オーバーロード 傾国狐の異世界日記   作:破戒僧

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僕達、私達は、こんなに大きくなりました!(殺意)

 

 

「何というか……間違いなく助かるのはそうなんじゃが、素直に喜べんな……」

 

「ですな……。幸いにして、こちらに費用負担などは発生しておりませんが……代わりとして提示されている『頼み事』が、どう考えても大きすぎます」

 

「うちみたいな、国土面積はともかく、軍事力において大きく劣る国には荷が重すぎると思うんじゃよな……。権威とかも特に期待できんじゃろうし、そもそもわしのこと竜の子孫ってことで見下しとるはずじゃし……絶対アイツら、近いからってだけで選んだじゃろ」

 

 竜王国、首都。

 その中心にある王城内、玉座の間にて……女王・ドラウディロンは、その手に持った書類を眺めながら、宰相と2人そろってため息をついていた。

 

 書類に書かれているのは、特大の厄介事である。それも、竜王国そのものを巻き込みかねない、国家規模の厄介事だ。

 

(法国とエルフの国の和平条約の締結……その会場として、第三国である竜王国(うち)を使わせてもらいたいとか……寝耳に水どころじゃないんじゃが……)

 

「亜人蔑視の法国相手に、よく和平までこぎつけたというのがまず驚くところですな。聞いた話では、エルフの国でクーデターが起こり、新たな王が即位したそうですが」

 

「その王が、これまでの戦争におけるエルフの国の非を認め、賠償を行った上で融和路線に舵を切ったか……そうだとしてもよく法国が、それもこれほど迅速に応じたものよ。絶対何かあるじゃろコレ……」

 

 ドラウディロンは、改めて手元の紙……法国からの書状に目を落とした。

 

 そこには、今言った内容で竜王国の首都を使わせてもらいたい、という話に加え、ドラウディロン女王に調印式の立会人を依頼したい、という申し出が書かれていた。

 

 しかし、それだけでなく……その『見返り』も並べて書いてあった。

 

 現在、国境付近にて、国軍と融資の義勇兵、さらに冒険者などが行っている、ビーストマン相手の防衛線。そこに、法国と『ヘイムダール王国』が、今後1年、無償で兵力を派遣してくれる……というもの。

 

 現状、国境での攻防は一進一退で、どちらかと言えばやや勢いに負けて押し込まれている。

 必ずしも軍勢ではなく、散発的にやってくることもあるビーストマンを、全ては押しとどめることができていないのだ。

 

 局所的には、『クリスタル・ティア』や『ロトの紋章』、そして『ワンフォーオール』といった大戦力がはねのけてくれているが、それでも全てをカバーはできていない。

 もちろん兵士達も頑張ってくれてはいるのだが、生まれながらに人間の10倍の力を持つと言われるビーストマンを相手に、じりじりと力をすり減らされている。

 

 そこに加勢してくれるというのは、正直に言って魅力的だった。

 

 周辺国で最も古い歴史を持つ、『人類の守護者』は伊達ではない。法国の軍事力の大きさは、その見た目に反して相応に長い時を生きているドラウディロン女王も知っていた。

 

『ヘイムダール王国』の方はよくは知らないが、その法国と長い間戦争を続けていたのであるから、弱いということはないだろう。期待はできるはずだ。

 

 兵士達の負担が軽くなるのはもちろんのこと、戦いの中で落とされ、奪われてしまった町や村を取り戻すこともできるかもしれない。

 

 竜王国は、建国の主が『竜王』の一柱であり、国王は代々その血を引いた、純粋な人間とは呼べない存在である。そのためか、法国にはこれまでも距離を置かれていた。

 ヘイムダール王国は、その前身である『エルフの国』の頃から、そもそも交流が全くない。

 

 竜王国は、国家元首こそ竜との混血であるが、その国民はほとんどが人間種であり、ごく一部に亜人やその混血がいるという程度である。忌避感も特にないだろうし、交流を持つのは難しくないはずだ。

 

「建国や立地の特殊さからこの国を長年苦しめて来た『孤立』という難題を、解決ないし改善しうるというのはあまりに大きい……色々と細かい問題や不安はあるが、それでも……受けない手はない、か」

