オーバーロード 傾国狐の異世界日記   作:破戒僧

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第6章 悪魔の取引

 

 

 トブの大森林の奥にある『遺跡』にたどり着いたクライム達。

 そこで彼らが目にしたのは、なんと、数週間前、玉座を奪って国王となったバルブロと……かつて王都を恐怖のどん底に叩き落とした、魔王ヤルダバオトが、並んでそこに立っている姿だった。

 

 しかもその周囲には、バルブロが連れて来たと思しき私兵たちと、ヤルダバオトの眷属と思しき悪魔達が、こちらもまるで仲間同士のように並び立って2人を守っている。

 言うまでもなく、異常どころではない光景である。

 

 これではまるで、バルブロとヤルダバオトが繋がっているかのようだ。

 

 いや、このような光景を見る限り……『ようだ』ではなく、実際にそうなのだろう。

 信じたくはない事実だったが、目の当たりにした以上、クライム達も理解せざるを得なかった。バルブロは、悪魔の力を借りてあれほどの強さを手に入れ、王国を奪ったのだと。

 

 しかし、より正確には……真実はさらに醜悪で残酷なものだった。

 他でもないバルブロの口から、得意げに話されたそれを、クライム達は聞くことになった。

 

 バルブロは、人間でありながらヤルダバオトの誘いを受け、よりにもよって『ゲゲル』を行い、王都に住む民達の命を犠牲にして、ヤルダバオトから力を得ていたということ。

 そして、さらなる力をえるために、各地にあるこのような『生贄の祭壇』を使って儀式を行い、その身の内に取り込んだ悪魔の力を強化したり、強力な悪魔を新たに召喚して自分の手ごまとして使うつもりなのだということ。

 

 そして……護送したラナーもまた、自分がより大きな力を手にするための儀式の生贄にするために、『祭壇』に連れて行ったのだと。

 ただし、不運にもその途中で魔物の襲撃を受けてしまい、ラナーは行方不明になってしまった。そのため生贄の儀式を行えなかったと聞いて、その点についてはクライムにとっては不幸中の幸いだったかもしれない。

 

 また、その話の最中……『ラナーはいなくなってしまったが、代わりに聖王女を使えば同じ儀式が行えるから問題ない』などと口走ったことにより、聖王国から来ているネイアとカルウィンが驚愕し激怒することになった。

 

 そして当然……失敗したとはいえ、ラナーを生贄にするつもりだったと聞いて、クライムもまた……怒りで顔を真っ赤にしていた。

 

「あなたは……あなたは、王族でありながら、悪魔と手を組んで国の民達を犠牲にして……ラナー様までもそのために命を使い潰すつもりでっ!!」

 

「それの何が悪い? 民などいくらでもいる、たかだか100人や200人減ったところで、代わりはいくらでも用意できるし、そのうち勝手に増える。この王たる俺の力の一部になれるのだから、むしろ光栄に思って命を差し出すべきであろうが。ラナーとてそうだ、民に甘い顔をすることしかできず、厳しさと強さを持って国を治めることもできないであろうあの女が……」

 

 最後まで聞いていることができなかったクライムが、地を蹴って駆け出した。

 剣を抜き、バルブロのめがけて……今回は殺すつもりで振りかぶり、切りかかる。

 

「おい。待てクライム……くそっ、このバカ野郎が!」

 

「ちっ……さすがに抑えが利かなかったか!」

 

 ブレインとイビルアイがそれを追いかける。

 

「ああああぁぁああああぁぁあっ!!」

 

 その2人が追いつけないほどの速さで――これほど速く動けたか?とブレイン達が驚くほどの、火事場のバカ力のような――クライムはバルブロに肉薄し、その顔面を叩き割るつもりで剣を振り下ろした。

 が、容易く見切られてかわされてしまう。

 

 そこから流れるように連続攻撃に繋げていくも、こちらも剣を抜いたバルブロによって、容易くさばききられてしまう。一撃もその身にあびせることはできなかった。

 

 その隙間を縫うように、飛び込んできたブレインの剣が振るわれ、バルブロの首元めがけて吸い込まれるように……

 

「おっと、ここにも手癖の悪い平民がいたか」

 

「なっ!?」

 

 神速の一太刀は、少し前のクライムの時と同じように、素手でつかまれて止められていた。

 

「っ……どいつもこいつも、人の刀を素手でひょいひょいつかんで止めやがって……自信なくすぜ本当によ!」

 

「何を言っているかわからんが……文句を言いたいのはこっちだ。少しは貴様ら、身のほ……」

 

「『水晶の短剣(クリスタルダガー)』!!」

 

 高速で飛来した、水晶でできた刃。

 バルブロは咄嗟にブレインの刀を放し、腕でその短剣を防いだ。

 

