オーバーロード 傾国狐の異世界日記   作:破戒僧

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今回より最終章になります。
といっても、むしろ他の章より早く、あっさり終わるかもしれません。

……まだゲームハマり中なので、更新ペースは相変わらず遅いですが……

では、どうぞ。


最終章 異形種と竜の狂騒曲(ラプソディ)
破滅の竜王Striker’s


 

 

 ここ数か月の間、法国は……とりわけその上層部は、混乱の最中にあった。

 国を揺るがし傾けるレベルの大事件がいくつも同時に、あるいは短い期間の中で起こりすぎ……それらへの対処が追いついていない状態だった。

 

 旧・エルフ王国との和解による戦争の終結。これはまだいい。

 忙しくなったのは事実だが、どちらかと言えばこれは嬉しい悲鳴と言えた。国交正常化に伴い、戦争に投入していたリソースを、別なことに使えるようになったのだから。

 その分、『人類の未来を守る』という、法国の至上命題に注力できるのだから。

 

 しかしその直後から、歯車は少しずつ狂っていく。

 

 国営墓地から持ち去られた、元・漆黒聖典第一席次の亡骸。

 それが変異して誕生したと思われる怪物『憎悪の狂騎士』にかかる一連の事件。

 

『番外席次』ことアンティリーネの存在の露見と失踪。

 それに伴う『世界盟約』への違反に関しては、評議国から責任を追及されることとなった。

 

 それに対処するよりも先に起こった……しかも、法国だけが最初から最後まで蚊帳の外のままに全てが終わってしまった『新・13英雄事件』。

 さらにそこには、失踪したアンティリーネやクレマンティーヌまでもが『英雄』として名を連ねており、国際的な超重要人物となっていると来ている。そして事件後は当然のように姿を消した。

 

 さらにはその一件の中で、『朽棺の竜王(エルダーコフィン・ドラゴンロード)』が倒された。

 この名前は、法国の長い歴史の中でつづられた記録の中にも記載があり、正真正銘、本物の『真なる竜王』だと法国は認識していた。人間の英雄達に倒されるほど弱い存在ではないはず、ということも知っていたため、少し疑わしくはあったが。

 

 とどめに、それらの戦いの中で存在が語られた、『新たな神』についてだ。

『死の神』と『命の女神』。もしそれらが、法国が長い間待ちわびていた、ユグドラシルから来た者達であるのなら、法国に、神都にお迎えして人類の守護者となってもらわねば、と神官長達は息を荒げていた。

 

 差し当たって、最重要事項となるのは……『新たな神』についてだ。

『六大神』によって建国された法国の至上命題は、先ほども言った通り、人類の未来の守護。そのためにも、速やかに新たな神に謁見しなければならない。

 

 幸いにも、謁見のための手掛かりはあった。

『新13英雄』の英雄譚の中で……英雄達は、『死の神』と『命の女神』それぞれに謁見している。その前後の描写と、最終決戦付近の描写を見るに……『死の神』は、『エルヘヴン共栄圏』の盟主であり、『命の女神』は、ヘイムダール王国の女王とつながりがある。

 

 このうち、残念ながら、『命の女神』への謁見はかなわなかった。

 今や同盟国となっているヘイムダール王国の方に働きかけ、謁見を願い出たものの……女王からは断りの連絡があった。

 ただそれは、単に無下に断られたというわけではなく、

 

『『命の女神』……ラスト様は、簡単に会える方ではないのです。ラスト様はある理由から、居城である庭園から離れることができず、そこにはいたずらに人を招くこともできません。13人の英雄達の際は、ラスト様の方から『見定めた後に、資格ありと判断したのなら連れてくるように』との仰せがあったからこその特例なのです』

 

 そう、神の使徒であることが明らかになったユリーシャから諭され、断られてしまった。

 なおその際、行方不明だったアンティリーネとクレマンティーヌがヘイムダール王国におり、しかも2人とも『神の使徒』になっているという驚愕の事実が判明。

『なぜこの2人が!? 英雄にもなってるし……』『資格があったから、としか』そんなやり取りを交わした後……使徒である2人を罪人として連行するわけにもいかず、使節団はうなだれながら国に戻ることとなった。

