【異世界転移400年目 ×日目】
というわけで……作戦、開始。
本格的に、『竜王』から世界を奪りに行きます。
過去2回の経験+アンティリーネの件で、『竜王』相手に待ちの姿勢でいると、ある日突然凸してこられてこっちにいらん被害が出てしまいかねない、っていうのはよく知ってるからね。
あいつら基本的に、事前に通告して交渉から入るとかいうことをしないから。やると決めたらいきなり殺しにor壊しに来る。
むしろ不意打ちで決めに来る。『プレイヤー』の戦闘能力とかその他諸々の意味での危険度を知ってるから。
だから、こっちでタイミングを決めて仕掛ける。
正確には、仕掛け『させる』。向こうから手を出させて、しかし準備万端整えて待ち構えて、そのまま決める。そういう方向で作戦を立てたし、必要なものの用意もした。
そんで……長らく保留にしていた、シャルティア洗脳についての法国への『懲罰』も、ついでに同時に執行する。
事前に決めていた通り、国を滅ぼすとかそういうことはしないから安心してね。ちょっと上の方を適度にボコすだけだから。
作戦としてはこうだ。
まず、法国の連中が神経とがらせて警戒している『破滅の竜王』っていうのがいるらしいので、これを利用する。
リーネやクレマンティーヌに聞いたところによると、その『破滅の竜王』とやらは、トブの大森林に現れる、世界を滅ぼす力を持った竜王らしいんだが……具体的にどんな奴なのかはわからないし、文献とかにも特に記載があるわけでもないらしい。
アインズさん達と話した結果、おそらくその竜王とやらの正体は、前にアインズさんが倒した、あの魔樹『ザイトルクワエ』じゃないかってことに気が付いた。つまり、もう倒しちゃってて、『破滅の竜王』とやらの脅威はないのである。
法国、それ知らんけど。
トブの大森林にいる『災厄の魔樹』を倒したっていうのは、だいぶ前にもう、『エルヘヴン共栄圏』の設立の時に周辺国家に喧伝してるんだが……それが『破滅の竜王』だってことには気づいていないようだ。
まあ、『魔樹』と『竜王』だもんね……結び付けて考えるの、難しいと言えばそうかもしれない。
で、せっかくなのでコレを利用することにした。
まず、舞台はビーストマンの国に決定。
意思疎通はできるけど話が通じない系の相手で、何回『攻めてくるな』って竜王国側が交渉しても、聞く耳持たずに食料調達扱いで来るもんだから……いい加減うざくてどうにかしようと思っていたところなのだ。
うちの子らの遊び場扱いになってるけど、それにしたってねえ……今後、竜王国にはもっと国力を高めてもらわなきゃいけないし、いい加減『解決』しちゃってもいい頃だ。
ということで、ビーストマンの国に、以前ユグドラシルの期間限定コラボイベントの時にガチャ回して手に入れた召喚ユニット2体……『風神竜イブシマキヒコ』と『雷神竜ナルハタタヒメ』を放って大暴れさせ、適当に滅ぼす。
この時、小細工として、ナルハタタヒメの方はトブの大森林の方角から飛んできたように見せかける。そうすることで、予言通り『破滅の竜王』は大森林のどこかに眠っていて、そこから移動してきた、って感じに法国には解釈させる。
同時に、『破滅の竜王』は元々2体の番の竜だったってことも。
呼び出して操るのは、空中庭園最強の
その後は、2体はビーストマンの国に作った『巣』で待機。
運よく生き残り、しかし住む場を失ったビーストマン達は、竜王国を目指す。食料と住処を求めて。
それの対処は、竜王国の軍勢に加え、あらかじめ出撃準備させておいた私の子供達にさせる。冒険者とワーカーとして活動している子ら、ほぼオールスター的な感じでお祭り状態。
あと、同盟国ってことでヘイムダール王国から、エオン達も行かせる。
当然、ビーストマン程度がそれを突破できるわけもない。
もしかしたらここでビーストマン絶滅しちゃうかもしれないが……他種族に対して融和の姿勢を見せず、捕食対象としてしか接してこなかったんだから、『あらかじめその脅威を取り除く』という大義名分のもとに『駆除』されようとも文句は言えまい。
……それに、デミウルゴスの『牧場』に、今まで捕まえておいて、繁殖もさせてあるのが割といっぱいいるから、『絶滅』はしないしね。
