オーバーロード 傾国狐の異世界日記   作:破戒僧

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今回で本章は終了になります。

またしばし、プロット確認等のためお時間をいただきまして……次、最終章の更新を開始していく予定です。
もうしばし、どうぞよろしくお願いいたします。


終章 そして伝説へ……

 

 

「「乾パ―――イ!!」」

 

 ドラゴンクエスト作戦、無事に終了!

 ってことで、アインズさんと打ち上げです! 場所は例によって、『空中庭園(うち)』の個室居酒屋……ではなく、今回は個室の『中華料理屋』!

 チンジャオロースやホイコーロー、ラーメンに餃子に天津飯と、絶品の中華料理を堪能しながらお酒をいただいてお疲れ様会だ!

 

 エビチリと辣子鶏の辛みが冷たいビールをよりおいしくしてくれる! やっぱ中華ってご飯にもお酒にも合うなあ!

 

「いやー……今回は色々と大変でしたね、お芝居もたくさんしなきゃいけなかったし……」

 

「いつも以上に支配者ロールに気を遣わなきゃいけなくて緊張しましたよ……パンドラに演技指導してもらったのが役に立った……」

 

「『アクター』ですもんね、そういうのも得意なのか。本人も最終決戦の時、モモン役ノリノリで楽しそうにやってましたもんね。あっちもあっちで英雄ロール、堂に入ってるなと思ったんですよ」

 

 そんな感じで、今回の作戦はアレが大変だった、これが楽しかった、なんて感じで、支配者ロールはなしにして友達感覚で力を抜いて雑談。これこれ、こういう時間が人には必要なんだよ。

 2人とも『人』じゃないって? 細かいこと気にしなさんな。

 

 じゃあまあ、今回の『ドラゴンクエスト作戦』……その顛末でもお話ししましょうかね。簡単にまとめて。

 

 

 

 あの戦場で『朽棺の竜王』……の姿をしたラスボスを倒した後、戦争はなし崩し的に終わった。

 そもそも戦い自体始まってなかったもんね。結局、悪魔やアンデッド相手の戦いだけで、人間の国家相手の戦いはどこVSどこも発生しなかったわけだし。

 

 それどころか、共通の強大な敵を相手に各国が協力して戦った結果、国家間に……特に、現場で戦った兵士達の間に友情や仲間意識が芽生える事態があっちこっちで起こってて、ここから『じゃあ敵もいなくなったし戦争ね』なんて言い出したら、暴動おこる状況だったし。

 

 各軍の長……帝国の皇帝、聖王国の聖王女、ヘイムダールの女王、エルヘヴンの元老、そして王国のザナック王子が顔を突き合わせて簡単に今後のことについて話してから、そのまま解散した。

 

 今回の件については、やったのは『竜王』だとはいえ、その発端になったのはバルブロだ。それで被害が出てしまったので、王国から帝国と聖王国へは賠償を行うことになった。

 ただし、そこまで重いものになる見込みではない。その理由は……もうちょっと後で話す。

 

 なお、ヘイムダールとエルヘヴンには賠償はなし。被害出てないので。

 

 そうして解散して、各国の軍は自国に戻っていった。

 その際、ここまで一緒に旅をしていた『新たな13英雄(+1)』もここで解散し、それぞれの国へ戻っていった。……一部を除いてね。

 

 じゃあ次は、その13+1人、個人個人の『その後』について説明していこうね。

 

 まずブレインだが、今回の戦いの旅で大きく腕を上げ……ぶっちゃけガゼフより全然強くなっちゃった。武器も『剃刀の刃(レイザーエッジ)』より数段上の刀手に入れたし、正直、ほぼ勝負にならないレベルの差がついた。

 今の彼なら、ガゼフに代わって王国の戦士長とか、その他の要職に就くことも余裕だろう。その強さを知る者達からすれば、引く手あまただろうし。

 しかし、それらの誘いを全て蹴って、まだ気ままなフリーランスでやっていくようだ。そういうの、性に合わないからってさ。

 

 イビルアイは『蒼の薔薇』に復帰した。

 彼女が吸血鬼であることは、既に多くの人が知る所となった。しかし同時に、この世界を守るために戦った英雄であることも知られ、さらにその悲劇的な生い立ちから同情も集まり、彼女を責める声はほぼなくなった。

