オーバーロード 傾国狐の異世界日記   作:破戒僧

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隣の芝生は青く見える、飯は美味そうに見える

 

 

【異世界転移 400年目 〇日目】

 

 兼ねてから楽しみにしていた、アインズさんが遊びに来る日。

 シェフに腕によりをかけて用意してもらっていたサンドイッチ、大変気に入ってもらえたようでよかったよ……美味しいって言ってもらえた。

 

 もちろん、アインズさんだけじゃなく、アルベド達にもきちんと美味しいご馳走を食べてもらった。アルベドもソリュシャンもテーブルマナーがすごい完璧でちょっとビビったな……マーレはちょっと苦戦してそうだったけど、頑張ってる感じがかわいかったので問題なし。

 

 その後は当然ながら、『何でアンデッドなのに飲食できるの?』って話になったので……

 

(中略)

 

 で、説明終わった直後のこと。

 これもまあ、予想通りといえばそうなんだけど……『ここでならアンデッドでもエッチなことができる』と知ったアルベドが、鼻息荒く身を乗り出してきて、アインズさんに今夜のおねだりを……しようとした矢先に、先手を打ってそれを潰した。

 事前にアインズさんから聞いてた、というか頼まれてたからね。『部屋は全員別で頼む』って。

 『間違っても自分とアルベドを同室にしないでくれ』って。

 

 事前に聞いてたから知ってるけど……実際に見るとまた驚かされるわ。なるほど、これは勢いすごいというか……好き好きオーラ出まくりだね。

 

 一応、アインズさんの命令ならギリギリ聞く理性は残ってるみたいだけど……はたしてそれもいつまでもつかな……? NPCの忠誠心をもってしても、割と早くに限界が訪れそうな気がして……ちょっと不安である。

 それまでにアインズさんが、きちんと受け入れる覚悟を決めてくれるといいんだけど。

 

 なお、アルベドはアインズさんを説得できないとなると、ダメ元で私の方にも身を乗り出してきて、『アインズ様の護衛として同室にしていただきたいのですが! ダメならせめて、非常用の通路等で何かあった時に駆け付けられる部屋に(以下略)(超早口)』って。

 とりあえず、それも却下した。そういう通路がある部屋がないわけじゃないけど、絶対まともな目的に使われないであろうことは明らかだったから。

 

 加えてアルベドには、年長者として、サキュバス系種族の先達として、そして母親としても先輩になる者として、アドバイスのような説教のようなことを言っておいた。

 どうしてもそういうことしたいんだったら、ちゃんとアインズさんにOKもらって寝室に呼んでもらいなさい、って。

 

 愛する人と結ばれたい、その子供を産みたいっていう気持ちは私もよくわかる。

 私もこの400年間、数えきれないくらいそういうことを思ったし、そのたびに欲望に正直に行動して、結果、数千人もの子宝に恵まれた。

 

 子供が数千人、ってところで、アインズさんを含めて全員『は!?』って顔してたけど……冗談じゃなくて事実なのよね。この400年で私が産んだ子供、マジでそのくらい多いの。

 ペースにはばらつきがあって、私的にベビーブームで月に10人以上産んだ時もあれば、じっくり腰を据えて1人の男と付き合ったりして数か月間大人しかった時もある。

 

 それでもだいたい、年間に産んでるペースの平均を考えて……それが400年なので……8000人は超えてると思うんだよね。

 いや多分もっといるな。一度に双子とか三つ子が生まれたこともあるから。ちなMAXは5つ子。

 

 ただまあ、中には人間その他の短命種として生まれた子もいるから、今も生きてる人数はそのうちの一部なんだけど……。

 

 で、そんな風に欲望に正直に生きてきた私だけど……その夫ないし父親になった者達に対して、不本意なセックスを強要したことは一応、何度もある。『魅了』してその気にさせたり、理性を奪って襲わせたり、単純に逆レしたりね。そのくらいは、欲望に正直に生きて来た。

 一部、敵対してた者達――どっかの竜王とか――と子供を作る際には、さらにえぐい方法取ってたりもしたけど。

 

 けどその一方で、大切にしたい人、尊敬できる人に対しては、きちんと思いを伝えて、了解してもらってからことに及んだ。魅了系スキルを含めて無理やりやったことは1度だってない。

