他作品でお会いしたことのあるかたはお久しぶりです。破戒僧と申します。
今回『オーバーロード』で二次創作を書いてみようと思い立ち、筆を執らせていただきました。
例によって思い付きかつ趣味全開ですが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。
プロローグ 死の支配者と古の大妖怪
その日は、ナザリック地下大墳墓において、非常に珍しいことが起こっていた。
ナザリック地下大墳墓に仕える下僕達のほぼ全てに共通の価値観として、ナザリック以外の全てを格下として見下している、というものがある。
極度に排他的であり、何か明確な理由ないし利益があるような場合か、自分達にとって絶対の支配者から命じられるなどの場合でない限り、奴隷や下僕として組織の末席に加えることすら認めることはない。
ましてや、栄光ある地下大墳墓の内部に足を踏み入れさせるなど言語道断。この大墳墓は、自分達と同じく『至高の御方々』に忠誠を誓い、その為に生き、その為に死ねる覚悟を持っている者達のみが足を踏み入れることを許される聖域であると、皆、一様に思っている。
この転移後の世界においても、ナザリックに部外者が入る時というのは、現地における外部協力者となったことで招かれたごく一部の者を除けば……捕らえられて拷問にかけられる定めの者や、死体としてその後『有効活用』される予定の者のみであった。
しかし、今日、この時に限っては……そのナザリックに、『客人』として招かれている者がいた。
『下僕』でも『奴隷』でも『協力者』でもなく、『客人』。誰にとってのかと問えばそれは……他でもない、ナザリックが最高支配者である、アインズ・ウール・ゴウンにとっての『客』だ。
玉座の間。
階層守護者達が一堂に揃い、玉座に腰を下ろしたアインズが見下ろす先で……その客人が、扉の向こうから室内に入ってきた。
入ってきたのは、美しく整った見た目を持つ美女だった。
街を歩けば100人が100人振り返るであろう美貌に加え、知性を感じる切れ長の目と、腰のあたりまで伸びた鮮やかな金髪が特徴的だ。漢服風に仕立てられた豪奢なドレスに身を包むその姿は、かつてリアルの世界にも存在したという『傾国の美女』を彷彿とさせる艶姿だった。
何より特徴的なのは……その美女の頭からぴょこんと生える狐の耳。
そして、腰のあたりから広がるように生えている……9本ある、狐の尾だった。
その美女は、玉座に座って待ち構えるアインズの近くまで来ると、拝手の形で手を合わせて片膝をついた。
自分が下、アインズが上であることを自分から認めるその仕草に、守護者達は当然のことだとは思いつつも、『客』として招かれてなお自分達の主を立てるその姿勢を評価した。
その美女に対し、玉座に腰かけるこの墳墓の絶対支配者が口を開く。
「よく来てくれたな、わが友“ラストにゃんにゃん”よ。ユグドラシルとは異なるこの地に来て、旧知の戦友であるお前と会えたこと、とても嬉しく、また心強く思うぞ」
「ありがたいお言葉、恐悦至極に存じます、アインズ殿。若輩の身ではありますが、ナザリックの同盟者として認めていただいたこの栄誉に恥じぬ貢献をお約束いたしますゆえ、なにとぞこれからよろしくお願いいたします」
うむ、と満足そうに返すアインズと、淑やかでありながら艶やかな立ち姿で、うやうやしく再度一礼する美女……『ラストにゃんにゃん』。
一枚の絵画のように、まさしく絵になると言える、美しく厳かなその光景の裏で、実は……
『ホントすいませんラストさん……形だけとはいえ、下手に出るようなことしてもらってしまって……俺としては普通に対等でいたいんですけど、ナザリックの面々みんな俺への忠誠心とかその他諸々カンストしてて、こうしないと多分納得しなくて……』
『いえいえいえいえ全然大丈夫ですこのくらい。結構扱い困りますよねNPCが一緒に来てると……私も既に一回通った道だからよくわかりますて。それにモモンガさんが私にとって師匠なのも、尊敬してるのもホントなんですから、ドーンと構えちゃっててください!』
こんな必死な感じのやり取りが『
☆☆☆
ギルドホームである『ナザリック地下大墳墓』と共に、知らない異世界に転移して来てしまったユグドラシルプレイヤー・モモンガ。
故あって名前を『アインズ・ウール・ゴウン』に変え、意思をもって動き出したナザリックのNPC達と共に、この転移後の世界で、自らの、そしてギルドの名を不変の伝説とするために活動を始めたところだった。
