オーバーロード 傾国狐の異世界日記   作:破戒僧

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はいよーい…アクションっ!

 

 

【異世界転移400年目 ^日目】

 

 本日深夜、王都にいる複数の貴族が、寝ている間に……夢の中にヤルダバオトが現れた。

 

 もちろん、タダの夢じゃない。私が妖術を使って、今回のゲゲルのターゲットとなる者達全員の夢をジャックして操り、同時に同じ夢を見させたのだ。

 あらかじめデミウルゴスと協力して録画しておいた、ゲゲルのルール説明の映像を、夢として。

 

 なお、その時間に眠っていなかった貴族達については、開始5分前に術で強制的に眠らせました。

 

 不安から不眠症になってしまって、ここ最近眠れていなかった者。

 単純に忙しくて夜中まで仕事していた者。

 ちょうどトイレに起きたところだった者。

 若い愛人の上に乗っかってヘコヘコ腰を振っていた者、等々。

 

 歩いている最中とか、変な姿勢でいる時に急に眠らせたせいで、ぶっ倒れて床に頭から激突したり、起きた時寝違えちゃってそうな人も何人かいたけど……ごめんね、わざわざ時間ずらして夢見せるのもめんどくさかったの。

 

 さて、問題のその夢の内容だが、魔王ヤルダバオトのこんな言葉から始まった。

 

『おめでとう。君は今回のゲゲルの参加者として選ばれた。私に殺される標的の1人として』

 

 開口一番のこのセリフで絶望する者が多数出たが、構わずヤルダバオトは続けた。

 ……構わずも何も、録画だから事前に録った内容しか話さないのは当たり前だけど。

 

 夢は完全に私が掌握しているため、貴族達はショックで気絶することも、恐怖で正気を失ったりすることもできなかった。そのまま話を聞き続けた。

 説明されたルールは、以下の通り。

 

 ・ゲゲルの開始時刻は、今から24時間後。明日の午前0時。終了時刻は午前6時。

 

 ・狩の対象である『ターゲット』は、全部で13人。王国の貴族達の中から、とある基準で選ばれ、その手には『刻印』が刻まれている。

 

 ・ターゲットは王都の中であれば、どこにどうやって隠れていてもいい。ただし、王都を出た場合は反則となるため、即座に殺される。ゲーム開始前であっても。

 

 ・護衛はどれだけ配置してもいい。どのようなやり方で身を守ってもいい。

 

 ・人間側の勝利条件は、ターゲット達のうち1人でも6時間を生き延びるか、ゲゲルの挑戦者であるヤルダバオトを倒すこと。

 

 ・悪魔側、というかヤルダバオトの勝利条件は、時間内にターゲットを全員殺すこと。

 

 ・もし人間側が勝利した場合は、褒美として、生き残ったターゲット全員が、何か1つ『願い』をかなえる権利が与えられる。『願い』は、魔王ヤルダバオトの力で可能な範囲であれば、どんなものでもかなえられる。

 

 こんな感じのことを一方的に告げて、その夢は終わり……同時に、夢を見ていた13人は、強制的に目覚めさせられた。

 

 当然ながら、翌朝の……どころか、夜中のうちから王都は、ハチの巣をつついたような大騒ぎになった。

 

 単なる夢ならよかったんだろうが、全く同じ内容の夢を、何人もの貴族達が、同時に見ているとなれば……そして相手が超常の力を持つ『魔王』となれば……話は全然違ってくるわけで。楽観視なんかできないわけで。

 しかも、ふと手の甲を見てみれば、よくわからない、しかしどこか禍々しい『刻印』が刻まれていて……洗っても洗ってもそれが落ちない。

 

 さっきのがただの夢ではなく、これから現実で起こることの予告だと理解してパニックになる貴族達。

 しかし、泣こうが喚こうがキレようが現実は変わらない。夜中には最後の『ゲゲル』が始まり、魔王が殺しにやってくる。その前に、できる限りの備えをしなければならない。

 

 なお、この時点でもう2人ほど、ターゲットに指定された貴族が王都から逃げ出そうとしたんだが、宣言通りルール違反で殺された。

 そのうち1人は、わざわざ影武者まで用意して『王都の中にいる』ことを偽装した上でこっそり逃げ出そうとしてたんだが、それが上手くいくはずもなく。

 

