木藤涼子は応対をする従者に頼んで、ライルとの面会を取り付けた。相手はブリタニア皇族。何を考えているのか分からない。
「ねえ、お姉ちゃん。何もそこまでやらなくても。」
「あんたね、相手はブリタニア皇族なのよ?父さんたちを殺したあの皇女の兄だし、表向きの方針も似てるんだから、疑うのが当然でしょ。全く、単純なんだから。」
「でも、=虐殺皇子も安直じゃない?」
優衣の問い返しに涼子は詰まった。単純なようでこの子は核心を突くときがある。確かに『全てのブリタニア人=ユーフェミア』とは涼子も思わないが、感情として皇族はすぐに信用できない。
まして、ネットでは彼はイレヴンのメイドを愛人にして、東洋人が好みなどと言われている。それを裏付けるようにイレヴンとブリタニア人のハーフを騎士にしている。実力のほども噂の度合いもどこまで本当かわからないが、半分でも事実ならば普通警戒する。ああ見えてかなりの女好きなのかもしれないのだ。
そう考えている間に、件の皇子がやってきた。少し、疲れているようにも見えた。今朝もうなされていたようだが。
「要件は?」
「…私達をどうする気なの?か…身体とか、夜の相手ならしてあげる!」
「は?」
ライルが間の抜けた声を出した。
「でも、それは私だけにして!妹には手を出さないで!私なら、好きなだけあげる!自分で言うのもなんだけど、胸が大きいでしょ!?」
「あ…だから、そういう意図は。」
「取り繕わないで!そんなことするくらいなら、相手をしろってストレートに言って!」
「ちょっと、お姉ちゃん!人に言っておいて、自分はそれ!?抜け駆けしないでよ!」
「はぁ!?」
優衣が急にライルの腕にしがみつき、自分よりも大きな胸で腕を挟む。
「相手がどんな人かまだ分からないけど、私はこの人は信用できるって思うの!それに…ライル・フェ・ブリタニア様!」
「は、はい!」
「好きです!一目ぼれしました!愛人になります!」
「な!あ、あんた何言ってるのよ!?相手は父さんたちを殺したブリタニア皇族よ!大体、相手にされるわけないでしょ!?」
「じゃあ、枢木スザクはどうなのよ!どっちが誘惑したか、なんて証拠ないじゃない!」
「あっちはあっち!こっちはこっちでしょ!」
だが、優衣は怯まない。
「恋愛は勢いよ!ガンガン行かなきゃ出遅れるの!大体、あんなオークションで買われてそういう扱いする気がないなんて嘘にしたって下手でしょ!しかもこんなにかっこいいんじゃ惚れるわよ!」
「どういう方程式よ!?」
「そんなだから、お姉ちゃん彼氏できないのよ!でかい胸で誘える相手もいないんでしょ!?ああ、そう言えば私の方が大きかったわね。何せ今年でJカップだし。」
「な!わ、私だってIよ!ワンサイズ大きいくらいで威張らないでよね!この、デブ!」
「何よ、ブス!違うってんなら、お姉ちゃんもやってみなさいよ!」
涼子は頭に血が上って、張り合ってライルの右腕に胸を押し付けた。
「殿下、ウチの妹が馬鹿で申し訳ございません!お詫びに私が今夜のお相手をいたします!だから、妹は帰してあげてください!」
「何よ、横取りしないでよ!部下で良い男探せばいいでしょ!?」
「うるさい!この人が一番安全そうなのよ!?」
「ライル様、私が今夜相手をします!」
「ウチの妹に手を出さないで!今夜、私を滅茶苦茶にしていいから!」
「私の方がお姉ちゃんより胸大きいです!」
「腰は私の方が細いわよ!」
「何よ、インテリ気取りのガリガリ女!」
「うるさいわよ、単細胞デブ女!」
