲役がやっとでしょうね。」
「ご、五十年って…いやよ、そんなの!皇妃なら助けてよ!!友達でしょ!?」
「馬鹿も休み休み言いなさい!!私が友達と呼べるのは、有紗やクリスタルだけよ!!あんた達は敵!都合のいい時だけ、私を同胞だ、友達だって言う傲慢で自分勝手な汚らわしいイレヴン!!」
今まで溜まっていた恨みを吐き出し、レイは退室した。
結局、村田親子は全員が皇族の軍二つに対する不敬罪、更にでっち上げに協力した貴族と雑誌社もトップは軒並み逮捕され、業界からも追放された。
村田親子は首謀者として処刑も主張されたが、既に武石財閥の解雇と今回の件でイレヴン社会における地位も信用も完全に失っていた。故に処刑の必要はなく、親子ともども懲役三十年が課せられ、共犯者の貴族はそれより十年少ない二十年になった。
「すまない、ナナリー。つまらないことに巻き込んだ。」
「いえ、お気になさらず。ですが、あのようなことをするなんて。」
「………君が責任を感じる必要はない。あの親子は日本時代からああだったんだろう。ブリタニアの支配下になって、うまく立ち回ったんだろうが立ち回り方を間違え、挙げ句にレイと自分たちの力関係が小学生の時と同じだと思っていた娘が特に幼稚だったんだ。」
まるで母を見ているようだった。昔は児童雑誌のモデルであったから、相応の努力はしたのだろうが何かしたわけでもない相手を貶める時点で既に終わっている。
大方、そのころすでに『自分が喚きたてれば全ては自分の思い通りに運ぶ』と思い込んでいたのだろう。腐敗したブリタニア貴族と全く同じだ。
「どこの国にもいるものだな…」
ユリアナとリュウタに会って気分転換をしたい気分だった。
その後、レイを苛めていたという連中が結婚祝いを述べに来た。が、実態はレイに媚びを売っていい暮らしをさせてもらおうという魂胆が見え透いていた。
既に真相をレイから聞かされていたライル軍が追い返したが、そこでレイを更に侮辱したことで皇族批判として全員が逮捕。村田親子と同じく裁判抜きで三十年の懲役を科せられた。
そして、村田親子と見苦しい責任転嫁を牢の中でも繰り広げて同じく収監されている囚人や看守でさえ吐き気をして、他でもない囚人達から余りに見苦しいから早々に処刑して欲しいと嘆願が出る始末だった。
またしても、杜撰で強引な展開です。
ライルやシルヴィオ、エルシリアは皇帝の思惑を疑う中でルーカスはいつもの平常運転。
そして、今回はレイとカレンを重点的にしました。実際、二人共動機は親、選んだ国が逆。
決定的に違うとすればカレンはゼロの仮面、レイはライル自身というその人自身を見ているか否かの違いはあるでしょう。無理もない話ですが。
で、改めて出てきたレイの言い分。純血の扇達よりはカレンの方が理解も共感も尊重も出来ると、私は思っています。文句言うくらいなら、ゼロと藤堂に今、この場で、即座に、直ちにレイを純血のブリタニア人か日本人にしろと言ってやりたいです。
そして、レイ虐めの女王様達。皇族批判がある雑誌社と共謀した結果、聞いていたにも関わらず皇妃になったレイに喧嘩を売ったことで自滅しました。シンデレラ系の横取り女みたいな展開みたいになってしまいました。ただし、こっちはごますり軍団も芋蔓式に破滅し、文章にあるとおり檻の中で責任の擦り付け合いをして、他の囚人も看守もうんざりする始末です。
形だけでも皇妃は皇妃。面倒な対応は全部、ライルに丸投げしたようなシュナイゼルです。実際、やりそうですが。