池田は前線部隊の動きに思わず感心した。新型機のパイロット、情報では畑方秀作を含め大半が十代らしいが単純なパイロット技能は間違いなく天分だ。ブリタニア皇族の親衛隊に抜擢されるだけある。何機か初陣のパイロットもいるが、互いによくカバーしている。
素人集団の『黒の騎士団』とまともに戦っていたらと思うと……ゼロの作戦で勝ったのを自分達の実力と錯覚している節はあったが、もしライル達にゼロの作戦を力技でねじ伏せられたら目も当てられなかっただろう。
コローレはカスタマイズされたヴィンセント・ブレイドのロングソードを振るって、暁部隊を次々と斬り裂いていく。接近戦が得意なコローレのKMFはニードルブレイザーを廃止して、両腕にランスロットと同じハーケンとシールド、更にそれとは別にブレイズルミナスを搭載した大型シールドに内蔵された長剣と標準装備のライフル、機動力をライルの機体ほどではないが上げるために装甲を削っているために通常のヴィンセントより速く、中華連邦とE.U.の熟練パイロットはともかく素人の『黒の騎士団』の一般兵の機体は追い切れずに撃墜されるだけ。
「ふぅ、これでひと段落…ってわけでもなさそうだな。」
フランスに現れたあの指揮官機、ローランだ。パイロットのクラリス・ドゥ・ピエルスは恐ろしいほどの美女で、ライルに拘っているという。あの貢ぎ物の女達を返す際にも梃入れをしてくれたそうだ。
「殿下へのラブコールなら出遅れたのではないか?」
〈あら、スタートダッシュが遅れても並ぶくらいはできるんじゃなくて?〉
ロングソードで相手の剣を受け止める。剣の長さは相手が上だが、それ以上に武器も機体も敵が上だ。競り負ける前に、距離を取った。
「せっかくだから、捕虜になって私とベッドインしない?第八皇子の親衛隊、コローレ・ホーネットよ?」
〈いや、顔は見たけど好みじゃない。〉
「あらま、分かりやすい答えですこと。」
なら、ライルに献上してみるか?もう一度斬り結ぶが、今度は相手が引き下がった。そのタイミングでハドロン砲を撃ってきた。盾で防ぎきるが、そのわずかな隙をついてローランのミュルグレスが襲ってきた。後退がギリギリで間に合い、撃墜は避けられたが盾を持った左腕をやられ、その衝撃を受けた。
「ぐっ、『ラウンズ』クラスか!?」
追撃を仕掛けてきたが、後続の親衛隊のガレスとグロースターが援護射撃をした。ローランはそれに合わせて後退していく。
〈コローレ卿、ご無事ですか?〉
「ああ、なんとかな。」
〈我々が戦線の維持を引き継ぎます。一度帰還を。〉
「頼むよ。」
ヴェルドはヴィンセント・サラマンドラのガトリング砲を雨のように撃ち散らした。
「そら!この程度切り抜けられないんじゃ、日本独立なんて夢のまた夢だぜ!?」
挑発は含んでいるが、事実だ。こんな『下手な鉄砲』も避けられない素人集団では勝てない。あの紅月カレンや藤堂のレベルならば肉薄される。
〈なら、これでどうだ?〉
鳥…東洋の伝承に出てくるそれの頭を模したような赤いKMFがやってきた。フォルムはあの神虎によく似ている。バリエーション機?
長い槍を持っている、ライルと同じような戦闘が得意なタイプだろう。だが…
「こちとら、大将の槍でなれてるんだけどね!?」
〈そうか、ライルと同じ武器ならうれしいよ!〉
誰だか知らないが、若い女の声だ。全く、我が友ながらこうも若い女の受けがいいのは忌々しいというべきか羨ましいというべきか。
赤いKMFの両腕のハーケンが襲ってきた。もし、神虎と同じならば電撃が来る。ヴェルドは腰のハーケンで撃ち返した。
だが、相手は速かった。右腕のハーケンを高速回転させて襲ってきた。
回転の速度でこちらを押し切る。と思われたが、違った。左腕のガトリング砲が斬られた。まるで剣で斬られたかのように。
「おいおい、電撃より怖いぞ。」
カメラのズームで見えた。あれは暗器を模したハーケン、先端がナイフになっている。量産試作機なら、そういうスペックダウンはあるがあれは怖い。コクピットにでも当たれば、たちまちミンチにされてしまう。
左腕でMVSを抜いた。しかし、あのスピードでは相性が悪い。
敵が槍を振るい、MVSで受け止める。武器のパワーも同等だ。距離を取ってアサルトライフルを撃つがハーケンの高速回転で止められる。ハドロンブラスターに切り替えようとしても、あのハーケンが相手ではやられかねない。
「となりゃ、ケツまくってにげるか!!」
機体の負荷を無視して、最大スピードで後退して海面すれすれまで逃げる。相手も案の定、追ってきた。
「まだ死にたくないのでね!」
