オーバーロード 傾国狐の異世界日記   作:破戒僧

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あとがきにてちょっと挿絵を乗っけております。
よろしければどうぞご覧ください。


原作200年前(2) 魔神戦争(他人事)

 

 

【異世界転移204年目 ●日目】

 

 『可愛い子には旅をさせよ』っていう諺があるけど……実際にそれ、親の立場でやろうとすると難しいもんだな、って思った。

 今まさに、旅に出たいです、って言ってきてる子供を前にして……意欲とか自主性を尊重して背中を押してあげたい、それがいい、って思うんだけど……やっぱかわいい子を手元から放したくないっていう心も私の中に確かにあるわけで。

 

 特にこの『双子』は、出来がいいし出自もそれなりに『特別』だから、色々と教えて鍛えてあげるためにずっと構ってあげてたからな……接する時間が長かった分か、情も大きめに湧いてる気がする。

 

 けどまあ、その双子……オルガとシーナが『行きたい』って言ってるんだから、無理に引き留めるのもそれはそれで『かわいそう』『かなえてあげたい』って思う部分も確かにあるわけで……何だろうなコレ、矛盾する思いが自分の中にある。親って大変だ……。

 

 結局は私の気持ちの方に折り合いをつけて、送り出してあげることにしたけど……その代わり、準備はしっかりさせることにした。

 この『空中庭園』を、私の膝元を離れて旅に出る……それも、目的が目的だ。危険が伴うし何が起きてもおかしくないんだから、いくら慎重になってもなりすぎってことはない。

 

 ……危険もそうだけど、それ以上に『隠蔽』に力を入れなきゃいけないわな。

 何せ彼女達の場合、見た目は人間っぽいけどその実、人間の血は1滴も入ってないんだ。人里で騒ぎにならないように、『半妖半竜』という素性を隠すための対策は絶対に必要だ。

 

 ……ところでここまで、オルガとシーナが何のために旅に出るのか、何をしたいと言ってるのかを書かないで進めちゃってたな。失敗失敗。

 それを説明するには、今の世の中の情勢というか動きみたいなのを説明しないといけないな。

 

 この『空中庭園』には全く関わりのないことではあるんだが……今、外の世界では『魔神戦争』なるものが起こっているらしい。

 

 戦争って言っても、どこかの国と国が争ってるというわけじゃなく。

 強大な力を持った『魔神』という存在が突如現れて、各地で暴れ出してる。それを相手に国とか貴族とか冒険者が必死に戦っていて、さながらそれが戦争みたいに思われるほど大事になっていることから『戦争』の名で呼ばれているらしい。

 

 しかもその魔神達の力はすさまじく、国が動いて討伐に乗り出したにも関わらず、返り討ちにあって国が滅びた、なんてことまで起こっているそうだ。

 

 さらには、その魔神を狩って回っている『英雄』とか呼ばれるような者の存在もちらほら噂されたりしてて……さて、どれがどこまで本当何だかわからないな。これだけ突拍子もない情報が錯綜してると、真贋確認も一苦労だ。

 

 ただ、いくつかの情報から推測する限り……その『魔神』とやら、ユグドラシル関係の何かである可能性が高そうなんだよね。

 この世界の人間には不可能なレベルの魔法を使ってたり、強力な武器やアイテムを持っていたりするらしい。

 

 ここ最近『突然現れた』っていうのも……前回の『揺り返し』の時期からそう時間経ってないから、前回来た連中が今ちょうど活動を始めた……っていう可能性もありそうだ。

 ……と、最初は思ったんだが……魔神によっては、揺り返しの時期よりだいぶ前から存在が確認されてるものもいるみたいで……違うのかな?

