オーバーロード 傾国狐の異世界日記   作:破戒僧

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長くなりすぎて間に合わなくて遅くなりました……反省。

それと、長くなった分を2話に分割したので、この後投稿の話と合わせてごらんください。
どうぞ。


原作100年前 普通に迷惑な奴ら(前編)

 

 

【異世界転移 300年目 〇日目】

 

 この世界に転移して300年。

 そろそろ次の『揺り返し』だな、何が起こってもいいように準備しないとな……って備える前にトラブルが起こっちゃった件。

 

 しかも多分これ、『揺り返し』とか関係なくただの偶然というか、不幸な遭遇戦だった。

 ……偶然、で片付けていい規模では決してなかったと思うけど。

 

 だって相手『竜王』だよ。また竜王。

 約200年弱ぶりに、この転移後世界で最強クラスのバケモンと戦うことになっちゃったんだよ、また……偶然で。

 

 まあ倒したけど。

 

 何だったっけ、『朽棺の竜王(エルダーコフィン・ドラゴンロード)』っつったか、あのアンデッド竜王。

 本名も名乗ってたけど……長いから忘れた……キュア……キュアイー、ジス? 違うな、なんだっけ。ダメだ思い出せん。まあいいか。

 

 昔戦った『常闇』は、ただ殺意MAXのプレイヤー絶対殺すマンで、ほとんどこちらと会話しようともせず殺しに来たから、こっちとしても特に言葉を交わすことなく狩った感じだった。

 その後、ベッドの上では色々と饒舌になってくれたけどね。

 

 一方で今回の『朽棺』の方は、何ていうか……わかりやすく傲慢で、弱者を見下した感じだったな。饒舌、ってほどじゃないけど、こっちを馬鹿にすることに余念がなくて、しかも悪意からとかじゃなく、心の底から本気でそう思って、万物を見下してる感じ。

 

 こちらの戦力を……隠蔽してるとは言え見抜くこともできず、警戒することもせず、偉そうに講釈垂れてた時点で、『残念な小物だな』って印象だったけどね……。

 実際その後、特にいいところもなく仕留められちゃったわけだし。

 

 もっとも、こっちはこっちできちんと『対・竜王』を想定してガチガチに準備固めて、戦闘の前に半ば勝利を確定させたような形で挑んだわけだから……結果としてはこの勝利は当然だと思ってるけど。

 

 

 

 きっかけは、あのアンデッド竜王の迷惑行為が発端だった。

 

 ちょっと遠くになるんだけど、かなり大きめの未発見の遺跡が見つかった、っていう話が人間の国のいくつかで流れていた。

 時期が時期だったので、もしかしてもうユグドラシルから誰か、あるいは何か来たのかと思って調査することにしたんだけど、遠すぎてアカネやサンゴの下僕達に調べさせるのが難しい。

 同じ理由で『遠隔視の鏡』を使うのも無理っぽかったので、実際に人員を派遣することになったんだが……それを、オルガとシーナの2人に頼んだんだ。部下数名つけて。

 

 結果から言えば、その遺跡は全然何もユグドラシルとは関係のないもので、ただ単に今まで見つかっていなかっただけの遺跡だったんだけど……『それでも一応』ってことでそれを調べている途中に、突然、オルガとシーナ以外の部下達がほぼ全員死んだ。

 本当に、何の前触れもなく、突然だった。生き残ったのは、双子と……部下の中でも比較的強かった者数名。特に、『即死攻撃』に耐性を持っていた者。

 

 しかも、死んだ部下はアンデッドになって復活し、そのまま襲い掛かってきたという。

 わけがわからない中で、ひとまずそのアンデッド化した部下達を制圧した後、遺跡の外に出たところで……その『朽棺の竜王』が襲ってきたらしい。

 

 後になってから分かったんだけど、部下達がいきなり死んだのは、その竜王が発動した『始原の魔法』のせいだった。

 周囲の超広範囲から強制的に魂を強奪して自分のものにすると同時に、それによって即死した者達をアンデッドに変え、アンデッドの竜王である自分の下僕として使役するっていう、とんでもなく迷惑な技。

 

 その範囲内に居ながら死んでいない奴がいる、ってことに気づいてやってきた結果遭遇したんだが、生き残ってた双子達に対して、今ので死んでないのは生意気だとか目障りだとか好き放題罵詈雑言かました挙句、そのまま殺そうとしてきた。

