【異世界転移 2日目】
衝撃の異世界転移から一夜明けて……いや明けてないのか厳密には。日付変わってたわけだし。
まあいいや。そうして朝になって、会議室に集合して、最高幹部達『六道輪廻』と顔合わせしたわけなんだが……どうやら皆、基本的に私の味方ってことでいいようだ。
もっと正確に言えば、NPC達から私に対しては、確かな『忠誠心』みたいなものを感じる。
対等かそれに近い『仲間』じゃなくて、きちんとした上下関係があって、NPC達は私……プレイヤー、ないしギルドメンバーに仕える存在、って感じ。
ただ、面子の半分以上が……性格がアレというか、口調から何から、フランクないし雑なのでわかりにくいけど。むしろさっき言った『仲間』、あるいは『悪友』的な距離感に感じたもの、最初。
けど、やり取りを重ねていくうちに『あれ、コレやり取りは雑だけど結構忠誠心はマジかも』と気づけた。
さっきの会議ないし顔合わせの場では、普通に上司と部下、主と下僕として接してきたのが、カリンとヤマトの2人。
残り4人(過半数)……デミア、サンゴ、ミルコ、アカネは、雑な感じ。けど、多少からかうような感じの物言いはあれど、決定的に失礼なことは言わない。そのへんはわきまえてた。
マンガとかでも、普通に上司や恩師にもタメ口利いてるけど、きちんと忠誠は誓ってるし尊敬もしてる、みたいなキャラはよくいるから、そういう感じなのかな。
そして多分だけど、彼らのこの性格、NPCの設定として入力されてるテキストが反映されてるんだと思う。
ギルド拠点のNPC作る時に、『このキャラはこういう性格でこういう過去が~』みたいな設定を打ち込んで記録して、後から閲覧できる仕組みがある。それはでも、そのテキストが何か能力値に影響を及ぼすとか、スキルや
しかし、作った時に皆結構ノリノリで設定考えて打ち込んでたからな……当然私もそうした。
そして、それらの設定が性格面・人間関係面で実際にその通りになっているんだろう……皆、『こういう設定だ』って聞いてた通り、テキスト入力されてた通りの性格になってるもの。
『六道輪廻』の中で一番よく覚えてるのは、もちろん、私自身が作ったNPCであるデミアだ。
結構昔のとあるマンガ作品に出てくるキャラクターをモチーフにして作ったんだけど、設定としてはかなりフランクで奔放、壁を作らない親しみやすい性格をしている。
その一方で割と打算的かつしたたかでもあり、ニコニコ笑ってる裏で色々と策略を張り巡らしていたりする。目的を達成するためならば、限度はあるにせよ、割と手段は選ばない。
そして、魔法や魔法薬、その他学問全般に対してすさまじいまでの知識と技術力を持つ研究者であり、前述の性格もあって、それらの分野において、時に倫理観をぶっちぎってでも妥協せず突っ走るマッドサイエンティストでもある。
その他にもまあ、色々と設定盛り込んであるんだけど……その中に、私とは主従関係であると同時に悪友である、っていうの入れたはずなんだよね。『悪女』としてお互いを認め合っていて、今は主従関係だけど、昔は割と一緒になって色々無茶苦茶やった……みたいな。
だからこそ、さっきの会議ではラインはわきまえつつも、普通に友達付き合いみたいな距離感で話してきたんだと思う。『悪友』として。
正直、私としてはこれに関して……『過去の私ナイス!』とほめてあげたい気分だ。
ガチガチの上下関係、上司と部下以外の何物でもないような感じで接されると、忠誠心的な点では安心かもしれないけど……仕事場にずっといるみたいで肩がこるというか、気が休まらないかもしれないじゃん?
