オーバーロード 傾国狐の異世界日記   作:破戒僧

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無いはずの胃が喜んだり痛んだりする骨

 

 

 

 場所は、ナザリック地下大墳墓、第9階層『ロイヤルスイート』。

 その奥にある、アインズの自室……を改装して作った、応接室や執務室を兼ねた空間。

 

 普段はそこに控えさせているメイドや、言われなくてもほとんど無理やり控えているアルベドを一時的に部屋から退出させたそこで、部屋の主であるアインズは……

 

「本ッッ当にすいませんでした!」

 

 全身全霊、という勢いでラストに頭を下げていた。

 

 ラストはというと、テーブルを挟んで向かい側で、その土下座せんばかりの勢いに逆にちょっと気圧されつつ、『いいですから頭上げてください』と恐縮しながら声をかけていた。

 

 なぜこんなことになっているかというと……数時間前に、アインズがアルベドから受け取ったある報告と提案が原因である。

 

 アルベド達は、アインズが『空中庭園』に出向かずとも、このナザリックでも同じように飲食や睡眠という『娯楽』を楽しめるように、知恵を振り絞って手段を考えていた。

 アルベドやデミウルゴスといった、ナザリックでも屈指の知恵者達が力を結集して方策を考え、ある程度実現性のある案が出来上がったため、それを実行する許しを得るためにアインズに話を上げたのだ。

 

 ギルメン達から預かった子供に等しいNPC達が、自分を少しでも楽しませ、快適に過ごさせようと力を尽くしてくれていたことに、アインズは喜びを隠しきれず、涙腺などないはずの目から涙がこぼれるのではないかとすら思い、嬉しく思った。

 自分が、他人に打ち明けられずにひそかに思っていた望みとも一致するし、すぐにでも許可を出して実行に移してもらおうかと思っていた。

 

 ……が、その方法が、ラストに依頼してそれ専用の子供を産ませ、ナザリックのしもべとしてもらい受けて利用する、というものだと聞かされて……ひっくり返りそうになった。

 しかも、その案を既にラストには相談し、OKをもらっていると言うではないか。

 

 喜びから一転、驚愕とか怒りとか困惑とか落胆とかその他諸々な感情で頭の中が氾濫しかけたアインズは、その時ばかりは『沈静化』に心から感謝した。

 そして、無理やり冷静になった頭でアルベド達に指示を出し、さらにラストを急遽ナザリックに呼び出して……

 

 ……で、今に至る。

 

 アルベド達がラストに頼んでいたのは、言ってみれば代理母と人身売買の複合コンボみたいな、強烈極まりない内容だった。

 絵にかいたようなディストピアを生きていたアインズ……もとい、鈴木悟の感覚をもってしてなお、そんなもん間違いなくブラックビジネスの類に分類されるとわかる。そんな要求を、現状この異世界で唯一のプレイヤー仲間にしていたのかと、なんちゅうことをしたんだと。

 

 ……今のこの、『死の支配者(オーバーロード)』となった自分の人外の価値観であれば、何も関係ない他人に同じことをさせるのだったら……もしかしたら罪悪感も何もなく実行してしまえていたのかもしれない。

 しかし、れっきとした知り合いにそんなことを、しかも自分の娯楽のために頼んでいたというのは……さすがにアインズとしても、精神的にきつかった。

 

 いくらラストがそれを、アルベド達からの、アインズのための頼みとして受け入れていたとはいってもだ。むしろ、ラストがOKを出したことについても驚きだった。

 

 必死になだめて『頭を上げてください!』と言ってくるラストの言葉がようやく届き、2人ともソファに座った状態で、改めて話し合う姿勢になったので……アインズからも、気になっていたそのことについて聞くことにした。

 頭は上げたものの……みぞおちのあたりを抑えてるのは、胃でも痛むんだろうか。……いやでもあなた骨だからそこ空っぽでしょうに。

 

