「ルーカスが私達の討伐に?」
「ああ、どうやら私達がライルを匿っていることをエリスが伝えたようだ。」
シルヴィオの話にライルは純粋に感心し、同時に呆れ果てた。
「流石、政治界プロデューサーだ。あれの情報網はどうなっているのか。」
体制が変わった現在でも、機能する情報網を持つエリス。機情局とは違った意味で、厄介だ。これで積極的にルルーシュに協力していない、否、あえて泳がせてもらっているのだから凄い胆力だ。
「でも、あの人がどうして兄さんを?お父様の弑逆容疑は曖昧になっちゃったのに。」
「ルーカスのことだ…多分、私が今度はルルーシュを狙うとでも主張したんだろう。エリス兄様の場合、狙いは別にあるんだろう。例えば、今後ルルーシュの邪魔になるアレを私達に退治してもらう。」
それを聞き、優衣が憤慨する。
「何よ、自分の手を汚さないで楽しようっての!?」
「そう言わないでくれ…あの人はそうした軍事力や戦争の能力が私達より低い分、権謀術数や献策で勝負するタイプなんだよ。」
しかも、肝心のルーカスは自分が良いように使われていると思っていないだろう。
「自己評価が過大なあの男だ……私達を殺し、その首を持ってきたところでルルーシュを殺すくらいは考えるだろう。」
「そして、自分が即位して貴族制を復活させれば自分の天下が完成する。」
「はあ…あの人の考えそうなことね。」
シルヴィオ、エルシリア、セラフィナがルーカスの考えをそれぞれ繋げた。
「本命はあくまで私でしょう…私達が囮になります。」
「…良いのか?」
「ベディヴィエールの強化は終わっています。試運転なしになるが、レイ達もいる…」
「どうした?」
「いえ、何も。」
有紗はライルの顔が心なしか、曇っている気がした。いや、レイやクリスタル、ゲイリーも気付いている。
もしかして…皇族じゃなくなったから私達がついてきてくれないって、思ってる?
仕えるようになって間もない頃に言っていた…『貴族達が好きなのは自分の地位』だと。地位を目当てに群がる貴族や外国の有力者に辟易している顔を有紗のみならず、ライル軍の主要メンバーはほとんど知っている。
逆に言えば…自分達でさえ、ライルが皇族だからついてきてくれると思い込んでいるのだ。
もし、そうなら………
ルーカスはありったけの武器とエナジーフィラーをもってライルがいるハワイ基地へ向かっていた。
「ハワイの都市も破壊していいぞ。市民もシャルル陛下の弑逆を企てたライルの共犯者にしろ。」
「殿下、それでは現皇帝への反感どころか貴方個人への反感になりかねません。」
「うるさいぞ、マクスタイン。第100代皇帝たる俺様に楯突くか?」
「っ…具申は致しました。」
マクスタインとクルークハルトをはじめ、一部の幕僚や騎士達は気付いていた。自分達は体よくルルーシュとエリスに利用されている。
いくら消耗しているとはいえ、ライルの部下は精鋭揃い。しかもエース級は大半が生き残っており、下手をすればシルヴィオ軍、エルシリア・セラフィナ軍までも相手にすることになる。勝てるわけがない。
だが、ルーカス達は最初から勝った気になっている。
「……万が一に備え、非戦闘員特に女達は優先的に脱出艇に乗せろ。最悪、敵に保護を求めても良い。」
「イエス・マイ・ロード。」
マクスタイン個人も死にたくはない。あの皇子が見ているのは自分に都合のいいビジョンだけ。目の前にある現実を見ても、自分に都合のいいようにしか解釈しない。そういう教育を受けてきたのだ。
マクスタイン家はルーカスの母に仕える子爵家だった。ルーカスが生まれた後はその警護を務めてきたが、本格的にルーカスに仕えるようになったのはルーカスが15の頃。既に今の人格が完成されていた。徹底的に甘やかされ、周りは彼と母の太鼓持ちや同類ばかり。マクスタインは浮いていた。
カミラのような子供をいたぶることさえ、貴族の特権と信じて疑わない。マクスタインもまた、ブリタニア貴族。弱肉強食は間違っていないと信じる。だが、ルーカス達を見ると自分もあのケダモノ共の一味だと何度も見せつけられる。
平民をさほど歯牙にもかけていなかった自覚があるのに、カミラやルーカスに攫われた女達…ナンバーズにさえ甘くなったのは、ルーカスを見た事で生じたそんな自分への自己嫌悪や忌避感だろうか?
