「リンク・スタート! ……なんちゃって♪」
ここは、『エルヘヴン共栄圏』の領域内にこないだ急遽作った、『生贄の祭壇』という名前の遺跡の中。
そこに私は今さっきやってきて、ぱぱっと『処置』を終えたところだ。
今、私の目の前には……クライムをはじめ、その仲間として一緒に旅していた面々が、一部を除いて全員、倒れて眠っている。
やったのはもちろん私。耐性突破の睡眠魔法で全員オヤスミしました。
なお、眠っていないのは……エオン、アルシェ、クレマンティーヌの3人。
残りの……クライム、ブレイン、ネイア、カルウィン、ザリュース、イビルアイの6人他が寝ている。全員、ぐっすり眠って『いい夢』を見てるよ。
……よし、それじゃあ……
「はい、じゃあ皆、この子ら全員……『
「「「イエス・マム!」」」
私の号令で、連れて来ていた部下達が、眠りこけているクライム達を担ぎ上げ、運んでいく。
既に開かれている『
「ってことで、あんたらも行くよ、3人とも」
「はーい」
「は、はい、お義母さま」
「わっかりましたー! いやー、演技続けんのも疲れるわぁ」
簡単に説明しよう。
これからクライム達には、しばらく……といっても数日程度だけど、ぐっすり眠ってもらう。
もちろん、ただ眠らせるだけじゃなく……夢の中で修行させる。
シナリオはこうだ。
クライム達は、バルブロとの戦いを終えて遺跡から外に出たら……そこは、何もない荒野になってしまっていた。
振り返ると、さっきまで確かにあった『遺跡』すらなくなっている。話に聞いていた『神隠し』にあって、何処とも知れない場所に飛ばされてしまったのだ!
幸いにして、なんやかんやあって、その場所から戻って来れる目処はついた。しかし、それには膨大な時間がかかる。それだけの時間を、彼らが生き延びなければならない。
襲い来る恐ろしいモンスター達。その襲撃を、仲間達で協力しながら戦い抜いて、生き抜いて……それを繰り返すうちに、いつしかクライム達は、今までよりもずっと強くなっていた……!
そして、かつてバルブロに手も足も出ない程度の力しかなかった、過去の弱い自分と決別した上で、彼らはとうとう戻ってきたのだ!
……とまあ、そういう感じ。
実際には、私の極まった夢操作能力によって、時間感覚ごといじくって、現実では数日間しか経っていないけど、夢の中では数か月経っている、という状態を作り出して、そこで修行させる。
昔あった、某魔法先生ラブコメの『別荘』とか、某超有名バトルファンタジーの『精神と時の部屋』みたいな感じだね。
もっとも、こっちはあくまで『夢の中』だから、鍛えられるのは精神面のみ……あとは、技術とかその辺が多少は、って感じだけどね。
400年も『九尾の狐』――『
時々、効率よく修業したい子供達にやってあげてるし……私以外にも何人か同じことできる子、いるよ。
もっとも、その子達はせいぜい、夢の中と現実の時間差を5~6倍程度にするのがせいぜいだ。
夢の中で丸1日過ごしても、現実では4時間かそこらしか経ってない、って感じ。
でも私なら、夢の中で1日過ごしても、現実では1時間にできる。率にして24倍。
さすがに、『精神と時の部屋』みたいに、1日を365日にするのは無理だけど……まあそれでも、ある程度の強化くらいならなんとかなるだろう。
現実目安で1週間ちょい。夢の中で……半年くらい修行してもらうか。
なお、エオン、アルシェ、クレマンティーヌの3人は、修業の必要がないのでこれは免除。
だけど、途中で合流してもらわなきゃいけないので、数日経ったくらいで彼らも眠って夢の中で合流してもらうけどね。
だからこれから数日間は、まあ、休憩。『
「あ、あの……夢を見せる間、お義母さまはずっと力を使い続けるんですよね? 大丈夫なんでしょうか……?」
ふいに、アルシェちゃんが恐る恐るって感じでそう聞いてきた。
「ん? ああ、平気だよそのくらい。『リング・オブ・サステナンス』をつけてれば、疲労しないし飲食も睡眠も不要になるから。……って、打ち合わせの時に話したでしょ、もー」
「い、いえ、そうじゃなくて……今もう、クライム達は夢を見てるんですよね? 夢操作の能力は……大丈夫なんですか? その……普通に私達とおしゃべりしたりしてますけど……」
「ああ、気になったのはそっちか。大丈夫大丈夫、そのくらい片手間で余裕だから」
今こうしてる間も、夢の中でクライム達はあーだこーだ動いてて、それに合わせて私は夢操作を行っているけど、私もう、そんなんいちいち集中しなくてもできるからね。
ご飯食べる時に、手に持ってる箸やお茶碗をどう動かすかとかそんなことにいちいち意識行ってる人いないでしょ? 私にとってはこんな能力、その程度よ。
それじゃ、アルシェとエオンは4日目くらいに、クレマンティーヌは6日目くらいに合流ってことで……はい、じゃあ一旦解散! 帰ってよし!