あのくらいフランクに、雑に接してもらうと、こっちとしても楽でいい。それでいて、きちんと失礼のラインはわきまえてるし、忠誠心は本物だからなおありがたいと思う。
この先、この異世界で生きていく上で……頼もしい。すごく。
そんな感じで、NPCがきちんと味方であることは確認できたわけだけど……次に気にするべきは、私達はこれからどうするべきか、っていう点だと思う。
さっき、今いるここが『異世界』だってちらっと話したと思うけど……どうしてそんなことがわかるのかというと、そういう風に報告されたからだ。
『六道輪廻』達と同じ、100レベルNPCの1人……“ハヤテ”と“トール”に命令して。
2人とも、『最高幹部』格ではないんだけど、この拠点内にいるメイドや執事達の元締めとして設定されていて、それぞれ『執事長』と『メイド長』の地位にいる。
そして、それぞれ種族は『竜人』と『
その結果わかったのは、今までこの『ニューコロロ空中庭園』があった場所とはまるで別な景色が外に広がっているというもの。
植生や住んでいる動物なんかも調べてみたそうだが、明らかにユグドラシル時代とは全然違う生物ばかりだったようだ。モンスターじゃなくて普通の野生動物が住んでいるようだし……本格的にユグドラシルにおけるどの世界、どのエリアとも一致しない。
NPC達が動き出しているこの異常事態とも合わせて、私はこれを、『ギルド拠点ごと』異世界に飛ばされて、同時にそこにある全てが現実になったのだと解釈しました。
理由は全然わかんないけどね。
さて、この異世界……(いるとすれば)現地民や、現地モンスターはどのくらい強いんだろう。
ユグドラシルみたいに、私達だけでもなんとかなるレベルであればありがたいんだけどな……高難易度ダンジョンに出てくるみたいなヤバいモンスターがそこらじゅうに住んでるとか、100レベルプレイヤーみたいな強さの人がそこらへんにいるとか、そういう修羅の国でないことを祈る。
というかそもそも、私達以外のプレイヤーやギルド拠点、NPCっているんだろうか? それも調べなきゃ……さらっとスルーしちゃったけど、さっきハヤテとトールが周囲を『調べて』『帰ってきた』ってことは、NPCがギルドの外に出られるってことだもんね。
もし、私以外にもプレイヤーが来ているとか、私達以外のギルドやその拠点も来ているとすれば……敵対は避けたい。
こちとらもう何年も過疎ってるギルド。プレイヤーは私一人しかいないのだ。
NPC達はいっぱいいるけど、それはギルド拠点であればどこも同じこと。
幸いと言っていいのか、私達は、いわゆる『DQNギルド』みたいに、他の多くのギルドやプレイヤーから敵視されてるような存在じゃなかった――むしろブームが過ぎ去って忘れ去られてる的な立ち位置のギルドだったと思う――から、好んで攻め込んでくる相手はいないと思う。
……いやでも、仮に他のプレイヤーがいたとして……攻め込まれる理由、なくはないんだよな……対外的には知られてないけど、今、うちの宝物庫の中、割とアレなことになってるから。
それも、後で確認しておかないと……この異世界で、場合によっては頼りにすることになるだろうし。
ところで、『DQNギルド』のあたりで思い出したんだけど。
もしこの世界に、私以外のプレイヤーが……それこそ、例えばあの『ユグドラシル』終了の瞬間にログインしていたプレイヤーが全員この世界に来ているとかだとすれば……まず間違いなくここに来ているはずの人に、1人、心当たりがあった。
ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』のギルド長……モモンガさんだ。
私にとって、ユグドラシルで一番と言ってもいいくらいに仲が良かったプレイヤーである。
同じ異形種アバターっていう共通点もさることながら、彼は、私が右も左もわからない初心者プレイヤーだった時からお世話になっている先輩ないし師匠、いやむしろ恩師な存在であり……同時に、『戦友』と言ってもいい間柄の人(骨)なのである。
実は昨日……すなわち『ユグドラシル』最終日、結構長いことメッセージで話してたんだよね。
私がたった1人でこのギルドホームを守っていたのと同じように、モモンガさんも1人でギルドホーム……『ナザリック地下大墳墓』を維持して守っていた。ギルド自体が過疎ってしまって、ログインする人が自分しかいなくなってしまっても、ずっと、1人で。
2人とも最後の瞬間は、それぞれのギルドホームで迎えるつもりだった。それで、最終日だけど他のメンバーもくる様子はないし――あっちは何人か来たみたいだったけど――もう終わっちゃいますね、って感じで雑談してたのだ。割とギリギリまで。
だから、モモンガさんも十中八九、午前0時をユグドラシルで迎えたはずだ。それなら、彼もこの世界に来ているかもしれない。
そう思って、『
モモンガさんだけでなく、他の誰とも繋げられる気配がない。
しかも、留守電みたいに『相手側が応答しない・できない』って感じじゃなく、そもそも繋げられる相手がいない、みたいな手応えなのだ。アドレス帳が全部消去されちゃってるような感じ。
いや違う、全くのゼロってわけでもないな?