 

「いっそ前向きに考えましょう、陛下。法国が戦うのをやめて和平を結ぶほどの相手と、周辺国に先駆けて国交を結ぶ機会を得たと考えれば、悪い話ではありません」

 

「それは……確かにな。いや本当に何度も思うんじゃが、あの法国がよく亜人の国家との戦争を『和平』で終わらせる気になったな? 国民皆殺しとまではさすがに言わずとも、首都に攻め入って国王の首くらい取らんと止まりそうにない印象だったのじゃが」

 

「それをためらう何かが……『ヘイムダール王国』にはあるのでしょうな」

 

 

 ☆☆☆

 

 

 それからおよそ半月後。

 竜王国の首都を会場とし、女王ドラウディロン立ち合いの元、スレイン法国とヘイムダール王国の和平条約が締結され、100年続いた2国間の戦争は、ようやく終わりをつげた。

 

 ヘイムダール王国からは賠償金が支払われることになったが、100年続いた戦争にかかる賠償金とあって、その金額は見たこともないようなものになっていた。大国が傾く……を通り越して確実に破綻するであろうレベルの額である。

 

 ヘイムダール王国はしかし、『分割にはなるが確実に履行する』とあっさりと了承し、その一か月後の最初の支払期限には、宣言通りに支払が行われた。

 

 ただし、ヘイムダール王国は、これまで周辺国とまともに国交らしい国交もなかったため、通常使われる交易金貨での支払が難しい。そのため、額面相当の食糧や木材、鉱産資源や宝石金属類、さらには貴重なマジックアイテムといった物資物品での支払いが主となった。

 

 なお、それらの大量の物資はどこから出て来たのかというと、エルフの国の王室財産から……ではなく、ヘイムダール王国のバックについている、『空中庭園』のギルド資産からである。

 

 ユグドラシル金貨をそのまま放出するわけにもいかないため、『打ち出の小槌』や『ダグザの大釜』といったアイテムを使用し、現物に変えて出したものだ。

 

 また、アイテムについては、これは実際に一部はエルフの国の宝物庫から出ている。また、別な一部は、空中庭園の宝物庫の中にあった『捨てるのもめんどくさい』枠のアイテムだった。

 

 この程度の金貨の消費は、400年間にも及ぶ『黒字経営』によって、天文学的数値のギルド資産を保有している空中庭園からすれば、仮にこの100倍出したところで痛くもかゆくもない。

 ヘイムダール王国と法国との国交を正常化し、盤石な『フロント国家』を作るための必要経費だと考えれば、惜しむ理由は1つもなかった。

 

 ちなみに、わざわざ分割にしなくても一括で支払ってしまうことももちろん可能なのだが……それをやると、希少なはずの鉱石や高品質で安価な食糧が一度に大量に市場に出回り、むしろ法国の経済が破壊される。

 提案したラストは、カリンから『絶対やるな。やらせるな』と釘を刺されていた。

 

 また、ヘイムダール王国は、その巨額の賠償金に加えて、スレイン法国との間で行う商取引等において、今後20年間、関税を設定しないことも合わせて契約を交わした。

 

 ここまでの内容は、スレイン法国に有利になる内容が並んでいたが、条約には、ヘイムダール王国にとってメリットになる内容も含まれている。

 

 現在スレイン法国が捕虜にしているエルフ達――このままいけば奴隷として売られていく運命だった者達――の返還と、今現在奴隷として市場に出されてしまっているエルフ達の優先購入権を得ることなどだ。

 これにより、同胞であるエルフ達をより多く助け出せるのに加えて、スレイン法国からすればさらに収入が増えることにもなるため、どちらにもメリットとなる。反対の声はなかった。

 

 そして最後に、ヘイムダール王国は法国に対し、今回の戦争における戦争犯罪人として、前王であるデケム・ホウガンと、その側近ないし信奉者であるエルフ達を引き渡すこととしている。

 

 ただしそれは、ヘイムダール王国での公開処刑を行った後、蘇生してから、という異例のやり方になる。

 戦争当事者となった両方の国で、計2度処刑されるという、恐らくは史上初めての事例だ。

 