 

 加えて、ユグドラシル関係だとは思うものの……ちょっとアカネとサンゴに頼んで調べてもらった感じ、どうやらそこまで強くはなさそうなんだ。

 

 『すごく強い』『国が滅ぶレベル』っていうのはあくまでこの世界基準の話だ。

 レベル35程度の『死の騎士(デス・ナイト)』が伝説のアンデッド扱いされて、レベル30~40程度の人間が『英雄の領域』扱いされて、いいとこ『遺産級(レガシー)』程度の強さしかない武器が一国の国宝扱いされるような……この世界の基準。

 

 実際に出た魔神の強さは、いいとこ50レベル前後、甘めに見て60前後……ってところだそうだ。アカネ達の報告によると。

 それなら……仮にユグドラシル関係だろうと、今のオルガとシーナでも負けることはまずない。

 

 今もう既に、2人とも、レベルで言えば80越えの戦闘能力を持ってる。80年以上かけて鍛え上げれば、少しずつの成長でも、そりゃそのくらいには強くなるわな。

 それに加えて、位階魔法と『始原の魔法(ワイルド・マジック)』の両方を使えて、さらにこの世界特有の戦闘技能である『武技』もいくつも習得している。そして、それらをきちんと使いこなして戦うための訓練も積んでいる。

 

 2人で戦えば……相手がカンスト級でもないかぎりは問題なくやり合えるはずだ。

 

 それでもきちんと備えはしておかないといけないから、2人に持たせる装備は、『空中庭園』の宝物庫から出した、今の2人のレベルに合った装備で固めた。

 さすがに『神話級(ゴッズ)』や『伝説級(レジェンド)』は行き過ぎなので、2人とも武器と防具全部『聖遺物級(レリック)』でそろえてある。

 

 それとさっき言った通り、種族その他を隠すための備えもしなくちゃ。

 ってことで、これも宝物庫から引っ張り出したアイテム……に加えて、その他の手も加えた4つのアイテムによる、四重の対策をとることにした。

 

 まず、ステータス隠蔽の指輪。ユグドラシル時代のアイテムで、宝物庫から探し出した……いや訂正、探さなくてもそのへんですぐ見つかったやつである。

 色々な場面で割とよく出るハズレアイテムだったからな……例によってギルメンが『捨てるのもめんどくさいから誰か使って』って適当に放り込んでおいたのがいっぱいあった(私含む)。

 

 次に、隠蔽の腕輪。これはユグドラシル産ではなく、現地産……すなわちこの世界のアイテム。効果は『ステータス隠蔽の指輪』と同じだが、見破られやすさ、性能共に下位互換だ。

 なんでそんなものをわざわざ使うのかと言えば、カモフラージュ……見せ札としてだ。『理由があって力を隠してますけど何か?』的な感じで、この程度の隠蔽なら見破れる他者に対して、『素性を明かすつもりはない』とむしろアピールするため。

 また、どうしても必要ならこの腕輪は外して隠蔽を解除……しつつ、実際は『指輪』を使って隠蔽は続いている、という二段構えになるわけだ。

 

 3つ目、『闇の指輪』。これもさっきの腕輪と同じくこの世界産のアイテムだけど、レア度・性能ともに段違いの逸品だ。……何せ、『常闇の竜王』が『始原の魔法』で作った、いわゆる『竜の秘宝』と呼ばれるものの1つだからね。

 奴を倒した後に、アイテムボックス(仮)の中からいただいたものの中にあったものの1つだ。

 効果は、気配の隠蔽。装備者の気配そのものを隠してしまうので、能力を隠すっていうより、気づかれずに隠密行動をする際に向いた装備な気がする。

 それに加えて、わずかだが各種ステータスを上げる効果もあるので、旅をする際の装備品としては普通に優秀。

 

 最後に……『化けの皮』というアイテム。これは、ユグドラシル由来のアイテムではない。けど、この世界に元々あったアイテムでもない。つい最近デミアが完成させた新発明だ。

 使うと、幻術を含めた複数の方法を併用して、使用者の見た目や種族をかなり高度に誤魔化すことができる。本当に種族が変わるわけではないけど、実際に手で触れられたりしても大丈夫だし、声、体臭、指紋、体温……様々なものが変わって、見る者を騙す。能力だけじゃなく、種族その他を見破られないようにする頼もしいアイテムだ。

 