 王城前の広場に、バラバラにされた『違反者』達の死体が降り注いだことで、残る11人のターゲットは、逃げ場はないのだと思い知ることになった。

 

 そうなると彼ら彼女らにできることは、逃げるのは諦めて守りを固めることだけだった。

 私兵達に加えて、斡旋業者に声をかけて傭兵を集めたり、黒い繋がりを公にする危険を冒してまで、『八本指』関係者を含む犯罪者を雇いあげたりもした。

 

 もちろん、冒険者組合も大忙しだ。王国最強と名高い3つのアダマンタイト級チームへは護衛依頼が殺到したが、残念ながら、貴族達が彼ら彼女らを雇うことはできなかった。

『朱の雫』は、今、王都を離れているため不在。依頼はできない。

 残る2つ……『蒼の薔薇』と『漆黒』は、既に依頼が入っており、2チームともその依頼を受けることを表明していたため、貴族達は依頼を出せなかった。

 

 普段であれば、規則違反だろうがなんだろうが構わず、圧力をかけて横からその2チームの依頼枠を奪おうとしたのだろうが……その2チームを今回雇いあげたのが、横から文句をつけることもできない人物だったため、それもできなかった。

 当たり前だ。いくら政治的な実権や影響力に乏しい人物だとはいえ、れっきとした王族に言いがかりなどつけられるわけもない。

 

『黄金』の名で知られる、第三王女ラナー。彼女もまた、夢の中でヤルダバオトに死を宣告された……ターゲットの1人だったのである。

 その彼女を守る最後の砦として立ちあがったのが、彼女と個人的に親交のあるラキュースがリーダーを務める『蒼の薔薇』と、今回のゲゲルへの対処で以前から協力関係にあった『漆黒』だったのだ。

 

 

 

 ……とまあ、ここまで雰囲気出して語ってみたわけだけども。

 ここからは、主催者と言うか、運営側の立場に立って、色々バラしつつ話しちゃおうか。

 

 まず、今回のエキシビションゲームならぬ『ゲシビシジョン・ゲゲル』だけど、ターゲットは全部で13人。

 でも2人死んだので、残り11人。

 

 内、今後の王国にはいらないなってことで、確実に殺して処分する予定のクズ貴族は8人。

 

 残り3人は、うまいこと順番とかを調整して殺さずに済ませる。なお、ラナー王女はもちろんこの3人の中に入ってます。

 

 前にちらっと言った通り……あれ、言ったっけ? まあいいや。

 彼女実は、表向きに知られてるような清純派な王女様ってわけじゃ全然なく、相当ぶっ飛んだ精神性をしているらしい。

 同時に、アルベドやデミウルゴスが評価するほどに優れた頭脳を持っているそうで、『精神の異形種』とまで呼んで絶賛していた。

 

 今後、彼女の望み――『飼い犬』のクライム君と一緒に寿命のない異形種に転生して、永遠に一緒に暮らすこと――をかなえるのと引き換えに、ナザリックに招き入れる予定だそうだ。

 あの知恵者2人に価値を認めさせるなんて……すごいなあの子。

 

 そんなわけで、ラナー王女が殺されることはない。ガードについている『漆黒』と『蒼の薔薇』が奮戦し、ヤルダバオトを撃退する予定になっている。

 

 そして、ラナー王女と他2人のターゲットは、願いをかなえる権利を手に入れるわけだが、そこで王国の民に対して受けがよさそうな内容を願うことで、さらに支持率アップを狙う、というわけ。

 

 そして残り2人の貴族であるが、この2人、というかその実家は、どちらも当主が私の子孫で、私の息がかかっている家です。私の言うことは割と何でも聞いてくれます。

 なので、言うまでもなく協力者です。『願い事』もこっちでいい感じに決めたものを願わせます。王女様と同じく、支持率アップにつながりそうなのを。

 

 とまあこんな感じで、今回のゲゲル、実態は完全な出来レースなわけだ。1から10まで台本アリのね。

 目的は王国のごみ掃除と、協力者各位の支持率アップと、『魔王ヤルダバオト』の悪名を恐怖と共に広く知らしめることと、それを倒した『漆黒の英雄』モモンの名声をさらに高めること。

 

 損するのは、『利用価値なし』『むしろ害悪』と判定されたクズ貴族の皆さんと、護衛を含めたその関係者達。

 貧乏くじ引くことになる傭兵とか私兵達は気の毒だと思うけど……そういう商売やってる以上は、危険と隣り合わせなのは承知の上だろうし、極端な話『死ぬのも仕事のうち』だってことで……諦めて頂戴。

