オーバーロード 傾国狐の異世界日記   作:破戒僧

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第16章 13人の英雄

 

 

 言葉が出ない。

 彼の……デミウルゴスの胸の中にあるのは、ただただそんな思いだった。

 

 デミウルゴスは自分でも、弱い人間が運営する国家の1つや2つ、思い通りに動かすことは造作もないことだとは思っている。

 方法はいくらでもある。甘い罠に誘い込んで堕落させるもよし、恐怖や痛みで服従させるもよし、虚言で惑わして知らないうちに操り人形にするもよし。

 それらにはそれぞれ異なる形で手間もかかればリスクも発生するし、時間がかかる場合もあるだろうが、それは仕方ない。最終的に目的を達成できればいいのだから。

 

 だが、

 

(言葉だけで……ここまでのことを……! 一滴の血も流さず、魔法の1つも使わず……これほど多くの人間を、ほんの数分の演説だけで……!)

 

 この『ドラゴンクエスト作戦』の大山場のひとつである、この戦争。

 王国を含め、周辺の国々を今後末永く利用していくつもりであるアインズ達としては、アインズ及びナザリックの力を見せつけつつ、可能な限り彼らの傷自体は深くない状態でことを収める必要があった。

 見た目には派手だが、大規模な破壊を伴わず、兵士達への無駄な犠牲が生じない『天上の剣』を見せ札に選んだのも、そのためである。

 

 だが、そこからさらにアインズが見せつけた……まさに神技というほかない手腕。

 

 当初の案では、アインズによる『天上の剣』のデモンストレーションの後、各国の戦いが始まる予定だった。

 

 こちらが用意した『キャスト』達……すなわち、クライム達によってバルブロが倒されるという予定ではあるが、それを黙ってバルブロが受けるはずもない。強権を発動して強引に王国軍を動かし、帝国や聖王国、エルヘヴン共栄圏やヘイムダール王国の軍とぶつけるだろうと。

 それを止めるのは難しい。さすがにデミウルゴスでも、数万の兵士達を全員『支配』するのは無理である以上、彼らが動いて勝手に傷つくなら見捨てるしかない。

 

 多少なり被害が出てしまうが、その責任の全てはバルブロに帰属する。

 それらの痛々しい結果も合わせて、クライム達の英雄譚を飾るアクセントになってくれるため、必ずしも悪い結果ではない。コラテラルダメージだと言えた。

 

 しかし、アインズは……魔法1つ、スキル1つ使わず……言葉だけでそれを解決してしまった。

 至高なる御身の口から放たれた言葉を受けた人間達は、自ら武器を手放し、兜を脱ぎ、馬を下り……涙を流して地に伏せた。

 それが、王国軍全体に伝播した。王国軍全体から、戦意が完全に失われていた。

 もう、王国軍は動きようもない。たとえ、バルブロが怒鳴ったとしても、もうその言葉は彼らの耳には届かないだろう。

 

 こんな光景、おとぎ話の中に出てくる、都合のいい『神様』の物語でしか見たことがない。物語上勝利が決まっているような、冷静に考えれば色々と破綻している『ご都合主義』の中でしか成立しないような、ありえない展開。

 

(こんなことはありえない、不可能だ……などと言えば、不敬になるのはわかりきっていますが……それでも、まさかこんなことができるなど……。アインズ様、最早あなたをどう評すれば、その智謀の極みとも呼べる御身を言い表せるのか、私にはわかりかねます……!)

 

 感動のあまりだろう。その両目から涙が流れて頬を濡らしているのに、デミウルゴスはたっぷり数分経ってようやく気付いた。

 

 ふと見れば、アウラとマーレは、英雄を見るような輝いた目で、戦場の様子を映した水晶の画面(クリスタルモニター)を見ている。

 その隣では、コキュートスも……表情はわかりにくいが、小刻みに体が震えているのを見ると、感動に打ち震えていると見た。

 

 一筋の涙を流しているセバスを含め……プレアデスの反応は様々だが、皆、御方への崇敬の念をこらえきれない様子だった。

 