仕える主君と、生まれる家を間違えたのかな?私は…
クルークハルトは同輩達と共に女達を脱出用の飛行艇に乗せていた。
「クルークハルト様はご一緒できないのですか?」
「私は軍人だ…今回の任務にも参加する。」
「でも!」
女達はクルークハルトの側を離れたがっていない。
「…『ユーロ・ブリタニア』の騎士として、戦えない女達を逃がす。それが今の私ができる騎士としての務めだ。分かってくれ。」
「……はい。」
「閉じるぞ、機内に入れ。」
脱出艇のドアが閉じ、女達を乗せた飛行艇が次々と発艦する。
「無事に生き延びてくれるといいが。」
「正直、俺は生きて帰りたい。本気で惚れちまったんだよ…ナンバーズなのに。」
一般パイロットの一人が口にした。彼は確か、女を一人囲っていた。といっても、愚痴を聞くか、少し甘える程度だったと聞いているが、そのうち本気になってしまったようだ。
「……そうか。私も生きて帰りたいものだよ。マクスタイン将軍も、あのカミラとかいう娘に会いたいだろうからな。」
「本当にお前達だけでいいのか?」
シルヴィオはハワイ基地を離脱するライルに通信をした。だが、ライルの考えは変わらない。
〈どうせ、ルーカスは兄様達を狙いますよ。〉
〈ならば、なおのことだ。数では相手が勝っている。〉
〈そうですよ、兄さん。私達もいた方が。〉
「我々だけでやらせて下さい。私達に勝てば、奴は調子に乗って兄様達を狙います。」
ライルは譲らない。これ以上は無理だ。シルヴィオはため息をついた。
「分かった、その代わり忘れるなよ。」
〈兄様?〉
「皇室でなくなっても、私達は兄弟だ。」
ライルが何かに撃たれたような表情になった。幼い子供が新しいことを教えてもらったような……
〈分かりました。〉
ライルの通信が切れ、エルシリアが問う。
〈兄上…やはり、ライルは。〉
「ああ、皇子でなくなったから嫌われる…そう思い込んでいる。」
〈皇子でなくなったらって…そんな。そんなことで私が兄さんを嫌いになるって思ってたんですか!?〉
「あれの母親がどんな人間かは知っているだろう?」
ライルは母親から過度な干渉を受けて育った。ルルーシュどころかマリーベルやウェルナーと会うことさえ難色を示されていたのだ。そして、皇子であればこうあるべきなどという教育をされてくれば、必然と心は歪む。
皇子の心構え、騎士としての在り方をシルヴィオも母から教わった。だが、それ以外は比較的自由で木宮との交流も好ましく思っていた。でなければ、彼の家族が本国に在住できる遺言状など遺したりはしない。
「ママは僕に皇子様のブランドがあるから、ママをしてくれてる。だから、兄様姉様も僕が皇子様だから兄様と姉様でいてくれる。自分でも気づかないレベルでそんな風に考えちゃったのね。」
「………あの子達に、お母様を求めているのでしょうか?」
木宮がライルのゆがみを指摘し、ミルカもそれに思うところがあるように右腕を握る。
「母親を求めているのかは分からないが…無償の善意、それこそ家族の情愛や平民レベルのありふれた人間関係に飢えているのは確かだろう。」
だが、気付いていない。死んだフェリクスとセヴィーナが身をとしてライルを救った。それは損得勘定ではないはず。ライルを信じているからこそだろう。でなければ、皇帝弑逆なんて大罪の容疑をかけられたライルを守ろうとしない。
ライル、お前は気付いていないだけなんだ。俺にとってのユウキやミルカが、もうお前にいるんだ。
〈……私、兄さんのそんな悩みに気づけなかった。初恋の人なのに。〉
〈私も同じだ……何故兄上は気付いたんですか?〉
「…俺も昔、そんな時期があった。ユウキやミルカが俺の武術バカぶりを認めてくれたからかもしれないな。」
「あら、素敵。プロポーズ?でもあたし、ノーマルよ?」
木宮の冗談にいくつかの笑いがこぼれた。そして…
「私は結局、二番?」
「そうは言っていないだろう。適うなら、皇妃はお前一人で充分なくらいだ。」
ミルカが顔を赤くし、ほころばせた。
「シルヴィオ様…」
「ああ、後にしなさいよ?目の前の怖い連中を追い払うことも考えないと。」
「皇族でなくなっても、兄弟…」
僕は…皇族だから、ルルーシュを弟だと…ユフィを妹だと思って一緒に遊んでいた?
