ちょっと、大容量です
〈反ブリタニアテロ派遣ネットワーク『ピースマーク』に頼ってまで、何をするのかと思えば……〉
「彼らの戦力は強大だ。君に迷惑はかけない。」
ルルーシュはしばし、沈黙する。
〈いいだろう。捕虜にしたその者達の処遇はお前に一任する。〉
「……つまり、私の部下に引き抜いても良いということか?」
〈お前が気に入るのがいて、手綱を握れるのならな。〉
「ありがとう。」
通信が切られた。そして………
「『ピースマーク』に繋がりました。」
「よし、電文を送れ。」
「『ピースマーク』から我々宛に?」
「は!」
バルディーニが部下から電文を受け取る。
〈『ロンスヴォー特別機甲連隊』へ告げる。我ライル・フェ・ブリタニアは貴軍をルルーシュ陛下の覇道を阻む害虫と見なし、ここに駆除を決定する。さりとて、無辜の民を巻き込むことは望まない。指定した地点にての交戦を望む。要求に応じない場合は軍隊としての責任を放棄した物と判断して蓬莱島に直接攻撃を仕掛ける用意がある。〉
「要するに、日本で言う果たし状ですか。」
「ああ、蓬莱島に副司令達は戻ってくる。そこに合流されるのを防ぐ意味ではありなのだろう。」
実際、ハワイから蓬莱島の距離は日本を経由しても間に合う。扇達が決定したシュナイゼルが有するダモクレスとの合流時に攻め込まれたら同盟どころではない。
加えて、本当にハワイに駐留しているライル軍が蓬莱島へ向けて動いている。たとえ本気でないにしても、こちらは動くしかない。
「仕方ない……副司令達にも連絡を取ろう。」
シルヴィオはライルの執務室で机に座りながら問う。
「お前らしくないやり方だな…」
「ワガママだと言いました。で、何故兄様達が着いてくるんです?はっきり言って、私の問題。私闘ですよ?」
実際、これはライルの私闘。ブリタニアと超合集国の戦争を利用したライルのワガママだ。義理立てとしての筋は通るが、その本質はワガママなのだ。
「私達はルルーシュを支持するか決めかねているという立場だ。だが、宰相という立場に関わらず、兄上は国賊と断定されても文句の言えないことをした。帝都消滅など、前代未聞のテロだ。」
「それなら、ルルーシュに協力しても良いのでは?」
「今、大々的にルルーシュに着けば兄上に睨まれる…………ミルカ達を危険に晒せない。どのみち危険なら、小さい方が良い。中立の立場からお前を監視する、という名目で私達三人の軍が同行することになった。一応、ルルーシュの許可は取ってあるし、領地の運営も当面は今まで通りで混乱を抑えてある。」
つまり、ライルが『ロンスヴォー』に寝返る様子を見せれば撃っていいということだし、ルルーシュへの義理立ても出来る。確かに、ルルーシュとシュナイゼルのどちらに着くか決めかねている以上は中立を表明するしかない。少なくとも、当座は二人共そんな勢力を相手にする余裕はないと、シルヴィオは考えていた。
「多分、ルルーシュにその魂胆は見破られていますよ?」
「だろうな……」
応接用のテーブルで有紗が入れた紅茶を飲むエルシリアとセラフィナ、そして激励の名目で来たウェルナーもこちらを見ているのにライルは気付いていた。
「それで、お前は何を隠している?」
エルシリアの問いにライルは面食らってしまう。
「え?」
「兄さん、ルルーシュが皇帝になった時から様子がおかしかったんですよ?何か知っているのなら、全部教えてください。」
気付かれていた。だが……言えない。言えばシルヴィオ達まで巻き込まれる。
「駄目だよ、セラ。君達まで巻き込まれる。」
「どうしても、か?」
「はい、どうしても。」
「そうか、なら仕方がない。」
シルヴィオが刀を抜き、ライルに突きつけた。そして、そのまま首に刃が触れる。