 自分が殺した部下達――言い忘れてたけど、部下と言いつつ私の子供や孫も……すなわち双子にとっての『家族』も含まれていた――についても詫びの一言もないばかりか、『そいつらは私がアンデッドにして下僕にしたのだからさっさとよこせ』的なことを言ってきたので、双子、マジギレ。

 

 同時に、拠点で伝言(メッセージ)でその報告を受け取った私、マジギレ。

 

 襲い掛かってきた『朽棺の竜王』を、本気出した双子が相手をしている間に、アンデッド化してしまった者達を含めて、双子以外の部下達を『転移門(ゲート)』で回収。

 それと入れ替わりで、完全武装した私と『六道輪廻』(留守番頼んだカリン除く)が現場に駆けつけて、舐めた真似してくれやがったゾンビ竜王を袋叩きにした。

 

 強かったとは思う。素の戦闘能力はもちろん、使ってくる技も凶悪なのが多かったし……単純な実力で言えば、『常闇の竜王』よりも上だった。

 前情報とか備えなしでの遭遇戦だったら、苦戦した可能性は否定できない。

 

 けどこっちは、その『常闇の竜王』から、事前に有用そうな情報を根こそぎ引っ張り出してた。

 

 竜王が使う『始原の魔法』には、問答無用で相手を即死させたり消滅させるような理不尽なものもある……が、それらは同じく『始原の魔法』を使うか、『世界の護り』を使うことで防ぐことができるってことも。

 すなわち、『始原の魔法』やその応用技術を使って戦える双子にとっては怖くないし、そうでなくとも世界級(ワールド)アイテムを持っていけば怖がらなくていいってことだ。

 

 だから、私+『六道輪廻』は、全員世界級アイテムを持って『世界の護り』を発動させた上で殴りこんだ。

 結果、あいつが使ってきた魂の強奪も、ヤバそうな黒いビームのブレスも無効化できた。

 

 黒ビームは……【滅魂の吐息】とかいう名前だったけど、触れたものを問答無用で消滅させる力をもったヤバい技で、サンゴやアカネが召喚した眷属や下僕達が、生物・無生物を問わず一撃で消し飛ばされてしまったのはさすがにびびった。

 

 他にも、何十万という数の配下のアンデッド達を一斉に襲い掛からせて来たり、そいつらを自分が吸収して150mくらいの大きさの超巨大なドラゴンになったり、『始原の魔法』でめっちゃ強化した体術で攻撃してきたり、色々やってきた。

 

 けど、全部正面から叩き潰した。

 

 アンデッドの軍団は私が耐性貫通で全部『魅了』してそのまま反逆・特攻させた。

 

 巨大化は的が大きくなっただけ。広範囲殲滅系の魔法やスキルでかえってダメージが出た。

 

 能力強化した上での体術は、当たらなければどうということはなかったし、当たっても『武装硬化』でどうにかなった。

 

 1つ、また1つと自分の手札が潰されていく中で、『貴様らのような存在が許されていいはずがない!』『おのれ竜帝の汚物共めが!』とかなんとか、泣き言妄言負け惜しみが飛び出してくるようになってしまった時には、さすがに苦笑せずにはいられなかった。

 自分の思い通りにならなかった途端にキレ散らかしてこんな風になるとかね、ダサいにもほどがある。

 

 そしたらやっこさん余計にっキレて、『プレイヤーなんざ怖くねえ野郎オブクラッシャー!!』って感じでむきになって突っ込んできた。いや~……わかりやすくカモ。

 

 竜王ってこんな風に頭残念な奴でもなれるんだな、と思うと、なんとも言えない気分になった。

 

 

 ☆☆☆

 

 

「おのれ薄汚い『ぷれいやー』共め! この世界の理にはんぐぶほっ!?」

 

「ガタガタうるせえサンドバッグだなおい! 別にいらねえぞおしゃべり機能なんざ!」

 

『武装硬化』で黒く染まった足でミルコが叩き込んだ踵落としが直撃し、強制的に口を閉じさせられる『朽棺の竜王(エルダーコフィン・ドラゴンロード)』……キュアイーリム・ロスマルヴァー。

 竜王としてさらなる力を手に入れ、『始原の魔法(ワイルドマジック)』と『位階魔法』の両方を修めたこの身には、最早敵などない。『ぷれいやー』など何人いようと物の数ではない。

 そう、思っていた。ほんの十数分前までは。

 

(バカなぁあ……ありえぬ、ありえぬぞ!)

