幸也は補給を追え、パラディンで再度出撃した。そこへ、暁の指揮官型の編隊がやってきた。早速ハーケンで一機を攻撃すると、今までの敵よりもあっさりと終わった。まるで反応できていない。
「なんだ、こいつら?今までの素人連中より酷いじゃないか。」
〈何をしているか!奴は第八皇子の手先だ!この行村鷹一のために戦わんか!!〉
何、今なんと言った?行村?
母さんと、姉さんを殺したあいつが…今ここに?
あの日……保護を願い出たと思ったら、いきなり幸也は押さえつけられて母と姉は組み伏せられ、服をはぎ取られた。そして、男達によってたかってなぶられ、泣き叫んで…最後は壊れ、用済みと言わんばかりに頭を撃たれた。
『君の母と姉はこの日本独立の勇士、行村鷹一の戦いに貢献したのだ。君は母と姉を誇るべきだ。』
自分が民間人、それも自国民にしたことをやっていいこと、どころか自分は何をしても良いと言わんばかりの態度。挙げ句に、自分は正義のために戦うからやっていい。
以後、奴の名前を忘れたことは一度もない。奴がしたことを他のゲットーの住民やテロリストに言っても嘘…挙げ句に「母と姉が内通した」、等と日本に都合のいい理屈を振り回して日本軍を擁護するクズ共を殺しまくった。子供も殺した。擁護する奴らの子供なら、一味だ。
日本軍やその血縁など、敵に決まっている。そう信じて疑わず、あのホテルジャックだって日本軍人ならやると確信していた。幸也の憎悪は父を奪った敵よりも、母と姉を弄んで奪った自国の軍人に向いていた。長野や秀作にしたって、E.U.でパリを陥落させた頃にようやく信用するようになった。
「行村…行村!!母さんと、姉さんの…!!」
〈幸也?幸也、どうしたの!?〉
優衣が呼ぶが、聞こえない。いや…
「うるさい!母さんと姉さんを殺した奴が目の前にいる!!今ここで絶対に殺してやる!!邪魔すれば、どいつもこいつも殺してやる!!!!」
暁の編隊に突っ込んで、二本のMVSで手あたり次第に暁を斬る。相手も迎え撃つが、まるでなっていない。大方、奴の下で甘い汁を吸って実戦らしい実戦をしてなかったのだろう。美辞麗句だけを鵜呑みにするとは。
奴の部下らしいがな。
十機近くいた暁を全て破壊し、残りは奴一人だ。
〈ひ!わ、私を誰だと思っているのだ!私は日本を、いや世界を救う行村鷹一だ!君はナンバーズなら、私に従ってあの『洗脳皇子』を!〉
「黙れ!!」
コールブランドを手に突っ込み、直参仕様が右腕の砲弾を撃つ。しかし、当たる前にブレイズルミナスを展開した腕で弾き飛ばした。直参仕様は背中を向けるが、左手のハーケンで捕らえ、そのまま引っ張り寄せる。
そのまま、下半身を斬って、両腕を破壊して頭を掴む。
「おい、俺はお前に母と姉を殺されたんだよ。」
〈き、貴様の母と姉だと?〉
「ああ、お前にとってはその場の欲望を満たすための獲物だろうが……俺はお前を片時も忘れたことないんだ。あの、戦後直後からな。」
戦後直後?母と姉……
行村は思い出した。そうだ、あの時髪を縛った十歳くらいの少年を抑え、その母と姉の身体をいただいた。母も姉も相当の上玉だった。あれは楽しめた。
なのに、少年は殺してやると叫び続けていた。
と、新型機パラディンの背中から人間が出てきた。カメラが映して、その顔は覚えがあった。あの時の少年だ。間違いない。
「そうか、あの時の!立派になった!さあ、私に着いてきたまえ!君の母と姉は私が日本を、いや世界を救うために多大な貢献をしたのだ!!君にはこの私の片腕になる栄誉をやる!欲しいものをくれてやるぞ!地位でも金でも女でも!!」
「そんなものいらない。俺が欲しいのは、お前の首。お前を肯定する奴らの死だけだ!!」
少年の姿が機体の中に消え、パラディンがコクピットハッチを砕いた。
「ひ!!」
そして、パラディンの手が行村の身体を掴んだ。
「な、何を!?」
〈決まってる、こうするんだよ!!〉
行村の身体が空高く放り投げられ、そこへパラディンが突っ込んでくる。
〈母さんと姉さんの仇だーーーーー!!!!〉
パラディンの長剣が行村目掛けて、剣を横に振るわれた。
え?これは何だ?何が起こっている?
