オーバーロード 傾国狐の異世界日記   作:破戒僧

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第8章 謁見

 

 

 クライム達が『間の世界』でのサバイバルを始めてから、さらにしばらくして、

 

「おー、いたいた! うわあ、ひっさしぶり! もう半月くらい会ってなかったから心配したよー……元気だった皆?」

 

「クレマンティーヌさん! ご無事でしたか……と、誰ですか?」

 

「初めまして! 私、ヴィヴィアン! クレマンティーヌの友達だよ! あ、それとアルシェとエオンにも会ったことあるよね、久しぶり!」

 

「ヴィヴィアン……なんであなたまでここにいるの?」

 

 さらに遅れ夢の世界にダイブしたクレマンティーヌと、途中参加で一行に合流した新たなキャストであるヴィヴィアンの2人が仲間に加わった。

 彼女達もまた、『だいたい半月くらいしかまだ経っていない』という認識だった。

 

 ヴィヴィアンもまた、クライム達とは別な場所から『神隠し』に遭い、こうして迷い込み……しかし幸運にも、顔見知りであるクレマンティーヌと会うことができたため、今まで一緒に行動していた、ということらしい。

 

 実際には2人とも、アルシェとエオンと同じで、修業の必要がないがために、時期をずらして夢に合流しただけなのだが。

 

 そうではない面々……クライム達に関しては、夢の中で延々と、強力な魔物や悪魔、アンデッドと戦い続けたことにより、それなりに強化されていた。

 積み重ねた経験が、剣の一振り、動きの1つ1つにも表れていた。

 

 さらに、時折……同じように『神隠し』で現世から迷い込んできたのか、それとも神の国から迷い込んできたのか……自分達が今使っている武具よりも明らかに上質な武具を見つけることができたりもした。

 誰が所有権を主張してくるわけでもないので、ありがたく回収し、使いたい者が使わせてもらうことにした。

 

 そんな生活を数か月続ける間に……クライム達は、地力も、装備も、意図せずして大きく、強く変わりつつあった。

 

 変わっていないのは……子犬(アルム)くらいのものだ。

 いつもクライムと共にいて、彼に遊んでもらったり、ご飯を食べさせてもらったり、体を洗ってもらったりとお世話をされていた、

 

 夜寝る時には必ずクライムの寝床の中に、時には服の中にまで潜り込んできて

「こ、こら、そんな変なところに頭を突っ込むな、くすぐったいから……」

 

 訓練や戦闘の後の汗だくのところに突撃してきて顔をなめたり、またしても服の中に潜り込もうとしたり

「待て、『待て』だアルム。汗拭いてないから汚いし……そもそも汗臭いだろうに。犬なのにそういうの平気なのか……?」

 

 水浴びの時にも必ずと言っていいほど一緒に来て、体を洗ってもらったり、

「よしよし、おとなしくしてろよ、ちゃんと洗ってやるから……こら、暴れるな。何をそんなに興奮して……わわっ、へ、変なところをなめるなって!」

 

 

 ☆☆☆

 

 

 また、ある日のこと。

 クライム達は、荒野に倒れていた1人の女性を拾い、助けた。

 

 しかし、彼女は……今まで合流して来た者達とは、色々と事情が違った。

 

「助けてくださり……ありがとうございます。……元々、敵国同士だった、私のような者を……」

 

「お気になさらず。このような状況です……困った時はお互い様、いえ、『困っている人を助けるのは当たり前』ですから」

 

 かつて、自分を大きく成長させてくれた1人の老執事に教わった言葉を、クライムは……しかし正真正銘本心から、女性にかけていた。

 その、女性の名は、

 

 

 

「私は……レイナース。レイナース・ロックブルズ。バハルス帝国に仕える……帝国四騎士の1人です」

 

 

 

 

 

 「ねえ、そんなキャストがいるってお義母さまから何か聞いてる?」

 

 「聞いてないけど、多分あの人のことだから、ノリで追加したんだよ」

 

 「いや、ノリで引っ張ってくるにしちゃ、大物過ぎん? 何があったんだろ?」

 

 

 

 

 

