ルーカス軍の主だった貴族と計画に賛同した軍人達は総じて逮捕、ライルを経由してシルヴィオ達に引き渡された。同様に囚われた女達は改めて、ライルに保護されたが問題が発生した。
殆どの女達は毎日のように受けた凌辱で心が壊れ、ライルをはじめ男と見るや怯えるか主人と認識、いきなり身体を差し出そうとしていた。
最初はエルシリアとセラフィナの軍を中心に女達が受け持とうとした。しかし、今度は逆に二人を除いた女達を見るや、同じく攫われた女だと思った。それを否定したら、あまりの境遇の差と理不尽に怒り狂い、暴れて取っ組み合いに発展。危うく殺しかねないような事態にまでなってしまった。
特に有紗や優衣といった極端なパターンの女達への妬みが凄まじかった。クルークハルトやマクスタインをはじめ、少数派の男達が預かっている女達にもその矛先が向く時があったという。
『ブリタニア貴族の自分が地獄を見て、ナンバーズや平民が皇族の寵愛を受けて安泰などおかしい』と喚く女が何人かいた。それに対して、『本人は加担していなくても、多くのブリタニア人が自分は許されて当然という事をされてきたことが跳ね返っただけ。』
そう言えれば楽なのだが、状況と人数の多さ故かナンバーズ出身者でさえそれを言うのを躊躇した。中には、父親の分からない子供を身籠るか飽きられて捨てられる、酷ければ殺されるケースもあったので尚のことだった。
結果、マクスタイン達に保護されていた女達以外は帝都の病院でメンタルケアを受けるべきとの話が上がり、事の次第と今後のためにライルが直接出向くことになった。危険ではあるが、どのみち居場所を感づかれたのであれば新たな部隊が派遣されるやもしれない。なら、こちらから出向いたところで変わらない。
ライルはペンドラゴンに通信を行い、一応の了承を得た。
「久しぶりに会えるのは嬉しいんだが……18歳になったルルーシュ、か。」
最後に会ったのはマリアンヌ暗殺の一月前だったか。あの頃は思いもよらなかった…お転婆で元気のいいナナリーがあんなことになってしまう等とは。
「着いてくるのは有紗と優衣とリーザだけ。護衛はレイだけ。」
「警護がレイだけなら、良いんだけど。私は?」
有紗の疑念はもっともだ。だが、あまり大人数だと本当に弑逆容疑をかけられる。
「もしかして、私とリーザなら自衛能力がないから?」
「…ああ、それもある。」
「お考えは正しいと思います。私と優衣なら足枷になるから…それに、ライル様が私達を置いて逃げれば有紗達からの信頼を崩す口実にもできます。」
「そっか、私は一応銃の訓練は受けているけど…人を撃ったことはないから、数には入らないかも。」
優衣が自分の立場をある程度冷静に分析した。実際、そうだ。
そう、自分が不利になるカードをあえて持って行った方が良い。他意がないことを証明する手段は現状、これだけだ。
ルルーシュはいくつかの貴族と謁見した。現在の情勢の変化に対応するが、待ってほしいという談判の類が主だ。
ライルの騎士、レイ・コウガ・スレイターの母でスレイター侯爵家当主の婦人も軍事以外のジャンルに手を伸ばす財閥を経営していたが、解体を言い渡されていた。
当主の要件は、掻い摘んで言えば「財閥の解体は受け入れる。ただし、再編や業務引継の手続きがあるので待ってほしい」という要望だった。賛同するのであれば、裁く理由はない。また、領地の運営も他の貴族達も説得するとのこと。可能であれば、娘の夫であるライルに寛大な処置を取ってほしいとも願い出たが、それはライルの問題なので却下とした。
そして、そのライルが謁見を申し出た。今後の部下と自分のことについてだった。ライルは強いし、ぜひこちらに欲しい。そしてこちらに引き入れ、ライルもこちらに下らざるを得ない状況にある。
だが、念には念を入れていく。あいつが俺に向かってくるパターンは10もない。シルヴィオ達が加われば、分からないがな。
手を打っておくか。ルルーシュは直属の軍隊に招集をかけた。
ペンドラゴンの宮殿でライルはルルーシュに謁見した。18歳の義弟は白い礼装に身を包み、眉目秀麗な少年に美しく成長していた。今も皇族だったら、きっとルーカスなど遥かに超える人気を博していただろう。
「まず兄として、弟の無事を素直に喜ばせてほしい。ルルーシュ、生きていてくれてよかった。」
「相変わらず、無邪気な善意だな。だが、こちらも素直に受け取る。」
やはり、あのマリアンヌ暗殺で日本に送られたのが根本だろう。精神的に成長が見られる。しかし、直接会うとやはりあの男とどことなく似たものを感じてしまう。