 組合からも危険度はほぼ0だと判断され、アダマンタイト級冒険者として復帰。今は、仮面で顔を隠すこと自体しなくなり、元通りラキュース達と一緒に楽しくやっている。

 

 ネイアは聖王国に戻り、大きく成長させたその実力を認められ、正式に聖騎士として採用されたらしい。ただし、剣じゃなくて弓で戦うことの方が多いそうだが。

 けど、『聖騎士』としての実務の経験はまだまだ足りていないので、しばらくは父親か、レメディオスに付き人としてついていろいろ勉強していくそうだ。

 けど彼女なら、そう遠くない未来、その2人にも並び立てるくらいの実力者になるだろう。

 

 同じく聖王国に戻ったカルウィンは、元々冒険者なので、元の立場に戻って気ままにやっているらしいが……変わったこともいくつかあった。

 大きなところで言えば、彼の階級がアダマンタイトになったこと。まあ、『13英雄』の1人として名を知られるようになった上に、聖王女やその側近である姉妹からの覚えもめでたいとなればね……『パワードスーツ』着用時には、それどころじゃないほど強くなるし。

 それともう1つ。もともと南部を拠点にしてたカルウィンだが……最近、拠点を北部に、それも首都ホバンス周辺に移したそうだ。……なんでだろうね?

 

 ザリュースは『エルヘヴン共栄圏』内部、蜥蜴人達の集落に戻った。

 元々リザードマン達の中でも勇者として知られていたザリュースだけど、さらに逞しくなって戻ってきたことで、皆、彼を憧れの存在として見るようになったそう。リザードマンは強さが重要な評価要素だからね。

 ただ、彼既婚者だし、雌にもてたところでお嫁さん一筋なので何ひとつ興味示さないらしいけどね……なるほど、ハーレム要らない派か。

 

 レイナースは帝国に戻ったが……それは一時的なものになるかも。

 彼女、後任の人への引継ぎを済ませたら、『四騎士』をやめて私(命の女神)に仕えたいって言ってるんだよね。呪いを解いてくれたお礼に、自分自身の全てを捧げたいって。

 そんな重く受け止めんでも、ってちょっと引いちゃったんだが……彼女にとってはそれだけの価値があるというか、呪いが人生を台無しにしていたって思いがそれだけ大きかったんだろうな。

 これに関しては……ちょっと返事保留中。受け入れるかもしれんけど、別案出すかもしれない。

 

 そしてクライムは、ラナーと共に王国に戻り、ラナー付きの兵士として復帰した。ガゼフに匹敵するかそれ以上の武を身に着けて帰還した彼を、もう陰口をたたいてバカにできる者はいない。

 そしてラナーは、『命の女神の使徒』かつ『一度死んで堕天使に転生』というとんでもない設定を引っ提げての帰還となったため、お城の中がそれはもう大騒ぎになった。王様がかすんで見えるほどの権威がその身には宿ってるわけだからね。

 

 当然と言えばいいか、その圧倒的なネームバリューゆえに、『バルブロが死んで王座が空位の今、ラナー王女を即位させるべきだ』という声も上がったんだが……ラナーは自らこれを辞退。

 自分は人間ではなくなってしまった。人間の国家を治めるのなら、王は人間であった方がいい。そう主張し……当初の見込み通り、ザナックが王位を継ぐことになった。

 

 ただ、ラナーはザナックからの申し出を受けて、『大公』として王国には残り、国を見守っていく立場に落ち着いた。そしてクライムは、その傍らで一生彼女を支えていくことを誓った。

 遠くない未来、彼も人間であることを捨てて、使徒を守る騎士として生き続けるだろう。

 

 …………さて。

 この作戦の裏側を知らない、純粋に世界のために戦ったと思っている範囲の『英雄』達については……こんなところだな。

 

 ここからは……裏の事情もきちんと交えて解説していきますか。

 

 

 

 そもそもこの『ドラゴンクエスト作戦』の目的は何だったのか。

 単純に、クライムを英雄に仕立て上げ、ラナーを皆が納得する形で異形種に転生させ、2人がこの先ずっと生きていくことを誰にも文句を言わせずに認めさせること……なわけがない。もっと色々、狙ってやってることがある。

 

 まず1つ目。大陸にあるいくつもの国家をまとめ上げ、同じ方向を向かせること。

 

 今回、放っておいたら大陸全ての国が滅びたかもしれない危機を演出し、それを『新たなる13英雄』が、それぞれの国々の協力を得て乗り越えたという、大衆受けする『英雄譚』を用意した。しかもその物語は、戦場でそれらを見て来た兵士達によって、それぞれの国に広く伝えられる。