「ライル様!?」
「有紗、動かないで。」
「え、姉上!?」
セラフィナが有紗の腕を抑えて、エルシリアが有紗に銃を向ける。ウェルナーも当惑している。
「私達も本意じゃないの……こんなの。」
「だが、こうでもしないとお前は話してくれないだろう?」
エルシリアが有紗の美貌に銃口を直接触れ、有紗も表情が凍る。
「…ルルーシュのこと、何か知ってるんですか?教えてください、兄上!」
ようやく、意図に気づいたウェルナーも詰め寄ってくる。
「あ……」
「吐け。」
シルヴィオが刀を持つ手に力を入れ、わずかに首から血がにじむ。
「…分かりました。ですが、木宮卿やエインズワース卿、ミルカさん達には伝えない。これが条件です。ウェルナーも、トゥーリア様達にも伝えないで。」
「ライル様、レイ達にも?」
「……レイ達には私が直接話す。だが、今話すのは。」
「早く話してください。」
セラフィナがせかし、ライルはため息をつく。
「分かりました………ただ、荒唐無稽な話なので、私がおかしくなったと思っていただいて結構です。」
全てを話した。クロヴィスがバトレーと共に個人で研究していた魔女、それに付随する形で浮上したギアスという超常の力の存在……ゼロがその力をもってユーフェミアに日本人虐殺をやらせたこと、シン・ヒュウガ・シャイングがそれでマンフレディを自決させ、義理の母と妹を心中させた。『タレイラン・チルドレン』のアルハヌスや『グリンダ騎士団』のシュバルツァーもそれにやられた可能性があると。
そして、一番信じたくないがもはや覆しようのないライルが至った結論。
「確かに荒唐無稽だな。」
「ですが…そう考えれば説明がつく要素が多いのも事実です。」
シルヴィオとエルシリアは冷静だった。まだ困惑も大きいが、受け入れてくれた。しかし……
「そんな、力で…ルルーシュ、なんでユフィにそんなことを!」
「そんなギアスなんて力を使って…オデュッセウス兄上達を操るなんて。」
セラフィナとウェルナーの方はショックが大きかった。無理もない。ライルを交えてよく遊んでいたし、ウェルナーに至ってはナナリーが初恋だったこともあり、ルルーシュともそれなりに仲良くしていた。
「信じていただけたようですね…全部でなくても。ただ、有紗?」
「………あ、はい。」
「ショックなのは私も同じだ。あの即位を見た時から、私は何度も否定し続けたんだ。でも、あれで今まで私が抱いた疑問の説明が全て着いてしまった。ルルーシュは……ゼロだ。」
そして、シルヴィオも補完する話を持ちだす。
「…実は我が軍にいる『ユーロ・ブリタニア』のアーネスト・N・シェーリンから妙な話を聞いたんだ。」
「妙な話……なんです、兄様?」
「ああ、本国から派遣された軍師ジュリアス・キングスレイにルルーシュは瓜二つらしい。」
何!?本国の軍師、『方舟の船団』を主導した男がルルーシュと!?
しまった!長らく忘れていた!そうだ、『方舟の船団』が『ユーロ・ブリタニア』の謀略ならばゼロに似ていると抱いた疑問だ。
「そのギアスとやらを、父上が持っていた可能性はあるのでは?」
「あ……そうか。」
余りに純粋な感想が口に出た。
ゼロは一度、スザクに捕らえられた。もし、皇帝もギアスを持っていてジュリアス・キングスレイいう偽の人格を植え付けるなり、記憶を操作するギアスを使ったとすれば…顔を知っているスザクが護衛として同行したのも説明がつく。
「ギアス…!なんて、恐ろしい力なんだ。」
人を操り、記憶まで書き換える……あの時、体感時間を早くするというレイシェフのギアスも恐ろしかったが、これらに比べれば可愛いものだ。
もし、僕があのV.V.と契約していたらどんなギアスを得ていたんだ?
