オーバーロード 傾国狐の異世界日記   作:破戒僧

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推奨BGM『勇者の挑戦』

あ、もちろん参考なのでどうぞ皆さん脳内BGMはお好きなように。

いやあ……17000文字かあ。長くなりました……土日見事に潰れました。どうぞ。


第19章 最終決戦

 

 

 戦いの火ぶたは、先手を打ってクライムが駆け出したところから始まった。

 

 ぎろりとクライムを睨む『朽棺の竜王』に、ネイアが援護のために矢を射かけて気を引き、その隙にクライムは懐に飛び込んで、

 

「武技……【斬撃】!」

 

 大上段から渾身の一撃を放つ。

 が、クライムの一撃は、ほとんど傷らしい傷もつけることはできず、『朽棺の竜王』の白い鱗に弾かれてしまった。ネイアの弓矢も含めて、全く効いているようには見えない。

 

 続けざまに、アルシェが『龍雷(ドラゴンライトニング)』で、ブレインが武技『空斬』で攻撃するが、それも同様に、全く効いていない。

 

 竜王は、ダメージこそ皆無ではあるが、『劣等生命体』が噛みついてくることに不快感をあらわにし……前足をゆっくりと上に持ち上げる。そして、鋭い爪を立て、クライム目掛けて薙ぎ払うように引っ掻いてきた。至近距離にいたクライムは、かわすことができない。

 

 咄嗟に剣を盾にし、さらに武技『不落要塞』を発動。

 そこにさらに、ネイアとレイナースが、信仰系の支援防御魔法を使ってクライムを守るが……そんな防御などないも同然とばかりに、竜王の一撃はクライムを大きく……距離にしてゆうに数十mも吹き飛ばし、地面に叩きつけた。

 倒れ伏し、そのまま動けないクライム。命こそあるが、体中の骨が砕けたのではないかと思うほどの激痛に襲われていた。

 

 そこに竜王は、とどめとばかりに噛みつきでクライムの体を食いちぎろうとしてくるが……そこに、クライムをかばって立ちはだかったのは、漆黒の英雄・モモンだった。

 バスタードソード2本を交差させるようにして、竜王の顎を受け止め、弾く。

 

『次から次へと、邪魔を……!』

 

「そりゃあさせてもらうとも……未来ある若者の命、貴様などにくれてやるわけにはいかん!」

 

 弾いて、返す刀で2本同時に大剣を竜王の横っ面にたたきつけ、ガゴォン、とすさまじい音を立てて大きくそらす。

 それすらも大したダメージにはなっていないようだったが、苛立ちはさらに募る結果になったらしく、睨み返すその赤い目には、明確な殺意が乗っていた。

 

 しかし、モモンに対して何かやり返すより先に、その隙をついて懐に潜り込んだ影が……3つ。

 

「武技【渾身斬撃】!」

 

魔法最強化(マキシマイズマジック)陽光爆裂(シャイニングバースト)』!」

 

「武技【天下無双】!!」

 

 竜王の左の後ろ足をノアが文字通り渾身の威力で斬りつけ、逆の足にエオンがすさまじい光を伴った爆発で攻撃する。

 その威力に思わずふらついたところに、飛び込んだアンティリーネが脳天に連続攻撃を叩き込んで押し込み、さらにたたらを踏ませた。

 

「特技……【キラージャグリング】!」

 

 その3人が攻撃を終え、飛びのいて退くのを、豪雨のような勢いで何本ものナイフを――1本1本が投げナイフらしからぬ威力をもって刺さる――投げつけるヴィヴィアンが支援する。

 

『ええい、鬱陶しい……まとめて凍り付くがいい!!』

 

 今度は『朽棺の竜王』が、大きく息を吸い込んだかと思うと……その口元からこごえる吹雪を吐き出し、広範囲を一度に攻撃してくる。

 超低温の冷気が、正面方向にいた者達……モモン達のみならず、そのさらに後方にいた兵士達にも一部襲い掛かり、悲鳴が上がる。

 

 が、間一髪その前に、ラナーが、『命の女神』から賜ったアイテムを使う。

 1日の使用回数が限られている、しかしその分強力な守護をもたらす神器の効果で、味方全体を広く覆うような光のヴェールが出現。吹雪の威力を軽減し、凍えて大ダメージを受けたり、凍死する者が出るのを防いだ。

 

 その際、使徒としての力を使うこととなったラナーの背中に、堕天使の黒い翼がはためいているのを見て多くの者が驚いたが、説明している暇がないので放っておかれた。

 

 そして、その吹雪を……自らがアンデッドであり、『冷気』に対して耐性を持つことを利用して突っ切ったイビルアイが、竜王の面前で飛び上がる。

 

抵抗突破(ペネトレイト)魔法最強化(マキシマイズマジック)……『水晶投槍(クリスタルジャベリン)』!!」

 

 彼女の身長を超える長さの水晶の大槍が投擲され、竜王の顔面に直撃するが……やはりそれも効いている様子は見せない。

 顔に物が当たる不快感で、ギロリと竜王がイビルアイをにらみつけ……しかしその一瞬が隙になり、反対側から矢のような勢いで突貫するクレマンティーヌへの反応が遅れた。

 

 手に持ったエストックを、突進の勢いを乗せて眼球目掛けて突き立てる……が、

 

「硬った……目に直撃してんのに刺さらねえのかよ! まあでも……別にそれはいいんだけど!」

 

 眼球でさえ恐るべき防御力を持っていることに驚きつつも……クレマンティーヌは、エストックに込められていた魔法……『大瀑布』を発動。すさまじい量の水が噴きあがり、竜王の顔がわずかに押し込まれるほどの衝撃が襲った。

