ある夜のこと。
リ・エスティーゼ王国王都、その裏路地にて。
とある貴族が、何者かによって襲撃を受けていた。
「ぶ、ぶ、ぶ、無礼者め! わ、わた、わた、私を、カノラス伯爵家の者と知っての狼藉か!?」
その男……伯爵家の次男は、裏通りに存在する、
もちろんのこと、信頼のおける護衛を連れていたのだが……その護衛たちは全員、物言わぬ屍になり果てている。
今は、路地の片隅に、血塗れであちこち『足りない』肉塊となって倒れ伏していた。
その凄惨な光景に加え、つかつかと歩いて近づいてくる襲撃者を恐れるあまり、失禁までしている伯爵子息は、しかし、口だけはよく動くようで、聞くに堪えない罵詈雑言と共に、意味のない虚勢を張り続けた。
こんなところで自分が死ぬはずがない、こんなことはおかしい、そんな風に都合のいい、現実が見えていないことを……最期まで考え続けた。
結局、それらの聞くに堪えない言葉の羅列が、彼の最後の言葉となった。
それから数時間後。
巡回していた兵士達によって、その貴族令息と護衛達の死体は発見された。
☆☆☆
場所と時間は移り変わり……リ・エスティーゼ王国の王城内。
『黄金』の名で知られる王女・ラナーの私室にて……部屋の主であるラナーと、彼女の友人であり、王国でも数少ない『アダマンタイト級』冒険者である美女・ラキュースが向かい合って話していた。
ラナーの後ろには、彼女の子飼の兵士であるクライムも、隣の席に座って控えている。
ラキュースの方も、仲間であるティナを伴ってきていた。こちらもラキュースの隣の席だ。
2人は最初、立場を考えて後ろに立って控えていようとしたのだが、主2人の意向により同じ卓について会話に参加している。クライムの方は、少し恐縮しながら。
内容は、昨今王都で連続して起こっている、痛ましく恐ろしい事件についてだ。
「また、貴族の方が襲われたのね。メイド達が話していたとクライムに聞いたわ」
「ええ、今度は伯爵家の次男よ。手口からして……先日までの数件の犯行と同一犯。けれど、それ以前の犯行とはやはり別みたいね」
「例の『違法娼館』の一件とも、おそらく別。ただ、犯人は違うけど手口は似ているものがある。同一組織によるもの、あるいは、同一の目的によるものかも」
数週間前に起こった、『八本指』の息のかかった娼館が、何者かによって壊滅させられた事件。
囚われていた娼婦――という名の奴隷と言うべきだが――はそのほとんどが無事だったが、八本指の構成員達は全員、利用していた『客』達もその多くが殺されてしまっていた。
切り刻まれた死体やその『一部』が散乱する現場は、まさに地獄のようだったと、その時そこにいたクライムは語っていた。
そしてクライムによれば、その犯人は人間ではないようで……悪魔か何か、人の形はしているものの、異形の怪物だと思われたとのこと。
それが報告された時、貴族達をはじめ、一部の軍人たちも……身分や生まれの差ゆえにクライムの報告を軽視し、『でたらめだ』『大げさに言っている』『恐ろしすぎてまともに現場を見ていなかったのではないか』と嘲笑したものだったが……今となってはそんなことを言うことはできなくなっていた。
それと同じような悪魔ないし異形の存在によって、王都の民や兵士、貴族が襲われる事件がここ最近で頻発していたからだ。
襲われるのは貴族に限った話ではない。犠牲者には、平民もいれば貴族もいる。男も女も、商人も冒険者も傭兵も……浮浪者や犯罪者に至るまで、あらゆる身分や立場の者達がいた。
目的も何もわからないが、この王都で悪魔が人を殺している。殺し続けている。
最初こそ『衛兵や冒険者は何をしているんだ』と憤慨して、あるいは呆れていた貴族達も、当然のように自分達もその標的となり、同じ身分の者達に死者が増え始めてからは青褪め、怯えながら日々を過ごすこととなった。
優秀な護衛をつけても、その護衛もろとも突破されて殺されるケースがほとんどだった。何かしら理由をつけて王都を離れ、領地に戻る者達まで出始めていた。