 民衆は大盛り上がりすると同時に、国と国が協力関係になるのが一気に容易になる。同じ困難を乗り越えた仲間意識が、多少なり芽生えるだろうからだ。

 

 既に王国と聖王国は使者のやり取りを進めて国交を急速に強化してるし、これまでほとんど交流のなかった、エルヘヴン共栄圏やヘイムダール王国とも同じように進んで行っている。さらにその2国を介して、竜王国や都市国家連合とも国交を開きつつある。

 

 が、ここにちょっとばかり乗り遅れつつある国家が1つ。

 いわずもがな、帝国である。

 

 多くの国がまとまって強大な国家連合体を築き上げつつある今、帝国は、元々掲げていた『何年もかけて王国の生産力弱らせて最終的に吸収しようぜプラン』を実行することが、事実上不可能になった。

 これからラナーの指揮のもと、王国は国力を回復させていくだろうし、仮に食糧不足に陥ったとしても、同盟関係にある(これからなる)国々が支えるだろうから。

 

 そもそも、今の状態で王国に宣戦布告なんてできるはずもないし。

 同盟国家が反発するだろうことに加え、『共に世界の危機を乗り越えた『隣人』達に何しようとしてるんだ! 空気読め!』って民意による反発すら食らうだろうからだ。

 

 こうなっては帝国も、王国の併呑はあきらめざるを得ない。

 そしてそうなると、自分達だけ置いて行かれないために、その共同体に帝国も加わらざるを得ない。これまでの王国との確執その他は解消するか、少なくとも一旦棚に上げて、きちんと仲良くする必要があるわけだ。

 

 何せその共同体には、国家が結集することによる強大な力に加えて……アインズさんという『死の神』と、未だ表舞台には姿を見せないもう一柱の神……私こと『命の女神』も存在することが確実なんだから。

 カッツェ平野で見せたけた違いの力を見れば、アインズさんが単体で国家すら容易く滅ぼしうる存在だってことは馬鹿でも分かる。敵対する選択肢なんてないだろう。

 

 それに帝国は、ナザリックにワーカー達を派遣した負い目もあるからね。

 レイナース経由で『バレてるからな』って静かに脅しも伝えておいたし……今後の付き合い方、存分に悩んで頭と胃を痛めてもらおうじゃないの。

 

 ……しかし、その帝国よりも立場がヤバい国が存在する。

 そう……法国である。周辺国家の中で、唯一今回の戦争……どころか、この英雄譚に欠片も関わることができなかった、絶賛仲間はずれで置いてかれている国。

 

 ちょっと話が前後するんだけど……『新たな13英雄(+1)』の出身国及び、戦いの後に戻った先の国について。

 

 既に説明した通り、クライム、ラナー、ブレイン、イビルアイは、王国に戻った。

 その中でも、ラナーとクライムは、王族とその騎士として、明確に王国そのものに寄り添って今後立場を持つことが確実なわけだ。それを考えると、『新たな英雄』や『神の使徒』の立場から発生する権威の恩恵を特に強く受けることができる国家となるだろう。

 

 ネイアとカルウィンは聖王国に戻った。

 ネイアは聖騎士として国を守るために戦うことになる。カルウィンは冒険者だけど、ケラルト達との仲のよさは周知だ。事実上、国の味方ってことになるだろう。

 

 ザリュースはエルヘヴン共栄圏に戻った。

 

 エオンとアルシェ、アンティリーネとクレマンティーヌは、ヘイムダール王国に戻った。

 実際には、アンティリーネとクレマンティーヌはそこから『空中庭園』に戻るけど。

 

 ヴィヴィアンは冒険者として竜王国に戻った。

 

 ノアはアレフガルド都市国家連合……の中の、ラダトーム王国に戻った。

 ただし、今後聖王国と国交を結んでいく中で幾度も往復し、最終的には聖王女カルカに婿入りする予定である。

 

 レイナースは帝国に戻ったけど……いつまでいるかはわからない。辞職する意向+再就職先として空中庭園(うち)を希望してるから。

 

 こんな感じで各国にばらけたわけだが……おわかりいただけただろうか?