 

『朽棺の竜王』は、激しく動揺していた。

 

 たった今自分の頭を盛大に揺らしたミルコの蹴りが、想像をはるかに超える威力だったから……ではない。

 その威力を生み出している、ミルコの『武装硬化』が……明らかに、『始原の魔法』に類する技であることを感じ取ったからだ。

 

(なぜ竜でない者が……しかも、よりにもよって『ぷれいやー』や『えぬぴーしー』が『始原の魔法』を使える!? こ奴らまさか……また世界の理を歪めたのか!?)

 

 今から数えて400年前、『八欲王』の時代に起こったことを、竜王は思い出していた。

 その悪行は、真贋定かでないものを含めれば数えきれないほどだが、最も許しがたいことは……『世界を揺るがす強大なアイテム』によって既存の理を書き換え、この世界に『位階魔法』を出現させたことだ。

 

 その影響で、それまであった世界のシステムが一部書き換わってしまい、巻き添えを食う形で、『竜王』達の既得権益であり、同時にその力の象徴でもあった『始原の魔法』の使用や習得に大きな制限がかかってしまった。

 

 結果、それ以降、『始原の魔法』を習得し、『真なる竜王』となる者は現れなくなった。

 さらに、今既に『始原の魔法』を習得している自分達にも、それまでなかった制約が課されるようになり、苦しむことになった。

 

 何百年経とうとも、その憎しみが消えることはない。薄れる気配すらない。

『朽棺の竜王』は、赤い瞳でぎろりと『ぷれいやー』達をにらみつける。

 

「汚らわしい『竜帝の汚物』共め! 貴様らは存在そのものが許されんのだ……これ以上世界を穢す前に、我が爪にかかって骸をさらすがいい! 【竜力】!」

 

 また新たな『始原の魔法』を行使する。

 同時に、代償としてその身に蓄えていた『魂』がすり減り……その全身を覆う形で黒い光のようなオーラを纏った。

 

 物理攻撃の威力を大きく引き上げるその技の脅威度は、ラスト達も既に見てよく知っている。

 数分前にそれを使われた時には、サンゴとアカネが召喚したタンク役のモンスター達がまとめて粉砕され、バフを重ねがけしたヤマトでさえも、防御の上から無視できないダメージを負った。

 

「そのまがい物の『始原の魔法』もどきと、本物との差を思い知らせてくれる!」

 

 白い大蛇を思わせる巨体を大きくしならせ、その長大な尾に黒いオーラをまとわせて薙ぎ払ってくる。

 

 内心で『爪は!?』とツッコミを入れているラストの前に、彼女をかばう形で、2つの黒い影が飛び出した。

 

「「【不朽の竜鱗】!」」

 

 その2人……オルガとシーナは、それぞれの武器……大太刀と双剣を目の前で構え、攻撃を受け止めて防御する姿勢を取る。

 発動したのは、武技『不落要塞』をもはるかに超える最強クラスの防御技。『武装硬化』と同じく、自分達に合わせる形で改良して習得した、『始原の魔法』の応用技である。

 

 凄まじい音を立てて激突して来た巨大な尾を、オルガとシーナは、大きく押し込まれはしたものの……ほぼ無傷で受けきって止めて見せた。

 

「小癪な……ぬぅっ!?」

 

 苛立ちを募らせる『朽棺の竜王』の目の前で、さらに起こる異変。

 双子の後方にいるラストを中心に、巨大な光のドームのような魔法陣が展開した。

 

「その技を知っているぞ『ぷれいやー』! むざむざ使わせると……」

 

 言い終わる前に、ラストは手に持っていた砂時計のようなアイテムを握りつぶした。

 

 本来であれば、発動までに長い時間を要する『超位魔法』。それを知るがゆえに、発動前に攻撃して詠唱を失敗させようと目論んだ竜王だったが、ラストが使った『課金アイテム』によって、その目論見はあえなく潰えた。

 

「『失墜する天空(フォールンダウン)』!!」

 

 魔法は即座に発動し、天が落ちて来たかのようなすさまじい光と熱と衝撃が、『朽棺の竜王』に直撃する。

 普通の位階魔法を大きく突き放す威力の、しかもアンデッド特効のある『失墜する天空』をモロに食らった竜王は、さすがにそのダメージの大きさにぐらついた。

 

「お母さん! 『アレ』……使っていいよね?」

 

