大筋は変わらないような……いや結構派手に変わってるような……
まあ、どうぞ。
ゴグボブンゴドボダヂ
【異世界転移400年目 $日目】
今日ちょっと珍しいことがあった。
もう何度も言っているように、ナザリックのしもべ達は、基本的にアインズさんへの忠誠心がカンスト状態になってる。
そのため、まず何を置いてもアインズさんの役に立とうとするし、そのためなら自分の苦労はもちろんのこと、関係ない他人にいかなる犠牲を強いることになろうとも構わない……というのが基本のスタンスだ。
むしろカルマ値『悪』寄りの面々は、進んでそういう方法を取ろうとするし、なんだったらその自覚がないことすらある。
『人間なんて別に殺してもアインズ様の役に立てるならそれで当然でしょ?』みたいな感じ。このへん、マーレですらそうなので、価値観ってこえーな、とちょっとだけ思う。
まあでも、カルマ値の話は置いといて……そんな風に、アインズさんの役に立つことこそ至上命題と考えるナザリックのしもべ達にとって……その逆、アインズさんに迷惑をかけるなんてことは、絶対にあってはならない大罪である。
このへんは、ことあるごとに自害して詫びようとするナーベラルや、こないだの件で一時期精神的にやばかったシャルティアを見れば一目瞭然だ。
ただ、この2人の場合は、『そんなつもりはなかった』『自分の力や考えが及ばなかった』場合である。当然ながら、意図してそういう事態を引き起こしたわけじゃないし、ナザリックにとっての不利益になるかもなんて意識もなかった。
それでも、アインズさんに迷惑をかけてしまった罪悪感は自害待ったなしレベルなわけだが。
しかし、今回起こったのは……ナザリックの不利益になるかもしれない、アインズさんの命令に逆らうことになるかもしれない、とわかっていてなお起きてしまったトラブルだった。
しかも、それを起こしてしまったのが、あのセバスだっていうから驚きだ。
たっち・みーさんによって創造され、執事として常に完璧に主の望みをかなえ続けてきた彼が……なぜこんなことを起こしてしまったのか。
いやあ……聞かされた時は驚いた半面、『やっぱりたっちさんの子だなあ』ってちょっと納得しちゃったもんだ。
セバスは今、リ・エスティーゼ王国の王都にいて、ソリュシャンと一緒に色々な情報を集めたり、魔法関係の物品や資材を買い集める任務に就いている。
そのためのカモフラージュとして、私がフロント企業として帝国に作った商会に所属している、っていう身分を利用していたりするが、まあそこは今はいい。
そのセバスだが、ひょんなことから、王都の裏路地で傷ついた女性を保護したらしい。
女性は、何やら後ろ暗い商売をしているらしい店から放り捨てられたところだったらしいが、セバスは彼女を助ける際、その店の従業員と思しき男と揉めてしまった。
チンピラ相手にセバスがあらゆる意味で負けるわけもなく、その場は女性を連れ帰ることに成功したらしいが……その『店』っていうのが、王都……どころかこの国全体で幅を利かせている巨大な闇組織『八本指』が支配する違法娼館だった。
娼館とは名ばかりで、実情を言えば、金さえ払えば奴隷同然の女達を相手に、どんなプレイでも楽しめる悪辣な店。NGプレイは一切なし。女性達の人権も一切なし。
セバスが正義感ないし義侠心から、そこの『従業員』あるいは『商品』を奪って連れ帰ってしまった結果、セバス達が王都で借りている屋敷に、王都の巡回の役人(ただし汚職役人。しっかり八本指の手先で、なんだったらその娼館の常連)が、八本指の構成員と一緒に乗り込んできた。
今後、お前らを脅して金その他諸々巻き上げてやるぞ的な、こちらを見下した捨て台詞やら何やらを言って、その場は帰って行ったらしい。
戦闘能力的には全然問題はないとはいえ、立場ないし状況的には割と『追い詰められている』と言えるところまで来てしまったセバス。
しかもここに至るまで、アインズさんにこのことを報告していない。
ソリュシャン曰く、『アインズ様のお耳に入れる必要もない些事であるから』と、セバスは言っていたようだけど……これ多分、そのまま報告したら『そんなトラブルを呼び込みかねない者は早く処分しろ』って言われるのが怖くて隠してたよね……?