 この4つの併用なら、見た目、種族、能力、気配、あらゆるものを遮断してごまかせるし、仮にいくつかを見破られたとしても、それをさらにごまかして肝心なところは明らかにしないためのカバーもできるだろう。

 

 こうして準備も完了したので……それでも、やはり寂しくは思いつつも、2人を送り出した。

 

 その際、いくつか頼み事をしておいた。

 

 『伝言(メッセージ)』でいいので、定期的に連絡をよこすこと。

 単純に私が2人の声を聞きたいのもあるし……今回の2人の旅は、外の世界に関する情報収集として期待している部分もあるので、面白そうな話、ないし情報を聞いたら教えるように、と。

 

 また、その『情報収集』の1つにもなるんだろうけど……あの『古城』と同じような、ユグドラシルから来たギルド拠点と思しきものを見つけたら報告してほしい、とも。

 その中でも特に、モンスターが自然POPする、『城』以上の規模のやつを。『古城』と同じように、他にも……第二、第三の収穫スポットが欲しいと思ってたところなんだよね。

 見つけて使えそうだったら、また『流れ星の指輪』を使ってもいいから、レベリング用の施設を兼ねたデータクリスタル畑にしたい。

 

 そして最後に……『出先でよさそうな子見つけたら、信頼できる子なら連れて帰ってきていいよ。孫の顔見たいし』とも。

 親からの孫の催促って、子供には煙たがられる印象あるんだけど……2人はむしろノリノリで、『何人までいい?』って聞いてきた。複数連れてくる気かお前ら(笑)。

 ちゃんと制御できるなら何人でもOKだよ、ハーレムでも逆ハーレムでもどんどん作れ!

 

 

 

【異世界転移204年目 ▲日目】

 

 ここ最近、我が『ニューコロロ空中庭園』では、ちょっと贅沢(?)な悩みが会議の議題に上るようになってきていた。

『古城』で手に入るデータクリスタルについて、『やっぱ品質悪いよな……』と。

 

 そりゃまあ、あそこで自然POPするモンスターのレベル帯のものに限るわけだから仕方ないと言えばそうなんだけど。元々それを承知であそこを『データクリスタル畑』にしたわけだし。

 最初は、そもそも手に入らなかったデータクリスタルが新規に、時間かければいくつでも入手できるってだけで我慢できてたんだよね……。

 

 でも、それを使って100年近くも研究続けてれば、やっぱ『物足りない』ってなるわけで。

 

 加えて、最近、子供達がどんどん成長して強くなってきてる、っていうのもその理由の1つだ。

 

 ユグドラシルにおけるアイテムのレア度、ないし等級は上から順に、『世界級(ワールド)』『神話級(ゴッズ)』『伝説級(レジェンド)』『聖遺物級(レリック)』『遺物級(レガシー)』『最上級』『上級』『中級』『下級』『最下級』の全部で10種類ある。

 この転移後世界においては、『遺物級』で大国の国宝になり、『聖遺物級』くらいの性能があれば、伝説に語られるくらいの強さとして扱われる。

 

 今手に入るデータクリスタルで作れる装備は、『上級』かよくて『最上級』がせいぜいだ。それではユグドラシル基準だと、レベルが2ケタ台後半に入ったあたりで『物足りない』ってなる。

 『双子』は別格としても、他の子供達の中にもそのレベルに届くものが既に出てきている。宝物庫の中のものを適当に見繕ってもいいんだけど、これからさらに需要が増えていくことを考えると……やっぱ『遺物級』や『聖遺物級』を自作できるくらいの素材は欲しい。

 

 いや、素材だけなら、家畜化している『劣化竜王』のそれで何とかなるけど、データクリスタルがね……見合った効果をつけるには圧倒的に足りないんだ。

 

 そこでデミアが提唱してくれたのは、データクリスタルを『育てる』という発想だった。

 

 もちろん、クリスタル自体を育てられる……性能を後付けで向上させるような真似ができるはずもないので、言い方はただのものの例えである。

 正確には育てるのは、ドロップするモンスターの方だ。

 

