ルルーシュ皇帝がアッシュフォード学園を訪問するニュースは世界に波紋を呼んだ。一旦トウキョウ租界を離れ、父と共に今はハコネのホテルで滞在しているユリアナ・バルテリンク、リュウタ・ヒダ・バルテリンクもニュースで見ていた。
「ねえ、あの皇帝って良い人?悪い人?」
「…難しいわね。どうして『黒の騎士団』と喧嘩しないで仲良くしたいって、思うのかしら?」
「なんで?あいつらは嘘つきなんだから、仲良くしたってすぐに約束を破るよ。」
『正義の味方』の謳い文句を自分達で破った実例を目の当たりにしたリュウタの意見は、幼いながらも的を射ていた。あれがゼロの意志でなかったにしても、それを徹底させられなかったゼロの責任だからだ。ただ、正式にブリタニアが連合加盟をしたいという以上…だまし討ちをすれば自分達が危うくなるのはユリアナも分かる。
「でも、『黒の騎士団』が嘘をついてリュウタのところのおじさんたちみたいに殺さないようにしてくれるなら、皇帝は良い人になるんじゃない?」
「そうなの?」
リュウタの問いに今度は父が応える。
「難しい質問だな…ただ、これでブリタニアと『黒の騎士団』が仲直りできれば戦争はしなくて済むね。」
ハワイへの駐留が認められたライル達も様子を見ていた。ただし、ライルが一人ルルーシュの真意を疑っていた。もし、本当にルルーシュがそうであるならば皇帝になっただけで満足するとは思えない。『黒の騎士団』に対しても何か復讐を企てるのではないだろうか?
「ライル様…何か気になることがあるんですか?」
有紗の声に我に返った。
「いや…別に。」
最高評議会が体育館で行われて間もなく、突然ルルーシュの周囲をシャッターで塞がれた。
「え、何あれ?いくらブリタニア皇帝だからって、あれは駄目でしょう?」
「これじゃあ、外交マナー違反よ。」
優衣が当惑し、リーザも同じ意見を口にする。
だが、ライルはこれで確信していた。ルルーシュが彼であり、アレを使うのであればその種類は視覚を介するもの。どうやってかは知らないが、やはり『黒の騎士団』の中枢メンバーはそれを認知している。これで各合衆国の代表達をオデュッセウス達のように操れなくするのが狙いだ。それにしても…これは危険だ。レイズに対してリターンが少なすぎる。
ルルーシュはこれを意に介さないで交渉を進めるが、『黒の騎士団』が介入してきた。神楽耶と『黒の騎士団』は各合衆国の投票権がE.U.のような完全平等ではなく、各合衆国の人口比率による差を設けている事実を確認する。中華連邦が解体された現在、世界最大の人口を誇るのは名前を返還しながらも国外的にまだ各国を植民エリアとしているブリタニアだ。
つまり、ここでブリタニアが加盟すれば投票権のほとんどをルルーシュが持ち、事実上超合集国はルルーシュに乗っ取られることとなる。
どうしても加盟したいのであれば、国土の割譲か投票権を下げる条件を『黒の騎士団』が突き付けた。
「言いたいことは分かる…だが、何故『黒の騎士団』がここまで口をはさんでくる?」
シルヴィオの懸念通りだ。『黒の騎士団』はあくまで各合衆国の防衛が主任務、非加盟国の連合参加の是非を問える立場にはない。
「我々や各合衆国の代表達が知らない何かを知っている、と考えるのが無難ですね。おそらく、あのシャッターもそのためかと。」
「それでも、これじゃあ超合集国が不利になりますよ。外交マナー違反と内政干渉なんかしたら、せっかくの対ブリタニア同盟にひびを入れてしまうのでは?」
エルシリアの意見にセラフィナが反論する。彼らがルルーシュを信用していないのは分かる。当然と言えば当然だ。何しろ、シュナイゼルと停戦交渉を結んだ彼らは絶対に世界に公表できない秘密を知っているのだから。
帝都を離れていたエリスは顎に手を当てて分析した。
「ふぅーん、そういうことか。」
「何かわかったのですか?」
ミレイユの問いに対し、エリスは耳打ちをする。エリスはルルーシュがあのオデュッセウス達の変貌と同じ何かを仕掛けると思っていた。それを、あの中枢メンバーが知っている可能性を……つまり、ルルーシュはゼロである可能性。突飛で荒唐無稽だが、そう考えれば辻褄が合うのだ。
「そんな!?」
「確証があるわけではないけど、その通りなら、超合集国はルルーシュに合法的に乗っ取られる。だから、こんな外交マナー違反と内政干渉をせざるを得ないんだ。しかし……その通りなら、ルルーシュが想定していないとは思えないが。」
これはリスクが大きすぎる。もしもやり過ぎれば、ブリタニア側に正統な大義名分を与えてしまう。その上、議長が率先した『黒の騎士団』を私物化していると言われたら余計日本の旗色も悪くなるのでは?