 運が良ければ生き残れるかもしれないし。

 

 ちなみに、ターゲットの皆さんの手の甲に出現している『刻印』は、ユグドラシル産のメーキャップ用アイテムを使ったボディペイントである。

 専用の塗料(これもアイテム)を使わないと除去できないから、洗っても落ちない。ただし、効果時間が過ぎれば落とせるようになるので、それまで待ってね。

 

 さて……夢を使った告知も終わったことだし、私の仕事はもうない。ここから先は、私も観客として見させてもらおうか。

 ナザリックの『円形闘技場』で、クリスタルモニターを使って上映会やるって言ってた。そしてそれに、『ぜひお越しください』って私も招待されている。

 

 アインズさんとデミウルゴスが魅せる、王都編クライマックス。どんな見ごたえのある舞台になるやら……楽しみだ。

 

 

 

【異世界転移400年目 @日目】  ※日付変更直後、午前0時

 

 日付が変わると同時に、魔王ヤルダバオト主催の最後のゲゲル『ゲシビシジョン・ゲゲル』は始まった。

 王都に、悲鳴が響き渡り始めた。

 

 最初に狙われた貴族は、屋敷に100人を超える私兵や傭兵を集めて配備して守りを固めていた。

 

 けど、レベル10や20のしょっぱい戦力を何百人そろえたところで、100レベルの最上位悪魔(アーチデヴィル)に勝てるのかって考えたら……そりゃ、ねえ?

 デミウルゴスがあいさつ代わりに放った魔法一発で半分以上がジュッといって即死。残りの連中も速やかに戦意喪失して逃げ出してた。

 

 後は、逃げ惑う使用人達……はどうでもいいのでスルーして、隠し通路から逃げようとしていたターゲットの貴族は、その通路を埋め尽くすほどの熱量を持った地獄の炎が放たれ、蒸発。

 開始10分で早くも1人目殺害。残り10人。

 

 

 

 そんな感じで、素通り同然に全ての防備を食い破りながら、デミウルゴスもといヤルダバオトは次々にターゲットの貴族を殺していった。服にほつれや汚れの1つも作らないで。

 あれよあれよという間に、7人のターゲットが殺された。

 

 これで残りのターゲットは4人。

 内、ラナー王女を含む3人は殺さないことが決まってるので、死ぬのはあと1人。

 

 しかし、その1人がちょっと、いやかなり問題ありの行動に出たおかげで、話がややこしくなった。

 まあ……英雄モモンのアピールにはちょうどいい舞台が整ったと言えなくもないけど。

 

 何をしたのかと言うと、その貴族(クズ)、自分の邸宅ではなく、別に用意した隠れ家に身を隠していた。護衛達を連れて。

 自宅にはご丁寧に、死なせる前提の影武者を置いて。

 

 ここまでなら、それ以前にも似たようなことしてた奴もいたし、そもそもデミウルゴスをごまかすことなんてできないから別に問題でも何でもないんだが――いや、倫理的に考えれば大問題なんだろうけども――その『隠れ家』があった場所が問題だった。

 大勢の平民達が暮らしている、住宅街のど真ん中だったのである。

 

『木を隠すなら森の中』的な、大勢の人の中に紛れてわからないようにしてしまえ、という感じの発想でもって……さらに、いざという時はそこに住んでる平民達を盾ないし囮にして、パニックに乗じて自分だけ逃げる的なことを考えていたそう。

 さらに、そこに暮らしている住民達や冒険者達の一部を脅迫して、無理やり自分を守らせて戦わせる的なことまでしているそうだ。

 

 ホントこの国の貴族って、平民を人としてみていないな……好きな時に好きなように使える道具ないし奴隷としか見ていない。

 そういう奴ばかりじゃないとしても、そういうのが多すぎる。

 

 けれど、この展開は……ある意味私達にとっても好都合でもある。

 

 巻き込まれる民衆や冒険者達にとっては気の毒だと思うけど、ギャラリーが多いのは大歓迎だ。

 これから始まる『漆黒の英雄』の活躍と、ラナー王女他の勇気ある行動を目撃し、大いに盛り上がってくれる証人達が勝手に増えてくれるから。

 

