オーバーロード 傾国狐の異世界日記   作:破戒僧

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あとがきに主人公・ラストにゃんにゃんのイメージ画像を挿絵で乗っけております。
もしよかったら見て行ってください。


原作400年前(4) 狐、母親になる

 

 

【異世界転移 6日目】

 

 昨日は1日でいろんなことが起こりすぎて、日記を書く暇もなかった。

 なので、1行で済ませてしまった昨日の分も今日は書こうと思う。

 

 昨日書いた通り、今朝起きたら、なんか妊娠してた。

 

 まあ……一昨日、性欲発散のためにクリム君に相手してもらった時、特に避妊とか何もしないでヤっちゃったからな……妊娠してもおかしくはないかも、とはちらっと思ってたんだよね。

 数週間~数か月くらいして体調に変化があったら、クレリック職を修めてるNPCの誰かに頼んで検査とかしてもらうべきかな、とか思ってた。

 そんな1回でデキるとは思ってなかったから、ほぼほぼ冗談半分だけどね。

 

 ……でも、まさか1日で自覚症状が出て、しかもそれなりにお腹の中で赤ちゃんが育ってくるなんて思ってなかったから……びっくりしたよ。

 朝起きたら下腹部に強烈な違和感があって、『え、何これ?』って思ってデミアに相談したら、あれよあれよという間にクリム(クレリック職持ち)呼ぶことになって。

 

 で、ヤった当の本人による診断の結果、私が妊娠していることが明らかになった。

 

 その時はひたすら頭ン中大混乱だった。

 『1回でできちゃった!?』っていうのに加えて、『なんで1日でこんなに大きくなるの!?』とか『これからどういう風に生活すればいいの!?』とか……リアルでだって結婚どころか恋人の影も形もなかったから、妊娠・出産・育児関連の知識なんて皆無でしたもので。

 

 しかも、何度も言うけどたった1日でありえないくらいに赤ちゃんが育ってたのもね……だって普通、赤ちゃんって40週お腹の中で育ってからようやく生まれてくるもんだし……と、そこまで考えてはっとした。

 

 今の私、人間じゃなくて『九尾の狐』だから、そうとは限らないのでは? と。

 こんなに早く赤ちゃんが育ったのも、そのせいであって……人間とは全く別な出産準備が必要なんじゃないか、と。

 

 当たり前だが、異形種の出産関係の生態なんて知っているはずもなく、再びどうしたらいいかわかんなくなったので、デミアに相談。知識量とか各方面・各種学問に対する理解度が尋常じゃないレベルなので、めっちゃ頼りになるのよ。

 

 そのデミアいわく、『そんなに深刻に考えることない、楽観的で大丈夫』とのこと。

 

 そもそも自分達異形種は、人間なんかより数段頑丈にできているし、何かあっても高レベルのプリーストやクレリックが何人も控えている。

 だから、出産時に大量出血しようが、輸血なしで帝王切開しようが、傷口から菌が入って感染症にかかろうが、即座に完治させて『安産』(結果的に)で終わらせることができるから、と。

 ……言われてみれば確かにそうなんだけど……身も蓋もないな……。

 

 さらに、『そんなに心配ならさっさと産んで終わらせちゃえばいいじゃない』って言われた。

 

 

 

 ここ『ニューコロロ空中庭園』には、『フーリーの花園』というエリアがある。

 そこは非常に特殊な力を秘めた場所で、妊婦がここに来ると、お腹の中の子供がすごく早く成長し……場合によってはほんの数時間で臨月と同じ状態になり、1日とかけずに出産を迎えられる、というとんでもない場所なのだ。

 

 デミアは、私にここに入って、今日中に産んじゃえばいいじゃない、って提案してきたわけ。

 なるほど、色々不安を抱えて何か月も過ごすよりは、そうしたほうがいいかもね。準備もすぐにできるわけだし……善は急げってことで。若干急ぎすぎかもしれないけども。

 