 まず、データクリスタル畑として使っている『古城』……ここは当初、ギルド拠点として使えるものの、誰も占有していない状態だった。

 クリスタルの収穫も、その状態でやっていた。モンスターさえPOPすればいいわけだから。

 

 そこを、正式にギルドとして『占有』状態にして、内装をいじれるようにした。

 

 オーナー、ないしギルドマスターには、私の孫の1人をならせた。

 私やデミア達NPC、そして私の『子供』までの面々は、所属がこの『暗黒桃源郷』になってしまっているから、『ニューコロロ空中庭園』以外を拠点にすることができない。1ギルド1拠点のルールがあるから。

 私の孫数名と、デミア他、NPC達の子供達数名で『ギルド』を結成させ、そこを占有した。

 

 ギルドの結成自体は、宝物庫にいくつも余っていた『ギルド設立申請書の巻物』っていう専用アイテムが普通に使えたので、それで新規に設立させた。

 

 しかし……なんでこんなもん余ってたんだろ。ギルド作るには1つあれば足りるから、1つ以上入手する必要なんて……ああ、そうだ思い出した。

 あれはそう、まだクランだった頃の私達が、いざ『暗黒桃源郷』を立ち上げる時……

 

 

「よしギルド作ろう!」←当時の私

「「「作ろう!」」」

「『申請書』持ってきたから皆これ書いて!」

「えっラストさんも持ってきたの? 俺も用意してたんだけど」

「えっマジで? 俺も持ってきちゃった」

「僕も……」

「私も……」

「俺も俺も」

「マジか……よし俺も持ってくる」

「バカお前もうこれ以上要らねえよやめろwww」

 

 

 ……打ち合わせ不足が原因で、こんなアホなやり取りがあったんだった。兄弟で同じマンガ2巻も3巻もダブって買っちゃうような喜劇が。

 で、捨てるのももったいないからそのままつっこんどいたんだっけ。

 

 ともあれ、そうしてギルドを結成させた上で、さっき言った通り『古城』を占有してギルドホームにさせた。

 

 ギルドホーム占有システムも生きてたのは意外だったけど助かったな。ギルド組んでたら、最深部に到着した段階で『このダンジョンをギルドホームとして占有する』って選択できたから。

 ……まあ、『空中庭園』でもコストシステムやその他ギルドの管理機能諸々が生きてるんだから、不思議でもないか。

 できなかったらまた『流れ星の指輪』使うつもりでいたんだけど、節約できてよかった。

 

 で、占有したギルドホームの内装をいじって、デミアが望む『研究施設』を作らせる。

 そしてそこに、POPした弱いモンスターを捕まえて閉じ込めて……あるアイテムを使い、そいつらを強制的に成長させる。殺さずに。

 

 出てくるのはレベル20以下の弱いモンスターばかりなので、育てる、ないし強化しようとすれば割とハードルは低い。

 とりあえずレベルが上がりやすい職業(クラス)を適当に取らせて数字を稼ぎ、ある程度強くなったら種族レベルの方も強化して、進化させる。種族にもよるけど、これでレベル40弱まではすぐに上がる。もう少し時間をかければ50くらいまで、根気強く長期間育てれば60くらいまではいける。

 ビルドは滅茶苦茶だから、戦闘性能は数字相当よりだいぶ低くなるけど。

 

 そして、十分育ったら屠殺し、解体して素材は有効利用する。

 

 そして、ここまで全ての工程を『古城』の敷地内でやることで、殺した際にドロップするデータクリスタルのランクが、育てたレベルのラインまで上がるのだ。

 都合がいいことに、数字だけを参照してくれるようで……ユグドラシルで40~60レベル代のモンスターを倒した時にドロップするデータクリスタルを手にできるようになった。

 

 それでも作れるのは『遺物級』か、よくて『聖遺物級』くらいだが……一応はこの世界で伝説扱いされる程度には通用する装備になるわけだし、普段使いにするにはそれで問題あるまい。

 本気装備には程遠くとも、量産できる武器のラインとしては……及第点とするべきだろう。

 