悪魔の存在に怯えながら『早く事件を解決しろ!』と喚くしかできずにいる貴族達だが、彼らの望みに反して、いくら調査しても進展らしい進展はほとんどなかった。
わかったことといえば、それらの事件の一部において、手口や犠牲者に共通点らしきものがいくつか見つかったことくらいだ。
「ここ数日で起きている事件では、犠牲者は皆、鋭利な刃物で喉を切り裂かれて殺されているわ。傷の形状も似ているから、おそらくは……同一犯だと思う」
「けど、少し前まで起きていた事件は違ったわよね? 確か……槍のような凶器で、心臓を一突きにされて殺されていた、って……」
「ええ、だから、その時の犯人とは別だと思う。……その犯人も、見つからないままだけど」
僅かに悔しそうに表情をゆがめながら、ラキュースは続ける。
これまで何十人もの犠牲者が出ている、この襲撃事件。
手口の類似性などを見るに、いくつかの事件は同一犯によるものと思われた。先に述べたように、喉を切り裂かれているケースや、心臓を貫かれているケース。
その他に、高い所から突き落とされて殺されるケース、首をへし折られているケースなど、事件ごとに殺し方は様々あった。
また、犠牲者は様々で統一性がないが、中には規則性や共通点が見られるケースもあった。
女性ばかりが襲われていたり、同じ色の服を着ている者が襲われたり……違法娼館の時は、『八本指』の構成員ばかりが襲われていた。
全ての事件にそういう『犠牲者の共通点』があったわけではない――判明していないだけかもしれないが――が、少なくとも、無差別に襲っているわけではない、とラキュース達は見ていた。
「殺人が行われているすぐ近くにたまたまいた浮浪者が、あっさり見逃されて命を拾っていたことがありました。その者の証言のおかげで、犯人が異形の者であると確認もとれましたし……思い返してみれば、あの違法娼館の一件の時も、居合わせた私やアングラウス殿に対して、あの悪魔達は何ら興味を示しませんでした」
「標的として定める者に対して、何らかのルールがあるってことね……」
「……でも、ここ最近の犯行……喉を斬られてる人が多発している件に関しては、まだ犠牲者の共通点らしきものは見つかってないのよね? それがもしわかれば、先回りしてそういう人を守ったり、あるいは囮を用意しておびき出すこともできると思うんだけど……」
「一応、資料を持って来たわ。もっとも……私達が見ても、共通点はわからなかったけどね……」
ラナーは王女ではあるが、他の貴族などへの影響力は弱く、国の中枢に伝手がない。クライムは出身が平民であることから、貴族のみならず使用人達からすらも嫉妬や侮蔑の感情を向けられている立場である。
ゆえに、そういった情報を手に入れる機会はほぼない。彼女達のために、ラキュースは自分の立場……アダマンタイト級冒険者と、貴族令嬢という2つの立場を利用して入手した情報を持参して来ていた。それらの書類を、卓の上に広げて見せる。
ラナーとクライムがそれに目を通すが、言っていた通り、犠牲者達は身分も性別もバラバラで、共通点のようなものは見受けられなかった。
しかしラナーは、その中に何枚か混じっていた、貴族やその関係者の犠牲者の情報を見て……ふと、何かに気づいたように、
「あら? この人達、確か……」
☆☆☆
その日の夜。
王都の裏路地を、一組の男女が、仲睦まじそうに腕を組んで歩いていた。
すると突然、その行く先の道をふさぐ形で、何者かが現れた。
それは、一応は人の形をしているものの……肌の色や、長く伸びた手の爪、血のように赤い目や口元の牙を見る限り、明らかに人間ではないとわかった。
牙を見せつけるように獰猛な笑みを見せるその異形……男の吸血鬼は、指の先の爪を伸ばし、ナイフより鋭利で危険な凶器に変えて、呟くように言った。
「ちょうどよく2匹、獲物が来てくれたようだな……これで11人、ゲゲルは達成というわけだ」
しかし、
「ほぉ……何が達成だって? 詳しく教えてもらおうか」
そんな言葉と共に、男女は着ていたローブのような外套を脱ぎ捨てる。