 これは、私がサキュバス系派生の種族であっても……いや、だからこそ貫き通している矜持みたいなもんだ。私は、『そういうこと』全般に関しては、真剣で、誠実で、全力なんだよ。

 

 だからアルベド、あなたも……アインズさんのことが大好きで、敬愛していて、他の何よりも優先していて、己の命を懸けることに何のためらいもないくらいに大切に思っているのなら……だからこそ『そっち』も真剣かつ誠実であれ。

 その代わり……いざその時になったら、何も迷わず全力で食らいつくせ、と。

 

 最後の一言を言った時に、アインズが『ちょっと!?』って顔になってた気がしたけど……アルベドは、何かを必死に我慢するように歯を食いしばってうつむいて……しかし、それら全てを飲み込むことに成功したようだった。

 しかしそれは恐らく、蓋をしただけ。きたるべき時、いつか来るその時のために、燃え上がるその愛の熱を、静かに己の中に閉じ込めた。

 

 いつか……自分の望みが、最高の形で成就した時に、その全てを思う存分爆発させるために。

 

 なお、同時進行で『伝言』を使い、アインズさんにもちょっと説教しました。

 

 当然だけど、アインズさんが嫌なら別にそれに『応える』必要はない。真剣に自分のことを思ってくれている女に対して、仕方なくで相手をするのは失礼だし……アインズさん自身も、そういうのは嫌いだろう。

 けどだからと言って、アルベドから目をそらし続けるのも違う。

 

 アルベドのことが好きでそういうことをしたいのなら、そう言って受け入れればいい。

 アルベドとそういうことをするのが嫌なら、そうはっきり言って断ればいい。

 どっちを選んでも責めたりしない。すぐに結論を出せとも言わない。

 

 けれど……答えを出すつもりなく、なあなあにして逃げ続けるのはダメ。

 ちゃんと、アルベドのことを……自分を好きだと言ってくれる女の子のことを、きちんと見てあげてね、と。

 

 ちょっと自信なさげに、けどきちんと『頑張ります』という答えが返ってきた。

 

 

 

 昼食の後は、気分転換も兼ねて……『空中庭園』のあちこちを案内して回った。

 

 アインズさんは、もう何度もうちに来たことがあるんだけど……この400年間で割とあちこち変わってるから、見覚えのない施設とか場所を見ると『へー』って感じで面白そうにしてた。

 

 この世界で生活していて、『こういう施設があるといい』って思って増築したものもある。

 そういうのを見て、今後の拠点運営の参考になると思ったのか、結構積極的に質問とかしてきたから、随時答えてあげた。

 

 アルベドも、守護者統括としての役目ゆえだろう。同じようにして……アインズさんでも気づかなかった点について、穴埋めするように的確に確認してきた。

 『夫を支える良妻として当然のことです!』って胸を張って誇らしげに……あ、こいつあんまり変わってないというか、そこまで我慢する気ないな。

 真剣に望みはするんだろうけど、それはそれとして好意を抑えたりアピールを我慢したりする気はないと見た。

 

 まあでも、これはこれでかわいいし……いいんじゃないかな?(諦)

 

 あちこち見て回った後は夕食。

 昼食の時と同じくダイニングで……今回は分厚いステーキに舌鼓を打ってもらった。

 

 肉は最高級のドラゴンの肉を使って、味付けはシンプルに塩とコショウだけ。

 飲み物は、お肉に合う赤ワイン……これも最高品質のものと一緒に、存分に堪能してもらった。

 

 なお、マーレだけはまだ子供(76歳だけど)だってことで、トマトジュースベースのノンアルコールカクテルにしました。

 アインズさんと同じのが飲めなくて少し残念そうだったけど、それはそれとして美味しいと気に入ってもらえたみたいでよかった。

 

 もちろんアインズさんも、ドラゴンステーキを幸せそうに堪能して、おかわりもしてた。

 昼食のサンドイッチに引き続き、こんな極上の肉も、風味のいい酒も食べたことがない、感動した! って『伝言』で感激を言葉にして伝えてくれたよ。喜んでもらえてよかった。

 

 わかるよ……私も、ステーキと赤ワインでディナー食べた時は感動したよ。

 

