オーバーロード 傾国狐の異世界日記   作:破戒僧

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第9章 再会

 

 

 ナザリック地下大墳墓にて、アインズさんと謁見したクライム達は、アインズさんの助言通りに、今度は西へ……『アレフガルド都市国家連合』に行くことになった。

 

 その際、サービスで都市国家連合の領域の入り口まで、アインズさんの『転移門(ゲート)』で送ってもらい、大幅に旅程を短縮できた。

 ナザリックから歩いて直接そこへ行け、ってなると、帝国の領土を横断しなくちゃいけなくてめっちゃ遠い上に、そもそもナザリックの周辺の森を通り抜けるのが無理ゲーだからね……アウラのしもべ達が徘徊して守ってるから。

 

 こないだみたいに、『防衛機構のテスト』とかのために侵入者をわざと迎え入れでもしない限り、逃げることはできないようになってるんだわ。あそこの周辺。

 まあ、それに関しては『空中庭園(うち)』も似たようなもんだけどね。

 

 なので、そのへんの手間を省いてあげるために送ってあげて……けどそこからは、クライム達は歩いて『ムーンブルク王国』を目指すことに。

 そこそこの距離ではあるものの、馬車があるのでそんなに苦労する旅路ではなく到着する見込みだった。

 

 しかし、ここで予期せぬトラブルが発生。

 

 ムーンブルクは、王国や帝国側がある土地から、大きな運河を挟んだ向こう側にある。運河を迂回すれば陸続きの道で行くこともできなくはないけど、すごく遠回りになる。

 それを避けてショートカットするために、『ローラの門』っていう地下のトンネルが通ってるんだけど……そこが、最近起こった高潮の影響で一時封鎖されていた。

 

 もう高潮は収まってるので、後は鍵を開けるだけなんだけど……そのカギを管理しているのが、近くにある『サマルトリア王国』だった。

 なので、クライム達は『早く鍵開けてほしいんです!』って頼むために、サマルトリアに行く。

 

 しかし、サマルトリアで聞いてみると、つい先日、その門を開けるために、サマルトリアの王子が鍵をもって『ローラの門』に向かったとのこと。

 行き違いになってしまったことに苦笑しつつ、クライム達は『ローラの門』に戻った。

 

 なお、『王子様にそんな使いッパシリみたいな役目任せてんのか?』とブレインやカルウィンが不思議そうに聞いていたけど、サマルトリアの王子は元々、冒険者としてあちこちに遠征しており、旅はもちろん戦闘だって手馴れている。

 というか、竜王国で大活躍しているアダマンタイト級チーム『ロトの紋章』の一員なので、そこらの傭兵とか冒険者なんかより全然強い。多分、いや確実にイビルアイとかより強い。

 

 そのイビルアイも、貴族でありながら冒険者をやってるラキュースとかを知ってるけど、王族で冒険者をやってるなんてのはさすがに聞いたことなかったようで、驚いてたな。

 ……君、滅んだ国のお姫様だけどね。

 

 ともあれ、そんな感じで、王子様が向かってると知ったクライム達は、『ローラの門』に戻ったわけだが……戻ってみると、まだ門の鍵は開いていない。

 サマルトリアの王子も、来ていないという。

 

『?』と思ってクライム達が調べてみると、その王子は、ローラの門に行くついでに、用事があって隣国の『ローレシア王国』に向かったとのこと。どうやらそこからまだ出発しておらず、門に来ていない、ということのようだ。

 

 なのでクライム達は、今度はローレシアに向かったが……そこでは、

 

 

「あれ? サマルトリアの王子様なら、もうここを出発しましたよ?」

ローレシア(うち)の王子様に会いに来たんですけど、留守だから会えなかったみたいで。その間に別な用事を済ますって言って、『勇者の泉』ってところに向かったようでした」

 

 

 なのでクライム達は、今度は『勇者の泉』に向かったが……

 

 

「いや、王子殿はここにはおらぬ。来て用事をすませてすぐに出立されたからの。その後、ローレシアの王子殿と、サマルトリアの王女殿が来て……その王女殿が、兄であるサマルトリアの王子を探していたので、その妹君と合流してサマルトリアに戻ったのではないかの?」

 

 

 なのでクライム達は、今度はサマルトリアに向かったが……

 

 

