オーバーロード 傾国狐の異世界日記   作:破戒僧

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原作300年前(6) 竜王戦、その後(前編)

 

 

【異世界転移 113年目  △日目(続き)】

 

 色々と反省点はあるし、素直に喜べない部分も大きい。

 悲しいことも起きてしまった。

 

 けれどひとまずは……この世界の覇者(の1人)と言っていい実力者と戦って勝てたことを、まずは、今は、喜ぼうと思う。

 

『常闇の竜王』を倒した後、私達はそこで安心して『お疲れ様ー! 解散!』って休むことはせず……むしろそこからが本番とばかりに、迅速に『後始末』に入った。

 

 この指揮を執ってくれたのはカリンである。……白状すると、私は気疲れやら何やらで割と限界だったので、ちょっともうこれ以上動きたくない状態で……それを見て察してくれたカリンが、『お疲れ様。後は任せなさい』って一切合切引き受けてくれたのだ。

 ……お言葉に甘えて、丸投げしました。

 

 カリンと……後詰めないし予備戦力として待機してくれていた(けど結局出番はなかった)アカネやサンゴ、そしてそれぞれの部下達が、頑張って働いてくれた……と、後で聞いた。

 

 まずは、『竜王』の死体の回収。きちんと死亡確認も何重にも行った上で、拠点の保管庫に運び込んだ。

 

 ゲームでもそうだったけど、強大なモンスターって言うのは、その体全体が貴重な素材の宝庫だ。

 ドラゴンなんか、鱗、皮、爪、牙、骨、肉、血、内臓、眼球……とまあ、捨てるところが基本的には全くないってくらい、色々なことに使える。

 武器・防具の素材にもなるし、眼球や内臓、血なんかは秘薬の材料になるそうだし。

 肉は普通に食材として優秀で、食べてすごく美味しいし。

 

 ……人語を介して普通にしゃべっていたドラゴンの肉を食べるのは、ちょっと微妙な気分にならなくもないけど……まあ、気にしなきゃいいだけの話だ。美味しいは正義。

 

 素材にせよ食材にせよ、遠慮なく、余すことなく活用させてもらおう。

 私達は殺し合いをした仲であり、勝ったのは私達だ。おまけに吹っかけてきたのはあっち。

 これは勝者として当然の権利であり、敗者にかける情けはない。

 

 それに……コイツの死体は、ちょっと後から『使い道』を考えてあるんだよね……そのためにも、きちんと回収しておかないとだ。

 

 回収後は再び『蓬莱の玉の枝』を起動し、速やかに拠点を隠蔽……したいところなんだけど、残念ながらすぐには無理だった。

 このアイテムは、一度起動状態を解除してしまうと、それから24時間のクールタイムが終わるまで、再起動ができない。なので、明日になるのを待たないといけない。

 

 それまでは幻術と、いくつかのマジックアイテムの併用でしのいで……再使用可能になったら速攻で起動、って形にすることにした。……それまで誰にもバレませんように。特に他の竜王。

 さすがに短期間、いや短時間のうちに、何度もレイドボス級の相手と戦うのとか御免被る……。今回は色々上手くいったけど、次も上手くいくとは限らないし。

 

 あと、戦いの余波で吹っ飛んだり焼けちゃったりした、周囲の森とかについては、うちのギルドで『森司祭(ドルイド)』系の職業を持ってる者達を総動員して修復にあたった。

 

 ボッコボコに抉れてへこんだ地面を魔法で均して、周辺に生えてるものと同じ木々を魔法で育てて、元通りの森の形を取り戻しておく。

 ついでに『天候操作(コントロール・ウェザー)』で雨でも降らせておけば、戦いの後の残り香……焦げ臭い匂いなんかも洗い流してくれる。

 

 最後に、森全体に濃霧を発生させると同時に、アカネとサンゴに命じて、狼とかジャガーとかの獣型のモンスター(見た目はなるべく怖く、唸り声が低くて大きくて迫力あるもの)を選んでもらって大量に召喚し、森全体に適当にはなっておけば……怖がって人間も亜人も近づいてこないだろう。

 万が一森に入ってくる人間がいたら、極力殺さず脅して追い返すようにして……それでも帰らずに奥に進んでいってしまう場合は……『悪いな、恨まないでくれ』って感じにさせてもらう。

 

 隠蔽はこんなところでいいだろう。

 

 あとやることは……竜王の素材に関する確認・研究はデミアに丸投げして……その後の『有効利用』についても同じように……くひひ。

 まだ先になるとは思うけど、上手くすれば……ああ、楽しみだ。

 

 それと、これもまあ、デミアに頼む調査ないし研究の一環になるんだろうけど……今回戦った『常闇の竜王』とやらは、戦いの中で思いっきり『始原の魔法(ワイルド・マジック)』を使っていたので……素材を通して、それについても多少なりとも解析できたら嬉しい。

 

 使い慣れた位階魔法ももちろん頼りになるけど、この世界にもともと存在したという、竜王の専売特許にして切り札である『始原の魔法』も……魔法詠唱者のはしくれとして、興味あります。

 仕組みがわからないことには何とも言えないけど……私にも使えるようにならないかな?