 さて、ここまで聞いて『ユグドラシル時代からそんなトンチキな施設あったの!?』って思った人も多いと思うが……安心してください、そんな施設はもちろんなかったです。

 正確に言えば、『フーリーの花園』自体はきちんと存在したけど、もっと別な効果を持った施設であり、決して『妊婦の出産を速める不思議な庭』なんて場所じゃなかった。

 

 じゃあ何だったのかというと、ここは元々、『モンスターの卵をより早く孵化させる』ための場所だったのだ。

 

 ギルド『暗黒桃源郷』の全盛期、ギルドメンバーの中に、何人か『ビーストテイマー』や『召喚士(サモナー)』などの、モンスターを操る系の職業を持っている人がいた。

 それらは、捕まえたモンスターをそのまま戦わせることもできるけど、タマゴから孵化させて1から10まで自分好みのビルドで育てたモンスターを使うこともできた。

 

 けど、モンスターの卵を孵化させる作業って意外と大変でね……。

 そのモンスターの生態に合った環境の場所で一定期間過ごす……っていうのが最もポピュラーな孵化のさせ方だと思うんだけど、種族も違えば属性も違う様々なモンスターの卵を孵化させるために、いちいちあちこちに出向かなきゃならないのが面倒だって皆思っていた。

 

 そこで、いくつかのアイテムやデータクリスタルを潤沢に使い、『あらゆる種族・属性の卵の孵化を超高速で行えるエリア』として、この『フーリーの花園』をギルドの中に作ったのだ。

 私もここ作るの手伝ったんだけど、マジで大変だったよ……ギルド武器作る時とおなじくらいかそれ以上に大変だった。

 けど苦労した甲斐あって、あらゆる種族の卵を、ここに置いておくだけで通常の256倍の速さで成熟・孵化させることができるようになったのは、嬉しかったし達成感あったなあ……。

 

 テンション上がったビーストテイマーのギルメンが、卵何個も抱えてしょっちゅう走り回ってたっけ。……孵化させるだけなら別に走る必要はなかったはずなんだけど、なんか昔のゲームだかマンガだかで、そういう変なジンクスないしお約束があるらしくて……。

 一緒によく言ってた『ランニング王子』がどうとかっていうのも……結局どういう意味なのか聞かないでしまったな。

 

 で、まさかその施設が……異世界に来てみたら、卵に限らず、胎生の赤ん坊すら成長加速させて産み落とせる施設になってたとは思わなかった……。

 

 そして、私もその『花園』に入ってみたら……元々、人間よりはるかに早く子供が育つ生態だったのに加えて、それが256倍になったことで、自覚できるくらいの勢いでどんどんお腹が大きく、重くなって……。

 そして、5時間後ぐらいにそのままそこで出産した。

 

 クリムを含めたクレリックたちが何人も来てくれて、回復魔法かけ続けてくれたから、何の問題もなく、本当の意味で『安産』だったよ。

 産むときですら『ちょっと痛いかも』程度の痛みしかなくて……よくリアルで聞いてた『鼻からスイカ』とかは何だったんだろう、と思ったんだけど、デミアに聞いたら、

 

「そりゃあなた、いくら『魔法詠唱者(マジックキャスター)』で肉体的には比較的脆弱とはいえ、100レベルのしかも異形種なんだから、出産くらいでそんなにダメージ受けやしないわよ」

 

 ……だってさ。

 出産時の痛みとか出血ってダメージ扱いなの? 物理的な? 初めて知ったし思いもしなかったよ、そんな概念。

 

 ともあれ、そんなこんなで私こと『ラストにゃんにゃん』は……セックス初体験した翌日に、妊娠と出産も初体験しました。

 

 ちなみに、今回産んだ子は、前日中に『お相手』してもらったクリムの子なわけだけど……この場合って、私の子供なんだから、『お世継ぎ』的な扱いをされるんだろうか。

 そして、父親になったクリム君って、私の夫的な立ち位置になるんだろうか、とか思った。

 

 けど、デミアとカリンに聞いたら『そうはならない』んだってさ。

 