 そして、一番心配されたアルベドとシャルティアだが……シャルティアは顔を伏せてプルプルと震えてうずくまっている。ポールガウンの下腹部のあたりを抑えているように見えるのは、そこが少し濡れて見えるのは、はたして目の錯覚だろうか。

 

 アルベドは……鼻血を流して倒れ、気絶していた。守護者統括にあるまじき醜態だが……今のを見てしまっては、守護者の中でもアインズへの愛情が振り切れている彼女がこうなってしまうのは無理もない、とデミウルゴスは思った。

 

 唯一無事なのは、パンドラズ・アクターくらいだ。1人だけ何も変わりなく、直立不動のまま、すました表情で――黒い丸3つだけの顔で、コキュートスに負けず劣らず表情がわかりにくいが――モニターを見つめている。

 今のを見て何も感じ入っていないのなら、それこそ不敬ではないかと思うところだが、それは違う。恐らく、彼だけは分かっていたのだ。アインズがこのすさまじい結果を呼び込むと。

 彼は、彼こそは、アインズが自ら作り出した被創造物なのだから。

 

(……自分達の不甲斐なさを嘆くのも、御方の偉業を称えるのも……後にしなければ。アインズ様が整えた『場』を、最大限生かさなければ、それこそ不敬というもの)

 

「アウラ、マーレ、アルベドを助け起こしてあげてくれたまえ。この後、彼女の指揮が必要になる……いい意味で精神的に不安定かもしれないので、ペストーニャを呼ぶといい」

 

「わ、わかりました!」

 

「OK! ほらアルベド起きて! 気持ちはわかるけど、仕事ちゃんとしないとだよ!」

 

「私とパンドラズ・アクターは……この後仕事があるから準備しなくてはね」

 

「ええ、アインズ様が整えたこの状況、最大限活用しなくては……『ドラゴンクエスト作戦』、堂々の千秋楽と参りましょう……!」

 

 そこで今一度、モニターの奥に目をやるデミウルゴス。

 アインズの眼窩の奥に光る赤い目に、そこに宿る智謀の光に、この奇跡を可能とした全能なる知にあらためて心の中で平伏し、忠誠を誓いつつ……少しでもその身の力となるべく、行動を開始するのだった。

 

 

 ☆☆☆

 

 

(……あれが、『死の神』か……恐ろしい存在がいるものだ)

 

 帝国皇帝・ジルクニフの胸の内には、これまでの人生で抱えたことのないような、いくつもの感情が入り混じって氾濫しそうな、ごった煮のような思いがあふれかえっていた。

 嫌な気分ではないのだが、安堵できている状態とも到底言えない。

 

 愚かな王の独断とはいえ、徴兵して軍を動かした上に本人がやる気満々なのだから、多少の衝突は避けられないだろうと覚悟していた。

 

 しかし、アインズの言葉で王国軍は完全に戦意喪失。もう、あそこからどれだけバルブロが怒鳴ったところで、帝国軍を含む他の軍とぶつかる構図は想像出来ない。

 

 このわずか数分で、これほどの規模の人心掌握。ジルクニフにも到底不可能……それどころか、案として考えることすらしないであろうことが実際に起こっていた。

 自分の目の前で起こらなければ、到底信じられなかっただろう。いや、目にした今でさえ、魔法か何かを使ったのではないかと言った方が納得できる気すらする。

 

「繰り返して聞くが……レイナース。あれが『死の神』アインズ・ウール・ゴウンであり……一度死んだお前を死後の世界から連れ戻し、さらに……お前の呪いを取り去った存在なのだな?」

 

「はっ、皇帝陛下。ただ……呪いに関しては、もう一柱の神……『命の女神』ことラスト様のお力によるものです。アインズ様は、助言によって道筋を示してくださった形になります」

 

 そう答えるレイナースの顔に……最早、あの醜い呪いの傷跡は残っていない。

 顔の左側半分も含めて……彼女本来の美しいそれに戻っていた。もう今は、髪を前に垂らして隠すこともしていない。

 ラストから受け取ったアイテムを使い、数多くの強敵と戦って『試練』を達成したレイナースは……『カースドナイト』から『セイクリッドナイト』へ転職を遂げ、戦闘能力を落とすどころか、大幅に強化して再誕していた。