「にしても、何で承諾しちゃうんですかラストさんも……アルベド達は『政略結婚みたいなもの』だって言ってましたけど、中身思いっきり代理母じゃないですか。いくらなんでも抵抗とかなかったんですか? あ、いや責めてるとかそういうんじゃ全然ないんですけど」

 

 まだだいぶ申し訳なさそうにしつつも、理解できないものを見るような目で見ながらそう聞いてくるアインズに、ラストは『うーん…』と少し悩んで、

 

「抵抗……ないですね、割と」

 

「えぇ……」

 

「しいて言うなら、『産んだ子供を渡す』って部分についてはちょっと。いや大いにありますけど……作ることについてはもうほぼほぼないです。何せもう何千人もここから産んでますから」

 

 下腹部を指さしてけらけら笑うラストに、呆れるアインズ。

 

「それに、実のところ……この感覚って多分、アバターに引っ張られた感じもある気がするんですよね……。『九尾の狐』って、そういう系の逸話も割と豊富なもんで」

 

 ラストとしても、400年前に異世界転移して、その数日後に発情期からの妊娠、出産を初めて経験して……しかし特に大きく心を揺さぶられることもなかった。

 驚きはしたし嬉しかったのは確かだが、『そういうもの』として受け止められていたのも確かだ。冷静に考えれば……人間的な常識に照らして、ありえないと言える状況にもかかわらず。

 

(ああ……なるほど。アンデッドの俺が、人の死に無感情になってきてるのと同じなのか……)

 

「それ以来、『ああ、人間だった頃の私と違っちゃってる』って思い知って……でもだからこそ、かな。開き直って好き放題色々楽しむことにしたんです。それこそ、妊娠・出産に限らず、とても普通じゃ許されないような遊び方も。すっごいバカみたいなのから、ガチでヤバいのまで」

 

「ガチでヤバいのって……例えば?」

 

「ユグドラシル時代にやってたロールプレイをマジにした、『リアル傾国の悪女ごっこ』とかですかね。本物の国を舞台に、本物の王様とっ捕まえてやりました。ふふふ、楽しかったなあ……♪」

 

(それもう『ごっこ』じゃない気が……何やったんだラストさん? ちょっと聞くの怖ぇ……)

 

 なお、最初の一回は見事に『失敗』して、斜陽だった国が万全にまで立ち直ったばかりか、稀代の名君に支配された鉄血の国家が誕生し……その国は今の時代にまで続く強国となっていたりする。

 

 しかし、その後にやった『ごっこ』では、割とマジでシャレにならない『悪女』っぷりを発揮しており……アインズは、怪しく笑うラストの背後に、デミウルゴスが張り切っている時を思わせるどす黒いオーラを幻視していた。

 

 戸惑いと呆れが半々くらいになっていたアインズだが、どうにか話題を元に戻す。ラストがアインズのために、スキル保有の養子を産むための『代理母』をやることになっていた件についてだ。

 

 もちろんアインズとしては、ナザリックでも『飲食』が楽しめるようになれば嬉しいのは確かだが、それでラストの心身に負担がかかるようなら取りやめにすることに迷いはなかったし、必要ならそんな提案をしたアルベド達を叱責するつもりですらあった。

 

 が、そのラスト自身は先ほども言った通り、子作りに関しては抵抗はなく、むしろそれこそ娯楽ないしスポーツの一環のように考えていて、ノリノリですらある。

 

 彼女としては、産んだ後の子供を託すところが一番抵抗がある部分だが、自分とナザリックの間に生まれた子供であれば、ナザリックも親権の半分くらいは持っていると思うし、譲る、ないし託すことに抵抗はそれほどない。

 きちんと大切に育ててもらえれば、そして時々会わせてもらえればそれで……という程度の受け止め方だった。

 

 もっとも、『ナザリックで引き取ったからにはナザリックのしもべだから』とひどい扱いをされるようだったり、忠誠心過剰で失敗からすぐ自害するような教育をされたりしたら……その時はキレるかもしれない、とも思っていた。