 曰く、下僕(しもべ)との間にできて生まれた子供は、父親と同じように『ニューコロロ空中庭園』の下僕として扱われるんだって。

 そういう風に教育され、育てられ、大きくなったら同じように下僕として私に仕えることになる……とのこと。

 父親であるクリム君もそれに納得してたし、彼自身の地位とかも今後変化はない。

 

 実の子供なのにそんな風に扱うの? って思ったけど、リアルでも中世の時代とかは、王族とか貴族においては、血縁だろうとトップ、すなわち国王や当主を主として、家臣として『仕える』のが普通だったっていう話も聞くし……そういう感じなのかな。

 人間、ないし一般人からすると、中々にとんでもない話だと思うんだけど……そのへんの価値観も『ラストにゃんにゃん』に引っ張られてるのか、聞かされた時に『ふーん』って感じで納得してしまえた。

 たった5時間弱の妊娠期間とはいえ、お腹を痛めて(大して痛めてないけど)産んだ子供が、自分の下僕として育てられるって聞かされてるのに、何とも思わなかった。

 

 ……ちょっとだけ、不安に思えた。

 こんな感じで、人間だった頃の私が、どんどん薄れていくのかもしれない……って思えて。

 

 そんな思いも、時間と共に『まあ気にしても仕方ないか』程度のものになってしまったし。

 

 とりあえず今日は後はもう、大事を取って部屋でゆっくり過ごすことになった。

 回復魔法めっちゃかけてもらったおかげで肉体的な疲労はあんまりないけど、色々あって気疲れはしちゃったから……うん、ゆっくり休もうかな。

 

 

 

【追記】

 

 後になってからデミアに聞いたんだけど……『フーリーの花園』に入ってから出産までの時間から逆算して、私が『花園』なしで普通に育てて出産した場合、およそ52日くらいかかっただろうとのこと。

 

 そしてこの数字、狐が妊娠して出産に至る期間とだいたい同じなんだそうだ。

 ……やっぱ私、狐っていうか、動物判定なのか……?

 

 

 

【異世界転移 7日目】

 

 昨日産まれた私の子供についてだが……一夜明けて色々検査してみたところ、次々と衝撃の事実がわかった。

 

 生まれたのは、クリムと同じ『天使』の子供だったんだけど、これが早熟で、昨日生まれたのにもうハイハイするくらいにまで大きくなってる。だんだん言葉も覚え始めてる気配がある……って、乳母を任せてるNPCが言ってた。

 ……異形種や亜人だとしても成長早すぎない?

 

 しかし、問題は実はそこではなく……その子の能力値その他についてなんだよ。

 

 調べた結果わかったこととして、その子は、レベル1で職業(クラス)なしの一般的な『天使』よりも能力値が高いことがわかったのである。

 もちろん、生後2日だから、能力値だけ高かったとしても戦えるわけじゃ当然ないけど、将来性という意味ではかなりすごいことになりそうな子だ。今から楽しみになるレベル。

 

 でもまあそれだけなら、『親が優秀だったからかな? 両方100レベルだし…』っていう考察もできたんだけど、その検査で一緒に、それ以上に衝撃の情報がわかったのである。

 なんと、私やクリムが持っているスキル、あるいはその劣化版を受け継いでいた。

 

 これは明らかに異常である。能力値の違いなら最悪誤差でも済むけど、スキルはそもそも、何かしらの『種族』や『職業(クラス)』を一定以上修めないと覚えることができないものだ。

 

 例えば、『弓兵(アーチャー)』の職業を一定レベルまで育てると覚える『精密射撃』っていうスキルがある。遠距離攻撃武器の命中率やクリティカル発生率が上がるスキルだ。

 そして、そういう人が使う弓矢系の武器は、『弓兵』以外にも『戦士(ウォリアー)』などの戦士系職業を持っていないと、そもそも装備することができない。

 

 ということは……そういう、対応する職業なしで『精密射撃』のスキルだけを覚えている場合、弓矢を装備できないのに射撃系スキルを覚えている、というトンチキな状態になってしまうのだ。

 

 だから、『種族』や『職業(クラス)』のレベルという下積みなくしてスキルは取得できないし、仮に後からそれらを失ってしまった場合、スキルも一緒に失われる。

 

