【異世界転移400年目 #日目】
マーレ達がナザリックに帰ってからのここ数日、ちょっと色々あったので一気に日記にまとめようと思う。
と言っても、『空中庭園』で何かトラブルがあったわけじゃなく……ナザリック
簡単に言うと、なんかナザリックの支配領域が増えました。
アゼルリシアの山麓部、その湿地帯に住んでいる『
いいか悪いかで言ったらいいことだとは思うんだけど……アインズさんもちょっとびっくりしてたわ。突然のことだったから。
まあ、棚から牡丹餅的な幸運ってことで、喜ぶことにしたようだけど。
何が起こったのか、順序だてて説明していこうか。
☆☆☆
アゼルリシア山脈の山麓部に広がる、広大な湿地帯。
そこに、いくつかの部族に分かれて住んでいる亜人種族『
同じアゼルリシア山脈の、川をさかのぼってより上流にある沼地や湖に住んでいる『トードマン』という亜人達が、いきなり襲撃をかけてきたのだ。
しかもそれが、多くの集落で同時に起こった。
リザードマン達は突然のことに戸惑いつつも、それぞれの集落で戦士を集めて立ち向かい、これを撃退、あるいは殲滅した。
全くの無傷で、というわけにこそいかなかったが、侵略者を退けた蜥蜴人達は……しかし、なぜ突然こんなことが起こったのかを疑問に思った。
それに加えて、襲ってきたトードマン達の様子もおかしく思えた。
彼らは一様に、自分達が不利になっても逃げ出したりすることなく……まるで何かに追い立てられているかのように、必死になって襲い掛かってきたのだ。なんとしてもここでリザードマン達に勝たなければならない、とでも言うかのように。
結果は今言った通り、戦闘能力において勝るリザードマン達に軍配が上がったわけだが……これらの疑問点をそのままにしておいてはいけないと思った、『
『旅人』であり、外の広い世界を知っている彼にこそ適任だと思ったからだ。
ザリュースは、本来トードマンたちが暮らしているはずの、彼らのナワバリにあたる領域に、危険を承知で出向き……予想外に簡単にその『原因』を知った。
その目で『それ』を見たのに加え……道中で出会った幾人かのトードマンから、食料と引き換えに話を聞くことができたからだ。
発端は、アゼルリシア山脈の中腹にあるとある遺跡だった。
少し前まで何の変哲もない遺跡だったそこには、たびたびゴブリンやオークと言った亜人達が潜り込み、中にあった様々なアイテム――とは言うものの単なるガラクタ――を持ち帰ったり、遺跡そのものを壊してその石材や金属部品を持ち帰っていた。
恐らくはその時、何らかの罠、ないしギミックを発動させてしまったのだろう。
その遺跡から、突如として大量のアンデッドがあふれ出し、周囲に住む者達を……モンスターも亜人も問わず、襲い始めたのである。
ゴブリンやオークの集落は瞬く間に壊滅し、住んでいたものは皆殺しにされたという。
その少し後、少し離れたところにあったトードマンの集落が次に襲われた。
トードマン達は住処を守るために戦ったが、痛みも疲れも知らず、昼夜を問わず攻めてくるアンデッドの大軍の前に、あえなく壊滅した。
住処を捨てて逃げ出した者達は、今もアンデッドに怯えながら沼地で隠れ住んでいる。水生生物である彼らは、そこ以外で生きていくことはできないからだ。
あるいは新たなナワバリを求めて山を下り、湿地帯のリザードマン達に戦いを挑んだ者達もいた。ザリュース達が戦ったのは、それらだったわけだ。
リザードマン達が健在であることを知ったトードマン達は、その者達がどうなったかも悟りつつ……どうか恨まないでやってほしい、彼らにも他に道はなかったのだ、と語った。
ザリュースはそれを受けて、せめて戦って散っていったトードマン達の冥福を祈りつつ……しかしこうしてはいられないと、急いで『緑爪』の集落に戻った。
トードマン達から、こうも聞いていたからだ。あふれ出しているアンデッドはさらに広がっていき、より広い範囲に住む亜人達に襲い掛かっていると。
このままいけば、遠からずリザードマン達の住む湿地帯もその標的になるだろう。その前に。戦いに備える必要がある。
まだトードマン達との戦いの傷もろくに癒えぬままだが、時間はない。動かなければ……自分達も彼らの二の舞になってしまうだろう。