 隙をさらしている竜王を見て、双子のうちの姉……オルガは、ちらりと後ろの母・ラストに視線をやり、そう問いかける。

 それを受けて、ラストはにっこりと笑って頷いた。

 

「いいよ。ちょうどいいサンドバッグもあることだしね……思いっきりやってみな!」

 

「よっしゃあ! やるよシーナ、初の実践投入だ!」

 

「訓練以外で出番がてんでありませんでしたからね……ある意味いい機会です」

 

 普段から明るく元気な性格のオルガだけでなく、落ち着いていて冷静なシーナにも、隠しきれない『わくわくしている』とでも言いたげな喜色が顔に浮かんでいた。

 そのまま2人は、自然体に構えて呼吸を整え、心を落ち着けて集中する。

 

『失墜する天空』の大ダメージを歯を食いしばって耐えた竜王が、その2人を見て、何かする気かといぶかしむ視線を向ける前で……

 

 

 「「【魂 殻 変 化】!!」」

 

 

 瞬間、オルガとシーナの体からすさまじい力が迸り、2人の体が強烈な黒い光に覆われたかと思うと……その姿は、一瞬にして全く違うものに変化していた。

 

 狐の耳と尻尾以外は人間と変わりない、と言ってよかった元の姿とは全く違う。

 骨格こそ人間のそれではあるが、その姿はいわば、二足歩行の黒い狐、だった。

 

 しかし、両腕の肘から先と両足の膝から下は黒い竜の鱗に覆われており、まるで手甲と具足のように手足を守っていた。手の指先には、竜のそれを思わせる、凶悪なまでに鋭い爪が伸びている。

 

 顔にはわずかに人としての面影も残っており、完全な獣の顔……というよりは、獣人などのそれに近い。眼は瞳孔が縦に長く、爬虫類を……いや、竜を思わせるそれだった。

 

 そして、変身前からの大きな特徴だった耳と尻尾は……耳はよりピンと立って、尻尾はより大きくなった上に、その本数はそれぞれ6本にまで増えていた。

 

『朽棺の竜王』は、大きく姿の変わった双子の全身から、『始原の魔法』を思わせる気配が漂ってきているのを感じ取り、ますます苛立ちを募らせる。

『竜帝の汚物』が、自分達『竜王』にのみ許された『始原の魔法』を、まがい物とはいえ我が物顔で使う厚かましさ。どう償わせてくれようか……などと唸って牙をむいた……次の瞬間。

 

「「【連携武技】―――」」

 

 

 

 「「―――【双竜絶咬】!!」」

 

 

 

 目にもとまらぬ速さで飛び出した2人が、同時に振り抜いた黒い刃によって……『朽棺の竜王』の翼のうちの一枚が根元から断ち切られ……地響きを立てて地面に落ちた。

 左右で体の重さが違ってしまったその感覚に、目の前で力なく落ちて来た、先ほどまで自分の一部だったはずのものを前に、愕然とする竜王。

 

「き、きさ、貴様らぁあぁあああ!!」

 

 

 

『魂殻変化』。

『武装硬化』と同じく、『始原の魔法』を応用した戦闘技法。

 

 一言でこれを説明するならば、それは『強化変身』である。

 

 己の中の異形種としての力を解放し、体を変化させると同時に……『始原の魔法』で『魂』の力を練り込むことで、変化した肉体そのものを、魂の力を帯びた『装甲』とするもの。

 

 この『魂の装甲』……『魂殻』に変化した肉体は、常時『始原の魔法』による肉体強化を最大限発揮しているに等しい状態となる。攻撃力、防御力、機動力の全てが爆発的に上昇し、戦闘能力は変身前とは段違いのそれになる。

 

「潰れろ!!」

 

「もうそれは効かないよ……【不落要塞】!」

 

 みたび振りぬかれる巨大な尾を、今度はオルガが1人で、その手の大太刀でもって止める。

 しかも、使った技は『不朽の竜鱗』よりも格下の武技『不落要塞』。それで止めることが可能となってしまうほどの、『魂殻変化』によるステータスの強化。

 

 その隙にシーナは懐に飛び込み、目にもとまらぬ速さで両手の双剣を振るい、竜王の白い体を切り刻んでいく。

 切り刻みながらその体を駆け上がって頭上に飛ぶと、双剣を『武装硬化』で黒く染め、

 

「奥義……【天翔蒼破斬】!!」

 