 そのはずなのに、私とクリムの子は、天使レベル1のみであるにも関わらず、いくつかのスキルを私達から『受け継いだ』。

 

 これも、異世界転移してしまったが故のことなのか……と思ったんだけど、少し考えた後で、私はコレの原因に思い至ることができた。

 もしかしたら、『異世界転移』ともう1つ……私のスキルが原因かもしれない、と。

 

 もう何度も話しているように、私こと『ラストにゃんにゃん』の種族は『白面金毛九尾の狐』だ。

 そして、取得している『職業(クラス)』については……自分で言うのもなんだけど、色々とレアで強力なものもいくつも持っている。

 

 殲滅火力特化の魔法系職業の頂点である『ワールド・ディザスター』もその一つだ。

 ゲーム内で一定人数しか取得できないレア中のレア職業として知られており、コレを持っているのは、私としても胸を張って自慢できることの1つである。

 ユグドラシル晩年、1人で拠点の維持費稼いでた時とか、超お世話になったなあ……。

 

 だが今回話題にしたいのはこれではなく、それと同等かそれ以上のレア職業で……万魔の母(エキドナ)という職業だ。

 

 ギリシャ神話に出てくる、多くのモンスターの生みの親である悪魔『エキドナ』にちなんで命名されているらしいこの職業は、自分の子供……に見立てて、『自分が召喚したユニット』を強化することができる。

 その『強化』の内容は、能力値が上昇するのはもちろんのこと、召喚時間が長くなり……さらには、一部のスキルの効果を共有できるという非常に強力なもの。

 ただし、スキルについては共有可能なものと不可能なものがある上、いくつ、どれを共有するかはランダムであるという欠点がある。……が、それを差し引いても十分強力であると言える。

 

 おまけにその強化は、召喚したユニットが倒されたり、時間制限などで消滅するまで永続で発動するというぶっ壊れっぷり。

 

 コレを使って傭兵NPCを召喚・強化した日にゃ、レベル分以上の働きをする、ものによってはギルド拠点防衛用のNPCに匹敵するんじゃないかって強さの下僕を従えることができる。

 

 その反面、『万魔の母』という職業自体に、『魔法や召喚で消費する魔力量が上昇する』っていう強烈なデメリットも存在する。魔法詠唱者である私には、割と致命的なデメリットだ。

 

 それでも総合的には、使い方をきちんと考えれば、強力なことこの上ない能力であると言える。『万魔の母』には、その職業特性以外にも、レベルアップで使えるようになる強力なスキルが他にもまだあるから。

 これらの力を駆使して、私はユグドラシル時代からあらゆる敵を退けてきた。

 

 ……で、この『万魔の母』が……この異世界に転移してきたことで、『フーリーの花園』と同じように、変な風に形を変えてしまったのでは……と私は見ている。

 

 要するに……『子供』という名目で『召喚したユニット』を強化するスキルだったのが、本当に自分が産んだ子供を強化するスキルになっちゃったんじゃないか、と。

 能力値の上昇も、職業レベルを伴わないスキルの遺伝も、元々あった『万魔の母』の特性に合致するものだし。

 

 だとしたら……この先私が産み落とすことになる子供達は皆、『万魔の母』の効果を受けて、通常よりも強化され、高レベルにならないと手にできないはずのスキルを生まれながらに手にして生まれてくることになる。

 頼もしい、と思う反面、産んだ子供をそんな風に『戦力』として数えていいものか、って、ちょっとだけ微妙な気分になりもする。

 ……今後、ちょっとずつ気持ちの整理をつけていけばいい……というか、そうするしかないか。

 

 

 

 ……ところで、今私すごく自然に『これから私が産み落とす子供達』って言ったけど……これから先も、セックスして妊娠して、ポンポン子供産んでいくことを、何も疑問とか抵抗もなく受け入れてたな……

 やっぱり、『ラストにゃんにゃん』に心とか思考が引っ張られてるな、間違いなく……。

 

 まあ、別にいいけど……って思えちゃうあたりも、きっと、うん。

 

