「扇、ブリタニア軍の艦隊が蓬莱島に向かってきている。」
「何?」
杉山の報告を聞き、扇は確認を取る。
「どこの部隊だ?」
「待ってくれ……シルヴィオ・ロ・ブリタニア、エルシリア・ギ・ブリタニア、セラフィナ・ギ・ブリタニアの皇族三人の軍だぞ。」
何?『侍皇子』と『双剣皇女』!?
三人が三人とも、コーネリアに匹敵するパイロットないし指揮官でその軍隊もコーネリア軍に匹敵する強さ。一体、何故!?
「停船を呼びかけろ。」
「待ってください、向こうから電文が。」
星刻の指示に日向が電文を読み上げた。
「こちらに駐留する第八皇子ライル・フェ・ブリタニアとその部下達の身柄を引き取りに来たそうです。」
「このタイミングで、ライルを?」
ライルが言っている皇帝弑逆容疑、それ自体は未確認情報のままで本国もあまり積極的に動いていない。そもそも、神根島で行方を断った皇帝をそこから離れた小笠原諸島にいたライルが殺すなど物理的に不可能だ。
クロヴィスの時のスザクと同様に、冤罪という見解が議会でも上がっており、彼に好意的な政治家達はこれを皮切りにブリタニアとの交渉を有利に進めようとも考えていた。しかし、肝心の交渉役のシュナイゼルも消息を絶っており、カンボジアにいる程度のことしか分かっていない。
「念のため、ライル本人と引き合わせろ。」
池田はライルを呼びにいった。内容は、シルヴィオ達が引き取りに来たとのことだ。
「兄達が?」
「ああ、どう思う?」
「………陛下を殺そうとした大罪人を処刑しに来たか、否か。これがルーカスなら100%前者なんだが。五分五分だね。」
「昔から、親しくしていたのか?」
「ナナリーやユーフェミアと同じくらい、かな?」
「…そうか。肉親の情というものは誰でも判断が難しくなる。」
「君でも?」
「ああ………私の母はまともな人間だったからな。」
数秒し、ライルが吹き出してしまった。
「私の家と比べれば、世間の母親の多くはまともだよ。私が保証する。」
「それも各合衆国の市民に伝えておくべき事例だな。」
ライル・フェ・ブリタニアの母に比べれば、ブリタニアを含め世間の親は殆どがまとも。笑い話にもならないだろう。
上陸許可が下り、セラフィナは真っ先にケアウェントに乗り込んで艦内を走り回った。同じログレス級でも、勝手が違う。
「どこ、どこなの?」
そこへ、有紗を見かけた。
「有紗!」
「セ、セラフィナ様?」
「秀作は!兄さんはどこなの!?」
「ま、待って!今呼びますから。」
五分後、ライルがやってきた。兄の無事な姿を見て、セラフィナは飛びついた。
「兄さん!」
「セラ…!すまない、心配をかけた。」
「本当に!……私がどれだけ心配したと思ってるんですか!?」
ライルが背中を軽く叩いて宥め、離れた。
「それより、君が会いたいのは私よりも…」
「セラ?」
聞き覚えのある…あの皇帝弑逆未遂を聞いてから、ずっと聞きたかった声。振り返ると、彼はそこにいた。
「秀作?秀作、なのよね?」
「……他の誰に見えるんだよ。ゼロなんて言うなよ?」
憎まれ口……ああ、間違いない。
「秀作!!」
ライルの時以上の勢いで抱き着き、秀作もよろめいた。
「お、おい!大袈裟だぞ…!」
「いや!離れない!どれだけ心配したか知りもしないで!!もし、あなたが死んだら私はもう…!」
もう、生きていく自信がない。彼がいない日々なんて………無色も同じだ。ライルとエルリシリアでもこの色は埋められない。
セラフィナの中で、秀作の存在はそれほどまでに大きくなっていた。もう、セラフィナは後ろにいるライルすら頭から消えていた。
「秀作、愛しているわ。」
そのまま秀作の唇に自分の唇を重ねた。秀作が離そうとするが、セラフィナはより強く抱き着き、豊かな胸を押し付けるようにしがみつく。
ファーストキスだ……幼少時はライルにあげたいと思っていた。だが、今はこの人に…このまま、全てをこの人に捧げたい。秀作も強張っていた身体が少し柔らかくなり、ぎこちなくセラフィナを抱き寄せた。数秒して離れ…