 即位後の話になるが……悪魔と契約した暴君・バルブロは、王国だけでなく、帝国でも『ゲゲル』を行っていた。

 帝国の市民や軍人、冒険者やワーカーを殺して、自分や腹心の部下の力に変えていた。

 

 それを調査するために、レイナースは皇帝の命令を受けて動いていた。

 

 調査を進め、殺人現場近くで目撃されている不審な集団の存在を知ったレイナースは、その摘発に動いたのだが……失敗。

 その集団を取り押さえようと斬りこんだものの、返り討ちにされ……部下達は全滅。レイナースも重傷を負って倒れこんだ。

 

 そして彼女はその時に、その怪しい集団の頭目が、そしてここ最近起こっていた事件の黒幕が、王国のバルブロ王だったことを知った。

 彼が、悪魔の儀式のために自国と他国の民の命を食い散らかしていることも含めて。

 

 そしてバルブロは、一時、レイナースの美しい見た目を見て、劣情に染まった視線を向けた。

 そのままいけば、口封じのために拘束され、連れ帰られて……欲望のままに強姦されていたかもしれない。

 

 しかし、そうはならなかった。

 そのタイミングで、レイナースの顔半分を覆う髪の下、そこに広がる腫瘍のような『呪い』の痕から膿が漏れ出し……その悪臭に顔をひそめたバルブロに、髪の下を見られたのである。

 

『何だ、この醜い……いや、おぞましい顔は! ええい、なんと汚らわしい……こんな化け物であったとは、たばかりおったな、この淫売め!』

 

 一瞬にして掌を返したどころか、吐き捨てるようにぶつけられてきた、心ないどころではない罵倒に……レイナースは、怒りで顔をゆがめる。

 その表情の動きが、顔の反対側の『呪い』にも伝わり、ふき取ることもできない膿がまた溢れてどろりと地面に落ちる。その様子を、ひどく汚い、おぞましいものを見る目で見下ろすバルブロ。

 

 何か害を与えられたわけでもないのに、バルブロは勝手に気分を害し……ぺっ、と唾を吐き捨てた。それは、レイナースの『呪い』の部分に浴びせられた。

 

 悔しさと怒りが限界を超えたレイナースは、体中の痛みを無視して槍を握り直し、バルブロにとびかかるも……今や、ガゼフすら一蹴してしまえるほどに強くなったバルブロには全く通じず、蹴飛ばされて地面に転がることになった。

 そして、その横に歩いてくるバルブロ。手には、剣。

 

「この俺に不快な思いをさせた不届き者めが。その罪、命を以て償うがいい……」

 

 そう言って、剣を振り上げ、首目掛けて振り下ろそうとして……

 

「……いや、だめだな。もし首を切って、そこからも膿が出て来て剣が汚れてしまってはかなわん……全く、処刑される瞬間まで迷惑な奴よ」

 

 かけられたそんな言葉に、レイナースは愕然とし……手足がわなわなと震えるほどの悔しさの中で……しかし、ダメージの大きさで動けず、何もできない。

 そんなレイナースの体を、バルブロは蹴って転がし、うつぶせにすると、頭を踏みつけて地面に顔を押し付けさせた。

 

 苦しくて、悔しくて、けど何もできなくて……歯を食いしばるレイナース。

 あふれた膿が、彼女の悔し涙が、地面にしみこんでいく。

 

「許さない……殺す、殺してやる……お前だけはっ……!」

 

「ふん、身の程知らずめ。今、その醜い顔の呪いから解放してやるぞ、ありがたく思え」

 

 次の瞬間、バルブロが降り下ろした剣は、レイナースの心臓を貫いて……彼女を絶命させた。

 

 

 

 そうして死んだレイナースは……気が付くと、この世界にいた。

 そして、クライム達に拾われた。

 

 クライム達と違い、死んで、魂だけでこの世界に来たからだろうか。一糸まとわぬ裸で倒れていた彼女に……ひとまず、エオンが魔法で衣服を作って着せてやった。

 そして、彼女の希望に応じる形で……鎧と、武器も用意した。

 