 バリバリと空気が引き裂かれるかのような音を響かせながら振り下ろし、竜王の背中に『×』の字の巨大な傷を作った。

 そのダメージにさらにひるんで隙ができた竜王の喉元めがけて、体ごと大回転しながらオルガが飛び込んでいく。口元の、龍か獣かわからないが、鋭い牙を見せつけるように笑いながら、回転の勢いに乗せで何度も斬りつけ……とどめに、

 

「奥義……【気刃大回転斬り】!!」

 

 連撃によって『気』を練り上げ、威力を増していたその大太刀の一撃で、もう片方の翼を切り落とした。

 

「ぐあぁぁああっ!? お、おのれ……おのれぇぇえ!!」

 

 

 

『朽棺の竜王』の膨大な体力(魂)ゆえに、戦いはそこからさらに長く続いていたが……依然として竜王は、目の前にいる不届きな者達を、1匹たりとも撃ち落とせてはいなかった。

 

 逆に竜王の体には、大小無数の傷が刻まれている。

 

 ミルコの足とヤマトの金棒で牙や爪は折られ砕かれ、全身を打ち据えられていた。

 オルガとシーナが振るう黒い刃が何度も走り、全身を傷だらけにし、翼も奪われた。

 攻撃のわずかな隙間を埋めるように、サンゴとアカネが次々呼び出す下僕達が殺到して妨害してきて、思うように攻められなかった。

 時折出来てしまう大きな隙を見逃さず、後方からラストとデミアが放ってくる強力な魔法に何度も身を焼かれた。

 

 猛攻をしのぐために使った『絶縁の結界』……相手の攻撃を遮断するバリアだが、まるで何もないかのように素通りされて攻撃がその身に届いた。蹴られ、殴られ、斬られた。

 

 乾坤一擲の一撃として放った『滅魂の吐息』は、召喚されて出て来た下僕達をまとめて消滅させることはできたものの、肝心のラスト達は全員けろっとしていた。

 それどころか、黒い双子などは、その漆黒のビームを切り裂きながら踏み込んできて、竜王の口を大きく裂くように左右に斬りこみ、制御を乱した『滅魂の吐息』を暴発させて大きくたたらを踏ませた。

 

『朽棺の竜王』は、その身を、存在を支えている『魂』が――さっき補充したばかりだというのに――残り少なくなってきているのを感じ取っていた。もうこれ以上『滅魂の吐息』は撃てない。

 

 人間の国1つくらいなら軽く滅ぼせているであろう力をもう何度も振るった。

 だというのに、消耗するのはこちらばかりで、憎き『ぷれいやー』達は……人数がいることを差し引いても、揃いも揃って応えていない。

 全てを滅ぼすはずの『吐息』も、全く通用しなかった。

 

(『世界の護り』によるものか……!? しかしあれらは『ぷれいやー』共にとっても簡単に手に入るようなものではない秘宝のはず……)

 

 かつて戦ったプレイヤー達……『八欲王』や、その後にこの世界に来た者達が言っていたことを信じるならば、『世界の護り』をもたらす強力なアイテム……『世界級(ワールド)アイテム』は、プレイヤー達にとっても秘宝中の秘宝。

 強大な力を持つ『ギルド』であっても、1つ持っていれば上出来、複数持っているものなどそうそういないという話だった。

 

 そんな秘宝を、ここにいる全員が持っている? 『滅魂の吐息』が効かなかったということは、そういうことになるが……もし、もしそうでないのなら……

 

(いや、違う……そんなはずはない!)

 

 もしこれが、アイテムによる『護り』でないのなら……この者達は、自前の力で『滅魂の吐息』を防いだことになる。

 それはつまり、所詮はまがい物だと思っていた『もどき』が……自分達『竜王』の使う『始原の魔法』と同等か、あるいは上回っているということになって……

 

(そんなことがあるはずがない……あっていいはずがない! 世界を穢す、薄汚い『ぷれいやー』共が、我ら竜王の領域に自ら足を踏み入れただと!? そんなことを……認めるわけにはいかん!!)