 

 しかし、幸いと言っていいのか、もう一方……『死の神』に関しては……

 

 

 ☆☆☆

 

 

【異世界転移400年目 〇日目】

 

 今日、ナザリック地下大墳墓において、『スレイン法国』から来た使節団の方々の、アインズさんへの謁見が執り行われた。

『新13英雄』の中で、ガッツリ神様として登場してたからね……私もアインズさんも。そら、法国からコンタクトがあるだろうなとは思ってた。

 

 このうち、ヘイムダールを通して要請のあった私への謁見に関しては、適当に理由をつけて却下した。

 色々と理由があるのに加えて……基本的に、対外的な窓口は、アインズさんとこのナザリックが担当することになってるから。

 空中庭園(うち)はあくまで、世界ないし歴史の裏に隠れて色々アレコレやっていく的な立場を続けるつもりだから。必要に応じて表に出る時以外はね。

 

 そういうわけで、アインズさんが法国の使節団の謁見を受けたわけだ。

 

 なおその際、謁見は玉座の間で行いつつ、守護者ほぼ全員でお出迎えしたわけだが……シャルティアだけは不参加となった。

 理由はもちろん、彼女が『漆黒聖典』と戦っているから。

 

 謁見とはいえ、護衛は連れてくるだろうし……となれば十中八九、最強部隊の漆黒聖典が来るだろう。そこで、『貴様はあの時の吸血鬼!?』とか言われたら話がややこしくなる。

 なので、シャルティアと……念のため、あの時現場にいたセバスとソリュシャンも不参加。2人は目撃はされてないはずだけど、念のためね。

 

 そんな感じで謁見は行われた。

 なお、私達『空中庭園』勢は、別室からリモートで謁見の様子を配信してもらって見てました。シャルティア達も一緒にそこで。

 

 流れとしては、まずアインズさんが『ユグドラシル』から来た存在であることの確認。

 この時、私ことラストについても、そのくらいの情報は渡す。同じくユグドラシルから来た盟友で、しかし故あって表舞台にはほぼ出てこない、場所も明かせない、と。

 

 次に、ナザリックの活動方針。

 最初にアインズさんが、法国で伝えられている『闇の神』ないし『死の神』である『スルシャーナ』とかいうのとは別人だってことを明言した上で、人類の守護者になるつもりはない、と。

 

 ただし、人類の敵になろうというわけでもなく、ただ単に種族も何も問わず、全てに対して平等に接するつもりだ、ということを説明した。

 ナザリックの傘下に加わるのなら庇護するが、それは人間に限らない。既に『エルヘヴン共栄圏』があることからも分かる通り、亜人や、場合によってはモンスターであってもそこに加わり得る。

 

 法国についても、人間国家だからと言ってそこから除外するつもりはないし、『忠誠を誓う』とか『配下に加わる』でなくても、単純に同盟を結ぶでも構わない。

 法国は『六大神』を信仰していることや、亜人に対してあまり好意的に接することができない国是を持っている(だいぶマイルドな表現)ことも、理解している。それでも、敵対さえしなければこちらも無下に扱うつもりはない、と述べた。

 

 法国からすると、『人類の守護者になってほしい』っていう願いが早々にダメになってしまったのはショックだっただろうけど、敵対するわけではないし、むしろ今後友好的に付き合っていける余地は多分に残されている。

 国内に広まっている『人間至上主義』がちょっと問題と言えば問題だけど、それでも敵対さえしなければ、神の力がこちらに向くことはない。なので、ひとまずはよしとしよう……という感じで納得したようだった。

 

 もちろん、そういうことを直接言ってたわけじゃない。

 法国の使節団は――今更だけど、神官長クラスの人が直接、複数来てた――終始アインズさんに対してへりくだる物腰だったし、言葉遣いも丁寧だった。きちんとした教育を受けてる、礼儀作法をわかってる人の態度だった。