 それすらもダメージにはなっていなかったが……その瞬間、クレマンティーヌは竜王の頭を蹴り飛ばす形で飛びのき……それと入れ替わるように、ザリュースが飛び出した。手には、『神』であるアインズから賜った、さらなる力を得た新たな秘宝……『凍牙の苦痛(フロストペイン)・改』がある。それを振りかざし、

 

「『氷結爆散(アイシーバースト)』ォッ!!」

 

 日に使える回数が限られている、中距離範囲内の全てを凍り付かせる大技を発動。

 冷気による竜王へのダメージはやはりないが……その瞬間、クレマンティーヌが放った『大瀑布』の大量の水が一気に凍り付き、竜王の顔半分を覆う形で張り付いた。目の周りもそれに覆われ、視界の半分がまともに見えなくなる。

 

『ぬうぅっ……小癪な真似を……ぐぅっ!?』

 

 それを待っていたかのように、死角となった左側……しかも遠距離から、スナイパーライフル型の魔法兵器――かつて聖王国が『評議国』に干渉を受ける原因となった発掘遺物――を使い、大口径の魔力弾を連射して攻撃するカルウィン。

 

 さらにそれを援護代わりにして、ヴィヴィアンが軽やかなステップで懐に飛び込む。

 

『特技【竜の一撃】……からの、特技【流閃群光】!!』

 

 横腹に強力な蹴りの一撃を見舞う武技を放ち、さらにその武技の影響で攻撃力が上がっている僅かな間に、何発もの蹴りを連続で叩き込む別な武技を使い、強襲。

 竜の血を引くヴィヴィアンゆえに、細身に似合わない、また軽戦士らしからぬすさまじい威力で繰り出される体術が巨体を揺らす。

 

 さすがに見えない左側から受けるダメージの大きさに左側を警戒するようになった竜王だが、そのタイミングで逆に警戒が薄れた右側から飛び込んだアンティリーネが、鎌を素早く十字に斬る。

 

「こっち側がお留守よ! 特技……【聖十字】!」

 

 単なる十文字の斬撃ではない。聖なる力の乗った、アンデッドに対して特効となる一撃が顔面に直撃したことで、痛みや不快感から、竜王の苛立ちが爆発する。

 嫌な予感がして、アンティリーネがその場から素早く【縮地】の武技で飛びのいた直後、

 

『ええい、鬱陶しい! 『負の爆裂(ネガティブバースト)』!!』

 

 全身から負のエネルギーを一気に放出し、全方位を攻撃する竜王。その衝撃で、顔に張り付いて視界をふさいでいた氷も吹き飛んだ。

 さらにその直後、

 

『身の程を知れ虫けら共……【竜力】!!』

 

「っ……ヤバいのくるよ! 皆、退避!」

 

 竜王が使った魔法により、一時的にその攻撃力が超強化される。

 それを象徴するかのように禍々しいオーラを纏った尻尾の一撃が、まるで剣のように大上段から振り下ろされ、地面にたたきつけられた。

 

 幸い、ヴィヴィアンの警告に従ってその場から全員退避していたため、被弾した者はいなかったが……地面にたたきつけられたその尻尾の衝撃で、地面が砕けて巨大なクレーターができた。

 

「何だこの威力は……食らったらひとたまりもないぞ!」

 

 凄まじい破壊力に戦慄するイビルアイ。彼女は、肉体に受けたダメージを魔力で肩代わりする魔法を使えるが、それすらできないだろう。使う暇もなく、体が粉々になる未来しか見えない。

 だが、それをブレインは『はっ』と鼻で笑う。

 

「だからどうした!?  強化されてようがいまいが竜王(ドラゴンロード)の攻撃なんざ、一発食らったら終わりだなんてのは変わらねえだろう」

 

「言われてみればそうですね……特に、私みたいな肉体的にひ弱なのは……」

 

「あっはっは、こりゃ一本取られた! ブレちゃん、ナイスポジティブ!」

 

 ブレインの軽口に、しかしその通りだと思ってしまったネイアとクレマンティーヌが追随し、聞いていた者達も多少なり恐怖が和らいだ。

 確かに、強化されているか否かにかかわらず、たいていの者は竜王の攻撃一発で即死である。どっちでも結果は変わらないのだから、全部避けるしかない。

 

 食らって生きていられるのは、相応の実力を誇る一部の者達だけだろう。

 

『減らず口を……ならば望み通り食らってみるがいい!』

 

 そう言って竜王は、今度は横に薙ぎ払う動きで尻尾を振り抜いてくる。前方広範囲、戦士達のほとんどが巻き込まれる軌道で。

 しかしその直前、エルフの女王・ユリーシャの足元に、巨大な魔法陣が展開する。

 

「させません……いでよ、我がしもべ!! 皆を守るのです!」

 

 号令と共に姿を現した、巨大な土の巨人……『根源の地精霊(プライマリー・アースエレメンタル)』。

 テールアタックの軌道上に体を割り込ませ……すさまじい音を立てながらも、その一撃を受け止め、命令通りに戦士達を守った。

 

 そして、強大な攻撃によって生じた、その隙を見逃さず……モモンが駆け出して懐に飛び込む。その両手に持った2本の大剣は、銀色のオーラを纏い、強化されていた。

 神官戦士であるラキュースによって付与された、対アンデッドに有効な強化魔法である。限られた時間、不死者に対して特効となる攻撃を繰り出すことができる。

 

 その2本を大きく振りかぶり、その無双の腕力に遠心力も乗せて、アッパーカットのように斬りつけて竜王の顎を、頭をカチ上げる。

 

 そこでできた隙に、さらにその仲間……ナーベとキリトが襲い掛かる。

 

魔法最強化(マキシマイズマジック)……『強襲する竜雷(アサルトドラゴンライトニング)!」

 

「武技……【六光連斬】!」

 

 ナーベが放った、いくつもの落雷を束ねたような雷撃が竜王を襲い、連続して炸裂する。さらにキリトの剣がすさまじい速さで閃き、6つの斬撃が同時に襲い掛かり傷を刻む。

 