状況が動いた。突然、ランスロット・アルビオンが飛び込んで代表達に武器を向けた。
「え、ちょ、ちょっとこんな事したら!?」
グレースが唖然とした。エリスも内心で動揺している。
「ルルーシュ…こんなことをしたら、いくら最初にマナー違反をした超合集国に非があるとはいえ!」
「せっかく築いた外国との信用まで…!もし、代表達を殺せば…あ、そうか!」
クラリッサより早く、エリスは気付いた。
「ハイリスクのハイリターンか…!ここで代表達を殺せば、議会は機能不全に陥る。」
「殿下!て、帝都ペンドラゴンが!!」
母の縁戚で警護隊上がりの将軍フレデリク・ルーマンがルフィナと共に飛び込んできた。
「今度は何だ、フレデリク?」
「て、帝都ペンドラゴンが消失いたしました!」
「……は?」
いつも気取った余裕の態度を崩さないエリスもこればかりは唖然とした。
「今…なんて?」
ルフィナも息切れしながら、伝える。
「帝都ペンドラゴンが消滅しました…おそらく、フレイヤです。」
アイノがその言葉に呆然として、聞く。
「フレイヤって…トウキョウ租界を消したあの?」
そして、すぐにミリアムが反応する。
「エリス様!生存者の救助に!!」
「無理よ…これを見て。」
ルフィナがモニターを操作し、ペンドラゴンの画像を映す。
ライル達の元にも涼子が慌てて飛び込んで、この様子を映した。
「な!ぺ、ペンドラゴンが…ない!?」
ブリタニアの中枢の都市であるペンドラゴンがあるはずの場所には巨大なクレーターができて、宮殿も街も跡形もなく消えていた。
「……フレイヤ以外に考えられない。やったのは兄上だな?」
シルヴィオがいち早く対応し、全員に問う。
「は、はい!ペンドラゴン上空に…えぇと、要塞というか城と言うか…とにかく巨大な構造物が浮かんでいます。フロートがあるからブリタニア製だと思うのですが。」
モニターには、涼子が言うように巨大な城ないし要塞がペンドラゴンの上空に浮いていた。あれがフレイヤを発射したのだ。
「待て!ペンドラゴンにはオデュッセウス兄上達が!それに、ルーカスに捕らえられた女達も!」
エルシリアが慌ててペンドラゴンの住民のリストと直前の様子を調べるが……
「駄目だ、アクセスできない。」
「そんな…まさか、シュナイゼル兄さんがペンドラゴンを丸ごと?」
セラフィナが愕然とする。彼らの離宮もペンドラゴンにある。もしかしたら、ウェルナーも?だが、それは涼子が伝える。
「……気休めかもしれませんが、ウェルナー殿下は母君とご一緒にご無事です。皆さんの離宮の家臣の方々も全員とまでは言いませんが。」
「あ…そうか。私の件で療養していたのが幸いしたか。」
確か、ウェルナーの母はアラスカで病院を経営している医療法人の貴族。母は医学の知識はあるが、病院経営の才能があり、軍病院の運営にも携わっている。
「ウェルナーがどこにいるかわかるか?」
「待ってください。今…ノームです。ウェルナー殿下の通信回線、繋がりました。」
〈兄上!無事だったんですね!?〉
ウェルナーが涙を浮かべて、顔をほころばせた。
「ああ、なんとか助かったよ。君の方は?」
〈はい、兄上の話を聞いた後に体調を崩して…あ、雛は!?〉
「今呼ぶよ。」
五分後、雛がやってきた。