 ……なんだったら、『ドラゴンクエスト作戦』の時に謁見したラナーと同等かそれ以上の完璧さだったし……教養はもちろん、『神』を敬う信心深さも本物なんだなって思ったわ。

 

 アインズさんが神のように、あ、違うか、神そのものとして敬われている様子に、アルベドを始めとしたしもべ達も満足そうだった。

 ……多分あの場で一番緊張して恐縮してたの、アインズさん。

 

 最終的に、『国ごとの方針もあるだろうからすぐには無理だが、いずれいい関係を築いていきたいものだ』って言う感じで、よく言えばきちんと発展の余地を残した、悪く言えばなあなあで具体的な成果はない形で、謁見は終わった。

 

 今後、法国は時間をかけてナザリックとアインズさんからの信頼を勝ち取っていき、ゆくゆくは同盟者として、『竜王』を含む人類の脅威に共に立ち向かうことができる関係を目指していくことだろう。

 亜人も同盟者になってしまうことについては、極論『人類の脅威』にならなければ問題はないわけだし。そのあたりはゆっくり意識改革とか進めていくつもりなのかもね。

 

 ともあれ、謁見は総じて十分『無事に』終わったと言っていい。

 今後、まかり間違ってナザリックや私達と敵対するようなことがなければ大丈夫だろう。ゆっくりでも、信頼関係は築いていけるはず。法国にも、悪い未来は待っていないはずだ。

 

 

 

 …………そう。

『敵対』さえしなければ……ね。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 それからしばらく後。

 その日、何の前触れもなく飛び込んできたあるニュースに、法国首脳部に衝撃が走った。

 

 

「『破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)』が出現しただと!? 確かなのかそれは!?」

 

「は、はい……それらしき存在が確認されております! 歴史上未確認の『竜』である上に、現在起きている騒乱の規模からしても、限りなくその可能性は高いと現場からは……」

 

「騒乱だと!? それらしい報告は何も上がって来てはいないが……一体どこで何が起きているというんだ!?」

 

「それが……その場所が、以前あった『予言』とは大きくちがいまして……その……」

 

 

 

「『騒乱』が起こっているのは、竜王国。ただ、『破滅の竜王』らしき存在が現れたのは……そのさらに先、『ビーストマン国』なのです」

 

 

 

 最高決定会議の場で詳しく説明され、神官長達に共有されたところによると……全容は大まかにこういうことらしい。

 

 現在、竜王国で、これまでで最大級の規模の侵攻が起こっており、しかもビーストマンだけでなく、他の様々な魔物達までそこに混ざって、スタンピードとなっている。

 

 これに対し、竜王国政府はドラウディロン女王の名のもと、非常事態宣言を発令。

 国境付近に住んでいる国民を内側に退避させ、入れ替わる形で国軍を含めた防衛戦力を国境に集中配置し、その対応に当たっている。

 

 ただ、さぞ壮絶かつ絶望的な防衛戦が繰り広げられているのだろうと思われたのだが……意外にもそこまでではないらしい。

 というのも、不幸中の幸いというべきか、この規模の侵攻に対応できるだけの戦力が、タイミングよく竜王国内に揃っていたのだ。特に、冒険者から成る戦力が。

 

 普段から防衛戦において大戦果を挙げ続けているアダマンタイト級冒険者チーム『モンスターズ』『ワンフォーオール』『クリスタルティア』。

 ここにさらに、活動が不定期でいつも竜王国にいるわけではない『ロトの紋章』も、運よく国内にいるタイミングだった。

 

 さらに、ドラウディロン女王の旧友であり、『モンスターズ』のメンバーの1人でもあるドロニアの仲介により、遠方からさらなる戦力を呼び寄せることもできた。

 呼び寄せた面々がちょうど暇してたからというのも理由として大きいらしいが。

 