転移後に会った面々……メイドの子や、『六道輪廻』のメンバー達……さらに、ハヤテとトールにも繋げられそうだ。
……プレイヤーじゃなくてNPCなんだが……繋げられるのか。
……というか、これやった後に気づいたんだけど、私今、すごく自然に『魔法』を使ったな……コンソールも何も使わずに、自分の意思だけで使った。
使えると体が、本能がわかってたみたいだった。そして、実際に使えた。
この分だと、スキルも……。
調べる、ないし、確かめなきゃいけないことが増えたな。
今日のうちにできればよかったんだと思うけど、これからのこととか、色々と考えていたらいつの間にか夕方になっていたので、明日にすることにした。
【異世界転移 3日目】
今日は、色々と気になっていたことを確認するのに1日費やした。
まず、このギルド拠点……『ニューコロロ空中庭園』の防衛設備、その現状について。
ユグドラシルにおいて、ギルド拠点はそのギルドメンバー達にとっての憩いの場であるが、他の敵対するギルドに攻め込まれてしまう危険も孕んでいる。
なので、それに備えるためにNPCを作って配置したり、様々なトラップを仕掛けて敵の進行を妨害する、といった手段で拠点を守るわけだ。
今回、こうして異世界に転移してしまったわけだけど……同じように転移してきたプレイヤー、あるいは元々この世界にいた現地民や現地モンスターから、ここを守らなきゃいけない。
進入されないように隠す、防ぐといったことはもちろんとして、侵入された場合でもそれを撃退あるいは殲滅できるような防衛機構がきちんと稼働しているか。そのチェックは急務だった。
それらを普段任せているのは、守護者統括であるカリンなので、彼女と一緒に各所を回ってチェックしていくことにした。
結論から言えば……今のところ、とはつくものの、問題ないと言ってよさそうだった。
まず、防衛用のトラップはどれも問題なく稼働している。
一部は課金アイテムを使って強化しているものなので、プレイヤーであっても半端なレベルならただじゃすまない威力を持っていたり、スキルを使っても見破るのが難しくなっている。
100レベルプレイヤーであれば、引っかかってもダメージを無視して、ごり押しで進めなくもないだろうけど、単純なダメージ系の罠だけでなく、状態異常系や装備破壊系、強制転移系の罠なども配置してある。
それらを踏んで戸惑っている間に、私や高レベルNPCが狩る、という戦法が使えるだろう。
また、トラップだけでなく、モンスターによる防衛もユグドラシルの頃と同じように生きていたのは幸いだった。
ここには、NPCとはまた別に、拠点防衛のためにモンスター達が配置されている。
100レベルのNPC達に比べれば強さはまあ、お察しだけど……中途半端なレベルのプレイヤーなら押し返して狩りつくしてしまえる力はあるモンスター達だ。
主力とは言えない、数で勝負的な面が強い奴らだけど、問題なく稼働しているようでよかった。
また、城クラス以上の規模を持つギルド拠点には、それぞれの特色に応じたモンスターが自然POPするという特徴、というか特典がある。
例えば、モモンガさんのいる『ナザリック地下大墳墓』であれば、アンデッド系のモンスター……スケルトンやゾンビなんかが一定ペースで湧き出してくる。そしてそれらは、拠点に侵攻してきた敵プレイヤーや傭兵NPCを見つけて攻撃する。
それはこの『ニューコロロ空中庭園』も同じで……ここには、『エレメント系』のモンスターが自然POPする。
エレメント系っていうとわかりにくいかもだけど、『精霊系』って言ったらもう少しわかるかな? 例えば炎の精霊なら、炎が人やトカゲの形をとって現れて、そのまま襲い掛かってくるとか、そういう、生物でもないしなんなら物質的ですらない敵って、ファンタジーにはよくいるじゃん?