人を操る?未来永劫自分の奴隷?有紗達を?
嫌だ、そんな力嫌だ。欲しくない!それで孤独になるなんてまっぴらだ。
「あの…ルルーシュ皇帝がゼロになった理由って……」
事情を知らない有紗が問い、ライルは説明する。
「…アッシュフォード学園の学園祭で話したよな。庶民出身の皇妃がいたこと、その人がルルーシュとナナリーの母親なんだ。」
「あ、はい…聞きました。第三世代KMFのテストをしていたと。」
「その人が暗殺され、ルルーシュとナナリーは外交の人質として日本に送られ、見捨てられた。」
そこまで言われ、有紗も思い至った。
「じゃあ、ゼロになったのは復讐?」
「あと、ナナリーの安全確保かもしれない。だが、シュナイゼル兄様に全てばらされて、父上を殺して皇帝に即位したんだ。復讐の続きかまでは分からない。」
正直なことを言えば、ルルーシュのブリタニアへの復讐は否定しない。仲のいい親子だった。それであんなことになってしまった上に捨てられたとあっては、大なり小なり復讐を考えるだろう。
「私も復讐を求めていたから、ルルーシュの復讐は否定しない。ただ…思い返せば。」
「どうしたんです?」
「ペンドラゴンがああなると分かっていたのなら、ルルーシュに会った時にあの女を殺す許可を取れべよかったか、或いはあの時に後先考えずにバラバラにしてやれば良かった。」
あの女はペンドラゴンにいた。つまり、フレイヤで消えたのだ。
「秀作の気持ちが少しだけわかるよ……愛情なんて欠片も感じず、殺してやりたかった祖父や両親をブリタニアに横取りされたって、こういう気分だったんだろうね。だから、そういう意味でも兄様に着く気にはなれない。」
「兄上…」
ウェルナーが案ずるが、三人も何も言わなかった。数秒後、エルシリアが先に立つ。
「あと三日もすれば、着くんだ。準備は済ませておけよ?」
「ええ……分かっています。」
シルヴィオが立ち上がり、三人も続いて退室する。
有紗はライルが抱えていたものに戦慄した。ライルはルルーシュと昔、一緒に遊んでチェスは負けていたがポーカーでは勝っていたと話した。ウェルナーやユーフェミア、セラフィナ、ナナリー、マリーベルも加わって遊んでいたらしい。
その弟がゼロになり、ユーフェミアを操って『虐殺皇女』の汚名を着せて殺した。
「ライル様…憎んで、いないんですか?ルルーシュ皇帝を。」
「憎いよ…ブリタニアに反抗したことより、ユフィとクロヴィス兄様を殺したことが。僕にとってはそちらの方が問題だ。」
でも、分かるのね…復讐したい気持ちも。ジュリアさんの復讐を望んでいたから。それに、最後に会ったのは9歳…ライル様の中であの人は9歳で止まっている。
ライルの中では9歳で止まったままのルルーシュ、理解するにはあまりにも時間が足りなかった。
「ねえ、ライル様……明後日はもう出撃するんでしょう?だったら、私で発散して?」
「有紗?」
「私はKMFに乗れないし、管制もできない。これくらいしかできないけど、何もしないのは我慢できないの。」
羨ましい…KMFに乗れるレイやクリスタルが、専門的な知識や才能に恵まれた優衣やリーザ、エレーナが。
「有紗…」
立ち上がり、ライルが頬に手を触れる。そのまま唇が重なろうとした時…
「ねえ、聞こえてたけど…私達も混ぜて?」
優衣が来た、と思ったらレイ、クリスタル、エレーナ、美水、リーザと皇妃全員が押し掛けてきた。
「なんで、こういう時だけ息が合うんだよ。」
「私とクリスタルはKMFで乗るんだから、機会がもうないわよ。」
「残りの分は有紗に譲るけど、私達はインターバルも込みで今日くらいしかないんだもの。」
レイとエレーナの言い分が全員分の言い分なのはもう分かった。