「いえ、帰ってきていませんよ? 王子様も、王女様も」

「ここに向かったんですか? なら、ローレシアからここに来る一歩手前にあるあの村で一休みしてるんじゃないかなあ?」

 

 

 なのでクライム達は、今度はその村に向かう……と見せかけて、そこに向かったらまた入れ違いになってしまうんじゃないか、と推理。

 なので、そのままサマルトリアで待っていた。

 

 

 来なかった。

 

 

 しかたなくその村に行ってみると、

 

 

「ああ、王子様ね。ちょっと前までこの村の宿屋にいらっしゃいましたよ。でも、ローレシアでやり残したことがあるって言って、そこの王子様と一緒にそこに向かいましたね」

 

 

 なので(略)

 

 

「ああ、確かに来ましたけど……」

「『勇者の泉』に忘れ物をしたみたいで、取りに戻るって言ってましたね」

 

 

 なので(略)

 

 

「いや、来ておらぬ。ああ、その忘れ物なら、王女殿がやってきて持って行ったから、それを道中で受け取って、ローレシアに戻ったのではないか?」

 

 

 

 ……こんな感じのことを何回も繰り返して、結局、

 

 

 

「いやー探しましたよ。なんか『ローラの門』を通りたがっている人達がいるって聞いて、こっちも探してたんですけど、中々会えないから先に門を開けちゃおうと思ってきたら……あっはっは、こんなこともあるものなんですねえ」

 

「「「…………」」」

 

 だいぶあちこち探し回ってヘトヘトに疲れたクライム達は、のんきにそんなことを言っているサマルトリアの王子を、何とも言えない目で見ていたのでした。

 その横で、クライム達の視線から『ああ、わかるわかる』『振り回されたんだね……』って同情的な目になってるローレシアの王子とサマルトリアの王女は、何が起こったのか全てを悟っていたのだと思う。

 

 ともあれ、そんなことがありつつも無事に『ローラの門』が開いたので、一行はムーンブルクへ向かった。

 

 なお、自分達も用事がある……というか、そのムーンブルクの王女様と合流するためにって、王子達3人も一緒に来た。

 

 そしてムーンブルクに無事到着した一行は、サマルトリアの王女のとりなしで――兄が迷惑をかけたことを察して手を貸してくれていた――ムーンブルクの王様と王女様に謁見。

 

 その場で、国宝である『ラーの鏡』を見せてほしいと頼んだ。

 さっきも言ったように、サマルトリアの王女がとりなしてくれたこともあり、特に断る理由もないということで了承され、クライム達はその鏡を受け取り……

 

 

 ……そこで……

 

 

 ☆☆☆

 

 

 ―――わんわんっ、わんわんっ!

 

「? アルム、どうした……?」

 

「おいおい、今ちょっと忙しいんだから大人しく馬車で待っ……いたっ、おい噛むな!」

 

 クライムが、ムーンブルクの王女から『どうぞ、手に持って見てくださって構いませんよ』と、『ラーの鏡』を受け取った直後……さっきまで大人しく待っていた子犬(アルム)が、突然激しく吠え出して……クライムに駆け寄った。

 

 一応、気さくな人達ではあるが、王族複数人の前だということもあり、ブレインが止めようとしたのだが……その手に噛みついてまで邪魔を振り払い、クライムの前に出るアルム。

 

 不思議に思いつつ、クライムが『少し大人しくしていなさい』と注意しようと、そっちを向いた瞬間……手に持っていたラーの鏡の鏡面に、床にいるアルムが映った。

 

 ……否、映ったはずだった(・・・・・)。間違いなく鏡は、アルムがいるあたりを映していたはずなのだ。

 しかし、そこに映ったのは……

 

「え、っ……?」

 

 その光景にクライムが困惑した、次の瞬間……ラーの鏡がまばゆい光を放ち……同時に、子犬(アルム)の姿がゆっくりとぶれて変わっていく。

 

 ムーンブルク王国の国宝『ラーの鏡』は、呪いや魔法によって姿を変えられてしまった者の真の姿を映し出し、そしてその呪縛を解いて元の姿に戻す力を秘めた秘宝である……という言い伝えがある。

 クライム達は、ここに来る道中、それをローレシアの王子達から馬車で聞いていた。

 

 死の神であるアインズが言っていた『ムーンブルクにある秘宝』とは、おそらくそれのことだ。しかし、なぜその『呪いを解く鏡』が、ラナーとの再会のために必要なのか……それがわからないままだった。