「これでも、帝国においては大戦力として扱われていた身です。同行させていただく以上、恩を返す意味でも力になりたい……しばしの間かもしれませんが、どうぞ、私の力を使ってください」

 

「そして、願わくば……あなた達と一緒に、『現世』に戻ることをお許しいただきたいのです。あの男に、復讐するために……そして、今度こそ、この呪いを取り除くために……っ……!」

 

 レイナースの左側半分の顔には、死してなお、取り除かれることのない『呪い』が、今も息づいて膿を吐き出し続けていた。

 この呪いが原因で自分を捨てた実家や婚約者への復讐はすでに果たしたレイナース。しかし、新たに生まれた復讐したい相手への憎しみと、改めてこの呪いを捨て去りたい、消し去りたいと思わされた悔しさを胸に……レイナースは、クライム達に同行することを決めた。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 そして、さらにしばらく後……

 

 ようやく、その時は訪れた。

 

 食事の後、水場の近くで食休みをしていたクライム達の前に、『転移門(ゲート)』の暗黒環が現れ……その中から出てきたのは、この世成らざる美貌を持つ吸血鬼だった。

 

 その顔を見て真っ先に反応したのは、同じ吸血鬼であるイビルアイ……ではなく。

 かつて、彼女を前に、心を折られた過去を持つ……ブレインだった。

 

「お前はっ……『シャルティア・ブラッドフォールン』!?」

 

「おやおや、あの有様でよく今まで生きていんしたねえ……心折れてどこかで野垂れ死にしているかと思っていたでありんすよ。ブレ……ブレ……忘れんした」

 

「あなたが、『死の神』の使徒……? ブレインさん、知っているのですか?」

 

「ああ、前に……俺が今より断然、ろくでなしだった頃にな……なるほど、神の使徒だったってんなら……そりゃかなわないわな」

 

 呆れたような、納得したような、疲れたような……色々な感情が入り混じった不思議な表情で、ブレインは肩をすくめた。

 それを理解できたわけではなかったが、クライム達やシャルティアは、ひとまずそれは聞き流すことにしたらしい。話は前に進む。

 

 

 

 なお、シャルティアはブレインのことを全く覚えてはいない。

 件の洗脳の一件があった際、アインズに殺されたことで記憶が『ナザリックを出た直後』までリセットされてしまったためである。

 

 当然、この男に見覚えはないし、名乗っていたことも覚えていないし、強者の傲慢全開の戦い方で心をへし折ったことも覚えていない。

 

 しかし、ラストが眠っている最中のブレインからその記憶を抜き出し、

 

『これこれこういうことあったみたいなんだけど、覚えてる?』

 

『あー……すいません、思い出せないでありんす……』

 

『あははは、まあ仕方ない仕方ない。あ、幻術使ってそれっぽく再現映像に起こしてみたから、ちょっと見せるね。あとで会う時の参考にして』

 

『はい、ラストにゃんにゃん様! ……ふーん……これくらいで心折れていじけてしまったでありんすか? やっぱり人間ってどうしようもありんせんねえ……』

 

 

 

 という形で予習していたために、あたかも『覚えている』かのようなリアクションが可能だったのである。

 なお、名前はその再現VTRで改めて確認していたのだが……その後純粋に忘れた。残念。

 

 そしてシャルティアは、その夢の中の世界で、クライム達に『ここに入りなんし』と指示して、今自分が出て来た『転移門』を指さす。

 

 クライム達はそれに従い、恐る恐る、といった調子で、1人ずつその暗黒環の中に足を踏み入れ、そして……

 

 

 

「こ、ここは……?」

 

 

 

 気が付くと彼らは、王国や帝国の宮殿ですら遠く及ばない、豪奢にして荘厳なつくりの遺跡か何かの中……その、通路と思しき場所に倒れていた。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 女騎士のレイナースについては、ちょうどよかったので急遽飛び入り参加ってことで、夢の中に放り込みました。

 帝国の方を監視していたデミウルゴスから、アインズさん経由で『何かに使えませんか?』って話が持ってこられたので、ちょちょいとシナリオを修正して『行ける』と思った私は、その殺されたレイナースを回収して蘇生させ、夢操作でクライム達に接続。『キャスト』の1人として参加してもらうことにしました。