『おのれぇえええぇっ!!』

 

 

 

「う、ぐ……」

 

「クライム、大丈夫!?」

 

「ら、らなー……さ、ま……?」

 

「動いてはダメよクライム! もう少しで治るから、じっとしていて」

 

「血も足りてないでしょうし、骨が変な風に繋がっちゃったら大変ですからね」

 

 最初に吹き飛ばされ、重傷を負ったクライムは、ラキュースとトガ、そしてラナーの手によって治癒を施されている最中だった。致命傷一歩手前だったところを、どうにか持ち直しつつある。

 なお、トガの治療方法はいつもと同じ、『刺すと逆に回復する』効果を持つナイフを患部に突き立てるというそれである。それが腹部や胸などに深々と刺さっていて……見た目が酷い。

 

 徐々に痛みが引いていることを感じつつ、クライムは、どうにか満足に見えるようになってきた目で戦場を見やる。

 そこでは、漆黒の英雄に続けとばかりに、戦士達が邪悪な竜に挑んでいるところだった。

 

 あの中にいられない自分が情けない。そんな風に思ってしまうクライム。

 一刻も早く戦線復帰し、少しでも皆の役に立ちたいと思っていたところに……

 

『クライム……クライム……私の声が聞こえますか?』

 

「え……っ……?」

 

 頭の中に直接、声が響いてきた。聞き覚えのある声が。

 

(この声は……『命の女神』……ラスト様!?)

 

『クライム……焦る必要はありません。あなたが役割を果たすべき時は、もっと後に待ち構えています……』

 

「役割……?」

 

 独り言をつぶやき始めたクライムに、ラキュース達は『?』になっていたが、それに気づくことなく、クライムは脳内に響くラストの声に集中する。

 

『あの邪悪な竜は、悪魔のアイテムと穢れた魂によって蘇った、この世の(ことわり)に反する形で存在している歪んだ命……通常の方法では倒しきることはできません。闇の力で形作られた核を壊す必要があります。それができるのは……あなたの持つ『勇者の剣』のみ』

 

「…………!」

 

『あなたなら、できます。だから今は……その時まで、休んで傷をいやし、力を取り戻すのです……この戦いを終わらせる、最後の一手を打つために……!』

 

 

 

 クライムにそのような『お告げ』が下っていた頃、畳みかけられる攻撃に苛立った竜王は、呼び出したはずのしもべ達……カッツェ平野のアンデッド達や、最初の『死の咆哮』で殺害してしもべに変えた者達の加勢が全くないことに気づいた。

 

 あたりを見回してみると……

 

「はぁああぁあぁ―――っ! 【剛撃】ィッ!」

 

 こちらに来ようとするアンデッド達を、レメディオスが聖剣サファルリシアの一撃で何体もまとめて両断していた。

 その奥にいるケラルトは、神官団と協力し、アンデッド退散や神聖属性の攻撃で、同じようにアンデッド達を焼き尽くしていく。

 

「地上の兵士達との連携を密にせよ! 邪魔にならぬよう距離を保ち、しかし兵士達の負担が減るよう、不死者達を焼き払うのだ!」

 

「「「承知しました、師よ!」」」

 

 空中に浮いたフールーダとその弟子達が、地上にいるアンデッド達に『火球』を降り注がせて攻撃し、一方的に焼き払っていた。

 それが撃ち漏らした者達を、バジウッドら『四騎士』が率いる精鋭の軍団が押し返す。

 

 聖王国と帝国に加え、ヘイムダール王国やエルヘヴン共栄圏も同様にして、群がってくるアンデッド達を押し返し、1体たりとも通さない。

 邪悪で強大な竜と戦う英雄達の邪魔をさせまいと、国境を越えて団結し、戦っていた。

 

「よしっ、準備できましたよ、聖王女様!」

 

「補助術式構築完了。いつでも行けます!」

 

「感謝いたします、マズルカ様、ティファニア様……。では……皆に力を! 『聖戦の号令(コマンドオブホーリーウォー)』!!」

 

 聖王女カルカが発動した大規模支援魔法は、さらにマズルカとティファニアの支援を受けて、戦場全体……帝国軍など他国の軍隊達をも巻き込む形で効果を及ぼした。アンデッド相手に受けるダメージが軽減され、逆にこちらの攻撃がアンデッドに特効となる聖属性を帯びて強化される。

 聖王家の切り札である『最終聖戦(ラストホーリーウォー)』ほどではないものの、この状況下で強力極まりない支援が、さらに各国の軍隊を勢いづけた。

 

「聖王国の姫さんの力か! 粋な真似してくれるじゃねえか……野郎ども! 他国の王族がこんな大盤振る舞いしてくれたんだ、俺達も負けちゃいられねえ! 帝国軍の意地を見せてやれ!」

 

「「「応ォ―――ッ!!」」」

 

 バジウッドの号令を受けて、さらに勢いを増す帝国軍。

 現場では、聖王国の兵士と帝国の兵士が協力して戦う場面や、神官が帝国兵の支援や回復を行う場面、ヘイムダール王国のエルフの援護射撃を受けて突き進む場面、エルヘヴン共栄圏の亜人達と協力して強敵を打ち倒す場面すらあった。

 

 普段ある亜人蔑視や敵対意識すら鳴りを潜め、戦場全体が仲間であるという一体感の下、兵士達は巨悪に立ち向かっている。

 

 その様子を見て面白くないのは、やはり『朽棺の竜王』である。

 腹立たしく思った竜王は、今一度それらを屍に変えてやるべく、息を吸い……

 

「まずい、あれは……!」

 

『小癪な虫けらどもめ……貴様らごときが我を不快にさせた罪、その命と魂で償うがいい! 先のような寝起きの咆哮とは違うぞ!! まとめて我が奴隷となれ!』

 