 合成肉なんか比べ物にもならない『肉!』って感じがする、焼き加減も完璧なステーキ。

 噛むたびに、顎から伝わってくる感触がもう楽しくて幸せで……そしてその都度、噛んだ肉から甘い肉汁があふれ出してきて、口の中が洪水みたいになるんだこれが……。

 

 ワインも、口に含むと強烈なアルコールでぐあっと顔も頭も熱くなるんだけど、決して不快じゃなくて……喉が焼けるような感覚が心地いい。鼻に抜ける風味が、舌に残る味が、胃袋に落ちた後も、体がだんだんとポカポカして来る感覚が幸せで、『ああ、今すごくいいものを体に入れた』って感覚に包まれる。

 

 恐らくこんな美味は、アーコロジーの富裕層の相当な上澄みだって食べてないだろう。合成でない本物の食材ってだけで超高級品で、品種改良だの品質にこだわった栽培だのなんて、余裕がなくてされてないはずだからな。

 いやあ、本当に……この世界に来れてよかったと思うね。改めて思う。

 

 ちなみに、以前同じメニューで食事をしたときに、私がちょっとやってしまった、失敗したことがある。

 何せ、ナイフとフォークで上品にステーキを食べるなんて経験、したことなかったから、上手く使えなくてカチャカチャ音なっちゃったんだよね。

 メイド達は全然気にしてなかったようだけど、個人的にあれは恥ずかしかった。

 

 それで……ちょっと失礼かもしれないとは思いつつ、おそらく似たような境遇だろうアインズさんのために、先手を打った。今彼が使ってる食器は実は、『ぶつかり合っても音が鳴らない』という性質を持つマジックアイテムである。

 さらにナイフとフォークも、『自分から意志を持って手放さないと手から離れない』ので、手が滑ってテーブルや床にガチャンと落としたりすることもない。また、ワイングラスも『飲み物がこぼれない』効果を持ってるため、服やテーブルに水滴が落ちたりもしない。

 

 後でそれ伝えたら、『ああ、どうりで! すごく助かりました!』ってめっちゃ感謝された。

 何回か危なくてヒヤッとした場面があったらしい。

 

 さっきも書いたけど、アルベド達のテーブルマナーが完璧だったからなあ。それと比較してダメな感じにはなりたくなかっただろうし。

 

 その後はお風呂だけど……そこまではさすがに私達がついていくこともできないので、使用人の男性NPCに案内を申し付けてある。

 

 お風呂は防音完璧で、男湯から女湯、女湯から男湯を覗けるような場所もないから……ゆっくりリラックスして浸かってもらえるといいな。

 件の『バグ』の影響で、ここでも、アンデッドであるアインズさんでも、じんわり体を包む温かいお湯の感触を楽しめるだろうから。

 

 

 

【追記】

 アインズさんとマーレには男湯に入ってもらって、女湯にはアルベドとソリュシャン、そして私が一緒に入ったんだけど……2人ともすごい完璧なスタイルだな、と思った。

 

 正体がスライム系種族であり、割と変幻自在らしいソリュシャンはともかくとして……アルベドのこの体の造形美はすごい。女の私でもちょっと見惚れそうになるくらいだ。

 創造主はタブラさんだっけか……さすがだな、あのギャップ萌えマスターめ。

 

 ……そしてこの体が、いずれアインズさんのものになるのか……(たぶん)。

 

 しかし、もしこれがペロロンさんなら――あの人ロリコンだから女性の好み的には違うけど――相手の女性の合意が得られてる、むしろそれを望まれてるってことで、一切迷わずルパンダイブするだろうに……何が不満なんだかなあ、アインズさん?

 自分のことを慕ってくれてる上に、性格だって……まあ、ちょっと悪魔らしいというか、カルマ値マイナス特有のアレな部分はあるにしても、決して悪くはないだろうに。

 

 ……というかタブラさん、アルベドにどんな設定入れたんだろうか? あんなにもモモンガさんを情熱的に愛するような……最初からモモンガさんの嫁として作ったとか?

 

 それにアインズさんも、何ていうか……アルベドに対して、何か一歩引いてるというか、気後れしてるような雰囲気を感じるんだよなあ……?

 

 諸々気にはなるけど、なんか聞いちゃいけないことのような……アインズさん自身も聞いてほしくなさそうにしてる気もするし……ううむ……?

