本編としては、アレが目前ですがそれまでの二ヶ月ですね。
ルルーシュは世界を手に入れ、日本を直轄領としていた。その皇帝の元へ、引き続きハワイを拠点にしているライルは謁見していた。
「随分と慎重だな…」
「何せ、今の君は世界を乗っ取った魔王だから。魔王の手下となれば、臆病にもなる。」
「その魔王にそうした口の利き方をするお前も流石だな…」
「虚勢を張るのがうまくなっただけだよ。」
軽口をたたき、ライルはルルーシュを睨む。
「陛下、『ロンスヴォー』を我が監視下に置く旨とその中の女を我が皇妃と迎え入れる件を承諾していただいたご厚情感服いたします。」
「よい…いずれはそなたの子らに我が覇道の偉大さを示す日が来ることを楽しみにする。」
「…気がお早いようで。それと、中立でいたエリス・デ・ブリタニアと…今も我が元にいる兄弟達は?」
「……反抗する様子はないのだな?」
「はい…願わくば形式だけでも皇族の地位の保持を。それが適わぬならば、せめて彼らの部下を初めとした関係者に寛大なお心を。」
ルルーシュは数秒うなり………
「彼らが最も信を置く者を我が側に仕えさせよ、さすればその旨を聞き入れる。」
要するに、人質としてよこせということか。
「エルシリア姉上だけならば、セラフィナ一人でも十分効果を発揮します。」
「もう一人、我が姉の幼馴染みを控えさせる。」
「……イエス・ユア・マジェスティ。」
ライルはハワイに戻ってルルーシュの様子を伝えた。
「つまり、私達を人質にすると?」
「ええ、ご丁寧にリストまで貰いました。これで私も迂闊に動けなくさせられた。」
エルシリアの元からは妹のセラフィナは当然として、側近のクレアが。シルヴィオの元からは皇妃最有力候補だったミルカと同じく側近の木宮が引き抜かれ…人質として指名された。
「お前の方は?」
「私も皇妃の中から人質を寄越せ、と言われた。丁寧に扱うことだけは約束してくれたが…一人だけ警護をつけることは了承してくれた。」
義理立てをしてくれた兄にここまでするとは、という感情が渦巻いた。
「すまない、君達の中から誰か人質になってくれ。」
名目の皇妃となったクラリス、浅海、鈴維もその場にいたが…
「私達じゃダメなの?」
「君達はつい先日まで敵だったんだ。捨て身の工作員だと睨まれる。」
浅海の問いをバッサリ切り捨てる。そうなれば、こちらも『ロンスヴォー』をまた相手にしなければならない。少なくとも、『ヒポグリフ隊』と『リンドヴルム隊』は間違いなく敵に回る。
「そうね、私でもそう考えるわ。でも、それならどうする?貴方の夜の相手もさせてもらえない私達以外に誰を?」
「私ならば、あの飯田有紗を寄越せと言うぞ?」
クラリスの質問と鈴維の提案にライルはうなる。わざわざ有紗を名指しで指名しないのは少々不自然だが……
「ああ、もう。私の頭では読み切れない。」
しかし、分かっていることが一つある。ここでエルシリア達が拒否すればフレイヤが飛んでくる。たとえフレイヤが飛ばなくても、ルルーシュはライルに征伐を命じる。何故なら………
何故…何故だ?
急に頭に靄がかかったような感覚がした。何だ、これは?
「殿下?」
ゲイリーに声をかけられ、ライルは我に返った。眉間を軽くつねり、ライルは気を取り直す。
「優衣と美水を人質として差し出す。二人は私の秘書だ……捨てても痛くないメイドよりはマシな人質に映るだろう。」
「私じゃあ、ダメなんですね?」
有紗が顔を重くするが、レイが肩をたたく。
「心理的に言えば、貴女が一番効果的よ。でも、実務に関して言えば二人の方が上で、優衣は内側、美水は外交面で強いもの。身贔屓かもしれないけど、あの二人とデスクワークで勝負できて夜の相手もこなせる女なんてそうそう見つからないわ。」
今回の件は通達された。
「はあ、短い皇妃人生だったわ。」
「嘘おっしゃい、新婚気分の間違いでしょう?」
涼子が優衣をたしなめるいつもと変わらないやりとりだが、当分これが見られないのは残念だ。
「天子様も、こんな気分だったのでしょうね。」
美水は捕らえられた国家元首の心境を重ね合わせている。無理もない。出来れば天子を救いに行きたいだろうに。
「一応、最低限の礼節は守ってくれるが……今のルルーシュは私の知っているルルーシュからかけ離れている。怒らせないように気をつけてくれ。」
まるで幼い子供に注意する親の気分だが、実際のところそれしか言えることがなかった。
「大丈夫よ、暗殺なんて無茶はしないから。」
「そう言ってくれるお前で良かったよ。」
シルヴィオは木宮と短いやりとりを交わし、ミルカの方へ向かう。
「ミルカ…お前には本当に感謝している。」
「シルヴィオ様……」
「だから、今のうちに言っておく。言わないまま後悔するより、言って後悔する。」
シルヴィオは数秒おいて、ミルカの両手に肩を置く。
「この局面を切り抜け、互いに無事ならば私の妻になって欲しい。」
「……それは、皇子としてですか?」
「少し前の私ならそれもあったが、私の武術への姿勢、木宮への想いを理解してくれた女はお前だけだ。私の女としての一番はお前だ。」
