ライルは領地と連絡を取っていた。幸い、特に大きな変化はないとのことだった。
祖父母やアルバートフ家も動いてくれている。
だが、何故だろう……領地に関して何かやると妙な感覚がする。これは一体…………
「ライル、どうした?」
鈴維が声をかけてきた。相変わらず、彼女の立場は監視付きだ。
「何でもない………」
と、後ろから鈴維が抱きついてきた。
「私は……あの二人や他の皇妃達のように代わりにはならないけど………貴方のことは…」
ライルは何も答えない。それは、蓬莱島で会った時から……という気はしていた。うぬぼれだとも思ったが………
「暫くはやめておいた方が良いよ。」
優衣と美水がいなくなった分の事務整理を他のメンバーが行っていた。リーザも『ユーロ・ブリタニア』方面との連絡で苦労している。
「あの二人が欠けて、ここまでなるとは。」
「親衛隊もヴィオレット卿とマルククセラが戦死して響いていたが………」
「ああ、今更ながら殿下の能力優先の意味が理解できた。」
ライルの方針に懐疑的であったブリタニア人の将兵達は若いが貴族出身だ。ナンバーズや平民より上という自負が、今回の件で完全に覆されている。
普段はライルに甘えている優衣や、いくら軍上層部の娘でも外国人の美水……加えて、二人共民間の協力者という立場だった。それに書類整理などの事務とはいえ、負けたと認めざるを得なかった。同時に……
「ブリタニア人で貴族、且つあの二人以上にデスクワークに強い人間。都合良く探せるのか?」
「探せるかもしれんが、時間はかかるぞ。」
ゲイリーがやってきた。
「私も学んだことだがな……ナンバーズ出身であれば条件は更に厳しい。だが、今度の場合ナンバーズ出身という条件が付いたら?」
それを言われ、全員が黙った。そんな人材、砂漠でオアシスを探すよりも難しいではないか。
「愚痴をこぼす暇があれば、手を動かせ。」
浅海は軟禁状態で小説を読んでいた。皇妃になれば命を助けるという条件を呑んだとはいえ、つい先日まで敵だった身。当たり前だが、空きのある士官室で外を見張られている。
身体を動かすことも満足に出来ず、退屈でしょうがない。ライルが許可を出して、監視をつけなければ外を歩くこともままならない。
だが、分かっている。あの時と同じ状態なのだ。逃げようとしたって、殺される。
なのに……あの時と同じで、ライルがいるという高鳴りが勝っている。
クラリスは念入りに監視されていた。当然と言えば当然だ。
「で、なんであんたまで一緒なの?」
フィリップがコーヒーを片手に優雅に新聞を読んでいた。
「旦那様からのご指名だ……付き合いの長い俺がバカ共の壁になれ、だと。」
ライルか……
「はあ……人質の色が濃いのに、自分の女には過保護なのね。」
とはいえ、そういう理由は聞いている。何しろ、ライルにとっての一番…第三名誉皇妃の飯田有紗は闇オークションの商品で、ブリタニアだけで三回…あの蓬莱島の事件で四回目だ。
「ライルが気に入る女がそういう目に遭う星なのか…そういう目に遭う女をライルが好んでいるのか。」
「お前は、そういう厄介ごとに首を突っ込む男だから惚れたんじゃないのか?」
図星…かもしれない。
「確かに…いい男だと思ったわよ。それに、自分に靡いて当たり前なんて思い上がってもいないし。」
今までそういう男ばかりだ。父の地位やクラリスの身体を目当てに群がる男ばかり……ライルも母親に騎士にするはずだった女を殺され、更には超合集国建国前にあのメイド達の誘拐だけでなく、領地まで母と手下の貴族に焼かれそうになった。
「親が馬鹿で苦労させられる……そういうシンパシーも込みで、好きになった。」
有紗はライルにいつものように紅茶を入れた。だが、有紗の目から見てもライルは上の空、というようだ。
「池田中佐のこと、後悔してるんですか?」
ライルが肩を動かした。図星だ…
「………ああ、彼と思い切り戦って勝ちたい…それは本心だ。でも…」
「でも?」
ライルはうなだれた。
「彼を殺して、勝ったという達成感よりも凄い喪失感があるんだ。……エクトルや、フェリクスが死んだ時のような………いや、もしかしたらもっと。」
騎士として、好敵手に勝った達成感と勝利の余韻………有紗には分からないが、そういうものが訪れるはずだった。なのに、彼を殺した事への喪失感の方が大きい。