水の精霊なら、水が戦乙女の形になってたり……土の精霊なら土が集まって巨人みたいになって襲って来たり……そういうのが、この『空中庭園』には、バリエーション豊かに自動で湧く。
これらも、そんなに強いモンスター達ではない――さっき言った配置モンスター達よりさらに弱い。強くてもせいぜい20レベル以下とか――けど、コストがかからない完全無料の防衛機能なのに加えて、エレメント系はそれらの維持にもコストがかからないのがいいんだよね。
動物系とか亜人系とかのモンスターだと、それらを維持するのに一定のコストがかかる。多分、現実にそういうモンスターがいたら、食費とかがかかる、みたいな理由からだろうと思う。
けど、エレメント系のモンスターや、ナザリックのアンデッドモンスターは飲食をしないので、そういう維持コストがかからないのだ。これが地味に嬉しい。
そして、罠やモンスターよりもさらに重要な防衛設備が、この空中庭園にはある。
実はこの庭園、いくつかの
うちのギルド、全盛期の時は全サーバー総合のランキングでトップ10……にはさすがに入れなかったんだけど、ベスト20くらいならちょいちょい入っていた実績がある。
その頃は私以外のプレイヤーも何十人もいて……皆で協力して、『世界級』を複数、手に入れることに成功していたのだ。
その中のいくつかが、拠点防衛にすごく便利な能力を持ったものだったんだよね。
それらを上手く使って防衛網を構築したおかげで、私達のギルド『暗黒桃源郷』、そしてその拠点『ニューコロロ空中庭園』は、難攻不落を誇っていた。
その、防備の要である『世界級』だが、これも問題なく稼働できていることが確認できた。
『パラケルススの魔剣』に『ラジエルの書』、そして『蓬莱の玉の枝』。3つとも健在だった。
これだけでだいぶ、気持ちが楽になったよ……まだこの世界そのものの危険度とかはわかってないけど、仮にやばいのが攻めて来ても、ある程度どうにか出来る目処が立った。
次に、この拠点を維持するためのコストについて。
ギルドホームの維持には、毎月一定額のコストを支払わなければならない。
コスト……つまり、ユグドラシル金貨だ。そしてその額は、拠点が大きければ大きいほど、作り込みが細かければ細かいほど、配置している戦力が多ければ多いほど、強ければ強いほど、どんどん増額されていく。
ただ、幸いにしてこの『ニューコロロ空中庭園』は、都市型のギルド拠点である。
『都市型』は、住まわせている民達から『税金』が納められるという特徴があり、その分を維持コストに回せるため、比較的コスト管理が楽なのだ。
維持コスト全部がチャラになるわけじゃないけど、毎月追加して稼がなきゃいけない分がぐっと減るので、ユグドラシル終盤になって1人でギルドを維持してきた頃の私には、嬉しいというか、マジで助けられる仕様だった。
……それを思うと、『都市型』でもないのに1人で拠点を維持し続けていたモモンガさんは本当にすごいと思う。
何度か行ったことあるけど、ナザリックって作り込みもすごい細かい上に豪華で、配置されてるモンスターやNPCもすげえ強いのが揃ってるし、罠とかもかなり強力なんだよね。
さらに、NPCのメイドのほとんどは、1レベルとはいえ燃費が悪い『ホムンクルス』だし、配置できるモンスターの枠が増える代わりにコストが大きくなる『ダグザの大釜』っていうアイテムも置かれてるし……毎月のコストは相当大きかったはずだ。
本当に、よく1人で最後の最後までもたせたよなあ……心の底から尊敬するわ……。
で、話を戻すけど……異世界に転移してきたこの拠点だが、どうやら『維持コストが毎月必要』という仕様が残念ながら生きたままになっていた。これからも、一定額のコストを支払い続けなければ、この拠点を維持できない。
けど同時に、『税金システム』も生きていて、それを一部相殺できるくらいの収入が定期的に入ってくるので、額面よりも維持は楽にはなりそうだった。
とはいえ、収支がプラスになるほどじゃないわけだから……どうにかして今後もユグドラシル金貨を稼ぐ方法を模索しないとな。
てか……この世界でも、モンスターを倒すと金貨やデータクリスタル、アイテムをドロップしたりするのかな……? 早急に調べさせないとだ。
このへんで午前中が終わったので、お昼ご飯を挟んで……午後からはまず、魔法とスキルについての検証。
パートナーをカリンからデミアに変更し、場所を『スタジアム』に移して検証した。
ここで1つ説明を。
この空中庭園は、6つのエリアに分かれている。
デミアが担当しているエリアで、魔法やアイテムの研究が行われている『
サンゴが担当しているエリアで、豊かな自然環境が根付いて広がっている『
ミルコが担当しているエリアで、狂暴な亜人や獣型モンスターが多く住まう『
ヤマトが担当しているエリアで、防衛戦力全般の幕僚拠点となっている『
アカネが担当しているエリアで、カジノや遊興施設が並ぶ(見た目は)楽しそうな『
そして、それら5つの中心部に存在し……カリンが担当しているエリアで、私達ギルメンの私室を含む多くの重要施設が存在する、事実上の心臓部『