偽らざる本心だ。今まで出会った女はシルヴィオの武術への真摯さに理解を示さなかった。それだけならば別にシルヴィオも別れようとはしなかった。だが、木宮と彼の母と姉を侮辱するのだけは我慢がならなかった。四十代の若さで母を亡くしたシルヴィオにとって、あの人達はもう一人の母と姉に等しい人達だったからだ。
「お前が駄目なら、一生独身でもいい。」
「……シルヴィオ様、本当に武術以外は不器用なんですね。でも、そういう貴方だからも愛しています。」
ミルカの方から唇を重ねて、抱きついてくる。シルヴィオもそれに応えた。数秒して離れ、木宮を向く。
「証人になってくれるな?」
「愚問よ。」
ウェルナーは自分自身が人質に志願した。どうせウェルナー程度はいてもいなくても変わらない。なら、せめてルルーシュに会いたい。幼いながら、初恋のライバルだった兄弟に。
「はあ、分かったわよ。あたしがあんたの兄さん説得してみる。でも、ライルが駄目って諦める。それが条件よ?」
「ええ、お願いします。」
一時間後…雛は首を横に振って戻ってきた。
「見せしめの処刑にも使えないから駄目で、逆にその場で殺されるかもしれない。それがウチの坊ちゃんの言い分。」
その結果にウェルナーはうなだれた。
「本当に、僕は何も出来ないんだ…」
「そうね。取り繕わないけど、あんたは本当に何も出来ないわ。」
相変わらず、容赦がないことを言う。
「でも、あんたとあんたのお母さんがペンドラゴン周辺の地域に医者を寄越そうとした働き。それ自体は派遣された側に感謝されてる。出来るかどうか分からないことを騒ぎ立てたり、普段何もしないくせに都合の良いときだけ何かしている気になる奴より、そういう自覚があるだけあんたは立派よ。」
「…兄上は?」
「そうね……出来ることはやってるけど、自分の容量を超えることまでやろうとする馬鹿。付き合わされるこっちとしては胃が痛いわ。まあ、悪い気分じゃないけど。」
セラフィナは秀作に自分達の去就を伝えた。
「そうか…人質として。」
「当然よ、私とクレアなら姉さんの軍の士気を落とせるもの。勝つために手を尽くす、ルルーシュらしいわ。」
「……そういう性格だったのか?」
「ええ、シュナイゼル兄さんにチェスで何度も挑んでは負けて、諦めなかった。」
つまり、ある意味で今回は初勝利ということか。
「大丈夫なのか?」
「どう、かしらね……」
自信のない答えだ。
「兄さんじゃないけど、私も最後に会ったのは八歳だから、八歳までのルルーシュしか知らないのよ。」
「十年のギャップ、という奴か。」
「ただ、フレイヤまであるのにここまでやる理由がよくわからないわ。フレイヤを使わなくたって、潰せるのに。」
何か違和感があるということか。
そして、ルルーシュの元へライルからは優衣と美水、シルヴィオからはミルカと木宮、エルシリアからはセラフィナとクレアが人質として送られた。
特に報道もなく、連絡だけは許された。
三日後には優衣から連絡が来た。
〈三食昼寝付きだけど、暇です。外出も駄目…はっきり言って退屈です。〉
「食事は?」
〈まあ、並ですね。残飯食え、はない。でも地味。自分で作りたいです。〉
この様子ではどこかに盗聴器でも仕掛けてある可能性が高い。これ自体傍受されている可能性もある。
「とにかく、手荒な扱いはされていないんだな?」
〈ええ、それは大丈夫です。〉
「そうか…切るぞ。」
〈やっぱり直接会いたいです。〉
「少し我慢しろ。」
やはり、最低限の礼節は守ってもそれだけと言わんばかりだ。エリスの皇妃達も差し出してぞんざいには扱われていないが、事実上閉じ込められているも同じだった。
「ルルーシュ、こんなことがばれれば……いや、ばれても問題がないのか。」
既にルルーシュは超合集国の二代目議長にして『黒の騎士団』のCEOになった。弱体化したE.U.も加盟し、既にルルーシュはダモクレスとフレイヤに加えて『黒の騎士団』を完全に手中に収めた。これにより、世界の政治、経済、軍事の全てはルルーシュ一人のものだ。
結果としてブリタニアの世界制覇は達成されたが、潜在的な世論の反発は強い。ブリタニア人でさえも納得していなかった。
「君達にとっては、今まで自国がやってきたことと言いたいだろうね。」
「……そう、言いたい自分がいるのも本音です。」
有紗が答え、良子やレイも頷く。
「だが、逆らえば殺される。今までの各エリアの総督の統治の非ではないからな。我々だって、人質を殺されても暴れることさえ出来ない。」
シルヴィオの言うとおり、結局おとなしくすることしか出来ない。逆らえば、即座にフレイヤが飛んでくるのだ。
何もすることがないし、させてもらえない。マリーベルはスペインの名前を回復したエリア24でダモクレスを管理しているが、事実上彼女だけがこれまでの皇族の地位や権限を認められており、ライル達は事実上人質を取られており、既にその事実までがネットで流布している。
『世界制覇に協力の姿勢を示したのに、ぞんざいすぎる』、『皇妃を人質にしているような物』など様々だ。
だが、ここまで来るとかえって露骨すぎる。誰かが意図的にばら撒いているのか?反抗勢力に火をつけるために。
前半と後半、とありますが後半部分は原稿ゼロなので自分で考えます。
最近暑いから、少しやる気も起きませんが…頑張ります