 そして放たれる『死の咆哮』。

 一番最初に、何万もの兵士を屍に変えたそれが、今度は戦場全体に死をもたらすべく、全力で放たれた。

 

 しかし、その瞬間。

 

 

「おいおい、無粋な真似をするな」

 

 

 竜王の周囲を囲むように、巨大な黒い十字架が何本も現れる。

 咆哮がもたらす死の力は、その黒い十字架の囲い……アインズが形作った『結界』に阻まれて、戦場に広がることはなく、不発に終わった。

 

『バカな!? 我の力を……死をもたらす『始原の魔法(ワイルドマジック)』を止めただと!?』

 

「生憎だったな、その十字架も、『死の神』である私の力でこしらえたものだ。『死の力』そのものであるそれを、同じ死の力で破ることはできん。死者を二度殺すことができんようにな」

 

『神だと……おのれ、貴様……『六大神』や『八欲王』と同じ場所から来た存在か! 忌々しい……我ら竜が、『竜王』が覇者として君臨するこの世界に紛れ込んだ異物めが!』

 

「異物であることは否定はせんさ。だが、自分達が絶対者として君臨し、自分達はこの世界の誰に何をしてもいい、そしてそれが未来永劫続くなどと思っているその思い上がりは……私に限らず、醜いものだと思うがね。そら、彼らも同感のようだぞ」

 

 そう言われて竜王が周囲を見渡せば、今の強大極まりない……ともすれば自分達に『死』をもたらしていた力にすらひるまず、構えてみせる英雄達の姿があった。

 虫けらのように地をはいつくばっている者など、思い通りになる者など、1人もいない。

 

『どこまでも不快な虫けらどもめが……ッ!』

 

 直後、咆哮する竜王。しかし今度は、周囲に死をもたらす咆哮ではない。

 それに呼応したのは……戦場の周囲で、兵士達を相手に戦っていた無数のアンデッド達だった。

 その体から負のエネルギーが抜け落ちていき……バタバタと倒れていく。その膨大なエネルギーは、全て、竜王の体に吸い込まれていった。

 

 膨大な力を吸収した竜王は、その身を徐々に変化させていく。

 体が全体的にサイズアップしていくのに加え前後の足が太く、マッシブに変わっていき……さらには、背中部分の肉が蠢いて変形していく。それらは長く伸び、先端に『頭』ができあがり……7匹の蛇の頭が生えそろった。

 元々あった本来の頭と合わせると、まるでそれは、神話に出てくる『八岐大蛇(ヤマタノオロチ)』のごとき見た目をしていた。

 

「それが、貴様の本気というわけか……『朽棺の竜王』……!」

 

『群れた程度で我に抗えると思ったのなら大間違いだ! 虫けらごときがいくら数を揃えたところで、世界の覇者足る『竜王』にその刃が届くことなどない……何もかも無駄だ! 我が前に、全ては、滅ぶ!』

 

 直後、竜王の8つの頭が一斉に口を開き……こごえる吹雪を吐き出した。先に放ったそれより、勢いも攻撃範囲も格段に強化されたブレスが襲い掛かる。

 その猛烈な冷気の前に、ユリーシャの『根源の地精霊』が立ちはだかり、を体を張って防ぐ。

 そこからさらに漏れ出てきた冷気は、ラナーが再び神器を使い、光のヴェールで軽減。どうにか許容範囲にまでダメージを抑えた。

 

 そのまま、体が所々凍り付いたままに精霊は前進し、竜王に組み付いて抑え込む。体のあちこちがガラガラと崩れ始めており、満身創痍という状態に見えたが、力を振り絞って抑え込む。

 

 その隙を無駄にせず、動ける者は次々と前に出ていった。

 一番手となったアルシェが放った『龍雷』が、新たに生えた蛇の頭に降り注ぐと、蛇は悲鳴を上げ、その体に焦げた傷跡ができて煙を上げた。

 

「! 追加で生えた方の頭は大したことない! 本体より耐性が弱いんだと思う……第5位階でも攻撃が通る!」

 

「それは好都合だ! 魔法三重最強化(トリプレットマキシマイズマジック)……水晶の短剣(クリスタルダガー)!!」

 

 次いで、イビルアイも魔法攻撃を降り注がせ、別な蛇頭に傷を刻み込む。確かに、第5位階では怯ませることもろくにできなかった本体の頭とは違って、脆い。

 そこにさらに、ノアが突貫して武技【全身全霊斬り】で攻撃する。ノアの剣の腕から繰り出された大威力の武技に、背中から生えた蛇首の1つが半ばまで断ち切られる。

 

 その一撃のために至近距離にまで入ってしまったノアを、他の首が襲おうとするが、カルウィンが魔力弾を乱射してそれらの首を怯ませ、撤退を支援してノアを助けた。

 

 それと同時に、ヴィヴィアンがその身に眠る竜の力を解放し、その身を大きな竜に変える。

『朽棺の竜王』と比べれば小さいが、それでも人間数人を乗せられそうなサイズの竜となったヴィヴィアンは飛翔し、その背に飛び乗ったノアを乗せることで回収・撤退させた。

 そのついでに、ノアが攻撃した首に炎のブレスを吹き付けるおまけ付きで。

 

 それを逃がすまいというように、竜王は尻尾の薙ぎ払いでヴィヴィアンとノアを撃ち落とそうと強襲するが、それもまた『根源の地精霊』が体を張って防御し、守った。

 しかし、その一撃を防いだのを最後に、限界が来て精霊は崩れ、土くれに戻ってしまう。

 