 それだけこの戦争の傷跡が、エルフにとっても法国にとっても大きく深いものだったということだ。中心人物の処刑なしには、幕引きなどできないというほどに。

 

 だとしても、これでようやく、ようやく戦争が終わる。

 互いの国の代表者のほとんどの顔には、安堵が浮かんでいた。

 

 

 

 さて、調印式については、そのようにしてつつがなく終了したわけだが……今回竜王国に来た2国の使節団には、この国でやることが他にもある。

 今回の調印式の会場を提供してくれた竜王国への見返り……軍事力の提供である。

 国境を接するビーストマン国からやってくる、人間を餌としか見ていない獣の集団……ビーストマンに対する防衛戦力としてだ。

 

 ただこれについては、これから何か行うのではなく、『やること』自体は既にほぼ終わっているに等しい。

 そもそも、この調印式を無事に行うためということで、到着した時に既に国境付近にそれらの戦力を派遣していたからだ。

 無論、きちんと竜王国の国軍の者達の立ち合いの元で。

 

 スレイン法国からは、特殊部隊『六色聖典』の1つである『陽光聖典』が、定期的に人員を交代しつつ派遣されることになる。亜人集落の殲滅なども行う部隊であり、魔法を用いた集団戦闘にも長けている。

 

 なおこの『陽光聖典』だが、実は最近、とある事情があり、前隊長を含む精鋭たちを一度に大勢失ってしまっており、人員の補填・育成を推し進めている最中だった。

 

 今回の派兵は、竜王国の国軍や、ヘイムダール王国の戦力と連携して、比較的安全に亜人との戦闘経験を積むことができるいい機会だと受け止められていた。定期的に人員を交代しつつ、亜人討伐の実績を積み重ね、己の血肉にしていくという目論見だ。

 

 なお、その『陽光聖典』が派遣されると聞いた、ヘイムダール王国のとある協力者は……『あー……』と、肉も皮もない顔でも分かるような、何とも言えない表情と反応をしていたらしい。

 

 一方、ヘイムダール王国からは、これという部隊名などは特に示されていないものの、精鋭と言っていい実力者たちが派遣されてきていた。

 

 その者達は、ヘイムダール王国の国軍から抜擢された者達……ではなく、女王ユリーシャが個人的に協力関係にある者達――今回のクーデターやそれに伴う復興事業等において協力している――であるらしい。

 その中には、同じエルフというのみならず……彼女と同じ、左右で瞳の色が違うという『王の相』を持っている者もおり……それを見た者達は、何かを察していたという。

 

 加えて、『エルヘヴン』……トブの大森林のダークエルフの国からも人員が派遣されている。

 同じ新興国であるエルヘヴンだが、こちらも女王ユリーシャの伝手があり、クーデター後、『ヘイムダール王国』が樹立してから即座に国交を結び、協力関係となっていた。

 

 元々近縁種ということで、エルフとダークエルフでは仲も悪くなく、互いに国交を結んだ最初の国として、人員や流通面での交流が既に始まってきている。

 

 エルフとダークエルフが入り混じった派遣部隊は、法国から派遣されている陽光聖典をしのぐ勢いで戦い、ビーストマン達を討ち取り、その侵略を押し返していた。

 

 なお、その大部分は、元をたどれば『空中庭園』で訓練を積んで腕を磨いたエルフとダークエルフの民達(最低でもレベル30前後)であり、そこらのビーストマン達(平均レベル10ちょっと)では相手にならないのは明白だった。

 

 また一部は、『空中庭園』の関係者でこそないものの、『ヘイムダール王国』以前から法国との戦争に出て来ていた、前エルフ王の血を引く者達であったが……以前の戦争よりもよほど生き生きとして戦っているのは、誰の目にも明らかだった。

 精力的に働き、経験を積み続ける彼ら彼女らが、かつて自分達の父親が求めた強さを手にする日も近いのかもしれない。

 

 もっともその時、その強さは、侵略のためではなく、融和のために振るわれるのだろうが。

 

 

 