 ガキン、と、硬質なものにあたったかのような音と共に、短剣は弾かれて砕けてしまったが……バルブロの方も無傷ではなかった。腕が切れ、赤い血が流れ出ている。

 それを見て、そして腕から伝わってくる痛みを感じてだろう、バルブロの顔が真っ赤に染まって表情が憤怒に変わる。

 

「貴様っ……下劣な不死者(アンデッド)の分際で、この俺に何をしたァ!?」

 

「はっ、傲慢な愚か者には変わりないらしいな。手を出しておきながら、その手に噛みつき返されることまでは頭に……何っ!?」

 

 途中まで言いかけて、しかし、イビルアイは目の前の光景に驚いて絶句する。

 今しがた、自分の魔法で負傷したはずのバルブロだったが……その腕にできた傷が、見る見るうちに小さくなって、血も止まり、完全に塞がってしまったのだ。

 明らかに、普通の人間が……魔法もなしに発揮できる治癒能力ではなかった。

 

「おいおい何だ今の……マジックアイテムか何かの力か? それとも……」

 

「既に本格的に人間をやめているのか、だな……一応、血は赤いようだが……」

 

「調子に乗りおって……許さんぞ貴様ら! この俺自ら、身の程というものを教えてくれるわ!」

 

 

 

 バルブロは、ガゼフを圧倒して叩きのめしたあの時よりも、さらに強くなっていた。

 

 クライム、ブレイン、イビルアイの3人を同時に相手をして一歩も引かず、腕力と敏捷性、反射神経だけで全ての剣をさばいて打ち払う。

 時折隙間を縫って飛んでくるイビルアイの魔法も、大半を剣で切り払って無効化する――おそらくは普通の剣ではなく、魔法の力を宿した魔剣の類なのだろう――始末である。

 

 先の『ゲゲル』を戦い抜いたブレインとイビルアイをして、『下手な悪魔よりも手強い』と思えるほどにバルブロはなっていた。

 

 何度か、その身に攻撃が届いて傷を刻むことができたものの、それもものの数秒でふさがってしまい、見た目だけなら未だにバルブロは無傷なままだった。

 

 何十回目かの打ち合いの折……バキン、と破滅的な音を立てて、クライムの剣が折れた。

 

「っ……くそっ、剣が……!」

 

「はっ、所詮は粗悪な数打ちの剣よ! 50人の命と引き換えに、ゲゲル達成の際にヤルダバオトから受け取ったこの魔剣・クーゲルシュライバーにはかなうまい!」

 

「何を得意げに人でなしの所業を自慢してんだテメェは!」

 

 そう言って振るわれたブレインの刀も容易く受け止め、はじき返す。

 手に伝わってくる感触から、ブレインもまた、自分が持っている武器の寿命が近づいてきていることを感じ取っていた。

 

(くそ、忌々しいが……マジで武器のレベルが違いすぎる! 上手く威力を受け流しても、このままじゃもたねえぞ!)

 

 ブレインの剣も――現地基準では、という但し書きこそつくものの――決してナマクラではない名刀なのだが、それでもバルブロの剣は格が違う。

 おそらくは、王国における至宝の1つ『剃刀の刃(レイザーエッジ)』と比較してなお、圧倒的な性能を持っているのだろう。剣も魔法も等しく切り払う、恐ろしい刃。

 

 

 なお、その剣の誕生ないし製作の裏側にて、

 

 

『派手な追加効果とかはいらないんで、とにかく頑丈で、強度だけなら『聖遺物級(レリック)』相当の性能で作りましょう。『遺物級(レガシー)』が大国の国宝扱いな世界ですから、それでも十分インパクトありますよ』

 

『そうですね。スキルも使って強度マシマシにして……後は、魔法抵抗を強めに持たせるのと……レアリティが低い武具に対する武器破壊効果が一定確率で発動する、くらいでいいかな。あ、名前とかどうしましょう?』

 

『ああ……どうしますかね。適当な中ボス用につくる剣だし、言っちゃなんだけど特にこだわりはないんですが……なあパンドラズ・アクター、何か案とかあるか?』

 

『それでしたらアインズ様……『クーゲルシュライバー』というのはどうでしょう?』

 

『おお、なんかカッコいいじゃん! アインズさん、それでどうです?』

 

『いや、いいですけど……お前それたしか、ドイツ語で『ボールペン』って意味だよな?』

 

『はい! ですが、現地の民にはわからない単語ですし、聞き覚えのない単語であればある程度はそれっぽく『すごそう』に聞こえるものになるかと!』

 

『無駄に正論だな……まあ、悩むのもアレだし、それを採用しよう』

 

『光栄の極みどぅえっす!!』

 

 

 こんなやり取りがあったことを知る者は、そこにいた3人以外にはいない。

 

 

 

 3対1でさえ攻めきれず、押され始めるクライム達。

 しかしそこに、バルブロの手下達と、ヤルダバオト配下の悪魔達を片付け終わった他の面々が合流し、加勢し始めた。

 

