オーバーロード 傾国狐の異世界日記   作:破戒僧

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おかあさんといっしょ(60分コース)

 

 

「いや~……さすがにびっくりしたなあ。いきなりどうしたんだろ、マーレってば」

 

 『空中庭園』の中枢部、ギルドメンバー専用区画。

 そこにいくつもある『大浴場』……の1つの脱衣場(女湯側)で、私は首をひねっていた。

 

 既に装備の全解除は完了しているので、生まれたままの姿だ。けど、空調は完璧なので、全然寒いとかはない。

 加えて、入浴に必要なアメニティは全部中に揃っているので、このまま手ぶらで風呂に入るだけで楽しめる。

 

 けどそうせずに、私はなんとなく……すっぽんぽんで全部丸見えな姿のまま、脱衣場で引き続きうんうんと唸っていた。

 

 ふと後ろを振り向いて……洗面台のところにある大きな鏡に、自分の全身を映してみる。

 全体的に自画自賛させてもらうけど……文字通り『人間離れ』した美貌と、特級の芸術作品のような見事なつくりの肢体。異性どころか同性であっても見惚れてしまいそうな、まさに『傾国』の名にふさわしい裸体がそこにあった。

 

 その中でも特に多くの注目を集めるだろう、大きくて形もいいおっぱいの片方を、むにゅん、たぷん、と持ち上げてみる。柔らかくて、手の形に添って変形しながら持ち上がる。

 

「……やっぱ『そういうこと』なのかなあ? うーん……我ながら罪な美貌……」

 

 さっき部屋で聞いた、マーレの『お風呂でお背中(略)』という言葉。

 色々な意味で唐突だったアレを思い出して、私はため息をついた。

 

 ため息と言っても、特に何かに落胆したとかそういうわけじゃなく……もちろんマーレに対して、何か悪い感情を抱いているわけでもない。

 

 むしろ、

 

「まあ……『男の娘』だとはいえ、きちんと『ついてる』、れっきとした男子だもんね……女の人や、『そういうこと』に興味があるのは、なにもおかしいことでも悪いことでもないけど……」

 

 仮にマーレが『そういう意味』で自分に興味を抱いていて、『そういう理由』で自分とお風呂に入りたがってるんだとしても……別に私には、それを責めるつもりはないし、避けるつもりもない。

 

 むしろ、性に目覚めたばかりで色々なもの・ことに興味津々な男の子に手ほどきしてあげるなんていう、超絶面白そうなこと……私の方こそ心が躍る。

 マーレ本人が望むなら、いくらでも甘えさせてあげるつもりでいたし……なんだったら、最高の『初体験』をさせてあげる用意すらある。

 

 けど一方で……ちょっと不安というか、疑念もあった。

 

「でも、やっぱおかしいな……部屋でマーレに謝られた時に感じた『申し訳ない』っていう反省の気持ち……あれも確かに本物だったように感じたんだけど……その後にこんな、欲望丸出し、公私混同上等な『お願い』してくるかなあ?」

 

 ナザリックのしもべ達は、アインズさんに対する忠誠心が限界突破している。

 そしてその延長線上の話で、自分がアインズさんから任せられた仕事に対しても常に全力で、真剣に取り組む。仮にそれで失敗でもしようものなら、自害もいとわない勢いで自分を責める。

 

 マーレも例外じゃない。

 ンフィーレア君を撲殺しちゃったあの件は、仕事を失敗……というよりは、アインズさんの仕事ないし行動の邪魔をしてしまった形になるわけだが……その直後にアインズさんにお説教されて、それをもって許されたとはいえ、猛省を要する失態に変わりはなかったはずだ。

 

 それに対する『謝罪』や『償い』もまた、失態を犯した者として真摯に向き合い、対応すべきことである。

 だからこそ……その『仕事』が絡んでいる案件で、自分の欲望に忠実に走るような『不真面目』なことをするだろうか……?