「彼を、部下に引き入れたかったんですか?」
「……かもしれない。本人にもいったが、私が日本人だったら迷わず部下になる。それほど大きな人だったんだ。」
有紗はライルの気持ちの全部を理解してあげられなかった。いや、これはきっと軍人や騎士にしか分からないことだ。
「ライル様…私、ライル様のそういう気持ちを……」
「分かってくれ、なんて言わないよ。私はイレヴンとして君が受けた迫害だって分かってあげられないんだから。」
かつて、レイにも言ったという。純血で皇族のライルにはレイが受けてきたハーフ故の迫害を全部理解してあげられないと……
「でも、傍にいることだけはさせて。そのためなら…」
有紗はライルを抱き締めた。
「身体でも何でも、あげます……他に出来ること、ないです。」
ライルの気持ちの全部を分かってあげられない。だが、それでも……ライルがどこか燃え尽きてしまったのは分かった。
シルヴィオはいつものように鍛錬をしていた。戦争はある意味、終結した。ルルーシュがダモクレスを手に入れ、『黒の騎士団』も超合集国も乗っ取り、E.U.に超合集国加盟を求めた。
大半の加盟国が脱退したE.U.にもはや力はない。拒否すれば、フレイヤで消滅する未来が待っているのだ。
「嬉しくなさそうだな…ブリタニアの世界制覇がなったというのに。」
ナイフ格闘術で鍛錬に付き合っていたゼラートが質問をしてくる。違う鍛錬の相手が欲しかったために、エリアと木宮立ち会いの下で鍛錬に付き合ってもらっていた。
「爆弾で脅して世界制覇……私が求めていたのは外交的な手段によるブリタニアの制覇。その剣を持つ責任を持った者が君臨してこそ、だと思う。」
「王様の論理だな……武闘派の。」
「貴族の生まれと言っても、そうした気品や優雅さと無塩の人生だったお前には無粋だったかもしれないな。」
「だが、アレはアレで問題だと思うぞ。フレイヤがあれば大丈夫、とブリタニアの連中は真面目に鍛錬をしない未来が浮かんだ。E.U.の役立たず共の再来だ。」
そういう見方をしてくるか。
「そして、今度は『フレイヤを持ったブリタニアの兵士にたてつくか?』という手合いが出てくる。E.U.のボンクラ息子共と同じだ。」
「妙に説得力のある話だな!」
シルヴィオの訓練用の剣がゼラートのナイフを弾き飛ばし、首に突きつける。
「生身では私が勝ったな。」
「ああ、これで一勝一敗か?」
不敵に笑うゼラートに木宮が両手を叩く。
「はいはい、もうそこまで。全く、暑苦しいわよ、二人共。」
いつもの調子で木宮が二人分の冷えたタオルと水を用意した。
「後でその汗臭い身体、流しておきなさい?そこで待ってる、お妃様をベッドにお迎えするために。」
木宮が首で指した先にはミルカとゼラートの部下、ウェンディ・ミュラーがいた。
「頼んだ覚えはないぞ。」
「あたしに嫉妬してきてるのよ……それと、ゼラート。」
「いきなりファーストネームか。」
「つれないわ………蓬莱島に残っていたっていう貴方の部下達、こっちに来る話が付いたわ。ま、ロシアの女の子は『黒の騎士団』やナナリー様の処刑したいって駄々こねてるみたいだけど。」
「………そうか。」
エルシリアはため息をついた。弟の余りの変貌についていけない。
当初、母の影響で平民出身の母から生まれたルルーシュとナナリーをエルシリアは良く思っていなかった。だが、セラフィナは懐いていたライルが頭の良いルルーシュを好いていて、一緒に遊んでいるウチに親しくなった。エルシリアも母親は母親で別問題と折り合いをつけ、ナナリーに童話を読んであげるなどをした。
「世界制覇か……弟がこんな形でそれを成し遂げた後で思う。」
「何が?」
クレアがいつもの調子で問うが、今回は自分でも分からない………外国人の話し相手が欲しいと思って海棠に相席を頼んだ。当然、親衛隊が監視している。
「何故、私はあそこまで躍起になっていたのだろうか。と…姉のコーネリアを超えようと思った、それだけは分かるのだが。」
「自分の求めていた世界制覇に明確なビジョンを持っていなかったんじゃないんですか?」
海棠が直球で質問をしてきた。
「何?」
「あちらの皇帝陛下は分からないけど、第八皇子様はやり方からしてエリア制度の改正とか方針転換を踏まえていたと思いますね。」