 そうして、条約の調印に加え、竜王国への『見返り』の提供もつつがなく終了し、調印式の全ての日程は無事に完了。両国の代表者達は、今後は友好国として少しずつでも歩んで行けることを祈りつつ……そのまま帰路に就いた。

 

 ……その際、法国側の護衛として ついてきていた、全身鎧の騎士らしき1人――体の線がほとんどまったく出ていないため、男女の区別もつかない――が、女王ユリーシャに意味ありげな視線を送っていたのに、数人が気付いていた。

 ユリーシャが『何でしょう?』と聞くと、『いいえ、何も』という、若い女性の声が返ってきた。どうやら中身は女性だったようだ。

 

 また、条約にかかる話し合いとは別にだが、前エルフ王の『1回目の処刑』――法国に引き渡す前、ヘイムダール王国で行う方――について、つい先日正式に日程が決定したとして、女王ユリーシャの口から法国の使節団に話がされていた。

 それに加えて、『処刑はヘイムダール王国でおこないますが、もし見に来られるのであればご自由にどうぞ』とも。

 

 その時も、その謎の女性騎士(?)は、ユリーシャの方をじっと見つめていた。

 

 

 

「……そう……本当に死ぬのね。こんな形で……あの男……」

 

 

 

【異世界転移400年目 ★日目】

 

 法国とヘイムダール王国の間に和平条約が締結されてから、さらに数日が過ぎた今日……前エルフ王の処刑が執行された。

 

 ここ数日、『万が一』に備えて、一応私とほかにも数人がこの『ヘイムダール』に滞在してたんだけど……幸いにして、特に何事もなく…………

 

 …………いや、何事もなくはなかったな。結構色々あったな。

 

 うん、むしろというか割とトラブル盛りだくさんだった気がするけど、それでも処刑はちゃんと終わりました。エルフ王、ちゃんと死にました。

 まあ、この後蘇生して法国に引き渡して、その後もっかい殺されるんだろうけどね。

 

 今回の処刑に際してだけど、まず事前準備として、エルフ王は弱体化させてあった。

 

 カンスト勢から見れば別としても、無駄に強すぎるので、拘束してても普通のエルフじゃ押さえつけられず、下手すると牢屋や拘束具も破壊されて逃げられる恐れがあった。

 

 普通の兵士エルフ達(レベル10とかそこら)じゃ相手にならないし……『空中庭園』から来た精鋭達の、特に上澄みの連中ならどうにか抑えられるかもしれないけど、巻き添えで周囲の被害が大きくなるのは避けたかった。

 

 なので、以前『竜王』にやったのと同じやり方で、リスキルを繰り返してレベルを40くらいまで下げてある。このくらいなら、きっちり拘束して魔法もスキルも封印すれば、普通の兵士達でも護送くらいなら問題ないだろう。

 

 けどそれでも、傲慢な態度と減らず口は全然止まんなくて、牢屋に入れている間中ずっとぎゃあぎゃあうるさかったらしい。

 

 牢番をしているエルフ達に対して、『王である自分に従え』『今まで導いてやった恩を忘れたのか』『なぜエルフ種の繁栄に協力しないのか』『いう通りにすれば子種をくれてやる(※女性限定)』……こういうのを延々と喚き続けていたそうだ。

 

 最初の方は、牢番の皆さんも『いい気味だ』的に思って、今まで鬱憤が溜まってた分も色々言い返していたらしいんだけど、あまりにそれがしつこく続くので、相手するのも面倒になり……最終的には、何を言っても完全無視しつつ、マジックアイテムで『消音(サイレント)』を発動して雑音をシャットアウトしてたそうな。

 

 見張り以上のことをするのは、1日1回の食事の時間だけ。それ以外は、一応妙なことはしないように見張りはしつつ、それ以外は関わらず反応せず、って感じ。

 

 実は一回だけ、私、その様子を見に地下牢に行ったんだよね。

 

 一応、過去には何度か『関わり』を持った相手ではあるわけだし、最後に顔くらい見ておこうかなとか思って、思い付き程度で。

 それと、ユリーシャを含めて、あいつを父に持つエルフの子供達も……希望者のみだけど、一緒になって。

 騒がれるのは嫌なので、『完全不可知化』を使って、こっそり見に行った。

 