 そんなわけで、『念話』を使ってデミウルゴスとアインズさんとちょっと相談して、脚本を一部変更。もうちょっとだけ派手に、刺激的にいくことにした。

 

 

 

 影武者に騙されることなく、邸宅の方は完全スルーしてまっすぐ『隠れ家』の方にやってきたヤルダバオト。それを、貴族の私兵や、買収されたり脅されたりして『今だけ私兵』になった平民や冒険者達が取り囲んだ。

 言うまでもなく、こんなのヤルダバオトからしたら妨害にもなってない妨害だし、ちょっと魔法ぶん投げてやるだけでジュッときれいになる程度のものでしかない。

 

「やれやれ、困りましたねえ……私はあくまでターゲットと、それを守る護衛達だけを相手にするつもりだったのですが……こんな風に私好みの手を使われてしまうと、なんとも嬉しくなってしまいます」

 

 しかし、ヤルダバオトはそうしなかった。

 心の底から楽しそうに笑いながらそう言い……魔法を発動。

 

「これはひとつ、私も『悪魔らしい』やり方で対応させていただくとしましょうか」

 

 ヤルダバオトの周囲に、炎の壁が立ち上った。

 それが自分達に向かってくるんじゃないかと思って、私兵(仮)達は恐々としていたが、事態はそれよりもヤバい方に転がっていく。

 炎の壁の中から、凶悪な見た目を持つ無数の悪魔達が湧き出してきたのである。

 

 悪魔達は、ヤルダバオトの命令を受け、恐怖と驚愕で動けない民衆達に一斉に襲い掛かり、無惨に殺していく。

 あくまで『ターゲット』になっている貴族を守る防衛戦だったはずが、クズ貴族の愚行と悪魔の悪ノリによって、一方的な虐殺に早変わり、無関係だったはずの市民達の怒号や悲鳴、断末魔が夜の王都に響……うん?

 

 ……あっごめんアインズさん、デミウルゴス、ちょっと早いけど英雄モモンもう出撃できない?

 もう場は十分あったまったと思うから、ちょっと巻きで民衆の救出とかお願いしたい。

 

 何でかって? 想定外に市民が巻き込まれ始めて、子供や赤ちゃんにまで被害が出そうになってるせいで、ペストーニャとニグレドがなんかすごい悲しそうな顔してるの! 2人とも子供大好きだから!

 

 それに私もその……プロの母親として色々と思う所があるっていうかね? 見てらんない感じが少なからず……我慢できなくはないけど我慢したくないっていうか! あああああ、子供の泣き顔が胸に来る! 刺さる!

 

 ……あ、OK? よっしゃ、ありがとう!

 よし、じゃあ……漆黒の英雄、出陣!

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

「そこまでだ、魔王ヤルダバオト! この王都において、これ以上の狼藉は許さん!」

 

 悪魔達による虐殺の中、突如として響き渡った声。

 

 魔法によって拡声されたその声の主は、この国の第二王子・ザナックだった。銀色の硬質な輝きを放つ全身鎧でその身を固め、馬にまたがって、この地獄のような場所にその姿を現した。

 

 周囲には、自らが任されたのであろう、王国軍の兵士達を数多く従えている。

 さらには、

 

「魔王ヤルダバオト……あなたの『標的』はここにいます! 狙うのならどうぞ……罪のない民達ではなく、このラナーを狙いなさい!」

 

 夜の闇をものともせず輝く金髪をなびかせ、『黄金』の呼び名で知られる美少女が……第三王女・ラナーが前に進み出た。

 目で見える位置にいるヤルダバオトに、そしてその周囲にいる全ての者達にもよく見えるようにだろうか。掲げるように挙げられた手の甲には、ゲゲルのターゲットであることを示す『刻印』が刻まれていた。

 

 そして、そのラナーとザナックを共に守る形で立つのは……アダマンタイト級チーム『蒼の薔薇』と『漆黒』。王都に広くその名を知られる、英雄級の冒険者達だった。

 

「ラナー殿下!?」

 

「ザナック殿下だけでなく、ラナー殿下までこんなところに……」

 

「兵達を連れて、俺達を助けに来て下さったんだ!」

 

「で、でも……危険です! こんなところにいては……逃げてください!」

 

 口々に彼女達に感謝したり、身を案じる声が聞こえてくる。彼女がどれだけこの王都の民達に慕われているかがわかる光景だった。

 

