カルウィン(ケラルトのお使い)から、ラナー王女は西じゃなくて東に向かった可能性があると聞いたクライム達。
一路東へ……と行きたいところだけど、連れていかれた目的が『生贄』の可能性が出て来てしまったため、一刻も早く行きたい、ということに。
けど、徒歩や馬車の移動速度じゃ全然だし、馬を潰すつもりで走らせても、それでもまだ時間がかかる。さてどうしたらいい。
そこでネイアちゃんから提案。カルウィンに運んでもらったらどうか、と。
彼には、数か月前の『ゲゲル+大侵攻』の時に偶然手に入れた(私らがプレゼントした)パワードスーツ『アーバレスト』がある。あれなら文字通り飛んでいけるため、アベリオン丘陵から『エルヘヴン共栄圏』にある遺跡まで最速で着く。
それを聞いたクライムがカルウィンに頼み倒し、『しょーがねえな』って渋々なカルウィンによって運んでもらえることに。
なお、パワードスーツで飛んで運べるのは、頑張っても2人が限界。なので、クライム君と、案内役としてクレマンティーヌが同行することに。
カルウィンが『アーバレスト』を装着して……でも、飛ぶ時は背中からスラスターが噴射されるので、おんぶとかはできない。
なので、クライム君は猫みたいにして脇に抱えられて荷物扱い。
一方クレマンティーヌは、その反対側の肩にクッションを置いて悠々と腰かけ、抜群のバランス感覚と体幹で揺らぐことなく余裕の表情で座っていた。
残りのメンバーは、馬車を調達して後から追ってくることになった。
ネイアちゃんの口利きがあれば、国境の大要塞で借りられるらしいので。
休憩を挟んで半日以上飛び続け、どうにか件の『遺跡』に到着。
スタミナと魔力の限界ギリギリまで頑張ってくれたカルウィンに謝り倒しつつ、クライムが遺跡の中に入ると……そこに、鮮やかな金髪の女の子がうつぶせで倒れていた。
その周りには大きな血だまりができていて……明らかに致死量。肌も真っ白だし、一見して『死んでいる』とわかる有様だった。
愕然としつつ、恐る恐るその死体の顔を確認すると……
(……違う。ラナー様じゃない……よかった……)
不謹慎は自覚しつつも、安堵してしまったクライム。
倒れている少女は、ラナーによく背格好が似ているが、別人だった。加えて言えば、手や肌が荒れていたり、髪にも手入れ不足でくすみや痛みがあり、貴族ではないように見えた。
心臓を一突きにされて殺されている。そして、流れ出た血で何かの記号や文字が書かれているようだった。
周囲の床には、『生贄の祭壇』にあったものと似たような模様も刻まれており、あからさまに『何か良くない儀式』を行った後、という感じになっている。
あ、もちろんこの遺跡も私らが突貫工事で作りました。
あえてアベリオン丘陵の『生贄の祭壇』とはちょっと違ったデザインで、しかしよく見ると使われてる文字とか記号とかで『同じコンセプトのやつだ』とわかるようになってる。この後遅れて合流するイビルアイ達が来ればそう言ってくれるだろう。
ラナー王女はいなかったけど、ひとまず死体が見つからなくてほっとしたクライム。しかし、直後に遺跡の外が騒がしくなってきた。
何かと思って出ていくと、なんとそこに、何体もの悪魔が現れて、クレマンティーヌ達が襲われていた。
『どうしてここに悪魔が!?』と困惑しつつも、クライムも加勢して戦いに移る。
悪魔は数が多く、しかも1体1体がそれなりに強くてしぶといため、苦戦することになった。
と言っても、レベルにして20もない奴らなので、本来ならクレマンティーヌがいる以上、『スッと行ってドス!』の繰り返しで簡単に片づけられちゃう程度でしかない。
しかし、それだと盛り上がりに欠ける。
なので、今ちょっとスタミナ切れで戦えないカルウィンをダシにしてる。
彼を守りながら大量の悪魔と戦わなければならないので、必然的に防戦一方になる……みたいな感じで。
そして、悪魔は1体1体が、クライムでは苦戦の末にどうにか勝てるか勝てないかってところの強さなので……『カルウィンさんは自分が守りますからクレマンティーヌさんは前に出てください!』なんてこともできない。
むしろ、クライムが複数に狙われそうになるたびに、クレマンティーヌがそっちもカバーしなきゃいけない始末。
途中、『
力になるどころか足を引っ張ることしかできず、戦いながら落ち込むクライム。
自分のわがままで無理をして飛んでもらったカルウィンを守ることもできず、それどころか彼と一緒にクレマンティーヌに守られている。
彼女1人なら、きっとこんな悪魔も物の数じゃなかったかもしれないのに。
ますます落ち込むクライムだが、そこに救いの手が差し伸べられた。
「無事か、クライム殿……と、クレマンティーヌもいたか!」