 

 あと……あんまり考えたくないんだけど、また他の『始原の魔法』の使い手……すなわち、他の『竜王』と戦うことになった時の対策としても……きちんと研究・解明しておきたい。

 ……戦いたくないけどね。もう、あんなのと……。

 

 

 

【追記】

 

 忘れちゃダメなものがひとつ、抜けてたよ。とっても大事な用事が残ってた。

 

 今回死んじゃった子供達のお葬式……やりたいな。近いうちに、ちゃんと。

 

 

 

【異世界転移 114年目  △日目】

 

『竜王』の襲撃という突然のビッグイベントから、早いもので、今日でもう、1年が経った。

 

 あの後、他の『竜王』にも気づかれて立て続けに襲撃が……なんてことには特にはならず、再び『蓬莱の玉の枝』で拠点を隠蔽。無事に平穏な日々が戻ってきた。

 

 その数日後には、きちんと葬儀もやった。

 遺体すら残らず消滅してしまったんだけど、きちんと墓石には名前を刻んで、『城下町』に用意してある墓地に収めた。安らかに眠ってくれることを祈って。

 

 ちなみに、私が私の『子供』の死に立ち会うのは……あの時が初めて、というわけではなかった。

 

 100年も生きてれば、自分が産んだ子供が自分より先に旅立っちゃうことも何度もあったよ。

 私の子供は、全員が『異形種』ってわけじゃなかったからね。

 

 父親が人間だった場合――外の人間や、城下町の移民をつまみ食いして産んだ子とか――子供は、人間と妖怪のハーフだから『半妖』っていう種族で生まれてくることがほとんどだ。

 けどまれに、『妖怪』あるいは『人間』として、血が混ざらずに、純粋にどっちかの種族で生まれてくることもあったから。

 

 だから、あれ以前にも何人も……人間として生まれた我が子を見送ったし、その子達も同じように丁重に葬った。

 ……だからって慣れるもんじゃないけどね……。

 

 ……ちょっと湿っぽく脱線しちゃったので、話を戻します。

 

 あの後、デミアに色々と丸投げして。『常闇の竜王』の死体の解析と、素材の活用方法についての研究を頼んでいた。

 仕事以前に、そもそも研究が大好きな知的好奇心の塊、マッドサイエンティストと言っていい彼女なので、特級の素材の山を前にして、それはもう嬉しそうに、張り切ってやってくれたよ。

 

 そして、1年かけて行われたその研究の結果だけど……一言で言えば、全面的に大成功。行った研究のほぼすべてで、大きな成果を叩きだした。

 

 まず、竜王の素材を使って作った武器防具や秘薬は、非常に良質なものができた。

 まだまだ在庫はあるので、研究を継続しつつ、鍛冶部門や製薬部門と連携して、さらに性能のいいものを目指していくとのことだ。

 

 特に大きな成果を出したのが、『巻物(スクロール)』だ。

 この世界でもユグドラシル同様、魔法を封じ込めておける『巻物(スクロール)』があるんだが……流通しているのはせいぜい、第一位階や第二位階程度の、レベルが低いものばかり。

 

 もちろん、そもそもその程度の魔法しか使えない者がほとんど=込められる魔法がそもそも低いものしかない、っていう理由もあるんだけど。そもそも材料となる獣皮紙自体の性能があまりよろしくなく、高い位階の魔法を込めることに耐えられないのだ。

 

 試しに、この前人里で調達した白紙のスクロールに私やデミアが魔法を込めてみたんだけど……全然耐え切れなくて、燃えつきて灰になってしまって。

 一番高級な紙を仕入れて、さらに改造しても、第三位階の魔法までしか込められなかった。

 

 これ以上になると、相当強力なモンスターの皮を使ってスクロールを作らないといけない。それなら第四や第五にも耐えられるらしいけど、そんなのは一般どころか高級品としてもまず出回らない。

 遺跡とかでごくまれに『古代の秘宝』として見つかるスクロールに、第四や第五の魔法が込められてる、とかいう話もあるけど……第五位階の魔法を一回使えるだけのスクロールが秘宝て……。

 