その下から現れたのは……癖のある青い髪を伸ばし、腰に刀を差している男と……民族衣装にも似た独特な装束に身を包んだ『忍者』の女。
ブレイン・アングラウスと、『蒼の薔薇』のティナといった。
その男女が明らかに『間抜けな通りすがり』ではないと悟った吸血鬼だったが、それでも、その2人を『獲物』として見ている目は変わっていない。今までの獲物のように、泣きわめいて命乞いをしたり、苦し紛れに無様な抵抗をするような人種ではなさそうだが、それでも自分にとっては『獲物』には変わりない。そう思っていた。
ブレインの首元のネックレスと、ティナが腕にはめているバングルを見ながら。
「『真珠のアクセサリーを持っている者』をターゲットとして狙っている……姫さんの予想は正しかったみてえだな?」
「ああ。おかげでこんなにも簡単に吊り上げることができた」
しかし、そんな声と共に……自分の背後から、さらには上から、複数の気配が現れ……自分を取り囲む形で何人もの人間が現れたとなると、さすがに表情から余裕は消えた。
ここに至ってようやく、吸血鬼は、自分が『誘い出された』ことに気づいたのだ。
昼間、資料を見ていたラナーは、以前出席した社交の場で、犠牲者となってしまった貴族達を見た際、彼ら彼女らがいずれも、特徴的な『真珠をあしらったアクセサリー』を身に着けていたことを覚えていた。
しかし、そのうちの幾人が、死体で見つかった際、そのアクセサリーを身に着けていなかった。
単にその時はつけていなかっただけかもしれないが……彼らの多くが殺された場所は裏路地だ。もし、身に着けてはいたが、殺された後に持ち去られたのだとしたら? それも、殺人犯ではなく……その後偶然通りがかった浮浪者などに、売って金にする目的で。
そして、そのような形で『真珠のアクセサリー』を持っていた浮浪者が、同じように殺されたのだとしたら。
あるいは、商品として真珠やそのアクセサリーを持っていた商人が標的になったのだとしたら。
その仮説の元に、ダメで元々という程度でこの夜、行われたおとり捜査……クライムを経由して協力を要請したブレインと、ティナに変装させて真珠のアクセサリーを身に着けさせ、裏路地を無防備に歩かせてみれば……見事に、釣れた。
そして、のこのこと姿を現した犯人……やはり人外の存在だった『吸血鬼』を。『蒼の薔薇』の5人に加え、クライムとブレインが取り囲み、討伐のための戦いが始まった……というのが、ここまでに起こったことである。
おびき出し作戦が上手くはまった結果、7対1という好条件で始めることができた戦いだったが……吸血鬼自身も弱いわけではなく、ラキュース達は苦戦を強いられることとなった。
その吸血鬼は、メンバーの中でも圧倒的な強者であるイビルアイには及ばなくとも、高い魔法耐性と超人的な身体能力を併せ持っていたために、7人の総力をもってしても簡単には仕留めることができない程度には強かったのだ。
それに加えて実際には、その吸血鬼を創造したとある存在のスキルによるブーストがかかっていたことも理由として挙げられるのだが……それを彼女達が知るすべはなかった。
それでも、徐々に押し始め、このまま行けば勝てる、倒せる、という状況。
ラキュース達が油断なく戦いを続けていたその最中に……それは、起こった。
「……時間だ」
そんな声が突如として響き……はっとしてラキュース達が上を、声が聞こえた方を見ると……建物の上に、いつの間にかまた別な、悪魔か何かと思しき存在が立っていた。
クライムとブレインは、その存在に見覚えがあった。あの時……違法娼館で殺戮が行われた時に、殺しには参加せずに後方で何やら数を数えていた、あの異形だった。
ラキュース達は、この吸血鬼の増援としてきたのかと警戒するが……奇妙なことに、むしろその吸血鬼の方が、その異形……『鞍馬天狗』が現れたことに対して焦っているように見えた。
「制限時間を超過した。殺害人数は9人。規定の人数に2人不足……お前のゲゲルは失敗した」
「ま、待ってくれ! 俺はまだやれる……あと2人だけなんだ! すぐにそこの2人を殺すから……俺は、俺はまだ……!」