 

 アインズにそれを話すと、

 

「あ、それはむしろ俺もどっちかっていうと苦手なんで……極力止めるつもりです」

 

「よかった。そのへんはじゃあお願いします」

 

「はい、任せて下さ……って、もう産むことは決定な感じですか、このやり取りだと」

 

「あっはっは」

 

 

 ☆☆☆

 

 

【異世界転移400年目 ▼日目】

 

 アインズさんに、アルベド達からされた『頼み事』について心配されてしまった。

 

 ひとまずアインズさんには、『もしそれしかなさそうだったら頼むかも』っていう、消極的な承諾を得ることができた。

 一応その前に、今いくつかある『代案』を試してみて、それでうまくいくようならそっちで……って感じにするそうだ。

 

 やはりというか、私を代理母扱いにして子供を産ませて利用する……っていうやり方には抵抗があるらしい。

 

 前にも言ったように、子作りなら私、春夏秋冬年中無休でいつでもやってることだし……いいんだけどねえ、別に。

 

 でも、アインズさんと合流してからは、色々忙しくてご無沙汰だけど……最近ちょっと子宮(ここ)が寂しくなってきたんだよねぇ……。

 ぼちぼち『発情期』も来そうな予感するし……男性NPCの誰かに頼もうか、それとも現地民で美味しそうなの見繕ってパクッと食べちゃおうか……。

 

 そういえば、ちょっと前に見つけて食べたあのメカクレ男子(・・・・・・)、初々しくて美味しかったな……。いやらしいことに全然慣れてないけど、我慢できなくなって、余裕全然ない中で必死に私に欲望をぶつけてくる感じがもぉ……♪

 思い出したらリピートして食べたくなってきちゃったかも。ええと……どこで引っかけたんだっけ? ……後で日記読み返してみよっと。

 

 とりあえず、アインズさんとのこの件に関する話はここまでとなった。

 その後、微妙な空気になっちゃったので、気分転換も兼ねて、アインズさんに『モモン』としての冒険者活動はどんな感じか、を聞いてみた。

 

 割と露骨な話題転換だったから、当然アインズさんにも気づかれて苦笑されてしまったけど、それはそれとして楽しそうに話してくれたよ。冒険者、順調みたい。

 

 新人には難しそうな依頼も次々にこなして、突発的に起こった高難度の敵との戦いもやすやすと乗り越えて……すごいスピードでその名をエ・ランテルに、いやそれ以上に広い範囲に知らしめている。

 

 今度、そのエ・ランテルでも有数の名士だという人から指名での依頼ももらってるらしい。

 指名依頼っていうのは、その実力を認められた証みたいなもので、冒険者にとっては目標とするところのひとつなんだそう。

 出世街道驀進中、ってところだな。うん、順調そうで何よりだ。

 

 ただ、しいて問題点を上げるとすれば……ナザリックから同行してるナーベことナーベラル・ガンマが、ものすごい人間嫌いで、コミュニケーション能力が死んでることだそうで……

 基本的に人の名前を、依頼人だろうと覚えようとせず、それどころか虫けら(ガガンボ)だの虫けら(ハリガネムシ)だの虫けら(チャタテムシ)だのと散々に呼ぶ。

 

 何度かそれで空気が凍りそうになったところを、うちから派遣してるキリトとトガヒミコがカバーしてくれたとかで、めっちゃ感謝された。

 

 その2人は、現地の常識や情報に乏しいアインズさん達のカバー役兼、何かあった時の護衛役としてつけたんだが……普段はアインズさん達に合わせて、そこそこ強い程度の新人冒険者、を演じさせている。

 

 いざとなったらアインズさんが魔法詠唱者(マジックキャスター)に戻って後衛に下がるのと同時に、100レベルの前衛であるキリトが本気出して前に出て暴れる、という風に戦える。これなら相手があのクソボケ下半身エルフだろうと、法国の特殊部隊だろうと十分戦えるだろう。