「おー、ザリュっちゃんいいところに! ちょっと手伝ってくんない?」
「なんか騒がしいと思ったら……また襲われてるんですか君!?」
「加勢する!」
「っ……エオン殿、アルシェ殿も……!」
騒ぎを聞きつけてやってきた……という体で現れた3人、ザリュース、エオン、アルシェの3人が加勢。これにより、形勢逆転。
アルシェとザリュースが協力して守りに回り、カルウィン……とクライムを守りつつ、クレマンティーヌとエオンが攻撃に回ることで、あっという間に悪魔を殲滅できた。
どうにかなったという安堵と、ほとんど何もできなかったという自己嫌悪を心に抱えながら……クライムは剣を鞘に納めるのだった。
『わっかりやすいねー彼。王国では珍しいくらいに、真面目で素直な子なんだねえ』
『ぱっと見てわかるくらいに落ち込んでる。ちょっと気の毒だけど……』
『ええと、こんな感じでいいの、母さん?』
『いいよーいいよー、その調子でクライム君には、もっともっと強さに対してハングリーになってもらわないとね……! この後の『修行パート』のために……ね』
☆☆☆
その日は遺跡(屋根も壁もある)を利用して一夜を明かし、体を休めたクライム達。
翌日、そこを出立して、あらかじめ決めていた、ネイア達との合流場所にしていた町に向かう。
ほら、この『遺跡』の場所を知ってるのがクレマンティーヌだけだから、後から追いかけてここで合流する、ってことができないんだよ。ネイア達だけじゃ『遺跡』まではいけないからね。
だから、遺跡で必要なことを確認した後は、最寄りの町に出て来て合流する、という手はずになってた。
その街でさらに二泊ほどして待って、ようやくネイア達と合流出来た。
馬車から出て早速突撃してぺろぺろ舐めて甘えてくる
……代わりに、見知らぬ女の子が『生贄』って感じで殺されてたことも。聞いていたほとんどが気分を悪くしたような顔になった。
とはいえ、これでまた手がかりがなくなってしまい、振り出しである。
地道に聞き込みとかするしかないのか……と思ったところで、
「それなら……『エルヘヴン』で情報収集するのはどうだ?」
ザリュースからそんな提案。
彼曰く、いきなり現れたこの遺跡もそうだけど、最近、エルヘヴンの周辺でもおかしなことがいくつか立て続けに起こっているらしく、色々と調査を進めているのだという。
そこでなら、副産物的にラナー王女(を、乗せていったと思われる馬車)についての情報も何か手に入るんじゃないか、と。
あるいは、全く別なところから有益な情報が手に入るかもしれないし。
ザリュースとクレマンティーヌの仲介があれば、部外者でも入国するくらいはできるだろうから、もし望むならこのまま案内して連れて行ってもいい、と。
もちろん、不要なトラブルを起こさないとか、そのあたりの配慮は必要になるが、王国貴族みたいに横柄な態度を取らずに普通にしていればいいだけなので、問題はないだろう。
「イビルアイちゃんはちょ~っと態度大きい部分があるから気を付けてね~?」
「大きなお世話だ! ……ふん、お前みたいなのが大丈夫なのなら、大概の奴は問題ないだろうよ」
「あーっ、ひっどいなあ、そういうこと言うわけ? これでもきちんと偉い人の前で猫被るのとかは得意なんだからね私!」
「素のあんたは失礼だと思うのは否定しねえのな……」
そんな力の抜けるやり取りがちょっとあったのはともかく。
クライム達は、相談して考えて……そのお言葉に甘えることに決めた。手掛かりを求めて、次の目的地は、大森林の中にダークエルフ達が作った新興国『エルヘヴン』となる。
「あれ……カルウィンさんもこのままついてくるんですか?」
「ああ、なんかケラルトの奴に、『ちょっと気になるからしばらくネイアに同行してやってくれ』って頼まれててよ。いざって時は守ってやってくれとさ。せっかくだ、噂のダークエルフ達の国でも見物させてもらおうかね……買って帰れる土産物とか何かあるかな?」
「どうでしょう……森の中で自然と共に暮らしてるらしいですから、その……対外的にお土産になりそうなものってあるかどうか……そもそも交易貨幣使えるんですかね?」
「ふつーに使えるよ? 他国との交易を見据えて貨幣経済導入してるし、交易品になりそうなものも色々売ってるから。なんだったらよさげなお店いくつか案内するし」
「マジか、じゃあ後で頼もうかな」
「……緊張感のない奴らだ」
「まあでも、ずっと緊張しっぱなしでもよくないでしょうし、いいんじゃないですかこれくらい? 締めるときにきっちり締めればそれで」
「同意。ほどよくふざけられるのは精神衛生上むしろ好ましい」
にしても……ザリュースは真面目でまっすぐで、優しくてお人好しな部分もあるから……『こういう状況ならこう動くだろう』っていう予想が立てやすくていいね。