 

 

【異世界転移 8日目】

 

 ここ数日外に出て調査をしていた部隊が帰ってきた。

 待ち詫びていた、外の世界の情報を引っ提げて。

 

 まず、この世界はやはり『ユグドラシル』とは全くの別物のようだ。

 

 植生や生物分布が、元々『ニューコロロ空中庭園』があった場所と全然違うのはわかってたけど……それよりさらに探索範囲を広げて調べてみても、やはりユグドラシルっぽい地形などは特に見つからなかった。

 

 ただし、モンスターに関しては、ユグドラシルにもいたのと同種のモンスターをいくつか確認できた。ユグドラシルにいなかったモンスターも何種類かいたけど。

 

 また、亜人や人間の集落があちこちに点在していて、不可知化してその集落に潜り込んで聞き耳を立てて情報を探ったり、身分や立場を隠してそれらと接触し、交流を図ることもできた。

 このあたりの地理に詳しくない旅人を装って声をかけて、色々と情報を聞き出せたようだ。

 

 ……その結果判明した事実が、色々な意味で驚きだったんだけど。

 

 およそ200年前まで遡る話なんだけど、まずこの世界、人間種の地位というか立場が滅茶苦茶弱い世界だった。

 強力なモンスターや亜人が跋扈しているせいで、そこらじゅうで人間が殺されたり食われたり、村も町も国も攻められて滅ぼされて……って感じで、人類そのものが、生態系カーストのほぼ最底辺に置かれている状態だったのだ。

 

 なお、逆にその頂点に君臨していたのは、最も強大な生物として有名な『(ドラゴン)』。

 その中でも特に強力な力を持った『龍王(ドラゴンロード)』と呼ばれる存在だったそうだ。

 

 しかし、今から200年前、何処からともなくやってきた『六大神』と呼ばれる存在によって、その状況は一変する。

 

 凄まじい力を持っていたその六柱の神々は、人類を脅かしていたモンスターや亜人を退け、人類の生存権を確保し、この世界で彼らが生きていける場を作り上げた。

 さらに、彼らを中心とした国までもが作り上げられ、その国は、周辺に広がる人類国家の守護者的な立ち位置に立って繁栄していくことになる。

 

 しかし、そんな神様達も、永遠にこの世界に君臨していられるわけではなかった。

 神と言いつつ、その実きちんと寿命がある人間や、それに近い種族だったようで、やがて寿命を迎えてこの世を去ってしまったのだそうだ。

 

 さらに、そんな状況に泣きっ面に蜂とまで言える出来事が、今から100年前に起こる。

 六大神に匹敵する力を持った、しかし無法者の集団たる『八欲王』の襲来である。彼らもまた、何処からともなく現れたかと思うと、その力を持って欲望のままにこの世界で暴れ始めた。

 

 遊び半分で、人類も亜人もモンスターも関係なく虐殺や破壊を行い、ついには世界の根幹を揺るがすレベルで、世界の法則そのものを自分達に都合のいいように歪めすらしたらしい。

 

 余りの横暴ぶりに、強者であるからこそ滅多にそういう戦いに加わりはしなかった『龍王』達が重い腰を上げて『八欲王』の掃滅に乗り出したものの、彼らは殺されても何度も復活し、強力極まりない魔法や技、アイテムを使って、多くの『龍王』を返り討ちにした。

 

 しかし幾多の戦いを経て『八欲王』達もさすがに弱り、最後には仲間割れから自滅して全員が滅びた……らしい。

 

 ……『六大神』に『八欲王』……そいつら、プレイヤーじゃない?