というわけで、ビーストマン達、今までお疲れさまでした、御退場ください。
まあビーストマンはいいとして……ビーストマンの国に『破滅の竜王』が出現したことを察知した法国は、最近新しい使い手が見つかった『ケイ・セケ・コゥク』を持たせて、『漆黒聖典』を出動させた。
その使い手はもちろん、私の仕込みである。
私の子供の『妖狐』の中でもレベルが高く、『ケイ・セケ・コゥク』……もとい『傾城傾国』の使用条件を満たし、なおかつそれにぴったりな『異能』を持っている者を選んで、普通のシスターに化けさせて潜入させてあったんだよね。
表のカバーストーリーも完璧で、かつそれがなくても普通に装備できるわけだから、問題なく採用されて……そして、今回の『破滅の竜王洗脳作戦』の遂行メンバーにも選ばれた。
そしてビーストマンの国に行った漆黒聖典だけど、ここで『白金の竜王』(ただし鎧)もやってきてブッキング。
……来るとは思ってたけど、嫌なタイミングで来やがって……まあ、予想はしてたからその場合のプランに切り替えればいいだけだけど。
その後、『鎧』と竜2匹が戦い、鎧が使った切り札で『イブシマキヒコ』がリタイア。
しかし、この2体には、『2体が一緒に戦っている+イブシマキヒコが先に倒された』場合にのみ発動する特殊能力がある。
元ネタになっているゲームであったものらしいんだが、ナルハタタヒメが瀕死のイブシマキヒコのエネルギーを吸い取って自分を強化し、『百竜の淵源ナルハタタヒメ』となって超強化+全回復するというもの。
そこにさらにアカネによる支援強化も加わり、ナルハタタヒメはそのまま『鎧』を撃破、逃走。
そしてエイヴァーシャー大森林に向かい……追ってくるであろう漆黒聖典を待つ。
ここでまた予想外なことに……予備でも用意してたのか、また『鎧』がやってきた。
しかしその接触前に、既にユリーシャ達によって『ナルハタタヒメ』は倒されていた。それなら戦う理由はないんじゃないかとも思われたが……どうやら『鎧』、の向こう側にいる『白金の竜王』は、鎧越しでも『アレ』の存在に気づいたらしい。
……狙い通り、ないし、期待通りである。
『その存在を許すわけにはいかない……!』って襲い掛かってきたので、ユリーシャ、エオン、アンティリーネの3人で返り討ちにした。
以前のアンティリーネにも負ける程度の力しか出せない『鎧』で、今の強化版アンティリーネやユリーシャ達に勝てると思うなって話である。
前回、最後に使った自爆技も対策済みだったから、使わせずに鎧をぶっ壊して撃破できた。
で、ちょうどそのタイミングで『漆黒聖典』がやってきたわけだが……ここで、あらかじめ気配を消して周辺に待機していた私が、精神系魔法で『漆黒聖典』の恐怖と焦燥を増幅させる。
そしてそのまま『精神誘導』の魔法を使い、隊長を操った。
ここでのポイントは、『洗脳』や『支配』ではなく、あくまで『誘導』であることだ。
行動を無理やり縛って思い通りに動かすのではなく……『自分がこう考えている』『この感情は自分の感情である』と思い込ませつつ、特定の行動を誘発させる魔法。
400年間で鍛え上げた私の腕なら、『操られていると気づかせずに思い通りに行動させる』ことができる。
こっちの集中力もかなり要るし、対象の精神に負荷がかかるから乱用はできないけどね。
そうして、極度の緊張状態の中で私の精神操作を受けた隊長は、『使え!』と指示を出してしまい……『ケイ・セケ・コゥク』による洗脳能力が、ユリーシャに向かって使用された。
しかし、対策は万全なので効かず。
同盟国の女王にそんなものを使ったとなれば、宣戦布告も同義。
慌てて弁明を始める漆黒聖典達だったが、ガチギレしたアンティリーネ達に『話せばわかる!』『問答無用!』で、頭を冷やされることになった……というわけだ。
ここまでで、作戦の第一段階は終了。
『法国とヘイムダール王国が戦争一歩手前+今回は法国が悪い』という状況を作れた。
同時に、『漆黒聖典』のメンバー全員を捕縛することにも成功。
今後、ナザリックと法国とが一応は友好的にやっていくとしても……『