その女性を保護したのも、かなり衝動的で考えなしの行動だったみたいだし……うーん、軽率。
意外だな……セバスがこんなポカをやらかすなんて。しかも、それをトラブルごと隠して先延ばしにした結果、より悪化させて、明確に『ナザリックにとって迷惑』『アインズさんの命令を実行する上で邪魔』と言える段階にまでしてしまうなんて。
たっちさん譲りの善人な性格もあるだろうけど、それ以上にちょっと詰めが甘いというか……その他諸々全体的に甘いというか……。
カルマ値『極善』も、それはそれで取り扱い注意な部分あるんだなあ……。
で、今。
下等な人間……の中でもさらに色んな意味でひどい、醜い部類の人種の輩にすらナメくさった目を向けられる事態にまでなっても、まだアインズさんに報告しないつもりのセバスにしびれを切らし、ソリュシャンがアインズさんに『実はセバス様が……』と内部告発してきた。
そしてその後、アルベドやデミウルゴスとその事実を情報共有したアインズさんは、この一件の対応と同時に、セバスの忠誠に偽りがないかどうかを確かめるため、自ら動くことにした。
……が、それと同時に、私にも話を持ってきたのである。ちょっと申し訳なさそうに。
理由は単純。セバス達が今、私が抱えている商会を身分のカモフラージュに使っているから。
セバスは今、王都に置いて表と裏(どっちも腐ってるが)の権力から目をつけられている状態であり……その注意は、セバス個人だけではなく、彼が名乗っている商会そのものの名にも向けられている。『あの生意気な老人は、あそこの商会の従業員だ』と。
そのせいで、私やその商会に迷惑が掛かってしまうんじゃないかって気にしてたみたい。
そんなんいくらでもやりようはあるから平気ですよ、って言っておいた。
表の身分として重宝しているとはいえ、いざって時には切り捨てるつもりの、あくまで仮の身分だし……そもそもこれ自体、ほとんど思い付きで作ったようなもんだしね。
……あと、なんなら私、今話題に出てきたその『八本指』にも伝手あるので。
いや、伝手どころか、その8部門のうちの2つ……『金融』と『賭博』の部門のトップは私の子供の1人がやってるので、実質支配下にあると言っても過言じゃないんよ。
何でそんなことになってるのかって? いやあ、話すとちょっとだけ長くなるんだけどね……。
遡ること100年前。当時から、リ・エスティーゼ王国の弱体化は始まっていた。
当時の王家が、貴族達に様々な功績の褒美として、領地や利権をばらまき始めてしまって、そのせいでだんだんと王家そのものの求心力が弱まり始めてたのだ。
その頃はまだマシだったんだけど……それが放置され続けたまま100年経った結果が、今のこの国の現状である。
貴族の大半が汚職に手を染め、国民を軽視し、利用し搾り取ることしか考えておらず、中には敵国と内通する者まで出てきている始末。ぶっちゃけ、国として終わってると言っていい。もう何年も、いやもっと前から。
しかも、その欲の皮の突っ張った貴族達は、戯れに人間社会に進出して色々やっている私の子供達に対しても不快な干渉をしてくることがあったので……実はもう何十年も前から、私の王国への印象ってかなり悪いんだよね。
積極的に動いて滅ぼそうとまでは思わないけど、別にぞんざいに扱ってもいいよね、という程度というか……ナザリックのしもべ達が人間に対して向ける感情と似たり寄ったりかも。マジで。
なので、ちょっといたずらというか嫌がらせ……ないし『傾国の悪女』としての悪事の一環として、裏で表でとして王都で色々やってました。ここ数十年ほど。
それから気が付けば、『八本指』という巨大犯罪シンジゲートの一角として王国で色々と悪いことをするまでになっていた、というわけ。
なお、私の子供達が支配してるのは『金融』と『賭博』であり、今回セバスがもめた『警備』や『奴隷売買』、『暗殺』の部門とは無関係です。もちろんその他の。『麻薬』『窃盗』『密輸』とも。