私は日本を背負って立つべくして生まれたのだ。こんなところで死ぬわけがない。そう、私はその使命を背負っている。だから、あの戦争でも生き延びた。
そのために英気を養うべく女を奪って何が悪い?私のために死ねるのは幸せじゃないか。
愚かな民衆はゼロや藤堂、挙げ句に海棠や池田にまで現を抜かした挙げ句に『ヴェネツィアの鯨』などという詐欺師に踊らされている。
大体、なんでこんな前哨戦ごときで私が前に出なければならないのだ。勝ち鬨を上げるのが私の役目。そこで自分がやったと誇張すれば、ゼロなど簡単に追い落とせる。なのに、指揮官達は私を前に出した。
奴らはこの私を妬んでいるのだ。世界を解放したら、ゼロと藤堂は処刑する。そして、この私の才能を理解しない池田と海棠を殺し、あの中華連邦の男も、亡命貴族も殺して私が君臨する。
そうだ、私は死んでいいわけがない。これは何かの間違いだ。この少年は第八皇子に洗脳されたのだ。だから、私の崇高な理念が理解できない。こうなるはずがない。そう、この私は世界の英雄、行村鷹一なのだ。死ぬわけが
最期の瞬間まで、自分が死ぬという現実を理解しないどころか自分に都合のいい妄想だけを広げて、行村の身体は文字通り砕け散った。残った僅かな肉片は海に落ち、魚のえさになった。
「はぁ、はぁ…はぁ!」
やった。ついに、奴を仕留めた。長かった…夢に出るほどに奴の傲慢で身勝手な妄想を聞かされたあの日を見た。それがようやく……
幸也の中には達成感はあった。だが、同時にわかっていたことでもある。奴を殺したって、母と姉は戻らない。それでも、奴のことだ。殿下に万が一のことがあれば浄化だ制裁だと言って有紗達を弄んでいたのは想像に難くない。セルフィーだって間違いなく狙われていただろう。
〈幸也、気が済んだ?〉
セルフィーのガングランがハドロン砲で援護し、周囲の航空戦力を撃ち落として他のガレスとグロースターが来る。『フォーリン・ナイツ』所属機だ。
〈聞こえていたよ、お前の恨みは。〉
〈俺らと根本的に違うお前は特殊過ぎるが…とにかくいったん下がれ。〉
「…分かった。殿下は?」
〈………止めても逆効果になりかねないから、いっそ暴れさせようだって。〉
「そうか、戻ったら罰則だな。」
シルヴィオはゼラート・G・ヴァントレーンと斬り合っていた。以前のシュテルンという機体とは違う、ガウェインタイプの大型機だ。彼はアルプトラウムと紹介した。
肩の盾に内蔵された長距離砲や多彩な武器で苦戦を強いられるが、シルヴィオは踏みとどまっていた。
〈流石だな、皇帝即位の暁には『ナイトオブワン』兼任を掲げるだけのことはある!!〉
「お褒めにあずかるよ!」
長刀で唾ぜりあうが、武器のパワーではこちらが。機体のパワーでは相手の方が上だ。一旦距離を置いて、再び切り結ぶの繰り返し。
が、遂に動いた。正確にはシルヴィオとゼラート……どちらも剣戟の衝撃で体勢を崩した。その隙を逃さないと他の機体が攻撃をしてきた。そこへ、
〈殿下!〉
ブランドナーだ。ヴィンセントで暁の編隊を迎撃する。しかし、相手が皇族であると分かっているからか数も多い。親衛隊も何機か撃墜され、暁の改造機部隊が現れた。
シルヴィオは後退しようとするが、アルプトラウムが邪魔をした。そして、その相手をしている間にブランドナーのヴィンセントは撃墜された。
「ブランドナー!!」
〈殿下…ご武運を!〉
ヴィンセントが爆散し、シルヴィオは一瞬放心状態になる。
「ぐ……!!おおおおお!!!」
力任せにアルプトラウムを押し返し、暁の改造機部隊に襲いかかる。素人集団より良い動きをするが、何機か撃墜する。
〈さがれ!俺達の手に負えねえ相手だ!!〉
一機が味方を後退させようとする。剣でぶつかり合うが、シルヴィオは腰のハーケンで相手の腕を破壊し、そのままMVSでコクピットを貫いた。