 この『クリスタル強化工場』は、今後の私達の勢力強化のための重要拠点となる。

 

 ただし、この世界の常識から相当外れたことをやっているのは承知だし……色々と手段を講じて隠蔽するとはいえ、もし外部にここの存在が知れたらまずいことになる。

 なので、その場合の対策、というか最終手段も用意してある。

 

 知っての通り、ギルドを作ると、その象徴ともなる『ギルド武器』を作ることができる。これを、『工場』を占有するギルドでも作るわけだが、それを拠点内に置いておく。

 

 そして、もしここの存在が誰かにバレそうになり、隠蔽や口封じも不可能という時になったら……自分でギルド武器を破壊してギルドを崩壊させる。

 そうすればそれにともなって、ギルド拠点も崩壊する。

 

 さらに、施設の痕跡も残らないように、拠点崩壊と同時に発動する自爆装置的なアイテムや設備を作っておくことで、痕跡を全て抹消する。

 

 あまりやりたくない手だけど、いざとなればそれも仕方ない。備えておくべきだし、割り切るべきだ。

 

 そうならないように、隠蔽その他、ここが見つからないための対策も随時強化していかないとな……そうだ、いっそその強化したクリスタルで隠蔽用のアイテムを作るか。うん、それもよさそう。

 

 

 

【異世界転移209年目 ☆日目】

 

 外の世界では、ようやく最近『魔神戦争』とやらが終わったらしい。

 ほんの数年程度、私達にとってはあっという間の時間だけど……それだけの強さを持った怪物達が国をまたいで暴れまわる大惨事、無力な市民達にとっては気が気じゃない数年間だったろうな。

 

 噂に聞いた話では、『十三英雄』とやらが率先して動き、各地を旅してその魔神達を倒して回ったおかげだそうだけど……その『魔神』のうち何匹かは、うちの双子が倒してるんだよね。

 吹聴するようなことはさせてないし、目立つやり方もとってなかったようだから、ほとんど噂にもなっていない。多分、『十三英雄』とやらの英雄譚の中に上手いこと混同されて組み込まれちゃったんだろうな。

 ま、それはそれで好都合だけど。

 

 というか……これ今になって気づいたんだけど、その『十三英雄』、うちの双子と一度接触してるかもしれない。

 

 随分前に、近況報告の『伝言』で聞いた内容の中に……自分達と同じように、『魔神』やその配下の怪物や悪魔達を倒して、人々を助けて回っている集団と出くわした、ってのがあった。

 この世界の人間にしては、相当強そうなのが揃っていた、とも。

 

 ただ、人数別に13人じゃなかったらしいから……すぐにそうだとは気づかなかったんだよな。

 

 しかもその時、『一緒に行かないか』ってそのリーダーっぽい人に勧誘されたらしい。

 もしその団体さんが本当に『十三英雄』だったとしたら、そしてもしそれを双子が受けていたとしたら……うちの子達が伝説の英雄の仲間入りしてたのかもね。

 

 ……たかだかレベル50~60程度のエネミーを倒した程度で伝説にされても……って微妙な気分にはなるけどさ……。

 

 あと、その時の話で一つ気になったのが……何人か勘がいいのがそのメンバーの中にいて、双子がステータスを隠蔽しているのに気づかれたんだって。

 中でも白い鎧の聖騎士っぽいのが妙に鋭くて、双子が『龍の秘宝』の指輪をつけていることまで見ぬいて指摘してきたそうだ。

 

 その時は、指輪の入手経路も含めて、あらかじめ用意してあったカバーストーリーを話してごまかしたし、四重に用意していた偽装の甲斐あって、肝心の正体にまで気づかれた様子はなかったそうだけど。

 

 それ聞いた時に私は、念のため双子をすぐに呼び戻すかどうか迷ったんだけど、それで逆に誰かに何かを勘繰られたらそれもまずいなと思って、一旦様子見とした。

 けどその後、そいつらと関わることはなかったらしいし、『白い鎧の奴』からのアプローチとかも特になかったらしいから、一応バレたりはしてないようでよかった。

 