「あ、そ、それは……いわゆる、プロポーズ?」
いつもの捻くれたような態度がなくなり、むしろ可愛ささえ感じさせる。
「ええ…もう文句は言わせない。私の夫は秀作以外にいないわ。」
「………私が証人にならないと、ダメか?」
ライルの声が聞こえ、セラフィナはようやく自分がとんでもないことを言って、大変なことをしていることに気が付いた。
「え、あ、あの…兄さん!?兄さんがおまけというわけではなくて…その…!」
「もう、良いわよ…私とクレアも周りを説得してあげるから。」
「そうね……クレヴィング将軍との縁戚ができるならお母様も納得してくれるでしょうから。」
エルシリアとクレアがやってきた。しかも、今の発言から二人も秀作との仲を正式に認めてくれるとのことだ。
「姉様、ゲイリーまで巻き込まないでくださいよ。」
「彼の保護者はクレヴィング将軍だ…自然とそうなるだろう?」
「…それは、そうですが。」
「おい、将来の結婚話はもっと場所を考えてやれ。仮にも敵陣だぞ。」
不機嫌極まりない声がした。シルヴィオだ。木宮とミルカもいる。
「シルヴィオ兄様……ブランドナー将軍のこと、遅ればせながら。」
「…ああ。」
そうだ、ザカライア・M・ブランドナー将軍は『黒の騎士団』との戦闘で戦死した。そして…
「姉様も、グラビーナ卿のこと。」
「……惜しい男を亡くした。」
惜しい男…それは、どういう意味でだろう?グラビーナ自身はエルシリアに心を寄せていたが、肝心のエルシリア自身は特に優秀な部下で、昔馴染みとしか見ていなかった。
「それより、『黒の騎士団』の幹部達と交渉したい。」
『黒の騎士団』からは扇と星刻、藤堂、神楽耶、バルディーニが出席していた。ブリタニアからはシルヴィオ、エルシリア、セラフィナ、木宮、クレアの五人だ。
「まず、そちらがライルを引き取りに来た目的を確認したい。彼は他ならぬ皇帝から弑逆容疑の濡れ衣を着せられている、それが本人の主張だ。」
星刻の確認は最も無難なもの。それに対するシルヴィオの主張は…
「それは私達三人も同意見だ……弟が陛下を弑逆するのであれば、昨年の名誉騎士団の反乱や『タレイランの翼』に乗じた方が成功確率は上だ。」
これもまた、自然な理由かつ同じ見解だ。実際、投獄されていた扇達はともかくそうしたニュースを聞いていた星刻やバルディーニが詳しいだろう。
「確かに、あなたのおっしゃる通りだ。彼が帝位を簒奪するのならば、『ブラック・リベリオン』直後の方が確率は高い。」
「それでは…兄は『セント・ガーデンズ』と皇帝に陥れられた、そこだけでも国際法廷で証人として出頭していただけますか?」
セラフィナの問いに扇と神楽耶は眉を顰める。つまり、ライルの主張を真実と認めるのであれば人道上保護するのは間違っていないし、ライルはシュナイゼルとまではいかないが、反対派からも話が通じる相手と見られている。心証を良くする上でも彼を保護するのは間違っていない。
「分かりました。もし、ブリタニア皇帝が復帰して彼を法廷で裁く場合には、我々も外交ルート上から抗議することだけはお約束します。」
「……それは、超合集国最高評議会議長と合衆国日本代表の双方のお立場、ですか?」
エルシリアの問いに神楽耶は無言でうなずく。
「ならば、それを明記する公文書を私達三人とライルの四人分発行していただきたい。」
「いえ、我がE.U.脱退国の分と日本を合わせて六枚。」
バルディーニの発言に神楽耶が目を丸くする。
「ライル皇子によって将兵と市民を救われた恩ですか?」
「その通りです。」
なるほど、ここでまた大きな借りを作る足掛かりにするつもりか。万が一にでも、日本がこの件を反故にする場合はE.U.の発言権を強くする狙いもある。逆に言えば、本流が素人故に信用していないとも取れるが。