 報酬は……彼女が一番してほしいと望んでいるもの、ってことで。

 

 そんな感じで夢の中で数か月、修業しながら過ごしてもらったわけだが……さて、そろそろ彼らを『起こす』にあたって、色々と準備が要る。

 

 夢の中で、クライム達は強くなったし、色々な武器も手に入れたけど……当然、現実ではそんなことはないわけで。

 体は元のままだし、レベルも上がってないし、武器だって同じだ。

 技術だけは……頭の中に刻まれてるものだから、持って出てこれるだろうし、多少練習すれば、現実の肉体でも再現可能になるだろうけど。

 

 なので、辻褄を合わせておきます。

 

 寝てる間に、エオン達以外のレベル上げが必要な面々の体に『経験値の秘薬』とか『覚りの霊薬』を投与して、レベルを上げておきます。

 夢の中で培った、技術を現実の肉体でも再現可能になる程度に。

 

 装備に関しては、もともと用意できてる装備しか夢の中に登場させてないので大丈夫。起きる前に着替えさせておけばOK。

 

 その状態で、夢の中で『転移門』をくぐった瞬間に気を失わせて……現実の彼らの体を、ナザリックに運んで……そして、目を覚まさせる。

 

 覚醒直後、いきなり成長している(レベル的に)体のせいで多少違和感があるだろうけど、『間の世界』から帰ってきたせいだ、とか言っておけばごまかせるだろう。

 本来は二度と戻って来れない、この世ならざる場所から生者の世界に戻ってきたんだから、死者の領域に行きかけた魂が体の中できちんと安定するまで、多少なり体が思うように動かなくてもしかたない、とかいう感じの理由で納得してくれると思う。

 

 そんな感じで、彼らはこの1週間ほど(彼らの感覚では数か月)で、

 

 クライム  Lv30台前半(準英雄級)

 ブレイン  Lv40台中盤(英雄級)

 イビルアイ Lv50台中盤(逸脱者)

 ネイア   Lv30前後 (準英雄級)

 カルウィン Lv50台中盤(逸脱者) ※パワードスーツ使用時

 ザリュース Lv40手前 (英雄級)

 レイナース Lv40台前半(英雄級)

 

 こんな感じになってる。

 この世界基準では、ドリームチームと言ってもいいくらいのレベルの猛者達揃いである。

 

 私達プレイヤーの価値観からしたら『えー……』ってなもんだけど。

 

 なお、こういう時に引き合いに出されることが多いガゼフが、レベルにして30前後くらいで『準英雄級』。『五宝物』を装備状態だとさらに底上げされて『周辺国家最強』かつ『英雄級』である。

 そして、その『五宝物』は、よくて『遺物級』から『聖遺物級』程度のレアリティのようだ。

 

 あと参考までに。

 

 エオン      Lv90手前 (覚醒神人級)

 アルシェ     Lv40前後 (英雄級)

 クレマンティーヌ Lv60台中半(神人手前)

 ヴィヴィアン   Lv80以上 (覚醒神人級)

 

 この子らについては……まあ、アルシェ以外は、元々特段鍛える必要ないかなって感じです。

 欲張って言うならクレマンティーヌとアルシェはもうちょっと強くしたいけども。

 

 さて、そんな感じでひとまずのレベリングが終わった彼らを、ナザリックに連れてきました。

 この後のイベントはもちろん……アインズさんへの謁見だ。

 

 

 ☆☆☆

 

 

(これが……『神』……!)