ゼラートはニコロスの救援に向かうが、シルヴィオの親衛隊に阻まれた。そして、ニコロスのデメルングが貫かれた。
〈お前と…ウェンディの家庭……みた、か…!〉
一瞬、ゼラートは操縦を忘れてしまった。頬のぬれる感触が分かった。
「ニコ、ロス?」
〈中佐!!〉
ウェンディの声だ。ゼラートから乗り継いだシュテルンで親衛隊のグロースターと新型のウォードを撃墜する。
〈一旦下がって!〉
「あ、ああ…!一度、陣形を立て直す!」
シルヴィオはアルプトラウムが後退するのを見届けた。今撃墜したパイロットが奴にとって、大きな意味を持つ人間だったのだろう。
らしくもない感傷だ……
名前を知ることもなかった敵パイロットにシルヴィオは胸に左手を充てて哀悼の意を表する。そして、ブランドナーにも……
「……ブランドナーが死んだ。こちらも一度指揮系統と陣形を組み直す。」
〈イ………イエス・ユア・ハイネス!〉
旗下のKMF隊が下がる中、木宮のゲライントが近くにきた。
〈大丈夫?…な、訳ないわね。休んで良いのよ。〉
「……いや、やれる。」
〈駄目よ……ブランドナー将軍は死んじゃって、貴方まで死んだらここは破られるわ。泣いて、弔うのは後にして……そのために今は休んで。」
本当に…この男は気が回る。平民感覚の女房役という表現が本当に似合う。
「分かった……お言葉に甘える。それまでの間は、お前が中心になってくれるか?」
〈ええ、任せて。〉
エルシリアは出撃し、グラビーナの部隊に合流して敵のKMF隊を食い止めていた。
「グラビーナ、敵の攻勢はまだ終わらない!一旦後退しろ!」
〈お言葉ですが、姫様!まだ戦えます!!〉
そうは言うが、一度補給に戻って再出撃してからずっと戦いっぱなしだ。
〈ちょっと失礼!〉
敵の声がした。あのモーナットという機体……
「海棠隆一!」
〈ああ、久しぶりだね姫様!〉
「姫様!」
あの日本軍人……資料で見た男だ。軽薄な装いだが、『ユーロ・ブリタニア』だけでなく本国の部隊も撤退せしめる手腕。主観だが、あの『奇跡の藤堂』と五分かそれ以上かもしれない!
グラビーナは補給の事など忘れて、エルシリアの援護に回ろうとする。しかし、暁が二機…間に入った。どちらも指揮官タイプだ。
〈悪いわね!〉
〈大佐の邪魔はさせない!〉
二機の暁を相手にグラビーナは持ちこたえる。だが、ベイリンとモーナットは斬り結んでいる。
「セラ、エルが敵KMF隊の指揮官を抑えているわ!今なら砲撃で本陣を攻撃できる!」
〈はい!〉
クレアに応え、セラフィナのベイランがハドロン砲を構える。長距離砲撃が得意なベイランなら、この距離でも本陣に攻撃できる。当てる必要はない。危機感をあおれればそれだけでも意味がある。
ハドロン砲が敵艦を狙う。しかし、敵艦には届かなかった。分かっていたことだ。
バルディーニは敵の砲撃型…ベイランの威力に舌を巻く。まさか、ランスロットのタイプでここまでの距離を実現するとは。『双剣皇女』の短剣、セラフィナ・ギ・ブリタニア。侮れない………だが、あの距離で狙うのには動き回っていては出来ない。
「敵の狙いは自分に攻撃を集中させることだ。相手にするな。艦はKMFの回収限界点前まで下がれ。」
「しかし、それではKMF隊が…それに、敵が距離を詰める可能性も。」
「それが狙いだ。今のに味を占めれば、袋だたきにしてしまえばいい。」
艦隊はやや後退するが、追ってくる気配はない。
「『双剣皇女』……やはり強い。それとも、補佐に優秀な将軍がいるか?」
グラビーナは敵の後退に好機を見た。エルシリアが敵のエース機と交戦し、セラフィナとクレアが敵艦に攻撃をした。航空艦を一隻、被弾させる程度だがそれでも意味がある。
相手の指揮艦は手強い。万が一にでも、エルシリアが戦死或いは捕虜になる事態だけは避けなければ。