「それで、我が兄はどのような要件で?即位の祝辞であれば、既に事足りるが?」
「いえ、陛下にまずご報告申し上げたいことが。」
ライルは自分を討伐しに来たルーカスが本当はルルーシュを殺そうとしていたこと、自分自身が即位する気でいたことを伝えた。そして、その通信記録も証拠として提出した。
「恩を売るにしては、弱すぎるのでは?」
「承知しております。ですが、どうしても裁くのであれば私だけに。どうか我が皇妃と部下達、領民達、兄達には寛大なお心を。彼らは私の巻き添えを食ったにすぎません。全ては弑逆の疑いをかけられた私の不徳が招いたことです。」
「寛大な心を求めるならば、ルーカスの弑逆告発だけでは不足だ。これでは足りない。条件を追加させてもらおう。」
優衣とリーザは別室で待たされていた。少し前であれば、イレヴンごときがブリタニア宮へ足を踏み入れるなど、と言われていた。しかし、今はルルーシュに忠誠を誓う官僚達で固められているために特に何も言われない。
日本人が日本人として昔みたいに生きられたら、有紗自身もわずかに望んでいたことだ。だが、ここまでルルーシュに忠実だと逆に不気味な気がした。あの即位の場面、ライルは青ざめていた。まるで、鬼と悪魔を同時に見てしまったような。
「ねえ、遅すぎない?一時間は経ったわよ。」
優衣が出された水を飲みながら、時計を見た。そう、謁見を許されてからもう一時間経過している。
「リーザ、どうなの?」
「分からない。皇帝陛下への謁見なんて…私なんかヴェランス大公閣下だって謁見したことないから。」
「私にとっては皇帝も大公も雲の上の人だけど……もしかして?」
「優衣、不敬罪になるわ。申し訳ございません…不用意な発言をお許しください。」
見張りの兵士にリーザが謝罪するが、兵士は特に気にした様子はない。イレヴンごときの戯言、一々気にしていられないのか…それとも?
「遅くなった。」
「ライル様…どうなったんですか?」
「君達とその家族、それと貴族出身者達の財産などの保証は取り付けられた。私の領地やおじい様達も。」
「はぁ…よかった。」
「って、第五皇子に捕まってた人達は?」
「メンタルケア等の条件として、私がルルーシュを支持する。という条件だ。」
え、随分と安すぎる条件だ。それだけでそこまで交渉が長引くのだろうか?
「…時間の割に随分と単純な条件ですね?」
「そうか?弑逆容疑がかかった身としては、短いと思ったが。いずれにしても、不安の種が一つなくなった。戻ろう。」
「イエス・ユア・ハイネス。」
三人が一度に返礼して、彼らは迎えの飛行機でブリタニア宮を後にした。
「随分と回りくどい手を使ったものだな。」
「あの男は甘いからな…これくらいしないと駄目だ。」
「………昔のよしみといっても良いんだぞ、坊や。」
「黙れ、魔女。」
ルルーシュとC.C.は玉座の間で軽口を叩いていた。その真意を知るのは彼らだけ。
戻ったライルからルーカスに囚われた女達の治療および賠償、親族の安全保障のために今後ルーカス軍はルルーシュに忠誠を誓うことを条件に免責が認められることとなった。マクスタインは領地に引き取った少女カミラのために即座に了承、軍の第一線を退くことも表明。同じく『ウリエル騎士団』のクルークハルトも第一線を退くこととなった。
残ったルーカス軍の主だった将軍は逃げだしていたが、全員がルルーシュの追手に見つかり処刑された。結果として、シャルル統治下のブリタニアでマリーベルに並ぶ悪逆な皇子が倒れ、諸外国のルルーシュへの支持はより強くなった。ライルの処分保留も恭順派のルルーシュ支持寄りに傾ける良い材料になっていた。
「エリス…最小のリスクで自分も小さなリターンを得てきたな。」
シルヴィオは義弟の立ち回りの良さにもはや驚きを覚えていた。今回、エリスはあくまでルルーシュに忠誠を誓わないことが分かっているルーカスに敢えてライルという最も食いつきやすい餌をちらつかせ、ライルがルルーシュに着くように誘導した。しかも、間接的にライルの一定の安全確保まで実現した。
「権謀術数ならシュナイゼル兄上に食らいつけるな。私達までがルーカスに狙われたという情報までいつの間にか付け加えている。」
エルシリアもここまで来ると、もう脱帽だった。しかも、エリスがこれの見返りに要求したのは高い地位でもなんでもなく、ライルと同じ皇妃を始め臣下達の安全保障。小さな貢献と小さなリスク、小さなリターンを積み重ねるエリスらしいやり方だ。加えて、ライル達に恩を売るようなことはしていないのだ。あくまでルルーシュの不興を買わない範疇で薬にも毒にもならないように立ち回っている。