 ……でも、大体さっき言った通りの有様だったので……『こいつまだこうなの?』って、見てるこっちが疲れる始末だった。

 子供達共々『もういいや』ってなって、さっさと帰った。

 

 帰り道、子供達が『僕らお母さんに似てよかったね』『ね』って話してたのを見て、ちょっと癒された。

 

 なお、その際に『お母さんに似すぎるのもそれはそれでアレだけどね……』とか言ってた末っ子(父=デケム・ホウガンの中での)のエオン君、静かにしなさい。

 

 そんな感じで、徹底して放置されつつ今日を迎えた前エルフ王だが、最後の最後までおめでたい頭のままだったらしい。

 

 処刑当日、360度全方位にお客さんが入れるようになっている特設ステージ(処刑台)――この日のためだけにエルフの大工さん達が本気出して作ってた――に連れてこられた前エルフ王。

 

 そこで、『私こそがこの国の正当な王である!』『私と私の血族こそが、エルフという種族を世界の頂点へと導くことができる! そのために尽くすことこそ、お前達にとっての最上の幸せであるはずだ!』などと大真面目に演説を開始。

 殴って中断させてもよかっただろうに、面白いのでそのままちょっと放っておかれた。

 

 当然ながら、そんな妄言を今更国民達が聞くはずもなく。

 

「何が幸せだ、この異常者!」

「あんたのせいで私の娘は、汚されて、子供も失って、心を病んで……っ!」

「戦で死んでいった全ての者達に謝れクズ野郎!」

「てめえなんかもういらねえ! 地獄に落ちろ!」

「お前こそこの国の全てのエルフの敵だ!」

 

 ……コレ、氷山の一角のそのまた一角くらいです。

 いやあ……この国の人(エルフ)達が、こいつにどれだけ苦しめられてて、それを不満に思っていたのかがわかる光景だね。この100年の間に膨れ上がって大きくなっていた、全国民からの殺意が声に乗って、全方向から前エルフ王に叩きつけられてた。

 

 なお、処刑場の観客席の周りは徹底的に掃除してあって、石ころ一つ落ちていません。怒りに任せてそういうのを投げつける人がいるかもしれないって予想できてたから、投げられそうなものは全部撤去しました。

 前エルフ王(バカ)にあたる分には全然かまわないんだけど、他のお客さんや、連行してる兵士にあたったりするのは危険だし可哀そうだからね。

 

 誰一人自分に味方する者がいないどころか、敬意とは真逆の殺意を向けられている状況を、前エルフ王は心底から『理解できない』って感じの顔で見下ろして、不思議そうにしていた。

 その顔のまま、兵士達に引っ立てられて、歩こうとしないときには蹴っ飛ばされて、処刑台の中央に歩いて行った。

 

 が、その途中、またしてもトラブル発生。

 

 ちょっと話変わるんだけど、実は今回のこの公開処刑、ヘイムダール王国の民達以外にも、見に来てる人達がいてね。

 法国から来賓として、神官長さん達が来てたの。土のだったっけかな、たしか。

 

 正確には、処刑を見に来たわけじゃなくて、前エルフ王の身柄を受け取って本国まで護送するために来たんだけど。あと、賠償の一環として引き渡される、いくつかのアイテムも。

 

 そのついでに、『せっかくだから見ていきます?』って聞いたら、ぜひ、とのことだったので、特等席を用意させてもらった……という経緯である。

 

 で、そのまま大人しく見ていてもらうだけの予定だったんだが……処刑台の真ん中に前エルフ王を連行していく途中に、乱入者が現れた。

 

 一応、前エルフ王(バカ)の奪還・救出をもくろむ信奉者達による襲撃とかも予想して、警戒してはいた。残念ながら、全員捕まえられたわけじゃなかったからね……クーデターの時にこの国にいなかった連中は逃げ延びてる。

 

