オーバーロード 傾国狐の異世界日記   作:破戒僧

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今回はちょっと説明回ちっくな感じになっております。

色々と独自設定……を通りこして、強引なこじつけに感じる部分もあるかもなのですが……ご容赦頂ければ幸いです。


アンデッドでも食事がしたい!

 

 

 場所は、『ニューコロロ空中庭園』、その中心部にある、ラスト達の住む居城。

 そのまた内部にある、賓客歓待用のダイニングに、アインズはいた。

 

 『ナザリック地下大墳墓』にて行われた謁見から数日。彼は今日、供として数名の下僕達を引き連れて、ラスト達のホームである『ニューコロロ空中庭園』にやってきていた。

 その目的は、アインズ自身久しぶりの来訪となり、供のアルベドたちにとっては初めてである、空中庭園の視察と……もう1つ。

 先日ラストによって聞かされたことを……実際に体験するため。

 

 テーブルについているアインズの目の前には、今しがた運ばれてきた料理が置かれていた。

 皿の上に載っているのは、サンドイッチだ。特に手の込んだものではなく、ベーコン、レタス、トマトを挟んだだけのシンプルなもの。

 

 もちろん、それらの材料自体は全て一流の品であるし、パンが水気を吸ってしまわないように今さっき作られたばかりのものである。

 が、供として来ていて、共に席についているアルベド達からすると、『アインズ様に対してこんな安っぽい料理を……?』と不満げだった。

 しかし、当のアインズはと言えば……

 

(うわあ……すごい美味しそう。こんな瑞々しい、新鮮な野菜とか見たことないぞ)

 

 アインズ……もとい、『鈴木悟』が暮らしていたリアルでは、食事とは栄養補給のための手段ないし作業に等しく、それを『楽しむ』などという感覚は忘れ去って久しい。

 少なくとも、低所得層から見れば、『飢えないだけ、栄養が取れるだけで十分』というくらいに、食事と娯楽が結びつかない世界だった。それ自体を『楽しい』と思えるような食事をできていたのは……ある程度以上の富裕層だけだろう。

 

 無論、しがない営業職の1人だったアインズにとっても、それは同じ。

 生鮮食品など、どれだけぶりに見るか……しかも、これほど質のいいものを食べるのは、間違いなく初めてだ。

 

 たしかに、メニューとしては高級感はないかもしれないが、そんなことは問題ではない。

 大事なのは、今目の前にあるこれが自分のものであり、食べられるという事実だけ。

 

(そう……それが一番大事だ。食べられる(・・・・・)、んだよな? 本当に? ()が?)

 

 今、アインズはその体は……骨だけである。胃も腸もなく、食べ物を食べられる体ではなく――そもそもその必要もない――舌もないので味わうこともそもそもできない。

 何かを食べてもぼろぼろとこぼれてしまうだろうし、飲み物など飲んでも全て流れ落ちてしまい、床を汚すだけになってしまうはずだ。

 

 そのはずなのだが……ちらっと横目で、少し離れた席に座るラストにゃんにゃんを見ると……こくり、と迷いなく頷いて見せた。

 

 アインズは意を決して、皿の上のサンドイッチを骨の指でつかみ、口元に持っていく。

 そして、ここ数日間、『食事』という行為とは無縁になってしまっていたその口で、歯で、サンドイッチをかみしめて……食いちぎった。

 

 普通なら、顎の骨の隙間からボロボロとサンドイッチが崩れてしまうだろうところだが……不思議なことにそうはならなかった。

 まるで、骨の体に見えない肉がついているかのように、食いちぎって食べたサンドイッチは口腔内に消え……そのまま、アインズはもぐもぐと口を動かして咀嚼する。

 

 アルベド達が、不思議なものを見るような目でそれを見ている中……ごくん、と、喉を鳴らす音が聞こえて――鳴る喉がそもそもないはずだというのに――アインズはサンドイッチを飲み込んだ。

 そして、たった一言。

 

「……美味い」

 

 その一言だけで……アインズがそのサンドイッチにいたく感激していることが、アルベド達にはわかった。

 主の喜びは、下僕達の喜び。アンデッドの身では味わえない美味をかみしめ、しみじみとその味に浸って感動する主を前に、アルベド達も……先ほどまで、料理のチョイスに不満げにしていたのも忘れて、顔をほころばせた。