 さすがに生き残りの『竜王』クラスが出てきたらちょっときついかもしれないけど、それでもアインズさんを逃がしたり、応援を呼ぶ時間を稼ぐくらいはできるはず。

 ただ、そういう場合になったら、レベル60代程度のナーベとトガは……まあ、多少時間稼ぎができれば、って程度かなあ。残念だけど。

 

 あ、ちなみにだけど、キリトとトガに関しては、一応カバーストーリーも作ってあって、アインズさんもといモモンとどうやって出会ったのか、っていう設定が考えてある。そういう話を聞かれた時に、よどみなくサッと話せるように。

 

 キリトはモモンと同郷で、モモンは彼にとって兄貴分みたいなものであると同時に、剣の師匠である。モモンが旅に出ることになった時に、キリトも一緒についてきた。

 今はまだ実力はモモンの方が上だけど、才能は自分以上にあると見込んで将来を楽しみに育てている。

 

 アインズさんの場合、力はあるけど剣を使えるわけじゃないから、元々近接職のキリトと比べられて、違いが判る人に見られると見ぬかれる可能性があるからね。

 でもこういう設定にしておけば、2人の剣を見比べて『弟子の方が才能あるんじゃね?』って思われることがあっても『ええ、自分もそう思います。きっと〇年後には私を超えていると思いますよ』『お、俺なんかがそんな……とんでもないです!』って感じにごまかせるし。

 

 一方トガはシーフ職なわけだが、様々なアイテムを駆使して攻撃・補助・回復の全部をこなす。使うアイテムの中には強力で希少な(ただしこの世界基準)マジックアイテムも多くあるんだが、それをごまかせるようなカバーストーリーを皆で考えました。

 

 トガの両親は優秀な斥候で、トレジャーハンターだったんだけど、ある日その両親が持っていたお宝を狙った悪党に襲われてしまい、両親は殺されてしまう。両親が持っていたお宝もほとんどが奪われてしまう。

 トガは両親が逃がしてくれたものの、追いかけて来た盗賊たちに追い詰められ、絶体絶命のところでモモンに助けられた。以来、仲間兼師匠兼親代わりとして一緒にいる。

 

 そしてトガが持っているいくつもの強力なマジックアイテムは、数少ない奪われなかった両親の形見である。いつか悪党達に奪われてしまった残りのお宝も探し出して取り返すのが夢……という感じにしておけば、お涙頂戴的なバックもあって、若い女の子が年に見合わないくらいのアイテムを大量に持ってる事実もごまかせるだろう。

 

 ちなみにどんなアイテムを持ってるのかというと、刺すとダメージの代わりに回復する短剣(繰り返し利用可能。回復量は低位リジェネ程度)、投げても念じれば手元に戻ってくる投げナイフ(攻撃力に大いに難あり)、聖属性が付与してあってアンデッド特効のナイフ(店売り)、その他色々。

 ナイフばっかりなのは彼女のキャラ付けとしてあえてそうしてます。

 

 ちなみにこんだけ高価な(この世界基準。ユグドラシル時代の私らからすると苦笑~失笑レベル)マジックアイテムを見せびらかしてると、盗んだり奪おうとする輩が一定数湧いてくるんだけど、そういうのは速やかに『処分』してナザリックに引き渡して有効活用してます。

 デミウルゴスの牧場とか、アンデッド生成の実験とか、出番が多いから安定供給(・・・・)できて助かってるってアインズさんも喜んでたよ。

 ……順調に価値観が死の支配者(オーバーロード)ってるなあ……うん。

 

 そんなわけで冒険者家業は順調だそうで、『(カッパー)』から始まった等級も、あっという間に『(アイアン)』を通りこして、今度『(シルバー)』になるんだってさ。

 

 ……それだけポンポン順調すぎる出世してると、やっかみというか嫉妬というか、そういうのも色々引っかけそうだな。

 実際に何回か、あまりの出世スピードを面白くないと思ったタチの悪い先輩冒険者から嫌がらせとかされたらしいんだけど……ちょっとした程度のものなら笑って見逃してやってるらしい。