二人とも、豊かな胸でライルの腕を挟んで喧嘩をしている。端から見れば、男の取り合いに見えるが内容が内容なだけに只の姉妹喧嘩、それも酷く低レベルなものになっていた。
「……喧嘩なら他所でやってくれないか?」
「ほら、お姉ちゃん!離れてよ!」
「あんたこそ離れなさいよ!私はあんたのために言ってるのよ!?」
「嘘仰い!お姉ちゃんこそライル様狙ってるんでしょ!」
「違うわよ!」
まるで聞いていない。
「あ、あの……お取込み中のところ恐縮なのですが。」
救いの手が来た。テレサ・スクラーリがやってきた。
「問題の件で、全員ではありませんが裏がとれたので。」
「ああ、分かった。そういうことだから、放してくれないか?」
「はーい…」
優衣が不服そうに離れる……
「まあ、この後でもう少しまともな会話をしたいから。」
と、今度は顔が明るくなった。
「え、脈あり!?」
「なぜ、そうなる?」
前向きなのか、それとも馬鹿なのか。
移動中に……
「な、なんかすごいことになってましたね。」
テレサが顔を真っ赤にしている。
「言っておくが、私はあの二人を口説いたつもりはないぞ?」
「そうなんですか……ち、ちなみに口説くならどっちを?」
「敢えて言えば、妹の優衣………何を言わせるんだ?」
「……だって、あの二人凄く可愛いし胸もその…非常識なくらい大きいから。」
同性でさえ見とれる、か。肉体関係を持っているクリスタルを知っているライルから見ても、あの二人はすごい。年齢から計算すれば、将来的にクリスタルを超えるのではないだろうか?
何より、物事をはっきりというあたりは…二人ともジュリアに似ているが、雰囲気で言えば妹の優衣の方が似ている。
「いずれにせよ、今は有紗を助けることに集中だ。」
あの夢が現実になった後で、等と考えたくもない。
「あの事務次官、本国にいた頃からマフィアに便宜を図ってたらしいぜ。代わりにいくらか小遣いもらったり、他にも平民や下級貴族の女の子を手下に攫わせたり、いくらか分けてあげたりして他の奴らを手なずけていたんだ。」
「よく、調べられたな。」
「租界で誘拐事件が何度か起こって、警察への捜索願が受理されてもいつの間にか死亡か行方不明ってケースもあったからな。それが、あのオヤジが来てからだ。」
「ゲットーのチンピラを金で釣ったそうですよ。」
ヴェルドとコローレの解説を聞き、ライルは呆れるが同時に感心もした。
「なんでそういう根回しや手を違う方向に活かせないんだ。」
ゲットーの方に少し目を向けろ、とは言わないが租界の安全などに目を配ってその実績で出世すればいいだろうに。
「『ブラック・リベリオン』で治安が不安定になっているここは、奴の格好の狩場というわけだ……警察、軍、政庁役人には?」
「租界やゲットーの可愛い子を金と一緒に渡してるそうだ。戸籍管理がクロヴィス殿下の時より安定しているとはいえ、ゲットーなら足が着きにくいからな。」
「殿下がお会いになっている山本政務官はそちらも気にかけておられるのですが…今の状況では。」
だろうな……『ブラック・リベリオン』の後では彼も強く出られない。
「いずれにせよ、ギルフォード卿達はともかく現状政庁は敵陣だな。」
全く、これじゃあゼロの方が分かりやすいくらいだ。
「本国にある奴の本宅にも探りを入れてもらっています。この二人の『アルガトロ混成騎士団』時代の伝手でね。」
翌日……事務次官の屋敷に荷物が運び込まれており、有紗が政庁からいなくなった時間を計算するとその可能性が濃厚だ。