 

 

 

 ……なお実際のアインズの心の中。

 

 

()()ぁあぁぁああぁ!! きちんとした新鮮な食材で作ったサンドイッチってこんなに美味いの!? 間違いなく人生で最高なんだけど!? 合成肉でもない普通の肉に、パサパサでもべちゃべちゃでもないふっくら柔らかなパン、レタスだって農薬の味はしないし、てかトマトってこんなでかくて瑞々しいの!? あとこの香ばしい味何? 香辛料? 酸味と苦みと甘みと辛みが全部合わさって、でもすっきりしてて……あーだめだ、何度考えても『美味い』しかでてこない)

 

 

 それを傍で見ているラストの脳内。

 

 

(わかりますよアインズさん……私も初めて天然モノの食材……フルーツとか食べた時は死ぬほど感激しました。今でも思い出せます! 口の中に今までの人生で感じたことのない感覚があふれて弾けて……うんうん、頭の中いっぱいいっぱいな上に語彙が少なすぎて、見事に感想が『美味い』だけになるんですよね~……でも、まだまだこれからですよぉ!)

 

 

 その後アインズは、最初のBLTサンドに加え、さらに2皿……定番?のたまごサンドと、アメリカンなグリルドチーズサンドイッチを食べ、満足し……何もないはずのお腹が『いっぱいになる』という感覚を味わいながら、ひと息ついたのだった。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 アインズに加えて、お供としてついてきたアルベド、マーレ、ソリュシャンの3人も、主のそれに遅れて出てきた自分達の料理に舌鼓を打ち、存分に楽しんだ後……前述のとおりひと息ついてから、話は始まった。

 

「心から礼を言うぞ、わが友よ。これほどの感動、久しく覚えたことはなかった。飲食など、普段は私にとって不要なものではあるが、中々どうして侮れんものだなと痛感した。なんとも新鮮で、素晴らしいひと時だった。あれが……他者の命が、そのまま力に変わる瞬間というものか」

 

「お喜びいただけたようで何よりです、アインズ殿」

 

 食後、控えていたメイドが持ってきてくれた食後のコーヒーを飲みながら、『これも美味ぁ…』と感動していたアインズ。味はもちろん、鼻に抜けていく芳醇な香りがたまらない。鼻ないのに。

 どうにかそれらしい言葉を選び、支配者ムーブを崩さないようにしながらも、この機会を与えてくれたラストに精一杯の感謝を告げていた。

 

 そして同時に、やはり気になってしまっていたことに話は移る。

 アンデッドである自分が、なぜこの『空中庭園』では飲食ができるのか、味もわかるし満腹感まで得られるのか……という点について、アインズはラストに尋ねた。

 

 当然、その質問はラストも来るだろうと予想していたので、その答えはもちろんのこと……それをいかにして説明するか、という道筋も既に用意してあった。

 

「それについて説明するにあたりまして……順序だてて説明する必要がありますので、いくつか回り道をすることになっても構いませんか?」

 

「構わない。わかりやすく説明してもらった方が、こちらもありがたい」

 

「ありがとうございます。では、まず最初に結論から申し上げますと……この現象は、私の持っているとある職業(クラス)と、それによって得られたスキルが関係しております」

 

「ほう」

 

(ラストさんの持ってる『職業』で、飲食に関係しそうなものなんてあったか?)

 

 アインズとラストはプレイヤーとして交流する中で、互いにある程度ビルドを把握していた。

 というか、『師匠』としてアインズが色々とアドバイスをしていたこともあって、ラストの職業もスキルもアインズは大体把握していると言っていい。

 しかしそんなアインズでも、この異世界に来て多少なり仕様が変わったのかもしれない、ということを差し引いても、関連しそうなものが思い浮かばない。

 

 なので、大人しく続きを聞くことにした。

 

「それについて説明させていただく前に……1つクイズを」

 

「クイズ?」

 

「はい、クイズです。もちろん、説明するために必要なことなので……もしご不快でしたら飛ばしていきなり次の『結論』から入りますが」

 

「いや、面白そうだ……続けてくれ」

 

「わかりました。では問題です、アインズ殿。あなた方がこの『ニューコロロ空中庭園』にいらしてから今まで、メイドや執事などの使用人達と何人か会ったと思いますが……彼ら彼女らについて覚えておいでですか?」