 

 私と同じで、ユグドラシルから飛ばされてきた、プレイヤー。

 強力なアイテムを持っていたとか、死んでも復活した(リスポーンor蘇生)とか、プレイヤーとしての特性というか、ゲームシステム由来の能力だと解釈すれば納得いくし。

 

 そしてそれを裏付ける情報でもあるんだけど……どうやらこの世界、現地民の人達の強さが……めっちゃレベル低いみたい。

 

 一般市民がせいぜいレベル1から3程度しかない……のはまあ、いいとしても……傭兵や、国の正規軍の兵士とかを見てみても、せいぜいレベル10かそこらあればいい方。

 ごくまれに15とか20とかの奴が混じってて、そういうのが『指折りの強者』ないし『達人』的な扱われ方をしているらしい。30もあれば『英雄の領域』なんだってさ。

 

 さらには、魔法を使える者も少ないながらいるらしいんだけど……そのレベルがまー低い。

 たいていの人は第一位階の魔法を使えるだけ。それができる人すら少ないのが実情。

 一握りの才能がある人なら、第二位階の魔法に手が届く。

 第三位階の魔法が使えるなら、その人は間違いなく『超一流』と呼べる存在。

 それ以上……第四や第五位階の魔法が使えるのなら、達人級か、ともすれば歴史に名を遺す偉人足りうるかもしれない……。

 ……この世界における『魔法詠唱者』の評価基準、そんなとこらしい。

 

 この報告を受けたのは、会議室で私と最高幹部が全員そろってる場だったんだけど……皆、ぽかんとして言葉がない状態になってたっけ。

 私もそうなってたよ。だって、あまりにも……レベルが低すぎて、何て言ったらいいのかわかんなかったもの。

 

 レベル10だの20だのなんて、ユグドラシルで言えば、最初の数時間か、要っても数日あればさっさと終わらせてしまえる段階でしかない。そんなところで足踏みしてるような奴は、プレイヤーには誰一人いない。断言できる。

 それなりにやりこんでるプレイヤーなら、そもそも100レベルに到達してるのが大前提みたいなところあるし。

 

 むしろ、その領域に到達してからがユグドラシルの本番みたいなところあったし。100レベルのプレイヤーがチーム組んで挑むような高難易度コンテンツがわんさか用意されてた。

 

 そもそもの話、モンスターにしろプレイヤー同士にしろ、レベルが10も離れていればほぼほぼ勝ち目はなくなる、というのがユグドラシルでの目安だった。

 ログイン頻度の低いプレイヤーでも、二桁台後半まで上げるのはそう難しくないのに、レベル20とか30で達人だの英雄だの……。

 

 魔法だって、レベルに応じて使える魔法の位階が上がっていくシステム上、魔法を使えるなら、ほとんどのプレイヤーは第十位階や、その上の超位魔法に手が届いていた。

 そこに至っていることをこれまた大前提に、スキルの組み合わせやアイテムによるブースト、職業構成などによってどう強化するか、どう差別化を図るか……それを考えて実践するのが醍醐味だと言われていたくらいだ。

 

 そうでなくとも、高レベルプレイヤーが立ち入るエリアで戦いたいなら、少なくとも第八位階が使えないと話にならない。

 第一や第二で一人前、第三で一流……笑われる、いや笑い話にもならない。

 

 どうやらこの世界……警戒してたのが馬鹿らしくなるくらいには、全体的にレベルが低いようだ……しかも、割と世界中そんな感じらしい。特に人類は。

 そりゃ生態系カースト最下位の被捕食者ポジションにもなるわな……。

 

 そして、そういう人類達よりは強くても、その人類たちが『どうにか対抗できる』程度の力にとどまっている、亜人や現地産モンスターなんかもまた……お察しのレベルってわけだ。

 

 けれど、過去にプレイヤー(多分)達と戦って渡り合ったって言われている、『龍王』には注意が必要かも。おそらく100レベルであっただろう彼らと渡り合い、何度も殺したってことは、それに匹敵する強さを持っていただろうってことだし。

 八欲王との戦いで、龍王もほとんどが殺されたって話だけど……『ほとんど』ってことは、まだ生き残ってる者もいるってことだ。うん、これには注意しなきゃいけないだろうな。

 

 まとめると、

 

 1.この世界の人間その他のレベルは総じて超低い。

 2.でも『龍王』っていうのは強敵。多分100レベル相当の強さだと思われる。

 3.過去に『六大神』『八欲王』と呼ばれたプレイヤー(多分)がいた。

 4.けどその全員が今は死んでしまっている(らしい)。

 

 こんなところか。

 

 そしてこれはちょっとした推測だけど、200年前に『六大神』が、100年前に『八欲王』がこの世界に現れて……そして今、私達が来た。

 つまりこの世界には、100年周期でユグドラシルプレイヤーが現れる……ってことか?