『新たな13英雄』……法国にだけ、誰も帰っていないことに。

 

 法国出身者というのであれば、クレマンティーヌとアンティリーネがいるけど、2人とも帰ってこず……というかそもそも、どっちも出奔して来てるんだから当たり前だが。

 

 クレマンティーヌは『秘宝』である『額冠』を盗み出したことで反逆者扱いされて追われてる身だし、アンティリーネは存在自体が秘中の秘だったのに加え、竜王を刺激するのを恐れて半ば見捨てられて、というか見殺しにされてる状況だ。

 どっちも、法国を、人類を守るという信条上仕方のなかったことなんだろうけど。

 

 しかしそんな『捨てた2人』が、なんか知らないうちに大陸を救った『英雄』としてその存在を広く知られてしまった。法国以外からの人気はとんでもないレベル。

 

 法国の驚きはいかばかりだっただろうね。

 そしてしかし、自国には帰って来てくれない。戦争が終わった後、どっか行ってしまい、コンタクトもとれない。

 

 この時点で法国、ただでさえ『英雄譚』そのものに加われなかったのに加えて、『英雄』を介して国同士の絆を深めることもできず、また『英雄』が所属する国という誉も手にできず、すさまじい勢いで国際社会で仲間はずれ食らってる現状が『気づいたら』出来上がっていたことになる。

 しかも、誰も別に悪意を持ってそれをしたとかじゃなく、ホントにいつの間にかそうなってたんだ。カッツェ平野への参戦を含め、自国の『英雄』がいないというだけの理由で。

 

 さらにはそのせいで、推定『ぷれいやー』と思しき2柱の『神』との接点も作り出すことができないと来ている。踏んだり蹴ったりで大慌てだろうね、今頃。

 

 なお、そういう意味では帝国も要注意だ。レイナースはいずれ出奔して『命の女神』の元へはせ参じ、その生涯をささげて使徒となる意思を示している。

 つまり私のところに来て、結婚してかわいい赤ちゃんを見せてくれるということだ(暴論)。

 

 まあそういうことで、いずれ帝国においても所属する『英雄』は0人になってしまう。だからそれまでに、他の国との繋がりを少しでも強固なものにしておく必要がある。今頃、帝国上層部はてんてこ舞いだろうね。

 

 ちなみに、アルシェが元貴族家の生まれだってことに気づいて、どうにか連れ戻せないかって話にもなったらしいんだが、そのタイミングでアルシェがうちのエオン……ヘイムダール王国の大公の婚約者だってことも発表したので、一瞬でその望みも粉々になりました。

 そんな、ファーストレディ予定の人を連れ戻すなんてことできるわけないもんね。

 

 まあ帝国はともかくとして、仲間はずれ感がはなはだしい法国は、今後大変だろうなって話。

『やだ、うちの国全然流行に乗れてない……?』って危機感に加えて……ここからナザリックがシャルティアの件の責任を取らせるために色々やっていくのでね……こうご期待。

 

 

 次、ラナーとクライムについて。

 

 もう何度も言っている通り、ラナーは今後、ナザリックに所属し、世界征服のための政治面での戦力として手腕を振るっていく予定だ。アルベドやデミウルゴスすら認めたその頭脳で。

 

 そんな彼女の望みは、『クライムと一緒に人間をやめて永遠を生きること』。

 

 これをより正確に、細かく読み解くと、『人間をやめて寿命を取っ払う』のに加えて、『クライムがラナーを主人として忠誠を誓っている』という状態を維持し続ける、ということになる。

 あの子、子犬のような目で自分を見続けてくれるクライム君が好きなので。首輪をつけて永遠に部屋の中で飼いたい、って思ってるそうなので。

 

 アインズさんは『えぇ……』って感じで引いてたけど、私としては、まあ、1つの愛の形かなと思う程度だ。……そういう感じの欲求というか、愛する人を閉じ込めておきたい、永遠に手元に置いておきたい、って思うような人なら、400年間で何度も見たことある。珍しいけど、前代未聞ってほどではないのよ。

 まあその場合、相手がその思いに応えてくれない限りは、ただの危険思想なストーカー的なのになっちゃうから、難しい所なんだけどね。

 

 さて、クライムをラナーにとっての『子犬』でいさせ続けるためには、彼がラナーに対して抱いている淡い思いを肯定しつつ、同時に、ラナーが主君で、クライムはそれに仕える立場、という関係についても維持しないといけない。

