【異世界転移400年目 ◆日目】
マーレと楽しくお風呂に入った翌日。
朝食の席で、私の顔を見るなり顔が真っ赤になって、その後しばらく挙動不審だったマーレを見て、周りの面々が『コイツまさか』的な目になったけど、予想はできてたことなのでちゃんと誤解は解いておきましたとも。
何も変なことはしてない、タダ一緒にお風呂入って、洗いっこしただけ。それでマーレが緊張してのぼせちゃっただけだって。
なのに『十分アウトよ』ってデミアからツッコミが入ったのが解せぬ。
なんでや、挿れてもなければ出してもないぞ。
まあそれはともかくとして……今日はマーレとシャルティアはどう過ごすか、ってその朝食の席で聞いたんだけど、2人の希望としては、『ここで『何か』を学んで帰りたい』とのことだった。
曰く、マーレとシャルティアは、アインズさんから『2人とも色々あって気疲れしているだろうから、休暇のつもりで行ってこい』とここに送り出されたらしい。
こないだ書いた通り、マーレはンフィーレア君撲殺の件で、シャルティアは洗脳の件でそれぞれ自分を責めてる感じだから……その気分転換のためにってことでね。
あらかじめ私とアインズさんで打ち合わせ済みだったからね。これは知ってる。言葉通り、ゆっくり休んで楽しく遊んで、気晴らししてもらいたくて2人をここに送り出したのだ。
……しかし残念ながら、そんなアインズさんのご厚意は。マーレ達にはちょっと届いてなかったようで……
『アインズ様が私達をここによこしたのは、きっと名誉挽回の機会を与えてくださったのに違いありんせん! ここで、ラストにゃんにゃん様の元で、今の私達に……ひいてはナザリックにないものを学んで帰ってきて、よりナザリックの役に立てるようにとのお考えであろうと思いんす!』
『だ、だから僕達……ナザリックの、アインズ様のためにも、もっと新しいことを学んで帰りたいんです! お願いします、ラストにゃんにゃん様!』
はい、見事になんか重い感じに受け止めていました、と。
いや、うん……向上心豊かなのは結構なんだけどさ……。
けどまあ、アインズさんの思惑とはちょっと違うとはいえ、2人がそう望むなら……私としてもそれに応えるのはやぶさかではない。
ここはひとつ、2人のキャリアアップに協力してあげよう。ちょっと気負いが過ぎる感じはしなくもないけど、アインズさんの役に立ちたい、っていうその意気込み自体はいいことだしね。
と言っても、2人に任せられそうなこと……仕事とか情報関係でナザリックと情報共有できそうなことは、ここ数回の人材交流の間に、デミウルゴスがあらかたもってっちゃったので……それ系はないんだよなあ。
となると、技術系になるかなやっぱ。畑違いだったり色々な理由で、後回しになってるものがいくつかあるから。
まずシャルティアには、ヤマトのいる『錬武郭』を紹介して、訓練に参加させるよう渡りをつけてあげた。
シャルティアは、種族・職業ともに超ガチビルドで作られている戦闘要員NPCであり、その力はナザリックの守護者達の中でも屈指だ。その力を存分に発揮できる場所はどこかと言えば、それはもちろん戦闘である。
なので、そこで生かせるような技術を覚えてもらえるような訓練をさせるのがいいだろう。
具体的には……ユグドラシル産のスキルその他については、ペロロンチーノさんから既に貰ってるだろうから……この世界独自の技術や、それを取り入れた戦闘技能がいいだろう。
『武技』に加えて、その強化系である『特技』あたりを教えてあげるのがちょうどいいかな。
『始原の魔法』と『神技』は……さすがにまだ早いというか、難易度が高いか。
この中だと、人間でも習得できる『武技』が一番難易度が低い。
魔法やスキルと違って、魔力を消費するわけでもなければ回数制限があるわけでもない。が、代わりに集中力や精神力を消費するので、精神的に消耗する、っていう技法だ。
次いで難易度が低いのは、『特技』である。
これは、その『武技』やその他色々な技術をもとにして、この世界に来てから私達が独自に開発し、体系化にまでこぎ着けた戦闘技法だ。
基本的には武技と同じで、通常よりも強力な攻撃を繰り出すことができるものなんだけど……武技と違うのは、その際に消費する力が、精神力や集中力に限らないことだ。代わりに、魔力(MP)や生命力(HP)を使って繰り出すこともできるし、この中からいくつか選んで組み合わせて使うことだってできる。