シャルティアの件がある以上、どこで彼女を……問答無用で自分達を襲ってきた吸血鬼を見てしまうかわからない。みられてしまえば、ナザリックに対して不信感が芽生えるし、関係もこじれるから……悪いとは思うけど、処分するしかなかった。
まあ処分と言っても、皆殺しにするわけじゃない。
今回彼らは、ナザリックの『氷結牢獄』ではなく、
それと……『そうなればいいな』程度に思ってた方の狙い……『竜王』に対する挑発も一緒にできたから、これからいよいよ忙しくなるぞ、っと。
☆☆☆
評議国、某所。
『白金の竜王』は、常に落ち着いていて冷静な彼には珍しく……苛立ちの感情のこもった唸り声をあげていた。
『破滅の竜王』を倒すため……ひいては、法国の戦力を強化させないために送り込んだ『鎧』が、予備含めて2つとも破壊されてしまったわけだが……問題はそこではない。
その鎧越しに感じ取れた、あるものの存在である。
「あの気配……間違いない。500年前に使われた、『世界を揺るがすほどのアイテム』……それそのものではないとは思うが、おそらくそれに近い何かが、あそこにはある……!」
今から500年前……『八欲王』によって使用され、既存の魔法の法則を大きくゆがめて、世界に『位階魔法』を誕生させ、さらにはそれまで主流だった『始原の魔法』に大きく制限をかけ、世界の覇者だった『竜王』に枷をつけてしまった、強大なアイテムの力。
あれがもう一度行使されるようなことがあれば、今度はどんなことが起こるかわからない。
伝え聞く『英雄譚』の中で、あの元・エルフの国……現『ヘイムダール王国』の女王は、推定『ぷれいやー』である『命の女神』の関係者だという。
であれば、そこに『ぷれいやー』がいて、そのアイテムを持っているのか……あるいは、女王がアイテムを『ぷれいやー』から託されているのか。
どちらにしても、このままにしておくわけにはいかない。
ことは、またしても世界を大きく変えられてしまうかどうかの瀬戸際である。
「どうにかして現物を確認したいが……それがかなわない場合は……やむを得ないな」
古より生きるこの世界の守護者として、力を持つ者として、自分には責任がある。どんなことをしてでも、今の形から大きく世界が書き換えられてしまうのを防がなければならない。
その為なら、手段を選んでいられない。
ツアーは、その鋭い目の奥に、決意の光を灯し……行動を開始する。
しかし、そのわずか数日後。
またしても彼を驚かせ……そして焦らせる『急報』が舞い込んでくるのだった。
☆☆☆
一方その頃、
「ちょっ……コレ、もらっちゃっていいんですか!?」
「はいはい、おすそ分けです。どーぞ持ってっちゃってください」
「いや、おすそ分けってラストさん、コレ……『
ナザリック地下大墳墓、アインズの私室にて。
作戦成功の報告を兼ねて訪れていたラストは、戦利品の一つである『槍』を、アインズに『はい』と軽い感じでプレゼントし……『上位道具鑑定』でそれの正体を知った瞬間のアインズの反応が、冒頭のそれである。
世界級アイテム『
使用すると、ゲーム内に存在するキャラクター1体を、プレイヤーのアバターだろうと、敵モンスターだろうと、NPCだろうと関係なく、『完全消去』できるアイテム。
その代わり、自分のアバターも『消去』されるという、数多のプレイヤーから『頭おかしいだろ』と評されたアイテムだ。
漆黒聖典の隊長が武器として使っていた、やたらみすぼらしい槍が気になったので、回収して鑑定したところ、こういうものだったので『私いらんし、アインズさんにあげよ』とラストが持ってきたのである。だから軽い。
自分達にとっても脅威となるアイテムを確保して保管しておくという意味はもちろんとして……収集癖のあるアインズからすれば、垂涎のアイテムであるため、戸惑いはしているものの、内心では超嬉しく思っている。ぶっちゃけ、今から『やっぱ返して』って言われても多分返さない。
「ほ、ホントに貰ってもいいんですね!? もう返しませんよ!?」
「いいですよーもらっちゃってください。ただし……」
「ただし?」
「『
そう言ってラストが虚空から取り出した、銀色のチャイナドレス。
それは、かつてシャルティアを洗脳した、アインズにとっても因縁のあるアイテム……『傾城傾国』だった。