 

 

 ☆☆☆

 

 

 アインズ達が『空中庭園』を訪れた、その翌日……昼前頃のこと。

 

 アインズは、ラストが開いてくれた『転移門(ゲート)』によって、自分のホームであるナザリックに帰ってきていた。

 出迎えてくれた守護者達と『いい余暇を過ごせた』的なことを簡単に話した後、自室に戻り……ベッドに寝転んで脱力し、ふぅ、と息をついている。

 

「あー……最ッ高に楽しかったなあ、ラストさんの『空中庭園』。まさかこの体で、本当に飲食や睡眠を……しかもあんな、富裕層顔負けのハイクラスな感じで楽しめるなんて……」

 

 思わず、といった感じで口から言葉が出てくる。気分は完全に、思いっきり旅行を楽しんで家に帰ってきた後、という感じだった。

 

 当たり前だが、『空中庭園』と違い、ラストのスキルの影響がないこのナザリックでは、ベッドに寝転んでも眠くはならない。

 飲食もできないので……夜寝る前に、晩酌としてウイスキーやつまみのナッツを少々、なんてこともできない。

 

 ナザリックにいることを不満と感じるわけでは断じてないが、飲食や睡眠という『娯楽』を知ったアインズにとっては、少しだけそれが物寂しく感じていた。

 それに、向こうではラストと『伝言』を使って、ほとんど素の口調で気兼ねなく話せるのも楽しかった。

 

(ラストさんは『いつでも来ていいですよ』って言ってくれたし、転移するための『パス』ももらえたから、ちょくちょく通えばいいんだけど……あんまりしょっちゅう入り浸ってナザリックを留守にしてると、NPC達が悲しむかも……)

 

 実は先ほど、帰ってきてすぐに……マーレから不安そうに、『ナザリックを出て、ラストにゃんにゃん様の『空中庭園』に行っちゃわないですよね!?』と聞かれたのだ。

 それを聞いたアウラが『不敬だよバカ!』と鉄拳制裁を落としていたが、アインズは笑ってそれを許し、『そんなことにはならないから安心しろ』と言ってあった。

 

 もちろんそれは本心であるし、自分にとっての宝であるこのナザリックを離れるつもりなど全くないが……それはそれとして、あの『空中庭園』に惹かれるものがあるのも事実。

 『散歩感覚でちょくちょく通うくらいなら』と思っていたが……それがNPC達に不安を抱かせる原因となってしまうのであれば、少し考えざるを得ない。

 

(……よくよく考えてみれば、ラストさんのところに対して、単に『頼もしい同盟相手』として、安心して付き合っていられる、とNPC達が受け止めてくれるかどうかもわからないよな。いや、信頼できないとかじゃなくて……もっと現実というか、実情を客観的に見た印象で)

 

 アインズは虚空に穴をあけて手を沈め、アイテムボックスから書類の束を取り出す。

 それは、今日、ナザリックに帰ってくる前に、今後の同盟関係についてラストと色々話した内容を書き記している書類だ。

 雑多なメモ程度のものであり、コレを元に清書したものを既にアルベドに渡してある――今後の運営の参考にさせるため――のだが、自分でその内容を思い返す分には十分な資料である。

 

 『ナザリック地下大墳墓』と『ニューコロロ空中庭園』の関係は、対等な同盟である。

 ただし、ラストがアインズの弟子的な立ち位置にあり、個人的にアインズを師匠として慕い、立ててくれているため、『気持ちナザリックが上』程度の関係となる見込みだった。

 それに加えて、まだこの世界に来たばかりのナザリックでは、何かと苦労する部分も多いだろうということで、既に400年間をこの世界で過ごして色々と余裕がある『空中庭園』から、しばらくの間、支援を受ける予定でいる。

 

 その最も大きな支援が、ユグドラシル金貨の上納だ。

 

 この世界では、モンスターを倒しても、アイテムも金貨もドロップしない。それ以前に、ユグドラシルでラストやアインズが主に狩っていたような、ある程度の強さがあって、ドロップ的に実入りのいいモンスターなどもいない。

 故に、ギルドの維持費や防衛費、その他、何かあった時の費用――ギルドホームの修繕費や、NPC達が死んだときの蘇生費用など――として必要になる金貨を補充する手段がない。

 