例えば、今はMPが少ないからMPは減らしたくない、代わりにHPと精神力を使おう、なんて感じに、その場その場の状況に合わせて『繰り出し方』を選択したりできる。
さらに、技を繰り出す際に、どの程度それらの力を消費するかをこっちで決められる。
通常使うよりも多く力を注ぎ込めば、より強力な『特技』が発動する。逆に、通常よりも少ない力で使えば、わざと弱い威力に手加減して放つこともできる。
要するに、武技よりもかなり自由度が高い感じに仕上がってる、改良版ないし上位互換とも呼べるものなのだ。
なお、この『特技』の例としては、ヤマトがよく使ってる【雷鳴八卦】や、ミルコの【
まあ、武技特技に限らず、魔法だって独自に新開発できるのがこの世界だ。びっくりはしたけど……何もおかしいこっちゃない。
ヤマトの『雷鳴八卦』は、金棒を叩きつけると同時に、空間にひびが入ったような、雷にも見えるエフェクトが迸るので、見た目にもインパクトは抜群。
ただし、そう見えるだけで雷属性の技ってわけではない。ただの打撃です。
ミルコの『
わかってると思うけど、これも特に属性はないです。
そんな感じで、見た目にも楽しくて実際に強い、使い勝手もすごくいい技なので、習得できればシャルティアにとっても大いに力になるはずだ。
特に彼女の場合、メイン武装の『スポイトランス』の効果で、攻撃した相手からHPを吸収できるはず。それを利用すれば、『HPを消費して『特技』を使って攻撃しつつ、スポイトランスの効果でHPを回復する』っていうえぐい永久機関ができるかも。……ホントに向いてるなコレ。
そして次が、『
適性、ないし向き不向きはあるけど、そういう血筋でない者……それこそ、ユグドラシルプレイヤーやNPCでも使えるようになっている。そのためのノウハウはもう確立してある。
ただ、今言ったように、向き不向きがあるので、個人個人で覚えられる魔法が全然異なってくる上……習得難易度が『武技』や『特技』に比べて桁違いに跳ね上がる。
それこそ、私達の時は……手探りだったことを鑑みても、0から習得するには数十年単位で時間を要した。
加えて言えば、私達にも使えるようにするために、いくらか術式をいじって最適化したので……『竜王』達が使っていた『始原の魔法』とは、厳密には似て非なるものになってるんだけどね。
私達用の
それでも、『始原の魔法』の強みである、ほぼ詠唱が必要ない点や、錬度にもよるけど『世界の護り』に匹敵する防御力を発揮できる点なんかは健在なので、非常に強力な手札だ。
そして最後に……その『始原の魔法』と同等かそれ以上に習得難易度が高い『神技』。
これは、『武技』『特技』『位階魔法』『始原の魔法』これら全てのノウハウを組み合わせて作り出した戦闘技法である。
言うまでもなく、習得難易度はさらに高いけど、その分有用性も別次元だ。
魔力(MP)、生命力(HP)、精神力、集中力、そして魂……『特技』はこの中から使うリソースを自分で選ぶことができたけど、『神技』はこれら全てを、少しずつではあるが同時に消費する。
その代わりに、発揮される威力はとんでもない。普通に『特技』としてそれら全てを同量使って技を出した時よりも上だ。
これに分類される代表的な技としては、何と言っても、ヤマトやミルコ、オルガやシーナが訓練で毎度のように使っている『武装硬化』だろう。
開発したての頃はそんなに細かく決まってなかったけど、後にその威力や難易度の高さから、『神技』に分類することが決まりました。
その他にも、この区分になる技はいくつか開発されているし、切り札的な大技である『魂殻変化』もこれに分類されるが……これについてはまた今度ね。
こんな感じで、シャルティアに――別にシャルティアに限らずだけど――学んでもらえることはいくらでもある。
どれか1つでも身に着ければ、今よりもっとアインズさんの役に立てるようになるだろう、って聞いてめっちゃやる気出してた。うんうん、いいことだ。
ただ、一朝一夕にはいかないだろうけどね……それこそ、慣れないうちは簡単な『武技』だって1つ覚えるのに数日から数週間は当たり前にかかるもんだ。難易度の高い技法を覚えるとすれば、数年、数十年単位を費やす覚悟だって時には必要になる。
まあ、私ら異形種にとって、時間なんていくらでもかけられるものだけどね。寿命ないし。
口頭で説明した後は、『習うより慣れろ』ってことで、シャルティアを訓練の中に混ぜてあげた。
うちのヤマトと模擬戦をやってみてもらったんだけど、さすがはナザリック最強格。うちの近接戦闘最強格であるヤマトとも互角に渡り合ってみせた。