 ……その『白い鎧の奴』についても、一応調べた方がいいかもしれないな。できる範囲で。

 

 そして、その双子だけども……なんか『魔神』倒し終わっても旅が楽しいみたいで、まだ帰って来てない。

 しかも、どこかの国を拠点にして『冒険者組合』に登録までして、そこで宿とって暮らして気ままにやってるとか……おいおい、顔を売りすぎるんじゃないよ。拠点は特に作らずに旅だけしてる予定だっただろ。

 いや、どうせ『化けの皮』の顔だから別にいいっちゃいいんだけどさ。

 

 まあ、気のすむまで遊び歩いてくればいいよ。危ないことしなければ。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 『白金の竜王』―――ツァインドルクス・ヴァイシオン。

 六大神の時代以前から存在し、この世界において最強といっていい存在の一角である彼は……住処の中で思考を巡らせていた。

 

 正体を隠し、白いがらんどうの鎧を遠隔操作して、『十三英雄』の一角『白銀』として戦っていた頃のことを思い返す。

 みだりに世の中を混乱させないための策であり、その時の『仲間』との協力は、効率的に魔神達の処理を進めるための打算に近いものだったが……思いのほか彼にとっても、それらは楽しい時間だった。

 

 そんな旅の中で、ある時に出会った2人組の剣士について、ふと思い出した。

 

 

『へぇ~! じゃああんたらあの『魔神』とかいうのを倒して回ってるんだ! いやあ、物好きなこと考える奴もいるもんだね!』

 

『いや姉さん、それ全部僕らにも返ってきてるから……あーでも、この先にいた鳥の魔神は僕らが倒しちゃったんで、もういないですよ。横取りしちゃったみたいですいません』

 

 

 『リーダー』を中心に集まった自分達が、それなりの人数で協力して戦い、どうにか倒せていた『魔神』。

 それを彼女達は、たった2人だけで倒して回っていたと知った時は、ツアー自身も驚いたものだった。

 

 『魔神』とは、ユグドラシルからやってきた『六大神』や『八欲王』が連れていた『従属神』……『えぬぴーしー』と呼ばれている者達が、長い時を経て堕落してしまった存在だ。

 その主が長命種ではなかったために、死に別れて取り残され……狂ってしまった下僕達。

 

 当然、『八欲王』クラスではないとはいえ相応の強さを持つ者がほとんどだ。

 力の大小は、いわゆる『ピンキリ』であろうが、総じてこの世界の普通の人間達には、ほぼ手が出ない、戦っても蹂躙されるだけの……それだけの力がある。

 

 だというのに、そんな『魔神』達を相手に、たった2人で戦い、勝ち続けているというのは……素直に驚嘆に値した。

 『リーダー』が共に戦わないかと勧誘していたのも、間違った選択肢ではないだろう。……断られていたが。

 

 しかしそれ以上に驚いたのは、彼女達姉弟から、よく知った同胞の……『常闇の竜王』の力が感じ取れたことだった。

 一体どういうことなのか、まさかあの『常闇』が、変た……変わり者の『七彩』と同じように、人間との間に子供でも作ったのか……と思ったが、蓋を開けてみれば真実は単純なもの。

 

 彼女達が持っていた指輪。それが、過去に『常闇の竜王』が、『始原の魔法』を使って作った指輪……いわゆる『龍の秘宝』だったのだ。

 彼女達が龍の気配を発しているのではない。その指輪の気配が、ツアーの鋭敏な感知能力に引っかかっただけだった。

 それはそれで、『なぜそれを彼女達が持っているのか』という疑問はあったので、少し強引にではあったが問いかけたところ、

 

 

「あー……あんまり人聞きのいい経緯で手に入れたわけではないので、できれば話したくないし、思い出したくもないんですが……どうしても聞きたいですか?」

 

「それは……誰かから奪ったり、盗んだりでもしたのかい?」

 

「はいはい、聞きたいのね。いやまあ、そういう後ろ暗いことをしたわけじゃないんだ。……ここからだいぶ南の方であったことなんだけどね? その時私達、そこそこの大きさの町が、襲われて壊滅させられてたところに通りがかったんだ」