 

 その理由が今、ようやく明らかになる。

 

 鏡の光が薄れて消える。

 そこには、さっきまで確かに1匹の子犬がいたはずのところに……1人の少女が立っていた。

 

 華やかさと清楚さが組み合わさったデザインのドレス。

 つややかな金色の長い髪。

 黄金と評された美貌。

 リ・エスティーゼ王国の王族のみが身に着けることを許されるティアラ。

 

 彼女の顔を……クライムが、その一番の忠臣である彼が、見間違えるはずもない。

 それでもなお、突然すぎるその『再会』に……クライムは、困惑から『見間違い』を何度も疑い……しかし、何度目をこすってみても、目の前の光景は変わらない。

 

 そして、彼女が……あの頃と同じように、自分に微笑みかけてくれたその瞬間……彼は、目の前の光景が現実なのだと、確信できた。

 ようやく……また会えたのだと。

 

 

「よかった、またあなたとこうして会えて……ありがとう、クライム。私を、助けてくれて」

 

「ら……ラナー、様っ……!!」

 

 

 目の端にうれし涙の浮かんだ目で、笑顔を見せてくれたラナー王女を見て、クライムは、安堵と歓喜に打ち震えながら……その場に膝をついて、彼女の騎士として、その帰還を、再会を喜び……同時に、目から涙が滂沱のごとくあふれ出してくるのを、こらえきれなかった。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 遡ること、数週間前。

 クライム達としては、『間の世界』で長い時を過ごしたために、『数か月前』になってしまうが。

 

 クライムがバルブロによって捨てられた後……ラナーは、理由も告げられずに護送用の馬車に乗せられ、何処ともわからない場所に出発させられた。

 

 その際、バルブロから、

 

『妙な真似をしようなどと考えるなよ? もし貴様が逃げ出すようなことがあれば、お前の従者の男を殺してやるからな』

 

 クライムを人質に取られる形で脅され、ラナーは従うしかなかった。

 

 しかし、移動する道中で……ラナーは、護衛の兵士達の話を聞いて知ってしまう。

 クライムが既に、バルブロによって殺され、その死体は川に捨てられてしまったこと。

 そして、自分がこれから行く先で、悪魔の儀式の生贄にされるのだということを。

 

 その事実に、今度こそラナーは絶望した。

 

 直後に起こった、魔物による襲撃。

 その場から、兵士達(バルブロの手先)を囮にする形で逃げ出したはいいものの、右も左もわからない異国の地で、食料も何もなく放り出されてしまったラナー。

 

 またいつ魔物が現れるかもわからず……あるいは、バルブロが追手でも放てば、捕まって今度こそ『生贄』として使われてしまうだろう。彼女は、重ねて絶望した。

 

 そしてラナーは、ティアラに隠して仕込まれていた――このことはクライムやラキュースはおろか、肉親であるザナックやバルブロもしらない――毒薬を取り出し、それをあおって……自ら命を絶った。

 愛しい人も既にこの世におらず、この命すら悪しき目的のために使われ、それによって民達がより苦しむことになるのなら、その抗議の意味も込めて……と。

 

 しかし、絶望と共にこの世を去ったはずのラナーの魂は……天に召される直前に、『命の女神』の目に留まり、掬い上げられることになる。

 

 その絶望と悲しみに満ちた心を憐れんで、また、結果的にとはいえ、命を捨ててまで悪魔の儀式を止めてみせたことを評価して……ラナーは、人間から『天使』に種族を変え、神の使徒として復活した。

 さらにその温情として、ラナーが強く思っていた相手……クライムもまた、死後の世界から呼び戻され、新たな命を得ることになった。

 

 しかしその際、ラナーが自ら命を絶ったことが1つの『罪』となってしまい……完全な形で復活することができなかった。自らの命を粗末にした罰として、生まれ落ちた際に、子犬に姿を変えられてしまったのである。

 そして、もう1つ。天使として復活するはずだったラナーは……

 

「ほら、クライム……私、こんな風になってしまったの」

 

 そう言ってラナーは、背中から生えた、漆黒の翼を広げた。

 まるでカラスの羽のような黒さと冷たさを持ったそれは、『堕天使』の羽。ラナーは、天使ではなく堕天使としてよみがえったのである。

 