このうちの1つ……『錬武郭』には、軍隊としての拠点となる様々な施設のほかに、訓練に使えるような施設も一通り作られている。
『スタジアム』はその1つで、その名の通りスポーツの競技場みたいなつくりになっていて、中心のフィールドで戦闘訓練その他を行うことができる。ナザリックで言えば、第六階層の『
そこで、スキルで召喚した中位~上位クラスの悪魔とか精霊を相手に、魔法やスキルの試し打ちをしてみた。
結果、魔法は第一位階から第十位階、さらに超位魔法まで、どれも問題なく使うことができたし、リキャストタイムなんかもゲームと同じだった。
さらに、『白面金毛九尾』をはじめとした、特殊な種族や職業由来のスキルなんかも問題なく使用できたし、いつも戦闘に使っているアイテムや武具も同様だった。
……中には、能力の性質上試せなかったものもいくつかあるけど、まあ仕方ないだろう。そういうのはまたの機会に、だ。
それと、ついでに試してみて明らかになったんだが……ユグドラシルの世界でのルールが一部、この世界でも生きてるっぽいんだ。
具体的に言うと、装備制限。
ユグドラシルでは……というか、たいていのゲームではそうだと思うんだけど、取得している職業によって、装備できる武器が違う。
例えば私は、『
なので、杖とかは装備できるんだけど、剣とか槍なんかの『戦士向けの装備』は持てないし使えない。ユグドラシルでは、システム上そうだった。
そのルールがここでも生きてるみたいで、私が剣を持って振ってみると、振り切る前に手から滑り落ちるようにして、ガシャン、と剣を落としてしまった。
杖は、問題なくふるうことができたのに。
逆に、魔法系の職業を1つもとっていないヤマトは、杖を装備して軽く振るうだけでそれを落としてしまった。
他にも試してみたところ、調合や料理といった、訓練とかでどうにかなりそうな技術にさえ、ユグドラシルのルールが生きていることが分かった。
例えば、調薬を行う際、ただ薬品を2種類混ぜるだけの簡単どころじゃない作業で、私やデミアがやると、無事に新しい薬が完成した。
しかし、同じことをヤマトがやると……ビーカーが爆発して失敗した。あら古典的。
私とデミアはどちらも、調薬に関する職業やスキルを持っている。が、ヤマトは持っていない。この結果はそこから来てると推察する。
全く同じ材料、全く同じ量で作ってるにも関わらずこれだ。仕様だからだとは思っても、わかっていても……なんか理不尽に感じた。この分だと、私の職業ビルドではできない『作業』も色々とありそうだな……ちょっとずつでも検証して、把握していかないといけないかも。
そして、本日の検証、最後のお題は……宝物庫のアイテムである。
ここには、ギルドの財産である大量の金貨や希少な素材、『
……まあ、そういうのばかりじゃなくて、捨てるのもめんどくさいから適当に放置されてるゴミアイテムとかもそのへんに転がってるけど。
ギルドが過疎っちゃってからは忙しくて整理整頓できてないから、何処に何があるのか探すの大変だったなあ……一回メイド達とか総動員して、倉庫整理と、リスト作成とかしたほうがいいかも。
幸い、今回特に用があったアイテム達は、他のごちゃっとしたアイテムの山とかとは別に置かれてあったので、探せなくて困ることはなかったけど。
で、今回宝物庫を訪れた理由だけど……ここに保管してある、いくつかの『世界級』や、その他の激レアアイテムについて確認するためだ。
拠点防衛用に使っている3つ以外にも、何個か『世界級』を持っててね。それがきちんとあるかどうかの確認と……その他にも、最近大量にレアアイテムを入手したから、その確認もだ。
現在、我が『ニューコロロ空中庭園』が有している『世界級』の数は、防衛用の3つを含めて、なんと驚異の16個。
その全てにおいて、きちんと保管されていることや、問題なく使えることを確認できた。
さらにその他にも、数多ある激レアアイテムについても、同様に確認できた。
道具鑑定系の魔法を、デミアと手分けしてめっちゃ使うことになったから忙しかったけど、必要な作業だったからね。頑張ったよ。
この異世界で、いつ必要になるかわからない……しかし間違いなく、きたるべき時には大きな力になってくれるであろう品物ばかりだった。
例えば、
権力者が使うような、装飾過多なハンコの形をしたアイテムなんだが、これを所持している者はあらゆる『フィールド効果』を味方につけられるという、すさまじい性能を持つ。
火属性が弱点でも、溶岩や熱波による炎熱系の地形ダメージを受けなくなるし、トラップも作動しなくなる。状態異常や能力変化も、『地形』その他『フィールド』由来である限り無効化できる。
他にも、『ネブカドネザルの鍵』『ソドムの火と硫黄』『琥珀の浄瓶』『
さらに、『
中には、『
なんでこんなにレアアイテムが大量にあるのかって? これにはカラクリないし理由がきちんとあってね……。
あ、もちろんチートとかそういうのは全然してないから安心してね。
ほら……ユグドラシル、ここ数年でかなり過疎ってきてたじゃん?