お風呂入って、美味しいもん食べて、ゆっくりお休み!
……さーて、お母さんは前途有望な若人たちを、愛情こめていじめますかね。
☆☆☆
クライム達は、このどこともわからない荒野をひたすら歩いていた。
自分達がいつの間にか立っていた周辺を調べても何も見つけられなかったため、とにかく周囲を調べてみよう、という考えに思い至って。
しかし、ひたすら何もない荒野があるばかりで……たまに立ち枯れた木や、ほとんど枯れた草があるだけ。
ただ幸運なことに、池のように大きな水たまりを見つけることができた。
どうやら湧き水らしく、飲んでも問題なさそうなので、クライム達はそこで喉を潤した。
「しかし、本当にどこなんでしょうか、ここは……?」
「……ひょっとして、ここは死後の世界で、俺ら全員死んだとかじゃねえよな……?」
「縁起でもないことを言うな……」
水の確保のため、クライム達はしばらくの間、ここを拠点として周囲を調べようと決めた。
その日は、各々持っていた保存食を食べて飢えをしのぎ、交代で見張りをしながら眠りについた。
幸いにも、魔物は出なかった。
そして、翌日のこと。
どのようにしてこの場所を調べていこうかと話し合っていた最中のことだった。
「お前はっ……ザリュース! ザリュース・シャシャか……!?」
「何!? そういう、お前は……バカな、なぜこんなところにいるんだ!?」
水場近くで、不意に現れた1人のリザードマンと遭遇したクライム達。
その顔を見て、ザリュースはひどく驚いていた。
思わぬ場所で知り合いに会ったから……ではない。
その、クライム達が出会ったリザードマンは……数年前の食糧危機の際、他の部族との戦いで死んだはずの、ザリュースの戦友だったからだ。
そして、そのリザードマンの口から、この場所が一体何なのか、そしてクライム達は今どんな状況にあるのか、その真実が語られる。
「そうか……『神隠し』でここへ来てしまったのか。納得したよ、ザリュース。お前のような勇敢で強い男が、
「どういう意味だ? まさか……ここが、死後の世界だとでも言うのか?」
「少し違う。ここは、特殊な場所なんだ……言ってみれば、『この世とあの世の
「この世と、あの世の……間?」
「そうだ。本来は、死んだ者達の魂はまっすぐあの世に行く。人間の間では、『楽園に行く』『天に召される』というような言い方をするな。しかし、まれにそうならずに迷ってしまう魂がいて……そういった者達は、霊となって現世に戻ってしまうか、あるいは、この領域に降り立つ。そして、魂が天に召されるまでさまようことになるのだ」
「俺達は……死んだのか?」
「いや、おそらく違う。死んだにしては、お前達は命の力に満ち満ちている。俺もそれが不自然でさっき驚いていたんだ。おそらく、その『神隠し』とやらのせいで……生きたまま直接この世界に迷い込んでしまったのだろう」
ザリュースの戦友曰く、命があるままにここに迷い込んだだけのザリュース達なら、まだ間に合う。現世に戻ることができるはずだとのこと。
しかし、この世界に決まった『出入口』のようなものはない。
ここから元の世界に戻るには、世界の境界線を突破することができる者に迎えに来てもらうしかない。
そんな者がいるのか、と聞き返すイビルアイだが、ザリュースはそれを聞いて、
「……まさか、アインズ様か?」
「ああ、そうだ。『神』であるあのお方や、その従者の方々なら可能だろう」
「『神』……ですか?」
分かったように話すザリュース達に対し、いきなり出て来た突拍子もない単語に、クライムやブレインといった面々は疑問符を頭に浮かべる。
少々失礼な話、『ザリュース達がおかしくなってしまったのか?』と勘繰ったくらいである。
ただ1人、イビルアイだけは、『神』という単語に別な意味を見出してぎょっとしていたが。
「ザリュース殿、その……神、とは? 『アインズ様』とは、どういった方なのですか?」
「……これは外部には知られていないことなのだが……」
曰く、ザリュース達が所属している『エルヘヴン共栄圏』は、ダークエルフ達の国『エルヘヴン』のもとに結束しているのではない。
確かにその国が中心となってはいるが、より正確には、そのさらに上に、『ナザリック地下大墳墓』という場所ないし組織があり、その頂点に立っているのが、『神』なのだという。
ザリュース達はかつて、その偉大な力の一端に触れ、忠誠を誓い、共に歩むことを決めた。その共同体こそが『エルヘヴン共栄圏』なのだと、そう語った。
神の名は、アインズ・ウール・ゴウン。
その種族は、『
その方や、その方に仕える従属神ならば、この領域にも来ることができるのではないか。彼らを助けてくれるのではないか。そう、戦友のリザードマンは語った。
「幸い、ここ最近、アインズ様の使徒とこの世界で出くわすことが多い。恐らくだが、アインズ様も『神隠し』についてお調べなのだろう……使徒の方を見つけたら、お前達のことを話しておく。さすれば御方にも伝わり、お救い下さるはずだ」
「まってくれ。聞くのが遅くなったが……お前はなぜここにいるんだ? お前も、あの世に行けずにこの世界をさまよっているのか?」
「まあ、そんなところだ。だが、俺は今は、自ら望んでここにいるんだ。迷える魂に状況を教えてやって、あの世に導いてやるためにな」
そう言って、リザードマンは『神』あるいはその使徒への連絡役を買って出たが、その際、クライム達にいくつか注意点を言い残して行った。
この世界には、原因不明の『神隠し』とやらを通して、現世の動物や魔物がよく迷い込んでくる。
食料については、それらを狩って肉にして食いつなぐこと。
この世界から元の世界に戻るためには、クライム達は『生者』でなくてはならない。助けが来るまでの間、生き続けなければならない。
そして、その『迎えが来る』までの期間についても注意点がいくつかあった。
アインズ様であれば、ザリュース達の居場所を見つけるくらいは簡単にできるはず。だから、何か目印を決めてそこで待っているとか、そういう必要はないはず。
しかし、問題は時間である。この『間の世界』と、クライム達が元居た世界では、時間の流れ方に差があり、現世での1日がこの世界では数か月だったりする。ゆえに、迎えが来るのは……この世界で数か月後かもしれない。
クライム達は、それだけの長い間を、諦めずに待ち続けなければならない。
それを伝えて、リザードマンは去って行った。
後に残されたクライム達は、助けが来るのを信じて……この『間の世界』で、サバイバルの日々を送ることになる……!