 

『神の使徒』だという少女・シャルティアについていき、無事に『間の世界』を脱出することができたクライム達。

 

 目覚めてすぐに感じたのは、体の違和感だった。

 今まで普通に動いていたはずなのに、まるで自分の体でないような……自分が頭で思っている動きと実際の体の駆動が合っていないような、不思議な感覚を、ほぼ全員が感じていた。

 

 それについては、

 

「今まで死と生の境界のような世界にいたわけでありんすからね、そのくらいは仕方ありんせん。死にはしんせんから、慣れるまでしばらく我慢しなんし」

 

 そう言われて納得した。

 今まで自分達は、本来、死んだ後に魂だけになってくるはずだった領域にいたのだ。少しくらい心と体……いや、この場合は『魂』だろうか? そのあたりに不具合が起こっていてもおかしくない。

 

 また、

 

「時に、そこの槍使いのあなた。伝えておくことがありんす」

 

「っ……私、でしょうか?」

 

 そう呼び止められたレイナース。神の使徒を前にした緊張ゆえか、体をこわばらせる。

 

「肉体と命を持ったまま、あの世界に『迷い込んだ』彼らと違って、あなたは正真正銘死んであの世界にいた……本来なら、またこうして命ある世界に戻ることはできない身でありんすが……慈悲深き御方の温情により、今回特別に、謁見の場に同席することを許されたでありんす。その温情に感謝しつつ……くれぐれも、失礼のないように、ね?」

 

「は、はい……厳守いたします……!」

 

 そのような注意点の指摘も行われる一幕があったりもした。

 

 そして、ある程度体が思い通りに動くようになったところで……またシャルティアに連れられて奥へと進み……悪魔と天使の荘厳な像が彫刻された巨大な扉をくぐって、中へ。

 その『玉座の間』にて……クライム達は、多数の異形の存在を従えた、『死の支配者』の前に立った。

 

 否、立っていたのはほんのわずかな間だけだった。

 全員が、誰に言われるまでもなく、膝をついて頭を下げ、礼を示した。

 

 こういう場での礼儀作法に明るくないブレインでさえ――場面にもよるが、リ・エスティーゼの国王にすら軽口をたたく神経の太巻き具合である――絶対に逆らってはいけない相手だ、と即座に察して、不器用にではあるがそうした。

 

 隣に控えていた、絶世の美女といっていい美貌の悪魔の紹介によると、死の神の名は『アインズ・ウール・ゴウン』。ザリュース達が言っていた名前の通り。

 あの時会った、ザリュースの戦友たるリザードマンの戦士(故人)の求めに応じ、『間の世界』から自分達を助け出してくれたことに対し、まずはクライムから礼を述べた。

 

 (アインズ)からは、逆境にも負けず、数か月に及ぶ戦いの日々をよく耐えぬいた、その戦いの中で培った『強さ』は、きっとお前達をこの先助けるだろう、と称賛を受けた。

 それに恐縮しつつ、さらに『何か聞きたいことはあるか』と尋ねられたクライム達は、恐る恐るという感じでではあるが、ここまで他の者達――各国の名だたる権力者たち――にも尋ねて来た、彼らが聞きたい、知りたいことについて尋ねた。

 

 クライムからは、今現在行方不明になっているラナー王女の行方について。

 加えて、悪魔に魂を売ったバルブロを止めたい、どうすればいいか、というもの。

 

 そしてさらに、レイナースからも……死んだ自分を掬い上げてくれたこと――『間の世界』から現世へ帰ることを黙認してくれたこと――への礼を述べた後、自身を蝕む『呪い』について、どうすれば解くことができるか知りたい、と。

 

 それに対して、アインズはしばし考えた後……答えを出した。

 

「お前の主である王女の行方、人の道を外れた暴王の打倒、そして呪いの解除か……どの望みも、私にとってはたやすいことだ」

 

「っ……ならば!」

 

「だが、私も……『神』と呼ばれる身。正直、大仰に過ぎた呼び名だとは自分でも思っているのだが……お前達からすれば計り知れぬ力を扱えるというのも事実。となれば、おいそれと力を振るうわけにはいかぬのだ」

 

 遠回しに、クライム達からの『何とかしてほしい』という懇願に断りを入れる内容だった。

 

 それに落胆しつつも、『神』が相手では過ぎた望みだったか、と自分を納得させようとするクライムとレイナース。

 しかし、それに続けて『だが』と口を開くアインズ。

 

「私がそれをすることはなくとも……道を示してやることはできる」

 

「「!」」

 