「もう、なりふり構っていられないな。このまま手遅れになって、有紗が殺されでも…殺されでもしたら証人がいなくなってしまう!」
「名誉ブリタニア人の証言ってのも、弱いけどね。」
ライルはヴェルドの皮肉交じりの現実論を睨みつけた。
「事実でしょ?ま、だからって他に証言を取れる人がいないんじゃあ、ナンバーズでもいいって発想は分かるが。」
「……殿下、素直に言っていいですよ。彼女を汚されるほうが優先順位は上だと。」
コローレの茶々にライルはうつむくが……
「余計なことですが、私にもあれより二つ年下の娘がおります。それがもし、今回のようなことになればと思えば、私も本音はそちらです。」
「おお、堅物のゲイリーのおっさんが大将の肩もった。」
「その前に、ナンバーズでこう考えられるのがあたしにとっちゃ奇跡だわ。偽者じゃないわよね?」
雛が本気で疑ってかかる。
「…お前は自分がその顔でその危険性がないから余裕だな。」
「まあ、風穴空けられると泣く子がいるって保護者さんに注意喚起受けたわ。」
ウェルナーの母のトゥーリアの事だろう。あの人は雛に対して、本気で感謝しているようだった。
「なら、お前は今回後詰だ。少数精鋭による突入作戦だからな。」
丁度今日は事務次官が休暇を取っている。決行は日が暮れる頃、あの男の生活態度は屋敷の使用人たちに聞き込みをしたところ、気に入った女は最後に回す。今回の場合はおそらく有紗だろう。クリスタルやレイまでいたら順番は前後したかもしれないが、ライル不在を狙って攫うのなら、そうなのだろう。
「有紗…無事でいてくれ。」
「大将、やっぱやめといたらどうだ?」
「そんなこと言っていられるか。」
作戦はシンプルだ………奴は各方面から恨みを買っている。特にあの男の被害に遭った娘達の親、特に軍や政庁にいる人間からも報復もかねて助力を得ている。彼らは思想面ではライルと合わない者もいるが、娘を弄ばれた報復のために助力してくれている。『敵の敵は味方』、とはよく言ったものだ。
有紗は黒服に連れられて事務次官に押し倒された。
「嫌!放して!」
「そうはいかないね……君はこれからは私の相手をするのだからね。」
無理矢理唇を奪おうとするが、何とか押しのけようと抵抗を続ける。ならばと、相手は今度は有紗の衣類を下着ごとはぎ取った。
「ほう、流石は皇族のお気に入り……」
いや!私はライル様のものなの!!誰か、助けて!!
願った時…屋敷に振動が走った。同時に、銃声も響いた。
「な、なんだ!?」
「旦那様、襲撃です!」
「なんだと!?テロリストか!?」
「それが、ブリタニア軍です!!」
軍が襲撃?
有紗も分からずにいる今、事務次官が腕をつかんだ。
「えぇい、お前は人質だ!ライル殿下ならば通じるかもしれん!」
屋敷の使用人達も大なり小なり関わっているとはいえ、事務次官とは違い民間人だ。屋敷の角から少量の爆弾で爆破し、更に窓ガラスを割る最初の銃撃以外は鎮圧用のゴム弾を発射した。
使用人たちに怪我人が出たが、ライルにとっては自業自得だ。事務次官にさらわれた女達はもっとひどい傷を負わされたのだから。本音を言えば、もっと料理してやりたい。
使用人の一人に銃を突きつけ、ライルは詰め寄る。
「おい、事務次官は…この屋敷の主人はどこだ?」
「さ、三階の寝室…」
「上がって、どちらだ?」
「み、右奥です!」
「そうか……命は助けてやる。」
本当は皆殺しにしたいが、その暇はない。早く行かなければ!