 

(え、いや、さすがにそんなの覚えてないぞ……ただまあ、すごく色々な種族がいるな、くらいには思ったけど)

 

 考え込んでみたものの、やっぱり思い出せないので、アルベドにそれとなく聞いてみると……さすがはナザリックでも3本の指に入る頭脳の持ち主だけあり、さらりと回答が帰ってきた。

 それによると、会ったのは以下のような面々だという。

 

 まず、空中庭園の敷地に入ってすぐに乗った馬車の御者。入り口から中心部の城まで距離があったため、移動に馬車を使ったのだ。その御者……種族は、エルフだった。

 

 次に、城の前に立っていた門番2人。左右にそれぞれ1名ずつ、蜥蜴人(リザードマン)とケンタウロスの2人がいた。

 

 城に入ってからは、食堂に案内してくれた死霊(レイス)のメイド。

 さらに、出番はなかったものの、荷物持ちを申し出てくれた吸血鬼(ヴァンパイア)とハーフゴーレムの使用人がいた。

 

 移動中に何人か使用人やメイドとすれ違ったが、そこまではカウントしなくていいらしい。

 

 そしてこの食堂で配膳などを行ってくれていた、ラミア、ダークエルフ、そして妖狐の3人のメイド。

 合計9人。

 

「ではアインズ殿。この9人の中で……私の実の子供は何人いるかお分かりになりますか?」

 

「は? ラストさ……ラスト殿の、子供?」

 

「はい。私が産んだ、血のつながった子供です」

 

『……あの、これホントに飲食の話に関係あるクイズなんですか? それ以前に、そんなに何人も子供産んでるんですか?』

 

『関係ありますよー。それに、400年もこの世界でやってれば、それなりに多く家族もできますって』

 

 思わず『伝言(メッセージ)』で聞いてしまったのだが、そうさらりと返されてしまう。

 

 アインズとしては、そもそもあの初日のやり取りの中で、ラストがいつの間にか経産婦になっていたということにまず驚かされたことが記憶に新しいのだが……たしかに400年も時間があれば、そういうことになることも……まああるのかもしれないと思っていた。

 人間だって、数十年しかない寿命の中で3人も4人も生む人だっているのだし。

 

(それなりに多く、って言ってたな……どのくらい増えたんだろ? 聞いてみたいけど、これってセクハラになったりしないかな? いや、自分からクイズにしてんだから大丈夫だと思うけど)

 

 気になりつつもアインズは思考をクイズに戻す。

 

「ああそれと、先にヒントを1つ。今言った9人の中で、後天的にアイテムなどを使って種族を変更した者はいません」

 

「……なるほど。であれば……だいぶ絞り込めるな」

 

 今のヒントで、吸血鬼、死霊、ハーフゴーレムの線はなくなった。

 前者2つはアンデッド、後者は無生物の異形種だ。生殖して増えるものではない。生まれつきその種族ということがありえない以上……後天的な種族変更がないのなら、この3人は違う。

 ……中でも死霊など、そもそも実体がないゴースト系種族なのだし。

 

 残る種族のうち、アインズはラミアも除外した。あれは確か、卵生だったはずだ。

 

 それと、ケンタウロスとリザードマン。あまりにも体構造が違いすぎるこの2種類も迷った。

 子供を産むということは、『そういうこと』をするということだ。一応、できなくはないのかもしれないが……絵面が……

 

(エロゲーの類だとしてもレベルが高すぎる気が……ペロロンさんやタブラさんでも守備範囲に入るかどうか微妙だ。というか、個人的にあんまりそういう無茶していてほしくない……)

 

 『エロゲーイズマイライフ』の座右の銘を持つバードマンや、設定魔でありギャップ萌え界隈の雄であるブレインイーターを思い出してそう思うアインズ。

 

 自分が育成を手伝い、外見の調整に関しては、ぶくぶく茶釜やペロロンチーノをはじめとした何人かのギルメンが携わった、目の前の狐耳美女の姿を改めて見て、彼女がもしかしてケンタウロスやリザードマンと……とか考えると、興奮よりも先にまず『えぇ…』という気分になる。

 願望を優先して、その2種族も除外した。

 

 結果、残ったのはエルフ、ダークエルフ、妖狐の3人。

 そう回答したアインズだったが、結果は……

 

