東中華海戦でブリタニア軍は『黒の騎士団』に突破され、国土絶対防衛線を維持することが困難になり、エリア11本土まで後退した。カゴシマに本隊が向かっているが、そこ以外にもキュウシュウはナガサキとフクオカ、チュウゴクにシマネとヤマグチ、ホクリクもイシカワとニイガタを中心に大部隊が侵攻している。
キュウシュウはビスマルクとルキアーノが迎撃を行っており、総司令官の黎 星刻がいる。カゴシマを突破されるのは心理的にも避けたいところ。だが、チュウゴクとホクリクにもブリタニアは優秀な皇族達を配備しており、そこも堅牢な守りだった。
「流石だな、本隊がカゴシマといってもここは敵にとって橋頭保だ。」
ライルの分析をゲイリーが肯定する。
「ええ、エリア11を守りきればオデュッセウス殿下を始めとした皇族と旗下の軍隊が超合集国領土に攻め込みます。」
イシカワで迎撃を行うシルヴィオの軍も既に迎撃を行っていた。
「逆に向こうが日本を解放すれば、ブリタニアの植民エリアが決起する。そうなれば、守り切れない。」
フクオカにいるエルシリアとセラフィナもクレアと共に指揮を執りながら状況を分析した。
「正に、ここが天王山よ。」
「負ければ、世界地図が塗り変わるのね。」
クレアの説明にセラフィナが応え、エルシリアも頷く。
ライルは改めて、全軍に激励を怒る。
「全員、聞いての通りだ。ここで負ければ、多くのブリタニア人市民が報復の犠牲になる。そして、名誉ブリタニア人将兵の家族もその中に含まれる。自身のため、家族のために、勝って生き残れ!!」
〈イエス・ユア・ハイネス!〉
ブリタニアの威信はあえて外した。皇帝陛下の御威光や帝国の威信よりも、その方が分かりやすいからだ。
レイはヴィンセントをベースに改良されたヴィヴィアンで敵のKMF隊に突っ込む。追加されたニードルバックラーでニードルブレイザーを展開して海上艦にいるパンツァー・フンメルの砲撃を躱しながら距離を詰めて、ルミナスコーンのランスを展開する。パーシヴァルのクロー同様にランス周囲の刃が高速回転してルミナスコーンをより強力な武器にする。手持ち武器である分、似通ったパーシヴァルの物よりもリーチが長いこの獲物をレイは気に入っていた。
そのままパンツァー・フンメルごと海上艦を貫き、更にハーケンでヘリを撃ち落とす。
「良いわね……このカスタマイズ。」
〈第八皇子の騎士だ!〉
〈半分日本人のくせにブリキの皇妃になった裏切り者だ!〉
また、これだ。どいつもこいつも……
「いいわ、今ここであんたら処刑してあげる。」
新型の量産機、暁の編隊に再び突っ込む。今度はスピードにものを言わせて一機をそのまま破壊して二機目はハーケンでコクピットを潰した。三機目はバズーカを撃ってくるが、遅い。シールドに搭載されたハーケンで引っ張り寄せてそのままニードルブレイザーを叩きこむ。
「機体は良いけど、パイロットは素人ね。」
敵は後退しようとするが、コローレのヴィンセント・ブレイドが暁を三機両断し、残りは後ろから来た親衛隊のウォードに撃墜された。
〈隊長、先行しすぎですよ。〉
「そうね。でも、浮気を狙うのは駄目よ?」
〈……言わないでください。〉
フクオカではバルディーニが指揮するE.U.脱退国の軍が中心に攻撃を仕掛け、バルディーニもフロートシステムに換装されたリヴァイアサンで指揮を執っていた。
「敵左翼に攻撃を集中、そこから上陸を試みる。」
敵左翼の部隊は『ロンスヴォー』で海棠が指揮する『モノケロス隊』が前線で攻撃を仕掛け、特に海棠のモーナットが圧倒的だ。長剣と短剣の二刀流を巧みに操り、新型のウォードを全く寄せ付けない。
「海棠、左翼を攻撃するのは良いがそこから深入りするなよ?」
〈了解。〉