ログインどころかアカウントごと削除して引退するプレーヤーも増えてたし……それで最後には、サービス終了予定だったじゃん?
それを受けて、『もう持ってても意味ないから』って、レアなアイテムを捨て値で売っぱらうプレイヤーがあちこちに大量発生したんだよね。
それを私は逆に、せっかくだから大量に買い集めてたってわけ。
入手するのにリセマラ繰り返して数時間かかるレベルのレア素材が、店売りの低級ポーション1個と同じ値段で売りに出されてるの見た時は爆笑しちゃったなあ。それで全部買ったりとかして……それこそ、最終日までそんな閉店セール荒らしを繰り返してた。
加えて……そういう過疎って、拠点持ちのギルド達にも起こってたんだよね。
1人になっても最後の最後までギルドホームを守り続けた私やモモンガさんみたいなのはむしろ少数派で……サービス終了がアナウンスされた後、『はー、解散解散』って感じでユグドラシルにログインすらしなくなり、所属しているギルドの拠点ごと完全放置してしまったギルドが、決して少なくない数発生した。
けど、それは何を意味してるかっていうと……そいつらのギルドホームは今、プレイヤー0人、防衛戦力は各種トラップとNPCだけ、っていう状況で放置されてる、ってことになるでしょ?
その中には、レアアイテムや大量の金貨、そしてギルド及び拠点の心臓とも言える『ギルド武器』が放置されてるわけだ。
私はそういう、プレイヤーがいなくなって放置されたギルドを狙って襲撃を繰り返した。
眷属モンスターや傭兵NPCを何体も召喚して、配置されてるモンスターやNPCを倒しつつ、最深部まで進んでアイテムや金貨を根こそぎ奪い、最後にギルド武器を破壊してトンズラ。やることはこれだけだ。とてもシンプル。
元々持っていた『三界の玉璽』の効果でトラップは全部無効にできたし、私が持っているとあるスキルのおかげもあって、このやり方はすごくうまくいった。
仮に一度のアタックで攻略できなくても、プレイヤーがいないってことは、一度倒したNPCを復活させる者がいないってことだ。だったら、何回かに分けて挑戦し、1体ずつNPCを倒しながら攻略すればいい。
これをひたすら繰り返して、大量の金貨と、放置されてたレアな武具やアイテムを奪い続けた。
どうせもう終わるからってことなんだろうけど、びっくりするようなレアアイテムや……時には
実のところ、今持ってる16個の『世界級』のうち、半分以上はこのギルドホーム強盗で手に入れたものなのである。
なんでこんなことを……それこそ、もうすぐ『ユグドラシル』自体が終わるって言うのに、財宝やレアアイテムを集めて回ってたのかというと……理由は主に2つ。
1つは、そうやってギルドホーム襲った方が、ソロで狩りするより簡単に金貨を稼げることに気づいたから。
さっき言ったように、ギルドホームの宝物庫には、そのギルドホームの維持費として用意されていた大量の金貨が残ってるし……奪ったアイテムで要らないものがあれば、『エクスチェンジ・ボックス』に入れて換金しちゃえばいいし。
そして、もう1つの理由は……私のロールプレイの関係でね。
私、元々『傾国の悪女』ってテーマでロールプレイやってたんだよね。
時の権力者に取り入って虜にし、政治に口を出したり、贅沢の限りを尽くしたり、残虐な催し物を楽しんだりして、政府を内側からガタガタにし、ついには国を傾ける……そんな『悪女』が、歴史上の実在の人物として何人も出てくる。
私がやってたのは、あくまでロールプレイではあるものの……そういう、『悪女』だ。
己の欲望で周囲を振り回し、被害を拡大させながらも贅沢や我儘はやめず、ついには国を滅ぼすような……国家レベルの災いを呼び込み、最後には全てを崩壊させる……というね。
繰り返しになるけど、あくまでロールプレイだ。実際にそういう……サークルクラッシャー的な問題行動をやってたわけじゃない。