クレマンティーヌ、エオン、アルシェと違って、彼は『ナザリック側』ではあるものの、今回の『ドラゴンクエスト作戦』については一切話していない。
話していないけど、見事に私達の予想通りに動いて、クライム達に情報を与えたり、協力を申し出たりという感じで働いてくれる。今のところ、ことごとくシナリオ通りだ。
まあ、ちょっとくらいシナリオを外れても問題ないように、色々仕込んではあるんだが。
一切裏表のない彼の実直な態度が、クライム達の心に響きやすいんだこれが。クライム自身が、腹芸とかそういうの一切できない、似た者同士的な感じだからね。
……ただ、つい最近相手の雌と『
後で何か埋め合わせさせてもらうから。ザリュースだけじゃなく、奥さんのクルシュや、蜥蜴人全体に喜んでもらえるようなものの方が喜ばれそうだな。考えておこう。
☆☆☆
それからしばらく森の……『トブの大森林』の中を進む一向。
大森林には、いつの間にか舗装された広い道ができていて、森を突っ切って『エルヘヴン』の都まで延びている。ダークエルフ達が外と行き来するために作ったものだろう。
そこを通って『エルヘヴン』に行く最中、何度か巡回と思しきダークエルフその他の亜人に会ったものの、ザリュースとクレマンティーヌが事情を説明すると、何も言わずに通してくれた。
そのことに感謝ないし感心しつつ、クライム達は『エルヘヴン』を目指して歩き……ほどなくして、森の中に出現した大きな都市に到着した。
そこは、ネイアが心配していたような、『森の中で自然と共に暮らしている』=『原始的な暮らしなのではないか』というような場所ではなく……木造建築こそ多いものの、普通に発展した近代的な暮らしをしている都市だった。
人間国家と比べると、さすがに都市のつくりそのものが違うため、上手く比較するのは難しいが……活気で言えば、聖王国の首都ホバンスや、王国の王都リ・エスティーゼにも引けを取らない。
屋台や露店で売られている食べ物も、肉、魚、野菜など多種多様で、もちろん人間も普通に食べられそうなものも多くある。
亜人による新興国家がここまで進んだ暮らしをできているのかと……やや差別的ないし偏見ありの考えであることを自覚しつつ、ネイアやカルウィン、イビルアイといった、他の『亜人』の生活様式を知っている面々は、だからこそ驚いていたようだった。
そのエルヘヴンで、クライム達はラナー王女に関する、あるいはそれに関係のありそうな情報を集めたわけだが……結論から言うと、ラナー王女の行方などについて、直接何かがわかるということはなかった。
しかし一方で、いくつか気になることを聞くことができた。
先に聞いていた通り、『見覚えのない遺跡が突然現れる』というような現象や、他国の兵士か何かと思しき者達が時々森の中で目撃されるということ。
もっとも後者については、『密猟者か何かかもしれない』と思われていて、そっちは珍しくないので、特筆すべきこととも捉らえられていないようだったが。
そして、その中で最も気になったのが……『神隠し』の噂である。
エルヘヴン周辺の森、そのさらに奥の方に入っていった者達が、時たま行方不明になってしまうというものだ。
その頻度自体はさほどでもないが、行方不明になった者達は……1人も帰ってきていない。
そして、その行方不明者が多発している地点の近くに、先にクライム達が行ったのとは別な、新たな『謎の遺跡』が現れている、ということも聞いた。
もちろん、少しでも手掛かりがほしいクライム達は、そこへ行ってみたいと希望した。
エルヘヴンの民達は、クライム達を心配し、『危険だからやめた方がいい』と止めたが……彼らの意思が固いことを知ると、ため息交じりに、どうすればいいか教えてくれた。
ただ注意点として、トブの大森林の奥地は、ダークエルフ達にとって重要な場所でもあるため、他国の民はもちろん、『エルヘヴン』の民達ですら入ることは禁じられている。
幸い、件の『遺跡』はそこよりは浅いところにあるため、間違って立ち入り禁止区域に入らないように、と注意されたことを心に刻んで、クライム達はそこへ向かっていった。
……そして、その遺跡にて……クライム達は、衝撃の事実を知ることになる。
「どういう、ことですか……なぜ、あなたがここに……!?」
「いや、それよりも……なぜ、あなたが……
「答えてください、バルブロ殿下! なぜ……」
「なぜ……魔王ヤルダバオトとあなたが、一緒にいるのですか!?」
「『殿下』ではなく『陛下』だ……薄汚い平民め。運よく生き残ったようだが……品のなさは直っていないようだな」
「三つ子の魂百まで、と申します。期待しても仕方がないというものでしょう」