 リ・エスティーゼ王国のアダマンタイト級チーム『白の猟団』。

 バハルス帝国のアダマンタイト級チーム『深夜廻』。

 同じく帝国の辣腕ワーカーチーム『コラプサー』。

 ローブル聖王国のアダマンタイト級チーム『星空の守り人』。

 

 そして、同盟関係にある『ヘイムダール王国』には、ドラウディロン女王の方から救援要請を出したのに加えて、そこにもドロニアが口添えしたことで、『モンスターズ』の元メンバーであるマズルカに加え、エオン、さらにアンティリーネという大戦力も派遣されることが決定。

 

 蓋を開けてみれば、アダマンタイト級チームが7つに、それに匹敵するワーカーチームが1つ。

 さらにそれを超えるレベルの個人の大戦力という、『なんだこれ』『国でも滅ぼすの?』とか言われそうな戦力が揃ったことにより……絶望的と思われていた戦いは、一転して竜王国始まって以来の大フィーバータイムに発展。

 今のところ、攻めて来たビーストマン達や亜人達に、1歩たりとも竜王国の地を踏ませることなく撃滅に成功している。そして、この先もまだまだそれにほころびが出る気配はないと来ている。

 

 

 

 このようなことになっているため、竜王国についてはひとまず全く問題はなさそうな現状であるが……法国が注目したのは、後に『百獣夜行』と呼ばれることになるこの大侵攻の原因だった。

 

 まるでビーストマンやその他の魔物達が逃げるように大移動していたことを不思議に思って調べたところ……大本であるビーストマンの国は、ほぼ壊滅状態となっていることが判明した。

 そしてその中心にいたのは……法国国内のどんな記録にも残っていない、未知の『竜』だった。

 

 青白く光る甲殻を持ち、寸胴な蛇のような姿形ながら、神秘性や神々しさを備えた外見。

 そして、周囲一帯にすさまじい暴風をひきおこして全てをなぎ倒し破壊するほどの力。

 その力の規模は、明らかに『竜王』のレベルだと判断された。『始原の魔法(ワイルドマジック)』を使っているかどうかは不明だったため、今のところ『真なる竜王』には指定されていないが。

 

 大侵攻は、この竜の大暴れで破壊された国やナワバリに住んでいた亜人達の襲撃だったのである。

 

 推定『破滅の竜王』の出現という一大事に、一時は大パニックになりかけた法国だが、同時にこれをまたとない好機であると判断した。

 というのも、タイミングのいいことに……つい最近、『ケイ・セケ・コゥク』を使える新たな資格者を見つけ出したところだったのだ。

 

 その力を見出されたのは、法国の中でもかなりの辺境……言ってしまえば田舎にある、小さな修道院に勤める、年若いシスターだった。

 このシスターは特別な生まれながらの異能(タレント)を持っており、それが『故人の遺品を身に着けることで、その元の持ち主の異能を使えるようになる』というものだった。

 

『ケイ・セケ・コゥク』の前の使用者であるカイレがそれを使えた理由は定かではないが、一説には、その異能によるものだと言われている。

 ならばと、そのシスターにカイレの遺品である耳飾りを身に着けさせ、その上で『ケイ・セケ・コゥク』を着せたところ……魅了の力を発揮することができたのだ。

 

 この瞬間、このシスターは、聖王国の『最秘宝』を行使可能な超重要人物となった。

 それ以来、神都に招かれ、教養や儀式作法など、様々な勉強をしている日々だった。

 

 そのシスターに、『漆黒聖典と共に、滅んだ『ビーストマンの国』に赴き、『破滅の竜王』を洗脳せよ』という命令が下った。

 

 彼女は、突然降って湧いた、国家の行く末を左右するレベルの大命に驚き緊張しつつも、その敬虔さと信心深さによってそれを抑え込み、命を承諾。

 数日後、人類最強クラスと言われる法国の切り札たる集団『漆黒聖典』に守られながら、ビーストマンの国を目指して出発した。

 