海棠の部隊が左翼を抜けたところで、敵の沿岸部隊が攻撃を集中してくると共に中央の部隊が囲もうと動いた。
「よし、敵の中央部隊へ砲撃。」
後方の艦隊とパンツァー・ヴェスペが長距離砲撃で転進した中央部隊を砲撃した。それに合わせ、海棠の部隊も中央部隊へ攻撃を仕掛けるとともに一時後退して本隊に合流する。
エルシリアは敵の動きにひじ掛けを握る。
「『ヴェネツィアの鯨』……想像以上の食わせ物だな。」
突出した右翼部隊を叩く動きに呼応して他の部隊で中央に打撃を与えて友軍を救助、同時に合流させた。しかも、KMFの指揮官はあの海棠だという。
「普通なら勝ちに行く戦いなのに…負けない戦いを仕掛けている。」
我慢比べを強いている。普通ならば、守る方が有利な戦いのはず。だが、相手は最小の攻撃を繰り返して、こちらの陣形の消耗を狙ってきている。
次は相手は右翼に攻撃を仕掛け、右翼の陣形を崩した。またそちらが攻め込もうとして、迎撃をするが再び中央に攻撃をされて下げられる。
「これ以上相手の手に乗るな。攻撃を集中されたタイミングに合わせて、そちらへの迎撃を強くする。本来の我慢比べならば、こちらに分があるのだ。」
エルシリアは戦術を変えた。相手が攻撃を強めたタイミングでこちらもそれ以上の攻撃を仕掛けて、膠着状態を作り出した。
雷斬莉が指揮する部隊はニイガタから攻めていた。トウキョウ租界までの距離で言えば、ここが最短距離だ。キュウシュウやチュウブほどでないとはいえ、戦力が多いので実力の高いシルヴィオ軍が迎撃を行っていた。
「敵は想定通りの迎撃だな。このまま波状攻撃を仕掛ける。」
「波状攻撃か……こちらに整備と補給の間をあたえないつもりだな。」
このままいけば、いずれこちらは補給と整備が追い付かなくなる。相手はこちらのKMFを損傷させるのが主で、特にフロートユニットを攻撃して海に落とすか空での戦闘能力を削ぐことを優先している。
距離的にここが最もトウキョウに近い。確かに、ここを最優先で攻めるのは分かる。シマネやカゴシマからも攻撃がある以上、三箇所から攻撃の橋頭保を築いて戦略目標のトウキョウに攻め込む。定石ではあるが。
単純すぎる……こちらはその気になれば内陸側の部隊に応援を要請することだってできる。それに、ナナリーの政策で内部の反抗勢力は殆ど支持されていない。
ゼロがそんな勢い任せの内部からの攻撃を期待するとは思えない。
戦いがしばらく続き、カゴシマではビスマルクが出撃していた。
「キュウシュウで『ナイトオブワン』が出たそうですけど、こっちも殿下が出て一気に巻き返すという事で良いのでしょうか?」
涼子の問いにライルは即答せず……
「これで、巻き返せればの話だ。」
旗艦斑鳩も中華連邦に出てきた蜃気楼というKMFはここでもカゴシマでもニイガタでも確認されていない。ゼロが出撃していない?
まさか、東中華海経由でトウキョウに?
いや、トウキョウにはシュナイゼルがいる。シュナイゼルがこんな単純な手を鵜呑みにするはずがない。
同じころ、レイシェフは一足先にギャラハッドと同じくガウェインをベースに開発されたユーウェインに乗っていた。広義では本機もギャラハッドタイプだが、こちらはハドロン砲を胸部に内蔵した関係で近接戦闘ではギャラハッドに劣る代わりに総合攻撃力でギャラハッドより上になっている。
背中にも専用の大剣クラレントを装備し、腰にもスラッシュハーケンを搭載している。武器の数と総合攻撃力を優先した本機とギャラハッドの模擬戦は五分五分、互いに切り札を封じても三本中、二本を取った。が、後でビスマルクにもそっくり取り返されている。
「ライル殿下はまだ出ないそうです。しかし、殿下のお手を煩わせるまでもないでしょう。キュウシュウでヴァルトシュタイン卿も出撃されております、勝ったも同然ですね。」