 そんな感じなので、この世界で調達できる素材でスクロールを作ろうとしても、ろくなものができない感じだった。

 デミアとサンゴが100年かけて研究して、動物やモンスターの品種改良を進めてみたものの、成果は芳しくなかった。

 

 しかし今回、竜王の皮を使ってスクロールを作ったところ、第九位階の魔法を込めることができた。やっぱり生物としての格がすごいと、素材としても優秀なんだなって。

 

 もちろん、竜王の皮は防具の素材としても優秀なので、スクロールなんかの消耗品にあんまり多く使うわけにもいかないんだが……『とっかかり』としては十分だ。

 この後説明する、次の『成果』が、それに関わってくるし。

 

 さて、ここまでデミアは、武器防具、秘薬、巻物(スクロール)と、色々なものを研究・開発してくれたわけだが……次に紹介するものは、それらと比較してなお、とんでもないと言っていいレベルの成果である。

 なんと彼女、竜王の血を使って……複製(クローン)を作ってしまった。

 

 が、クローンと言っても、羊とかで見るような、『全く同じ複製個体』というわけではない。

 さすがに竜王の複製なんてそうそう作れるもんじゃないし、作ったところで確実に持て余す。

 

 デミアが作ったのは、『複製』というよりも、劣化コピーだ。大きさも強さも知能も、あらゆる面でオリジナルの竜王よりも大きく劣る。

 しかし、劣っているとはいえ元が元なので、それでもそこらのモンスターとは比較にならないくらいに、素材として、食材として、あらゆる意味で優れていると言っていい『品質』があった。

 

 デミアはさらに、ビーストテイマーであるサンゴと協力して、この『複製竜王』を家畜化することに成功した。

 さらに現在、試験管からの培養ではなく、自然繁殖による増産にも成功している。

 

 今後は、城下町に専用の牧場を作って、複製竜王を使った畜産を推し進める計画だそうだ。

 皮、肉、骨、血、鱗……そういった強力な素材が、安定供給されるようになる。

 

 もちろんさっき言った通り、オリジナルの竜王には遠く及ばない性能だが、それでもこの世界の基準からは余裕で逸脱したやばい性能のアイテムが作れるし、私達が使う消耗品の素材としても、ギリ使える基準だそうだ。これはマジで助かる。

 また1つ……いや1つと言わずいくつもだな、この世界では補充ができないと思っていた、ユグドラシル産のアイテムの補充の目処が立ったことになる。よきかな、よきかな。

 

 ただ、同じようにデミアが『常闇の竜王』の素材を使って進めていたテーマの1つ……『始原の魔法』について。

 こればっかりは、まだほとんど研究が進んでいなくて……この先も腰を据えて、長い時間をかけて研究を進めていく必要がありそうだ、とのこと。

 

 さすがに、この世界の覇者である『竜王』達の専売特許にして切り札たる魔法。デミアでも一筋縄ではいかなかったか。

 

 けど、さっき言った『複製竜王』の畜産も始まるし、それらを使った研究も進んでいけば、徐々に解明されていくとは思う。

 困難な道のりだって知っても、むしろデミア、俄然やる気になって燃えてたからね。

 

 

 

 ……それに、だ。

 

 彼女に頼んで進めてもらっていた研究のうち、最後の1つにして……私が個人的に一番楽しみにしていたものがある。

 

 それもいよいよ、形になったと、さっきデミアに聞いた。

 

 もしそれが期待通りにというか、上手くいっているのなら……それもまた、『始原の魔法』の研究に一役買ってくれる可能性が高い。

 何せうまくすれば、その使い手が、しかも私達に友好的な形で『増える』ことになるんだから。

 

 その為なら私も、趣味と実益を兼ねて、喜んでひと肌脱がせてもらうからさ。

 

 

 

 ……いや、ひと肌と言わず、二肌でも三肌でも……なんなら全部でも。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

(……? ……眠っていた、のか?)

 

 うすぼんやりとした意識のまま……『常闇の竜王』は、重い瞼をどうにか押し上げる。

 目を開いても、視界もまたぼんやりとしていて……周囲の様子がよくわからない。頭もまだ、いまひとつはっきりとしない。働かない。

 

 しかし、少し経てば次第に目も覚めて来て、視界も晴れてくる。

 

『……? ッッ……!?』

 

 そこでようやく竜王は、自分が今、全く見覚えのないどこか……屋内と思しき空間にいることに気づいた。

 同時に、自分が……プレイヤーと思しき何者かと戦って敗れたことも。

 

 あの時、すさまじいまでの破壊の奔流に飲み込まれ、命尽きたと思っていたのだが……そうではなく、囚われの身になっていたということだろうか。

 