ハドロン砲を海面に向かって撃った。KMFを覆うには十分な波しぶきと水蒸気が発生し、ヴェルドはそのまま後退した。
「一旦帰還する。なんか、大将御指名の女がいたぞ。」
〈また?もう、私達だけじゃ物足りないの?〉
優衣が文句を言い、リーザも参加する。
〈後で私達みんなを相手して?〉
モニターから笑い声が聞こえる。間違いなく、ライルが笑われたのだ。
〈殿下、皇妃方と良好な関係はよいですが慎んでください。〉
〈…善処する。〉
ハリファクスの高速スピードに着いていけるKMFはそうはない。現状、あるとすれば同タイプのトリスタンとブラッドフォード、他の『ラウンズ』や皇族専用に開発された第七、第八世代相当機だ。
そのスピードでクリスタルは両腕のルミナスコーンを展開し、そのまま航空艦に突っ込んだ。メギドハーケンを覆ったエネルギーは船体を突き破って撃沈に追いやり、そのままKMFに変形して中華連邦の竜担に取り付いてMVSでブリッジを破壊した。そして離脱。
一撃離脱をやらせれば、たとえベディヴィエールでもハリファクスに勝てない。そんな自信さえクリスタルにはあった。と、今度はKMFの編隊がやってきた。だが、動きが素人すぎる。再びフォートレスモードに変形し、ハドロンスピアーで何機かまとめて撃ち落とす。間を置かずにまた変形してMVSで撃破、また離脱する。
そこに青いKMFが現れた。E.U.でライルを苦戦させた蒼天だ。蒼天はハーケンを発射し、クリスタルもメギドハーケンで弾き飛ばす。
「池田誠治旧日本軍少佐、ですよね?」
〈E.U.政府の采配で今は中佐だがな。〉
昇進、か。それにしてもこの男ならば大佐は行けるだろうに。
「第八皇子殿下の親衛隊、クリスタル・ウィスティリア。名目、だけど第一皇妃です。」
〈それはおめでとう。新婚なら退いてくれまいか?〉
「それは無理ね…夫に良い所見せたいの。」
MVSを抜いて、蒼天に向き合う。蒼天もまた、前と違う刀を構えた。前のはかなり大振りだったが、今回はいかにも日本刀といった武器だ。
ハリファクスのMVSを受け、蒼天が左腕でつかもうとするがもう一本でそれを阻み、フォートレスモードのハドロンスピアーで攻撃する。蒼天も輻射波動砲で迎撃し、二機の砲撃が強力なエネルギーの反発で爆発を引き起こして、両軍が思わず戦闘を停止した。
しかし、そのままルミナスコーンで突っ込んだハリファクスは蒼天にかわされ、また左腕に掴まれそうになるが回避する。
フォートレスモードじゃ危ないわね。
最強の火器を封じられる形になったが、負けないように戦うことにしよう。
再度MVSで斬り結び、左腕による攻撃を防ぎ続けて両者は膠着状態に陥った。が、蒼天の方から後退した。
「見逃してくれた、で良いのかしら?」
とはいえ、こちらもエナジーがそろそろ厳しい。クリスタルも貴下のKMF隊と共に後退していった。
デビーはヴィンセント・ガルムのクローを展開した。ベディヴィエールのハーケンと違い、完全なブレイズルミナスの手甲として運用するこのクローは攻防一体の武器だ。クローと同時に展開されたシールドを盾に海上艦の対空迎撃をくぐり抜けて、クローを船尾にたたき込んだ。
「退艦する時間は与えてやるよ。」
次にアサルトライフルでヘリの部隊を撃ち落とす。
秀作やクリスタルほど派手な立ち回りはしていない。しかし、無駄がない戦い方で分隊の指揮もこなしている。器用貧乏、といえば器用貧乏だが裏を返せば手堅いタイプなので、軍学校時代からの付き合いであるライルはそこを重宝していた。
「こちらは守り切れば勝ちだ。いずれ攻撃が息切れする。功を焦って死んだら終わりだ。」
マルセルはE.U.の海上艦を見つけた。銀と緑に塗られたヴィンセントでランスを手に突っ込み、迎撃を行っていたサザーランド…エストレヤを串刺しにした。横にいたグラスゴーとパンツァー・フンメルが攻撃小とするが、フロートで空へ逃れたために二機は同士討ちになってしまう。
「ったく、国が変わって少しはやる気が出てもこの程度か。」
上空へ逃れたところにヘリが機関砲を撃つが、躱されて逆に味方の艦を撃ってしまった。
テレサは銀と赤の『ミカエル騎士団』の色に塗られたヴィンセントで出撃していた。フロートで海面すれすれを移動し、フロートに換装された中華連邦の陸上観…竜胆に接近する。気付いた鋼骸が迎撃するが、ヴィンセントの機動力に追いつくことが出来ずに下に回り込まれた。
「元が陸上艦だから、フロートさえ壊せば!」
ライフルでフロートシステムを破壊し、竜胆は船体を傾かせた。更にもう一つのフロートを破壊して完全にバランスを崩して海に着水した。