「まず……お前の探しているラナー王女についてだが、彼女に会いたければ……西へ行け。ここより西、帝国の領地を越えた先になるが……『アレフガルド都市国家連合』がある。そのうちの1つ……『ムーンブルク王国』を目指せ。そこに、主との再会のカギとなる秘宝がある」

 

「アレフガルド都市国家連合……ムーンブルク……!」

 

「次に、悪魔に魂を売り渡した愚かな暴君の打倒、だったか……なるほど、ただの人間には荷が重い相手やもしれぬな。『間の世界』で大きく力を高めたようだが、それでもだ」

 

 ふむ、と顎に手を添えて。

 

「さらなる力を欲するのなら……神の力を借りるのがよかろう。今現在、この世界に存在する、私という『死の神』とは対となる存在……『命の女神』に謁見し、その力を借りるがいい」

 

「命の……女神……!? そのような方が……」

 

「ここより南……『エイヴァーシャー大森林』にあるエルフ達の国『ヘイムダール王国』へ行け。そこの女王が、女神への橋渡しを担ってくれるであろう。その女王への橋渡し役は……そこな彼が担ってくれよう。そうだな? エオン・L・ホウガン……エルフの国の大公よ」

 

「「「っっ!?」」」

 

 仲間の1人の思いもよらぬ素性にぎょっとするクライム達。ただし、何人かは既に知っていたようで、驚く様子はなかったが。

 名指しされたエオンは、少し戸惑った様子を見せた後、『はい』とうなずいていた。

 

「そして最後だ。レイナースと言ったか……呪いを解きたいのだったな」

 

「はい! その望みが叶うのならば、この身の全てを投げ打ってでも……!」

 

「そ、そうか(ちょっと引き)……うむ。ならば……今しばし、彼らの旅に同道するがよかろう。その道中に、その望みをかなえるための、希望の欠片がいくつか転がっているはずだ。それを拾い集めて形にできるかどうかは……そなたの覚悟次第、だがな」

 

 

 

 助言を賜り、謁見は終わった。

 

 ただ、その最中……こんな一幕があった。

 

『ほかに何か聞きたいことはないか』とアインズが聞いた時に、イビルアイが手を挙げて、

 

「アインズ殿。あなたは、その……『ユグドラシル』から来た『ぷれいやー』ではないだろうか?」

 

 この質問は想定済みである。彼女……イビルアイが、『プレイヤー』関連の諸々を知識として知ってるって言うのは、前々から情報として知ってたのに加えて、アレコレ色々と寝てる彼女の頭からすっぱ抜いて情報収集してあったからね、この数日の間に。

 

 しかし……聞かずにはいられなかったんだろうけど、こっちがあえて触れていないことをずかずかと……しかも、他者の目がある中で聞いてきたのはちょっと減点だな。

 

「気になるかね? キーノ・ファスリス・インベルン……不死者(アンデッド)の姫よ」

 

「っ……!? なぜ、その名を……」

 

「知っていたから、とだけ言っておこう。そして、君の疑問についてだが……ご想像にお任せしよう」

 

「だ、だがあなたは……ひっ!?」

 

 なおも食らいついて問いただそうとしたイビルアイに……アインズの周囲を固めていた側近達……彼女よりもはるかに強力な吸血鬼や、美貌の悪魔、凍河の支配者たる武人、闇妖精の双子、浅黒い肌を持つ大悪魔といった超越級の面々が……不快感と怒りをあらわにして、一斉に殺気を向けた。

 一言も発しはしなかったが、あまりにも雄弁に『無礼を働くな』と警告していた。

 

 直接殺気を向けられたイビルアイだけでなく、その余波だけで……クライム達も同時に、十分すぎるほどに思い知らされた。

 穏やかに、優しく受け答えしてくれてはいたものの……今目の前にいるのは、まぎれもなく自分達などものの数ではない強さを持つ、超越者達であり……無礼を働いて機嫌を損ねれば、自分達の命など次の瞬間には消えているのだと。

 

 一刻も早く謝るべきなのだろうが、気絶寸前にまで追い込まれているイビルアイ――強烈すぎる威圧に、逆に気絶することもできないでいる――だが、彼女が何か言うよりも先に、アインズが手を軽く振って合図をした。