 

「そうか……なるほどな」

 

 ジルクニフの心中としては複雑だ。戦争による被害はどうやら避けられそうだが……己の頭脳をもってしても推し量れないレベルの、あらゆる意味での『超越者』の存在が明らかになった。

 

(しかも……奴は、トブの大森林付近にある『大墳墓』に居を構えていると言っていたか? おい……それはまさか、前にワーカーを送り込んだあの……? ……まずいな……)

 

 数か月前、未発見の墳墓の調査のため、ワーカー4組を送り込んで……よく言えば調査、悪く言えば『墓荒らし』をしてしまったことが思い出される。

 万が一のことを考え、切り捨てられるフェメール伯爵の首一つでカタがつくように手配してあるものの……自分が黒幕であるということが、悟られていないと考えるのは……甘いだろう。

 

 今後、相当注意して付き合い方を考えていかなければならない。ひとまず、対等な関係で付き合えるという可能性は……ないに等しい。

 

(下手をすれば、王国を弱らせて吸収するという計画も白紙になりかねん事態だ……大損害だな。しかし、そんなことは言っていられん、これ以上礼を失する事態が重なれば、それこそ……そうなると、じいにもきつく言って聞かせなければ。あれほどの魔法を使う魔法詠唱者となれば、暴走して飛んでいくことも……いや待て、そういえば、いやにじいが静かだな?)

 

 ふと気になって横を見てみると……『じい』ことフールーダ・パラダインは、変わらずそこにおり……血走った目で、一挙手一投足を見逃すまいという気迫でアインズを見つめていた。

 暴走一歩手前、といった雰囲気であるが……ジルクニフからすると、まだ暴走していないことが驚きだった。彼の知る、自他ともに認める魔法狂いのフールーダであれば、早々に飛び出して行ってあの『神』に跪いて靴をなめるなりなんなりしていてもおかしくない。

 

 しかしてその真相は、

 

「事後報告にて失礼いたします。ご無礼があってはいけませんので、私の力でフールーダのご気分が興奮しすぎないよう、勝手ではありますが抑え込ませていただきました」

 

「よくやった、レイナース。というか、お前そんなこともできるようになったのか」

 

「はい。試練を乗り越えて呪いを打ち砕いた際に、その褒美として新たな力が手に入ったのですが……その時に得た力の1つです」

 

 誇らしげにそう言うレイナース。彼女のおかげで、フールーダはギリギリで理性を保つことに成功していたらしい。

 ジルクニフはそれに安堵しつつ、あらためて今後のことを考え始めるのだった。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 ところ変わって、こちらは聖王国軍の本陣。

 

「……不死者(アンデッド)不死者(アンデッド)でも、普通の、邪悪なそれとは違うらしいな……」

 

「! いつもの姉様なら『胡散臭い』とか言い出すか、頭から信じないで突っぱねるのに……珍しいですね」

 

 今の光景を目にして、ぽつりとつぶやいた姉・レメディオスに、妹・ケラルトが少しだけ驚いたようにそう言った。

 

「うん……正直、自分でも正直そう思う。いや、普段の私なら、何を耳聞こえのいいことを言ったところで……不死者(アンデッド)を信用することなどなかっただろう。絶対に裏を疑って、何かしら理由をつけて鼻で笑っていたと思う」

 

 いやそこまでは言ってないんだけど、とやや呆れるケラルトだが、さらにレメディオスは『だが』と続けて、

 

「今のあの……アインズ・ウール・ゴウンとやらの言葉……驚くほどしっくり来たんだ。単なる美辞麗句の並びとか、ポーズとして演説しているんじゃなく……『命』の大切さを理解しないバルブロに、本当に、心の底から憤っているように聞こえたんだ」

 

(……姉様のこういう勘、バカにならないのよね……でももしそれが本当なら……)

 

 と、ケラルトがそこまで考えたところで、

 

「それが本当なら……喜ばしいことね」

 

「! カルカ様?」

 