 一定のラインを超えてしまうと、『安定供給』の仲間入りをすることになるけど。

 

 ……ひょっとしてこういう感じで、殺しても胸が痛まない素材を手に入れる手段にもなる、ってことまで見越してアインズさん……いや、まさかね。

 最初はちゃんと情報収集目的だったはずだもんね。偶然だろう。

 

 ともあれ、今度行くっていう地元の名士さんからの依頼も頑張ってほしいもんだ。

 

 

 

【異世界転移400年目 ●日目】

 

 昨日の日記で書いた、アインズさん……もとい、冒険者『モモン』とそのチームが指名依頼を受けて出発する日が明日に迫っています。

 なので、その前に『実験』を済ませちゃうことにしました。

 

 何の実験かって? もちろん、『ナザリックで飲食できる』ようになるための、前準備として色々と調べておくための実証実験だよ。

 

 まず大前提として、私達……もとい、アルベド達がやろうとしてるのは、『万魔の母(エキドナ)』の職業(クラス)を持った者をナザリックの『領域守護者』に設定して、それによって『飲食可能』な作用をその管理領域内に、局所的にでも実装できないか、というもの。

 

 なのでまずはその前段階として、私の子供をナザリックの『領域守護者』に設定できるのかどうかという点を確認した。

 

 まず最初に実験。協力してもらうのは、私とこの世界の現地民との間に生まれた『半妖』の子の1人。

 その子をナザリックに連れて来て……アインズさんに協力してもらい、適当なエリアの『領域守護者』に設定する。

 

 部外者をそんな風に設定することってできるのか、って思ったけど、ギルド内であれば、ギルドのNPCじゃなくても、傭兵NPCとかでもどこに配置してどんな風に行動させるか程度の設定はできるので、その応用でどうにかなるみたい。

 私の子供って、私が召喚した傭兵NPCみたいにシステム上扱われるところがあるので、それを応用して、アインズさんに、一時的に譲渡する感じで……一時的にね! 一時的に! ここ重要!

 

 指揮権限を譲渡して、その後アインズさんがギルマス権限で設定をいじる。

 今回は適当に、第六階層にある、アウラ達が急遽作ったログハウスの領域守護者って形で設定してみて……成功した。

 

 ナザリックの領域守護者にしたことによる、精神の変調なんかも特になし。私のかわいい子供のまま、所属だけがナザリックになって、『ここを守らなきゃ』っていう意識みたいなのがうすぼんやりと頭の中にある程度だって。

 その後、設定を解除したらそれもなくなったそうだ。

 

 そして次に、テレサに協力してもらった実験。

 

 同じようにテレサの指揮権限を一時的に! 一時的にアインズさんに渡して……テレサを、第9階層の食堂の近くにあるカフェテリアの領域守護者に設定する。

 そして、テレサは私から職業(クラス)万魔の母(エキドナ)』を受け継いで生まれた。これが、この世界仕様で正しく稼働すれば……

 

 …………成功。

 その、テレサが守護している(という設定の)カフェテリアで、アインズさんが飲食することができた。

 この方法で、アインズさんがナザリックでも飲食できるようになると証明できた。

 

 飲食ができないはずのアインズさんに、自分達が作った料理を食べてもらう、という、叶わぬ夢だったはずの夢がかなった料理長と副料理長が、しかもそのアインズさんから『美味だったぞ』ってほめられて、男泣きしていた。よかったね。

 

 アインズさん自身もすごく満足したようで、ぽんぽん、と胃袋のあたりを抑えながら――だからそこ空のはずなんだけどな――ふぅ、と息をついてリラックス。居心地よさそうにしている。

 その場に立ち会ってそれを見ていた守護者達一同、『やはりアインズ様のためにここに『万魔の母(エキドナ)』を持った守護者を!』って、一層強く心に決めたようだった。

 