ここまで来れば、もう沈没しないようにフロートを維持するのが手一杯だ。修復にも時間がかかる。
「このままこちらの艦隊を後退に追い込むわ!続いて!」
イシカワで迎撃するブリタニア軍で、木宮は先だって出撃していた。
〈木宮卿は複雑なのではありませんか?〉
「そりゃあね……でも、今あたしにとっては相棒が大事だから!」
ゲライントのルミナスアックスを抜き、暁を一機粉砕した。そこから間髪入れずにハーケンでヘリを一機撃破する。
「向こうも気合い入ってるわ!素人のイレヴン集団だと思ったらこっちが殺されるわよ!舐めちゃ駄目!」
〈イエス・マイ・ロード!〉
尤も、この部隊にそんな選択肢はない。何しろシルヴィオは現場主義……ライルの人種や爵位を度外視する考えにも好意的だ。ここにいる親衛隊も現場のたたき上げ。本国でぬくぬくしてた騎士は当初平民出身者や木宮を甘く見ていたが、完膚なきまでに負かされてその考えを改めた者ばかり。
「素人に毛が生えた連中が勝つには複数対一じゃないと勝てないわよ?」
フクオカではクレアが白とライトグリーンのヴィンセントで出撃していた。ライルのエース達のような武器の追加はない代わりに、専用のOSと機体本体のパワーを上げているので、稼働時間を犠牲に通常以上のポテンシャルを発揮している。
グロースターよりもパワーを上げたランスで暁を貫き、ライフルで迎撃のミサイルを全て撃ち落とす。更にハーケンで敵の航空艦に取り付いてエンジンをライフルで破壊する。
〈クレア、中央の方は任せるわ。右翼はアル、左翼はルビーでお願い。〉
右翼にはクレアと同じ色に塗られたグラビーナのヴィンセントが、左翼にはルビーがエルシリアの軍では珍しい『ラファエル騎士団』の銀と青に塗られたヴィンセントが出ている。
親衛隊と『四大騎士団』のエースだった二人の戦いもクレアに引けを取らない。
「相手はユーロピアじゃないけど、私だって『四大騎士団』の端くれよ!」
『ラファエル騎士団』の色で塗られたヴィンセントが航空艦の真上に回り、ランスを突き出して急降下する。物理的な力で航空艦の装甲を貫き、真下から飛び出した。
〈メイフィールド卿、無茶をしないでください!〉
親衛隊に窘められ、ルビーは一息つく。
「ごめんなさい、少し熱くなったわ。」
池田は蒼天の輻射波動砲で艦隊に直接攻撃を仕掛けるサザーランドの部隊を撃ち落とした。
「陣形に穴が空いた!そこから攻め込め!」
KMF隊が崩れた陣形に攻撃を仕掛け、ブリタニアもそこを防ごうと横から攻撃を仕掛ける。池田も援護するが、流石に向こうにとっても負けられない戦い。
「攻めきれない……攻撃しつつ後退しろ!」
ルーカスは火力にものを言わせて撃ちまくっていた。エイゼルやギース、フィリアもヴィンセントで暴れていた。
「ちっ、この俺に指揮を執らせないとは!」
シュナイゼルはあろうことか、ライルに指揮を任せた。そのライルもレイシェフの方が上だからと固辞したが、宰相命令としてライルは逆らえず、レイシェフが助言をするという条件で妥協した。
「俺様こそが相応しいというのに、どいつもこいつも。」
ラモラックのミサイルで敵の砲撃を全て撃ち落とした。
まあ、良いさ。俺様を蔑ろにした報いは受けてもらおう。
ライルの皇妃は勿論、レイシェフの再婚相手と目されるアールバリ家の女……目をかけている小娘は顔は申し分ないが、身体が貧相だ。ああいう子供を好みそうな貴族に売ってやろう。
クルークハルトは銀と茶色に塗られたヴィンセントで暁と交戦していた。MVSでフロートを破壊し、ニードルブレイザーで別の機体のコクピットを潰した。
「ユーロピアの本隊と大差ない。所詮ゼロの作戦と藤堂の指揮で勝ってきた素人か。」
正規の訓練を積んでも、やる気のないE.U.と素人の集まり。これをまとめる指揮官達は大したものだと思う一方、そんな連中しかいない相手に僅かに同情してしまった。
大雑把ですが、『ユーロ・ブリタニア』のメンバーも頑張ってます。
E.U.と『黒の騎士団』の素人集団。
ライルの場合
「十人いて、やっと数字札一枚分。ゼロやバルディーニ将軍の苦労をお察しする。」
ゼロの場合
「十人いて、ポーン一個か。分かっていたことだがな。」
という具合です。数は多いけど、ポーン一個や数字札一枚もない奴ら。
かたや、自分達が国や人種、爵位でクイーンや絵札、Aだと錯覚しているブリタニア。
本編なら、ゼロもコーネリアもスマイラスも星刻も当てにしないでしょうね。
こっちでは、ライルもシルヴィオもエルシリアも当てにしません。実際、当てにならないでしょう。