「いや、そういう慢心こそゼロに付け入られる隙だ。」
実際、戦力はどのブロックも大軍勢だがナリタ、攻め方が『ブラック・リベリオン』、中華連邦のクーデターと比べると単純だ。
「ビスマルクも言っていたが、やはり本命はトウキョウへの奇襲か。」
こちらの意識はキュウシュウ、チュウゴク、ホクリクに集中している。少数精鋭でトウキョウ租界に奇襲をかけるという可能性も高い。
池田は蒼天でベヒーモス隊を指揮していた。西野と稲垣も蓬莱島で受領した暁直参仕様で続いている。
〈池田中佐、名誉騎士団が突出しております。〉
「……数は?」
〈五機、いずれも『ラウンズ』並の性能です。恐らく、パイロットも。〉
一介の騎士でさえ『ラウンズ』並の機体、それを五機も。それを乗りこなすパイロット。いったい、あの男はどれだけ有能な人材を見繕っているのだ。
日本人などという枠に固執したこちらは数を揃えても、素人さえ動員しているのにあちらはセミプロのレベルでも部分的な能力ならば『ラウンズ』相当。あの男の皇族としての恐ろしさはこういう面にあるのだろう。人材マニアという点で言えば、皇帝やシュナイゼルより上かもしれない。
「ダヴィデ少佐の第七中隊を回し、攻撃しながら後退。その部隊を包囲せよ。」
「死ね、クズ共!!」
幸也は新型のパラディンで早速コールブランドを抜き、攻撃してくる暁部隊を次々と両断する。月下の後継機種というだけあり機体は良い。
だが、パイロットは素人だ。『ブラック・リベリオン』時の団員だっているはずなのに、実力は素人に毛が生えた程度だ。E.U.のボンクラ共と大差ない。
この程度の実力しかないくせに、『正義の味方』なんて看板で勝った気になる。聞けば聞くほどに度し難い。特権と正義に酔った人間ほどのクズはいない。幸也の得た教訓はそれだ。
支配国という特権に物を言わせた結果、ブリタニア人は自分達が生まれながらの特権階級と錯覚し、日本は反ブリタニアという別種の特権で安寧を望む同国人を虐げ、戦えないブリタニア人の子供を虐げる。
どちらもクズだ。そして、その自分も正義を憎むと言って、ブリタニアの正義に準じている。酷い矛盾だ。奴らと大差ないだろう。
〈売国騎士団め!〉
〈袋叩きにしろ!〉
五機の暁がこちらを囲む。だが、幸也は守るのではなく敢えて中央の機体に突っ込んだ。虚を突かれ、反応が送れた中央の機体はコールブランドで串刺しになり、そのまま串刺しになった機体を別の一機へ投げつける。激突した機体の爆発に巻き込まれてもう一機も爆散し、残り三機。
〈この野郎!!〉
刀で斬りかかるが、間合いがまるで分かっていない。同じ武器なら間合いの長いこちらに分がある。懐に飛び込むという弱点を分かっていても、全く遠い。
刀を持った腕を指のハーケンで破壊し、そのまま蹴りで頭ごとコクピットを潰す。今度はハーケンで右腕を絡め取られるが、二機の砲撃をブレイズルミナスで受け止める。攻撃がやんだところでハーケンのワイヤーを掴んでそのまま引き寄せる。パワーではこちらが上である以上、汎用型の暁が勝てないのは必至。引き寄せられた機体にコールブランドを突き刺し、最後の一機へ向かう。
〈ひ!な、なんで『正義の味方』の俺らが負けるんだよ!〉
最期の言葉がそれか……どうしようもない馬鹿だ。
左腕でMVSを抜き、そのまま暁を真っ二つにした。
セルフィーは幸也の暴れぶりを見て、一部だが理解できた。一度は親に捨てられ、兄と姉が親の代わりだった。それが、今の父に引き取られて初めて親の温もりを知った。もしも、革命政府がブリタニアに取り入るための材料で姉を欲して、そのために父を殺したら?