 

(けどそうなると、この思春期の男の子そのまんまって感じの、ちょっとエッチな『お願い』は……本当に、本心から『背中を流す』っていう、お詫びないし償いのつもりで提案してきたってことか? いやでも、それはそれで……)

 

 

『あ、あの……ラストにゃんにゃん様? お支度……まだかかりますでしょうか?』

 

 

「! ああ、ごめんねマーレ、今行くよ」

 

 色々考えてる途中で、ガラス戸の向こう……大浴場の中からマーレの声が聞こえて来て、はっとした。そういえば、ずいぶんと長いこと考え込んでしまっていたかもしれない。

 ひょっとしてお風呂の中で、はだかんぼで待たせちゃってたかな? これは失敗、失敗。

 

 ……まあ、細かいことは今は考えなくてもいいか。入ってみればわかるかもだし。

 

 ガラス戸を開けて大浴場の中に入ると……前もって『混浴設定』にしておいたおかげで、丸出しの体を覆うように『湯浴み着』が装着される。薄手の布が、申し訳程度に私の裸体を隠し、混浴の準備が一応は整った。

 

 その状態で中に入ってみると、マーレは既に中に……かけ湯のそばのあたりにいて、緊張してそわそわしながら待ってくれていた。

 

 ……なお、前回に引き続き、今回もマーレが来ている湯浴み着は、女の子仕様である。胸まで隠す形のやつ。……判定どうなってるんだろうコレ……『男の娘』も自動検出してこのタイプにしてくれるのか? 謎だ……。

 

「ごめんごめん、待たせちゃったかな。せっかく背中流してくれるって言ってくれたのにね」

 

「い、いえ……全然大丈夫です! じゃ、じゃあ、その……よ、よろしくお願いします!」

 

 

 

 そうして、私とマーレの『一緒にお風呂』がスタートしたわけだけど……やっぱ、私の考えすぎだったのかなあ?

 今のところ、普通に背中を流してくれてるだけだ。

 

「んしょ……んしょ……」

 

 相変わらず緊張してるし、顔は赤くて恥ずかしそうにはしてるものの……それ以上特に変なところはなし。偶然を装って触ってきたりとか、そういう気配はない。

 

 けどかといって、そういう感情とか欲求みたいなものがそもそもない、というわけじゃなく……むしろ、そういう欲求はきちんとありつつも、一生懸命我慢してるようにも見える。……種族柄、そういう感情には敏感なんだよね、私。

 

 ちなみに私は今、強制装着アイテムである『湯あみ着』の後ろ側だけを解除して、背中からお尻までを全部むき出しにして、マーレの前に座ってるんだけど……うん、ちゃんと感じ取れる。私の背中やお尻に向けられるマーレの視線も……そこにたしかに込められてる感情も。

 

 マーレの中にも、そういう男の子らしい感情そのものははっきりとある……が、それをちゃんと自分の意思で我慢できてるのだ。コレはむしろ、私的には好感度高い。

 普段はオドオドしてて自信なさげで、周りに流されちゃいそうな感じなのに、こういうところはきちんとしてるんだな、って思った。

 

 ……というか、それはそれとして、さっきから思ってたんだけど……

 

「マーレ……背中流すの、上手いね」

 

「そ、そうですか?」

 

「うん。力加減もちょうどいいし、洗い残しのないように隅々までやってくれるし、きちんと泡立てて全体に広げて……って感じで……気持ちいいよ」

 

 お世辞抜きでそう思った。上手っていうか……なんか手馴れてない? 普段から誰かにやってあげてるのかな?

 

「え、えへへへ……ありがとうございます。その……いつもお姉ちゃんの手伝いとかしてるからかなあ?」

 

「お姉ちゃん、って……アウラ? アウラと一緒にお風呂入ってるの?」

 

「あ、いや、そういう意味じゃなくて……お姉ちゃんのしもべの、フェン達のお風呂とか、洗ってあげるの、よく手伝ってるんです。ブラッシングとかも」

 

 ああ、そういう意味か。

 アウラ、たしかビーストテイマーで、神獣クラスのモンスターとかもいっぱい従えてたもんね。あれらのお世話を手伝ってるのか。

 

 ……ペットのお世話の延長上のテクニックで私、気持ちよくなってるのね……なんか複雑。

 いや、私も確かに分類上は獣妖怪……っていうか『狐』だけどさ。

 

 でもそれなら……開き直って、そっち方面の『お世話』とかしてもらってもいいか?