 アルシェとエオン、ケラルトとカルウィンみたいに、対等な感じではダメなのだ。いや、絶対にダメってことはないんだろうけど、ラナーの望む『子犬を飼う』的な状態からは微妙に外れる。

 表向きの関係性はそれでもいいけど、心の奥底では、どこまでも自分に従順で忠誠を近い、変わらぬ子犬の目で見続けてくれている、というのが望ましい。

 

 極端な話、何かがあって王国が滅んで、クライムも死んで……しかしラナーがナザリックに忠誠を誓い、その対価としてクライムをよみがえらせたとする。

 その時に、ラナーが『私1人でいるのは寂しいから、一緒に人間をやめて永遠を生きてほしい』ってクライムに頼めば……喜んでクライムは一緒に人間をやめるだろう。

 ラナーに対する負い目から、忠誠心はそのままだし、恋心その他の思いも、表に出すこともできないまま胸に秘め続けるので、弱弱しい、ラナーだけを見つめる『子犬』の目のまま飼える。

 

 ただし……目そのものは、失意と絶望と自己嫌悪で取り返しのつかないレベルで濁るだろうけど……彼女にとって重要な部分は維持できているので、それでも全然アリな可能性は高いな。

 

 ただ、そんな痛々しい感じで叶えるのもどうかと思うので、今回のシナリオでは……ラナーを私という『神』の使徒として堕天使にしつつ、『英雄』となったクライムとくっつける形にした。

 

 以前のやり取りで、クライムは、ラナーの祈りを聞き届ける形で、言ってみればおまけで蘇生してあげた、ということにして彼に伝えてある。あの子がまたしても君を救ってくれたんだよ、と。

 

 そんなことを聞かされたら、クライムからラナーへの尊敬と感謝はより強固なものになる。

 

『13英雄』の1人ではあれど、1人の、一介の騎士でしかないクライムと、『神の使徒』であるラナーとの立場の差は、今でさえ大きい。2人の間で心が通じ合っているとしても。

 ここで、『立場なんて関係ない、俺はラナーが好きだ!』って突っ走れる系の男なら、対等な恋人になろうとするパターンもありそうだが……クライムはそういうタイプじゃないしね。

 

 今後数十年の間に、クライムは人間をやめて……いや正確にはもうとっくに改造されて異形種の肉体になってるんだけどね? それで、ラナーと共に永遠を生きる覚悟をするだろう。

 それに際して、ザナック王から地位を貰って、大公であるラナーと結婚し、その形で添い遂げる道へ進む……かもしれない。

 国中どころか大陸中が2人がくっつくのを認め、祝福するだろう。『神の使徒』である天使と、英雄であり忠臣である騎士のロマンスを。

 

 けどそうなったとしても、表向きはラナーと夫婦になり、色々できる間柄になったとしても……『神の使徒』と『その騎士』という関係性はもう決して崩せない。

 その関係を、『その関係で』認められるからこそ、もうそこから先へは動かせなくなるし、クライムにそのつもりがなくなってしまう。

 彼がラナーに向ける目は、主君への忠誠心を秘めた、飼い主に見捨ててほしくない『子犬』の目であり続ける。永遠に。

 

 永遠の『子犬』完成。ラナーの望み、コンプリート……ってわけだ。

 

 そうなった以上は、そう仕向けた以上は……きちんと最後まで責任もって飼いなさいよ。

 

 

 

 そして最後。

 この『ドラゴンクエスト作戦』における、最も大きな目的。それは……

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

「……やられたな」

 

 アーグランド評議国、某所。

『永久評議員』の一角にして、『白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)』の名を持つ、最強の竜王……ツァインドルクス・ヴァイシオンは、つい最近伝え聞いた、南方で起きた一大事に……ため息をついた。

 彼が人間だったなら、こめかみを押さえて揉んでいたかもしれない。そのくらいの心労が、突如として彼を襲っていた。

 

「新たにやってきた『ぷれいやー』か……それらしき影が見え隠れしていたから警戒してはいたが……まさか、こんな形で手を打ってくるとは思わなかった」

 

 ここ最近、民達の間で急速に語られ、広まりつつある『英雄譚』がある。しかもそれは、単なるおとぎ話などではなく……つい最近、実際にあったこと。

 多くの民達(王国の徴兵兵士達)や兵士達が、そして権力者たちまでもがそれを目にしており……その全員が証人。でたらめであるということはありえない。

 