ザリュースの報告を受け、事態を重く見たシャースーリュー達は、会議の末、リザードマン達の部族全てで同盟を組んでこの危機に立ち向かうことを決めた。
トードマン達のみならず、周辺のゴブリンやオーク、オーガといった種族までもが壊滅させられたのなら、アンデッドの脅威度は先のトードマンの襲撃の比ではない。とても一つの部族では対応しきれないだろうからだ。
それから数日のうちに、『
既にいくつかの部族の元に、そのアンデッド達の先駆けと思しき者達が現れ、戦いが起こっていたことも、彼らの危機感を煽ると同時に、ザリュースの報告に真実味を持たせた。
結果として、スムーズに同盟を組むことに成功したのである。
そしてそのさらに数日後には……先ぶれなく現れたアンデッドの大軍が湿地帯に進軍してきて……ついに戦いは始まった。
アンデッドの軍勢は様々な種族が混在していた。普通の、人間の骨格を持つスケルトンに加え、動物がゾンビ化やスケルトン化したような存在に、リザードマンやトードマン、ゴブリンやオークやオーガがアンデッドになったような者までもがいた。
恐らく、既に彼らに襲われて命を奪われた者達が……その同類になってしまったのだろう。
1体1体は対して強くはなく、リザードマン達でも十分に対抗は可能だったが……疲れを知らず絶え間なく攻めてくるアンデッドに、次第に苦戦していくこととなるリザードマン達。
一波をしのいでも、時間を置かずに次が現れ、終わりの見えない戦いの中で、1人、また1人と戦士が倒れていく。
それでもリザードマン達は、死を恐れずに立ち向かった。
ナワバリを守るためというのはもちろんのこと……己の後ろにいる、仲間や家族を守るため、先祖から連綿と受け継がれてきた誇りを守るため、痛みも恐怖も強靭な意志の力でねじ伏せて、ただただ前にすすみ、武器を振るい続けた。
そんな彼らの、戦士としての在り方に……人知れず、心打たれた者がいた。
数日続いた戦いの果て、リザードマン達の前に、ついに絶望が現れる。
アンデッドの軍勢の切り札、あるいは支配者と思しき者たちが姿を現したのだ。
強力無比な魔法を操る『
波打つ刀身の剣と巨大な盾を持つ、伝説のアンデッド『
ただ歩き、力を放つだけで死をまき散らす骨の魔馬『
戦士達が全く相手にならず、命が奪われていくその光景に、リザードマン達はこの戦いに絶対に勝てないことを悟った。
ナワバリは捨てるしかないだろう。そして、少しでも多くの同胞を逃がすしかない。
しかし、全員で逃げるわけにもいかないだろう。か弱い者達を逃がす為の殿(しんがり)が……戦って時間を稼いで死ぬ役割の者が、まだ要る。
戦士達は、ここが命の懸けどころだと覚悟を決め、明日を迎えられないことを承知で足を踏み出した……その時だった。
「生キ急グナ、誇リ高キ戦士達ヨ。オ前達ハ、ココデ死ヌベキ者達デハナイ」
凍えるような冷気と共に……凍河の支配者が、その戦場に現れた。
その後、戦場に現れたコキュートスと、その配下の戦士達の手によって、アンデッドの軍団は瞬く間に壊滅した。
さらにコキュートスと、その支配者であるアインズ・ウール・ゴウンは、圧倒的に不利……を通りこして絶望そのものだった戦況にもひるまず、一歩も引かずに戦い抜いたリザードマン達の勇気を称賛し、彼らに傷の治療や食料の支援、さらには、戦いで死んだ者達の蘇生までも施した。
さすがに、死んだ後アンデッド化してしまった者達や、力が足りずに蘇生に耐えられない者達の蘇生まではかなわなかったが、それでも多くの同胞たちが生きて、あるいは蘇って戻ってきた。
誇張も比喩も抜きに、5部族全ての全滅の危機だったところを、圧倒的な力を示して救ってくれたばかりか、一生をかけても返しきれないほどの施しをもらったリザードマン達は……その力に、そして支配者としての器の大きさに最大限の感謝と敬意を表した。
そして、以後、部族全てでもって、ナザリックに忠誠を誓うことで、返しきれない大恩に対する奉公とすることを決めたのだった。
☆☆☆
……という感じのことがあって、ナザリックの支配下に
……ちなみにこの一連の騒動、実はちょっとした裏があります。
あ、でも別に、そのアンデッドの軍団が、アインズさんが用意したもので、盛大なマッチポンプだった……とかではないです。
アゼルリシア山脈の中腹にある件の遺跡はアインズさん及びナザリックとは無関係です。