けど同じ組織だからそれなりに影響力はあるし交渉もできるので、その気になれば今回のセバスが目をつけられてる一件、裏で交渉して波風立てずにさっさと終わらせることもできます。
ま、それだとアインズさんも私も面白くないからしないけどね。
それに、今回の一件でどのみちセバスは目をつけられた。だったらこのままにしておいても……またいつか何らかの形でちょっかい出されるのは目に見えてる。
だったら……きちんと後腐れのないように始末をつけておかなきゃね。
☆☆☆
セバス、クライム、ブレインの3人は……乗り込んだ違法娼館の中で、困惑していた。
彼らは先ほど、『八本指』によって差し向けられた暗殺者達を返り討ちにした後、元凶である違法娼館へ殴り込みをかけていた。
セバスは自分の不始末でナザリックに迷惑が掛かりそうになっている現状を打開し、ツアレが邪魔者として『処分』されてしまう事態を防ぐため。
クライムはこの国の兵士の1人として、心優しきラナー王女にとって憂いとなる事態の1つを潰すため。
ブレインは、またこの先を生きる希望を見出させてくれた者達への礼と、長かったブランクを終えて弱い自分と決裂するため。
それぞれに覚悟を決めて建物に乗り込んだのだが……そこに広がっていたのは、予想外の光景だった。
「何なんだこれは……俺達が来る前にもう壊滅してるじゃないか」
「敵対組織との抗争か何か、でしょうか……?」
飛び込んだ違法娼館は、既に何者かによって襲撃を受け、壊滅と言っていい状態になっていた。
従業員……おそらくは『八本指』の構成員であろう者達は無惨に切り裂かれて殺されていて、その顔の多くは、恐怖と絶望の表情のまま固まっていた。
王都最大の犯罪シンジゲートであるはずの『八本指』に、一体誰がこんな真似をしたのか。
クライムは、主人の親友であり、麻薬畑の焼き討ちなどの形で何度も八本指とことを構えているある冒険者チームを思い浮かべたが……即座に『違う』と思い直した。
彼女達はあくまで、表沙汰にならない程度に隠れてそういった任務を遂行していたはず。冒険者は基本的に、国家の意思に沿って動くようなことはしないからだ。それについては、冒険者組合の規則にも明記されていることである。
それに、仮に彼女達が『八本指』と戦うにしても……彼女達ならば、こんなむごい、残虐といってもいい殺し方はしないだろうし、そもそもならないだろう。
『蒼の薔薇』の中で刃物を使うのは、ラキュース、ティナ、ティアの3人だが、彼女達の戦い方でこんな惨状になるとは思えないし、残る2人……ガガーランやイビルアイが戦ったような痕跡……殴打や魔法による破壊痕がどこにもない。
ならば一体誰が……と考えていたところに、正面に見える階段からドタドタと足音が聞こえて、上の階から誰かが降りて来た。
『急げ!』『わかってるわよ!(男の声)』と騒がしく声が聞こえたと同時に姿を見せたのは、フードを目深にかぶった、顔に傷のある男を先頭とした数人の人間達だった。
いずれも明らかに
その先頭にいた2人が、八本指警備部門『六腕』の1人、『幻魔』サキュロントと、奴隷売買部門のトップ、コッコドールであることを……セバス達が知ることはなかった。
彼らはセバス達の姿を見るや、『お前はっ、あの屋敷の執事……くそ、
それをとっさに前に出たブレインが迎撃し、続けて突っ込んできた――サキュロントが敗れるとは思っていなかったのだろう――コッコドールは、クライムが叩き伏せた。
何も言わずに気絶させられた2人が床に転がる。
クライムたちは続けて、残る数人の……部下と思しき男達を相手にしようとするが……その直後、クライムたちの目の前で、残りの全員が……バラバラに切り刻まれて惨殺された。
「何っ!?」
「なっ……」
「……っ……!?」
その男達の背後から、階段を駆け下りて来て現れた『何者か』が、一瞬のうちにやってのけた。
1人残らず、抵抗することもできずに解体され、死体となってそこに転がった。流れ出た血や臓物で、入り口ホールはさっきまで以上の惨劇と化している。
「こいつは、一体……?」
(おい、マジか……こいつは下手したら、俺よりも……!)