 

 そうなると、もしかしたら私たち以外にも、今のこのタイミングでこの世界に転移してきたプレイヤーやギルド拠点が存在するかもしれない。

 

 同時に、この法則に気づいている者がいるとすれば……『そろそろ100年周期だし、次の『プレイヤー』が現れているかも』なんてあたりをつけている者もいるかも。

 特に、『龍王』の生き残りがそれを察していて警戒していたりしたら……まずいかもな。

 

 『八欲王』との一件で、プレイヤーに対していい感情を抱いていない可能性もあるし。世界に混ざりこんだ異物、世界を荒らして破壊しかねない侵略者として敵視されていてもおかしくない。

 ……見つかったら殺し合いになる可能性大、と見ておいた方がいいか……。

 

 一応今、この『ニューコロロ空中庭園』は、世界級(ワールド)アイテム『蓬莱の玉の枝』によって隠されているため、外部から発見されないようになっているはずだけど……万が一発見されて襲撃された場合に備えて、対策は立てておくべき、かもしれない。

 

 合わせて、今後私達『ニューコロロ空中庭園』が、外の世界を相手にどう関わっていくか……それも検討していかないと。

 今のところ、調査以外では何も関わりを持つことはせず、引きこもって内部でできることをやってるけど……永遠にこのまま隠れていられるとも思えないし、その他にも色々、外の世界と関わりを持つ必要がある理由もあるし……。

 

 悪目立ちしないように、『龍王』に気づかれないように。

 それでいて、私達の目的は達成できるように。

 

 ……難易度高いなあ。

 

 けれど、ここまで来たらやってみせなくちゃ、とも思う。

 

 私達が心血を注いで作り上げたギルドが、我が子同然に思っているNPC達が……あのサービス終了日でお別れしなきゃいけないと思っていたそれらが今、こうして現実になって、目の前で元気に動いて……一緒にいてくれている。

 皆一緒に異世界に飛ばされるなんていう特殊すぎる状況ではあるけど、それでも今こうして、デミア達と一緒に居られる時間が……私には、すごく幸せに思える。

 

 この幸せを、壊させはしない。相手が誰だろうと……プレイヤーだろうと、龍王(ドラゴンロード)だろうと、この場所を、皆を守るためなら私は戦う。戦える。

 ……まあもちろん、戦わずに済むならそれに越したことはないし、そのためにやれることはいくらでもやるつもりだ。

 

 もしかしたら、色々と『悪いこと』もしなきゃいけなくなるかも。

 リアルがまさにそうだったように……奇麗事だけじゃ、世界は変わらないし救えないから。

 

 それでも私は……この『ニューコロロ空中庭園』を、ここにいてくれる皆を守るために、できることは何でもするつもりだ。

 私は、この空中庭園でたった1人の支配者であり……同時に、この空中庭園にあらゆる意味でもっとも救われた存在。『暗黒桃源郷』の、ギルドメンバーなんだから。

 

 みんな、これからもよろしくね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【9日目】

 

 あんなカッコつけたこと言っといて、翌日にまた発情期が来てしまった私はどうすればいいんでしょうか……誰か教えて。

 

 いや、聞いたところで『発散すれば?』って言われるだけか。

 それが最善策なのは、身をもって体感してるわけだし……なんだかんだで私ももう、『それ』自体に忌避感はほぼなくなってるし。

 

 とりあえず、カリンあたりに事情を話して今日は私はお休みにさせてもらって……その後、今回の『お相手』を選ぼう。

 ……誰にしようかな……♡

 

 

 

 




主人公・ラストにゃんにゃんについて、AIソフトでイメージ図を作ってみました。
もし皆さんすでに頭の中でイメージあるっていう人にとっては蛇足かも知れませんが、もしよければ参考までにどうぞ。


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