「残念、不正解です。正解は―――

 

 

 

 ―――9人全員私の子供です」

 

 

 

「…………はぁ!?」

 

 

 ☆☆☆

 

 

 出産で増えるはずがない吸血鬼、死霊、ハーフゴーレム。

 卵生であり哺乳類との生殖ができないはずのラミア。

 体のつくりが違いすぎるリザードマンやケンタウロス。

 同族or一応形が近い妖狐、エルフ、ダークエルフ。

 

 一応ありそうなものから、どう考えてもありえなさそうなものまで種族が並んでいるが、ラストの言葉は嘘ではない。

 9人全員、彼女がお腹を痛めて生んだ、血のつながった子供達である。

 

 というか、より正確に言えば、先ほどカウントしなかった『すれ違っただけ』『遠目に見ただけ』の使用人達も入れてなお、今日アインズ達の視界に入った使用人達は、全員ラストの子供だった。そのように配置していた。

 

 人数もさることながら、種族的に『子供として生まれることがありえない』種族が混じっている点について、アインズ達は大いに驚いたが……当然、これには理由がある。

 そしてその理由こそが、今ラストが説明しようとしている、『アンデッドなのに飲食が可能な理由』にも通ずるものだった。

 

 ラストがこの世界に来てからこちら、400年間通して、最も猛威を振るっている職業の1つ……『万魔の母(エキドナ)』。

 異世界転移により微妙に性質が変わり、『産んだ子供に全能力+レベルキャップの永続バフを与えて強化する』という性質を発揮しているわけだが、実はそれ以外にもいくつもの特殊効果が存在していた。

 

 例えば、職業保持者が何かしらのギルドのギルド長の座についている場合、ギルドとして(・・・・・・)システムを利用して召喚する傭兵NPCなどに関しても、このバフが適用される、などだ。

 固定配置のNPCについてはさすがに適用外だが、逆にコストだけで召還できる傭兵NPCを強化できるというのは大きく、ユグドラシル時代でも防衛戦などで猛威を振るっていた。

 

 そして、そのユグドラシル時代から共通しての仕様の1つに……『強化可能な種族に制限はない』というものがあった。

 すなわち、傭兵NPCなどの形で召喚したものであれば、アンデッド系やエレメント系など、普通に考えて生殖によって増えるものではないような種族であっても、『子供』とみなして強化できる仕様になっていたのだ。

 

 これに関しては、あまり細かくそのあたりを設定してもゲーム的に面白くないだろうという理由から、ユグドラシル時代にも特に問題となることはなかった。

 ……が、転移後の異世界に来た際に、この『種族関係なく『子供』として強化できる』という点が変調を起こしていた。原因と結果が逆になってしまったのだ。

 

 すなわち、

 

 ①召喚したモンスターは、『万魔の母』保持者の『子供』。

 ②『子供』であれば、アンデッドだろうと種族関係なく強化できる。

 ③ということは、アンデッドも含めたあらゆる種族が『子供』として生まれる。

 ④子供ができるんだから、その前段階であるセックスもあらゆる種族と可能。

 

 異世界に来て、このとんでもない四段活用が起こった結果……ラストの『万魔の母』は、『あらゆる種族と交配して子供を産むことが可能な能力』に変化を遂げた。

 ゆえに、彼女はアンデッドだろうがゴーレムだろうが、子供を作ることができる。できた。

 

 しかも、ここで終わりではなかった。同時に、ギルドそのものにその恩恵が及ぶという前述の隠し効果により……その『子供を作れる』効果までもがギルド全体に及んだ結果、なんと『空中庭園全体が異種族間の交配が可能な環境である』という状態になっている。

 実際に、NPC達のお楽しみの際や、城下町での営みの中でもそれが起こっている。

 

 人間とエルフやダークエルフ程度の『異種族』であれば、『ハーフエルフ』などという種族が存在することからもわかるように、交配による子作りは可能である。

 また、ゴブリンやオークのように、異種族の雌を利用して子を増やすような種族も存在する。

 

 しかし、あまりにも種族として遠く、生殖にかかる特異な性質を持っているわけでもない場合は……交わっても子供はできない。人間とビーストマン、人間とリザードマンなどだ。

 ……もっとも、その2者間で『営み』が起こるかと言えば、そもそも否だろうが。亜人など、人間を奴隷や食料としてしか見ていない者の方が多数派であるのだし。

 