 その中心にいるラナーは、恐ろしい魔王を前に毅然とした態度で、一歩も引かずに自分に向けられる無数の視線を受け止めている。

 

 しかし、やはり不安も恐怖もあるのだろう。

 よく見れば、その頬には汗が伝っているし、手もわずかに震えている。声も心なしか震えているように思えた。

 

 まだ20歳にもなっていない少女。今すぐ逃げ出したいだろうに、気丈にもその恐怖を必死に抑え込んで、民を救うため、兄とともに戦場に立とうとするその姿に、民達はますます胸を打たれた。涙を流して感激している者も少なくない。

 

「素晴らしい。まだ幼いながらその覚悟、王族かくあるべしという見事なお姿です。悪魔にこのようなことを言われても嬉しくなどないでしょうが、このヤルダバオト、ラナー殿下のその覚悟を心より称賛させていただきます」

 

「あら、あなたほどの悪魔にそう言っていただけるなんて……光栄ですね」

 

 護衛の騎士と思しき、年若い少年の手を取り、震えを抑えてもらいながら、気丈にもそんな風に言い返す王女。それに続けて、こんなことを問いかけた。

 

「それなら1つ教えてほしいことがあるのです、魔王ヤルダバオト。『ゲゲル』の際に標的として狙われる人間には、その都度、何かしらの共通点があると聞きます。けれど、今回あなた達に殺された者達には、貴族であるという点以外に共通点がどうしても見つからない……よろしければ、それが何なのか教えていただけませんか?」

 

「おや、そんなことですか。別に構いませんが……興味がおありで?」

 

「ええ。いかなる理由で自分が命を狙われるのかくらい、知りたいですもの」

 

 それを聞いて、またおかしそうに笑うヤルダバオト。

 

「そうですか。それは確かに……自分が死ぬ理由くらいは知りたいものでしょうしね。……いいでしょう、お教えしましょう。今回の『ゲゲル』で標的となった者の共通点……それは、向けられている『恨み』の数です」

 

「恨み……?」

 

「より正確に申し上げれば、この王都に暮らしている者達の中で、その者に対して『死んでほしい』『殺してやりたい』と思っている者が、3000人を超えている者達……その中から無作為に選んだ13人が、今回のターゲットです」

 

 予想だにしない『条件』の内容に、その場にいた者達は驚愕していた。

 

 真っ先にそれに反論したのは、ラナー王女のそばにいた、白金の鎧の少年騎士だった。

 

「そんな……そんなはずがあるものか! 悪行に手を染めて私腹を肥やすような者達ならばまだしも……ラナー様がそんなにも多くの民に恨まれているはずがない! 誰よりもこの国の現状を憂いておられるお方だ!」

 

 何気に問題発言も混じっていたセリフだったが、そんなことは気にならなかったようで、多くの民達から恐怖も忘れて『そうだそうだ!』と賛同の声が上がった。

 

 皆、ラナーがこの国の良心そのものであり、自分達のような弱者にも微笑んでくれる優しい姫だと知っている。いくつもの弱者救済の法案を通し、救いの手を差し伸べ続けている彼女が、そんなにも多くの恨みを買っているはずがない、と。

 

 しかし、その少年騎士……クライムのすぐ近くで、ぽつりとこんな声が聞こえた。

 

「なるほど、そういうことか」

 

 声の主は、『漆黒の英雄』モモン。

 何かに思い至ったようなそのつぶやきに、クライムは思わず視線をそちらに向ける。

 

 なお、彼が呟いた言葉が、彼の身近にいるある人物が日頃よく彼に聞かせているのと同じセリフだったのは……多分偶然である。さすがは端倪すべからざる御方。

 

 ラキュースとクライムは、そのモモンに問いかける。

 

「モモンさん、『なるほど』というのは……?」

 

「ラキュース殿、クライム君、よく思い出してみろ。奴は……ヤルダバオトは先ほど、『王都に暮らしている者達の中で』と言った。善良な民達の中で、ではなくな」

 

 それを聞いて、クライムとラキュースもはっとする。

 

 同時に、おそらくはモモン同様、その言葉の意味に既に気付いていたのであろうイビルアイが、補足するように続けて言った。

 

「ラナー王女は、力を持たない民達に救いの手を差し伸べる、弱者の味方であり希望だ。だがそれは見方を変えれば、その『弱者』を食い物にしている者達からすれば、自分達の金もうけの邪魔になる『敵』だということだ」