 

 

 しかし、ビーストマンの国に到着した『漆黒聖典』を待ち受けていたのは、『破滅の竜王』だけではなかった。

 想定外の存在が2つ、時を同じくしてそこに現れたのである。

 

 1つは、白銀の全身鎧に身を包んだ何者かだった。

 しかしこれについては、過去の文献に記載があったことから、評議国にいる『白金の竜王』、その分身であろうことがすぐにわかった。

 その目的が『破滅の竜王』の打倒であろうということも。

 

 それだけならばまだよかった。

 法国から来た一行の目的は、『破滅の竜王』を洗脳して支配下に置き、人類救済のための戦力とすること。それを鑑みれば、『白金の竜王』によって倒されてしまうというのは不都合ではある。

 

 加えて言えば……恐らくは『白金の竜王』の方にも、『法国に戦力を渡したくない』『法国をこれ以上強くしたくない』という思惑はあっただろう。それもあって、おそらく彼は、ここで自分達が『破滅の竜王』を支配下に置くことを認めないだろうと思われた。

 だからといって、『白金の竜王』と敵対することもできない。ここは法国が折れるしかないかと、その場の判断者である隊長は思った。

 

 しかし、もう1つの『想定外』の存在が、飛躍的に話を、そしてこの後の展開をややこしくしてしまった。

 

『白金の竜王』(鎧)が『破滅の竜王』と戦う最中……竜がもう1体現れたのである。『破滅の竜王』とよく似た姿をした、黄色い甲殻を持つ竜が。

 その竜は、『破滅の竜王』と連携して動き、飛び、すさまじい威力の雷を放って攻撃してきた。『破滅の竜王』が操る暴風も相まって、『白金の竜王』(鎧)ですら防戦一方になるほどだった。

 

 それを見ていた『漆黒聖典』の隊員達は、『破滅の竜王』と同格の存在がもう1体、しかもこのタイミングで現れるなど、どんな悪夢だと思ったが……直後、もしやと思い至る。

 

「あの黄色い方の竜、『破滅の竜王』……というか、青い方の竜とよく似てますよね。同種の雌雄みたいにも見えるんですけど……」

 

「俺もそう思う。どう見ても連携して動いてるし……アレ、(ツガイ)なんじゃねえか?」

 

「は、『破滅の竜王』に番が!? いや、というよりも……」

 

「おい、まさか……『破滅の竜王』って、元々2体1組の番の竜だったんじゃ……!?」

 

「あの……私の見間違いかもしれないんですが……黄色い方の竜のお腹、なんか膨らんでませんか? しかも、中に丸い小さな光がいくつもあるように見えるんですが……」

 

「それって、もしかしなくても……卵?」

 

 漆黒聖典の面々の脳内に、恐ろしい想像が次々と浮かんでくる中、『白金の竜王』ことツアーは、2体1組で襲ってくる強大な竜に勝機を見いだせずにいた。

 これがツアーの『本体』であったなら問題なく対処できたかもしれないが、鎧では大きく力が制限されてしまう。

 

 特に、飛行能力が著しく制限されるのは致命的だった。2体の竜は基本的に空を飛んだままで降りて来ず、上空、遠距離から強力な攻撃をこれでもかと打ち込んでくる。

 強度はあれど重量がない『鎧』では暴風に振り回され、『始原の魔法』で自らも飛行しても、空中では余計に暴風の影響を受けて、洗濯機に放り込まれたように滅茶苦茶に振り回される。攻撃も防御も、移動すらままならない。そうしている間に鎧の強度はどんどん削られていく。

 

 一か八か、ツアーは使える『始原の魔法』の中でも最大の破壊力を持つそれを使い、周囲一帯ごと吹き飛ばすつもりで攻撃。戦略兵器の着弾を思わせる大爆発が起こった。

 巻き込まれないために元々離れたところにいた『漆黒聖典』は無事だったが、小さな都市ならまるごと1つ消し飛ばしてしまえそうな威力の一撃に、それを操る最強の竜王の力に戦慄した。