なんやかんやあって、現地において最初に接触した集落である『カルネ村』を事実上の支配領域に収め、次なる一手として『冒険者として外の世界の情報を集める』という作戦を検討していたアインズだったが……その矢先、とある事件が起こった。
ユグドラシル時代のアインズの友人……『ラストにゃんにゃん』との再会である。
この場所に出現して数日と経っていなかった『ナザリック地下大墳墓』。
その存在を外部から隠すため、数日前からマーレが『
規模的に1日で全て終わらせるのは難しかったため、何日かに分けて続けていた。
その日もマーレは、付き添いのアウラと共にその作業を行っていたのだが……時を同じくして、ラストにゃんにゃんの部下達もこの近くに来ていた。
数日前まで間違いなく何もなかったにもかかわらず、いきなり出現した遺跡の調査のために。
その両者が接触し……一時はナザリック側が、侵入者か敵襲かと警戒する事態になりかけたのだが、さほど時を置かずして、互いの素性が明らかになった。
緊張が解けると同時に、互いにそれぞれの主……アインズとラストに報告が上がり、その数分後には、その主同士がこの異世界で再会を果たした。
そしてアインズは、この異世界でよく見知った者に会うことができた安堵と歓喜をもって、色々と話を聞くために
それが、今から数日前のことだった。
そして、今。
玉座の間での謁見を終え、『モモンガ』だった頃から使っているプライベートルームにラストを招き入れ、『内密の話があるから』とメイドにも退出を命じたアインズ。
部屋にいるのは、彼とラストの2人だけ……すなわち、ユグドラシルプレイヤーだけとなった。
「いやあ……お疲れさまでしたラストさん。あらためて、付き合わせちゃってすいません。合わせてもらってホント助かりましたよ」
「お疲れ様ですモモンガさん。あ、今はアインズさん……って呼んだ方がいいんですかね」
「俺としてはどっちでもいいんですが、できれば『アインズ』でお願いします。基本的にNPC達の前でもコレで統一してますし、使い分けてるといざという時にこんがらがりそうで」
玉座の間で見せた、支配者然とした態度からは打って変わって、ラストに対して気安い感じで接するアインズ。
彼にとってラストは、ユグドラシル時代からの知人であり、弟子であり、『戦友』だった。
ギルドメンバーと同じように気を許せる、信頼できる相手である。ゆえに、この『異世界』で再会できたことは非常に嬉しく頼もしかったし、こうしてナザリックに、それも自分の生活圏内に招き入れることにも何の躊躇いもない。これから先も、協力してやっていけたらと思っていた。
その理由はいくつかある。同じく異形種である点や、ペロロンチーノやウルベルトといった共通の友人を多く持っている点、ゲーマーとして師弟関係に近い間柄である点――ユグドラシル初心者だったラストにアインズ(当時はモモンガ)が色々とレクチャーしてやった過去がある――等々。
だが、中でも一番の理由は……アインズとラストが共に、ユグドラシル終末期まで、同じように『1人でギルドを維持するために戦っていた』という共通点……そして、そこからくる仲間意識だった。
アインズ(モモンガ)の所属していた、ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』。
ラストの所属していた、ギルド『暗黒桃源郷』。
これら2つの共通点として、最盛期には誰もが知る有名ギルドだったにも関わらず、終末期には多くのギルメンが脱退するか引退し、現役のプレイヤーがそれぞれ、アインズとラストだけになってしまっていた、ということが挙げられる。
ギルド拠点を維持するコストを稼ぐために、傭兵NPCなどを駆使して効率のいい狩場を回ったり、その忙しい中でもできる範囲でソロでイベントに挑戦したりと、孤軍奮闘、それぞれの城を守っていた。
時には、2人で協力して狩場を回って金貨を稼ぐこともあり、そういった苦労を共に分かち合っているという意味では、ある意味ギルドメンバーと同等かそれ以上の仲間意識すらあった。
サービス終了の日には、最後の瞬間をそれぞれのギルド拠点で迎えるために、一緒にこそいられなかったが、直前までメッセージなどでやり取りは行っていた。
そのまま、もう会うこともなくなるかと思われた2人だったが……こうして再会できたことは、『異世界』に放り出されているという異常事態も相まって、喜びもひとしおだった。
ただ、アインズとラストには、現時点において決定的な違いが1つあった。
それは……『いつこの世界に来たか』という点である。