「悪いわね、心配かけて。」
〈本当ですよ…!でも、生きててよかった。〉
「ええ、そっちでの暮らしは?」
〈先住民族の資料館を見たり、海の近くを歩いたりして少し落ち着きました。でも、雛や兄上がいなくて寂しいです。〉
「ぇ…なにこっぱずかしいこと言ってんのよ?」
再会を喜ぶ二人を皆がほほえましく見守る。が、それは直接会った時にするべきだ。
「ウェルナー、君とトゥーリア様の立ち位置は今どうなっている?」
〈はい、母上がルルーシュに頼んで病院法人の経営自体は認めてもらいました。ペンドラゴンの件は今聞いて、僕も母上やアラスカ州の議会に意見したんです。近隣の住民を避難させるために母の領地を使わせてほしい、と。〉
「それで?」
〈内政機能がなくなって、独自にやるしかないので。ただ近隣住民の避難だけは聞き入れてもらいました。母は今、ペンドラゴン周辺への救援のための医師団を編成しようとしています。アラスカの軍達も動いてくれるそうです。〉
「そうか……自分なりにやれることをやっているのか。」
「……はい、直接行けないのは残念です。何とか、ハワイに行けるようにルルーシュに掛け合ってはみます。」
「……無理、しないでよ?あんたが倒れたら、寝覚めが悪いのはあたしなんだから。」
雛が一言注げて、それで通信が切られた。
「どう思います?」
「ペンドラゴンの住民の生存はまずない。近隣住民の保護はトゥーリア様とウェルナーに任せるしかないだろう。」
エルシリアが言う通りだ。他に手がない。こちらも不用意に動けない。
「念のため、兄様に連絡を取りたい。兄様のプライベート通信を。」
涼子達がシュナイゼルの通信を捕まえるまで、十分もかからなかった。
〈無事だったようだね、ライル。〉
「兄様………単刀直入にお聞きします。ペンドラゴンにフレイヤを撃ったのは貴方ですか?」
〈そうだよ。〉
「何のために……」
〈平和を実現するためだ。それに、ルルーシュに従わされるよりはマシではないかな?〉
まるで、ルルーシュがアレを持っているのを知っているかのような口ぶりだ。
「………こんな暴挙でブリタニアが、世界が貴方を支持すると思っているのですか?」
〈今や、ルルーシュは世界の敵だ。なら、私の行いとルルーシュ…人々はどちらを望むのかな?〉
ライルだけでなく、シルヴィオとエルシリア、セラフィナが息をのんだ。つまり…
「兄上、まさか全て知っていて座視したのですか?父がレイシェフにライルを殺させようとしたのも知っていて。」
〈シルヴィオ、私とて本意ではなかった。だが、被害を抑えるにはそれしかなかった。〉
「助けて、恩を売る道もあったでしょう。」
〈だが、ライルが私に従う保証はない。噛みついてくる獰猛な獣を飼いならすには、しつける時間が足りない。餌をちらつかせて、満足するような子でないことは君達の方が知っているだろう?〉
つまり、共食いしてもらった方が都合が良かったという事。合理的だ。合理的すぎる………
「貴方なら、誰も皇帝に即位したって文句は言わないのでしょうね。」
〈いいや、即位するのは私ではない。〉
「では、誰が?コーネリア姉様が見つかったのですか?」
〈もっと相応しい人……そう、ナナリーだ。〉
「………え?」
な、今なんと?ナナリー?