ギルメンが一緒になって、私が姫風にわがまま放題するのを、それに乗っかって右往左往したり仲間割れしたり、無理難題をこなすために危険な旅に出て命を落としたり……
……というのを自分達でやって、『ラストひでーw』『俺ラストの言う通りに歩いてたら死んだんだが』みたいなやり取りを自分達でやって遊んでたのがうちのギルドなのだ。
いつしか、それすらできないくらいに過疎っちゃったわけだけど、ね。
で、そういう『悪女』って、金銀財宝に囲まれながら冷たい微笑を浮かべてるイメージあったりするから……最後の最後にそういうロールプレイしてみたりだとか、数多のレアアイテムと一緒に記念撮影でもしちゃおうか、みたいなノリでお宝を集めてたんだよね。
なおそのロールプレイと撮影は既に済んでて、画像データが私のストレージの中にあります。
そして、こうして異世界に転移して、自分も、拠点も、NPCも、そしてアイテムも、全てが現実になってしまった結果……持ってけドロボーなバーゲンセールで買いまくって、無人のギルドホームから強盗同然に集めまくったアイテムの数々が手元に残って輝きを放っているってわけだ。
どれもこれも今後、しかるべき時に活躍してくれることだろう。
……けどやっぱり、いっぱいありすぎてわかんなくなりそうだから、リスト作ろう。
☆☆☆
『ニューコロロ空中庭園』内部にあるエリアの1つ『錬武郭』。
そこにある『スタジアム』で……1人の、あるいは1匹の狐が舞っていた。
相手にしているのは、レベル70を超える、接近戦用のモンスター達だ。剣や槍、大金槌といった武器を手に、次々に狐……ラストにゃんにゃんに襲い掛かる。
しかしラストは、それを舞うように華麗なステップでかわし、あるいは受け流し、翻弄する。
そして、手に持った武器……鉄扇で反撃していく。
魔法は使わず、鉄扇による打撃と、接近戦でも使えるスキルのみで戦っていた。
「“狐火”!!」
敵をまとめて鉄扇で打ち払うも、『魔法詠唱者』職であるラストの細腕では、大したノックバックも望めず、彼らはそのまま反撃して来ようとする。
しかし、直後に発生した青白い炎が追加ダメージを与えつつ動きを鈍らせる。
その間に距離を取り……さらに、下がり際に置き土産のように、紫色の炎を投げつけて着火。
「“鬼火”」
デバフ付与つきの攻撃特技である『狐火』と違い、『炎上』や『呪詛』といった状態異常を付与して持続ダメージを与え続ける『鬼火』を重ねて、徐々に敵の体力を削っていく。
その後さらに、また攻撃をかわして、隙をついて打ち据える……これを何度も繰り返し、1体、また1体と仕留めていく。
最後の1体……召喚した中で最もレベルの高い『
しかし、事前に使っていたスキルの効果で、1度限り物理攻撃が無効化され……ピンチは一転してチャンスに変わる。
攻撃後にできた大きめの隙を的確に突く形で、ラストは鉄扇にオレンジ色の火の粉を収束させ……それを業火に変えて、まるで炎をそのまま固めたような扇を作り上げる。
そしてそれを、目にもとまらぬ速さで連続で振るい、炎の刃で切り裂いて……『青褪めた乗り手』を消滅させた。
召喚したモンスターは全滅し、その残滓にも見える、火の粉が舞って消えていくのみのどこか幻想的な空間の中で……ふぅ、と一息つくラスト。
その戦いを観客席から見ていた3人……ヤマトとミルコ、それにデミアに向かって、尋ねる。
「どうだった?」
「んー……50点」
「いいとこ60点ってところじゃないかな」
と、ミルコとヤマトが割とバッサリと今のラストの戦いを批評した。
接近戦のエキスパートである2人である。忖度なしで下されたその評価は正確なはずだ。
「うぐ、やっぱりそんなもんか……全然まだまだだな、私」
「いやそれは仕方ねーんじゃねーの? ボス、近距離じゃなくて遠距離の方が得意だし、職業も全部それ系だろ。その鉄扇だって、『接近戦もできる魔法職用武器』に過ぎねーわけだし」