そうなっただけでも、セルフィーは迷わずブリタニアに着いただろう。幸也はベクトルこそ違うが、同国人の被害者。違うとすれば、敵に父を、母国に母と姉を奪われたこと。
セルフィーはなりかけたからこそ分かるし、自分もその母と姉の中に入っていただろう。
〈砲撃部隊、秀作と幸也が突出している。援護に回れ。〉
「私が行きます。艦内待機の砲撃型をこっちに回せますか?」
モニターのライルはその進言に異議を唱えた。
〈待て、君は初陣だぞ。〉
「今幸也は完全に頭に血が上っています。このまま暴走させたら、布陣も崩れかねないでしょう?」
〈……分かった。だが、無理はするな?〉
その後、幸也とその指揮下の部隊に後退の指示が出され、セルフィーと彼女の随行のガレスが砲撃で後退を援護した。
「全く、意中の女性が絡んだからか聞いてくれて助かった。」
「殿下は人のことを言えませんよ。」
ゲイリーに釘を刺され、ライルは……
「秀作の方はどうなんだ?」
「既に後退を始めております。自分達の孤立を見越したようですな。全く、憎んでいる祖父の才能かそれとも…」
「よう、日本万歳って言えよ。」
〈ひ、こ、殺さないで!〉
破壊した暁のコクピットにいたのは若い女だ。しかし…
「俺や突然変異種共にカミカゼを押し付けて、自分はそれか?死ね。」
コクピットを海に向けて投げつけた。既に脱出機構は破壊されており、コクピットはただの棺桶だ。叩きつけられた衝撃で中の人間も死んだ。
「ほら、偉大な将軍畑方源流様のお孫様はここにいるぞ?」
アストラットに追加されたアヴェンジャーユニットのロングソードを右手に持ち、左手の指で相手を招く。
「日本独立をないがしろにする売国奴だぞ?枢木スザクの同類だ、来いよ。」
〈馬鹿にしやがって!〉
〈ジジイの傘を着るだけのガキが!!〉
どっちがガキだ。魔物どもめ。
散々、俺に奴の孫だから独立させろ、独立の計画を立てろ、ブリタニア軍を撃退する法案をよこせなど、出来ないことをブランドでやれると決めつけてできなければできるまで痛めつけようとするか、無理やりその知識を叩きこもうとする。
「魔物らしい思考回路だな、本当に。」
長剣で暁を一機両断し、更にヴァリスを取り出してハドロンモードで航空艦を一隻、フロートを破壊した。これで墜落は必至だ。
「ほら、『洗脳皇子』に洗脳された被害者を救出する気もないのか!?」
どいつもこいつも、偉そうなことをほざいておきながら実際は他力本願だ。
「ジジイが駄目ならば、孫の俺が死ねば自分達が諦められるから死んでほしい?死にたいなら、お前らだけが大好きなカミカゼで死ねばいいんだよ!」
長剣で次々と暁を両断していき、敵がこちらに迫ってくる。ならば、と長剣を収納して今度はMVSを抜く。スピードは落ちているとはいえ、基本は相手より上だ。暁の編隊を次々とMVSで両断し、トドメにとヴァリスでE.U.の海上艦を二隻沈めた。
〈秀作、前に出過ぎている。〉
ゲイリーの方から連絡が来て、秀作は周囲を見る。確かに、少し前に出過ぎている。
「少し暴れすぎて、敵がこちらを包囲しようとしている。すぐに後退する。」
雛は後方からハドロンバズーカで砲撃をしていた。初陣のヴァルとセルフィーも一度秀作と幸也の支援に出て今は艦内にいる。
「さて、KMFも良いけどやっぱりこういう場合は叩くのは帰るお家よね。」
こういう時、ローレンスの長距離砲撃機能は便利だ。バズーカをドッキングさせ、照準を絞る。今の位置から一番近い相手だ。
トリガーを引き、ドッキングモードの砲撃が暁とヘリを薙ぎ払って航空艦を一隻粉砕した。母艦を失ったKMFはそれだけで燃料切れになるのを待つだけだ。当然、その分無事な艦がカバーに入るがそれだけ補給と修理も負荷がかかる。
「撃ち落とすのも良いけど、実はちょっと壊して逃げ帰らせるのも良かったりして。」
そうなれば、パーツの消耗が通常より増えて手も足りなくなる。補給線を断つのと同じく、補給用の艦を潰すのもやはり基本戦術として良いと分かる。
「みんなも撃ち落とさなくても良いから。とにかくフロートなり武器なり壊して逃げ帰らせるだけでも充分よ。それだけで手が減るし、お家が減ればいずれ定員オーバーにもなるわ。」
〈イエス・マイ・ロード。〉
砲撃部隊は意図を察し、艦上のサザーランド・スナイパーとパンツァー・フンメルのキャノンを装備した部隊はこちらの艦隊に近づこうとするKMF隊を次々と攻撃し、撃ち落とすか後退させる。
早速みんな、大暴れです。ルーカスはバカバカ撃ちまくってます