海棠の言うとおりだ。ライルはエリア制度の破綻を常々、危惧していた。コーネリアは全く耳を貸さない、とまでは行かなかったがエルシリアの幹部でさえ取るに足らない不安と考える者が多かった。エルシリアも考えすぎだと思っていたが、いつからか………
「弟が名誉騎士団の発足を行い、E.U.で略奪を行うブリタニア正規軍と衝突したのを聞いてから……破綻が現実味を帯びていると、感じるようになった気がするが。」
「なるほど……そちらは総督を超えるという目標が、王様になるより自分の軍人としての目標だったと俺は思う。あんたは自分が皇帝に相応しいと思った人間を軍事路線で支援する、というスタンスを取るべきだったんだと思いますね。」
外国の軍人のくせに、と言いたいところだが……
「なら、妹と私は衝突しかねないな。妹はライルを皇帝に推したかもしれない。私はライルは皇帝になるには優しすぎるし、精神が脆いとみている。アレこそ、エリア制度やナンバーズ関連の法律の改正案とそれに伴う軍事的アプローチで次の皇帝に食い込むべきだったのかもしれない。」
「身分制に疎い俺の意見に随分と真摯で……」
「お前の意見は私から見て、的確だ。特区を譲歩案として考えるあたり、お前は戦後…テロリストよりそちらの方面で日本側の発言権強化及び子供の教育などを訴えるべきだったな。」
海棠が苦虫をかみつぶしたような表情になる。
「痛いところを突かれたね、そう……お子様達に人殺しを教えてしまった。諭す言葉を持たなかったせいでね。」
海棠は紅茶を飲んで、ため息をついた。
「お互い……戦争が終わって、こうしてお茶の席を設けるだけでお互いの誤りを悟るってのも……世知辛いというか、何というか。」
「……剣でしか語れない事もあれば、言葉でなければ…………か。兄上ならば言葉で充分にもやれたと思うのだな。」
「話は変わりますが、皇族ではなく姉として妹姫の結婚などは?」
代わりすぎだが……エルシリアはクレアが新しく入れた紅茶を飲んだ。
「畑方秀作に入れ込んでいるようでな……弟の側近のクレヴィング将軍が保護者をしている。ナンバーズ出身というマイナスもあるが、妹を経由して私を引き込もうと邪推する声もある。妹の意志を尊重したいが、複雑になりすぎている。」
「ああ……おたくの妹姫様と結婚したらブリタニアより日本が騒ぐね。」
そこへ、これまで静観していたクレアが問う。
「『ブリタニア皇女と結婚した恥知らず』…と?」
「いや、そっちもだけど……弟君の親衛隊としての成功とお姫様との結婚であの子の馬鹿な両親が売り込んでくる。その方が心配だ。」
「心配する論点が違うだろう……と、言いたいがアレの同国人への異常な憎悪の原因がそれだと聞いている以上は、無視できないな。」
全く……自分でやらないで息子のおこぼれに預かろうという性根。こういっては何だが、息子の秀作よりも両親の方が生かしておいたら本気で日本のためにならなかったのではないだろうが?
ライルのもとにクラリス、浅海、鈴維が来た。
「……夜の相手を頼んだ覚えはないが?」
「いつ、殺されるか分からない。なら…少しくらい良い思いしても良いでしょう?」
クラリスが躊躇なく軍服を脱ぎ捨て、男なら誰でも食い付きそうな豊かな身体を見せた。
「貴方のメイド……有紗が頼んだのよ。敵だった私達の方が、ある意味適任じゃないかって。」
浅海が細くとも、出ているところは出ている身体を見せた。
「何が適任なんだ?」
「……私達は、池田中佐と同じ貴方の敵。短絡的な発想だと本人も言っていたけど…彼がいなくなった穴を少しなら埋められるかもって。」
鈴維が二人の間、とも言える。バランスの良い体を見せる。
こんな時に、三者三様の裸体を見て…自分の男の衝動が膨れ上がる。最低だ。
「やめてくれ……!私は…」
浅海がライルを押し倒し、強引に唇を奪った。
「もう、聞けない。無理にでも抱いてもらうから。」
「貴方…自分では気付いてないけど、酷い状態よ?」
「お前の女達が、敵の私達に花を持たせようとするほどに、だ。」
クラリスと鈴維が無理矢理服に手をかける。
「慰めが欲しいんでしょ?意地を張りっぱなしだって、付き合いの長い皆さんは気付いてるわ。」
「私達だって、女だし……相手が貴方じゃなきゃ殺されても嫌だった。」
また、この流れか?