お互いに訓練用の武器だから、殺傷力自体は低い条件下での戦いだったけど、それ以外は実践とほぼ同じだから、迫力あったな……。
模擬戦の結果は、ほぼ引き分けで……判定でヤマトの勝ち、ってとこかな。
どちらも戦闘用のガチビルド、という点ではこの2人は同じである。違いは、それぞれのバトルスタイルかな。
ヤマトの能力は、職業しかりスキル然り、物理戦闘のみを重視したピュアファイター的なビルドに仕上がっている。彼女の種族である『鬼人』が、そもそもそういう戦い方が得意な種族だから、というのも大きいな。
対してシャルティアは、接近戦も十分強いのに加えて、信仰系
正直、ヤマトはそのへんの役割(回復とか補助)を他の仲間に任せて暴れることで真価を発揮するタンク系の近接職なので、1対1の戦いとなると、継戦能力や攻撃のレパートリーの問題でシャルティアが有利だ。
そこをほぼ引き分けに持って行けたのは、この世界に来てからの400年分の研鑽があったからだと思う。技術的に鍛えていたのはもちろん、戦いの中で使ったいくつもの『武技』が、シャルティアにいくつもの想定外を突き付けていた。
シャルティアの『清浄投擲槍』による必中の一撃を、ヤマトが『不落要塞』の武技でほぼノーダメージで耐えたり、
シャルティアが使う『
そういった相互の創意工夫で戦いになっていたけど、最終的には時間切れになって、ステータス差と技量の差で押していたヤマトの判定勝ち、って感じ。
シャルティアは悔しそうにしてたけど、実際自分でも『勝った』とは思えてはいなかったんだろう。割とすなおに負けを認めていた。
その上で、『なら、それを学べばもっと強くなれるということでありんすね』と、どん欲に学んでいく姿勢を見せた。その意気やよし。
最初こそ『下等な人間が使う技術なんかで』とバカにしてたようだけど、その有用性にはしっかり気づけたようでよかった。
……こういう言い方はアレだけど、その下等……もとい、決して強いとは言えない人間が使うから、武技自体も総じて微妙な評価になっちゃうわけで……地力がぶっちぎっている私達異形種が使えば、相応に強力な戦闘手段になるのよ。『武技』って。
加えて、今回の模擬戦の中ではヤマトは、それ以上の技……『特技』も『神技』も『始原の魔法』も使わなかったからね。それらを使っていれば……シャルティアはもっと早く、制限時間いっぱいは戦い抜けずに負けていたと思う。
彼女自身、それをわかっていたはずで……しかしそれでも、悔しさをばねにして前に進んでいく姿勢を見せている。いいね、そういうの私好きだよ。がんばれ。
一方マーレには、彼の持つ『
前にも話したけど、『
けどそれに対してアインズさんは、私達からの好意によるプレゼントだとして受け取りつつも、一方で自分達でもそれを安定して作れる、自給自足できるようにしたいと思ってるみたいだった。
結構切実な声音で『……ヒモは、その……嫌です……』って言ってたのが耳に残ってる。
私も思わず『あ、はい』としか言えなかったな、あの時は……
まあ、男としてのプライドとかそういうのあるんだろうし、ね……うん、いいことだと思うよ。
けどそれならそれで、生産体制ってものをきちんと確立しないといけない。
ポーション然り
その多くは薬草その他の『植物』なので、ここでマーレの『森司祭』の技能が光ってくる。草木その他の植物を魔法で成長させることができるから、そういうのを育てたり、さらに改良する研究とかもできるからね。
ただ、中には魔法を使って急速に育てようとすると、品質が下がってしまう種類の植物とかもあるから、そのあたりは注意しないといけない。
全く魔法を使えないわけじゃないけど、適宜、普通のやり方……水やりや肥料で生育を助け、それなりに時間をかけて育てたりしないといけない。
それらの管理も行うなら、それに必要な知識や技術もきちんと覚えなきゃいけないし……そもそもマーレ1人でできることでもないからな。部下や他のしもべを上手く使って管理する必要があるだろう。
そうか、そういった管理体制の作り方についても、勉強する項目に加える必要があって……マーレに学んでもらえることに加えられるわけか。
ひとまずマーレには、下級ポーションをはじめとした、ハンドメイドできる物資の製法や、それに必要な素材、その育て方・作り方なんかを座学で教えるところからになりそうだ。
ああもちろん、ユグドラシル産のものであれば、マーレにはきちんとやり方はわかってるだろうから……その知識にない、この世界の植物を選ぶべきだろう。その方が身になる。