「敵艦に直接攻撃を仕掛け、姫様から敵を引き離す!続け!!」
グラビーナの指示を受け、KMF隊の一部が続く。
〈待て、グラビーナ!戻れ!〉
〈罠だ、後退しろ!〉
エルシリアとウィンスレットが呼ぶが、聞こえていない。
ヴィンセントの機動力で迎撃をくぐり抜けてE.U.のリヴァイアサンに肉薄した。しかし……
〈グ、グラビーナ卿!〉
〈囲まれました!〉
しまった!!いつの間にか、ヘリとフロート装備のKMF隊に囲まれていた。
さっき交戦していた暁の指揮官型が後ろから刀で突き刺した。
〈馬鹿……〉
〈忠誠心と無謀をはき違えるなよ。〉
若い男女の声だ。あの、海棠の部下だろう。
ああ、本当に馬鹿だ……
戦果を挙げて、エルシリアに求婚しようなどと考えていた。この戦果でこれまでの気持ちを打ち明ける。
舞い上がっていたのかもしれない。その結果、自分だけでなく兵士を死なせた。
姫様……申し訳ございません。ですが…………愛しております。
セラフィナはグラビーナのヴィンセントが爆散したのを見た。
「ア、アル?」
〈セラ、泣くのは後!!ここで貴女まで突っ込んだらおしまいよ!!エルを一人にするの!?〉
「姉さんを…一人?」
そ、そうだ……私は皇女。ここで感情にまかせて暴れるのは簡単だ。でも、それで姉さんだけでなく大勢の兵士を死なせれば。
〈貴女だって、生きてあの子に会いたいんでしょ!泣いて弔うのは生き延びてから!!エル、貴女も!!一旦下がって!!〉
〈あ、わ、分かった!私達は一旦下がる!戦線を維持する部隊は!?〉
〈既に用意してあります!!〉
戻った幸也は命令無視を咎められた。が、現状が現状………特にお咎め話だったが。
「次に命令無視をすれば、一週間は独房だと思え?」
「は、申し訳ございません。」
「迷惑をかけた。」
「……戦闘はまだ続く。二人も休め。」
二人が退場した後、ライルはトウキョウの動きを確認する。つい先刻、ようやくゲフィオン・ディスターバーが解除されて政庁の防衛戦力が回復した。
トウキョウ租界へはルキアーノが援軍に行った。彼ならば大丈夫だろうし、『グリンダ騎士団』もいる。そこへ……
「太平洋上に友軍の艦。識別信号は…え?」
「どうした、涼子?」
「む、向かってきているのはグレート・ブリタニアです!!」
グレート・ブリタニア!?皇帝の旗艦じゃないか!!
「皇帝陛下が戦場へ来られるのでしょうか?」
ゲイリーの分析は常識で考えれば、そうだ。兵達の士気を高めるだけでも効果がある。しかし………
幸也の復讐はあっさり達成されました。まあ、当然でしょう。
自分は英雄だ、何だと威張り散らして前に出ない奴と復讐のために前で戦い続けた本物の歴戦の獣。
自分で狩りをすることもせず、やり方も忘れ、爪と牙を研ぐのも忘れたライオンが…小さい爪と牙でも狩りを続け、獲物を仕留めた若いライオンに勝てるわけがありません。
ライルは正にこれ。『爪と牙は衰えたけど、群れを率いる能力や狩りの教え方がうまい年寄りのライオン』、『爪と牙は小さいけど、獲物を追い込むのがうまいライオン』を当てにして、『爪と牙だけは立派だけど、自分でやらないライオン』は絶対に当てにしません。
山羊とライオンなら、角で戦おうとする山羊の方がふんぞり返って何もしないライオンより頼りになるでしょうね。
そして、シルヴィオではダールトンに当たるブランドナーが、エルシリアとセラフィナではエルシリアを愛していたグラビーナが死んでしまいました。
ブランドナーは単純に力と数、グラビーナはどこかで舞い上がると共に忠誠と愛が判断を狂わせてしまいました。
実は掲示板でもこの二人は死んでます。それを書いたのは保存し忘れて、今ここで入れました。
また、ゼラートも付き合いの長い相手だったニコロスが死に、自分でも驚くほど涙が出ています。