 けど、乱入者はその信奉者ではなく……なんと、スレイン法国の使節団が連れて来た護衛の一人だったのである。

 来賓席からいきなり飛び出して行っちゃったのには、ユリーシャもその側近達も、そしてもちろんスレイン法国の人達もびっくり。

 

 けどその乱入者は、舞台に飛び上がった後、別に何をするでもなく、じっと前エルフ王を見ているだけだった。

 

 もしあと1歩でも踏み出していたら、こういう時のために配置しておいた高レベルの下僕達や、親衛隊クラスの私の子供達が対応に動いていたと思う。

 けど、本当に何もせず……前エルフ王を助けるでもなく、逆に殺そうとするでもなく……ただ見てるだけ。

 

 騒然としかけた観客達も、『何してんだ?』って困惑が勝ってる様子だった。パニックなんかは起こらなかったのは、よかったと思う。

 

 その後、スレイン法国の神官長さんが『何をしている、戻ってこい!』って何度か呼びかけると、くるっと180度ターンして舞台から飛び降り、そのまま何事もなかったかのように来賓席に戻って座っていた。

 

 ……が、さすがにそのまま『何事もなかったかのよう』に続行ってのは難しく……。

『申し訳ありませんが……』って感じで、エルフ側の係員さんが、スレイン法国の人達にご退席いただいていた。

 さすがに悪いと思ったのか、とくにごねることもなく、神官長さん以下全員……さっきの鎧の人も含めて、それに従って出ていった。

 

 で、まあ、その後さくっと前エルフ王は処刑されて死にました。

 本当に自分を殺す気だと、自分がここで死ぬとわかって、最後までぎゃあぎゃあうるさかったけど……でも、ユリーシャの合図で処刑人が首をすぱっとやって、ようやく静かになった。

 

 

 

 その後、処刑は終わったってことで解散になったんだけど……当然、あんなことがあったわけなので、スレイン法国の皆さんには『あれは何だったの?』って事情を聴かなきゃいけない。

 

 法国からは、『騒がせてしまいすまなかった』という一応の謝罪と、今回の件についての説明があった。

 曰く、あの白鎧さんは、エルフとの戦争で仲間を失った軍人であり……その怨敵を前にして、とっさに体が動いてしまった。しかし襲い掛かることはせずに踏みとどまった……とのこと。

 

 本人には厳重注意の上、こちらで何かしらの処分を下すことにする。再発防止のため徹底して教育を行うので、ご容赦・ご納得いただきたい、とのこと。

 

 ……それを聞いた時、実はこっそりマジックアイテムを使っていた。

 それによって判断したところ、神官長さんの発言はほぼ全部『嘘』。ただし、謝罪したところと、今後再発防止を徹底するってところは真実ないし本心だった。

 

 彼らにとっても不測の事態だったのは本当で……しかしどうやら、あの白鎧の人については、何やら表沙汰にしたくない事情があるらしい。

 気にはなったが、これ以上突っ込んで聞くのは難しそうだった。せっかく国交をきちんと結べそうなところまで来てるのに、御破算にするのは避けたいから、ということで……それ以上の追及はしないことに。

 

 結論から言えば、その判断は正解だった。

 

 正確には、そのすぐ後に、諸々疑問が一気に解決することになったので、何もする必要がなかった……という感じである。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 前エルフ王、デケム・ホウガンの処刑が執り行われた日の、その夜。

 

 新たな女王、ユリーシャ・L・ホウガンは、自室で本を読んでいた。

 

 部屋の中は静かなもので、ユリーシャが本のページをめくる音の他は、窓から入ってくる風のわずかな音が聞こえるくらいのものである。

 

 キリのいいところまで読み終えたのか、ユリーシャは傍らに置いてあった栞を本に挟んで閉じる。

 ふぅ、と息をついて……窓の方に目をやった。

 

「こんばんは、侵入者さん」

 

 開けっ放しの窓。さっきまで誰もいなかったはずのそこに……いつの間にか、見知らぬ少女が腰かけていた。

 

 白と黒のツートンカラーの髪に加えて、左右で目の色が違う、いわゆる『オッドアイ』が特徴的な、見た目は十代くらいに見える……長くとがった耳を持つ少女だった。

 

 

 

 

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