「分かったよ……シャワーを済ませるから。」
鈴維は悩んでいた。『ロンスヴォー』に送られてきた果たし状…それがライルからのもので、相手が受けたこと。
行きたい。もう一度、ライルに会いたい。
分かっている。合衆国中華の軍人であり、星刻の部下であること。ルルーシュに囚われた天子を救出するためにも星刻の元を離れられないことも。
「私、どうしたらいいの?」
葛藤のあまり、弱弱しい口調になってしまう。
軍人として、ここに留まることが正しいのは分かっている。だが、ライルに会いたいという女の衝動が強かった。女の感情を優先するなんて、あってはいけないことだ。
しかし、
「会いたい…ライルに、会いたい!」
会ったところで敵だし、殺しあうのは分かっている。だが、初めて得た女としての激情が彼女を悩ませていた。
分からない。誰かに聞くしか……
誰に…真っ先に恩人の星刻の元へ向かった。なんでか。行き倒れかけたところを救って、食事を、勉学を教えてくれた彼が……
ああ、そうか。星刻様に父を求めていたのか、私は。
父親は酒におぼれて死んだ。日常的に殴る最低の父親だった。だから、星刻に理想の父を求めたのかもしれない。
「星刻様、失礼します。」
「鈴維…どうした。」
「……総司令官の許可をいただきたい話があります。」
「なんだ?」
「……『ロンスヴォー特別機甲連隊』への同行をお許しいただきたいのです。」
星刻は眼を細くし、こちらを試すような表情になる。
「理由は?」
「ライル・フェ・ブリタニアは強敵です。『侍皇子』と『双剣皇女』まで同行するとあっては…」
「…嘘が下手だな。」
「え?」
嘘が、下手?バレている?
「ライルに会いたい、の間違いだろう。」
「あ……そ、それは…」
星刻がため息をついた。
「個人の恋愛事情に口をはさむつもりはないが、認めるわけにはいかない。」
「……分かってる。分かってるんです、そんなこと!!」
言われなくても、分かっていること。だが
「でも、でも私ライルを愛しているんです!!自分でも間違っているのが分かっていても!!知らないところで死んでいた、となるくらいなら…せめて私の手で殺してその後に死ぬか…その最期を見たいんです!!」
最期を見届けた後、のうのうと生きているつもりはない。
「…お前がそこまで感情的になるのを見るのは初めて…っ!」
「星刻様!」
いつもの発作だ。手に血が付着し、慌ててハンカチで口元の血をぬぐう。
「星刻様……申し訳ありません。やはり私もお側に」
「気にするな…お前がいたからといって、落ち着くわけでもあるまい。大体、そんな半端な精神状態で来たところでお前は足手まといだ。」
「え?」
「炎鳥で『ロンスヴォー特別機甲連隊』への援軍として同行せよ。」
「…は!」
浅海はライルから送られてきた文面を額面通りに受け取れなかった。蓬莱島を直接攻撃するなど、今までのライルと違い過ぎる。
「お前、大丈夫なのか?」
デルクが気遣いに対し、浅海は首を縦に振る。
「ええ、大丈夫。ライルに会って、直接聞く。狙いが私たちなのか、蓬莱島なのか。」
「はぐらかされるかもしれないぞ?」
「それでも……会って、話したいの。それに、本当に彼が何か変わってしまったなら私の手で…」
拳を握り締めて、決意する。しかし、その手は震えていた。
デルクがそっと手を添えた。
「信じているんだろう?」
「……はい。正直、ゼロや扇さんよりも。」
「なら、捕虜にしてでも問いただせ。」
ゼラートは久しぶりに胸板にあるウェンディの柔らかな胸の感触を堪能し、左手でその肌をなでながら右手で端末を見る。
「シルヴィオの奴も着いてくるか。」
「名目は、ライルの監視ですか……言い得て妙ですね。」
