ベディヴィエールとユーウェインは斬り結んでいた。既にベディヴィエールはロンゴミアントに持ち替え、激しい戦いを繰り広げていた。
「はぁ…はぁ……ば、化け物だな。」
流石はビスマルクと双璧を成すとまで言われる騎士。彼が今も『ラウンズ』だったらどうなっていたことだろうか。何せ、残ったKMF隊の指揮さえこなしているのだ。こちらはゲイリーに委ねないと集中できないのに。
リミッターを外したベディヴィエールのおかげで彼が自分で明かしたギアスには喰らいついているが、既にいくつもの警報が鳴っている。
「もう少し頑張ってくれ、ベディヴィエール…!」
「く…侮っていた、つもりはなかったが……!?」
〈ヴァリエール卿、オーロラが消滅!天領の遺跡の反応も消失していきます!!〉
天領の遺跡が…!つまり!!
「く、シャルル!!」
〈ヴァリエール卿……終わりです。〉
「ぐ、まだだ!!計画が潰えたなら、シャルルを殺した者…ごぅ!!」
口から吐き出した者が手に付着する。血だ……
「ぐ、もう、限界が…!」
ここまで長時間ギアスを酷使したことはなかった。心臓と脳にかかる負担が限界に近付いているのだ。
「死ぬかもしれないな…!ふ……今さっき殿下に言われたことが突き刺さる。」
生きているかもしれない娘を探そうともしなかった…か。違う、娘は生きている。生きて側にいる。だが、娘自身はそれを知らない。
シャルルのギアスに頼った報い、か。妻を、エルザを喪いアリエッタを遠ざけた。その結果、私は孤独だ…
しかし、ライルはどうだ?母の陰謀で愛する女性を奪われた。
それで諦めなかった。探し続け、そしていま新たに得た、愛する女性。彼を心から愛してくれる女達を守ろうとした。遠ざけたところで安全という保証はない。むしろ、肝心な時に側にいられないと考えたのだろう。
ああ、羨ましい……何故私はアリエッタにそれをしなかったのだろうか?
自分が怖かっただけか?
だが、それでも今この男には負けられない。ここで負ければ、押し殺した感情までも娘のために捨てた自分の命さえも無駄になる。
二機は再び斬り結び、せめぎあう。互いに一歩も譲らない攻防。騎士の品性などない単純な意地と意地のぶつかり合いだ。
「おい、ライル…!大丈夫なのか?」
ヴァルは支援砲撃を行いながらも、ライルの話を聞いていた。未来は目の前にしかない……
そうだな、俺達もあの頃は先の見えない明日に怯えていただろう。父さんに会わなければ、カジノでライルが助けてくれなければこれを聞くこともなかった。がむしゃらだな…あほが着くほど。
「ったく、姉さんもとんだバカに惚れたな。」
〈無駄話は後にして!〉
こちらに来たサザーランドをノエルのパラディンがハーケンで戦闘不能にした。
「悪いな!」
〈後でコーヒー奢って!〉
有紗は胸の前で手を握り、祈った。先ほどの言葉…未来は目の前にしかない。あの言葉が心に響いた。そして、何より。
ライル様……貴方がいなければ、私達はそのきっかけさえつかめなかった。私や優衣にとっては、本当に貴方は白馬の王子様だから。
お願い、生きて帰って!!
パネルを見ながらも優衣、エレーナ、リーザはライルの言葉を聞いて有紗と同じく、内心で祈っていた。美水もまた、胸の前で拳を握って祈った。
共に戦えない彼女達の願いはただ一つ、愛する男の生還それ一つだった。
二機の激闘は続き、遂にユーウェインの剣がベディヴィエールを捕らえた。かに見えたが、左足をパージし、その勢いで斬撃を躱した。
「足と引き換えに躱すとは、大胆ですね。」
〈五体満足で勝てる相手とは思っていません。で、まだ続けるのですか?〉
「もちろんです。ここまで来たら、もう引き下がれない。計画がとん挫したのならば、陛下を殺めた下手人だけでも葬る!!」
ハーケンで突進したベディヴィエールを攻撃する。わずかに反応が遅れ、頭の右半分が損傷する。
「私だって、負けられない!!自分の未来を捨てて、娘の未来をも見ようともしない男には!!」
〈私も負けられませんね!!多くの人間に甘やかされておいて、私ができなかったことをやってのける貴方には!!〉
二人の体力も機体のエナジーも限界が近づいていた。もはや、勝負は次の一撃にかかっている。二機は上空まで飛んで、ベディヴィエールが槍を手に突っ込んだ。
「いくら反応出来たって、正面から全速で突っ込めば関係ない!!」
「速い!いいだろう!!」
ここで引き下がれない。クラレントを構え、槍に対して振り下ろした。
〈でやあああああああああああああ!!!!〉
「うおぉぉぉぉおおおおおおおおお!!!!」
二機が交差した。どちらが勝ったか、双方が見守る中……ベディヴィエールの腕とロンゴミアントが折れた。勝ったのはレイシェフ…
「……見事です。」
振り下ろされた剣は刃に垂直に槍によって斬られ、そのままユーウェインごと真っ二つになっていた。機体を包む炎に焼かれる瞬間…レイシェフの脳裏には最愛の妻エルザの顔がよぎった。
エルザ……ああ、私はどこで何を間違えたのかな?