 もっとも、だからといって私の子供達……テレサを含めた、『万魔の母』を受け継いでる子を譲ることはないです。前に言った通り。

 私が渡したくないのもあるし、ナザリックのセキュリティ的に『ナザリック専属のしもべ以外に常勤の『守護者』を任せるのは……』っていう理由もある。こないだ言った通り、アインズさんに飲食や睡眠を楽しんでもらうのであれば、その守護者が務めるのはここ、第9階層の『ロイヤルスイート』だ。至高の御方々の自室をはじめとした、メインの居住空間であるここを任せるのなら、派遣じゃなくて正社員、ってこと。

 

 ゆえに、当初の計画通り……私と、ナザリックのしもべの誰かとの間に子供を作って、その子が『万魔の母』を受け継いで生まれてきたら、『第9階層ロイヤルスイートの領域守護者』として設定する……という感じになる。

 これについては、一番負担が大きくなる私自身了承しているし、アインズさんも……消極的にではあるけど、許可を出してくれてる。一応、実行するのに問題はない。

 

 ただ、問題が2つほどある。

 

 1つは、私は子供に、どのスキルを受け継がせるとか狙って決めることはできない点。

 私の子供が、私が、あるいは父親が持っているもののうち、どのスキルを受け継いで生まれてくるか……あるいはそもそも遺伝するかどうかすら、制御できるものじゃない。ランダムだ。

 

 だから、数ある職業や種族、スキルの中から、きちんと『万魔の母』を受け継いだ子が誕生してくれる確率っていうのは、相当低い。

 多分、ソシャゲのガチャで最高レアのユニットが出てきてくれる確率くらい低い。しかもこっちには、いわゆる『天井』なんて気の利いたものはないときている。

 

 つまりは……『万魔の母』を受け継いだ子という『あたり』が出るまで、何人でも、何十人でも産み続けてガチャを回し続けなければならない。いわゆる『孵化厳選』みたいなことをしなきゃいけないわけなのだ。現実で。

 

『万魔の母』を受け継いでいなかった場合は、ナザリックでは引き取らない……ので、私が責任もって引き取ることになっている。その場合は、今までの他の子供達と同様、大切に育てるつもりだ。兄弟が増えるのは、うちの子達はみんな歓迎して、皆でかわいがるからね。

 ……このへん、ゲームならさっさと『逃がす』一択だったんだろうけど、現実にやるとなると非人道的どころじゃないな。赤ちゃん好きって設定の、ペストーニャやニグレドも怒ると思う。

 

 一応、父親のレベルが高いほど、より多く、よりレアなスキルを受け継いで生まれる確率が高いという傾向はある……らしい。デミアが集計して分析してみた結果によると。

 となるとやっぱり、ナザリックのしもべ達のうち、100レベルのNPCを相手に……ってことになるよなあ。

 

 これが、もう1つの問題点。誰を相手にするか、だ。

 

 ナザリックの男性NPC、それもレベル100となると、相当限られる。

 マーレ、デミウルゴス、コキュートス、セバス……そしてパンドラズ・アクターだ。

 他は……レベルが低いので、ガチャがさらに無理ゲーになってしまう。なので除外。

 

 アインズさんと、『誰と政略結婚ならぬ『政略出産』すればいいですか?』って話したんだけど……中々決まらなかったんだよね。気持ち的な問題とか、色々ややこしくて。

 

 私的には、全員それぞれ違った魅力があるし、行けると言えば行けるんだけど……。

 

 まず、デミウルゴスについては……今ただでさえ多くの仕事を割り振ってるってことで、これ以上仕事を、しかも種馬役なんてものを任せるのはどうだろう、って感じでためらわれるらしい。

 それを言われると、確かにというか、胸が痛い。アインズさん同様、リアルではブラック企業の社員だった私の、遠い昔の記憶が刺激されて『うっ…』ってなるわぁ……。

 