「今回の功績をネタにして、ルルーシュの心象を良くして安全を測ろうというわけか。あの皇子らしくないやり方だが、今回はな。」
何せ、ライルはシャルル皇帝弑逆容疑それ自体がまだ曖昧。何よりも……
「まさか、レイシェフの部下達が二人も参加を希望するとは。」
クレス・ローウィングとアリア・フローベルがKMF隊での参加を希望した。レイシェフが搭乗するKMFユーウェインのダウンスペック機ロディーヌのパイロットとして。動機はレイシェフの復讐。
「自分達がライルを陥れたくせに、っていう意見が多いみたいです。」
「向こうもそれくらいは承知しているだろう。それに、このアリアという娘。」
本人の証言によると、記憶喪失になったレイシェフの娘だったという。一緒に来たレイシェフの部下の古株ドウェイン・ラン・デルヴィーニュもそれを知っていて黙っていたらしい。
「母親が祖父母に殺されたとあっては危険だから、というわけか。」
「その考え、分かるにはわかりますが。」
だが、ゼラートにとってはもう一つが問題だった。果たし状に付随する形でライルが気になる名前を送ってきた。リーリャ・メルクーシン……ロシア出身の女性で第五皇子ルーカスに捕えられていた女。こころが壊され、メンタルケアのために帝都に送ったところで巻き込まれてしまったという。
イロナがそれを聞き、半狂乱に陥った。
『なんで……お姉ちゃんが何をしたのよ!?』
死んだと思っていた姉が生きていた。第五皇子の女にされて……ライルがルーカスを討って、彼の配慮で解放されたかと思えばフレイヤで死んでしまった。当然の心理だ。
ゼラートとウェンディも含めて『フェンリル隊』の隊員達が交代で付き添っているが、扇達がシュナイゼルとルルーシュ打倒のために協力するという通達が来たとき、イロナは怒り狂った。
『嫌よ…なんで、お姉ちゃんを殺したあいつらと組まなきゃいけないの?私は行かない!!』
軍人なのだから、そんなワガママが通るわけがない。それが普通。だが、イロナは酷い状態だ。行かないの一点張りで、特に心を開いているゼラートとウェンディの説得にも耳を貸さない。
バルディーニや海棠とも議論した結果、任務放棄や命令無視、心神喪失の名目で蓬莱島に残すことにした。戦力のマイナスはいたいが、アレクシアとアサドも付き添いに残すことにした。
「甘くなったな、俺も。」
「主君の復讐ってよ…」
「元はといえば、自分達がライルをはめたのが原因じゃない。」
「はめられた上に逆恨みされるライルに同情しちまうよ。」
「ったく、可愛い顔してワガママだぜ。あっちも結構な男前なのによ。」
「『フェンリル隊』にいるあのイロナって子は姉貴がルーカスの玩具にされた上に、フレイヤでペンドラゴンごと殺されたんだろ?それでシュナイゼルと組むのはやだ、って駄々こねるあの子の方がまだ分かるぜ。」
E.U.の連中から誹謗中傷の嵐だ。
「…アリア、相手にするな。」
「分かってます。」
何も言わずにロディーヌの調整を行っていた。破壊されたユーウェインのクラレントを回収し、既にロディーヌ用の剣として組み直している。専用の鞘はユーウェインの予備で賄うことができている。
だが、問題はアリアだった。あの後、アリアが全てを思い出した。ユーウェインの爆散が、父の死によるショックで皇帝がかけたギアスを破ったのだ。
あの時、奇跡的に助かりながらも虚脱状態だったアリアはレイシェフに連れられて皇帝と面会し、アリエッタとしての記憶を全て今の記憶に書き換えられ………戦災孤児のアリア・フローベルとしてレイシェフに引き取られた。
祖父母には顔が似ているから引き取ったと言い訳をして、何とか誤魔化した。以来、上官と部下という距離を保ってレイシェフは娘を見守ってきた。