 しかし、そういった現象が『空中庭園』では起こる。移住してきた民達は、種族が何だろうと、避妊せずに交われば、一定の確率で子供ができる。NPCであってもそれは同じだ。

 

 もっとも、この現象が顕在化してきたのは……ある理由で、割と最近のことなのだが。

 

 そして、だ。ここからさらにウルトラC的な現象が起こっている。

 どうやら、『あらゆる種族が交配可能』という点が、さらに拡大解釈されているらしい。

 

 『交配』ないし『生殖』という部分が、『生命活動』として言い換えられた。

 そして、同じように『生命活動』……すなわち『生命維持のために必要な活動や生理現象全般』にカテゴライズされたもの……『飲食』や『睡眠』までもが、異種族間で、というか種族関係なく任意で可能となった。

 その効果もまた、『空中庭園』全体に及んでいる。

 

 結果、この『ニューコロロ空中庭園』は、どんな種族であっても、望むなら、食べることも、寝ることも、ヤることもできる……そして子供もできる、という混沌の魔境になったのである。

 

 ……というのが、デミアやカリンと協力して考察し、多少、いやだいぶ無理やりな解釈や推測も付け加えた上で、ラストが導き出した結論(暫定)だった。

 

 

 

『いや、いくら何でもぶっ飛びすぎじゃないですか!? 途中から明らかに飛躍しすぎというか、ありえないというか……最早起こってることバグですよね!?」

 

『私もそう思いますけど……マジで考えてもこのくらいしか出せる結論ないんですよ』

 

 思わず声が出そうになってしまったところをどうにかこらえ、『伝言』で聞いてきたアインズに、ラストもやや呆れ気味にそう返す。

 いいことが起こっているのは確かだし、実際それでいい思いをしたばかりではあるのだが、それはそれとしてツッコまずにはいられない。

 そしてラストもその気持ちはわかるから何も言い返せないし、言い返す気はない。

 

『それに加えて不思議なのが……この変化のほとんどが、ここ100年くらいで急に出てきたものなんですよね……』

 

『? 元からそういう仕様だったわけじゃないと? ただ気づかなかっただけとかじゃなく?』

 

『ええ。100年前よりずっと前から、うちの『城下町』には亜人の……人間とは子供ができない種族も住んできましたし、その種族が人間と結ばれるケースも……まあ少ないですけどありました。でもその頃は子供なんてできなかったし……そもそも私だって、アンデッドやエレメント相手に子供を作ったことはなかったんです。ただ、皮切りになったのは……私が初めてアンデッドの子供を……テレサを産んだ時ですね。あれ以来、こうなりました』

 

『テレサって確か、ナザリックを発見した3人の中にいた、あの白い女の子ですよね? アンデッドで……シャルティアと同じ『真祖(トゥルーバンパイア)』だって聞きました』

 

『ええ、そのテレサです。あの子の生まれはちょっと特殊でして……ひょっとしたらそれが原因だったのかな、と思いもしたんですけど、確信は得られていなくて……結局不明のままで』

 

 ラストと『朽棺の竜王』……を改造して作られた『種竜』との間に生まれた子であるテレサは、確かに生まれ自体が相当に『特殊』だが……それによってラストの職業やスキルの方が変質することなどあるのだろうか。

 考えても答えは出ず、検証することもできないまま、『まあできるものはできるしいいか』で放置されているのが現状だった。

 

 

 

 この正確な原因にラスト達が気付くのは、まだだいぶ先のことではあるのだが……答えを言ってしまうと、テレサが生まれたことそのものには原因はない。

 むしろ、先にその『原因』があったからこそ、テレサが生まれることもできたと言っていい。

 

 実は、この行き過ぎた拡大解釈には、『始原の魔法(ワイルド・マジック)』が関係しているのだ。

 

 発端は、デミア達の研究によって解析が進んだ『始原の魔法』を、ちょうどその頃、ラストが……『万魔の母』を持つ張本人にして、この空中庭園を支配する『ギルド長』が習得したことだった。これが原因で、スキルの一部がバグったのである。

 

 『始原の魔法』では、魔力ではなく『魂』を使う。

 そして魂とは、生物が持っているものだ。アンデッドや無機物の生命体……ゴーレムなどは、魂を持っていない。ゆえに、『始原の魔法』を使えず、また結果として知性というものをもたない。