「……承知いたしました。日本とイタリア、ライル皇子を含む皇族四名分の公文書を発行いたします。」
これで、万が一ライルが法廷に出頭することになった場合も超合集国も巻き込むことができる。強引ではあるが、皇帝自身が杜撰な冤罪を企てたともなればライルの無実の証明は勿論、あの男を問い質すこともできる。
尤も、あの男が生きていればの話ではあるが。
シルヴィオは父が何者か…恐らくゼロに殺されていたと考えていた。状況証拠ですらない、憶測だが最有力がゼロであるからだ。
海棠隆一は『双剣皇女』の姉に面会を申し入れ、十分だけ受理された。
「生で見ると、凄い美人だね。弟君の名誉皇妃様方と良い勝負だ。」
「そういうお前は、とても軍人に見えない。ダウンタウンの中年男性だぞ?」
「よく言われる……で、部下の仇討ちする?」
「ここでやれば、弟と妹まで巻き込む。」
流石に皇女なだけあり、そうした使い分けはできる。行村なら絶対にこうはならない。秀作を唆した皇族として殺そうとするだろう。
「畑方秀作と少し話したが……おたくの妹姫と良い仲みたいだね。」
「…それが?」
「いや……親に振り回されたのを救えなかった身としては、あんたみたいな母親代わりがいるのは良いことだと思ったんだ。」
「他人の妹の交友関係に妙な邪推をするな、まして外野のくせに………それと…せめて姉と言ってくれないか?」
「こりゃ失礼。」
どうやら、畑方秀作は自分でも知ってか知らずか、外堀を埋めていたらしい。あいつらが死んでいて、本当に良かった。
シルヴィオはゼラート・G・ヴァントレーンと対面していた。
「部下の敵討ち、するか?」
「戦場でやりたいな……」
「それなら、『ピースマーク』経由で俺に果たし状でも送るのを薦めるぞ。」
面白いことを言う。しかも、現実的だ。実際にカリーヌ・ネ・ブリタニアの騎士、ダスコ・ラ・クレルモンが『オズ』のコードネームを持つ『ピースマーク』のエースに決闘を申し込んだこともあったという噂を聞いたことがある。
「何なら、俺の方から挑戦状を送っても良いが?」
「魅力的な話だ…心に留めておく。」
美恵はアーネスト共に蓬莱島に降りていた。中華連邦の人工島だが、環境は広い。空も広がっている。美恵は大きく深呼吸して、空気を吸う。
「収容所とは雲泥の差ね。」
そして、『奇跡の藤堂』を睨む。会いたいと言って、公衆の面前での面会を希望した相手だ。
「私の『奇跡』をあげつらいに来たのか、君も?」
「あら、話が早くて助かるわ。」
「美恵、少し抑えろ?」
「アーネスト様でも聞けませんわ。」
と、後ろの部下の女が睨んでくる。確か『四聖剣』とやらの一人だったか。
「貴様、日本人のくせにブリタニア貴族の女になったのか?」
お決まり文句が来たか。ならば、目には目を。
「じゃあ、反対に聞くけど……敵性外国人扱いして裏切ったE.U.に味方しなきゃいけない理由は何?こっちは市民権も財産も取られたのよ?それで、共和国市民としての責務なんて言わないわよね?」
それを聞き、随行していた団員も黙る。E.U.からの軍人も遠巻きに聞いており、何も言えなくなっている。
「だ、だが……それを差し引いても何故?」
そして、周りの男達の情欲を刺激するように、両腕で更に大きくなった巨大な胸を持ち上げる。
「私はね…リフレインの代金代わりに親に捨てられたの。流石に13歳の頃はここまでじゃなかったけど、資産家のおじさんや売人のお兄さん方の相手をさせられるところだった。それが嫌で、ゲットーから逃げ出した。」
今でも覚えている。謝罪はあったが、外へ出られると言いわけをしているあいつらの顔を。アレを見て、悟った。
『ああ、こいつらは私の親じゃないんだ』と。本物の親は、収容所へ送られると同時に死んだと。
「周りにいるのと、この島にいる女に聞くけど……E.U.やブリタニアで、ブタみたいにぶくぶくに太ったおじさんの相手をさせられて、飽きれば捨てられるのが日本人の成すべき事、日本人の幸せ?」