すまないアリエッタ……お前に、嘘を吹き込み続けた。私のことはいくら憎んでも良い。だが、どうか幸せに生きてくれ。
そして、ビスマルク………一足先に地獄で待っている。
死の間際、レイシェフは皇帝の騎士ではなく一人の父親としてその生涯を終えた。
ユーウェインが爆散し、クレスは呆気に取られてしまった。
「ヴァリエール卿が、負けた?」
〈どきなさい!!〉
レイのヴィヴィアンがこちらを突き飛ばし、槍と一緒にフロートを破壊されたベディヴィエールの落下を阻止するべく高速で突っ込んだ。
「ヴァリエール、卿?」
アリアは自分の目に映った光景が信じられなかった。レイシェフが、死んだ……両親が死んだ自分にとって彼は父親だった。いつの日か、お父さんと呼べる日が来たら…と。
「あ、あ…え?何?これ?」
強い頭痛がした、と思ったら突然いくつもの光景が頭に流れ込む。見知らぬ女性に抱かれ、レイシェフと一緒に歩く幼い自分。自分を抱きしめる母が血を流し、冷たくなっていく。そして、皇帝シャルルに出会った。
「あ、あああぁぁぁぁぁぁ…いやああああああ!??!」
アリアは意識を手放した。
〈アリア!〉
意識を手放す僅かな時間、クレスの声が聞こえた気がしたがアリアはそれが分からなかった。
「この機を逃すな!敵は指揮官の死で動揺しているぞ!!」
ゲイリーが間髪入れずに指示を出し、ライル軍は一機に巻き返した。圧倒的に有利な状況だった『セント・ガーデンズ』はライル達の想像をはるかに超える粘り強さに倒され、バッドビートを喫してしまった。
「く、全軍撤退!煙幕弾を撃て!!」
デルヴィーニュが指示を出し、母艦も砲撃をしてKMFの後退を援護する。ガレスや艦上にいるKMFもありったけの火力で援護し、追撃してきたライル軍を怯ませる。
〈デルヴィーニュ卿、『黒の騎士団』と思しき部隊がこちらに接近してきます!!〉
「ち、急げ!ヴィオラ、クレスとアリアは絶対に連れて帰るぞ!」
〈はい!〉
帰還信号が上がり、『セント・ガーデンズ』は後退。ライル軍も指揮官のライルが意識を失ったこともあり、これ以上の追撃は不要と判断した。
ベディヴィエールの槍は回収したが、全員手酷くやられた。五体満足ではあっても、装甲は細かい傷や小さくひしゃげている。それだけの戦いをしてきたという事だ。
しかも…
「将軍、こちらに接近してくる艦隊!」
〈ブリタニア軍か!?〉
涼子が確認すると…
「いえ、E.U.の海上艦隊及び陸上艦リヴァイアサンが確認されています!フロートシステムに換装したと思われます。」
E.U.という事は、『黒の騎士団』に参加した国の軍隊か。
「残存するKMFを回収、すぐに現宙域から離脱!」
「駄目です!敵のKMFが発進……よ、よりにもよって!!」
「どうした、優衣!?」
「『ロンスヴォー』のローランです。イタリアで運用されるモーナットやシルヴィオ殿下の報告にあったアルプトラウムもいます。」
「な、本当によりにもよってその連中が!?」
最悪だ…こちらは『セント・ガーデンズ』との戦いが終わったばかりでどの機体もボロボロ。まだKMFの回収さえ終わっていない。見捨てれば逃げられるだろうが、そうなれば人質だしライルの意志にも背く。全員が生き残るためにはほかに選択肢はない。
リーザがゲイリーより先に口を開く。
「敵KMF部隊から降伏するようにと。」
同じく、エレーナも続く。
「捕虜の扱いには国際法に則るとのことです。」
ここで戦っても勝ち目はない。せっかく拾った命を捨てるようなもの。
「…やむを得まい。殿下が指揮を執れない以上、私が命令する。万が一の場合には、私が全ての責任を取る。報告書に明記しておいてくれ。」
「……イエス・マイ・ロード。」
ブリッジの全員が復唱し、優衣達が『ロンスヴォー』に降伏を通達する中でゲイリーは有紗と美水を見る。
「お前達二人はここで出来ることはない。殿下を出迎えてやれ。」
「ぁ、はい。」
「ありがとうございます。」
有紗と美水はブリッジを出て、ライルの元へ向かう。そして、無事なKMFを確認する。最初の砲撃で削ったはいえ、だいぶやられてしまった。脱出を最優先にさせたこともあり、人間は残っているし、予備パーツもあるが無限ではない。
「将軍、この場面で投降したのは正しい判断です。」
幕僚の一人が意見し、ゲイリーは「そうか。」とだけ答えた。
「…畑方秀作も無事です。後でお会いになられたほうが良いでしょう。」
「余計なことを。」
レイシェフはここで倒れました。
ただし、ライルもリミッターを外したベディヴィエールで無茶をした結果です。ギアスがない代わりに機体のリミッターを外して、限界まで戦い、勝ったのがスザクとの決定的な違い。
尚、ライルもエクトルやジュリアと……という誘惑を感じたのは本当です。でも、その誘惑を振り払えたのは今支えてくれる人達がいるからでしょうね。
次回からは、また暫くグダグダが続きます。