 

「よい。気にしてはおらぬ」

 

 その瞬間、殺気が霧散する。

 

「怖がらせてしまったかな……イビルアイよ」

 

「はぁ……はぁ……っ、いえ……も、申し訳、ありませんでした……ゴウン、様……!」

 

 息も絶え絶えになり、ようやく絞り出した謝罪だった。

 

「イビルアイとやら、私はな……意地悪がしたかったわけではないのだ。お前の問いに何かしらの答えを返すことは簡単だが……それを知ったとして、その事実がお前にとって、何かしらの答えになる、というのは早計だな。仮に私がその『ぷれいやー』だとして……お前が知る『ぷれいやー』と、何が同じで何が違うのか、それを導き出すには到底情報が足りまい?」

 

「そ、それは……はい」

 

「気になるのはわかる。だが、焦る必要はない……これからの旅の中で色々なことを知り、その上で『本当に聞きたいこと』……いや、『本当に気にすべきこと』は何であるか……そこに答えを出してからでも遅くはないと思うぞ。そも、私とて、誰を相手にでも話したくないことや、触れてほしくないこともあるしな」

 

 先程の、聞き覚えのない名前ではなく、あえて『イビルアイ』と呼んだアインズ。本当に、特に怒っている様子などはなく、淡々と諭すように言って聞かせる。

 その姿はまるで、大人が子供にものを説いているかのようだった。

 

 いつもは誰に対しても大きな(大きすぎる)態度で臨むことがほとんどのイビルアイが、力の差を戦わずして思い知らされてしまい、また言葉においても『もっともだ』と納得させられてしまって小さくなっている姿は、クライムから見てある意味新鮮だった。

 

 

 

 そして、もう1つ。

 

「ところで、私からも1つ問いたい。そこな、龍の血を引く少女よ」

 

「あ、はい、私ですか?」

 

 そう問いかけられて返事をしたのは、ヴィヴィアン。

 

 クライム達が『竜?』と、きょとんとした視線を向けてくるのを見て、『あ、そういえば言ってなかったっけ』と、なんでもないことのように話しつつ、アインズに用向きを問い返す。

 

「お前から……いや、お前の懐の中からだな。何やら不思議な力を感じる。普通のアイテムや武具とは違う……強い『死』の力だ。何か、持ってはいないか?」

 

「ええと……あ、もしかしてコレですか?」

 

 そう言ってヴィヴィアンが懐から取り出したのは……白い、何かの欠片だった。

 石にも見えるし、土くれの塊にも見える。金属も見えなくもない。あるいは……何かの鱗のようにも見える、かもしれない。そんな、よくわからない『何か』。

 

「これ、私があの……ええと、『間の世界』に迷い込んですぐに拾ったものなんです。『死』の力、っていうのは、正直よくわからないんですけど……」

 

 言いながらヴィヴィアンは、近くに歩いて寄ってきた闇妖精(ダークエルフ)の少年――実際には少女――にそれを渡した。

 しもべからそれを受け取ったアインズは、しげしげとそれを眺めて、

 

「……少し気になることがある。これを譲ってはもらえないかな? もちろん、礼はしよう」

 

「いいですよ! でも、拾ったものだし、何かもわからないものなので、別にお礼とかは……」

 

「そうはいかんとも。後で手配しておくゆえ、邪魔にならなければ受け取ってくれ」

 

 クライム達にはよくわからない、そんなやり取りがあった。

 

 あの白い『何か』が一体何だったのか。それが明らかになるのは……まだ先の話。

 

 

 

 こうして、クライム達の『死の神』への謁見は終わり……『間の世界』から無事に戻ってきた一行に、新たな目的地ができた。

 

 一行が次に目指すのは、帝国を越えて西方、『アレフガルド都市国家連合』を構成する1国……『ムーンブルク王国』である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「き、緊張したぁ……変な感じに見えてなかったですかね?」

 

「全然! 見事な支配者ムーブでしたよアインズさん! さて、それじゃ次は……いよいよあの子の出番ですね。『鏡』、準備しておかないと」

 

 

 

 

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