 それを無駄にすまいという勢いで、入れ替わりでアンティリーネが突っ込む。

 狙うは、今、ノアが半ばまで切断した首。竜王のすさまじい生命力故か(アンデッドなので『命』はないのだが)、徐々に傷が再生を始めていた。

 そこに、渾身の武技【聖十字】を放ち……その首を完全に切断する。断末魔と共に、その首は地面に落下して動かなくなり……しばらくすると、塵になって崩れさっていった。

 

 が、切断された首(頭)は消えたが、体と繋がっている方は……切断面がグロテスクに蠢いて盛り上がったかと思うと、ものの十数秒ほどで、蛇の頭が再生されてしまった。

 これにはさすがにノア達も驚いたが、直後、ヴィヴィアンが『ん?』と気付く。

 

「……大丈夫! 再生しちゃったけど、戦い方は今ので間違ってないよ、このまま行こう!」

 

「? どういうことだ、ヴィヴィアン?」

 

「今、切り落とした首が再生した時……あいつの体内のエネルギーがごっそり減った! 多分、頭を潰されるとダメージが大きくて、再生に相当なエネルギーを使うんだ。だから……」

 

「再生能力は有限……できなくなるまでぶった斬ってやればいいんだな!」

 

 にやりと笑って言うノア。

 その態度が気に入らなかったのか、竜王は苛立ちを露わにして前に踏み出してきた。最初よりも太く強靭になった前足を振り上げ、ノアと、一緒にいるヴィヴィアンもまとめて叩き潰そうと振り下ろしてくる。

 

 それを躱すと、小さい蛇首が噛みついて追撃して来るが……

 

「秘剣……『虎落笛』!!」

 

 その前に立ちはだかったブレインが、手にした名刀『虎徹』の力を解放しながら、必殺の居合切りを放ち……威力と攻撃範囲を大きく強化した一閃を繰り出す。

 先のノアの一撃ほどではないが、それでも深々と蛇の首を切り裂き、勢いを殺した。

 

 そこにさらに、上空からザリュースが強襲。

 手に持っている『凍河の苦痛(フロストペイン)・改』は、改良にあたって会得したさらなる力を解放、空気中の水分を集めて凝結させ、氷の刀身を巨大化させた、巨大な戦斧となっていた。それを……力いっぱい振り下ろす。

 

「武技……【剛撃】!」

 

 冷気によるダメージはないが、純粋な重量と切れ味に、武技の乗ったその一撃は、ブレインの一撃と合わさって……その首を切断目前まで追い込む。

 

 そこにさらに、飛び込んできたレイナースが、聖なる力の乗った槍を思い切り、目にもとまらぬ連撃で叩き込む。

 

「武技! 【無双乱舞】!」

 

 帝国四騎士として『重爆』の名を取ったレイナース。その時よりもさらに強くなった彼女が、全霊を込めて振り抜いた連撃。

 それがとどめとなり、その首がちぎれ、落ちた。

 

 やはり、新たに生えた首は、攻撃能力は脅威だが、脆い。それを理解した英雄達は、それぞれに畳みかけていく。

 

 クレマンティーヌは、各種武技を重ね掛けして強化した状態で、両手のエストックによる豪雨のごとき連撃【閃雷騒雨】で蛇の首をハチの巣にした。

 

 ヴィヴィアンは、思い切り息を吸ってから吐き出した超高温の火炎ブレス――聖属性に負けず劣らずアンデッドに特効――で焼き尽くす。

 

 カルウィンは魔力を大量にチャージした大口径の弾丸を、ピンポイントの狙撃で蛇の頭の口の中に叩き込み、炸裂させて頭を吹き飛ばした。

 

 イビルアイは、エオンに協力してもらい、『上位道具創造(クリエイト・グレーターアイテム)』で作り出された水晶の大槍を媒介に魔法を発動。こうすることで、イビルアイは消耗は少なく、威力は大幅に上がった攻撃魔法を使うことができる。

 放たれた『水晶の大投槍(クリスタルグレートジャベリン)』は、魔法抵抗を突破して蛇の頭を串刺しにした。

 

 さらにエオンが第8位階魔法『獄炎(ヘルフレイム)』を放ち、黒炎が根元から首を焼き尽くす。

 

 飛び込んでいったキリトは、師であるモモンに習った二刀流を解禁。奥義【スターバーストストリーム】を放ち、怒涛の16連撃で滅多切りにした。

 

 竜王は何度も傷を、そして蛇の頭を再生させるが、どんどんそのスピードは遅くなっていく。

 戦場に、特にこのカッツェ平野に満ちているはずの負のエネルギーが、一向に吸収できないのである。そのせいで、再生が遅いのみならず、本来の力を発揮できない。

 

『……っ……貴様の仕業か、『死の神』!!』

 

「ん? 何の話だ?」

 

 少しして竜王は、その理由が、アインズが戦場全ての負のエネルギーを制圧してしまっており、自分に流れてこないようにしているからだと気づいた。

 

 目論みを外された上に……自分に負のエネルギーが回ってこないということは、アインズが自分以上に強い死の支配力を持っていることの証明に他ならない。

 プライドを傷つけられた……と、一方的に感じて怒った竜王は、口元に超威力の漆黒のレーザーをチャージして吐き出す。それは、アインズめがけて一直線に飛び……しかし、片手で容易く受け止められ、かすり傷一つ作ることはできなかった。

 

 ……ただの極太の『負の光線(レイ・オブ・ネガティブエナジー)』なので、効かなくて当然……どころか、回復しているが。

 

 そしてアインズは、お返しとばかりに、

 

魔法三重化(トリプレットマジック)……『現断(リアリティスラッシュ)』」

 

 放たれた超威力の魔法の斬撃3つが、いともたやすく3つの首を斬り飛ばした。

 大ダメージを受けた竜王だったが、そこにさらにもう1発、今度は『朱の新星(ヴァーミリオンノヴァ)』の爆炎が叩き込まれる。本物の首を除く、残り4つの首も焼き潰された。

 

『おのれ……おのれぇえええぇっ!!』

 