「ルールは絶対だ。ゲゲルの失敗は……その命をもって償ってもらう」
「う、うあぁぁああああっ!?」
闇夜をつんざいて響き渡る悲鳴と共に……吸血鬼は、突如としてその全身から炎を噴き出して燃え上がり……苦しみ抜いて、倒れこみ……そのまま死んで、灰になった。
突然のことにラキュース達が呆気にとられる中、最も早く再起動したのは、ブレインだった。
その場を立ち去ろうとする鞍馬天狗に『待てよ』と背後から声をかけて呼び止める。
「俺達が戦ってた獲物を横取りしておいて、詫びの1つもなしに帰る気か? そりゃねえだろ」
「獲物? 勘違いするな、人間。今のは私がやったわけではない。ただ単に、ゲゲルに失敗した者に等しく訪れる末路を辿ったというだけのことだ」
「そう、それだ。それについて聞きたいんだよ……その『ゲゲル』ってのは何だ? 前に『娼館』で、八本指の連中を殺して回ってた時も、その単語を聞いた覚えがある」
ブレインの言葉を聞いて、クライムも『そういえば』と思い出したところだった。
八本指の構成員達を血祭りにあげたあの悪魔(暫定)とも、この何者かは『ゲゲル』とやらについて話していた。あの時は確か、『お前のゲゲルは成功した』と。
そして、ブレインに続ける形でイビルアイも問いかける。
「お前ら悪魔……いや、さっきのは吸血鬼だったな。悪魔だけじゃなくアンデッドもいるようだが……一体この王都で何をしている? 答えてもらおうか」
「……私に、わざわざお前達にそれを説明してやる義務があるとは思えないが?」
「話す気がないのなら……力ずくで聞き出してやってもいいんだが」
「……ほう?」
いうと同時に威圧感を滲ませ、臨戦態勢に入るイビルアイ。脅しではなく、本当に戦闘になってでも『鞍馬天狗』から情報を引きずり出すつもりでいた。
イビルアイの戦意を感じ取り、ラキュース達も構えていつでも出られるように立つが……そんな状況でも、鞍馬天狗は何ら反応を示さなかった。
まるで、イビルアイを含めて、その場にいる7人全員、なんら脅威に感じていないかのように。
実際に……もしここでイビルアイ達と鞍馬天狗が戦いになった場合、イビルアイ達は全滅することになるだろう。
上位の召喚モンスターである鞍馬天狗のレベルは70。この場にいる誰よりも……『蒼の薔薇』で最強の実力を持つイビルアイよりも高く、しかもその『召喚者』のスキルで強化されている。
レベル30程度しかない『蒼の薔薇』やブレイン、それよりもさらに低いクライムでは、瞬きほどの間に一蹴される未来しかなかっただろう。幸いにして……そうはならなかったが。
双方無言のまま、しばしの時が流れる。
一触即発と言っていい、緊張感で何倍もの長い時間に感じられたその数秒の後……ふぅ、と息をつく音がその沈黙を破った。
その主は、鞍馬天狗。続けて口を開く。
「まあ、そうだな……少しくらいなら教えてやってもよかろう。謎を解いて『ゲゲル』を防いでみせた者への称賛としてな」
それを聞いて、どうやらいくらかの情報を聞き出せそうだと察し、その場にいる者達が発していた殺気や緊張感が幾分和らぐ。
もちろん油断はせず、鞍馬天狗の様子を窺いつつではあるが、それでも聞く姿勢に入って次の言葉を待った。
「そこの青い髪の男の質問に答えよう。この王都において我々が行っている人間狩り、ないし殺人は……『ゲゲル』という名の遊戯によるものだ」
「遊戯、ですって……?」
人の命を奪っておきながら、それを『遊び』扱いする鞍馬天狗の物言いに、義憤からラキュースは不快感をあらわにするが、話を遮って止めるわけにもいかないと思い直し、そのまま黙って次の言葉を待つ。
幸いと言っていいのか、鞍馬天狗は何ら気にした様子もなく、説明を続けた。
『ゲゲル』とは、あらかじめ決められたいくつかの『条件』ないし『ルール』を満たす形で人間を殺すゲームである。
条件は、実施するゲゲルのたびに異なる。殺す『人数』はもちろん、どのような人物を殺すかという『ターゲット』の条件や、どうやって殺すかという『方法』、いつ殺すかという『時間帯』、そして、いつまでに殺すか……すなわち『制限時間』。