………いや、違う。そんなもので二人と遊んだつもりはない。弟として、妹として愛していたから一緒に遊んだ。死んだと聞いた時の喪失感…それも同じだ。
「そうだよ…エクトルの時だって。フェリクスとセヴィーナの時も…!!中島を処刑した時だって!!」
ライルはコクピットのコンソールを殴りつけた。
「僕は、馬鹿だ!周りはみんな、あの女だと決めつけていた!!違う人なら、すぐ側にいたじゃないか!!」
ジュリアはライルが皇族だと知っても、あえて問題を指摘した。だから好きになったんじゃないか。ヴェルドとコローレも皇族という地位を知っても、それとこれは別で付き合っていた。
「なんで、あの二人まで死んだ後にそれに気づくんだ…!」
大体、皇族でなくなったら手の平を返すなら『セント・ガーデンズ』の時にすでにやっていたじゃないか。なんで、こんな簡単なことに…
「ぅ…ぐぅ…ぁあ…!」
必死にこらえる嗚咽を漏らしながらも、ライルは頭を切り替えようとする。今は、ルーカスだ。
〈殿下、後でお好きなだけ泣きなさい。〉
「ゲイリー、聞いていたのか。趣味が悪いぞ。」
〈……筒抜けでしたよ。何かの拍子に回線をオープンにしてしまったようです。〉
「な…!」
〈………みっともない姿ありがとう。ま、良いんじゃない?〉
雛は特に気にしていない。
〈お前、俺達より先にセラの方に言い訳考えろ。殴られても知らん。〉
秀作も容赦がない。
〈ライル様………〉
有紗だ。
〈ライル様、私…カイト君のことはもう整理がついていますから。私の責任でもあるから、自分一人を責めないで。〉
「あ、有紗…」
〈その問題で言えば私は部外者だけど、あえてその意見通せば悪いのは有紗の事情や気持ちを自分に都合のいいようにしか見ない、あの馬鹿なんだから。そんなバカのところにいたって、絶対碌なことにならなかったわ。〉
〈今回は妹の意見に同意ね。あいつらのことだから、私達も攫って何をしていたか。〉
優衣と涼子が有紗を一部窘めながらも、先日の事件をフォローした。
〈大体、私達軍学校組は殿下のそういう人一倍甘えん坊のさびしがり屋のくせに強情っぱりなところは知ってるから。〉
〈だな、野外訓練でも意地を張っていた。〉
クリスタルとデビーに過去を暴露されてしまった。
「ぅ…!」
言われたい放題だ。
〈私は、そういうギャップはありだと思います。〉
〈ですね、完全無欠の皇子様なんて絵本の中だけですから。〉
〈人間は誰しも欠点がありますよ…ライル様の場合、それが家庭環境もあってより拗れただけ。〉
エレーナがライルの葛藤を認め、リーザと美水までがフォローに…いや、半分非難も入っているか?
〈ま、良いわ。あの連中の第二陣が来ると思って今は目の前の相手をやりましょう。〉
〈ああ……心機一転と行こうか。〉
セルフィーとヴァルも気合が入り、幸也とノエルも出てきた。
〈行村のブリタニアバージョンなら、遠慮なくバラバラにしてやる。〉
〈私としても、家族の仇討ちができるから頑張りますよ。〉
〈そういうことです……我々全員にとは言いませんが、お妃様方や古株にはそういう顔をしても良いのです。年長の忠告は素直にお聞きなさい。〉
長野にまで釘を刺され、もはやライルは何も言えなかった。それでも……
「一度しか言わないよ………皇族じゃない私として言う。………………ありがとう。」
そして、ライルは涼子が新しく強化したベディヴィエールを戦闘モードに切り替える。
少しだけ、吹っ切れたライル。
ちなみに、有紗を側に置いているスタンス。後書きに載せたか覚えてませんが、ルルーシュと違うスタンスを意識しました。
状況や立場の違いはあるでしょうが、ルルーシュはシャーリーを巻き込みたくないから気持ちに気付いていなかったTVでも、軽めでも付き合っているという映画でも苦心してました。
でも、ライルの場合は有紗を連れていくのは普通は戦場に民間人は非常識。でも、例えば……政庁に置いていって、『自分の目が届きにくいのを良いことに』と考える貴族や軍人がいると考え…というか、決めつけていました。
『大事な人だから、ゼロの自分から遠ざける』ルルーシュと違い、ライルは『遠ざけても大丈夫という確証がないなら、側に置く』です。
実際のところ、オークションなど例外は除いてライルは殆ど有紗を連れていく、またはフェリクスやヴェルド、クリスタルといったエースを守りにつけてました。
でも、実際は『自分が甘えたい、傍にいて欲しいから』と書いてて思うときもあります。