 7つの首を再生させながら、怒りを最早抑えることも隠すこともできず、牙をむいて感情をあらわにする竜王。

 しかし、その背中に再生した首は……あちこち傷だらけのままだった。待ってもそれ以上の再生が始まらない。

 

 すなわち、再生するだけの力ももうない……あと一押しだと皆が悟った。

 

「……もう、いい加減に眠れ、屍の竜よ。この今はもう、お前が生きるべき時ではない。その命もまた……邪悪な儀式によって形作られた、歪んだもの。あるべき姿ではない」

 

『知ったことか! 我に……この世界の覇者に、指図するなぁあああ!!』

 

 怒りそのままに、竜王はアインズめがけて突進して来ようとするが……その瞬間、転移の魔法で竜王のすぐ背後に跳躍したユリーシャが、そこで再び召喚魔法を発動し、2度目の『根源の地精霊』を召喚。

 出現と同時に、竜王の体を後ろから拘束し、抑え込んだ。

 

 そこに、英雄達が次々と畳みかける。

 

『まずは私が行くよ! 皆ちょっと(そこ)開けて!』

 

 言いながら、竜形態になったヴィヴィアンが前に飛び出し……伸びてくる蛇の首目掛けて、黒煙の混じった爆炎を口から吐き出して迎撃する。

 

 しかしそれだけでは終わらず、その爆炎……いかにも『火炎放射』という様子で、文字通り放射状に放たれていたそれが、徐々に収束して細くなっていき……それにともなって炎熱が圧縮されたのか、爆炎は一筋の光……熱線に姿を変えた。

 

『薙ぎ払え!(自分で言っちゃう) プロトン(内閣総辞職)ビィイ―――ム』ッ!!

 

 それが直撃した蛇首の1つは、頭からその付け根まで貫通し溶断され……爆散した。

 

 そこで発生した爆風と黒煙を切り裂くように前に飛び出すのは、ノア。

 手に持った剣は、刀身全体がまばゆい光を放つとともに稲妻が迸っており、すさまじいエネルギーがそこにこめられているということが容易く見て取れた。

 

 自分を狙って迎撃のために放たれる死霊系魔法での攻撃をかわし、切り払い、懐に飛び込んで……横一線に振り抜く。

 

 「奥義! 『ギガスラッシュ』!!」

 

 雷光を纏った超威力の斬撃が、視界全てを横断するかのような雷撃の軌跡と共に炸裂し……別な首の1つを断ち切り、消し飛ばす。

 斬撃の瞬間に迸った放電は、まるで落雷が直撃したか、あるいはそれ以上の轟音と衝撃、そして発光であたり一面を席巻した。

 

 それを放った後のノアに横合いから襲い掛かろうとする別な蛇首。

 しかし直後、その眉間に、遠距離から放たれた魔力弾による狙撃が命中し炸裂、怯ませる。

 

 それを放ったカルウィンは、限界まで魔力を込めた砲撃を連続して放ち、同じ場所に叩き込んで反撃を許さず、その場に縫い留める。

 そして、ダメージの蓄積でふらついた隙を見逃さず、地面を蹴って一気に最高速度まで加速すると、懐に飛び込み……魔力を消費して鎧の機能で作り出したナイフを深々と突き立てる。

 

 直後、突き立てたナイフが爆発して傷口が大きく広がり……そこになんと、巨大なライフルの銃口を剣か何かの様に突っ込んで……

 

「お呼びじゃねえんだよドラゴンゾンビ……さっさと地獄に帰って、生贄(バルブロ)と一緒に反省会でもしてやがれ!」

 

 ゼロ距離どころかマイナス距離で魔力弾を乱射・乱射・乱射。

 体内で轟音と共に大威力の魔力砲弾が立て続けに炸裂し、蛇の首が根元から風船のように膨れ上がり……吹き飛んだ。

 

 しかし直後、破断されて吹き飛びはしたものの、頭自体は残っていたその首が……アンデッドゆえにか、首だけの状態でしぶとく動き出し、襲ってきた。

 短くなった体を蛇らしくくねらせて進み、背後からカルウィンに襲い掛かる。

 

 が、噛みつこうと顎を大きく開いた瞬間に……エオンが放った魔力弾が直撃し、その頭を木っ端微塵に吹き飛ばした。

 

「……悪い、助かった」

 

「いえ……まったく、蛇でアンデッドだからってしぶとすぎでしょ」

 

 そのエオンの手には、『上位道具創造(クリエイト・グレーターアイテム)』で作った武器……彼が作れる物の中でも、対単体の単発火力が最強クラスに高いそれがあった。

 銀色に輝く重厚な銃身を持ち、6発の弾丸を装填できる構造の、超大型アサルトリボルバー……『レクイエム』。

 

 後退するカルウィンと入れ替わるように、エオンはそれを手に持って悠々と歩みを進める。

 その前方から、もう1つ……先ほどノアが斬り落とした首が右側から襲ってくるが、そちらも、歩きながら放った『レクイエム』の一発で粉々に爆散。

 

「やっぱゾンビは頭もきちんと吹っ飛ばすに限るってことか。こうしておけば……今度こそもう、立ち上がれない」

 

 そして、奥から襲い掛かってきた本命の首……その眉間に、魔力を目いっぱい込めた、ほぼ実体と言えるほどの密度の魔力弾を発射。

 マグナムとはいえ、拳銃から放たれたとは思えない威力の一撃を叩き込んで、消し飛ばした。

 

 くるくると魅せるようなガンスピンの後、ホルスターに収め……同時にエオンは、再び『上位道具創造』を使い……

 

「『創造(クリエイト)』……『アックスカリバー』。イビルアイさん、コレ使ってください」

 

「……ああ、感謝する……!」

 