 いや、ないわけではない。

 一応、何かしらの物資を『エクスチェンジ・ボックス』に入れて換金すれば金貨を得られるが、高い時で金貨数億枚にもなる出費を支えられるような額にはまず届かない。

 

 しかし、ラストのギルドホームでは、異世界に来て変質した『税金システム』によって、それを完全に解決している。多数の住民を『城下町』に住まわせることで黒字経営とし、毎月の安定した収入源にしてしまっているのだ。

 それを過去数百年続けた結果、『ニューコロロ空中庭園』の資産総額は、アインズも過去見たことも聞いたこともないような、はっきり言って天文学的な額になっていた。おそらくユグドラシルでも、これだけの資産を貯蓄したギルドはいないだろうと思えるほどの、『ギルドシステムってこんな桁数まで表示できるんだ』とか思うくらいの額だった。

 

 その資産から、毎月一定額のユグドラシル金貨をナザリックに『上納金』として提供してくれることになっている。

 それは、現在のナザリックの維持費を軽くカバーできてなお余剰がある金額なので、必要な設備の増築・改修を行ったり、傭兵NPCの雇用コストとして使うこともできるだろう。余った分は貯蓄しておけば、何かあった時への備えにもなる。

 もちろん、ナザリック自体にも、アインズがユグドラシル時代に稼いで宝物殿に入金していた金貨が途方もない額あるが、それでも今後のことを考えると、今ある資産を目減りさせずにやっていけるのはありがたい。

 

(本当はもっと出せますよ、って言われたんだけど……さすがにあんまり、女性におんぶにだっこになるのは、俺としてもプライドが……ヒモは嫌だ……)

 

 実際、ラストのギルドは、毎月の収入からナザリックへの上納金を差し引いてもなお余裕で黒字なので、出そうと思えばもっと出せる。

 その事実に、アインズはラストとの、現時点での『差』というものを目の当たりにしていた。

 

 それに、支援の内容は金貨だけではない。

 『空中庭園』からは、役に立つ技術や情報、さらにデータクリスタルをはじめとしたいくつかの物資についても、必要に応じて融通してもらえることになっていた。

 

 特にデータクリスタルは、金貨と同じで、この世界では手に入れる術がないものだ。

 さすがに、ユグドラシル時代によく使っていたものほどレベルの高いものではないようだが、それでもありがたいと言わざるを得ない。

 

 技術力、情報力、そして組織力においても……400年間の差というものは大きく、ナザリックは完全に『空中庭園』の後塵を拝している状況である。

 

 もちろん、全てにおいて負けているわけではない。

 ナザリックはかつて最高10大ギルドの1つに数えられていただけあり、NPC達の戦闘性能や、保有するアイテムの数、レア度などにおいては、今の空中庭園が相手でも負けていない自負があるし……そもそも、これから成長して追いつけばいいのだ。

 決して、弟子が率いているギルドに負けっぱなしではないし、それでいいとも思っていない。

 

 それに、単純にナザリックが圧勝できていないというのは、何も悪いことばかりでもない。

 元々ナザリックの下僕達の多くは、ナザリック以外の全てを見下す傾向にある。非力な人間はもちろん、その他の異形種であってもだ。

 

 だが、目に見えて自分達に比肩しうる勢力を持ったギルド……それも、アインズが大切に思っている『戦友』が率いる同盟相手ともなれば、無意識下でも含めて、『空中庭園』を軽んじるような者を出さないためには好都合なのではないか。アインズはそう思っていた。

 

(まあ……NPC達も含めて、色々とプライド的にもあんまり気分のいい状況じゃないのは確かだけど……それでも、資金面でも情報面でも万全以上に整っているラストさん達の支援を受けつつ、この、右も左もわからない異世界での生活に向き合っていけるのは、スタートダッシュとしては決して悪くない……いやむしろ最高に恵まれた条件だと言っていい。この幸運を最大限生かす形で、今後の方針を考えていかないとな……)

 

「ふぅ……色々考えて気疲れしちゃったかもな。ちょっと休憩してなにかつまん…………あぁ、そっか、つまめないのか」

 

 メイドに頼んで何か適当につまめるものを……と考えたところで、ここ(・・)では自分は飲食ができないことを思い出し、少し落ち込むアインズ。

 