その後、頭で理解出来たら実践……実際に育ててみる、的なやり方で指導するのが、一番覚えやすい学び方だと思う。
それもできるようになったら……ここでも応用編として、『始原の魔法』をはじめとした新しい技法を覚える選択肢も出てくる。
『位階魔法』や
今後いつどんな力が必要になるかわからないんだし、手札は増やしておくにこしたことはない。
……こっちもこっちで、シャルティアと同じで、一朝一夕には達成できない目標になるな。
比較的育てやすい、入門編と言ってもいい植物の育て方でもそうなんだから……より強力で、それゆえに生育手順も複雑な素材ともなると、数か月、数年単位、あるいはもっと長い時間をかけて勉強して、様々な技術や知識を身に着けていく必要が出てくる。
そして、その素材の活かし方……薬品やアイテムへの加工の仕方や、そうするまでの保管方法、その他色々覚えることは、割と、いやかなり多い。
極めようと思うなら……先は長いな。
でも、決して悪いことじゃないはずだ。学んで手にするのに苦労する分、それに見合ったリターンがあることに間違いはないんだから。
それにこのやり方なら、私も多少なりとも手伝えるし。
私もマーレ同様『
再び自慢させてもらうけど、これでも教育経験は豊富というか、人に教えるの割と得意なんだよね。子供多いから。その子達に色々……魔法とか、スキルとか、物作りとか教えてきたから。
特に、私しか持ってないスキルを遺伝で受け継いで生まれた子なんかには、私しかそれの使い方を教えられないわけだからね。400年もそういうの続けてれば、嫌でも上達したよ。……いやごめん、言葉の綾。嫌だと思ったことなんて一回もなかったよ。子供達との教育を通しての触れ合いの時間だもん、楽しかったよとっても。
マーレにもそんな感じで、色々と教えられればいいと思う。
なんか子ども扱いしちゃうようだけど、そういう時間の使い方、好きなんだよね、私。彼さえ気にしなければ、色々と手取り足取り教えてあげたい。
……そう聞いたら、すごくやる気になってた。
うんうん、気合十分でよろしい。でも空回りするといけないから、少し落ち着こうね。
そんなわけで、今日1日は、午前中は『練武郭』で頑張るシャルティアを見させてもらい、午後はマーレの方に色々教えてあげてた。
夕方になる頃には、2人とも疲れた様子で――シャルティアはアンデッドだから、疲労のバッドステータスはないはずだけど、精神的には疲れるだろうし――へとへとになった様子。
頑張った分、美味しそうに夕食食べてたな。
よく学び、よく遊び、よく食べて、よく寝る。
うんうん。これぞ健全な子供の在り方ってもんだよ……人間も異形種も関係ない。何かを一生懸命頑張りながら、1日1日を全力で生きている子供の姿って、本当にかわいくて……すっと見てられるわぁ。
よしよし、いっぱい食べて頑張るんだぞ、2人とも。先は長いぞ。
【異世界転移400年目 ?日目】
昨日の日記、さもこれからシャルティアとマーレの修行パートが始まる的な感じで書いちゃったけど……残念ながらそういう風にはできないっていうね。
だってほら、2人とも一応、ナザリックからの使節として
そんでその用意が今朝できたから、今日もう帰っちゃうの。
……当のシャルティアとマーレもそれ忘れてたみたいで、『ナザリックに持っていくものの用意ができました』って連絡貰って『えー!?』って顔になってたのは笑った。
君ら、まだまだ普通にここに滞在して修行してくつもりだったな。
……いや、私も半分くらい忘れて、彼女達にまだまだここで色々勉強していってもらうつもりでいたけども。
明日からどんなことをどんな風に教えていこうかな~、とか思っちゃってたけども。
けれど、シャルティアもマーレも、ナザリックの『階層守護者』という立場ある身だ。
ソリュシャンやセバス、ナーベラルみたいに仕事としてならまだしも、そうでもないのに長いことナザリックを空けるわけにはいかない。
というか、今言った面々が留守にしているからこそ、シャルティア達がナザリックに詰めてそこを守らなきゃいけないわけだし。
そんなわけで帰らなければならず、せっかく火が付いたところだったのに、という感じで2人とも落ち込んでて……何とかしてあげたいなコレ。
ちょっと後でアインズさんに相談してみよう。
今言った通り仕事があるから、こっちに出張とか出向させるのは無理かもだけど……こっちに来る頻度を上げることくらいならできるかもだし。