「何故、私の周りにはこういう旺盛なのばかりなんだ?」
「貴方がそうさせるんじゃない。」
クラリスが唇を奪い、吸い付いてくる。
「………ねえ、池田中佐の事もだけど…弟のことで気が滅入っているんじゃないの?」
ライルは図星を突かれた。そう、その通りだ……
「…ああ、9歳のルルーシュしか知らないんだ。母君の復讐をして、見捨てたあの男を殺して、あんなに仲が良かったナナリーまで殺して………分からないんだ、もう。」
鈴維がクラリスからライルをかっさらうように唇を奪い、更に胸を押しつける。
「それなら、尚のこと今は私達で発散して?」
「………嘘をつけ、私に抱かれたいだけじゃないのか?」
「否定はしないわ……でも、前も言ったけど貴方には本気。貴方の中にあるものを受け止めてあげたいのも…」
ああ、有紗や優衣と同じような眼だ。
こういう眼に、ライルは弱かった。家柄や人種で選んで貰って当たり前だと思い上がる貴族令嬢とは違う。そう、サラも同じような眼をしていた。
「分かった……責任も取るよ。」
「…もう、白けるようなこと言わないで。」
浅海がはだけさせたライルの胸板にしがみついた。
そのまま、ライルは自分の男の衝動に身を任せた。三人とも、例によって経験がなかった。有紗やエレーナでも思ったことだが、これだけの美人なら男が放っておかないし、彼女達だって選り取り見取りの筈だ。
それでも、自分を選んでくれたという妙な優越感が湧き上がった。
最低な感情だ、と思いながらもライルは三人を丹念に抱いた。
ルルーシュは計画の最終段階を確認していた。
「よし、後はこれでチェックメイトだ。」
ダモクレスとフレイヤを手に入れ、E.U.も軍門に降った。後は処刑のみだ。
スペインの名を取り戻したエリア24にいるマリーベルもダモクレスの警護を任されている。
残った皇族の内、エリスは元々正規軍ごと軍門に降っている。シルヴィオとエルシリアの正規軍は無傷に近いが、逆らえる状態ではない。ライルは既に半壊……先日からこちらに取った人質で三人への扱いが流布され、世界は協力した三人への扱いに疑念を抱いている。ウェルナーは元々問題外だし、母共々ペンドラゴン周辺の救助活動で動けずにいる。
特にライルには既に念入りに細工をしてある。
浅海は目が覚めた……同時に昨夜を思いだして腹部に触れる。
「素敵…」
激しいが、それでもどこか優しかった。もし、あの講和の時に抱かれていたら……
「ねえ、もし…講和の時に抱かれていたら、私…ソレイユを持って貴方に寝返っていたかも。」
ライルが左腕にしがみつく浅海に、鈴維がしがみついている右手を動かして頬に触れる。
「そうしたら、君でも許さなかったよ。多分、処刑はなくても永遠に牢屋だ。」
「やっぱり……?」
「もう、当たり前じゃない。」
鈴維が張り合うようにライルの唇に吸い付く。
「実は…星刻様が処刑されるのが分かってるから、私……また一人になるんじゃないかって、怖かった。」
身寄りのない鈴維を拾ってくれて、ここまで育ててくれた星刻を救いたい。だが…
「ねえ、私と貴方と美水様の名前で星刻様と天子様だけでも…って、無理よね?」
「……無理だね。『フォーリン・ナイツ』の叛乱以上の規模だ。それに、敵国の重鎮を処刑…昔から使い古されている手だ。」
そう、分かっていた。
「処刑前に、会わせて貰うのも?」
「試しに聞いてみたが、ダメだった。流石にこれ以上はね……兄達も巻き込みかねない。」
やはり、無理か……せっかく、愛する人に純潔を捧げられて愛を注がれて幸せの絶頂だったのに…
「ごめんなさい、余計なこと言って…」
「いや、君の心配は普通だろう。」
「…さっきから二人ばっかり。若い子じゃないとダメなの?」
クラリスは首をつねった。
「っ、君だって充分若いだろう?」
「でも、貴方の皇妃の中じゃ一番年上…」
と、浅海が不機嫌な顔をした。
「私達の中じゃ一番大きいくせに。」
「少し分けて欲しいくらいなのに…」
鈴維も同じ意見だが…
「分けられるわけないでしょ……大体、これと家のせいで碌な男に会わなかったんだから。」
「前も言っていた気がするが、君の部隊のフィリップ・ポテは?」
「アレはそういう対象とは見られないわ……」
昨夜は正に女としての幸福だった。たっぷりと愛してくれて……
「あいつらが牢屋に入っていなかったら、こんな幸せ、なかったわ。」
「私の母なら、君は分からないが浅海と鈴維は殺しているよ。」
クラリスのキスを受け入れ、浅海と鈴維も後退でライルの唇に吸い付く。
ルルーシュの世界制覇によって、結果としてブリタニアの大義名分は達成されました。
ただ、自分の喧嘩をやっていたライル、シルヴィオ、エルシリアはある意味で燃え尽きている状態です。
池田は掲示板でも死んでいました。多分、ライルにとってもう池田以上の好敵手でも来ないとしばらくは燃え尽き症候群かもしれません。
そして、例によって三人とも……ワンパターン化してる自覚はあります。
でも、クラリスは親が牢屋に入っていたら何してたか分からないし……ライルもあの女はクラリスも『革命に賛同した貴族の末裔』だから殺していたでしょう。
……またも暑すぎて疲れてます。
あと少しですので、頑張ります