恨んだ。自分の記憶をいじった皇帝を、父を…だが、同時に理解してしまっている。父が娘を守るために苦渋の決断で記憶を書き換えさせたのを。そして、母を奪った祖父母を殺してやりたいと思った。
しかし、その祖父母はもういない。貴族制廃止によってヴァリエール家の没落は決定的となり、反旗を翻そうとしたところをフレイヤで消された。
「お母さんを殺した報いよ。」
それだけだった。本当なら、自分の手で殺したかっただろうに。
「アリア、本当に…」
「何度も言わせないでください。お母さんを殺したあいつらが駄目なら、せめてお父さんを殺したあの男だけでも殺すんです。」
何度も確認したが、もうアリアは止まらない。説得は不可能だ。
「分かった…その代わり、私がお前を守るから。」
「ふぇ?」
急に間の抜けた声を上げ、アリアの顔が赤くなる。
「だから、死ぬなよ。」
「あ…は、はい……」
デルヴィーニュは二人の様子を見ていて、微笑する。あの様子なら、アリアは…アリエッタは大丈夫だろう。彼女自身はアリア・フローベルであることを選んだが、どちらも受け入れてくれたクレスがいるのならば。
「お前こそ、良いのか?レイシェフからの遺言状があるんだろう?」
「ええ…」
ヴィオラは遺言状を既に受け取っていた。死んだらレイシェフが保有する財産を2割ずつヴィオラとデルヴィーニュに譲渡し、どちらかにアリアの後見人を務めてほしいという内容だった。ただし、後見人についてはヴィオラ自身の意志を全面的に尊重する。
「お前の気持ちを知っていた。それでいて、答えなかったことへの負い目だろうな。」
「ずるいですよ、レイシェフ様…こんなことされたら、断れないですよ。」
二人の心は決まっていた。レイシェフの実の娘…もしかしたら、息子同然だったかもしれない二人に着いて行く。
バルディーニはため息をついた。
「イタリアの政府からですか?」
「ああ、代表代行になってほしいなんて言ってきた。」
部下の問いにバルディーニは憂鬱になる。軍人が政権に着くというのは危険だ。国防四十人委員会に出席する権利があるとはいえ、そこまでやる気はない。
「間が悪いですね……既にライルが我々に果たし状を送って受理している。」
「ああ、しかもそちらに着きたいと思う私もいる。」
だが、出来ない。あくまで自分は軍人だ。政治に必要以上に干渉してはいけない。
「それに、着いたところで万が一にもルルーシュが勝てば結果は変わらない。」
「イタリア政府がスケープゴートにしそうですね。」
いや、今の状況で流石にそれはないと思いたいが…
「否定できないのがつらいな。」
バルディーニは代表代行を辞退した。自分が代表代行になれば『ロンスヴォー』の指揮官がいなくなってしまうし、蓬莱島にライルが来る以上はそれどころではない。
海棠は子供達のうち二人、橋本とセーラの二人と話していた。
「ライルの奴、本気で蓬莱島を攻撃するんでしょうか?」
「裕太はどう思う?」
橋本は海棠の問いに即答できなかった。
「俺は……その、俺達が断れば攻撃するかもしれないけど、なんて言えばいいのか。」
「本心では俺達が来てほしい?」
「はい…」
「セーラは?」
「彼をよく知っているわけじゃないから何とも言えないけど……あくまで蓬莱島への攻撃を餌に私達と戦うのが本命じゃないんでしょうか?『ピースマーク』経由で果たし状なんか送るくらいですから。」
「ああ、俺も同意見だ。奴さん、池田には妙にご執心だからね。これを逃したら、もうやりあう機会がないとでも思ったんだろう。騎士の意地ってやつかね?」
「それって、私闘じゃないですか。」
橋本の言うことは間違いない。実際、これは私闘だ。