 

 しかし、『鎧』にとっても余力を削るリスクを負った、それだけの一撃を受けても……2体の竜を倒すには至らず。

 爆発の瞬間、青い竜が暴風を纏った状態で黄色い竜をかばい、その身を挺して守ったのだった。

 

 これにより、青い竜は瀕死の重傷を負ったが、黄色い竜は、無傷でこそないが健在だった。

 

 そしてさらにその直後、とんでもない光景をツアーと『漆黒聖典』は目撃する。

 なんと黄色い竜が青い竜に食らいつき、力を吸いあげて奪い取り、そのまま殺してしまったのである。

 

 青い竜は力尽きで地面に落下したが……一方で、力を吸い上げた黄色い竜は、青い竜の力が身に宿っていることを示すように、その身の一部を青く変じさせ……先ほどまでに倍するすさまじい力を振るうようになった。単体で雷だけでなく、暴風も使うようになった。

 

 遠くから見ていたがゆえにまだ心に余裕があった『漆黒聖典』には、少し考えて……死を悟った青い竜が、自分の力を黄色い竜に託し、黄色い竜がこの場を生き延び、そして腹の中の命を育てるためにそれを受け取ったのだと悟った。

 

 そして生まれた青と黄色の竜……これこそ『破滅の竜王』と呼ばれるべきだろうその竜は、凄まじい威力の暴風と雷を叩きつけて、『鎧』にとどめを刺し、行動不能に追い込んだ。

 

 そしてそのまま、彼方へ飛び去ってしまったのである。

 恐らくは、青い竜の力を受け継いでも、体力は万全でなく、このままここにいたら別な敵に襲われるかもしれないと思って、巣を捨てる決断をしたのだろう。

 

 漆黒聖典は慌ててその後を追ったが、龍はなんと法国の方に飛び去った。

 

 だが、幸いと言っていいのか、法国で暴れることはなく――異形の竜が法国の領内(空中)を横断していっただけで十分大騒ぎにはなったが――国を横断して、エイヴァーシャー大森林に向かった。今度はその森の中にでも巣を作るつもりだろうか。

 

 その先にすすめば『ヘイムダール王国』の領域内に入ってしまうため、ここでも隊長は躊躇したが、手をこまねていていればそれこそ取り返しのつかないことになる。

 女王ユリーシャには後で国を通して詫びを入れることとし、一刻も早く『破滅の竜王』を止めねばならない。そう考えて、大森林に踏み込み……

 

 

 ☆☆☆

 

 

「これは……一体……!?」

 

『漆黒聖典』の面々は、もう何度目になるかもわからない、自分の目を疑う驚愕の光景を目の当たりにしていた。

 

 エイヴァーシャー大森林に入って間もなくのところ。

『破滅の竜王』が通ってきた跡は、木々がなぎ倒されたりと台風の後のような有様になっていたため、追跡は容易だった。

 

 しかし、森の中の開けた場所に出るとそこには……この先にある『ヘイムダール王国』の女王である、ユリーシャがいた。

 その隣にはさらに、彼女にとってはそれぞれ姉と弟にあたる、アンティリーネとエオンの姿も。

 

 そして、彼女達の目の前には……ビーストマンの国で猛威を振るい、『白金の竜王』(鎧)をも退けた『破滅の竜王』が……既にこと切れた状態で横たわっていた。

 さらに、そのすぐ横にいるアンティリーネは……なんと、ビーストマンの国で見たそれとはまた形の違う、しかし明らかに『白金の竜王』の鎧と思しきそれ……の、残骸を踏みつけにしていた。

 

 周辺に残る戦闘の痕跡からして、『破滅の竜王』も『鎧』も、おそらくは破壊されて間もない。

 

「あら、なんだか懐かしい顔が並んでるわね。どうしたの、雁首揃えて」

 

「っ……番外席次殿……!」

 