「でも、驚きましたよ……本当なんですか? ラストさんがこの世界に来たのが……もう400年も前のことだなんて」
「本当なんですよねえ……私今、400歳超えのおばあちゃんです。まあ、心はいつまでもぴちぴちの20代のつもりですけどね!」
『えっへん』と豊満な胸を張るラストと、そのギルド拠点がこの世界にやってきたのは、実は、アインズ達と同じタイミングではない。
今から数えて400年前に、すでにこの世界にやってきていた。それから今まで、ずっとラストはこの世界で生きてきたのだ。
幸いというべきか、ラストのアバターは『異形種』であるため、寿命が存在しない。
悪魔系種族の亜種であり、一時期実装されていたイベント限定のレア種族『妖怪』系。その頂点種族の1つ『白面金毛九尾の狐』。それが、ラストの種族である。
年月を重ねてもその見た目は、美貌は衰えることはなく、また精神的にも大きく変調するようなことはなかった。……それもまた『異形種』ゆえの性質なのか、はたまた彼女の元々の性格ゆえなのかはわからないが。
だからこそ、アインズは最初にそれを打ち明けられた時、とてもラストが400年もの時間をこの世界で過ごしたというのが信じられなかった。
しかし、そんな嘘をつく理由が彼女には存在しないし、彼女が持ち込んでくれた情報は、それだけの時間をかけて調べたものだと言って納得できるような量と質だった。
……あるいは、それだけ長くこの世界にいれば、調べようとしなくても勝手に集まった、というのもあるだろうが。
ラストの話が真実なのだろうと理解したアインズは、いったいラストはどんな気持ちで、400年もの間、たった1人でこの世界で生きてきたんだろうと思った。
どんな言葉をかければいいのか……安易に励ましや同情をしていいのかもわからなかった。
しかし、そんな、ともすれば湿っぽくなってしまいそうな空気を、ラストは全く何でもないことのように笑いとばした。
「そんな悲しそうな顔しないで下さいよ、アインズさん。私は別にそんな、400年間苦しい時間を過ごしてきたわけじゃないですから。割と楽しく、好きなように生きてましたよ、ずっと」
そんな風に笑うラストに、演技や強がりのような様子は見られなかったことに、ほっとするアインズ。本当に、この400年は彼女にとって、特段辛く苦しい、寂しい時間ではなかったようだ。
あと、『俺今骨だから表情とか無いと思うんだけど、悲しそうな顔ってどんな顔だろ?』ともちょっと思ったが、ひとまず気にしないことにした。
「アインズさんもそうですけど、私には一緒に転移してきたギルド拠点や、そこにいるNPCたちがいましたからね。寂しくはなかったです。それに……元のリアルの世界とは全然違う、すごく自然が豊かで空気もきれいなこの世界で、健康どころじゃない強い肉体で思いっきり好きなように過ごせるってだけで、めっちゃ楽しかったですし!」
「ああ、それは俺も思いました。転移した直後に、夜にちょっと外に出て空中散歩したんですけど……その時見た星空がすごく綺麗で、びっくりしましたよ。リアルじゃ絶対見れなかった景色だから……いろいろ驚きはしたけど、むしろこうしてここに来れてよかったかも、って思いました」
「でしょ!? すごいわかりますそれ! 大気汚染も都市の光も何もないと、あんなに星空がキレイに見えるんだ、って私もびっくりしました……それ以外にもこの世界、まだまだすごい見どころがたくさんあって、400年間全く飽きずに色々楽しめました……」
「へえ……じゃあせっかくだし、ラストさん、よかったら聞かせてもらえませんか? ラストさんがこの400年……『この400年』って言い方すごいな……(笑)。どんなことがあって、どんな風に過ごしてきたのか、とか。俺の方も、寿命がない異形種として、これから先何百年、って、このナザリックの皆と一緒に過ごしていくだろう身として……参考に聞いてみたいです」
「もちろんいいですよ! ただ……400年分の思い出ですからねえ。ホント色々あったし、色々やったんですが……さて、何からどんなふうに話そうかなあ……」
気づけばいつの間にか、暗い空気、寂しい雰囲気なんてものはどこかに飛んでいってしまっていた。
ユグドラシル時代と同じように、アインズとラストは他愛もない話題で雑談に花を咲かせ、楽しそうに笑い合っていた。
お楽しみいただけましたら幸いです。
感想などいただけますと作者が狂喜乱舞するとともに、執筆意欲の向上につながったりする単純な精神構造をしておりますので、なにとぞよろしくお願いします。