誰も、何も言えない。美恵は更に追撃する。
「逆に………若くて見た目も性格も申し分なくて、しかも貴族の当主様って言う豪華なおまけ付きのご主人様の愛人。どっちがマシ?まさか……日本人の女なら、ブリタニアの貴族に身体弄ばれても耐えるのが幸せ、なんて言わないわよね?」
それを聞き、聞き耳を立てていたイレヴン共……特に若い女達は余計に押し黙るしかなかった。
「ああ、先に言っておくけど反論したいなら『魂や誇り』、『ブリタニアが日本を占領しなければ起こらなかったこと』以外で三秒以内に。大体、それであいつらが私を捨てたのを正当化仕様って魂胆が見え透いてるのよ。」
特に後者など、うんざりするほど聞いてきた。捕虜になったE.U.軍のイレヴンにも言ってやったからだ。
「ねえ、『奇跡の藤堂』さん。それでも否定するんだったらさ……今すぐ出してくれない?」
「……何を?」
「絶対の、確実の、100%、天地がひっくり返っても私を売り飛ばしたりしないって確約してくれる親。あんたの奇跡でそれが出来るの?」
沈黙した。出来ないと認めている証拠だ。
「もう一つ……世間様じゃ、親を悪く言うなとか殺すなっていうけど。麻薬の代金代わりにした親を殺すのが悪いの?私には、それをお行儀良く許してあげたりご主人様の家臣に取り立てる方が悪に見えるわ。しかも、あいつらに至っては『捨ててごめんなさい』もなしだった。だから、バラバラにした。どこがおかしいの?」
「同じ日本人でも……君と、私達では置かれた状況が根本的に異なる、と言いたいんだな?」
「そうよ。」
アーネストが肩に手を置いた。
「もう、よせ。彼らがお前の事情で部外者ならば、お前もまた彼らの事情では部外者。私もお前の事情で言えば当事者であり、部外者でもある。」
「同じ部外者でも、自分の国の政策が原因だって言って…負う必要もない責任を負うだけアーネスト様や大公閣下はご立派です。イレヴンでも、自分達が導くユーロピア市民だって言葉が私には救いだったんです。」
「……分かっている。だが、これ以上はよせ。自分を貶めることになる。」
「イエス・マイ・ロード。」
池田とライル、お茶のみ仲間ならシュナイゼルより良いといわれたライル。
ライバルの好感度を上げる事だけはライルはシュナイゼルより上かもしれません(笑)。
Fateでいえばライルの属性は混沌・中庸か、混沌・善、中立・善、中立・中庸のどれかだと思ってます。
そして、美恵のE.U.在住のイレヴンの…極めてレアなケースだけどそういう言い分。アキト小説版で判明したリョウの仲間のマリコの境遇……前も言ったと思いますが、マリコがリョウじゃなくて真っ当なE.U.の資産家や『ユーロ・ブリタニア』の貴族が保護者になってくれれば、そっちに着くのは悪いと私は思いません。もし、ヴェランス大公のような人が真っ当に筋を通し、保護者になってくれて「お父さん」と呼ぶのも悪いと思いません。本気で不憫に思い、使用人という形で引き取りその屋敷内での勉学ならさせてくれた貴族夫妻を「旦那様」、『奥様』と絶対の忠誠を誓うのも一概に間違いと言い切れないです。
スザクがユフィでルルーシュを糾弾したような美恵の境遇。コレもゼロがいれば、ゼロがあげつらわれたことでしょう。ゼロがいないから、藤堂やカレン、扇、神楽耶になった。散々言われた名誉ブリタニア人にしてみれば、ゼロや藤堂こそ反ブリタニアが裏切りと一方的になじるスザクでしょうね。
『日本を占領したブリタニアが悪いから、イレヴン隔離を決めたE.U.とお前を捨てた両親は悪くない』なんて論理が効くわけありませんね。LOST STORIESのマーヤなら言いかねないけど、言ったら幸也と同様に即刻殺しに行でしょう。
捨てられた子供に言って良い言葉じゃないです。表面だけでも、コレは肯定するべきだと思います。
いずれも個人レベルの話ですが。