 からかうように言ってくるアンティリーネに、法国の人間である漆黒聖典隊長としてはいくつも言いたいことがあったが……それよりもまず、この目の前の光景について聞かなければならない。

 

「おや、あなた方は前にも、法国との会合の際に……確か、『六色聖典』の方々ですね」

 

「その中で一番強い『漆黒聖典』よ、ユリーシャ。こいつがその隊長ね。まあ、私やあなたよりは弱いけど」

 

「……ユリーシャ女王陛下、これは……この状況は、一体……?」

 

「それは……まあ、見てのとおりです。このまま進んで来られると私達の国に甚大な被害が出ますし、かといって一介の兵士達にどうにか出来るようなレベルではなかったので……私達で対処しました」

 

『破滅の竜王』の亡骸を見ながら、なんでもないことのように言うユリーシャ。

 見れば、その体には傷らしい傷もない。多少衣服は乱れているようだが、それでも……あのすさまじい力の竜を相手に戦って、これほど余裕でいられるものなのかと、戦慄する一行。

 

 それに、もう1つ……アンティリーネが踏みつけている、『鎧』についてもだ。

 隊長や他数名の隊員の視線がそこに向いていることに気づいたアンティリーネは、にやりと笑って、

 

「その反応……このガラクタが何なのかは知ってるみたいね?」

 

「ええ、一応は……」

 

「先に言っておくけど、向こうから襲ってきたのを返り討ちにしただけだから、何か文句言われる筋合いはないからね? 正当防衛よ」

 

『白金の竜王』は、プレイヤーの血を覚醒させた『神人』の、その中でも特に強い力を発現させた者をひどく嫌っているというのは周知だ。

 そして、アンティリーネはその筆頭格であり……『白金の竜王』からすれば、粛清ないし処分の対象として見られても無理はないかもしれない。それも事前に聞いていた。

 だからこそ、彼女の存在は対外的に徹底的に秘匿されていたのだが……

 

 などと考えていた、その時だった。

 突然、漆黒聖典の面々、全員の心に……じわじわと恐怖の感情が湧き上がっていたのである。

 

『鎧』の残骸を足蹴にしながら、おかしそうに笑って話している『番外席次』や、それと同じように、なんでもないことのように笑っているユリーシャとエオン。

 何もおかしなところはない、楽しそうにしているだけの姉弟達の図のはずだが……『漆黒聖典』の面々の目には今、彼女達がひどく恐ろしい『何か』に見えて、思えていた。

 

 あれほど強かった竜王をこともなげに倒してしまった。

 

 世界最強格であるはずの『竜王』すらも倒してしまった。

 

 この力がもし、法国に、人類に向けられたら?

 

 そもそも彼女達は本当に味方と言えるのか?

 今でこそ同盟者だが、エルフ王国と法国は戦争をしていたというのに。多くの同胞を殺した法国のことを憎く思っているのではないか?

 

 アンティリーネとて、あれだけ長い間法国から外に出してもらえずに、自由を奪われていて……今、法国を恨んでいるのではないか?

 妹であるユリーシャが法国と事を構えるのなら、それに手を貸すのではないか?

 

 このまま帰らせていいのか?

 このまま逃がしていいのか?

 

 もしここを逃せば、次に会う時は敵なのではないか?

 今が最後の、最大のチャンスではないか? 幸いにも今、自分達の手元には……

 

 そうだ、今なら……!

 今しか……!

 そうだ、今だ!