 ちょうどそろそろ、背中洗い終わるところだし……

 

「じゃあマーレ、ついでにもうちょっとお願いしてもいいかな?」

 

「は、はい。何ですか?」

 

「背中、すっごく気持ちよかったから……こっちもお願いしていい?」

 

 言いながら私は立ち上がって、座ってる椅子ごとちょっと動いてマーレから離れる。

 そしてあらためて、マーレに背中を向けた状態で座り直すと……腰から延びている、9本の狐の尻尾を、ぶわっとマーレの前に伸ばして広げた。

 背中越しに、『わわっ!?』とマーレが驚いた声が聞こえる。

 

 私の尻尾は、さっきまでは……というか、普段は種族スキルの『変化の術』の応用でコンパクトにしている。サイズを小さくしつつ、必要なら本数も減らして。

 けど、本来のサイズはこんな感じで……かなり大きい。1本1本が2m近い長さがあって、太さも両腕で抱えられるくらい(ただし、毛が広がってモコモコになってる状態)。それが、9本。

 

 部下達や子供達は『きれいだ』ってほめてくれるし、私としても自慢の金色の毛並みなんだけど……ぶっちゃけ普段から出してるとコレ、かさばって邪魔で……

 

 転移してすぐの頃とか、よくやらかしてたな……ちょっと振り向いたりした拍子に、ぶぉんっ、って尻尾で薙ぎ払う形になって、いろんなもの落としたり壊したり……

 近くにあった花瓶とかガシャーン、って落として割ったり……立ち上がった拍子に椅子とかがたーん、って倒れたり……近くに立ってたメイドとか執事とか巻き込んでびたーん、ってぶっ叩いて吹っ飛ばしたり……

 いちいち邪魔でたまんないし、毎回片付けとかしてくれるメイド達に申し訳ないから、普段は術でコンパクトにしてるんだ。

 

 一応マーレ達には、こないだの『謁見』の時に、見栄えをよくするために、9本全部フルサイズの状態で見せてるはずだけど、それ以外はコンパクト版だったし、これだけ間近で見せたことはなかったはずだから、ちょっと驚いてるな。

 

「ふわぁ……すごい、きれいです……!」

 

 私自慢の黄金色の毛並み×9を前にして、マーレは……素の表情で、緊張とか恥ずかしさとか、そういうのがどっかに吹っ飛んで、思わずと言った様子でそう呟いていた。

 しばらくうっとり眺めてた後、はっとしたように『じゃ、じゃあやります!』って、アメニティの中から、動物用のブラシとか毛皮用洗剤(当然のように完備)を探して取り出し、これまた慣れた手つきで尻尾を洗い始めた。

 

 

 ~10分後~

 

 

 いや、やっぱマーレ普通に上手いわ。

 背中流すのも上手だったけど、尻尾……っていうか、動物の体洗うのホントに上手。やっててもらってて、普通に気持ちいい。

 

 1本1本、仕事が手早く、それでいて丁寧。隅から隅まで……付け根から先っぽまで洗ってくれる。

 ブラシの力加減も絶妙。こういうのって、強すぎても弱すぎてもダメなんだけど、ちょうどいい刺激になって気持ちいいし血行促進にもなりつつ、かつ毛皮や皮膚を傷めたりしない程度のそれでやってくれる。

 

 普段私は、尻尾のケアは自分でやるか、サンゴ(一流ビーストテイマー)やデミア(大体何でもできる天才)に頼んでるんだけど……その2人にも負けてないかも。

 

 正直、半ば思い付きでお願いして見ただけだったんだが……思いのほか掘り出し物だったかもしれない。この子にこんな特技があったとは……

 

 それから20分ちょっとくらいで、9本全部洗い終わった。

 

「いやあ、気持ちよかった……ありがとねマーレ。ごめんね、9本もあったから時間かかっちゃって……大変だったでしょ」

 

「いえ、全然大丈夫です。喜んでもらえて嬉しいです!」

 

「そーお? ……なら、これからも時々お願いしちゃおっかな?」

 

「えっ!? お……お風呂で、ですか?」

 

 ちょっとドキッとして、顔に赤みを増すマーレ。

 

「お風呂もそうだけど、この分だと、毛並みのブラッシングとかも期待できそうだし……そのあたりとかもね。マーレがナザリックの使節として来た時とか……まあ、毎回は大変だろうから、たまにでもお願いできたら嬉しいかなって」

 

 お世辞抜きの本音である。

 いつものサンゴ達の洗体やブラッシングに不満があるわけじゃ全然ないけど、人が変われば感覚も変わるというか……人ぞれぞれ違った良さがある気がするので。

 

 そう言ってみたら、マーレってばぱあっと嬉しそうな表情になって、

 

「全然大丈夫です! 毎回でもいいです! ぼ、僕、いっぱいここに来られるように頑張りますから、どんどん言ってください!」

 

「そお? ふふっ、じゃあ、お願いしたくなったら言うね。ありがとマーレ。さて……頑張ってもらっちゃったし、私からもお礼……しなくちゃね」

 