 放り投げたそれは、水晶のような結晶体の刃を持つ、斧と剣が融合したような形状で、それでいてどこかメカニックな構造が特徴的な武器だった。

 それを受け取ったイビルアイは、小柄な彼女にはやや大きく思えるそれを、魔法を使って、浮遊させて手に持たずに、自分の周囲で、宙を舞うように動かし……魔力を込めていく。

 

「インベリアの……皆の仇だ! 『極彩水晶の巨斧(ダイナクリスタル・グレートアックス)』!!」

 

 飛び、回る軌道に沿って、舞い散る水晶の破片。まるでダイアモンドダストのように幻想的で神秘的な、しかし、どこか荒々しさと冷たさを湛えた輝き。

 

 そして、魔力が込められていくにしたがって、刃の結晶部分が煌きを放ち……武器自体がどんどん大きくなっていく。

 

 見る見るうちに、両手で持てる程度だったそれが……家一軒を超える大きさの、巨人族でも振るうのに難儀しそうなサイズの巨大な水晶の斧となった。

 

 そして、イビルアイがばっと手を天高く掲げたのに従って、巨斧は空中高く飛びあがり……手が振り下ろされると同時に、彗星のような勢いで、その刃を下に向けて急降下。

 

 「“極光の(シャイニング)”……“一撃(ストライク)”!!」

 

 己の全魔力を込めて最強化を施した水晶の巨斧は、蛇の首を縦に断ち割って両断し……根元まで食い込んだところで大爆発を起こす。

 その部分の首から上は、何一つ残さず消し飛んだ。

 

 そして、その後ろから飛び出してきたアンティリーネ。

 彼女は、『使っている武器の元の持ち主の『切り札』を使うことができる』という途轍もない異能を持っている。

 そして、今彼女が持っているのは、いつもの鎌ではなく……ラストに提供された、杖だった。その杖は、かつてのラストの仲間(ギルメン)の1人であり……某『魔砲少女』のロールプレイが好きだった女性が使っていたもの。こだわりぬいて作られた神話級(ゴッズ)の武装。

 

 赤い、丸い宝石のはめこまれた、杖にも銃にも見えるその先端を、竜王に向ける。

 その周囲から、空気中の魔力が収束していき……桃色の魔力光の、巨大なエネルギーが圧縮されていく。その規模は、味方であるアルシェやイビルアイが戦慄するほど。

 

 「これが私の……全力全開! 『スターライトブレイカー』ッ!!

 

 解放されたその収束魔力砲撃は、蛇の首を2つまとめて消し飛ばしたのみならず、竜王の胴体に突き刺さって大ダメージを与え、大きくよろけさせた。さらに、その際に起こった大爆発は、背中に生えていた翼をもぎ取って奪い去った。

 

 最早満身創痍の竜王の下に、最後に飛び込んでいくのは……漆黒の英雄・モモン。

 その手に、かつて王都でヤルダバオトとの決戦の時に使った変身ベルト……『デス・ライジング・ドライバー』を持ち……装着。金と黒のオーラをまとい、黄金の豪奢な装飾で身を飾った強化形態に変身する。

 

 その状態で、黄金のオーラを剣に纏わせて超強化し、全身全霊を込めた連続攻撃で竜王を、本体の首を滅多切りにする。噛みついて反撃して来ようとするところを、殴ってそらして黙らせて、空間ごと断ち切るのではないかと思うほどの気迫と共に、無数の斬撃を浴びせていく。

 

 そして、竜王が最早動く力すらなくなって崩れ落ちたところで、空中高く飛びあがる。

 

「これで、とどめだ……! 奥義……『覇王斬』!!

 

 手に持った大剣の片方に全てのオーラを込め、光り輝く剣にして……投擲。

 投げた直後、弾けた光が急速に膨れ上がり、巨大な光の剣になり、流れ星を束ねて作ったようなすさまじい勢いで飛んで、竜王の首に直撃。大爆発を起こし……その首を吹き飛ばした。

 

 本体のそれを含め、全ての首を刈り取ったことで、『これで勝ったか!?』と皆が思った。

 しかし、首を全て失ったにも拘らず、竜王の体はまだ動いていて……信じられないことに、切断面の肉が蠢いている、わずかずつだが再生しようとしているように見えた。

 

 本当に不死身なのか、と、見ている者達が戦慄する中……とうとう、ここまでその機会を待っていた者が、立ち上がった。

『勇者の剣』を……この邪悪な龍の命を終わらせる武器を手にした、クライムが。

 

 最初のダメージが大きすぎたのだろう。足取りがまだおぼつかないように見える。

 

「クライム」

 

「! モモンさん」

 

「辛いなら……代わるか? その剣を、私に託してくれるなら……私がやるが」

 

「ありがとうございます。ですが……これは、私が『女神』様からいただいた役目ですから……。その使徒であるラナー様の騎士として、1人の男として……最後まで、やらせてください」

 

「そうか……よく言った! ならばもう何も言うまい、行ってこい!」

 

 尊敬する英雄からの激励を貰ったクライムは前を向き、体が痛むのを堪えて歩き……いや、走り出す。

 

 その時、首がなくなった竜王の胴体が震え……負のエネルギーが噴き出す。

 それが周囲で形を成し……何体ものアンデッドが生み出された。眷属を作り出して、自らを滅ぼしうる光の力から、自分を守らせるつもりらしい。

 骨の竜(スケリトルドラゴン)死者の大魔法使い(エルダーリッチ)死の騎士(デスナイト)魂食らい(ソウルイーター)……強力なアンデッドが次々現れ、クライムを襲う。

 

 しかし、クライムは……1人ではない。

 

「秘剣……『虎落笛』!」

 

氷結爆散(アイシーバースト)!」

 

「武技……【無双乱舞】!」

 

「『龍雷(ドラゴンライトニング)』!」

 