想定外の何者か……否、『何か』の出現に、クライムやブレインが冷や汗を流して戦慄する中……セバスもまた、『それ』を見て動揺していた。
しかし、その理由は他の2人とは異なり……
(なぜ……ここに、こんなものが……!?)
現れたのは、黒のトレンチコートに緑の髪、仮面を被り、死人のように病的に白い肌の男。その手の指は、10本全て、途中から鋭利なメスのような刃物に置き換わっている。
『死人のように』ではなく、死人そのものであるその存在の名は……『
(しかもこの、ナザリックに属する者特有の気配……間違いない、この『切り裂きジャック』は、アインズ様によって作られたモンスター……! なぜこの娼館に……ここで一体何を?)
困惑するセバスの心中を知ってか知らずか、ジャックは3人をじろりと仮面の向こうから睨みながら……
「……『八本指』か?」
「何?」
「お前達は、『八本指』の構成員か? 答えろ、ニンゲン共」
「……そういう言い方をするってことは……お前さんは人間じゃあねえっぽいな」
唐突にそう聞いてきたジャック。
理由のわからないその質問に、答えていいものかどうか悩むクライムだったが……それに答えたのはクライムではなかった。ブレインでも、セバスでもなかった。
「違うぞ」
その声は……ジャックの後ろから聞こえた。
ジャックに遅れてまた1人、人間かどうかわからない『何者か』が降りて来た。山伏を思わせる独特の服装に、覆面で顔の大部分を覆った男だった。
「その者達は『八本指』の構成員ではない。殺しても『スコア』にはならん」
「……そうか。ならばどうでもいい」
短くそう言うと、ジャックは近くにあった地下へと続く扉を蹴り開けて、その下に走って下りていった。
それを慌てて、『ま、待て!』とクライムが、そしてブレインとセバスも続いて地下に降りていく。
地下に入る直前、一瞬だけセバスはその、遅れて現れた山伏風の異形種に視線をやる。すると、見ていたセバスにしかわからない程度に、わずかに、しかし確かにそれは会釈を返した。
(あの者からはナザリックの気配はしない……しかし、見覚えがありますね。確か、『妖怪』系統のモンスター『鞍馬天狗』。妖怪、ということは、ラストにゃんにゃん様の配下……? 一体この娼館で、何が起こっているというのか……!?)
地下……客が『お楽しみ中』のスペースに降りたジャックは、入り口ホールでやったのと同じように、次々とそこに居る者達を血祭りにあげていった。
悲鳴と怒号が鳴り響き、しかし徐々に静かになっていく恐ろしい空間。
クライムとブレインは、セバスによって『あの怪人にはあなた達では勝てません。あなた達は、入り口を見張ってください。八本指の構成員達を逃がさないように』と言いつけられ、彼に加勢したい気持ちを抑えて、入り口に陣取っていた。
そこで、次々に逃げてくる娼婦達を助けて手当したり、裸のまま逃げ出してきた客と思しき男達を捕らえて昏倒させたりしていた。
そんな作業を繰り返す中で、クライムはあることに気づいていた。
(あの怪人……娼婦や客は殺していない。さっきの言葉といい……八本指の構成員達だけを殺しているのか? 一体、何のために……?)