 次にマーレは……純粋にまだ子供なので『いくらなんでもまずくね?』とのこと。

 うん、私も正直そう思う。私も子供を持つ母親ってこともあり、彼より年上で、100歳になるのにまだまだ甘えたい盛りの子供(テレサ)を持ってる身からすると……変な例えだけど『女湯に入ってきても恥ずかしくない年齢の子供』の範疇を出ないというか。

 

 んでコキュートスとセバスは……片や武人気質、片や誠実実直で、どっちも総じて硬派で真面目な感じなんだよね。そんな2人に、種馬に等しい真似をさせるのはちょっと……という理由で、アインズさん的には微妙らしい。うん、言わんとすることはわかるよ。

 

 最後にパンドラだけど、こちらもアインズさん的に……黒歴史とはいえ、自分の息子にも等しいNPCに、自分の娯楽のための種馬役を任せるのは、生理的に嫌悪感が……とのこと。

 なまじ、『子供』達と真摯に、親として向き合っている私という存在を知ったからこそ、粗末に扱いたくない、という気持ちも出てきているらしい。うん、いいことだと思うよ。

 ……なお、アインズさん的には黒歴史とは言うものの、私普通にパンドラカッコいいと思う。

 

 パンドラに限らず、皆アインズさんの命令なら喜んで従うと思うけど、それぞれの理由で決めきれない……というかアインズさんが未だに、NPCを種馬に、私を肌馬に使うってことに納得しきれてないからこそ決断に至らないんだろうな。

 結局、決めきれなくて保留になりました。

 

 まあ、そういうことなら……私が急かすような話でもないし、ゆっくり考えて決めてもらえればそれでいいと思うよ。いくらでも待つし。

 

 当面の間は、時々テレサあたりにナザリックに出張してもらって、カフェテリアやダイニングの領域守護者(非常勤)として数時間勤務して、その間にアインズさんが食事とかする……みたいな感じで大丈夫だろうし。

 

 

 

【追記】

 

 明日からアインズさん……と、そのチーム一同が当分依頼で帰ってこなくなるわけなので、今日の夜はキリトを一旦貸して、もとい返してもらうことにしました。

 

 何のためかって? ナニのためです。

 ベッドの上でキリトの右足と左足の間についてるエリュシデータにスターバーストストリームしてもらうためです。

 

 もっとも、彼は『ついてない』モードでも楽しめるので、どっちにしようか迷ってるところなんだけども。

 

 何を言ってるのかって? うちのキリトはね、種族が『二重の影(ドッペルゲンガー)』なわけだけども、性別ごと変化させて女モードの『キリコ』(通称)になれるんだよ。

 なので、男性NPCであると同時に女性NPCにもなれて、1人で2役お得、というわけ。

 

 なお、何気に登録されているビルドも違って、男モードはパワー&タフネスタイプ、女モードはスピード&テクニックタイプだったりする。パンドラほどじゃないけど、状況に合わせて様々なタイプの前衛をこなせるのだ。

 ……性別変化させる必要はないだろって? HAHAHA。

 

 なおそれを利用して、彼(彼女)自身、気分に合わせて両方の性別で割と普通に楽しんでます。……うちにはどっちも行けるのが割と多いからね、相手には事欠かないのよ。

 

 ……それをアインズさんに話したら『聞きたくなかったですよそんな裏事情! 俺明日からそのキリトと数日がかりの依頼に行くんですけど!? どんな顔して会えばいいんですか!?』って絶叫してた。

 胃でも痛むんだろうか、みぞおちのあたりを抑えて……いやあなた骨だからそこ空でしょうに。

 

 だから深く考えなくていいですってば。うち割とそんなんばっかなんだから。

 

 

 




Q.この世界でもデミウルゴスは結局『牧場』作ったの?

A.作っちゃいました。ただ、原作ほどアイテムに困ってるわけでもないので、『羊』は野盗とか犯罪者に限ってるようです。原作よりはマシですね。
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