それらに基づいて王都の人間を殺していき、時間内に既定の人数を殺すことができれば達成。ゲゲルの難易度に応じた褒美が与えられる。
しかし失敗すれば、罰としてその命を失うことになる。今の吸血鬼のように。
そして自分は、その『条件を満たす殺人』の人数をカウントする審判のような役割を担っている存在だ、というところまで、鞍馬天狗は話した。
「そんな……遊びのために、この王都で人を何十人も……人の命を何だと思っているの!?」
「やめとけラキュース。人間じゃない奴に対してんなこと言っても、聞く耳持っちゃいねえよ」
そう言って冷静にラキュースを諭すガガーランだが、彼女もまた、今聞いた内容に対して怒りを覚えていないわけではない。
むしろ、その容姿に反して面倒見がよく情が深い性格である彼女は、ラキュースよりも目の前の異形とその所業に対して言いたいことは山ほどあったし、それ以上に手に持った戦槌を振り下ろしてやりたいという衝動に駆られ、それをどうにか抑え込んでいるところだった。
それに対して、相応に汚いこともやってきたがゆえに冷静なままでいるブレインは、今の話の中で引っかかったことについてさらに加えて尋ねる。
「なるほどな、人間が山の獣を狩猟するようなもんか……しかし、何だってこの王都でやるんだ? 何かここじゃなきゃいけない理由があるのか?」
「さあな、そこまでは知らん。俺は『主催者』ではないのでな」
「んじゃ、その『主催者』ってのは誰だ? あんな吸血鬼を参加者として集めて、あんたみたいなのを小間使いにするくらいなんだから、さぞかし偉い悪魔なんだろうな?」
「……これ以上のことを話す理由は、さすがにないな」
そう言って口をつぐむ鞍馬天狗。
手に持っていたカウンターを懐にしまうと、ラキュース達に背を向ける。
逃げるつもりだ、と察して咄嗟に身構えるラキュース達だが、背を向けているにも関わらず、その立ち姿に隙があるようには見えない。むしろ……今襲い掛かれば、自分達の方が痛手を負ってしまいそうな……そんな、どうしようもなく悪い予感がよぎっていた。
それこそ……彼女達の中で一番強い、イビルアイでさえも。
その躊躇いが、彼女達を結果的に救うこととなった。
「……ついでだ。最後に1つ教えておこうか」
「?」
「『ゲゲル』の謎を解き、それを阻止してみせたのは……お前達で2番目だ。尤も、もう1つの方は……挑戦者を直接討ち取って見せていたがな」
「何だと? 私達の他にも、お前達の暗躍に気づいた者が……」
驚いたようなイビルアイの言葉を最後まで聞くことなく、鞍馬天狗は……一瞬でその場から姿を消した。ラキュース達が油断なく、瞬きすらせずに見張っていたはずであるにも関わらず……その動きを追えなかった。
消えたと思うほどに早く動いて去ったのか、それとも転移魔法の類でその場から『飛んだ』のか……それすらもわからなかった。
しかし、今の鞍馬天狗の話で……状況は知れた。悪魔達は、この王都で、自分達が設定したルールに基づいたマンハントを楽しんでいるのだ。
さらには、悪魔達、あるいはアンデッド達にそれをさせている『主催者』がいる。おそらくは……相当に強力な、異形の親玉が。
このことは至急、王政府や冒険者組合に報告して、広く情報共有と警戒を進めなければならないだろう。その方向で見解を一致させたラキュース達は、ひとまずその夜の調査はそれまでとし……翌日から直ちに対策のために動き始めることに決めて、その場を後にした。
彼女達の様子を、隠れて陰から見ている者の存在に、最後まで気づかないままに。
『デミウルゴス様のシナリオ通りだ。これでようやく王都の人間達も、『ゲゲル』という名のゲームで人が殺されているという現状を認識し始めるだろう』
『では、作戦は次のフェーズに?』
『ああ、犯行の秘匿はもう考えなくていい。むしろ注目を集め、より恐怖と不安をあおる形で王都全体を巻き込んでいく……そして、それがピークに達した頃に……』
『王都を、いや国を救う『漆黒の英雄』が、そこに登場する……というわけだ』