もちろんすべて大嘘であり、クライム達がいるのは、ラストが作り出した夢の世界だ。
そしてリザードマン(死者の魂)も、ラストが夢の中のキャラクターとして作り出し、動かしているだけのフィクションの存在である。
しかし、そんなこととは知らない一同は、その言葉を信じて、迎えが来るまでの数日、あるいは数週間、あるいは数か月を生き延びるために、力を合わせて戦い、生き抜く日々を送ることになるのだった。
ただ1人、この世界における『神』という存在……すなわち『ぷれいやー』に関する知識を多少なりとも持っており、それが『おとぎ話に出てくるような神様ではない』と理解しているイビルアイに対しては、きちんと辻褄が合うようなストーリーにする必要があるな、とは思ったため、そこはシナリオを工夫して疑問を抱かせないようにしようとラスト達は考えていた。
それから数か月(夢の中での時間)。
クライム達は、時折遭遇する、現世から『神隠し』で迷い込んできた――自分達と同じように――動物や魔物を見つけて仕留め、食料にして食らい、生き延び続けた。
魔物との戦いは、現世の魔物だけではなく、見たこともない……おそらくはこの世界でのみ存在するのだろう魔物とも戦うことになった。『あの世』が近いからだろうか、アンデッド系の魔物も多く姿を現した。
戦いの中で、イビルアイが
イビルアイは、正体を明かしてなお、彼ら彼女らに受け入れられた。『蒼の薔薇』と同じように。
三か月以上が経った後だが、はぐれていた仲間のうち、アルシェとエオンと合流することに成功した。
彼らもまた、独自にこの世界について理解し、今まで生き延びていたらしい。
しかし、彼らが過ごした時間はほんの半月程度だという(適当な嘘)。
同じ世界内でも時間の流れ方が違う。この世界は本当に、自分達の常識が通用しない場所なのだと、クライム達は思い知らされた。
時折、現世では見たことも聞いたこともない、不思議な食べ物を目にすることもあった。
それを口にすると、不思議と力がみなぎってきて……食べるだけで強くなれるのだ。
それを前にしてアルシェは、そしてイビルアイは言った。
「もしかすると……時々文献とかに出てくる、神々の国の食べ物、かもしれない。食べるだけで力が手に入る摩訶不思議な果実、みたいなものがあるらしいから」
「あり得るな。ここが本当に『この世とあの世の間』なら……神の国からそういったものが迷い込んできてもおかしくはないだろう。……そんな物があるならだが」
「あんたは聞いたことねえのかい? 200年以上生きてるんだろ?」
「年齢をわざわざ出すなバカ。似たようなアイテムの話を聞いたことはあるが……さすがに見るのは初めてだよ。だがまあ、食べるものを無駄にできないこんな状況だ……ありがたくもらうとするしかないだろうな。もっとも、私には不要だが」
「
「? いや、何で謝るんだ……ネイア」
「ええと、その……いつも、飲食できないあなたを放って、私達ばかり食べたり飲んだりしてしまって……お、面白くないだろうな、と」
「……聖騎士見習いでありながら、私のような
「お、こりゃすげえ。イビルアイの嬢ちゃんがこんなしおらしいこと言ってたって、帰ったらあのばあさんや『蒼の薔薇』の連中に話してやらねーとな」
「ええい、横から余計な一言を放り込んでくるな、ブレイン! ガガーランかお前は!」
「いや、どんなツッコミだよそれ」
何だかんだ、ここの生活にも慣れたのか、割と楽しそうに過ごしている面々であった。
しばし、この『修行パート』は続く。