「いっそナザリック(ここ)でも、飲食とかができたらいいんだけどなあ……小腹が空いた時に何かつまんだり……いや腹は空かないんだけど……夜寝る前に晩酌とか……いや寝る必要もないんだけど。後は、ナザリックの食堂で、料理長が腕を振るった料理とかも食べてみたいし、副料理長がやってるショットバーでカクテルとかも飲んでみたいなあ…………はぁ」

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 アインズが自室で、ナザリック(ここ)では飲食ができないことをほんの少しさびしがっていた、その頃。

 アインズ達を出迎えた守護者達は……そのままそこで、アルベド達から、昨日今日のアインズの様子について話を聞いていた。

 

 途中……『空中庭園』にいる間にアインズとのベッドインを目論んだことについて、案の定シャルティアがアルベドに食って掛かった場面があったが、それはさておいて、話は最も重要な議題にシフトしていく。

 

「なるほど……アインズ様は『空中庭園』で、とても楽しそうにしていらっしゃったのですね」

 

「ええ。飲食も睡眠も、普段のアインズ様は特段必要ともしていないことだけれど、『娯楽』として楽しめることにいたく感激されていたわ。……少し嫉妬してしまいそうになるほどにね」

 

「それでマーレはさっきあんなことを言ってしまったのでありんすね」

 

 先程マーレが、アインズがナザリックを離れてしまうのではというようなことを尋ね、姉であるアウラがそれを厳しく叱責した一場面があった。

 その時は、他の守護者達も、主の愛情を疑うような発言に厳しい目を向けたものだったが……アルベドから『空中庭園』でのアインズの様子を聞いていると、そう思えて不安になってしまっても仕方がないのかもしれない、と思えてきてしまった。

 

 アルベドの話では、単純なそれらの娯楽のレベルであれば、ナザリックの方が上のようだ。

 料理の味やバリエーションもそうだし、寝床の豪華さや品質も。至高の御方々が、そこで働く下僕達も含めて1つ1つ作り上げたのだから、それは当然と言えば当然だ。

 

 しかし、質でいくら勝っているとしても……『アインズが楽しむことができる』というこの一点があまりにも大きい。

 これがあるせいで、ナザリックと『空中庭園』の間に、越えられない壁ができている。

 

「アインズ様が我々を大切に思ってくださっていること……そこに一点も疑いの余地はないわ。つm……守護者統括として断言するけれど、マーレが心配していたそれは取り越し苦労よ」

 

 何か変なことを途中で言おうとしていた気がするが……さておき、アルベドがそう断言したことで、守護者達の間には安どの空気が広がりつつあった。

 しかし、アルベドはそこから『けれど……』と続ける。

 

「? けれど……何です、アルベド?」

 

「取り越し苦労であっても……このナザリックにいることで、アインズ様に『幸せである』と思ってもらえないこと、このナザリックとそこにいる私達が、アインズ様に幸福をもたらして差し上げられないこと……それが何より悔しくて、恥ずかしい……そんな気分は否めないわ」

 

「アア……ソレハ、尤モダ」

 

「『空中庭園』であれば、アインズ様がその身で味わうことができる幸せを……ナザリックにいるがゆえに我慢させてしまう。我々の力では、それをどうにかすることはできない……そういうことですか」

 

 コキュートスに、セバス。守護者の中でもストイックで硬派な方である2名すらも……自分達の力の至らなさを悔しく思い、また、アインズを楽しませるという至上命題を可能にする『空中庭園』に対して嫉妬を覚える心を止められずにいた。

 

 そんな中、アウラが、我慢できずに、といった様子で問いかける。

 

「ねえ、でもさ……逆に言えば、そこさえ解決できれば……アインズ様にとっての一番は、ちゃんとナザリックに戻るんだよね?」

 

「アウラ、間違えないで。今でもアインズ様が一番大事に思ってくださっているのは、このナザリックよ。でも、そうね……『空中庭園』でしか、それらの『娯楽』を楽しむことができない。その一点を解決できれば……思い入れも含めて全てにおいてナザリックが勝っているのだから、問題は一気に全て解決する、と言っていいわね」

 

「だが、言うは易く行うは難しだ……いや違うね、言葉にすること自体が難しい、いやほぼ不可能だと言ってもいい」

 