 ぽつりと、呟くようにカルカが言った。

 その目は、いつもどおりの慈愛に満ちた聖王女としてのそれで……守るべき民や、ともに戦う信頼できる仲間を見る時と同じ目だった。

 その目が……誰あろう、不死者(アンデッド)であるアインズに向けられていた。

 

「善神であるというのは、ネイアやカルウィンから聞いていましたが……こうして、自分の目でその姿を見ることができたのは幸運でした。……不死者でありながら、あのように、命ある民のことを大切に、寄り添って考えられる方も……いるのですね」

 

「確かに……まるで、そういった力のない者のことが、自分のことのようにわかるからこそ、それをないがしろにするバルブロに対して本気で憤っている……とでもいうような怒り方でしたね」

 

「あのような……とんでもない魔法を使う力を持ちながら、弱い者の気持ちがわかる……か。人間でも、そのような者は稀でしょうね。私とて最近は、力の足りない者への配慮を欠いているな、と自分でも自覚できていることが多いですし……」

 

 もちろん、不死者という、根本的に人間と違う種族であり、あれほど強大な力を持つ『神』であるのだから……弱く、守るべき『民』と同質の存在ではないことなどわかりきっている。

 それでもなおその気持ちがわかる、思いやることができるというのなら……並大抵の人間よりも、あの『死の神』は、慈愛にあふれた、人の命と心を思いやれる存在ということなのだろう。3人は、そう理解した。

 

「……今後、今回の一件が全て収まれば……我々聖王国も、かの神とは無関係のままではいられないでしょうね。よき隣人として付き合えるように、準備を進めていかなければ」

 

「……国内の民達がどう考えるか……説明して理解を得るのに苦労しそうですね。何せ不死者(アンデッド)……先の光景を見ていない者達からすれば、到底受け入れられるものではないと思います」

 

「ええ、そうね。でも……」

 

「でも?」

 

「亜人相手に、血と涙を流しながら、失った者を数えながらしなければならない『苦労』よりは……ずっといい。そんな風に思えてしまうのは……甘いのかしら」

 

「……いいえ、そんなことはないですよ。カルカ様。……絶対に」

 

 

 ☆☆☆

 

 

 聖王国と帝国が、それぞれにアインズ・ウール・ゴウンという存在を理解し、今後の付き合い方について考えていた……その時。

 

 

 ―――ぎゃああぁあぁっ!

 

 

 王国軍の方から、悲鳴と……剣で何かを切り裂いた音が響き渡った。

 

 聞こえた方に目をやると、そこには、手にした剣で、味方のはずの王国貴族を切り捨てて殺したところである、バルブロの姿があった。

 

 何が起こったのかと言えば単純で、全軍の戦意喪失を悟り、最早戦える状態ではないことを悟った貴族が、バルブロに撤退を進言したのだ。

 ここは一旦引いて、後日また別の形で帝国とは戦うべきであると。

 

 バルブロは当然それを突っぱね、それどころか全軍でアインズのいる『エルヘヴン共栄圏』の軍に突撃するように命令しようとした。

 軍が動かない以上そんなことは不可能だし、仮に可能だとしても、あのようなとんでもない怪物がいるところに攻め込むなど正気の沙汰ではない。

 

 必死に止めようとする貴族。だが、命令を聞かないことに業を煮やしたバルブロの我慢が限界に達し……現在に至る。

 

「どいつもこいつも……あのような化け物の戯言に何をほだされそうになっている……! 不死者(アンデッド)だぞ? 『死の神』だぞ? 聞こえのいいことを言って……結局はお前達の死を望んでいるに、命を狙っているに決まっているだろうが……!」

 

「そうでなくとも、命の輝きだの何だのと、的外れなことを……この国の王は俺で、民は俺の奴隷だ……俺が使って、俺が導いてやらねば生きる価値すらない者達ばかりだ! なぜそれがわからん……なぜあんな奴の言葉に絆される……なぜ、俺を信じない!? 俺を認め、崇めない!?」

 

「こんな単純なこともわからないのなら……俺のために生き、俺のために死ぬつもりがないのなら……貴様らなど、いらん!」

 