先程から、娼婦や、娼館の客――どちらもあの恐ろしい怪人から逃れられるとは到底思えない――が次々と奥から逃げ出してくる。
あの怪人なら、一瞬でバラバラにしてしまえるだろうに、それをしないのは……最初から殺そうとしていないのではないかと。
一方、ブレインもまた、別なことに気づいていた。
醜く喚く客の1人を叩き伏せて黙らせつつ、ちらりと視線をやる。
そこには、自分達と同じように、地下室の入り口付近に陣取っている……しかし、別に人を通さないようにするのではなく、ただ黙って立っているだけの『鞍馬天狗』がいた。
こいつも強い。ブレインには、そのたたずまいだけで十分に察することができた。
その鞍馬天狗が……黙って立っているだけかと思ったが、時折、手に持っている何かの道具をいじっていることに気づいた。
(あれは……
それは小さく、いびつな形で……一般的に商人などが使うものとは違う形をしている。
しかし、棒に通した水晶のような小さな石をパチリ、パチリ、とゆっくり動かして、まるで何かを数えているようにそれは見えた。
(さっきの『スコア』って言葉といい……こいつが数えているのは、まさか……)
その瞬間、それを察したブレインは、わずかにぴりついた空気を纏ってしまった。
直後、それに気づいた鞍馬天狗が、じろりと視線を向ける。
「……自殺志願者でないのなら、そのまま何もせずにいろ、人間。心配せずとも、何もしなければ……貴様らには私も、彼も、何もしない」
声を荒げることもなく、淡々とそう言ってブレインを止める鞍馬天狗。
ブレインはというと、下に見られていることは明らかだったが……同時に、自分ではまだこの怪人に勝てないことも明らかだった。悔しさを覚えつつも、顔に浮かべたへらっとした笑みを消さないようにしつつ、視線を外す。
(全く……わかっちゃいたが、この世界はとんでもねえな。俺達なんかかわいく見えてくるような怪物が、あちこちにいやがる……!)
一方、地下エリアの深部。
ジャックを追いかけて地下に降り、進んでいったセバスは、その途中、何人ものバラバラ死体を見たが……そのどれもが『八本指』の構成員と思しき
時々、客と思しき男も混じっていたが……娼婦の死体は1つもなかったことに、内心でほっと安堵していた。
そして、最深部。事務室か何かと思しき区画で……そこにいた従業員達を皆殺しにし、動く者がいなくなったそこで、ジャックはセバスを待っていた。
部屋に入ってきたセバスに、ゆっくりとした動作で一礼するその姿を見て、『やはり敵対しているわけではない』と確認するセバス。
「ジャック・ザ・リッパー。あなたは、アインズ様によって創造されたアンデッドですね?」
「さようでございます、セバス様」
「なぜこのようなところに? アインズ様の命令ですか?」
「はい。しかし、詳細を語ることは許されておりませんので、そこはご容赦ください。説明は後程……セバス様が借りているお屋敷にて、御方が直々に行うとのことです」
「……っ……!」
それを聞いて凍り付くセバス。
屋敷で話す。それはつまり、アインズが直々にあの屋敷にやってくるということだ。
アインズに断りなく、ツアレを隠して保護している、あの屋敷に。
「その他にも、
数分後。
地下室の入り口に……構成員達を皆殺しにしたジャックが帰ってきた。
それを待っていた鞍馬天狗は、手元のそろばん(らしきもの)を見せながら言う。
「『八本指』の構成員35人の殺害……カウントを完了した」
「では、これで達成だな?」
「ああ。おめでとう、お前の『ゲゲル』は成功した」
そう短く言葉を交わし、地下から出ていこうとする。
それを、慌ててクライムは呼び止めた。
「ま、待て! セバス様は……お前を追っていったあの老紳士はどうした!?」
ジャックは帰ってきたが、セバスはまだ帰ってこない。
まさか、と嫌な想像が頭をよぎってしまい、声が震えるクライムに、ジャックは鬱陶しそうに視線だけを向けて、
「あのご老人なら、地下で残りの女どもの手当をしているようだったぞ。戦ってはいない。さすがにあれほどの御仁が相手では、私もどうなっていたかわからんが……誰とも知らん弱者を助けるために必死になって……物好きなことだ」
それを聞いて思わずほっとしてしまったクライムから視線を外し、今度こそジャックと鞍馬天狗は地下室から出ていった。
後に残されたクライム達は、おそらくこの施設にいた『八本指』の構成員は、あの怪人によって全滅させられたのだろうな、と思いつつ……セバスと合流するため、奥へと駆けていった。