 デミウルゴスの言葉を、後ろ向きだ、やる前からそんなことでどうする……などと言える者は、誰もいなかった。実際に限りなく困難、ないしは不可能であると言っていい難題なのだ。

 

 既に聞いた通り、『空中庭園』でアインズが『娯楽』を行えるのは、ラストの力によるものだ。

 彼女の持つ超レア職業『万魔の母(エキドナ)』。ユグドラシル時代から、元々強力極まりない能力だったこれが、異世界に来てバグ同然の変質をしたことで、そのスキルの効果の『拡大解釈』により、『ニューコロロ空中庭園』は、アンデッドすら飲食や睡眠を楽しめる場となった。

 

 ゆえに、もしこれをナザリックで再現しようとすれば……必要なものは2つあると、アルベドやデミウルゴスは見ていた。

 

 1つはもちろん、『万魔の母』という職業……それを獲得している誰か。人材と、能力そのもの。

 当然ながら容易ではない……どころか不可能だ。『万魔の母』を習得する方法は……ユグドラシルですら『茨の道』どころではない(・・・・・・・)困難さだった。

 そもそもそのキークエストとなるイベントがないこの世界では、正攻法では不可能だ。

 

 そしてもう1つは……その職業の効果をナザリックに適用させる方法だ。

 『空中庭園』にラストの力が及んでいるのは、彼女が『空中庭園』の支配者だからだ。しかし、同じことをこのナザリックでやろうとすれば、単純に考えてその『誰か』をナザリックの支配者に据えなければならない。それはありえない。

 ならばそれに代わる方法を何かしら見つけなければならない。

 

「一朝一夕でどうにか出来ることではないのは確かだね」

 

「ええ……悔しいけれど……いえ、こういう言い方は不敬ね。ひとまず今は、アインズ様が『空中庭園』に行くことで、食事や睡眠といった娯楽を楽しめることを喜びましょう。けれど決してそれに満足せず、いつかナザリックで同じように楽しんでいただける時が来るのを目指して、その手段の模索は続けていくべきね」

 

 ナザリックの誇る知恵者2人が、早々とそう結論を出したのを見て……アウラ達もまた、『ああ、どうしようもないんだな』と半ばあきらめた。

 ただ、シャルティアは何か思うところがあったらしく、

 

「……アルベド。その『万魔の母』っていう職業(クラス)を持っているのは……この異世界では、ラストにゃんにゃん様ただ1人なの?」

 

「そのはずだけど……言うまでもないことだとは思うけど、彼女を誘拐してナザリックに監禁するとか、力を奪うとか、そういう手段は絶対に厳禁よ? そんなことをしたところで正しくスキルが動作するかもわからないし……そもそもアインズ様がお怒りになるわ。不敬どころの話じゃない」

 

「そんなことしんせんわ! その……その『万魔の母』って、この世界に来てかなり派手に変質してるんでありんすよね? 普通はできない種族の子供ができたり……あの子もそうだし」

 

 『あの子』と聞いてアルベドは、そう言えばこのシャルティアは、ラストの娘の1人であり、安直に『ロリ巨乳』と呼んでいた白髪の少女のアンデッドにご執心だったと思い出す。

 彼女……テレサもまた、『万魔の母』のバグによって、生まれながらにアンデッドとして誕生したという、異色を通りこして異常な経歴の持ち主だ。

 

 しかし、それがどうかしたのかと聞くと、

 

「あの子、私と同じ『真祖(トゥルーヴァンパイア)』なのでありんす。本来『真祖』たる吸血鬼は、吸血鬼としての力を極めた者のみがたどり着ける領域なのに、彼女は生まれながらにそうだった。例外は、私のように『至高の御方々』によって創造された場合くらいだと思っていんしたけど……」

 

「ここにきて、別な例外が文字通り生まれた」

 

「生者がアンデッドの子供を産んだっていうだけでもありえないのに……それに加えて、生まれながらに吸血鬼の頂点たる種族を持っているという、二重のありえなさが、その『変質(バグ)』のせいで起こっているのでありんす。でもそれなら……それだけ何でもアリなら―――」

 

 

 

「―――その『激レア職業』だって、遺伝することも……ありそうじゃありんせん?」

 

 

 




都合により、次回から更新時間を変更することになりそうです。

多分22時くらいになります。
毎日更新は、可能な限り続けていく予定です。

今後ともよろしくです。
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