 それでいて、その英雄的(ヒロイック)な物語は、友情・努力・勝利の3拍子揃った、万民受けする内容で……人から人への噂に加えて、吟遊詩人などが各地で物語を歌い歩いているために、最早、王国周辺の人類国家で知らない者はほとんどいないとまで言える広がりようだ。

 

 悪魔の力に魅入られた、1人の悪しき王。

 その魔の手を逃れ、仲間達と諸国を旅をして強くなった勇者。

 勇者の手によって救い出された姫。

 そして最後には、仲間達と力を合わせて戦い……魔に堕ちた王と、それをそそのかした魔王、そしてそれらよりも恐ろしい、邪悪な竜を倒し……世界は平和を取り戻した。

 

 ツアーが問題視しているのは、その最後の戦いの相手である……邪悪な竜のことだ。

 なんと、『朽棺の竜王(エルダーコフィン・ドラゴンロード)』と名乗ったというではないか。言うまでもなく、顔見知りの『竜王』である。

 ここ百年ほど、姿を見ず、その噂を聞くこともなかったのだが……

 

 その『朽棺の竜王』が、英雄譚の最後に勇者たちによって倒された、と聞いたツアーが思ったことは、単純なことだった。

 『ありえない』だ。

 

(『英雄』と呼ばれる力を持った、という人間程度に、キュアイーリムが負けることはありえない。彼なら、魔法1つで人間の国家程度、一瞬で滅ぼしてしまえる。明らかに偽物だ………………と、思うけれど……)

 

 英雄譚の最終版で、地獄の門が開いて『朽棺の竜王』が現れた、と語られているが……それとておかしな話だ。『竜王』とはいえ1個の生命体。そのような、物語に出てくる悪魔のような生態を持っているわけではない。普段そんな、地獄などに住んでいるわけではない。

 もっともこれに関しては、『朽棺の竜王』は過去に滅ぼされてしまった存在であり、悪魔がそれをよみがえらせて呼び寄せたのだという解釈になっているようだが。

 

 そこに関してだけは、ツアーは『ありうる』とも思っていた。ここ最近噂を聞かなかったのは、既に何者かによってキュアイーリムが滅ぼされていたから。そして今回、それを蘇生して利用したか、あるいは偽物を作り出して名前だけ利用したか、のどちらかだろうと。

 万が一前者であれば……キュアイーリムが『竜王』にあるまじき弱さだったのは、死んでいた状態から蘇生されたから、大幅に力を落としていたのだ、という解釈も……できなくはない。

 

(『英雄譚』で語られている内容からして、実際にキュアイーリムが言いそうなことを並べ立てているのが気になる……もしかすると、これを仕組んだ黒幕は、過去にキュアイーリムと会ったことがある……ともすると、滅ぼした張本人かもしれない。だとすると……危険だ)

 

 英雄譚の中で名前が出てくる、2柱の新たな神。『死の神』と『命の女神』。

 ツアーはこの2つのどちらか、あるいは両方が『ぷれいやー』であり、今回の一連の騒動を裏から手引きした黒幕だと見ていた。

 そうなるとその行動力や戦闘能力、技術力などは……決して軽視できないものだ。500年前、多くの『竜王』が殺された『八欲王』の時と同じかそれ以上の危険度であると見ていい。

 

 そして、それとは別に……今の状況そのものについて、まずいことが1つある。

 

 

 それは……この『英雄譚』を通して、『竜王』がこの世界の人類にとっての、凶悪で傲慢な、潜在的な『敵』である、という認識を広められ、植え付けられてしまったこと。

 各国の姿勢が市民レベルで『親・神』『反・竜王』で統一されつつあることだ。

 

 

 今回、クライムとラナーを主人公とした、万民受けする『英雄譚』を作り上げ、彼らの功績が、民達にも広く語られるような形となったわけだが……その、いわゆる『ラスボス』として、『朽棺の竜王』を据えたことで、彼ら『竜王』の姿勢についても広く喧伝された。

 自分達以外をゴミ同然に見下し、必要があってもなくても、その気まぐれ1つで命も、尊厳も、一切の躊躇なく奪ってくるような、傲慢と暴虐の化身であると。

 

 人間や亜人は虫けらとしか思ってないだの、弱い奴はいくらでも踏みにじっていいだの、竜以外は全て劣等な生命体だのと……そういう発言がわんさかまき散らされたという。

 そんな物言いをすれば、当然、民から、いや人類からは反感を買う。

 