 そう言って、魔剣・クーゲルシュライバー(ボールペン)を地面に突き立てるバルブロ。

 その刀身から赤い光が迸り、魔法陣が展開すると……バルブロの周囲にいた兵士達がそれに飲み込まれていく。まるで、地面が底なし沼に変わったかのように、魔法陣の中に引きずりこまれた。

 

「生贄の命を食らい……いでよしもべ共! 我に従え!」

 

 そしてその数秒後、さらに大きく展開した魔法陣から……何体もの悪魔が現れる。

 自国の王が悪魔を呼び出すという信じがたい光景に絶句する王国軍。

 

 そしてそこで、聖王国軍の本陣から、ラナーによって明かされる真実。

 

 バルブロは、かつて王都でおびただしい死をまき散らした魔王・ヤルダバオトと手を組んでおり、人間でありながら『ゲゲル』を行って、自国民の命を食らって強くなったこと。

 その影響で、最早バルブロは人間とは呼べない存在に堕してしまっていること。

 

 さらには、王国だけでなく、帝国や聖王国でも同様のことをしている、あるいはしようとしていること。

 

 さらなる力を得るため、自分(ラナー)や聖王女カルカといった『素質を持つ者』を生贄に捧げて邪悪な儀式を行い、大陸全てを悪魔の力で支配しようとしていること。

 

 つらつらと真実を述べ続けるラナーを目障りに思ったのか、バルブロは悪魔をけしかけて彼女を襲わせようとした。

 

 命令を受け、聖王国軍の弓矢や魔法による迎撃をものともせずに飛び、飛来する悪魔。

 しかし、彼女を守るために立ちはだかったクライムが……覚醒した『勇者の剣』を手に跳び上がり、一刀のもとにその悪魔を切り捨て、ラナーを守ってみせた。

 

 そして、それを合図とするかのように、聖王国軍の陣中で準備していた、クライムとラナーの仲間達が一斉に前に出る。

 ただ1人、使者として帝国軍に出向いていたレイナースも、機を悟って槍を手に取った。

 

 そしてそこに響くのは、アインズの声。

 

「バルブロよ。堕ちるところまで堕ちたお前に裁きを下すのは……私という『神』ではない。この大地に生きる……民を守ると、お前を許さないとその心に決めた……今の時代の英雄達だ」

 

 クライム、ブレイン、イビルアイ、アルシェ、エオン、レイナース、ネイア、カルウィン、ザリュース、クレマンティーヌ、ノア、ヴィヴィアン、そしてアンティリーネ。

 奇しくも、かつて伝説に語られた英雄たちと同じ『13人』。

 

 そこにさらにラナーを入れれば14人になる、アインズが認めて口にした『英雄』達が、これを決戦にするという決意を目に、前に進み出た。

 

 否応なしに、戦場全ての注目が集まる。

 

 クライム達の姿は、王都を出た時……ほとんど着の身着のまま、手に入る粗悪な武器だけ持って旅立ったあの時とは違う。

 全員が、過酷な旅の中で手に入れた、数々の試練を乗り越えた証とでも言うべき、超一流の武具に身を包んでいる。どれも、素人であろうとも、一目見れば常識の枠外にある逸品だとわかる代物で……下手をすれば、王国が誇る『五宝物』と同等かそれ以上ではないか、と思えるほどの。

 

 それらをもって武装し、隙なく構えるクライム達の姿は……まさしく『英雄』だった。

 

「あくまで俺に楯突くのか、ラナー……いいだろう、貴様を生贄にするのはやめてやる。この俺に逆らったことを後悔しながら、じわじわとなぶり殺しにされるがいい!」

 

「……もう、私は逃げません、バルブロお兄様……いえ、バルブロ! ここで、私達の手でもって……この悲劇を、幕引きにしてみせます!」

 

 バルブロの怒号が響く。

 王国の兵を、民を生贄に召喚した悪魔達が、一斉にラナー達めがけて襲い掛かる。

 

 ラナーの号令が響く。

 クライム達が、現代の『13英雄』が、悪しき野望を終わらせるために飛び出した。

 

 悪魔に魂を売った1人の王子から始まった物語が、今、クライマックスを迎えようとしていた。

 

 

 

 

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