 

「『ぷれいやー』……世界を穢す、おぞましき汚物共めが……!」

 

「まーたそれ……何回同じこと言うのよ。他に言うことないのこのゾンビ蛇?」

 

 呆れたようにオルガが言いつつ、隣に立つシーナ共々、何かしてくるなら迎え撃つつもりで構えを取る。

 

 苛立ちを募らせている竜王だったが、何も言い返すことはせず、『【竜力】……!!』と、己の体に強化魔法を重ねがけした。

 

 その時、それと同時に……ラストのすぐ横に、『転移門(ゲート)』の暗黒環が現れ、彼女達の視線が『ん!?』とそれに向いた。

 

「遅れてすいません! クリムヴェール、ただいま到着しました!」

 

「あ、クリム今来たんだ。お疲れ様」

 

 中から出てきたのは、中性的な見た目の金髪の天使の少年……クリムヴェール。

 今回の敵が『アンデッド』だとわかった時点で、ラストが特効の攻撃手段を持つ彼を呼んでおいたのだ。

 

「やけに遅かったね、忙しかった?」

 

「いえ、その……連絡をいただいた時、スキル関係の検証実験中で、魔力をかなり消費してしまっていて……満タンまで回復するために、他の人から『譲渡』してもらっていたんです」

 

 それを聞いたラストは『ああ、なら仕方ないね』と納得しつつ、

 

「じゃあクリム、来たばっかでさっそくなんだけど……アレのバフちょっと引っぺがしてもらっていい?」

 

「はい? うわっ、大きいですね……聞いてはいましたけど、ここまでとは」

 

 クリムが目を向けた先では、話している最中のラスト達を攻撃しようと突っ込んできた『朽棺の竜王』が、双子に止められて進めないでいる光景があった。

 

 大きさが大きさなので、さすがにちょっと動揺したようだったが、クリムは虚空から、金と銀で装飾された荘厳な見た目の弓を取り出すと、キリキリと引いて……放つ。

 

 放った矢は、『えいやっ』というかわいらしい掛け声に似合わない、レーザービームのような速さと勢いで飛んでいった。

 しかし、竜王めがけてではなく……そのはるか上、空高く、雲の上まで飛んで行って……見えなくなった。

 

 しかし、これは別に攻撃を外したわけではない。クリムの攻撃は、この後……矢が飛んでいった空の果てから降ってくる。

 

「『天国の門(ヘブンズゲート)』っ!!」

 

 直後、まるで雲の隙間から差し込む陽光のような、神々しくやわらかな光が竜王に降り注いだ。

 

『熾天使』のみが使えるスキル『天国の門』。アンデッド特効の神聖属性の広範囲攻撃。

 威力自体はそこまで高くないものの、広範囲を一度に攻撃でき、さらには相手の体の大きさによっては多段ヒットする仕様となっているため、体の大きな相手であればその分ヒット数が積み重なり、結果的に大威力の攻撃になる。

 

 そしてそれに加えて、抵抗(レジスト)に失敗した相手から、バフを根こそぎはぎとる効果があった。

 聖なる光に身を炙られて苦しむ竜王の体から、黒いオーラがかき消されるように失われていった。

 

 ……が、異変はその直後に起きた。

 

 

 「ぐ、がぁぁああぁあああっ!?」

 

 

「「「……ん?」」」

 

 ちょうどクリムが放った『天国の門』の効果時間が切れ、光が消えた頃になって……突然、『朽棺の竜王』が身をよじって苦しみだした。

 

 様子がおかしいことに気づいたデミアが、魔法で竜王の状態を確認する。

 すると、もう攻撃は終わっているはずだというのに……目に見えてその生命力が、『魂』が削れていっていることに気づいた。

 

「え、何これどういうこと? クリム君何かした?」

 

「い、いえ何も……普通に攻撃して強化を解除しただけなんですけど……」

 

 誰も何も心当たりがない。

 ただ、勝手に竜王が苦しんで、力を失っていっている。

 

「バカな……力が、抜ける……!? 私の力が、魂が……失われる……お、おのれ……『ぷれいやー』共めがぁああ……!」

 

 いつの間にか立つこともできなくなってしまったらしい。『朽棺の竜王』は、その長大な体を大地に横たえ、身じろぎするのもつらそうにして……視線を上に、未だ空中に浮いて立っているラスト達に向けることもできずにいた。

 

「私が、私でなくなる……!? 終わるのか、こんな形で、私が……竜王であるわた……が……嫌だ、消えたくない……間違て、いる……こんな、あっていい、はず、が、ァ……! ……!」

 

「もしもーし? 最後くらいちゃんと会話しない?」

 

「姉さん、多分もうアレ聞こえてないです」

 

 気付けば、動かなくなっていた『朽棺の竜王』。

 魔法で調べてみても……その体はすでに、竜王どころかアンデッドですらなくなっていた。返事がないただの屍となって、その白い巨体が横たわっているのみだった。

 

 

 

 

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