 特に、この中でも突出した実力者である、クレマンティーヌとエオンの参戦は大きい。ブレインをはるかにしのぐ刃の乱舞と、イビルアイをはるかにしのぐ魔法がバルブロを押し始める。

 それに加えて、パワードスーツを纏ったカルウィンや、エオンほどではないものの強力な魔法を操るアルシェの存在も大きかった。このままいけば、押し切ってバルブロを倒せるのではないかと思えるほどに。

 

 しかし今度は、バルブロの側に、今まで静観していたヤルダバオトが参戦。最早クライム達では割り込めないほどの規模の戦いが繰り広げられた。

 乱れ飛ぶ魔法は、第五位階などの強力無比なもの。巻き込まれるだけで消し炭になってしまうであろう戦い。割り込めるはずもなく、援護もかなわず、見ていることしかできない。

 

 そんな中、

 

「やれやれ……これでは『儀式』どころではありませんね。やむをえませんバルブロ陛下、今日のところは一旦退散いたしましょう」

 

「何ッ!? 俺に、こんな奴らの妨害に屈しろとでもいうのか、ヤルダバオト!?」

 

「王都の時に戦った『漆黒の英雄(モモン)』ほどではありませんが、さすがにこの数、これだけの実力者がそろっているとなると、こちらに分が悪い。部下達もやられてしまいましたしね。それに……少々厄介なことになりました」

 

「厄介なことだと?」

 

「はい。早々にここを立ち去らないと……巻き込まれます」

 

 言うが早いか、ヤルダバオトはその足元から炎を噴き上げさせ……それにバルブロも巻き込まれる。

 しかし、熱がる様子も苦しむ様子もない。恐らくは、攻撃力を持ったものではなく、また別な何かしらの効果を持ったもので……炎のような見た目は、単なるエフェクトの一環なのだろう。

 

「待て、逃げる気か!?」

 

「ふん、バカを言え、見逃してやるのだ……時にお前達、中々腕が立つようだな。ガゼフなどよりよほど使い勝手がよさそうだ……。もし、身の程をわきまえ、反省して(こうべ)を垂れて俺に忠誠を誓うならば、生かして使ってやってもいいぞ。次に会う時までに考えておけ」

 

「世迷言を……!」

 

 クライム達の言葉を聞くこともなく、言いたいことだけ言って、バルブロとヤルダバオトは炎の中に消え……その炎が消えると、そこには何も残ってはいなかった。

 

「消えちまった……」

 

「炎を使った転移魔法……でしょうか?」

 

「そんなもの聞いたこともないが……悪魔の使う術だ。私達の知識や常識だけで推し量れるものではないんだろう」

 

 戦闘が終わり、途端に静かになった遺跡内部。

 激しい戦いがあったことを示すかのように、あちこちがボロボロになり……場所によっては今にも崩れ出しそうなほどだった。長くここにとどまるのは危険かもしれない。

 

 まだ十分に調べたとは言えないが、やむなくクライム達はそこから脱出することにした。

 

 

 ……しかし、遺跡から出た……その瞬間。

 

 クライム達は……目の前の光景に絶句して、固まった。

 

「え……!? な、何ですか、これ……私達、森の中にいたはずじゃ……」

 

「おいおい、どこだここ……?」

 

 森の中を進んでたどり着いたはずの『遺跡』。

 

 なのに、出るとそこに広がっていたのは……何もない荒野だった。

 森どころか、木など一本も生えておらず……ただ、土と砂だけの地面の、何もない荒野がそこには広がっていた。

 

 愕然として呟いたネイアとカルウィンに続き、イビルアイとザリュースがはっとしたように、

 

「……まさか、これが……『神隠し』……か?」

 

「あり得る話だ。少なくとも、『エルヘヴン共栄圏』の領域内にこんな場所はないはずだ」

 

「おいおい……冗談じゃ……おい!? 後ろ見てみろ!?」

 

 はっとしたようなブレインの声に、反射的にクライム達も振り返る。

 すると、何と、今確かに自分達が出てきたはずの『遺跡』が……影も形もなくなっていた。

 

 それどころか……

 

「……おい、クレマンティーヌがいねえんだが……どこ行った?」

 

「えっ、そんな……あ、あれ? アルシェさんとエオンさんもいません!」

 

「なっ……まさか、あいつらともはぐれてしまったのか!?」

 

「それに、外に止めてた馬車もなくなっています……あっ、お前は無事だったのか、アルム」

 

 ―――わんわんっ!

 

 何の前触れもなく、荒野に投げ出された6人と1匹。

 

「これ……これから、どうすればいいんでしょうか……?」

 

 思わずと言った様子で、途方に暮れたようにぽつりとこぼしたネイアに、答えを返せる者は……誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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