 ブレインが、ザリュースが、レイナースが、アルシェが……仲間達がその前に立ちはだかり、引き受けてクライムを守る。

「ここは任せて行け!」と、モモン共々、力強く背中を押してくれる。

 

 思い返せばこの戦いは、王国がバルブロの手に落ちたあの日から……そして、ラナー王女を助けるために、ブレインとイビルアイと旅立ったあの日から始まっていた。

 その長い戦いが終わろうとしている。この手で、自分が、幕を引く。

 その事実を、その重圧を感じ取りながら……クライムは歩く。

 

 次々に湧いて出てくる敵達は、全て仲間達が引き受けてくれた……が、

 

「クライム、危ない! 下だ!」

 

 その声を聴いてはっとしたクライムだが、一瞬遅かった。

 次の瞬間、地面を突き破って出現した巨大な骸骨『がしゃどくろ』が、クライムの体をつかんで高くまで持ち上げる。

 そのまま握りつぶそうと力を込めてくるが……その前に、モモンが投げつけた大剣ががしゃどくろの腕を粉砕し、クライムを助けた。

 

 解放されたはいいが、そのまま落ちそうになるクライム。受け身を取らなければ、と咄嗟に動こうとするが……それより前に、何かが自分を抱きとめた。

 それは……

 

「ラナー様っ!?」

 

「よかった、クライム……間に合って」

 

 堕天使の黒い羽根を広げて飛翔し、かけつけたラナーだった。

 それなりに体格もよく、肉もついて、鎧も身に着けていて重いはずのクライムの体をしっかりと支えている――若干苦しそうではあるが――ラナーは、そのまま飛んで……竜王の真上に行く。

 

 クライムとラナーは、何も言わず、互いに目を見合って頷くと……剣を手に取り、切っ先を真下に向けて構える。クライムが剣をしっかりと握り、ラナーはその上から手を添える形だ。

 

 そしてそのまま、急降下して……

 

「「はあぁぁあああぁ―――っ!!」」

 

 

 ―――ドスッッ!!

 

 

 その刃を、竜王の体に……その奥、中心にある心臓に、突き立てた。

 

 

 一瞬の沈黙。

 その後に訪れた変化は、劇的だった。

 

 ブレイン達が戦っていた、無数のアンデッドの眷属モンスターが動きを止め、崩れ去って消えていき……竜王本体の、再生を始めていた首も、再生が止まる。それどころか、末端から徐々に崩れ始めていき……その命が、確かに終わったのが見て取れた。

 

 しかし、離れた位置に転がっていた、『朽棺の竜王』の本体の首――モモンが吹き飛ばしたのが、しぶとく形だけは残っていたか、あるいは首だけ再生が間に合っていたらしい――が、ぴくぴくと蠢いたかと思うと、

 

『おのれ……虫けらども……! この恨み、必ずやいつの日か……!』

 

「まーだそんな口が利けるのかよ、このゾンビ蛇……」

 

 呆れたように言うノア。刀に付いた血を払って、鞘に納めながら。

 他の面々も、勝負がついた……どころか、その命がとうとう潰えたところだというのに、まだこの尊大な態度を崩さない竜王に、呆れや軽蔑の入り混じった視線を向ける。

 

『いい気になっていられるのも、今の内だけだ……お前達のような、世界の(ことわり)を乱す者を、我々は認めない……。必ずや他の『竜王』が、その牙でもって裁きを与え、その命でもって傲慢を償わせる時が来る……それまで、少しだけ延びた命を、震えて過ごすがいい……!』

 

 そう言い残し、本体の頭もまた……塵となって、崩れ去った。

 

 そして、クライム達が剣を突き立てている胴体もまた、崩れ去る……かと思いきや、ピキピキとひび割れて、その中から光が漏れ出していく。その様子は、まるで……

 

「……あの……クライム? これ、ひょっとして……爆発するんじゃ……?」

 

「……っっ!? ら、ラナー様! 逃げ――――」

 

 

 ―――ドゴォォォオオオォォン!!

 

 

 大爆発。

 戦場全体を揺るがすほどの轟音を立て、戦場のどこからでも見えるほどの大きさの火柱を立てて……竜王の体は木っ端微塵に吹き飛んだ。

 

「お、おおおおぃ!? クライム!? 王女様!? 大丈夫か!? ちゃんと逃げたか!?」

 

「あ、あんな爆発……巻き込まれてたら、ひとたまりも……」

 

「大丈夫だ……ほら、見ろ、ちゃんと脱出している」

 

 慌てるブレインとネイアだったが、イビルアイが指さす方を見ると……火柱からだいぶ離れたところの空中に、2人の姿があった。

 間一髪、ユリーシャが飛ばしたしもべであるレティスに回収され、助けられていた。その背中に乗って、安心したように脱力している。

 

 そんな2人に……光が差し込む。

 比喩の類ではない、本当に空から、柔らかい光が差し込んでいた。

 

 先程まで全面が曇り空だったカッツェ平野の空が、晴れ始めていた。雲の隙間から柔らかく、神々しく差し込んできた光が……レティスに乗った2人を……クライムとラナーを照らし出す。

 まるで、空の向こうの神々が、戦いの終わりを祝福しているかのように。

 

(※注 ラストの『天地改変』である)

 

 戦場全ての視線が集まる中、ラナーはクライムを促して立たせる。

 

 そしてクライムは、気恥ずかしそうにしながら……その勤めを全うする。

 こういう時……大きな戦いが終わった時には、それを皆にわかる形で知らせなければならない。その喜びを、皆で分かち合うために。

 

 クライムは、その手に持った『勇者の剣』を……降り注ぐ光の中、天高く掲げた。

 それと同時に、雲は晴れ、消えていき……カッツェ平野全体に光が降り注ぐ。

 

 

 

 その瞬間、戦場全体から、爆発が起こったかと思うほどの歓声が上がった。

 

 

 

 

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