「私闘でもないとモチベーションを保てないってことさ。それに、俺らを引っ張り出すだけでもルルーシュと戦う戦力を減らせる。義理立てにもなるさ。」
「ワガママですね。」
そう、ワガママだ。しかし、それでいいと海棠は思う。弟と兄が共に筆舌に尽くしがたい暴挙に及んでいる。ああいうタイプは着いていけないだろう。
「まあ、向こうが攻めてくるのは事実なんだ。なら、こっちも付き合ってあげる以上思い切り相手してあげないと失礼だ。」
橋本が苦笑した。
「大佐も大概、騎士道ですね。」
「日本やE.U.よりブリタニアの方がやっていけたんじゃないんですか?」
セーラが冗談とも本気とも取れないことを言って、締めくくられた。
池田はいつものように部下達と共に座禅を組んでいた。
おそらく、これがライルとの最後の戦い。どちらかは確実に死ぬだろう。だが、それでいい。自分は日本軍人でライルはブリタニアの皇子……相容れない立場。
以前、蓬莱島を訪れた時に彼と話した。想像以上に話が弾んだ。二人は互いに言った。『ブリタニア人であれば、喜んで忠誠を誓った』、『日本人であれば、敗戦後も着いていった』。
あそこまで馬が合った人間は初めてだ。本当にブリタニア人に生まれていれば良かったと思う時がある。
「お互い、難儀な生まれだな。」
マスカールは家族と電話をしていた。
「ああ、だから父さんにもしものことがあったら母さんを頼むぞ。」
「お子さんですか?」
「ああ、流石にこの状況ではな。フランスに駐留するブリタニア軍も帝都の消失で混乱しているが、手を出さない方が良い。」
今ここで手を出せば、理由は分からないが只でさえ外交マナー違反と見なされるような行為を連続してしまったこちらが外交面で余計不利になる。シュナイゼルとの同盟も下手をすれば絞られるだけの結果になりかねない。
「くそ…」
雷 斬利は星刻に会っていた。
「私が彼らに?いいのか、私まで抜けてしまって。」
「構わない……鈴維を見守ってほしい。」
鈴維を……飲んだくれの父が死んで、野垂れ死にするはずだったところを星刻が拾った少女。言ってみれば、星刻が大宦官の専横から救いたい民衆の代表例のような存在だ。
「見限ったのか?」
「……いや、どうせ私は長くない身だ。なら、普通の娘らしい事をさせてやってもいい。例え、相手がブリタニアの皇子でも。」
「………代わりに私にお守りをしてほしいという事か。良いよ、後見人及び身元引受人の手続きをしておく。」
「そこまで……良いのか?」
「気にするな、お前と私の仲だ。」
退室しようと背中を向けるが、足を止めた。
「意味のないことだが…」
「なんだ?」
「……自分の身体は大事にしろ?鈴維だって、それで迷ったみたいだからな。」
「……ああ、この戦いが終わるまではもたせるさ。」
全く、天は本当に残酷だ。『ナイトオブラウンズ』に匹敵する才覚を誇る男だというのに、天子に命を救われてから六年。たった六年で星刻は余命幾ばくもない身体になってしまった。
「どうせなら、あの男にあと十年くらいの時間をくれよ…」
斬利は天を仰ぎ、呪っていた。
クラリスは強化されたローランを見上げた。池田の蒼天と共にエナジーウィングのテスト用として提供したのだが、先日ライルに妙に入れ込み過ぎていたのが裏目に出て星刻と藤堂の判断で小型爆弾をコクピットにつけられた。無論、実戦で運用する以上は戦闘の支障にならない程度の重さだが。
「身から出たさびね…甘んじて受け入れましょう。」
「でも、隊長。ライルは本気で…」
「ええ、多分蓬莱島の攻撃もやらなければならなくなったらやるでしょう。だから、お互いのために私達がやりあうのが良いのよ。向こうはルルーシュに義理立てができる。私達はルルーシュに着く戦力を減らせる。」