一階と二階の制圧は部下達に任せ、ライルはヴェルドとコローレを連れて三階へ上がる。そして、階段の前に差し掛かったところで……
「これは事務次官……夜分に無礼な訪問をお詫び申し上げます。」
「で、殿下…」
青ざめている。どうやら、こちらが来たという予想はしていたようだが、こんなに早く出くわすのは想定外でもあったようだ。有紗も身体にシーツを巻いた状態でいる。
「さて、彼女を返してもらいましょうか。それと、貴方にはいくつかの容疑があります。マフィアへの資金提供に政庁関係者への贈賄、彼女を誘拐した時のカメラ映像も改ざんされており、それが貴方の指示だったと自白しました。」
事務次官の顔色がどんどん失われていく。もう、こいつにチップはない。
「バストアウト。ポーカーの用語で……まあ、分かりやすくいえば負けですよ。前任者はNACからの利益供与で武器を横流ししていましたが、今度は同国人相手。ああ、租界の若い女性も誘拐されていましたね。貴方が犯人だと聞いて、協力してくれた役人や軍人もいました。」
次から次へと、自分が終わっていく事実を告げられてもはや顔面蒼白だ。
「あ、で、殿下…そ、そうだ!」
事務次官は大慌てで有紗をこちらに差し出した。
「この娘はお返しします!まだ、手を付けておりません!本当です!そ、それだけではありません!おいくらでその娘を買ったのです!?それほどの上玉なら十万はするでしょう!その二倍、いえ五倍出せます!ま、まだ私が手を付けていない娘もおります!」
「……皇族への贈賄って、重罪だよな?」
「皇族批判、にはならんが贈賄の現行犯でなら逮捕できるぜ。」
「贈賄が効く相手もいるでしょうが、相手が悪いね。」
ヴェルドとコローレが畳みかけ、更に…
「あ、言っとくけど俺らに女の子やるのもダメよ?ウチの大将、そういうの嫌いだから。」
「な、で、殿下とてゲットーや平民の娘を侍らしておられるではないか!『ユーロ・ブリタニア』の女もお気に召したから」
天井へ発砲し、ライルは黙らせる。
「生憎、それ前提で側に置いた覚えはない。よく言う職場恋愛だ…お前と一緒にするな。大体、あのオークションだって買わなければ何を言われたか分かったものではない。」
「あ、う、撃て!」
黒服が出ようとするが、ヴェルドとコローレが先に撃ち殺す。
「さあ、どうする?」
「あ、で、殿下…!そうだ、実は後日別のオークションがあるのです!費用は私が負担いたしますから!」
ライルはため息をついた。この期に及んでまだ命乞いか……
「拘束しろ…絶対に逃げられないように全ての証拠を法廷に突き出す。奴が買収しそうな裁判官や弁護人、検事は全て抑えろ。一切のレイズを許すな。」
既に力が抜けた事務次官を振り払って有紗が歩み寄ってきて、彼女を後ろに回してマントを掛けようとした。が、それが油断だった。
「大将!」
ヴェルドの声に気づき、振り返ると事務次官が銃を向けた。いくら反射神経の良いライルでも、気付いた時に動けなければ意味がない。
「ライル様!」
有紗がライルを突き飛ばした。ほぼ同時に銃声が響いた。
「……あ、りさ?」
体温がどんどん失われていく。そんな奇妙な感覚がした。
有紗が、死んだ?僕の、せい?誰が殺した?ああ、こいつだ。これがやったんだ。
「うわああああああああ!!!」
ライルは事務次官に襲い掛かった。相手が身を守ろうと銃を撃とうとするが、所詮は素人。外れて、ライルは顔面を殴りつけた。
「ごぶぉ!」
倒れこむが、ライルは馬乗りになって殴る。殴って、殴って、殴って、殴りまくる。
「ああああああああああああ!!!」
「ごぶ!ぐげ!だ!だず!だずげ!」
まだ、命乞いか!この汚らわしい豚が!いや、一緒にしたら本物の豚に失礼だ!!
ライルは立ち上がり、銃を撃つ。狙いなど定まらず、滅茶苦茶に撃つから何発かは床にめり込む。古い火薬拳銃だから銃声もブリタニア皇族や軍が使う銃よりも響く。
「が…だ、だず…げ、で…」
まだ生きているか!
今度は剣を抜き、腹に剣を刺す。
「ごぼぁぉうぉ!」
更に何度もさす。
「ごぶ!げぶ!ゔぁが!げ…、……が!だ……ず、げ!だ…」
滅茶苦茶に刺し、ついに一発が心臓に当たった。
「げぼぁ!」
更に今度は喉を貫く。
「が、っゔぉ!」
何十回刺したか分からない。そして、今度は刺し傷が残っている頭を踏み砕いた。何度も何度も!
「大将!やめろ!」
「殿下、やめなさい!」
誰かが両脇から抑えた。こいつの一味か!?