 

「では……ラナー様の死を望んでいる者が、この王都に3000人以上いるというのは……」

 

「それだけの数の、ラナーに商売を妨害されて恨んでいる『悪人』が、この王都に巣食っている……ということね」

 

(さすがは『悪魔』ということだな……知りたくもなければ信じたくもない、しかし真実なのであろう事実を、さも当然のように突き付けてくる)

 

 イビルアイがちらりと横目で見れば、ラナーもさすがにショックだったのか、表情をこわばらせている。

 民の笑顔のため、国の未来のためと思い、懸命にいくつもの政策を考え、通してきたが、それが原因で多くの者達に恨まれているという事実を目の当たりにしたのだ。無理もない。

 

 しかし、隣にいる少年騎士が、つないでいる手をぐっと握ると、その手のひらから伝わってくる温かみを感じ取り、哀しみと不安に沈みかけた心を浮き上がらせたように見えた。

 

「いい目だ」

 

 感心したようなヤルダバオトの言葉。短く簡潔に、しかし確かにラナーを褒めた。

 

「心折れそうになりながらも、自らの信念と、自らが信じる者達との絆を助けに、折れずに立ちあがる不屈の意思を宿した目だ。過去、そういう目をする者達を幾度も見て来た……ある者は大きく栄えた国家を率いる名君となり、ある者は伝説にその名を語られるほどの英雄となった」

 

 言いながら、ヤルダバオトは手の爪を鋭利な刃物のように、長く、鋭く伸ばす。

 

「だが、残念なことに……あなたが作り上げたかもしれない、この国の輝かしい未来は……ついぞ来ることはない。誰もそれを見ないまま、夢のかなたに消えるのです」

 

 

 ―――あなたは今日、ここで私に狩られてしまうのですから。

 

 

「安心しろ、そんな未来こそ来させはしない」

 

 そして、モモンとラキュースがラナーの前にさらに一歩進み出て、彼女を守る形で立つ。

 それぞれの得物……2本のバスターソードと、伝説に語られる魔剣を構える。

 

「こういう言い方はアレだけど……数多くの英雄を見てきた魔王のお墨付きってことでしょ? すごいじゃない。ラナーが将来そんなすごい国を作ることになるのかもしれないなんて……これは是が非でも見逃すわけにはいかないわ」

 

「残念なことに、お前がそれを目にすることはないだろうがな……ここで我々が、お前を倒し、この国の希望を守る。いや、何もラナー王女に限った話ではない。ザナック王子も含め……民のため、国の未来のために覚悟を決めて立ち上がり、恐怖と絶望に立ち向かう者達が作る未来を……お前などに奪わせはしないぞ、ヤルダバオト!」

 

 笑みを絶やさぬまま、力強くうなずくラナーと、それを支える決意と覚悟と共に頷くクライム。

 そして、不意打ち気味に自分の名前が出て来て驚きつつも、『英雄』と呼ばれるモモンから褒められて悪い気はしないザナック。ちょっと挙動不審になりつつも、少し遅れて同じように頷いてみせた。

 

「あなた達もいい目をする……きっとこの先、数多の苦難試練を乗り越えて、歴史に名を遺す英雄となるはずだったのでしょう。しかしまたしても残念……そういう目をする者が私の前に立った時……いつもその者は早死にする」

 

「不要な心配だ。何度も言わせるな……長生きしすぎてボケが始まっているわけでもあるまい」

 

「ふふふ……よろしい。おしゃべりはこのくらいにしましょうか」

 

 直後、ヤルダバオトの体から、すさまじい勢いの炎が噴きあがった。

 

 離れていても身を焼かれそうなその温度に、目の前の魔王が臨戦態勢に入ったことを察し、冒険者や兵士達、それに市民達はたじろぐ。

 

「ナーベ! トガ! クライムと共に殿下達を守れ! キリトは適宜私の援護を!」

 

「ガガーランはラナーを守りつつ周囲の警戒をお願い、召喚された悪魔達が襲ってこないとも限らないわ。イビルアイは私とモモンさんと一緒に前に出て、ティアとティナは援護を!」

 

「「「了解!」」」

 

 

 

「さあ、始めましょうか……この国の未来を決める、英雄と魔王の戦いを!」

 

 

 

 

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