フィリップが苦笑する。
「相変わらず、強引な理屈だな。」
「ま、私としては何で副司令達があんな無茶な手を打ったかも聞きたいんだけど。」
あの最高評議会はいくら何でも無理がある。何があったかは分からないが、あれではブリタニアに正統な大義名分を与えるだけにしか映らなかった。
「まあ、仕方ないわね。あれこれ考えても…」
「ですね……正直、首を突っ込んだら碌なことにならない予感しかしない。」
「ああ、下手をしたら道連れにされる類の。」
ヴァンも頷き、ガイルも同調する。
結局、『ロンスヴォー』の間でほぼ確信されつつある扇達とシュナイゼルの間で行われたであろう裏取引………それに関連することは間違いないというのが主だった将官達の見解だ。
例えば、ルルーシュがゼロだった。あの警戒ぶりもそう考えれば頷けるが、もしそうだとしたら……
「一体、何をしたのよ……ゼロ。」
ラルフは扇に直接話していた。
「考えは、変わらないんだな。」
「はい……シュナイゼルとの取引の件もですが、『純血派』のその人がいることにも…ただ寝返っただけじゃ、僕は納得できないし……最高評議会のあれもどんな理由があれ、外交マナー違反をしたこっちが悪い、というのが僕の見解です。とてもではありませんが、今の扇さん達には着いていけません。」
ラルフの中で、扇達への疑念はもう抑えられなくなった。ゼロと特区の件もそうだが、今回の外交マナー違反を発端にした日本再占領。外国人それも支配者層のラルフから見たって、もう着いていけない。この様子では、今回もシュナイゼルにいいように乗せられるのが目に見えている。
「それに……ワガママですが、ライルの軍隊にどうしても会いたい人がいます。会える保証などありませんが…」
「……分かった。『ロンスヴォー』への転属を許可する。」
「はい………それと。」
「それと?」
ラルフは深呼吸して、扇に問う。
「ライルの『洗脳皇子』……ゼロと同じだとまだお思いですか?」
扇がこわばった。
「あ、それは……」
まだ疑ってかかっているのが分かる。
「……………やっぱり、着いていけません。」
あの女は幽閉されていましたが、案の定フレイヤで消えました。生きていたところで、息子を帝国再興の旗印にしようとするでしょう。性懲りもなく、有紗達を殺すと脅して…しかも約束を守らない。
そして、ライルにとっては後先考えずに公開処刑でも何でも殺せば良かった程度の認識。有り体に言えば、シュナイゼルに着かなかったのはダモクレスとフレイヤの恐怖政治への反発もあります。あともう一つ……あの女を殺せなかった腹いせも含まれているでしょう。
『ロンスヴォー』は見ての通り。クレスとアリアも参加しますが、動機はあのボンクラ共から見ても逆恨みです。
ライルと池田、お互いに馬が合うが故にやり合いたい。海棠も、本人なりにライルを気に入ってます。人材マニアのライルの性格からして、部下達の命の保証と引き換えに本人も監視付きでオブザーバーにしているでしょう。
今更ながら、ライルはコーネリアのようにパイロットスーツ兼用の制服……無頼時代のゼロやビスマルクと同じ完全なスーツなし、池田やクラリス、海棠も軍服です。何かギアスって、ガンダムよりパイロットスーツなしでも違和感ないんですよね。
そして、ラルフ。イメージとしては扇についていけなくなったカレン……とはちょっと違うけど、懐いていた分失望も大きかったために自分と対照的なノエルへの興味も込みで転籍しました。そして、『洗脳皇子』=ゼロと同じという疑念を拭えなかった……無理ないですが、ナンバーズ系の支持を全部それだとする風潮も理由でしょう。
イロナの拒否は私なりに原稿に付け足しました。