「そういった訓練を今まで、全くとは言わないまでもしてこなかったわけだし、仕方ないだろう。むしろよく動けている方だと思うよ?」
「でもまだまだ改善点アリでしょ? ちょっとずつでも直して、磨いていかないと……ミルコ、ヤマト、これからちょいちょい訓練付き合ってもらうことになると思うから、指導とか頼める?」
「それは構わねーけどよ……なんだっていきなり接近戦なんて勉強し始めたんだ?」
「ラスト様は純魔法職系だし……別に接近戦は、僕達のような前衛に任せていればいいんじゃないかい?」
「でも、努力してできることが増える、あるいはより上手く立ち回れるようになるなら、磨いておくにこしたことはないでしょ。幸いにして、時間はいくらでもあるんだからさ。それに……」
「外の世界に出るなら、いくらでも自分のスキルを磨いておいた方がいい、かしら?」
何か言う前に、デミアにずばり言い当てられてしまい、『うぐ』と言葉に詰まるラスト。
隣で聞いていた2人が『え?』と驚いたような目で、デミアとラスト(言い返さない)を交互に見る。
「やっぱりね……あなたのことだから、そんな風に考えてると思ったわ」
「おいおい、何考えてんだよボス……自分でこの世界の調査にでも出るつもりだったのか?」
「危険だよ! 調査するなら、僕ら下僕に任せてくれればいいじゃないか!」
呆れるデミアやミルコ、自分を心配して言ってくるヤマトの言葉を受けて、しゅんとなるラスト。
(やっぱ反対されるか……まあ実際、私、探索に向いてる方じゃないからなあ)
レンジャー系の職業を持っていないラストは、そういった『探索』が得手ではない。彼女が得意なのは、純粋な魔法戦闘や、探索するとしても『
それなら、ミルコやその部下達や、アカネやサンゴの眷属達を使って人海戦術で調査を進めた方が、安全だし効率的だ。
彼女自身それは理解していたし、なんなら別に探索に出たいと思っているわけでもなかった。必ずしも『自分が率先していかなければならない』とも、特に思っていなかった。
それでも、彼女が外に出る未来を見据えていたのは、
(部下に全部任せて自分は家でごろごろしてるとか、精神衛生上無理……! 彼女達の上司、もとい支配者としてきちんと恥ずかしくないくらいには働きたい!)
彼女はリアルにおいて、上司や他の同僚より先に帰るのが理由もなく億劫であるとか、有給を使うことに罪悪感と不安感を覚えるとか、そういう結構なレベルの社畜だった。
それに、仕事で何かしらのトラブルが起こっても大丈夫なように、リスク管理の意味も込めて、自分の受け持っている仕事についてはきちんと自分で理解するまで資料を読み込んだり、不明な、質問とかが予想される個所について調べつくして把握しておかないと落ち着かない性格だった。
そして、転移後も残念ながらその時の感覚が残っているようで……
一応、仕事とプライベートの線引きは比較的出来ている方だったのだが、今のこの、四六時中『ラストにゃんにゃん』であるという状況に……徐々に、染みついたリアル側の価値観が顔を出しつつあるようだ。
『支配者として君臨はするけど、それはそれとして役立たずの穀潰しにはなりたくない』という心理が。
「……ラストさあ……あんた『傾国の悪女』向いてないと思うんだけど」
「それは確かに」
「こんな責任感と向上心に満ちた『悪女』とか聞いたことねーよ」
「それぞれ好き勝手を言うなー!」
結局、
・ラストが、部下からの報告だけでなく、その目で見て、触れて、きちんと外の状況を把握すること自体は一応意義はある。
・しかしそれならそれで、きちんと外に出ても安心という、納得できるレベルに鍛え上げてから出るべき。それまでは拠点にいて、訓練して実力をつけるべし。具体的には、ミルコとヤマトから連名でOKが出るまで。
・それまでは外部の探索・情報収集は、カリン主導の元、下僕達が担当する。
こんな感じで、話はまとまったのだった。