 しかしそうであっても、『命の女神』の使徒たる資格を持って復活したことに変わりはないし……それ以前に、ラナーはラナーだ。そこに何の変わりもない。

 クライムが、改めて……死んだはずだった自分を、またしても救い上げてくれた恩も含めて……彼女に忠誠を誓うことに、何の不都合もあるはずがなかった。

 

 その手を取り、改めての忠誠を誓う彼に、また嬉し涙を流しつつも……ラナーは、無理やり表情を引き締めて、王族としての顔になる。

 

「なら、クライム……私の騎士よ。我が兄バルブロは、恐ろしい悪魔の力を使い、民達の命を生贄として食らってまで、邪悪な力をつけ、覇道を歩もうとしています。バルブロを止めなければ……王国は、いいえ、世界は大変なことになってしまう。同じリ・エスティーゼの王族として、断じて見過ごすわけにはいきません。……そのために……苦しい戦いになりますが、私と共に歩んでもらえますか?」

 

「もちろんです、ラナー様……この命尽きるまで、あなたと共に!」

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 ……というわけで、ラナー王女復活。

 そして、クライム君と協力して、バルブロを倒すための旅路を改めて続けていくことになりましたとさ。

 

 ずっと会えなかった主従の再会ってことで、あらためての忠誠を誓う所も含めて、感動的なシーンっぽくなってるけど……『シナリオ』を知ってる私達からしたら、『うわあ』って感じなんだよなあ……。

 

 まず、『命の女神』だの『神の使徒』だのって嘘八百な部分はおいといて……今までラナー、子犬(アルム)としてずっとクライムと一緒にいたわけだからね。

 

 理由は、『クライムが私のために艱難辛苦を乗り越えて頑張ってくれるのを、特等席で見ていられないなんてありえない』というもの。欲望純度100%。

 

 しかも、飼い主であるクライムからご飯もらったり、一緒に寝たり、お風呂で体洗ってもらったり、服の中に潜り込んだり、着替えてるクライムの体をじっくり観賞したり、ぺろぺろ顔や手やその他色々な場所を嘗め回してたり、挙句の果てにトイレの世話までさせてたわけで……業が深ぇな王女様……。

 さすがはクライム大好き人間(もう人間じゃないけど)……クライム関連なら何でもアリっていうその執着、デミウルゴスが『精神の異形種』とまで言うだけある。

 

 その事実……今まで自分がかわいがってた子犬がラナー王女だったことや、自分がその子犬にしてあげてたことを認識して、クライムが情緒不安定になるのはもうちょっと先だと思うけど……その様子を鑑賞するのも含めて楽しみだって言ってました。だから業が深いっちゅーの……。

 

 なお、子犬だった間のことについては、ラナー王女としては意識がおぼろげであんまり覚えていない、で通すつもりだそうだ。

 ただし、クライムにだけは『あの時、あんなことまでしたのに……』って、適宜からかうネタとして使うって言ってた。いい性格してやがる。

 

 ともあれ、ここから先は、王女様もクライム達と一緒に旅に加わり、バルブロを倒して王国を、いや大陸を救うために戦っていくつもりだ、ということで仲間に加わった。

 ブレイン達は驚いてたけど、それでも事実を、そしてラナー王女の覚悟を受け入れて、ともに戦っていく仲間として受け入れていたから。

 

 ……そうなるように……ラナー王女そのものや、彼女の頼みに対する精神的なハードルを下げるような暗示を、寝てる間に私が術で、彼ら彼女らの頭に刷り込んだんだけどね。

 でなきゃ、イビルアイとかがうさん臭さを感じて色々指摘してくるかも知れないし。

 

 アインズさんの時の懸念でもあったんだけど、彼女は『(ぷれいやー)』という存在が超常的な存在ではなく、強い力を持った個人でしかないことを知ってる。だから、あんまりにも神秘的なストーリーを作ってしまうと、逆に疑われることになりかねない。

 そこを何とかするためにも、厳重に頭の中に仕込みをさせてもらった。そのためにもあの数日間の昏睡(彼女達にとっては数か月間)は重要だったんだよね。

 

 ともあれ、これでクライム達をムーンブルクに向かわせた目的は達成。

 じゃあ次は、『ヘイムダール王国』に向かってもらわないとね。私との謁見のために。

 

 ……その道中にも、色々イベント用意してあるけど。

 

 

 

 

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