「い、生きていたんですか?」
〈『グリンダ騎士団』のおかげでね。ナナリーはルルーシュを止める決意をした。ならば、その決意をした彼女こそが皇帝に相応しい。〉
実の兄を止めるために、自らの手を血に染める。
「兄さん、そうやってナナリーが決断するような情報を与えて誘導したんですか!?」
〈セラ、人聞きが悪い。ルルーシュの暴挙はナナリー自身も見ていた。私はそれを都合よく改竄などしていない。〉
「ナナリーの今の性格を考えれば、そう決断するのを見越していたのでしょう?」
〈流石だ、エル。そこまで読んだか。〉
ライルは歯ぎしりした。これが、僕がシュナイゼル兄様に抱いていたものの正体!!
いつからか……ライルはどこか、直観的にシュナイゼルを恐れていた。その真相が分かった。この執着のなさ、あっさりと感情を切り離して合理的に動ける空っぽな人間性が怖かったんだ。
「兄様…今私達にもフレイヤを撃つんですか?」
〈そうしたいが、今はそれどころではない。これから合衆国中華の領空に向かう。ルルーシュを止めるためにね……〉
「つまり、私達は放置しても脅威にならない小物ですか。そうでしょうね、フレイヤで何時でも消せるし、ルルーシュと戦うために無駄玉を撃たないために。」
〈半分は正解だよ、では…これからは敵同士だ。兄妹として最後の忠告…壮健であることを祈っているよ。〉
「……ナナリーに何かあれば、私も許しません。」
そうして、通信が切られた。
「くそ!これでは、手が出せない!!」
あんな高度からフレイヤが飛んでくる。もし、あれを世界中にでも撃たれたら……たとえルルーシュに勝ったところでナナリーを傀儡にした恐怖政治だ。
もう、やれることなどない。あるとしたら……そう、好敵手と戦うことだけ。もう、他に何も見いだせない。ルルーシュとシュナイゼル…どちらが勝ったところで結果はブリタニアの世界制覇が達成される。
ライルが望んだ…エリア制度の変革ないし撤廃も。ブリタニアを巨大な連合国家の一構成国…ダメならば宗主国とする形での各国主権回復も……E.U.と中華連邦との国交回復も……ルルーシュの力、ギアス……シュナイゼルが要するダモクレスとフレイヤの前では、無駄。
「僕が、今までやってきたことは…」
「良いですか、ライル様?」
レイが声をかけると、平手打ちが飛んできた。
「え!?」
有紗が唖然とするが、レイがそのまま胸ぐらをつかむ。
「しゃきっとして!!私達や家族の、ご自分の領地の安全を条件にルルーシュ皇帝に従ったんでしょう!?だったら、今やるべきなのはその条件をどう続けるか!私達の処刑を主張する貴族から必死に庇い続けた、貴方はどこに行ったの!?そんな情けない人の妻になった覚えはないわ!!私達が…私が好きなライル様は、愚直なまでに自分の決めたことを貫く!だったら、どっちが勝ってもそれを貫いて!私を離婚させないで!!」
「………ここまで叱られたのは初めてだよ。フェリクスとセヴィーナでもここまで言わなかった。」
「私も父と母にこれくらい叱られた経験があります。」
「…そうか、立ち直れた矢先にすまない。少し気が晴れた。とはいえ………今の状況ではね。」
待てよ?
「すまない、いわれた側で自分のワガママを優先する。グレイブ・ガロファーノに連絡を取ってくれ。」
「え?」
「ピースマークのネットワークを探してほしい。それを通じて、『ロンスヴォー』に果たし状を送る。」
この流れからして、今ルルーシュ側は内政機能がマヒしている。ならば……
リュウタにとって、ルルーシュはいい人になります。理由はお察しを、とだけ。
エリスも状況証拠だけではあるけど、ルルーシュ=ゼロを疑うようになりました。ギアスまでは辿り着かなくても何かあるとは踏んでいるところまで。余裕綽々なところがあったけど、流石にあの事態は予想外でした。
次は、ライルの最終決戦及びその準備です。