 竜王は、すぐさまその部屋を破壊して外に出ようとする。

 が、その竜王の力をもってしても、その部屋の壁も床も、破壊することはかなわなかった。ただの研磨された石材のように見えて、恐ろしく頑丈であり、ひび一つ入らない。

 

 しかし、それだけではない。

 体に上手く力が入らない……どころではない。竜王は、自分の体を、その姿を見下ろしてみて……愕然とした。

 

『なんだ、これは……? これが、俺……だと……?』

 

 翼がない。尻尾がない。そもそもの形が、今までの自分の体とは大きく違う。

 筋肉量が少ない。骨格も不自然だ。立ち上がろうとするとふらつく。

 気分が昂ると、頭がぼーっとするように、思考力が下がるのを感じた。

 

 おまけに、『始原の魔法』が使えない。使おうとしても……『魂』の力を動かし操ることができない。

 まるで、数百年前……まだ自分が王の名を持たず、力を持たない、幼い竜だった頃に戻ってしまったよう……いや、それ以下だ。

 

(何をされた……寝ている間に……!?)

 

 

 

「ふぅん……一人称『俺』なんだ? 戦ってる最中は確か『我』とか言ってたのにね」

 

 

 

「……ッ!?」

 

 突如として聞こえてきた声。

 聞こえてきた方を見ると、そこには……あの時戦った『プレイヤー』と思しき女が、妖艶な笑みを浮かべて立っていた。

 

 やはりこの女に捕らえられていたのか、と思った半面……竜王は、その姿を見て、同時に困惑もしていた。

 目の前の女が、何も身に着けていない……生まれたままの姿でそこに立っていたからだ。

 

 人間の基準で考えるならば、『絶世の美女』として100人が100人振り返るほどの女。その裸体となれば、見る者を釘付けにし、あるいは理性を失わせるだけの凄絶な色気があるのだろう。

 しかし当然ながら、種族が異なる『竜』。その上、嫌悪している『プレイヤー』となれば……そんな姿を見せられたからといって、竜王が心乱されたり、まして劣情を催すことなどありえない。起こりようがない。

 

 むしろ、『色仕掛け』などという品性を欠く手段を自分に試みようとしたその性根を、心の底から軽蔑し、鼻で笑ってやるところだ。

 ……その、はずだった。

 

『……っ……!? !? 俺に、何を、した……貴様……ッ!?』

 

 竜王は……自分がこの、目の前にいる雌に『発情』しているということを、認められずにいた。

 

 人間に近い姿をしているが、狐の耳と、尻尾が9本もがあること、そして感じ取れる禍々しい力からして、その正体は異形なる者であることは明らか。

 劣情など覚えようがないにもかかわらず……今、自分の体は、燃えるように熱く……頭からどんどん理性が抜け落ちて、本能に押しつぶされてしまいそうになっている。

 人間(に近い見た目の種族)を相手に襲い掛かりたいなどという、そもそもあるはずのない本能に。

 

 息を荒くし、目を血走らせながら耐えている竜王の様子がおかしいのか、狐の美女はくすくすと笑って……そのしぐさがまた竜王を追い詰める。

 

 その時ふと、竜王は……自分の下腹部に違和感を覚えて見下ろし……目を疑った。

 

 あるはずのないものがついていた。

 逞しく、禍々しい見た目のモノが……鋼のように固くなって鎌首をもたげていた。

 

『何なんだ、この体は……俺に、何をした……ッ!?』

 

「何を『した』じゃなくて、これから何を『する』かを考えればいいのに。せっかく『いいこと』をするために、体をいじくってあげたんだから……さ」

 

 プレイヤーへの怒りや憎しみは、確かにまだ、心の中に、ある。

 しかし、それを塗り潰されてしまいそうな程の、生々しい欲望が……今まで一度も覚えたことのないようなそれがこみあげてきて、頭の中を埋め尽くす。

 

 目の前の雌の一挙手一投足から目が放せない。

 

 殺そうと、殺さなければと思っても、手も足も動かない。

 もっと違う目的で、体全体が動きそうになるのを、理性でもって必死にこらえている。

 

 しかしそれも……目の前の雌が、無防備に、無警戒に自分のすぐ目の前へ歩いてやってきて……まるで、捧げられる生贄の娘のように、その体を仰向けに横たえる……その時までだった。

 その瞬間、娘が何かを言った気がしたが……それを聞く余裕もなくなった竜王は、爆発した欲望のままに、その雌のあまりに小さな体にのしかかり……

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

【異世界転移 114年目 □日目】

 

 いやあ……死んじゃうかと思った……。

 

 転移後、私が『ラストにゃんにゃん』になってから今までで、一番すごかった。

 

 お腹いっぱい。もう入らない。苦しい。

 

 

 

 ……強い子、生まれるといいなあ……♡

 

 

 

 

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