……アインズさんじゃなくて、私とは関係があるんだけどね。
実はその遺跡……それ自体は何の変哲もない、ホントに天然ものの遺跡だったんだけど、ちょうどいい閉鎖的な空間だったので、昔、私とデミアが実験に使ってた場所なんだ。
リ・エスティーゼ王国とバハルス帝国の間にある『カッツェ平原』っていう場所があるんだけど……あそこでは、アンデッドが自然発生する。
そして、アンデッドは数が集まると、より強力なアンデッドをさらに発生させる、という性質がある。
以前エ・ランテルで『ズーラーノーン』が起こした、『死の螺旋』の一件のように。
なので、両国はカッツェ平原で定期的なアンデッド狩りを行って、きちんとその数が増えすぎないようにしている。でないと、手が付けられないくらい強力なアンデッドが生まれてしまい、冗談抜きに国の危機に発展しかねないからだ。
まあカッツェ平原はともかくとして……その、アンデッドの自然発生や、より強力なアンデッド発生のメカニズムを調べるために……もう100年以上前だな。ちょっとした実験をしてたんだ。
ちょうどいい閉鎖空間だったから、その遺跡で。
その遺跡内に、スキルで大量にアンデッドを生み出して密閉して、しばらく放置してたらどうなるか……的な感じで。
結果として、『死の螺旋』みたいな現象は、その時は確認できなかったので、実験失敗として遺跡ごと吹っ飛ばして、何も残らないように全部処分し、後始末はしておいた……はずだったんだけど……
ここからは、今回どうしてこういうことになったかの、デミアの推測である。
①
100年前、何も残さず全部処分するために、第10位階魔法で実験空間を遺跡ごと全部吹き飛ばした(私が)。
②
しかし、スキルで用意したアンデッド達の中に『
そのせいで、一発で全部吹き飛ばしたと思ったけど、そいつらが実はHP1で生きてた。
③
さらに、遺跡が思いのほか地下深くまで階層があって、生き残った『死の騎士』はそこに叩き落されて、そのままそこで存在し続けていた。
④
その深層の遺跡に、100年の間に、崩れた上層から多くの人間や亜人、動物が迷い込み、その先で『死の騎士』に殺された。
『死の騎士』に殺されると、その犠牲者は『
⑤
アンデッドが増えたおかげで負のエネルギーが高まり、溜まり、それを吸収して『死の騎士』も体力満タンにまで回復した。
もしかしたらこの段階で、『死の螺旋』のようにアンデッドの自然発生も起こったかもしれない。『
⑥
何かの拍子に――おそらくゴブリンかオークあたりが遺跡の壁を壊して――その『深層』と地表がつながってしまい、一斉にアンデッドがあふれ出した。
……多分こんな感じだと思う。
つまりコレ、100年前の私の凡ミスが全ての発端だったっていう……(大汗)
後はご存じの通りだ。
その頃ちょうどナザリックでは、アゼルリシア山脈の山麓部に
アインズさんとしては、強靭な肉体を持つ蜥蜴人をアンデッドにしたらどうなるのか、確かに興味はあったものの、『敵対してもいないのにいきなり殺しにかかるのってどうなのかなあ……』と思っていたところ、その蜥蜴人達の集落が、アンデッドの軍団に襲われてるって聞いて『は?』ってなった。
まさか下僕の誰かが主の命を待たずに暴走したか、あるいはまた変な深読みの末に『万事御方のお望みの通りにしてございます』的な感じになっちゃったのかと焦ったアインズさん。しかしよくよく調べてみれば、正真正銘、自分達とは全然関係ないアンデッドだった。
そのことにほっとしつつ、同時に『あれ、コレ都合いいんじゃね?』と思った。
カルネ村の時と同じような感じで、助けて恩を売れば、余計な波風を立てずに彼らをナザリックの影響下におけるんじゃないか、と。
ちょうどよく今、蜥蜴人達は、強くても『魂喰らい』程度しかいないアンデッド達に滅ぼされそうになってるところだったので、今ちょうど手が空いているコキュートスに命令を出して、彼らを助けに出撃させた。
後はもう、知っての通りだ。
……とりあえず、アインズさんに頼んで、この『裏』については、秘密にしておいてもらうことにしました。
結果的に、穏便(?)にリザードマンを支配下に加えることができて、棚ぼた的に喜んでたアインズさんは、苦笑しつつもそれを受け入れてくれました。ありがたや……今度何かお礼します。