 

 しかしこの世界ではまれに、アンデッドや無機物であっても、わずかながら魂を持っている場合がある。

 ユグドラシルからやってきたプレイヤーのアバターがそういった存在である場合や……ごくまれに発生する、意思疎通が可能なほどに知能が高い個体などだ。

 

 そしてここから、逆説的に『魂を持つ者は生命体である』という理論が発生している。

 アンデッドやゴーレムがいるのだから、この理屈は正しいものではないのは自明の理なのだが、『自我を持ち、独りでに動く』『意思疎通が可能』『魂を持ち、理屈の上では『始原の魔法』行使が可能』という点を基準にして見れば、なるほど、生命体として見ることも可能なのかもしれない。

 

 そしてこの『生命体である』という点と、ラストの『万魔の母』が変質して発揮されている仕様がかみ合った。

 

 ここでは『生命体』であることの根拠が『魂の有無』で判断される。

 『生命体』であると判断されれば、『生命活動』を行うことができる。

 『生命活動』とはすなわち、飲食、睡眠、性行為などである。

 性行為をすれば、当然子供ができる。

 

 よって、ここでは……より正確に言えば、『魂』を持つ者であれば、種族を問わず、食事もできるし睡眠もとれる。そして……行為に及んで子供を作ることもできるのだ。

 

 

 

 このようなメカニズムをラストが、そしてアインズが把握することになるのは、まだまだ先のことではあるのだが……まずはそういうものなのだろうと納得したアインズは。追及をやめた。

 特段害もないようであるし、文字通り美味しい思いもできたのだから、細かいことをあーだこーだ言わなくともいいだろう、と。

 

 ……それに、直感的に……この話題からなるべく早く離れた方がいい気がしたのだ。

 まさかそんな仕組みで『種族問わずの飲食』が可能になっているとは思わなかったし、説明してほしいと望んだのは自分なのだから、ラストを責める気は微塵もない。

 

 しかし、このままこの話題で話し続けていると……大人しくしていないであろう者が1人、自分のすぐそばに……

 

 

「アインズ様、横から口を挟む無礼をどうかお許しください」

 

 

 ほら来た。

 

 ちらりと横を見れば……金色の目をらんらんと輝かせた美貌のサキュバスが1人、射抜かんばかりの眼力と共にこちらを凝視している。心なしか、息も荒いような気がした。

 

(だよなあ……こういう反応になるよなあ、アルベドなら……! つい今しがた、とんでもないこと聞いちゃったものなあ……!)

 

 説明の途中で出てきた『生命活動』云々のくだり。

 そこで触れた……アンデッドが、食事以外にも可能になるもの。それがまずかった。

 

 何せアルベドは……アインズの妃となることを目標としている者の筆頭格なのだから。

 

 その究極目標の1つは、アインズと結ばれ、その『お世継ぎ』を産むこと。

 普通に考えれば、アンデッド……しかも、肉の体を持たないスケルトン系であるアインズと『そういうこと』はできるはずもない。しかし、『至高の御方であればその程度の不可能は覆してしまえるはず!』という謎の信頼があるため、迷うこともなければ不安に思うこともなかった。

 アルベド1人が色ボケているわけではない。何せこの謎理屈、かのデミウルゴスさえも納得して口にしていることなのだ。

 

 しかし、それを待たずして……アインズと結ばれることができる可能性がここに現れた。

『ニューコロロ空中庭園』。ここに満ちるラストにゃんにゃんの力の恩恵をもってすれば、『この先いつか』のことだろうと考えていた夢の未来が、今、ここで、現実になる!

 

 さらには今ここには、同じように主人を狙っているシャルティアという恋敵もいない。

 

 この先二度とあるかどうかもわからない、途轍もないチャンスに違いなかった。

 だからこそ、アルベドは迷うことなく大股で一歩踏み出そうとして……

 

 

「アインズ様! 今宵は確かここにお泊りのご予定でしたかと! であれば、部屋は是非に私と……」

 

「あ、ラストさん。今日泊まる部屋ですけど……」

 

「はい、お聞きしていた通り、全員個室でご用意していますよ!」

 

「そんなぁああ! アインズ様ぁぁああ!!」

 

 

 

 

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