 

「ふむ、ここから南というと……つい最近滅んだあの国かな? その町は、『魔神』に?」

 

「いや、『魔神』とか悪魔の類じゃなくて、亜人だった。普通に人間を食料として襲って食べる系のね。で、残念ながら人間の民の生き残りはいなかったんだけど……亡骸はいくつか残ってたんで、火葬やら埋葬やらして、墓作って弔ってあげたんだよ」

 

「そうか……優しいんだね、君達は。弔われた者達も喜んだだろう」

 

「だといいんだけどね。ただその時に……その街で一番立派な屋敷で、宝物庫を家探ししてさ」

 

「……火事場泥棒?」

 

「だって、放置していても次に来た誰かが持っていくだけだと思いましたし……副葬品としてお墓に入れる案もありましたが、それとて墓荒らしに持っていかれるだけでしょうから」

 

「村ごと滅んでたから、渡して相続させてあげる遺族もいないし……わざわざ他の町で探してやるのはさすがに面倒だった。だから……埋葬してあげた手間賃ってことで、使えそうなものはもらうことにしたんだよ。食料とかは武器は、襲った亜人に根こそぎ持ってかれてたけど……」

 

「宝石や貴金属、装飾品などの類には逆に興味がなかったらしく、ほとんどそのまま放置されていたんです。その中にあったのが……」

 

「その『龍の秘宝』か……なるほどね。どうしてそんな場所にそれがあったのかはわからないけど……ちなみにそれ、譲ってもらうことはできるかい?」

 

「普通にお断り」

 

「僕もです。気に入ってますので」

 

「……だよねえ」

 

 

 

(『始原の魔法』で作ったアイテムは、人の身には余るもの……だけれど、あの指輪程度なら、それほど大きな力もこもっていないし、大丈夫だろう。あの双子も、まだ何か隠していそうではあったけれど、邪悪な気配はしなかったし……隠していても感じ取れる範囲では、そこまで大きな力を持っているようには見えなかった)

 

 ひとまず、あの双子についてはこれ以上考えなくていいだろう、とツアーは結論付けた。

 確かに強者だったと思うが、おそらくは、『十三英雄』の旅の終盤における、立派に成長した『リーダー』達は、あの時の双子を超えていたと思うし……それと比してさらに強い力を持つ自分であれば、仮に何かあったとしても対処は容易だ。

 『龍の秘宝』のことも含めて、まずは放置でいいだろうと結論付けた。わざわざ探して奪うようなことはしなくともよいと。

 

(もっとも、当の『常闇』の彼がそれを知ったら、何のためらいもなく彼女達を殺して奪い返しそうだけど……その時は彼女達には、運が悪かったと諦めてもらうしかないね)

 

 そういえば、その『常闇の竜王』に関する噂も、ここ100年ほど何も聞かないな、とツアーはふと思った。

 ちょうど今から100年と少し前の『揺り返し』の時にやってきたプレイヤー達を殺したらしいと聞いたが、それきりだ。『七彩』と同じように、どこかに引きこもっているのだろうか。

 

 色々と気になることは多いが、これから先、『評議国』の建国も絡んできて、ツアー自身も色々と忙しくなる。

 守らなければならないものもできてしまったし、しばらくはここを離れられない。

 

 ひとまず今は、『魔神』という世界の不確定要素を取り除けただけでもよしとしよう。

 そうツアーは、ひとり誰にいうでもなく締めくくった。

 

(100年ごとに、神経を使うものだ……『揺り返し』自体が止められない以上、願わくばこの先、やってきた者達が力を使わない、あるいはその使い方を誤らない者達であってほしいものだね……)

 

 

 

 





前話から登場しております『双子』こと、オルガとシーナについて、前の時のラストと同じく、AIでイラストを作ってみましたので掲載します。
蛇足かも知れませんが、参考までにどうぞ。

姉:オルガ(半妖半竜)

【挿絵表示】


弟:シーナ(半妖半竜)

【挿絵表示】
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