(実際にキュアイーリムが言いそうなことな上、他のだいたいの『竜王』にそう問いかけても『それがどうした』とか返って来そうなあたりがなんとも……ああ、頭が痛い)

 

 先程も言ったように、『朽棺の竜王』は偽物だった可能性が高い。が、言っていたことは限りなく本物と同じ思考で……さらに、他の竜王も、程度の差はあれど同じように思っている者が多い。

 仮に今後、他の竜王が人類にかかわることがあっても、むしろこの『竜王=人間をゴミと思っている』説を後押ししてしまいかねない。彼らの頭の中には、人間を始めとした弱小な種族に配慮する発想など、ない。

 

 さらにツアーの頭を悩ませているのは、『新たな13英雄』の1人として名を知られている吸血鬼の少女……イビルアイこと、キーノ・ファスリス・インベルンのことだ。

 

 彼女とは、『魔神戦争』のころからの旧知であり、彼女なら、『竜王』全てがそういう……人間をゴミとしか見ていないような価値観ではない、ということをわかってくれているだろう。

 

 しかし同時に、彼女の故郷を滅ぼしたのが『朽棺の竜王』であるという点……これがまずい。

 かつてイビルアイから聞いた、彼女の祖国が滅んだ当時の状況から察するに……キュアイーリムがそれをやったのは恐らく事実だからだ。恐らく、ちょうどよく大量の『魂』を刈り取れそうな餌場があったから、奪ったのだろう。イビルアイを含む、そこに暮らす者達のことなど、考えずに。

 

 そしてツアーは、そのことをずっと前から知っていた。イビルアイに聞いて、『やったのはあいつだ』と予想できていた。

 しかし、その真実を話したところで別に得はないし、言っても彼女の家族が、国が戻ってくるわけでもないのだから、言う意味もないだろう、と。

 そこに……同じ『竜王』である自分に対する反感がわずかでも生まれるのは不都合であり、今の『都合のいい』関係を壊したくないという思いがあったことを……否定はできない。

 

(このことがキーノに気づかれれば、彼女は私を……憎みはしないだろうが、よくは思わないだろうな。知っていて話さなかったのだから、それは仕方ないが……タイミングがまずい。大陸全体が『反・竜王』に傾きつつあるこの状況で、人間ではないとはいえ、外部の協力者が減るのは……)

 

 イビルアイやリグリット、アズスといった、外の世界に生きる者達で、ツアーと親交のある者達は貴重だ。外の世界で起こっていることに関する情報を聞き集めたり、他にも色々と頼み事をすることもある。自分はここを離れられないから。

 

 この大事な時に、そのための手が減るのは……痛い。

 

 ツアーの予想では、この『英雄譚』による、人々の認識改変の策略は……まだ終わっていない。ここからさらに何か仕掛けてくる可能性が高いと見ている。

 それが、自分達竜王に対して何かするのか、それとも別な方向にまた策略を巡らすのかはわからないが……このまま座して見ているのは、確実にまずい。

 

(民や国家を扇動して、私達と戦わせようとしているわけではないだろう。キュアイーリムの強さを知っているなら、『竜王』相手に人間の国家程度では戦いにもならないことはわかるはず……だがだとしたら何をする気なのか……調べたいが、そのために動くことすら今の状況では一定のリスクがある……。少なくともキーノは頼れない。彼女と仲がいいリグリットも避けた方がいいか? だがそうなると……)

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

「『竜王』との戦争ですか……そうなりますかね?」

 

「なりますよ、十中八九。あいつらほぼ全員、ユグドラシルアレルギーですからね。過去に起きたプレイヤー憎しな事案からくる感情にプラスして……自分達の既得権益を脅かすような存在を放置しておくってことができないんです。世界の理を乱す存在だとかなんとか、適当にそれらしく取り繕って攻めてきます」

 

 百歩譲って、こっちに特に大きな動きがなく、放っておく分には無害だと思われれば放置ないし経過観察になる可能性もなくはないけど……アインズさん、というかナザリックは世界征服に向けて動くつもりだからね。どうやったっていつかは目をつけられる。

 

「今回の『ドラゴンクエスト作戦』で、我々2人……すなわち、プレイヤーと思しき『神』2柱と、その使徒と思しき者達の存在が大陸に広く喧伝されました。評議国の『白金』とかいうのを含めた『竜王』達の耳にも、確実に入っているはずですね」

 