それを見てアインズはぴくっと反応するものの、
「まあ、ラストさんなら悪用はしないでしょうし、いいですけど……」
「ありがとうございます! いやあ、ずっと欲しかったんですよコレ!」
欲しかった玩具をようやく手に入れられた子供のような無邪気な笑顔ではしゃぐラスト。その様子を見て、ない表情で苦笑するアインズ。
「でも、そんなに欲しかったんですかそれ? そんなんなくても……ラストさんの『魅了』能力も十分強力なのに。超広範囲かつ耐性貫通で、その気になればアンデッドだって魅了できますし」
ラストの持つ『魅了』系統の能力は、さすがに強度そのものは『傾城傾国』には及ばないとはいえ、たいていの相手なら……それこそ、精神攻撃に完全耐性のあるアンデッドですら魅了するだけの力がある。しかも、種類も豊富で、広範囲を一気に魅了することもできれば、1体を強力に魅了することもできる。
さらに、『魅了』のみならず、『混乱』や『支配』、そしてつい最近猛威を振るった『精神誘導』など、それ以外の引き出しも多く、たいていの状況には対応できる。
ぶっちゃけ、ラストの能力で大抵の相手には足りてしまうので、『傾城傾国』を使う意味というか、必要になる状況があまりないのだ。
しかしラストは、
「当たり前じゃないですか! だって私『九尾の狐』でしょ? 『九尾の狐』って、民間伝承では中国にそのルーツがあるっぽいんですよ」
「はあ」
「その、同じく中国発祥のお色気衣装で! 『世界級』アイテムで! 『傾国』と名前がついてる魅了系能力持ちのアイテムですよ!? そんなん欲しいし着たいに決まってるじゃないですか! いっぱしの『悪女』として!」
「あ……ロールプレイ方面のこだわりが理由だったんですね」
「はい! 中華系の衣装や装備はいっぱい持ってるし、その中にはチャイナドレスもあるんですけど……その最高峰と言ってもいいアイテムだから、どーしても欲しくて! あー、ユグドラシル時代に手に入れて撮影会とかしたかったなー」
おめめキラキラの状態で、うっとりしながら銀色のチャイナドレスを眺めている弟子を、いつのまにか生暖かい目になって見守る師匠の図。
「これに何か適当な羽衣系のアイテムとか組み合わせれば……どうせなら同じ『世界級』の『天女の羽衣』とかがあればよかったんですけどね……。あとそれに
「ロールプレイに全力すぎでしょ……全身『世界級』に統一するつもりですか? そこまでいくと、戦闘面では逆に弱くなっちゃいますよ? スキルの相互性とかがなさ過ぎて」
「戦場に出る時は普段の奴で行くからいいんです。あくまで写真撮影とか、趣味の領域ですから。……その状態でエッチなことするのも楽しそうですね」
「すいません別にラストさんの趣味とか夜のアレコレは止めないんで……でもせっかくの『世界級アイテム』をエロ衣装にして『汚す』のだけはやめません? いちプレイヤーとして承服しがたいというか……なんかマジでやめてほしいというか……」
「えー……だからこそ燃えるのに。ちゃんと洗いますって」
「そういう問題ではなく……」
しばらくこんな感じで、『世界級アイテム』が絡んでいるとは思えないほど緊張感のないやり取りが続いた。
そして、たっぷり30分後。
「じゃ、この後の『作戦』の打ち合わせしましょうか」
「えらい遠回りしましたけどね……まあいいや。さて、この後となると……いよいよラストさんの出番、でしたね」
「ええ。まだ数日後になると思いますが……法国から『ヘイムダール王国』に、謝罪の申し入れがあるはずです。『神の使徒』に手出ししちゃったわけですからね……。ことがことですから、使者が来るか……あるいは、神官長クラスが直接謝罪に出向いてくる可能性もあります」
「それはどちらでも構わない。しかし重要なのはその後。使者ならば、この後の対応に関する書状を持たせて返す。でも、神官長クラスが直接来たら……」
「その場合は……その人を直接足掛かりにしちゃいましょう。そして、準備を整えて……」
「―――直接、私が法国に乗り込んで……『プレゼン』をしてきます」
「神官長達への……最初で最後の、手向けないし慈悲として……ね」