 

 

 

「使え!」

 

 

 

 

 

「……これは、一体どういうことでしょう?」

 

 

 

「は……っ、あ……?」

 

 ユリーシャの口から発せられた冷たい声に……漆黒聖典の隊長は、はっとなって我に返った……ような気がした。

 今、滝のような汗をかいている自分が……今まで何をしていたのか、認識できない。

 

 いや、忘れたわけではない。覚えている。

 覚えているが……わかっているが……どこか信じられず、他人事のように感じていた。

 

 支離滅裂な、理論的に成り立っていない内容の……被害妄想と言うにも無理やりどころではないことを考えて……その末に、自分は、『使え』と……

 

 そして、その命令を受けて……戸惑いながらも、シスターの少女が……『ケイ・セケ・コゥク』を使った。

 誰に? ……女王・ユリーシャに。

 

 同盟国の女王に。

 神の使徒に。

 対象を洗脳する秘宝を。

 

「ねえ」

 

 ドスの利いた、かわいらしい、しかし低い声でそう聞こえた。

 見ると、アンティリーネが……愛用の大鎌を手に、漆黒聖典の隊長の首元にその刃を突き付けているところだった。

 

「どういうつもり?」

 

「ど、どういう……とは……」

 

「それ……『ケイ・セケ・コゥク』でしょう? 使った相手を確実に洗脳する、法国の最秘宝……なんでそれを今、ユリーシャに……私の妹に使ったの?」

 

「え、あ……そ、それは……」

 

「ユリーシャを洗脳して何をしようとしたわけ? あんたら……私に、私達に、喧嘩売ってる?」

 

「……洗脳、ですか。それは本当なの、リーネ?」

 

「本当よ。それを使うと、精神攻撃に耐性のある種族でも洗脳……魅了って言ってもいいかな? 言いなりにできるの。……で、何でそんなことしたの?」

 

 アンティリーネに続き、ユリーシャと、その横のエオンの目つきもまた、一層責めるようなそれに変わっていくのを……漆黒聖典の面々は、さらにどっと冷や汗をかきながら見ていた。

 先程とはまた違う恐怖と焦燥が胸の中を焼き始める。

 

「ち、ちが……そんなつもりでは……わ、我々にも何が何だか……」

 

「……それで言い逃れできると思ってるわけじゃないでしょ? 人の妹を洗脳しようとしておいて……というか、それの使い道って大概、敵対関係にある存在を自分達の手駒ないし戦力にするためだったわよね? へーえ、ふーん……」

 

 

「……奪おうとしたんだ。私から」

 

 

「せっかくできた……本当に心安らげる居場所を」

 

 

「血のつながった……それでいて、心を許せる……大切な、家族を」

 

 

 

 

 

「……命が、要らないらしいわね」

 

 

 

 

 

「違う、待ってくれ! 誤解だ! ほ、本当に今、私はどうかしていて……」

 

 漆黒聖典の隊長は、嘘は言っていない。

 自分でもついさっきまで、なぜあんなことを考えていたのかわからない。今思い返せば、支離滅裂どころではなく、暴論もいいところだとわかる。

 

 しかしあの時の自分は、なぜかわからないが本気で恐怖してしまい、この口で確かに『使え』と命じてしまって……

 

 その瞬間、また恐怖と焦燥が湧き上がってくる。

 それに責め立てられ、気が動転し……気づけば、隊長を含め全員が、武器を構えて……

 

「……やる気ってわけね。もう言い訳に逃げるつもりもなしか……結構じゃない」

 

「ち、違う……!」

 

 なぜ自分はこんなことを。

 まずいとわかっているのに。

 なのに……こうしようとする手を止められない。意識とは別に頭が勝手に動いているような感覚に襲われている。

 

 使わせたのは自分だ。

 構えたのは自分だ。

 きちんと記憶も自覚もある。

 でも自分のことだとは思えない。

 

 まさに支離滅裂。自分でも自分がわからない。

 しかし、彼女は……彼らの理解が及ぶまで、待ってくれるつもりはなさそうだった。

 

「わかった、言い訳があるなら後で聞いてあげる。……その時、あんたらに息があればね……今の私、ちょっと手加減できる自信がないから、逃げるでも防ぐでもどっちでもいいけど……死ぬ気でやらないと、死ぬからね」

 

「ま、待ってくれ、頼む……」

 

「それじゃあ、あんたら全員―――」

 

 

 

 

 

 ―――少し頭、冷やそうか。

 

 

 

 

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