「加えて、うちの神人であるリーネの生存も知れ渡りました。『白金の竜王』が殺したはずだった、『六大神』と『八欲王』の残照の健在が、ね。もっとも、『空中庭園』に引っ込ませましたので、見つけることはできないでしょうが……このまま放置するって選択肢はないでしょう」

 

 ただ、戦いに発展するとしても……すぐにではないだろう。

 

 ユグドラシル関係の全てを嫌ってる『竜王』達だが、同時にその危険さもよく知っている。油断すれば自分達が逆に狩られかねないほどの力を持っている相手だ、ってことを含めて。

 

 遠隔操作の鎧とはいえ、『白金』と渡り合ったアンティリーネの存在もあることだし、余計にね。

 特にその『白金』は、慎重に……情報を集めて、準備をしてから、ことを起こすと思う。

 

 こっちの戦力を調べて、必要に応じて他の竜王とも手を組んで――数は少ないけど大陸各地に生き残ってるようだし――さらに必要なら『竜王』じゃないドラゴンも巻き込んで、可能な限り万全の態勢で攻めてくる、と思う。

 そういう『決戦』レベルになったら……件の『白金』も、鎧じゃなく本体で出てくる可能性が高いだろうな……まあ、望むところだが。

 

 けどまあ、あんまり慎重になられるとこっちとしてはありがたくない。

 時間をかけて仲間を集めるだけならまだいいが、評議国や、その他竜王の影響下にある国や種族なんかを動かして工作を仕掛けてきたりされると面白くない。

 

 あと、どうやらまだ生存しているらしい『七彩の竜王(ブライトネス・ドラゴンロード)』……『竜王国』の建国の竜であるそいつを介して、竜王国に働きかけられるのもよろしくない。

 せっかくドロニアやヴィヴィアンといった、ドラウディロン女王にコネのある面々を介して、『最終決戦』への参戦抜きでもこっち側に傾けて引き込んであるのに。

 

 なので、私達としては……『竜王』との決着は、なるべく早い方がいいんだよ。

 今すぐとかはさすがに無理だろうけど、そうだな……3か月から半年以内だとベストだな。各国の国民達の間で、『英雄譚』に関する熱がまだ残ってる頃合い。

 

 それなら……『竜王=傲慢で邪悪』という認識が広まっている今なら、仮に私達と竜王が全面戦争して、竜王を滅ぼしたところで……私達への反発はゼロ、あるいは最小限になるから。

 

 そのために、いいタイミングでコトを起こすための手段は……既に、ある。

 

「いよいよ、出番というわけですか……ラストさん達が作った『世界樹』の」

 

「出番というか、もう既に準備は進めてるんですけどね……アレの存在が明るみに出たその時が、連中との戦いのゴングが鳴る時です。アレがどんな力を持ったものなのかを連中が知れば……絶対に放置してはおかないはずですから」

 

「でしょうね……。ある意味、500年前の『八欲王』以上に、連中の既得権益をド直球で分捕りに行ってる代物ですから。『世界樹』はその存在自体が、『竜王』に対する宣戦布告になる……それに乗ってくればもちろんよし、乗ってこなければ、それはそれで……連中がいずれ詰む(・・)

 

「挑発としての役割があるのはもちろん否定しませんけど……そもそも、あんなもんは単なる技術革新からなる生活水準の向上ですよ。時代に応じて己をアップデートし続けるってことができない骨董品共が、当たり前のごとく訪れようとしている『世代交代』を認められずにいるだけ」

 

「そういう言い方をすると、数百年前から君臨する『竜王』も、単なる老害に早変わりですね……まあ、まさにその通りなんですが。にしても……『生活水準の向上』か……俺達からしたら、なんとも胸がちくりとするワードですね」

 

「けど、やる気にはなるでしょう? 『あの頃』と違って……私達には今、特権階級連中の妨害を押しのけて、それを通せる力があるんですから」

 

「ええ……そうですね。遠慮するこたぁない……存分にやっちゃいましょう!」

 

 その日の飲み会の最後は、なんか今後の戦いのための壮行会みたいな感じになって終わった。

 

 大きな作戦が終わったばかりではあるが……今回のコレだって、ホントの大一番のための布石に過ぎないんだ。ナザリックと空中庭園の……私達の家族の、明るい未来のためにも、時代錯誤のトカゲ共には、きちんとお黙りいただかないとね……!

 

 

 

 

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