「離せ!お前達もこいつの一味か!殺してやる!」
「馬鹿、よく見ろ!俺達だ!」
「黙れーー!!!……ヴェルド、コローレ?」
二人が大きなため息をついた。
「ったく、目が覚めたか。殺されるかと思った。」
「邪魔をするな。息の根を止めてやる!ここの奴らを皆殺しに!」
コローレがビンタを二発食らわせた。
「しっかりしなさい!もう、一番の獲物は死んでますよ!いや、もう残骸です!」
指で示した方向を見ると、そこには肥満体の男だった物体が四散していた。
「あ、有紗…」
「有紗ちゃんも生きてるよ。ほら、よく見ろ。」
有紗が呆然とこちらを見ていた。
「有紗、よかった…弾は…当たってないか。」
「ああ、素人だったのが幸いしたようだ。けど…暫く距離置け。」
「え?」
「あ、あ…」
有紗が何かにおびえている。何に?自分に?
「え?……え?」
「殿下!……」
フェリクスが飛んできた。そして、状況を見て……
フェリクスは大体の察しがついた。肉塊と化した事務次官、返り血をたっぷり浴びたライル、怯えている有紗。何があったのか、そして一発の銃声の後に上から聞こえたライルの怒号に何発もの銃声……
「殿下、暫く落ち着きましょう。それも回収しますから。」
「回収?所謂燃えるゴミにでも出せばいいだろうが…」
「駄目ですよ。抵抗してやむなく殺害した政庁の不正の主犯格なんだから。」
やむなく殺害した、にしては度が過ぎているが実際にライルに銃を向けたのであれば最低限の筋は通る。そのさなかで、指揮官が自制を失ったのは別問題だが。
すぐに死体回収班がやってきたが、流石に死体を見慣れている彼らも口元を抑えた。
「これ、殿下が?」
「……他に誰がいるんです?」
そして、流石に飛び散った臓器などは手で触れないが全部回収され、使用人達もけが人は出たが死者は出なかった。が、当然ながら事情聴取は免れない。ゲットーの住民が相手ではエリア特法で裁けないが、今回の場合は皇族権限侵害の共犯者としての制裁が待っている。
後日、政庁で行われた不正も報道された。租界、ゲットー双方の若い女を誘拐して売春を強要、更に軍、警察、政庁の役員にも協力者がいたという事態を公表し、首謀者の事務次官はエリア11を訪問していたライルに不正を暴かれ、逃亡を図ったためにその場で処刑された。
大まかな筋書きはこれでいい。有紗を含め、全員に政庁から慰謝料を出させることはもう確定している。貴族の場合は今回逮捕された共犯者が経営する企業の株及び経営権の譲渡もつけられ、平民であれば同じく被害者の貴族と同額が、イレヴンにも出すことは難色を示されたが、植民地政策の協力者をつなぎとめるというフェリクスの主張を受け、八割という条件を出した。ライルは同額を主張したが、それ以上はエリア11の内政問題と切り出され、代わりに就職の斡旋や公正な裁判の保証書で妥協した。それでも、その額は六桁の後半だ。
だが、今フェリクスにとってはライルの精神状態が問題だった。有紗とライルの関係に亀裂が入ってしまった。現状、レイとクリスタルも愛人ではあるがライルが一番気に入っているのが有紗なのは新参者も含め、察している者は察していた。
しかも、その自虐も入ってか……ライルは部下達の前で剣の刃を強く握った。
「中島の血を吸った剣に、汚らわしい血を吸わせてしまったんだ。私の血を吸わせるでもしないと。中島達に申し訳が立たない。」
それは本音だろう……だが、その本音に縋って有紗に拒絶された喪失感を埋めようとしている気がした。
これで有紗をエリア11に残せればいいのだが、昨日の今日な上に政庁でこれだ。結局、ライルの側が一番の安全地帯であるという現実論で誰もそれを言えなかった。
今回の後始末は済んだが、精神が安定していないためにライルにはしばらく公務を外れてもらうという提案にほぼ全員が納得し、カラレスを始めとしたエリア11の官僚達には異論を挟ませなかった。元々彼らの不始末に巻き込まれたのだから、挟めるわけもない。
優衣と涼子の低レベルながら和やかなムードから一転。
事務次官をミンチにしてやりました。ここから、身内に害をなす相手を容赦なく食い殺すようになっていきます。
あと、本国の目が届きにくいエリアでなら悪事を働く官僚というのはやはりいると思います。相手がナンバーズだから目こぼししてもらえる、と高をくくってライルにちょっかいを出したのは奴の運の尽きだったけど