ここまで来ると、もはや化け物じみている。
ライルは主立った部下達に皇帝の沙汰を伝えた。
「大将の支持と今後の協力を条件に、弑逆容疑は不問か。随分と安い条件だな。未来永劫子々孫々まで直系に仕えろ位は着けても良いだろうに。」
「事実上、そういう事なのでは?だから、皇妃様方の現状維持を認めた。」
ヴェルドとコローレが言う通りだろう。だが、このまますんなりいくのだろか?シュナイゼルの動きが不透明で『ナイトオブラウンズ』もどうなっているか。
「あ、帝都から中継が。全世界へ向けて発信されています。」
先に気づいた涼子がパネルを操作し、モニターに映った。その映像はギャラハッドとランスロットが対峙していた。ランスロットはエナジーウィングを装備した新型……噂だけはライル達の耳にも入ったアルビオンだろう。
ランスロットはオリジナルを超えるスピードでギャラハッドに迫るが、ギャラハッドも流石に経験の差でビスマルクに一日の長があり、性能差を埋めて互角に戦っている。更に大型機のパワーを接近戦に活かすコンセプトもあってギャラハッドはアルビオンに力負けをしておらず、パワーだけならばギャラハッドはアルビオンより上のようだろう。スピードを始め基本スペックで勝るランスロット、経験と機体のパワーで勝るギャラハッド。しばらくは膠着状態が続くと思われたが……
「なんだ、ランスロットの挙動が変わった?」
「スザク…いったい何を?」
この中で最も実力の高いライル、そしてスザクと付き合いの長い良二はアルビオンの挙動の変化に気づいた。
「さっきまで直線的な動きだった。」
シルヴィオとエルシリア、セラフィナも遅れて気付いた。
「ええ、でも今度はまるで…」
「凄く自由…いえ、何か吹っ切れた感じです。」
先程までの互角の戦いが一転、ランスロットのスピードと挙動にギャラハッドが翻弄され始めた。とはいえ、流石ビスマルク。まだ食い下がる。
そして、ランスロットが正面から突進してギャラハッドが迎え撃つ。二機が交差した直後……ギャラハッドは獲物の剣、エクスカリバーごと真っ二つにされて爆散した。
「ヴァルトシュタイン様が、負けた?」
ライルが呆然とすると同時にここにいる者は悟った。シャルル皇帝治世の最強騎士が敗れた。これは本国内の反対する貴族達の心を折るに十分な成果だ。
それを分かっているだろうルルーシュは超合集国への加盟を申請、交渉には自分一人で行う代わりに場所はエリア11から戻った日本、アッシュフォード学園を指定した。
「アッシュフォード学園って……」
ライルはすぐさまサラに連絡を取った。
「それでは、あの皇帝は生徒会の?」
〈はい、ルルーシュ・ランペルージっていう名前で通っていました。妹のナナリーも。〉
「そうか、ありがとう。これで確定的だな。」
通信を切ったライルは頭を整理する。ルルーシュとナナリーは生きていた。おそらく、戦争の混乱に乗じて日本の大使館にいたアッシュフォード家が二人を保護したのだ。暗殺の手から守り、後々貴族として復帰する足掛かりにもなるかもしれないから。
その後、二人は名字を変えて学生をしていたが『ブラック・リベリオン』でナナリーは本国に戻って皇族として復帰、そしてつい先日までルルーシュはアッシュフォード学園で学生をしていたが、今父シャルルを殺して皇帝に即位した。
二人がどんな8年を送ったかは分からない。だが、父を殺す動機だけは理解できる。これは母を殺し、自分達を捨てたブリタニアへの壮大な復讐なのだろうか?それとも、それ以外に?
そして、ライルは確信していた。シルヴィオ達どころか、有紗達にさえ話せないでいること。
言えるわけがないだろう…!こんなの!
ルーカスに囚われた女達が有紗達に襲いかかる。具体的場面としては入れてませんが、恐らくあり得る話だったでしょう。
典型的な貴族の女ならば、『ナンバーズや平民がこうなるべき』、『ライルとシルヴィオのような真っ当な皇族の寵愛は自分が受けるべき』と言うでしょう。
そんなこといったら、助けてはもらえてもライルとシルヴィオには嫌われること必至でしょう(結局、皇族の寵愛を受ける自分という立場に酔いたいだけと見なされる)。
普通のナンバーズや平民なら「今まで多くのブリタニア人がナンバーズにやってきたことが跳ね返っただけ』と言いそうだけど、ライル達の部下は流石に状況が酷すぎて、何も言えなかったです。こればかりは扇達も何も言えないでしょう。