「えっ? いや、別にお礼なんて……え? わ、わわっ!? ら、ラストにゃんにゃん様!?」

 

 元々『お詫び』として背中流してたんだから、って恐縮するマーレだったけど、半ば強引に私はマーレに後ろを向かせた。

 そして、私のそれと同じように、マーレの湯あみ着の後ろもほどく。

 

 褐色だけど染み一つなくきれいで、やわらかくて瑞々しい、しっとりした子供の肌。背中から、形のいいぷりんとしたお尻までが露わになる。

 ……これで男の子って、ちょっと信じられないなあ……恐るべし、茶釜さんの造形美術。

 

 驚きと恥ずかしさで戸惑って、ますます顔を赤くしてるマーレの背中を……お返しってことで、私が洗ってあげることにした。

 

 じっとしててねー? ふふっ、大丈夫、これでも体を洗ってあげるのには結構自信あるんだよ、私も。

 伊達に400年間、何千人も子供産んで育ててきたわけじゃないからね。男の子も女の子も、お風呂入れてあげたことなんて数えきれないくらいあるんだから。このプロのお母さんに任せなさい!

 

 

 ☆☆☆

 

 

 ―――数十分後。

 

 

「あら、ラストにゃんにゃん様。こちらにおいで……でぇ!?」

 

「あ、シャルティア。エントマも。今日はここのお風呂入りに来たの?」

 

 ちょうどお風呂……というか、脱衣場から廊下に出てきたところで、シャルティアとエントマに出くわした。

 これからお風呂かな、と思って聞いたら……それが聞こえてないみたいに、なんか絶句してこちらを凝視して来るんだが。

 

 その視線は、私の胸元……というか、私が抱きかかえてるマーレに向いている。

 

 ああ、私らが一緒にお風呂から、しかも女側の出口から出てきたからびっくりしてるのか。

 

「あ、あああああの、ら、ら、ラストにゃんにゃん様!? ひょっとして、マーレと一緒にご、御入浴を?」

 

「うん、マーレが背中流してくれるっていうから。とっても気持ちよかったよ」

 

「気持ちよかっ……し、しかもマーレの方から誘ったんでありんすか!? くぅうぅっ……も、もうちょっと早く来ていれば……っ!」

 

 それを聞いて、血の涙を流しそうなくらいくやしがっているシャルティア。

 ……いや、何を想像してそんなんなってるんだよ。別に変な……そう、君や君の創造主が喜びそうないやらしいこととかはしてないぞ。

 

 本当にただ、洗いっこしただけだ。背中流して……まあ私は尻尾も洗ってもらったけど。

 

 その後、なんかマーレがのぼせて目を回しちゃったから、仕方なく私が抱えて出ただけ。

 元々マーレが着てた装備は、マーレ自身がアイテムボックスにしまってて出せなかったから、アメニティとして置いてあった浴衣を着せてあげてるけども。

 

 そんな長風呂してたわけでもないんだけど……やっぱ緊張しちゃったせいかな。

 

 ……ああでももしかして、ついいつもの(子供達を洗う時の癖で)前の方まで手を伸ばして洗っちゃったのがまずかったのかな?

 

 それか、洗った後に保湿オイル塗ってあげた時に、タオルとかスポンジじゃなくて手のひらに直接つけてあちこち触っちゃったせいか……刺激強すぎたかな?

 

 それ話したら、シャルティアが今度は床に四つん這いで突っ伏して、握った両こぶしで床を叩き始め、慟哭しながら悔しがり始めた。

 

 ちょっとちょっと、床ひび入ってるんだけど……壊さないでよ。

 まあ、1日に一定額までなら無料(コスト不要)で修繕できるからいいけどさ……そもそもコストかかったところで、金貨なら有り余ってるし。

 

 その後シャルティアからは、

 

「マーレがご迷惑をおかけしんした……同じナザリックの守護者としてお詫びしんす。……後、次はぜひ私にもお声をかけてくんなまし! 私もそれ見たかっ……いえその、私も洗体やマッサージなら腕に覚えがありんすから、ご満足いただけると思いんす!」

 

 食い気味にそう言ってきた。ああうん、今度ね今度。

 

 しかし、こっちの守護者は欲望に正直だなあ……やっぱ創造主に似たのかな。

 

 とりあえず、マーレを部屋に運んで寝かしつけないと。

 

 

 

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